転生ラージャンぶらり旅   作:黒木箱 末宝

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ラージャンのアクションフィギュア欲しい。


【VS】ガノトトス

 瑠璃色の鱗が水滴と共に煌き、巨大な体躯とそれに見合った巨大な鰭、それを翼のように広げて空を跳ぶ。魚を飛竜にしたらこうなるであろう姿のモンスター──水竜ガノトトスが竿に掛かってしまった。

 

(ガノトトス!? 何でこんな所に!)

 魚用の切り身をカエルが食べ、それをガノトトスが捕食するという偶然が重なり、俺の竿にガノトトスが食い付いてしまった。内心焦っているが、俺は何処かワクワクしている。

 

(ガノトトス……この世界に来たなら一度は釣ってみたいと思ってたんだ……!)

 本来なら竿を手放すなり糸を切るなりすれば解決する話だが、せっかく作った釣り竿を失いたくないし、それに何か行けそうな気がするし、ここで釣れたらロマンが凄いので、俺はガノトトスを釣り上げる事にした。

 

 針や糸、竿が壊れないよう調整がしながら、暴れるガノトトス観察する。

 鱗は瑠璃色で体躯は巨大──成体だ。

 糸の先を遡ると、針は口ではなく喉に伸びている。カエルごと針を飲み込んで、それが喉に刺さっているのだろう。よく見れば口から血が流れている。

 

(このまま体力を削ってやれば、釣れたと同時に大きく弱らせられるかも!)

 想像したことをできるかは疑問だが、今の俺は子供とは言えラージャンだ。こうして釣り竿を振り回して疲れさせ、ジャンプを煽り、その瞬間に合わせてやれば──いけるッ!!

 

(今だあああああ!!!)

「オオオオオオオオーーーー!!!」

 腹から思い切り声を出し吼える。その一瞬、視界の隅に黄金の光が見えた気がした。

 湧き出た力を利用して、左手を支えに右手で竿を押して引く。竿を通じ、まるで背負い投げをするかの様にジャンプしたガノトトスを陸地へと叩き付けることが出来た。

 

(一本背負い釣り──どうだ!? だめか、なら銛で──グオッ!?)

 地面に叩きつけられたガノトトスは尚も暴れている。ならばと竿を持つ反対の手に銛を持ち、トドメを刺すため近寄る。だが刺そうとした瞬間にガノトトスは起き上がり、尾ビレの一撃で俺は弾き飛ばされてしまった。

 

「グルル……ギュイーーーー!!」

 叩き付けられた際に痛めたのか、片脚を庇い尚立ち上がり、血を吐きながら吼えるガノトトス。

 自身を釣り上げた俺に対し、ありったけの殺意を込められた目が向けられる。恐怖か武者震いか、毛が逆立って来た。

 

(痛ってぇー……やっぱスゲェや、大自然……!)

 フラつきながら立ち上がり、ガノトトスに咆哮を返す。こうして初めて、俺の命懸けの戦いが始まった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 主人公の武器を真似て作った丸太の銛を杖にして、一匹のラージャンが森を駆けている。

 父ラージャンが遠くで見た大きな影は、川を遡り自分達の巣へと向かっている。父ラージャンは、もしそこで大きな息子(主人公)が魚を取っていたら。そこに影の主が現れたら。

 そのもしもを想像し、怒りに黄金の闘気を波打たせながら巣へとたどり着いた。

 

 そうして父ラージャンが見たものは、小さな息子(弟ラージャン)を抱き締める番の母ラージャンと、その視線の先でガノトトスと戦う主人公の姿だった。

 

 父ラージャンはガノトトスに向かって今直ぐ銛を投げ付けようか考え、そして止めた。

 母ラージャンが“どうして!?”と視線を送ってくるが、父ラージャンは静かに主人公を顎で指した。

 その通りに主人公を見る。すると、ガノトトス相手に少し危ういが、問題なく戦えている主人公の姿が目に映る。

 

 ガノトトスの喉から伸びる糸を利用し、竿を引く事でダメージを与えつつ動きに隙を作る主人公。

 痛めた様子の脚、その踵やアキレス腱にしつこく銛を突き立てる主人公。

 噛み付きを竿を外に引く事でずらし、隙だらけの目に銛を突き刺す主人公。

 

