樹海を歩く二匹のラージャンと、その背に乗るこれまた二匹のラージャンの子供。俺達の事だ。
リオレウスの焼き肉を楽しんだ俺達は、親父の合図で移動を始めたんだ。
理由は恐らく餌不足。俺だけ飯が少ないと思っていたが、思い返せば弟以外は必要最低限みたいな食事量だったな。
そうして移動を続けて暫く。俺達一家は、川辺の落ち着ける場所を新たな巣とした。
親父は周辺へ縄張りに、母は警戒姿勢で子守をしている。
弟が慣れない環境に落ち着かない様子の中、俺は手頃で真っ直ぐな棒を牙のナイフで削り、
(側には川。川には魚が跳ねている。ならばやるしかないだろ──魚突きッ!)
棒の先端を斜めに削り穂先とし、穂先の直ぐ後ろに斜めの切り込みを入れて反らし、
(こんなもんでいいだろ。後は練習か)
道具を仕舞い、その辺にあった石で地面に小さく丸を描く。的の変わりだ。
利き手である右手に銛を持ち、引き絞るように持ち上げ、眼前の小さな丸を見る。そして的を狙って振り下ろす。
(……少しそれたが、まあ悪くないかな?)
振り下ろした銛は、的である丸の縁に突き刺さった。ド真ん中ではないものの、狙う獲物は大きい魚だ。感覚は掴んだし、問題ないだろ。
母に川へ行くと、指差し鳴いて伝える。母は心配そうにしつつも、了承の一吠えを返してくる。
(さてと、魚は……結構いるな)
上からの見る限り、ゲームで見た定番の魚影から、見慣れない魚まで沢山だ。
川の流れは穏やかで、手前は浅く、奥は深い。そし浅瀬の川底は土で、深場は石。これなら穂先を傷めないで済みそうだ。
(それじゃあ早速──ホッ! ……取れたわ)
振り下ろした銛は、狙った獲物が大きかったのもあり、呆気なく取れてしまった。
銛を引き上げて獲物を見る。取れたのは青みを帯びた黒の背中にオレンジ色の鱗を持つ魚──ドスサシミウオだ。
(サシミウオのドス個体! 公式で生食可能の魚だが……内臓は止めとくか。川だし)
牙のナイフでドスサシミウオの脊髄を断ち、放血の為に尻尾を骨まで切る。
この
本当はここから神経抜きと保冷をしたいが、そんな道具は無いし、冷やす為に川に入れていたら食われてしまう。
(取り敢えず血を洗って──ん、なんだ?!)
血濡れのドスサシミウオ川で軽く洗い、捌くために魚を乗せておく石を探していると、何やら川が騒がしくなっていた。
見ると、ドスサシミウオを洗った場所で肉食の魚達が荒ぶっていた。
(血に強く反応したのか? ……なら、これも行けるか?)
離れた川で平たい石を洗い、その上でドスサシミウオの内臓を取り出す。そして取り出した内臓を、魚が群がる川に投げ入れてみる。
すると、想像通りに大型の肉食魚が捨てられた内臓目当てに群がって来た。
(……これは使えるな。川は汚れるから頻繁にはできないけど)
そんな事を考えつつ、俺は必要分だけ魚を突くのだった。
■
(結構取れたな。これだけあれば大丈夫だろ、親父も狩りをしてくるかもしれないし)
取れた数匹の魚を、洗った平たい石の上で捌いていく。先ずは鱗を取り、それが無理そうな魚はエラと内臓を取って終わる。
下処理が終わったら、細い枝の皮を剥いて串にし、魚を刺して串焼きの用意をする。
先ずは焚き火台。だがそれは既に出来ている。
石を円形に並べ始めたのを見て、弟が手伝ってくれたんだ。
そして今は俺の隣に並び、火起こしの時を今か今かと体を揺らして待っている。
(それじゃあやるか。弓切り式火起こし器~! 持ってこれて良かった)
リオレウスの翼膜で作ったナップサックから弓切り式火起こし器を取り出す。
それを焚き火台の側に置き、枯れ草や枯れ枝を解して焚き火台に積上げてゆく。
この枯れ草や枯れ枝は、移動の最中に父や母が集めてくれた物だ。野生のラージャンには意味不明な行動をとる不気味な息子だろうに……恵まれてるな、俺。
(今回は砂もあるし、早く火種を起こせそうだ)
枯れた木の板をV字に削り、火起こし器の先端がはまるよう溝を掘る。そしてその面に砂を少し入れる。
これで摩擦力が強まり、より早く火が起きる様になるんだ。
(ほ~ら弟よ、よーく見とけよ~)
板に脚を乗せ、火起こし器の頂点に手を置いて思い切り押し付ける。そして弓を強く引けば、キュコキュコと木材同士の摩擦音が鳴り響く。
それを何度も繰り返せば……よし、火がついた。
「ホホホ!」
弟は火がついた事に喜んでいるのか、声を出しながらピョンピョンと跳ねている。
そんな弟横目に、俺は火種を枯れ草の束に移して息を吹き掛け続ける。ここで失敗したら大変だからな。
しかし、俺の心配をよそに火種は強く成って行き、焚き火台に移した頃には大きく立派な火となった。
(後は太い木を乗せて白煙の予防。そして、本命! 地面に串を刺して、遠火で魚が焼き上がるのを待つ。この一番デカい魚は……遠火でじっくりだな)
手頃な魚はこれで良い。だが大きな魚は焼き難い。
なので俺は、三本の手頃な木材を草紐で結んで三脚を二つ作り、焚き火台に平行になる様立てかけた。
そうして二つ立てた三脚の上に、串を刺した大きな魚を乗せる。完璧だ!
(後は待つだけだ……ッカー! ビール、ビールが欲しい!)
