CODE EATER:Cross Blood~改稿版~ 作:Sillver
目を覚ますと、知らない天井だった。おかしい。私は、イオと血涙の泉で交代で休む約束をしていた。慌てて立ち上がると、男性が声をかけてきた。
「おっと、慌てなさんな。お連れさんは、眠ったところだ。静かにしてやんな」
何か知っているらしい男性に、私は色々と事情を聞くことにした。男性の言う通りなら、イオを起こすのは可哀想だ。彼女に守られて、私は自然と目が覚めるまで眠っていたのだろうから。
声をかけてくれた男性は、飄々として、今いる部屋の中では元気そうな感じだ。短髪で、赤い目をしている。
「私はアルジェ。貴方は?」
「俺は、ザフェル。よろしくな」
自己紹介をした後、本題に入る。眠っている間に何かが起こってここに居ることは明白。部屋には、4~5人の人影が見えるが、どうも皆諦めきっているような、何も変わらないというような雰囲気が漂っていた。
「ここは奴隷部屋だ。お前さんたち、あいつらに捕まって連れてこられたんだよ」
ザフェルから得られたのは、驚きの回答だった。
「奴隷って……。何のために……」
「血涙を探すためさ。クイーン討伐戦以降、彼女は倒されたんだが、その瘴気は段々と濃くなっている。人の血の代わりに、吸血鬼の渇きを癒す血涙。その泉は数を減らしていてな。堕鬼に堕ちる奴も増えて、探索するだけでも危険を伴う」
「なら、私達が堕鬼になって血涙が手に入らない可能性は考えてないの?」
「あいつらは、そんなこと考えちゃいない。俺たちが堕鬼になろうが、構いやしねぇよ。安全な保護区から追い出されない。それだけが大事なのさ」
「そう、ありがとう」
ザフェルにお礼を言って離れる。私達を捕まえたのは、かなり非道な連中のようだ。ここからどうにかして脱出できないかと見て回る。
イオがもたれて座っている柱の後ろは、崩れていた。赤い霧が不気味だが、下を見れば地面があった。これなら、ケガをするだろうがここから逃げられるかもしれない。
「やめておきなさい。赤い霧は、触れると狂ってしまうくらいの痛みに襲われる。誰も、あの霧の向こうへ行けないの」
霧は、着地点にしようとしていた所まで及んでいた。私達を捕まえた奴らは、こういうところだけ抜け目がないらしい。ぼうっと赤い霧を見つめていた女性が私の動きを見て言った。
「私の故郷は霧の向こう側にあるの。だけど、出られないから帰れない。……この牢屋から出ても、帰るところがないの」
女性にお礼を言い、再びイオの傍へと戻る。寝息が聞こえるから、大丈夫だとは思うが、その白さから心配になる。私の行動が起こそうとしているように見えたのか、ザフェルに窘められてしまった。
「寝かしといてやんな。ずっとあんたの事を心配そうに看てたんだぜ?」
「そうなんだ……。彼女、すごく肌が白いから、ちょっと心配になって」
「似た者同士だな、あんたら。そういや、お前さんたちマスクはどうした?」
何のことか分からず、首をかしげると、彼は後ろにある机を指した。さっき、うろうろしていた時には気が付かなかったようだ。
「そんなことも覚えてないのか……。知りたければ教えてやるが、まずは奥へ行ってマスクをつけな」
ザフェルに言われた通り、部屋の奥の方にあった机の上を見る。そこには、色々な形のマスクがあった。今まで、気が付いていなかったが、顔にこのマスクを固定するための金具を身に着けていた。口元だけのものを選び、装着する。マスクをつけた後は、なんだか渇くような感覚が収まった気がする。
マスクを身に着けて、ザフェルの所へ戻ろうとすると、カカカンという音と共に、部屋の中央にあった梯子が降りてきた。
「3番、4番。それと新入り。装備を確認して上がってこい!」
装備と言われても、武器の類を持っていない。困っているとザフェルが手招きをしてきた。
「上の連中、お前さん達をご指名らしい。ま、待たせてやればいいさ。何せ『装備を確認』してるんだからな」
