転生ラージャンぶらり旅   作:黒木箱 末宝

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【狩り】孤立無援の灰被り

 悪夢に魘されるドスファンゴ(灰被り)。そこへ更なる悪夢を届けるかのように、腹に痛みを感じ、声を上げて飛び起きた。

 

 柔らかい弱点への意識外からの攻撃。痛みと怒り、気配を感じられない敵襲に焦り、鼓動が早まる。

 

 それにより、灰被りの身体に異物が駆け巡る。

 

 傷口の痛みが増し、更にそこから熱が広がる。

 怠さに身体がふらつき、異臭が混じる息が漏れる。

 

 灰被りはかつての経験により、それが何か分かった。かつて若気の至りと驕りによって食らった、恥ずべき記憶の味──毒テングダケの(あじ)だ。

 

 毒に苦しむ灰被りの背に、小さな痛みと気配を感じる。そして、居た! 上り坂の頂上で大きな弓矢を構える、子供のモンスター! 

 

 小さな金色の角を側頭部から生やした、黒い毛を持つ牙獣種──主人公(ラージャン)だ!

 

「ッブギャー!!!」

「ホホッ!」

 

 怒りに吠える灰被り。しかし、ラージャンはそれを嗤って流し、毒の滴る大きな矢を放って来た。

 

 飛来する矢を牙で弾き、灰被りは敵をバラバラにする為、上り坂を駆け上がる。

 ラージャンが坂の頂上から消える。だが問題無いと、怒りに煮え滾る頭で灰被りは考えた。

 

 ──相手に見覚えは無い。だが、所詮は子供!

 

 毒の苦しみを怒りで無視して坂を登り切る。そんな灰被りの左目を、眩い閃光が貫いた。

 

 

 

 ■

 

 

 

(奇襲成功、弓矢に効果有り! 敵がデカいから作り直したが、間に合って良かった!)

 

 灰被りを見た後、俺は最初に作り出した弓矢に自信を持てなくなっていた。そこで、俺は余った木材を加工し、X字の弓と竹を利用した矢を新たに作った。

 そうして生み出されたのは、ラージャンの膂力に物を言わせた野性的な弓矢だった。

 放置し過ぎて乾いた太い竹の節をくり抜き、矢筒として三本用意する。底に各種毒キノコを敷き詰めておけば、何時でも毒矢を射る事が出来る。

 

(おっと浮き足立つなよ俺! 相手はこのモンスターハンターの世界で、老いるまで生き抜いてきた強者! 一瞬の油断は、自分自身に対して死を招くッ!)

 

 気を引き締め直し、暴れる灰被りへと毒矢を放つ。その瞬間、俺は嫌な予感がしたのでその場から飛び跳ねた。

 するとどうだ、矢の刺さった痛みで俺の位置に当たりを付けた灰被りは、迷う事無く俺の居た場所へと駆け出し、強く牙を振り抜いたではないか。

 

警戒(けいかい)正解(せいかい)大安泰(だいあんたい)ッ! コイツは思っていた以上にヤバイぜ! だからこそ滾るッ!!)

 

 跳ね上がるテンションで内心荒振る。身体が熱を持つが、思考は冷静に敵を殺す事だけを考えている。

 

(しかし、あの突進は脅威だな。大木の罠を使うか)

 

 俺は無数の環境生物が集まる大木へと静かに進み、それを背に灰被りへと毒矢を射る。すると想定通り、灰被りは俺の立つ位置へと突進してくる。

 光に目を焼かれた状態の灰被りは、そのままの大木へと突撃。牙と頭を強く打ったからか、灰被りは僅かにふらついている。

 

 そんな灰被りの背に、大木に棲み着いていた様々な環境生物が降り注ぐ。それは毒蛇だったり、蜂の巣だったりと様々だ。

 環境生物達は、棲み処を荒らした外敵に向かって思い思いの攻撃を繰り出した。毒蛇が何度も噛み付き、蜂が様々な場所を刺した。

 最後にニトロガスガエルが落ちて来て、灰被りの鼻先に爆発性の液体を吐き掛け、ニトロガスガエルは避難し、直後に爆発。

 

(これであの突進を躊躇してくれるといいんだがな)

 

 痛みに暴れる灰被り。閃光の効果が落ち着く前に離れ、俺は次の罠の場所へと移動した。

 自然を利用した罠はこれだけじゃない。

 

 

 

 暫くして、ニトロガスガエルの爆発により鼻を焼かれた灰被りは、自身の血と焼けた肉の臭いの中から僅かな嗅覚を頼り、俺を追って来た。

 

 今俺が居るのは蔓の覆う森の中だ。そして頭上の蔓には、山からの落石を受け止めたのか、蔓に巻かれた岩が不安定にぶら下がっている。

 

