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太めの木を貫通した矢を眺めながら、俺は狩りの成功率が上がったことを実感していた。
投石やスリングショット、アトラルと言う投槍器を使った槍の投擲でも良かったが、威力や有効射程──効果的なダメージを与える適切な距離──に不安があった。
何せ、俺はラージャンとは言え子供だ。意思ある装甲車みたいなモンスター相手に、真正面から戦いを挑む程の自信は無い。それに、ガノトトスの時とは違って、今回は準備する時間がある。
(湿った木を貫く威力……これなら、ドスファンゴの厚い皮もブチ抜いて、
弓矢を選んだ理由は、ドスファンゴが残した毒キノコ達を利用するためだ。
食い物の怨み、意識返し……それもあるが、今回の目的は敵であるドスファンゴの排除だ。つまり、食べる為の狩りではなく、排除する為の狩り──だから毒も罠も全部使う。
(よし、これならドスファンゴを嵌める罠を──ああ、しまったな……俺は、
罠を作成しようとした時、頭に微かな違和感を覚えた。その違和感を探ってみると、俺は想像の中のドスファンゴを基準に戦おうとしている事に気付いた。
(痕跡から敵は想像と殆ど合っているだろう……だが、それはそれ! このまま動いてたら危なかったな)
一度湧いた違和感に思考を乱される。危機感を抱いた俺はもしもに備え、本当の敵の姿を観察することにした。
■
臭いを嗅ぎ、足跡や血痕、薙ぎ倒された木などの痕跡の確認しながら、風向きに注意して敵を追う。
大漁の痕跡のおかげか、敵は拍子抜けする程簡単に見つける事が出来た。
「グエエ……」
「ブギイィイイイイ!!!」
(……ドスファンゴが、イャンクックを襲っている?)
俺の想像通り、敵は手負いで巨大なドスファンゴだった。
しかし何故か、ドスファンゴはイャンクックを襲い、更に首を踏み潰して殺し、高らかに咆哮する。
(ああ、見に来て良かった。想像よりずっとデカい……ダンプカーかよ……)
恐らく成人男性程のサイズであろう俺が見上げて尚、その背中が見えない程に巨体なドスファンゴ。
その太い四肢は泥に塗れて黒く汚れているが、体表は驚く程に力強く美しかった。
(泥の靴を履いた
ドスファンゴ改めて灰被りは、イャンクックを殺して尚荒振る気が収まらないのか、何故か
だがしかし、イャンクックは涙を流しながら、嘴を強く締めて耐えている。
(……おかしい、何でイャンクックは逃げないんだ?)
浮かび上がった疑問は、イャンクックがひっくり返された事で解った。解ってしまった。
(そうか、卵を護っていたのか──マズいッ!?)
露わになったそれを、どう言う意味が込められた物を確認する様に鼻を鳴らす灰被り。
そして、泣きながら這いずるイャンクックに見せ付けるように、灰被りは卵に泥濡れの脚を乗せ、ゆっくりと、一つづつ潰して見せた。
森に、イャンクックの絶叫が響き渡った。
涙を流すイャンクック、それに灰被りはとどめを刺し、苛立ちを見せながら何処かへと歩いて行った。
(クソ、アイツ……殺しを楽しんでやがった。……それに、ああクソ……マジか~……!)