 母ラージャンは理解した。助けないのではなく、助ける必要がないのだ。

 

 しかし父ラージャンは銛を手に身構える事を止めていない。もしもの時に備えている様子。

 それを見て少し安心した母ラージャンは、父ラージャンに何か考えがあるのだろうと見に徹する事にした。

 

 黄金の闘気を放つ、不思議な息子の戦いを。

 

 

 

 ■

 

 

 

 激痛に暴れ狂うガノトトスは、異物を取り除かんと頭を必死に振る。

 突き刺したまま銛を握り続けていた俺は、振り落とされないよう必死になって銛を握り締めていた。

 俺が動く度に銛や返しが傷を抉る所為か、ガノトトスの動きが次第に静かなものになって行く。

 

(俺みたいな小さな存在が巨大なモンスターに勝つにはこれしかない。一発逆転の手段がなければ、結局いつもの根性勝負……やってやるさ!)

 俺はガノトトスにさらなる消耗を促すため、銛を捻りながら引き抜いた。

 

「ッギョアアアアッ!?」

 吹き出す血とガノトトスの眼球。返しに引っ掛かった目の神経。“しめた”と銛をねじり上げれば、ガノトトスは痛みから逃れる様にゆっくりと倒れ込み、まるで俺に首を差し出すかの様に動かなくなった。

 

(よし! 後は鰓を無理矢理引き千切ってしまえば────は?)

 ガノトトスの首元の鰭、その裏に()()()()()()()鰓を狙って、釣竿と銛から手を離して鰭を捲る。

 

 しかし、鰭の裏に鰓なんか存在していなかった。

 

(しまった──『ガノトトスは()竜だから鰓がある』と()()()()()()()()()ッ!? ()()()()()()()()()()()()()()()()だったのかッ!!)

 思わず呆然と隙を晒してしまった。ハッとした時にはもう遅く、ガノトトスの目玉の無い眼窩に殺意を見た。

 

「オオオオオオッ!!?」

「ガアアアアア!!!」

 先までの静けさが嘘の様な速度で動き、此方に迫るガノトトスの顎。

 咄嗟に銛を掴み、余計な物を引き千切って縦に構える。

 ガノトトスによる噛み付きは、銛をつっかえ棒にする事で防げた。しかし、防げただけだった。

 ガノトトスはゆっくりと立ち上がると、そのまま食らいつくため顔を押し込んで来た。

 それにより銛が弓なりに歪み、ミシミシと軋む音が聞こえてくる。

 

(クソッ! つっかえ棒ごと俺を食い殺す気かッ!? このままじゃマズい……一か八か──やるか!)

 銛が折れないよう、真っ直ぐな状態を維持するつもりで一歩下がる。それに合わせてガノトトスも一歩踏み込んでくる。

 眼を奪った事で相当怨みを買った様だ。わざわざ追い詰める様にする必要は無いのに、ガノトトスは完全に俺を恐怖させ、その上で食い殺すことに固着しているように見える。

 

 しかし、その執着も僅かな間のものでしかなかった。ガノトトスの喉に向かって空気が吸われ始めたからだ。

 

(こいつ……この状態でブレスを撃つつもりか!)

 ガノトトスのブレスは水流のレーザー。盾にしている銛はおろか、ラージャンとは言え子供の俺には致死の一撃になるだろう。

 

(だが、発射する寸前なら隙がある!!)

 俺の考えが読めたのか、ガノトトスも集中してチャージをし始めた。

 

 チキンレースだ──ビビった方が負けるッ!!

 

 極限の集中。身体にアドレナリンが駆け巡り、視界に雷が走り、腕に黄金の模様が脈打つのが見えた。

 

 そして、ついにその時が来る。

 

(喉が締まった──今だ!!)

「ギュイ──ガ!?」

 

 しかし、そのチキンレースは俺の想像とは違う形で決着が付いた。

 

 突如として丸太が飛来し、ガノトトスの首にぶち当たり骨をへし折ったのだ。

 ちょうど良く銛から手を離していた俺は、突然目の前から消え、力無く死んだ魚の様に動かなくなったガノトトスに困惑した。

 

 もしやと思い丸太の飛んできた方向を見てみれば、そこには何かを投げた様なポーズでドヤ顔を向けてくる父ラージャンが立っていた。

 

(……まぁ、なんにせよ──生き残ったぜ~~!!!)