 俺はその岩の下にマキムシを撒き、草で隠した。

 

 後は灰被りとマキムシを挟んだ反対の位置で“奇襲の準備をしている”と見せる様、脆そうな倒木に隠れる。その際に角や尻尾をチラチラと出し“子供らしい愚かさ”を見せておく。

 

 すると灰被りは、俺の姿を確認した瞬間、予備動作も無しに突進して来たではないか。

 

 肝が冷える感覚を味わう。しかし、灰被りは問題なくマキムシを踏んで怯み、脚を止めた。

 俺はそのチャンスを逃さず、握っておいたはじけクルミを岩へと投げつけた。

 

 はじけクルミが岩にぶつかり弾ける。その破片が巻き付いていたツルに傷を付け、岩の自重によって千切れ、岩は灰被りの上に落ちて行く。

 

(やったか!? ──あ)

 

 無意識に出たお決まりの台詞。案の定、灰被りは岩のダメージにふらつきながら、狂気に燃える眼で俺を睨みつけてきた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 ふらつく身体を引き締めて、灰被りはひたすらに前へと進む。

 微かに臭う敵の痕跡を追って、絡まるツタを引き千切り、麻痺や疲労を乗り越えて、血の臭いに惹かれたランポスを噛み砕いてなお歩みを止めなかった。

 

 いつ倒れても不思議ではない状態の中、何故灰被りは前へと進めるのか。

 

 ──ころす……殺す……!!!

 

 それは偏に、敵である子ラージャンに対する殺意だった。

 灰被りはこの前破壊した見慣れぬ作りの巣と、敵である子ラージャンとが、これまで受けてきた罠や道具によって結び付いた。そして、理解した。

 

 ──私の牙と片目を奪った憎き種族の力! 排除すべき敵と同じ力だ! 生かしてはおいてはダメだ!!

 

 灰被りの群れを壊滅に追いやった小さな二本脚達。

 

 強者の亡骸を身に纏う気狂い共。

 

 己を死へ追い詰める化け物(モンスター)

 

 灰被りは恐怖した。それと同時に“やられっぱなしじゃ終われない(死ねない)!”という矜持を守る為に歩いていた。

 

 そして遂に、灰被りは追いかけっこに勝利し、子ラージャンをその巣の前まで追い詰める事に成功した。

 

 骨の穂先を持つ槍を手に、牙を剥き威嚇する子ラージャン。

 灰被りが勝利を確信して近付いた、その時だった。敵である子ラージャンが、灰被りの足元を焦った様子で何度も視線を向け始めたではないか。

 

 警戒しながら視線の先を見ると、そこには石のナイフが落ちていた。香る臭いから、それは子ラージャンの大事な物の様だった。

 

 ──そうか、これはヤツの大切な物なのか……なら、踏み潰して台無しにしてやる!!

 

 灰被りは以前に踏み潰したイャンクックの卵の様に、石のナイフ目掛けて思い切り脚を振り降ろす。

 

 バキリ! と何かがへし折れる。

 

 その直後、灰被りの前脚は火炎によって焼き焦がされるのだった。

 

 

 

 ■

 

 

 

「ブギャアアアアアア!?!?」

 

 態と落とした様に見せ掛けた石のナイフ、その下に仕掛けて置いた罠によって、灰被りの前脚を火炎に焼き焦がさている。

 

(石のナイフを囮にしたベトコン式の棘穴トラップに、イャンクックの火炎袋のオマケ付きだ。……誰かの大切な物を厭らしく壊していたお前なら、絶対に踏んでくれると思ったよ)

 

 俺は拠点に残っていた足跡の深さから、敵の利き脚を特定していた。そして偵察の際に見た灰被りの行動から、俺が大切にしているであろう物を落し、それを心配する素振りでも見せれば、灰被りは何の疑いもせずに罠に掛かると確信していた。

 

 ヤツの悪癖を利用するために落とし穴を掘り、底にモンスターの牙や爪を上向きになる様に設置。

 更にその上に薄い木の皮等を置き、火炎袋を乗せる。これが罠の詳細だ。

 

 灰被りは痛みに鳴き叫びながら、穴から前脚を抜こうと踏ん張った。その結果、側に作っておいたもう一つの罠を踏み抜き、二度目の絶叫を上げた。

 

(同じ罠を、足跡の歩幅から計算した場所に仕掛けて置いた。イャンクックは二匹居たからさ)

 

 両前脚を焼いた事で、三つ目の罠が作動する。

 

 両穴の側面から伸びるツタが、火炎によって焼き切れる。すると、灰被りの頭上に何かがおちてきた。

 

 そこで灰被りが見たものは、己が殺したイャンクックの番、その鋭い嘴だった。

 