揺れる焚き火。木材が燃え、パチパチと心を擽る音を奏でる。その音と臭いが、懐かしい前世を想起させる。共に火を囲んで飲んだビールや、友達の持参した食い物を炙りツマミとして呑む……煙が染みて来たな。
俺の落ちた気なんか我関せずと、力強く揺れる火。木材を燃やし、焼けて溢れ滴った魚の油が火に当たり、蒸発する。それが煙となって立ち昇る。
魚の焼ける良い匂いが、辺りに漂って来た。
その香りをツマミに、ドスサシミウオの刺身を一つまみ。
(ッ~~~うめぇ~~~!! 凄い大トロだよこれ! 脂がゆっくり溶けて口に広がる! しかも臭みがない! ──日本酒が無いーーーー!!!!)
恋しい酒の味を思い出しつつ、また一口。旨さに目を閉じ、“これだよこれ”と何度も頷く。哀愁は何処へやら。
そう言えばサシミウオには回復効果があったなと思い出す。意識して刺身を一切れつまむと、その度に体力が回復している気がした。
そうして気分も落ち着き、体力も回復した事で思考に余裕が出て来きた俺は、立ち昇る煙と匂いに意識が向いた。
(……煙に匂いか……対策しないとマズいな)
前は外敵がいなかったから良いものの、今の俺達はこの土地において新参者。この煙を目印に、ラージャンを恐れない戦闘狂や食いしん坊なモンスターが突っ込んで来るかもしれない。
煙の出ない、もしくは出辛い焚き火の方法を思い出しながら、刺身を一つまみ──旨い。ここで猿酒を作るか本気で検証し始める。
そんな美味そうな香りを撒き散らしながら別の魚を美味そうに食っていると、当然家族が物欲しげにアピールしてくる。
遠巻きにチラチラと見てくるので、追加で魚を焼きながら、何時の間にか帰って来ていた親父を含めた家族を鳴いて呼ぶ。
比較的小さ目な魚は程良く焼けていたので、それを一度俺が食べて見せると、家族は大丈夫と理解する。
これが俺達一家の何時ものパターンだ。
弟が俺の真似をして焼き魚を食べる。すると弟は笑みを浮かべて「ホッホッ!」と喜んでいる。いや熱いのか?
母はチマチマ食べるのを諦め、頭から焼き魚をバリバリと食べだした。そして俺の真似をしているのか頷いている。旨いようだ。
そして親父。俺は親父のために取っておいた一番大きなドスサシミウオを指差す。それで理解したのか、俺達と同じように串をつまみ、焼き魚を食べた。
その体躯には物足りないであろうサイズの魚を食べた親父は、目を閉じ、唸りながら頷いた。
そうして全ての魚を食べ終えた俺達だったが、しかし親父と母が物足りない様な表情をしている。
(あれ? 親父、獲物は取って来なかったのか?)
湧いた疑問に周囲を見回すが、どこにも大型モンスターの死体は見当たらない。
それで親父を見ると、焚き火から立ち昇る煙を指差した。
(……あ、縄張りの見回り中に煙が見えたから帰って来たのか。てことは、俺の所為か。……ごめん!)
原因が自分にあると解った俺は、直ぐに謝罪する。すると親父は軽く息を「フー」と吐いて許してくれた。
(許してくれたとは言え、俺の所為で両親の腹を空かせたとあっちゃあ気分も悪い……よし、やるか)
俺は、今だけは禁じ手を使う事にした。
川を見て、手頃な大きさの岩を見付け、そこに届くように石と枝を組み合わせてハンマーを作る。
そして新たに魚を一匹だけ銛で突き、それを牙のナイフで大きめのサイズでぶつ切りにし、岩の周りに血と切り身、内臓をバラ撒いたのだった。
【オマケ】
■主人公
・焚き火+焼き魚の匂いで前世を思い出して哀愁を感じた。
・未練が無いと言えば嘘になるが、執着する事は無い。
・モンスターハンター世界の魚を食べ、一つの夢に火が灯る。
・自然に対して遠慮があるが、モンスターハンターの世界では遠慮なんかしてる暇はない。
■父親
・縄張り確認中、妻子の居る場所で上がる煙を見付け、息子だろうと思いつつもハンターを警戒して帰って来た。
・案の定、煙の原因は息子だったので“紛らわしいやつ”とため息をついた。
・新たに知った“焼き魚”の味と、僅かな疲れを癒す効果に唸る。
・息子の奇行に顔を顰めるが“息子が無駄な事をするか?”と考え見に徹している。
■母親
・新たな土地への移動と、いろんな意味で目が離せない息子達に疲労している。
・長男が川の側で魚を取り始めたのを見て“うちの子天才!”と内心で親バカを発生させた(自分も雷で取れるのはナイショ)。
・初めて食べた焼き魚に“これ美味しいね!”と息子の真似をして伝えていた。
・長男の奇行に“今度は何するんだろ”と眺めている。美味しい思いが出来るのを知ったので邪魔しない。
■弟
・天才な兄の行動に一番脳を焼かれている。
・兄のやることなすことの全てが本能に訴える“良さ”を持っていると気付き、母より兄について行く時間が増えた。
・焼きたての焼き魚の脂で舌をすこし火傷した。後に回復薬擬きの苦さを知り、少し大人になる。
・兄の奇行には全て得が有ると知り、本能で観察している。
■サシミウオ
・書くにあたって調べたら、こいつの回復効果は身じゃなくて鱗に有るっぽくて笑う。
・身にも滋養強壮の効果が有るみたいなので、サシミウオそのものが健康食品のそれ。
・色味から鮭として見てる。そうにしか見えなくなった。
・主人公の好物になったので、以降もちょくちょく取って食われることに。
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