月末更新ギリギリセーフ!
ある日森の中、手負いの獣が一匹そこにいた。
右目を切り裂かれ、血を流し、命からがらの状態で敵に尻を向けて敗走した獣が。
獣の名はドスファンゴ。大きな牙を持ち、灰白の毛皮を持つ巨大な猪だ。
ドスファンゴはふらつく四肢に鞭打ってひたすらに歩き、ただ己が安心できる場所を目指し逃げていた。
痛む傷に苛まれ、吐く息は乱れ、足取りは覚束無い。それでも歩みは止まらなかった。
だがしかし、手負いの獣に安寧の場は存在しない。
血を流す手負いのドスファンゴを追って、肉食のモンスター達がその後を何処までも付けているからだ。
青い鱗に真っ赤なトサカを持つ鳥竜種──ドスランポスが率いるランポスの群れは、巨大な獲物が力尽きるその瞬間を今か今かと待っていた。
何も難しい事は無い。ただ追いかけて、待つだけで良い。ドスファンゴが歩みを止めれば、顔を出して爪や牙を鳴らして死の恐怖を煽り、スタミナを無駄遣いさせてやれば良い。
だがしかし、追い詰められた手負い獣は飛竜より凶暴だ。
ドスファンゴが膝を付き、ついに倒れて見せた。
それをチャンスと見たドスランポスが、配下に合図を出し、
そしてドスランポスは、己の失策を身動きの取れない空中で理解してしまった。
無意識の内に焦っていたのか、血を流しているからと侮っていたのか。自分達の疲労を忘れ、
倒れていた筈のドスファンゴが力強く立ち上がり、割れて鋭くなった大きな牙を振り上げてドスランポスを串刺しにする。
そのままドスファンゴは牙を振り回し、ランポス達を皆殺しにしたのだった。
体力回復の為、ランポス達を食らってタンパク質と鉄分を補給するドスファンゴ。
そうして肉を食らった荒れ狂う獣は、再び歩みを進める。
森の奥、白煙立ち上るその先へ。
■
あれから時が経ち、父ラージャンのマーキングの効果が巣の周辺を除いて切れた。
そしてそのおかげか、この森にモンスターが帰って来たり、新しく入ってきたりした。
アプトノスを始めとした、モスとかファンゴの生肉が取れるモンスターや、ランポスやマッカオ等の鳥竜種。そしてランゴスタやカンタロス、クンチュウなどの甲虫種。
小型モンスターが帰って来たならば、当然そのボスや捕食者も現れる。
ドスランポスとドスマッカオが現れて縄張り争いを繰り返し、餌を求めてイャンクック等の大型モンスターも現れた。
そんな縄張り意識のあるモンスター達が、既に住み着いたモンスターの子供を放置する訳もなく。
ドスランポスやドスマッカオは子分をけしかけて、イャンクック等の大型モンスターは、獲物を狩る俺を邪魔者として排除しようと襲い掛かってきた。
(まあ、全部狩ったけどな)
こっちは子供とは言え、元人間の大人だ。野生のモンスターでは身に付かない知恵と知識、そして他者に対する効率の良い殺し方を知っている。
餌に毒は当たり前。罠を張るのも大得意。自然を利用すれば、大型モンスターもなんのその。
さらに武器や道具を駆使すれば、どんな巨大で強大なモンスターも狩れると俺は知っている。
(水蒸気の煙幕は“やらかし”だったけどな)
ある日、偶然か必然か、ドスランポスとドスマッカオ達が徒党を組んで襲い掛かってきた時の話だ。
多勢に無勢を恐れた俺は、ランポスの頭蓋骨を器に入れていた水を、轟々と燃え上がる焚き火に思い切り掛け、水蒸気による煙幕を発生させた。
ついでとばかりに手前にいた鳥竜種の首を掻っ切って血飛沫を撒き散らしてやれば、そこは目も鼻も、ついでに喧騒で耳も聞き辛くなった混沌の戦場となる。
そうして同士討ちを頻発させて全てのモンスターを狩った俺は、この縄張りを勝ち取ることが出来た。
(武器良し、防具良し。アイテムは……良し、行くか)
狩ったモンスターで作った武具を身に纏う。
リオレウスの甲殻の額当てはそのままに、ドスランポスのトサカとドスマッカオの冠羽を融合した兜。
ドスマッカオとマッカオの皮を縫い集めた外装。
リオレウスの甲殻の上に、モンスターの体液を接着剤として取り付けたクンチュウのガントレット。
ドスランポスとランポスの皮を縫い合わせた腰巻。
そして最後に、ドスランポスの爪で作った片手剣を手に取ると、俺は狩りの為に外へ出た。
洞窟から顔を出すと、鼻に春に似た匂いを感じる。繁殖期特有の匂いだ。
海の無い密林の様なこの場所は、時期も程良く温暖な為か、生き物も植物も目に見える程に豊かだ。
周囲の安全をある程度確認したら、朝の行動を始める。
拠点の周辺には、必要だろうと本気を出して作り上げた施設が有る。サバイバルシミュレーションゲームでよく見る施設が目白押しだ。
焚き火台に燻製器、葉っぱの水収集器。そして粘土で作った瓶や壺。
燻製した肉を焼き、水を飲み、瓶や壺に入れていたアイテムを取ってナップザックへといれる。
今日、俺は本当の野生の世界へと進む。罠を張った拠点周辺とは違う、庇護の無い森へ。
途端、耳を打つ未知の生物の鳴き声。早る心臓に反し、頬は反り返る。息が興奮から荒くなる。
瞬間、俺の脳内に、始めてやったモンスターハンターの記憶が蘇る。
MONSTER HUNTER
(そうか、そうだったな……俺は、モンスターハンターの世界で産まれて、生きているッ!)
