ガノトトスとの戦いから暫く。俺は己の自惚れを自覚し、サバイバル技術の再確認やトレーニングをしていた。
(ガノトトスの鰓の有無、そんな知識の思い込みで死にかけたんだ。後で確認したらちゃんと鰓はあったし、肺もあった。……前世の知識を盲信してたのか)
それからだろう。俺は今までより一層この世界に対する観察を強めた。
今まで当然のように使っていた道具や素材の再確認。
何気なく食べていた魚の鱗等素材の活用方法。
草紐を編み込み作った虫取り網、それによって採取が可能となった虫素材達。
とは言え、キノコや虫に魚なんかはその形や色等の見た目からおおよそどんな物か解る。
逆に言えば、前世の知識で参考にできるのが色と形と説明文だけであり、説明文なんかはとっくに忘れているので見た目でしか判断できない。
その結果、ドキドキノコと毒キノコを間違えて食べ死にかけたり、焼いたアオキノコが漢方薬になる事を思い出して助かったりの綱渡り。
魚もそうだ。釣り上げたハレツアロワナやバクレツアロワナ、カクサンデメキンやハジケイワシが締めた瞬間に爆ぜて台無しに成ったり、焼きが甘かったシンドイワシや眠魚を食べて一日動けなくなったり眠ってたりと家族を心配させてしまった。
虫は言うまでも無い。苦虫を食べてその苦さに弟と転げ回ったし、光蟲を潰して大騒ぎを起こしたり。
雷光虫を食べたら僅かに蓄電出来て驚いたりした。
(……やっぱダメかも知れん。アイルーとコミュニケーションが取れたらな~……)
やらかしの積み重ねに自信を失いかける。
今のところ命に関わるような失敗は毒キノコの件以外にしていないが、それでも致命的な隙を晒していたことには変わりない。
(今後は同じ事が起きても助けは無いだろう……気を付けなきゃな……なら、やってみるか)
そうして俺は更なる力を求めて、肉の剥ぎ取られたリオレウスの死骸へと向かった。
普通のモンスターなら、これはもう何の価値もない残骸でしかない。僅かに残る血や肉片は虫の餌になり、食物連鎖に還るだけ。
(だが俺にとってはお宝だ。まだ活かせる)
俺は牙のナイフを使い、リオレウスの素材を剥ぎ取り始めた。
竜の牙に鱗や甲殻、翼に翼膜、爪に骨。
(これだけあれば十分だな。……いや、余るかも知れん。だがまあ、やれるだけやるか!)
そうして俺は集めた素材とリオレウスの素材を手に、装備の開発を始めた。
■
父ラージャンは、何やら不思議な事を始めた長男を見て、静かに観察をしていた。
──今度は何をする? 何を見せてくれる?
見たことも無い敵への対応に始まり、成人の儀式を終えねば扱えるはずの無い、雷の力を僅かとはいえ扱い掛けた長男。
まるで知っているかのように起こす未知の行動と現状、その結果に生み出された凄い成果物たち。
──見てみたい……更なる我が子の力を。
落ち込んでいた様子の長男は、父ラージャンが狩ってきたリオレウスを解体し、また何かを目指して行動を始めた。
それは食べるための解体ではなかった。
牙を抜き、爪を剥ぎ、甲殻や鱗の一枚まで丁寧に剥ぎ取る。それはまるで、ハンターの様だった。
ハンターの様な行動、食べられない部位を手に、また不思議な事をするのだろう。
そう考えて父ラージャンが観察していると、長男はあろうことかその部位を身に纏い、更にハンターの使っていた様な武器を作り上げてしまった。
──なるほど、ハンター! 更なる力はハンターに有ったかッ!!
父ラージャンの頭に、ハンターと戦闘した時の記憶が蘇る。
そこには確かに、小さく弱い筈の生き物が、己と数度の打ち合いを繰り返す記憶が合った。
試練の獣である、蒼い角の白獣──その毛と皮、そして角を使った武器を手に、雷の力を使う雌だった。
その戦いの結果は、父ラージャンの敗走だった。
一人でも厄介な相手に、更に厄介な気配のハンターが三人も増えた。だから、沸き上がる怒りと悔しさを歯を食いしばる事で耐え逃げた。
「グルルルル…………」
その記憶を完璧に思い出した父ラージャンは、その時の怒りがぶり返して沸いて出てしまった。
不安そうにする家族に“問題無い”と伝え、闘気化を解く。
──やはり力が必要だ。その為には…………
父ラージャンは、己の目指す先を見る為に。そして、いずれ現れる脅威から家族を守る方法を得る為に、長男を窮地に置き、その力の全てを出させる事にした。
■
武器を持ち、防具を身に纏い、“これで少しは安心だろ!”なんて考えていた俺は、目が覚めると見知らぬ土地に一人ぼっちにされていた。
少し前。壁を殴り付ける様な轟音と地響きによって、俺は安眠から叩き起こされた。
目が開けると、そこは見知らぬ洞窟の中だった。
(いつの間に移動したんだ?)