 

 

 毒に麻痺、疲労に出血多量。そしてトドメの火炎と頭部への一撃。それらを食らっても尚息のあるドスファンゴを締めるため、俺はふらつく身体に鞭打って立ち上がり、槍でドスファンゴの大動脈と心臓を突き刺した。

 

 流れ出た血が落とし穴に注がれ、火炎の勢いが落ちて行く。血を焼く臭いが、辺り一面に広がった。

 

(……さて、ここで一服決めたい所だが、休んでる暇は無い。狩りはここからが大変だ──そう教わったからな……)

 

 幾ら無傷で勝利したとしても、その獲物の処理だけはどうしたって避けられない。このまま置いておけば、体温で肉が痛み、血が肉に回ってしまう。

 

 拠点からロープを持ってきて、灰被りの後ろ脚結ぶ。そうして丸太を敷いて車輪とし、川へと運ぼうと引っ張り始める。

 

(川で内臓を取って、そのまま冷やす……これをやると、血が抜けて身が縮み、より美味くなるんだったか──ん、手応えが軽い?)

 

 急にロープが軽くなり、後ろに強い気配を感じる。

 見ると、後ろにはいつの間にか父と母、そして弟がおり、一緒にロープを引っ張ってくれていた。

 

 父は頷き、母は微笑み、弟は喜び踊っている。

 

 ……どうやら俺は、父の試練を乗り越えたようだ。

 

 

 

 ■

 

 

 

 そんな仲の良いラージャンの一家を、遠くから双眼鏡で覗くハンターがいた。

 そのハンターは白い幻獣の装備を身に纏い、歴戦の気配を見事に隠している。

 

(G級ハンターの尻拭いを依頼されて、特殊個体のドスファンゴを追って来てみれば……)

 

 このハンターの名はパトラ。若くしてG級ハンターとなった、ギルド公認の自由人である。

 

(面白い子……それに、あの一番大きなラージャン……あの傷、間違いない)

 

 パトラは、身震いして周囲を確認する父ラージャンから視線を外して懐かしんだ。

 父ラージャンは、かつて自分が全力を掛けて戦い、そして逃がした個体だった。

 

(あの強いラージャンの子供……楽しみだな……)

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

★オマケ

 

■主人公

・後先考える必要が無いなら、容赦なく使える全てを使って敵を討てる強いやつ。

・久し振りに家族と食べたこんがり肉、そのあまりの美味さに涙が零れた。

・尚、家族の方が涙を流していたので直ぐに笑いに変わった。

 

 

■家族のラージャン達

・何かあったら直ぐに助けに行けるようずっとスタンバってた。その必要がないと分かると、直ぐにスポーツ観戦のノリで静かに応援を始めた。

・主人公に対し“今後の遠慮は無用”とジェスチャー等を使って伝えた。その結果は次回でダイジェスト。

・一瞬感じた懐かしい強者の気配に父ラージャンが反応する。しかし、敵意が無いので捨て置いた。掛かってくるなら、主人公仕込みの技術で仕留めるつもり。

 

 

■灰被ドスファンゴ

・ドスファンゴの特殊個体。無数のファンゴを引き連れた巨大な群れの偉大な主──だった。

・害獣でしかないブルファンゴ達はハンターの手によって次々と駆除され、生き残った灰被りも手傷を負わされて逃げ出す始末。

・ハンター達に立ち向かっても死に、逃げ出して生きてもハンターに追い付き狩られ、そうでなくても──結末は“死”のみだった。

 

★ゲームでの灰被ドスファンゴ

・四肢が泥濡れで黒く、それ以外は灰白い体毛に大きな牙をもつ巨大なドスファンゴ。

・ブルファンゴファンネルを鳴き声で巧みに操るクソモンス。スーパーワイルドな武器と、ハイパーワイルドでちょっぴりエッチ(男女共)な防具でコアな人気がある。

・部位破壊は牙と片目の二段階。全て破壊すると暴走モードで暴れ始め、灰被にビビり逃げたブルファンゴを掘り起こし、ハンターに向かって投げ付けたりする。

 

 

■キリン装備の女ハンター【パトラ】

・若くしてG級ハンターに成った原作主人公みたいなやつ。自由奔放な性格で、気紛れで行方をくらましたりする。

・自由奔放を許す変わりに、ギルドの焦げ付き依頼や奔放中の仔細な報告、そしてG級ハンターの尻拭いを受けさせられている。

・一言で言えば変人。旅と冒険が大好き。




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因みに、元々灰被り堕ちた女騎士のノリで、最終的に自信を確りと見た上であらゆる手段で本気で殺しに来た主人公に種族と年齢を越えて惚れるとか言う設定でした。


次回、【幼少期編】エピローグ。
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