ここで漸く、俺はこの世界がモンスターハンターの世界であると完璧に認識した。
途端に血が加速して身体を駆け巡り、アドレナリンが溢れる。
「オオオオ──ガァアアア~~~~ッ!!!」
闘気が昂る。戦意が溢れる。視界の外に黄金が弾け、腕部に赤い雷が走るのが見えた。
とは言え、このままでは狩りもままならない。一度武器を置き、ドラミングでドコドコと胸を叩き、気分を落ち着ける。
(……良し、それじゃあ……一狩り、行こうぜ!)
振り上がったテンションと反比例する様に、俺は静かに潜む様にして森へと向かうのだった。
■
手負いの獣──ドスファンゴが森に到着した。
立ち昇る煙を目指し、僅かに残る血の臭いを道標にフラフラと、されど力強い四肢で土を踏み締める。
疲れからか正気を取り戻したドスファンゴは、あまりにも無計画な己の行動に正気を疑った。
しかし、己の救いがこの地にあると本能が叫ぶ。
辺りに残る血の臭いに混じり、好物の香りを嗅ぎ取る。そこからは無意識だった。
頭を下げ地面に鼻をかざし、フゴフゴと鼻音を鳴らして臭いの元を探す。
木の根元。湿気の多い日陰。倒木の裏。それらの場所を、邪魔になる全てを蹴散らして探す。しかし、目当ての物は見当たらない。
諦めずに鼻と耳、そして残った左目を忙しなく動かして周辺の情報を集める。
するとドスファンゴは、とある場所に空白地帯がある事に気付いた。そちらに鼻を向ければ、嗅ぎ慣れない臭いに混じって好物の強い匂いを感じた。
急いで駆けるドスファンゴ。進行上にある木々を薙ぎ倒し、モスを踏み潰し、他所のファンゴを跳ね飛ばす。
そうしてたどり着いた場所には、奇妙な光景が広がっていた。
火の気配を残す燃えカス溜まりに、その側に肉を乗せた不思議な枝が積み上がっている。
変な形の土からは水の臭いがするし、それがズラリと並んでいる。
ちょうど良いと土くれを砕き、水を飲む。そして横の土くれを砕けば、やはり中から好物の茸が沢山零れ落ちてきた。
「ッ~~ブギィイイイイ!!」
まるで用意されたかの様なそれらに対し、ドスファンゴは歓喜の咆哮を上げ、その全てを食い散らかした。
こうして全てのキノコを貪り食ったドスファンゴは、余裕が出来た事で
岩を砕き撃ち込まれた、大きな拳のマーキングを。
それを見た瞬間、ドスファンゴは言葉にできない程の“恐怖”を感じた。草臥れた毛が一斉に立ち上がり、ふらついていた筈の四肢に今直ぐ駆け出せる程の力が宿る。
「……フゴ──ブギィイイ!!」
──己が恐怖した。今まで負け無しだったドスファンゴの、傷付いた
しかし、それをドスファンゴは良しとしなかった。
巨大な己の目線より少し上にあるマーキングに向かって、ドスファンゴは牙による突き上げでそれを上書きするのだった。
★オマケ
■主人公
・己のピンチで一段階覚醒して大暴れした。無双ではない所が成長点。
・数日で縄張りや拠点をものにしたヤベー奴。血肉や素材は全て糧にする。
・悠々と狩りに出たら家を失う可哀想な奴。
■父ラージャン
・主人公の見せる技術や戦い方、武具やアイテムに感動している。強さの到達点を“ハンター”と見付けた。
・それはそれとして、モンスターの皮を剥がして纏めて身に纏う姿に少し引く。
・己のマーキングを上書きした畜生をどうブチ転がしてやろうか考えている。
■母ラージャン
・主人公の成長に「流石は私達の子供!」とキャッキャしている。
・主人公の作り出す武具を見て、何かを思い付く。そうして出来上がったのは、不思議な気配のする石を複数埋め込んだ木の額当て。
・結果、偶然にも発動したスキル【千里眼】で無数のモンスターの情報を脳に叩き込まれて吐きかけた。
■弟ラージャン
・泣いてばかりじゃダメだと心機一転し、兄の行動とその意味を思考しながら模倣を始める。
・その結果、歪で不出来ながらも兄の作り出した物と同じ物を巣に作り出す事が出来た。
・突然現れて兄の努力をゴミに変えた畜生に静かにブチギレている。その背に黄金と、僅かな赤い光が瞬いている。
■ドスファンゴ
・何者かによって手傷を負わされ、その状態で見逃された巨大な個体。
・ただひたすらに生に執着している。その過程の全てを類まれなる巨大で薙ぎ倒して進む。
・遅かれ早かれ、その命は風前の灯火。誰に吹き消されるかの違いでしかない。
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