親父はどういう考えなのか分からないが、縄張りの移動は夜間の時もあった。だから、今回も寝てる間の縄張り移動だと、最初は考えていたんだ。
だがそれが違うと解ったのは直ぐだった。
何せ、周りには俺以外だれも居なかったからだ。
(──ついに捨てられたか……まぁ、親父は俺が装備作ってたら急に闘気化したもんな。直ぐに戻ったけど、あれキレてたよ絶対)
身体にも武器による古傷が合ったから、親父はハンターに対して良い感情を持っていないかもしれない。
しかし、その考えが間違いだと、俺は直ぐに知る事になった。
俺が寝ていた側には牙のナイフや石のナイフが置いてあり、ナップザックやその中身、親父が嫌がっていると思っていた装備もそのままの状態だったからだ。
(母のお気に入りのマカライト鉱石もそのままだ……じゃあ、俺は捨てられた訳じゃない?)
思考しながら、もしもに備えて装備を装着し、外に出る。すると洞窟の入口周りには、手当たり次第に集めたであろう、大小様々な木材、石材、草や葉っぱ、そして何故か竹も置いてあった。
(これは……まさか……?)
まさかと思い洞窟を見ると、入口の横に大きな拳の跡があった。それは父の縄張りを示すマーキングだ。
(……臭いが強く残ってる。マーキングも出来立てのやつだ)
それを見て理解した。父は俺で何かを試したいらしい。
集められた材料、残された道具。少し考えたが、結局それしか分からなかった。でもそれで十分だった。
(ここまでお膳立てされたらやるしかないじゃん…………ククク……燃えてきたなぁ……!!)
「
テンションが上がり、雄叫びを上げドラミングを轟かせる。
その時、視界の隅で稲妻が走った様に見えた。
気分を落ち着けて、先ずは水と食料を確保する。
とは言え、水についてはそこまで心配していない。
この場所は空気に湿気が多く、日差しも強い。葉っぱを使った水収集器を作れば、俺一人分くらいなら問題なく水を集める事が出来る。
(それに近くから水の臭いと音がする。川があるな)
周囲を警戒しつつ進むと、予想通り川が流れていた。水を覗けば魚が元気に泳ぎ回っている。これは飲める水だ。
(水よし! なんなら魚もいるし食料もある)
警戒しながら川の水を飲む。変な臭いもせず、程よく冷たくて旨い。
魚もサシミウオとかのよく見るやつだ。これなら暫くは食料に困らないだろう。
(そういや朝飯がまだだったな。何匹か取ってくか)
魚を焼く余裕がまだないので、内臓を避けつつサシミウオを丸齧りにして探索を再開する。
(取り敢えず使えそうな物の確認と、外敵の有無を確認しなきゃな)
なるべく音を出さないよう静かに歩き、地面や頭上を見ながらしきりに臭いを嗅ぐ。
今のところそれらしい痕跡はなく、臭は薄い。親父のマーキングが効きすぎているのか?
外敵が少ないに越したことはないが、食料に出来そうなモスやファンゴも見当たらないのは少しキツいかもしれん。
(まあ親父本体がいないからそのうち戻ってくるだろう。それに、木の実やキノコは見付けたから、暫くは持つはずだ)
それらを採取し、ナップザックに入れる。
そうして満パンになったナップザックを見て、俺は背負い籠やポーチの作成を脳内メモに書き加える。
洞窟まで戻った俺は、太陽が明るい内に拠点を整えることにした。
洞窟の入口前に溝を掘り、そこに丸太を立て掛ける。
こんな時の為に作りまくったていた蔓のロープで、立て掛けた丸太を縛って一つへと組み上げて行く。
こうして立て掛けた丸太と洞窟の間は、俺が入れるサイズの隙間しか無い。これなら大型のモンスターは入れない。
これで拠点の安全性は取り敢えず高まった。
(これでよし……腹減ったな、飯にするか)
何かあった時に備えてアオキノコを焼き、解毒作用を増幅させる。そうして未知の木の実を少しずつ齧りながら、俺はこれからの事を考えた。
★オマケ
■主人公
・前世の知識に助けられ、同時に殺されかけた事で盲信を止めた。たぶん。
・未だに捨てられると思い込んでいたが、それは違うと言外の証拠で伝えられたので闇堕ちせずに済んだ。
・一人の食事が美味しくなくてビックリした。
■父ラージャン
・長男の本気の知恵を見たくて
・長男が巣を作り始めて、その技術に興奮した。
・家族にはこの事を通達済み。と言うより押さえている。
■母ラージャン
・番を信用しつつも息子が心配で仕方ない。
・試練については肯定的。強くないと死に方も選べないので。
・お気に入りのマカライト鉱石が長男のナップザックに入ったままなのを思い出し、回収しに行こうとして止められて拗ねた。
■弟ラージャン
・目覚めたら兄がいなくて困惑し、泣いた。
・なんとかして兄の元へと行こうとしたら父母総出で止められて泣いた。
・ご飯が美味しくないし、周りが静か過ぎて泣いた。