 一安心したからか、無理が祟って極度の疲労感に襲われる。

 そうして此方に掛けてくる両親と弟を尻目に、俺は昼寝を始めた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 意識が僅かに覚醒する。途端に鼻を掠める炎の香り。焚き火の臭いだ。それに少し魚臭さが混じる。

 次に耳が音を認識し始める。パチパチと弾ける薪の音と、何かが焼けるジュ~という音だ。

 

 香りと音が、何処か懐かしい記憶を呼び起こす。

 

(……ああ、あれだ。キャンプの早朝、朝マズメに友達が釣って来て、焚き火で焼いてくれてたあの時の……)

 摂食中枢が目覚ましとなり、怠い身体をゆっくりと起こす。

 そこで俺が見たものは、驚くべき光景だった。

 

 薪を片手に火の世話をする弟。

 

 木の枝にガノトトスの切り身らしき刺し、焚き火で焼いたり炙ったりしている母。

 

 丸太の様な銛を片手に、切り身をツマミながら周囲を警戒する父。

 

 不意に鼻が旨い魚の匂いを嗅ぎ取る。見ると、ガノトトスの大トロが切り分けられ、俺の側に置いてあった。

 空腹に負けて一抱えある切り身を丸齧りする。途端口に広がる旨味に細胞が歓喜する。

 

 拳を掲げて感動する黄金に染まった俺を見て、両親は驚き、弟は大いに喜んでいた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

★オマケ

■主人公

・主人公が普通な訳が無いので当然の如く特殊な存在。前世の影響もあって生きる事に強い執着心がある(無意識)。

・前世の知識を盲信し、調子に乗って戦い死にかけたことを恥じて猛烈に反省した。以降はラージャンに似つかわしくない慎重さで狩りをするようになる。ガノトトスの解体中にエラを見付けて二重の勘違いに気付いた。黒歴史に一ページ。

・ガノトトスの大トロが好物に追加された。以降、時折隙を見てガノトトスを釣って狩って食べたりする。

 

 

■父ラージャン

・不穏な物を見て即応して現れた父親の鑑にして主人公の戦いを観たいがためにギリギリまで助けなかった父親のクズ。

・その後、投槍を練習し外す主人公の姿を見て、自身もあの時に狙いを外して主人公を殺すというIfを想像して焦った。

・主人公に投槍のコツを教えてもらい、試しに岩に放ったらめり込んで主人公をビビらせた。以降リオレウスを投槍で撃ち落とし、その肉が食卓に並ぶようになる。

 

 

■母ラージャン

・最後まで主人公を心配していた。飛び出そうとする弟を必死に抑えていた。

・主人公の覚醒、その片鱗を見て「ウチの子天才!」と落ち着き戦いを観ていた。

・主人公の真似をして解体や調理をしてみたら楽しくてドハマリした。

 

 

■弟ラージャン

・兄のピンチとその戦いぶりに情緒が大変な事になった。その後の黄金で追い打ちされて弟はおしまい。

・目覚めた兄が直ぐご飯が食べられるよう、見様見真似で火起こしを成功させたイレギュラー。

・ガノトトスの大トロで覚醒した兄にちょっと引いた。

 

 

■ガノトトス

・成体の下位個体。着地ミスして脚を挫かなければ生き残れてた。

・肉や骨は糧に成り、鱗は装飾品に、牙や鰭は道具や武器になって活用された。

・主人公がこっそり作った兜焼きで希少部位の頭肉と頬肉の争奪戦が発生した。

★エラがあったり肺呼吸だったりどっちだよ! とキレてたら基本が肺呼吸でエラもあるとかいうよくわからん結果だった。書いた後に知ったので、主人公がぴったり閉じたエラ蓋を見て「エラ無いやん!」と二重の勘違いをしたという結果でここは一つ。




だから、ちゃんと下調べする必要があったんですね(n敗)。
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