彼は、何もないところから鉄パイプと大きなコンクリートの塊を出したかと思うと、私に渡してきた。驚いていると、説明してくれた。
「吸血鬼は、自身の持ち物を粒子化して持ち運べる。堕鬼を倒すと、その残滓がヘイズというものになる。ここじゃ、ヘイズは通貨としてや己の血に取り込むことで体を強化できる。マスクは、瘴気を吸い込まないようにしてくれる。俺達は、それがなきゃ、あっという間に堕鬼に堕ちちまう。気を付けるこったな」
ザフェルから受け取ったものを、自身の持ち物として認識する。すると、自分の中に取り込まれた。目を閉じて、他に何かないかと思っていると、1種類の服を思っている事に気が付いた。自然と名前が頭に思い浮かんだそれを出してみる。どうやら、戦闘時に使える特殊な服のようだ。
名前は女王討伐隊牙装・爪型。吸血攻撃時に右手が覆われ、鋭い爪が展開し、相手を切り裂く。また、展開速度が速いため、咄嗟の時に、敵の攻撃を弾くのにも向いている。見た目は、大量生産されている軍用タクティカルベストだ。少しでも、怪我を減らすべく着こむ。
メインで使う武器を決めるために、人の少ない場所へと避ける。そこで、とりあえず渡されたコンクリートの塊に持ち手らしき鉄骨があるものを取り出す。ぶっちゃけ、先ほど話に聞いた堕鬼に、これが効くのだろうか?もう1つの鉄パイプも取り出す。何の変哲もない鉄パイプだ。
「どのみち、この2つで選ぶなら鉄パイプか」
軽く悩んで、私はメインで使う武器を鉄パイプにした。なんていうか、コンクリートの塊で戦っている姿を想像したら何とも言えない気持ちになった。その点、まだ!……まだ、鉄パイプはマシな気がした。あと、振ったときの速度と取り回しのしやすさがコンクリートの塊よりも上だった。ただ、この鉄パイプでうっかり堕鬼の攻撃を防ごうものならそのままヤドリギに行く羽目になりそうだ。
私があれこれ確認している間に、イオも起きたらしい。そして、ザフェルが私にしたような説明をしてくれていた。
「おい、新入り!早く上がって来い!」
「はぁ……。女の身支度って時間がかかるものなのに。せっかちな男は嫌われるってよく言うわよぉ?」
あえて、相手をイラつかせるような口調で嫌味を言う。どうやら、相当短気な吸血鬼らしい。簡単に乗ってくれた。私は、見下ろしてくる吸血鬼に向かって、嫣然と微笑んで見せた。
「んだとぉ!?」
「落ち着けって!これから探索だろ?新入り、お前も口が過ぎるぞ!早く上がって来い!」
「はいはい、了解しましたよ」
やれやれと首を振りながら、イオの方を見る。彼女もちゃんとマスクをつけて、ザフェルから同じ鉄パイプとコンクリートの塊を貰えたみたいだ。私は、梯子を上る前にザフェルの方を見る。彼も、私たちを見送ってくれるつもりらしく、視線がかち合う。
「ザフェル、ありがとう。貴方が居なかったら、丸腰になるところだった」
「いいってことよ。お前さん方が、無事であることを祈ってるぜ」
「ええ。またね」
「おう、またな」
カンカンと音を立てながら梯子を上り切ると、相変わらず荒れ果てたビルの中だった。イオに手を貸しつつ、周囲を探るが、残念ながらそこそこ人数が多くて強行突破して逃げるのは難しそうだ。幸い、ほかにも奴隷として呼び出しがかかった人がいる。
私とイオは自然に最後尾を取る。最後尾から逃げられるということには無頓着なんだろうか?と思っていたら、監視役がやってきて内心舌打ちをする。目的地に向かう道中で逃げる隙を伺いつつ、今はこいつらの指示に従うことにした。イオにもそれを伝えようと近づいた。すると、イオは微笑んだ。
「大丈夫ですよ。貴方は貴方のなさりたいように動いてください」
「……分かった。隙を見たらそれとわかるような合図するから全力で逃げるんだよ?」
「はい、わかりました」
10分ぐらい歩いただろうか。やってきた場所は大きな十字路と自然界では中々見ない色合いをした植物があった。横柄な吸血鬼は、その植物の様子を確認すると思いっきり蹴りつけた。
「ここも枯れたか!!」
横柄な吸血鬼は、植物を蹴りつけて興味を失ったらしく、私たちに向き直る。その振り向き方がかなり激しかったせいか私とイオ、取り巻き以外は少しあとずさっていた。どうも、荒事に不向きな人材がそろっているようだ。そんな騒めきの中、私とイオは不思議と落ち着いていた。
取り巻きたちが、奴隷たちをペアにしてあちこちの穴の中に落としていく。どうやら、穴の下には空間があるようだ。私はどんな空間が広がっているのか事前に確認しておくために、イオと一緒に近くの穴を覗いた。
ざっくり見た感じ薄暗いが、明かりがないときつい程ではなさそうだ。そこには一安心をする。ついでに、足元には梯子が畳まれた状態で設置されていた。あとで帰りやすくするために下ろそうとしたところで、イオが声を上げる。
「きゃ!?」
「お前はこっちだ!!」
横柄な吸血鬼が、何故かイオを自分に引き寄せていた。イオを取り戻すべく横柄な吸血鬼に殴りかかろうとするが、向こうが素早くイオにナイフを突きつけ、私はそれ以上動けなくなる。
「……その子に何をするつもり?」
「何もしねぇさ。どうやら、お前らは仲が良いみたいだからな。お前に対する人質だよ」
「卑怯な……!!」
「お前が血涙を見つけてきたら、ちゃーんと返してやるさ。ほら、さっさと行きな!!」
私が行かないと、あの吸血鬼はイオをヤドリギ送りにするのだろう。死の危険によるヤドリギ転移は、記憶喪失のリスクがある。ある意味では、死なない吸血鬼にとって記憶が無くなるのは今の自分の死に等しい。唇を噛んで、取り巻きの指示に従って先ほどまで覗き込んでいた穴へと向かう。当然の様に、梯子を下ろさせてはくれなかった。そこそこの高さをどう降りたものか、考えていると取り巻きに蹴り落される。
「くっ……!!」
体に残っていた記憶だろうか。落下して急速に遠ざかる穴を見ながら、自然と最適化された動作をする。着地の瞬間、柔らかく膝を曲げ、衝撃を吸収し分散していく。それでも殺しきれなかった勢いで地面にキスしかかった体は前に突きだした腕で制動をかける。結果、私は無傷で三点着地をしていた。上から覗いていた時は気が付かなかったが、幸いな事にヤドリギが生えていた。その傍へと寄る。
「うわぁああああああああ!?」
急な声で振り返ると、男性が穴から落下してそのままの体勢で地面に激突したところだった。吸血鬼だろうが、恐らく無理やり落とされたのだろう。土埃が軽く収まるのを待って、男性に近寄る。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。腰を打っちゃったから、すぐには立てそうにはないけど……」
暫く様子を見ていると、痛みや衝撃が抜けてきたのだろう。男性が立ち上がろうとしたので手を貸す。
「ありがとう。僕はオリバー・コリンズ。君は?」
「私はアルジェ。フルネームその他諸々覚えてないんです」
「そんな硬い口調じゃなくていいよ?」
「わかった」
ガスマスク型の浄化マスク越しに、オリバーはふにゃりと笑う。その笑顔によく似た誰かを思い出しかけるが、形にはならなかった。そんな話をしながら、私とオリバーは自分たちが落ちてきた穴を見上げる。相変わらず、憎たらしい横柄な吸血鬼とその取り巻きの声がかすかに降ってくる。互いにため息をつきながら、今後の方針のすり合わせをしていく。
「梯子、下ろせてないから別の道を探さないといけないね。武器は持ってる?多分、探索してる最中に、堕鬼に襲われると思うんだ」
ザフェルから譲り受けた鉄パイプをオリバーに見せる。オリバーは私よりもはるかに立派な大槌を担ぎながら、私の何とも言えない武器を見て眉を下げる。
「一応、鉄パイプならあるよ」
「うーん、ないよりましかな。道中、良さげな武器あったら持っていこう」
「そうする。私も流石にずっとこれで戦い続けるのは無謀だと思うもん」
なんだかんだ言いつつ、私と彼の役割も何となく決まる。私が陽動、オリバーが本命の攻撃を叩き込む。軽くその場で連携を練習し、準備が整う。
「それじゃ、探索開始としゃれこみますかね」