此方に尻を向けて消える灰被り。その際に見たもので、俺は何故あの灰被りがこうも荒振るのかを理解した。
まず、ドスファンゴの手負い傷は片目の裂傷であり、完全に失明している様子だ。鼻や耳があるとは言え、野生の世界でそれは大きな弱体化で、大きな欠点だ。
角を折られて凶暴化した逢魔ディアブロスの件があるので、あの灰被りもそうかもしれない。
次に、このドスファンゴはやはり雌だった。
更に、まるで灰を被ったかのような灰白く古い硬質な毛から、老いた個体であると解る。
最後に、確認出来たドスファンゴの性器には、友にセクハラの如く教えられた経験痕が見当たらなかった。
(つまりヤツは手負いで、出産未経験かつ高齢の雌……字面だけなら凶暴性に納得しかけるが、野生動物が暴れる理由に関係無い筈だが……)
暫くドスファンゴが暴れる理由を考えていたが、俺は動物学者でもないので仕方が無いと切り捨てる。
そして、最終的に殺す相手に深入りするのはマズいと考えた俺は、殺されたイャンクックから幾つかの素材を回収。拠点へと帰投するのだった。
拠点に到着した俺は、ドスファンゴを討つ為の計画の清書を開始した。この森を探索して見付けた環境生物や、天然の罠として利用出来そうな岩やツタの罠の位置を思い出し、計画の図等を地面に描き出す。
(ゲームと違って、環境生物は固定配置されてないから好き勝手動くし、天然の罠も再利用なんかできないが、大きな助けになる)
そうして書き出した物に、追撃の手段を書き加える。閃光羽虫の光で混乱している内に毒矢を撃ち込むとか、ツタの束に絡まっているうちにセキヘイヒザミに砲撃させたりとか。
(ガスガエルとかコロガシとかを使うのも良いな)
こうしてドスファンゴを討つ算段を立てた俺は、計画に足りない部品や、必要な罠の作成に動いた。
結果から逆算するタイプの俺は、先ずトドメとなる罠の作成を開始する。
(決定打ってのは概ね強力で、遅い物だ。だからそれを確実に当てるためには、敵が間抜けにも脚を止めて棒立ちさせる必要がある。なら、動きたくても動けない様、脚を破壊すれば良い。って事は──)
こうして時は過ぎ、遂に決戦の時間が到来する。
■
己を殺す算段を立てられているとはつゆ知らず、件のドスファンゴ──灰被りは木陰で眠り、昔の夢を見ていた。
かつて灰被りは、ブルファンゴだった頃から身体が大きく、そして強い個体だった。
餌場の勝負では負け無しで、若い雄との喧嘩ですら完勝か圧勝ばかりだ。
その時の灰被りはこう思っていた。
──私は最強! 家族は私が守る!
雄と共に戦い、雄と共に群れを守る。そして時に、初心者とはいえハンターの撃退に成功していた。
そんな戦いの日々を過ごす内に、灰被りは何時しか群れの全ての雄を抑え、ドスファンゴになっていた。
雄の個体しかなれない筈の、ドスファンゴに。
この個体は元より雄性ホルモンが多かった。それが雄と共に戦い、雌を守る自己意識によって雄性ホルモンが増加した。
その結果、この個体は突然変異のごとく性別の壁を乗り越えて、ドスファンゴに成ってしまっていた。
しかし、当時の灰被りはそんな異常事態を欠片も気にしておらず、寧ろ喜んでいた。
──大きくなった! 強くなった! もっと凄い、雄より強い群れのボスになった!
何時しか灰被りを目印にして、外からブルファンゴが集まり始めた。強いリーダーの元に集まるのは自然な事だった。
だがしかし、そうして集まった雌ブルファンゴを求めてか、灰被りを雄と認識した他のドスファンゴが、群れの雌を掛けた勝負を挑んで来る様になった。
本来ならば起こり得ない、雌と雄の勝負。それが起きた理由は、雄のドスファンゴが灰被りを“デカいだけの雌臭い雄”と勘違いしていたからだった。
そうして臭いをちゃんと嗅ぎ分けられるドスファンゴを除いて、舐めた態度の雄と勝負を続ける日々。
ある日、灰被りが気が付いた時には、未婚の雌は己ただ一匹になっていた。
そこで灰被りは違和感を抱き、気付いた。
──私だけが、
瞬間、全身を見知らぬ恐怖が駆け巡り、心臓が焦りによる早鐘を打ち始めた。
周りの番を見る。かつて己に負けた雄が、雌と番っている。
周りの番を見る。同じ時に産まれ育った雌が、三匹の子供に囲まれて、木陰の下で穏やかに眠っている。
周りの番を見る。──皆、幸せそうな顔をしている。
──……ッ!? わ、私は? 私の“幸せ”はッ!?
灰被りは、未知の恐怖に涙した。
こうして、灰被りの遅れた番探しが始まった。しかし、灰被りはあろうことか欲張ってしまった。
──強い私の番は、同じくらい強い雄でなければ!
己が強い自負がある。それ故に雄を選り好みして過ごした結果、どの雄も己より弱く、魅力を感じなかった。
──明日こそは強い雄を──あ、アアッ!?
番探しを決めて幾度も月日を眺めていたある日、灰被りは、己の適齢期が近づいて来た事を臭いで実感し始めた。その臭いは、老いた母と同じ臭いだった。
焦ったドスファンゴは、恥を忍んで臍を噛み、己から雄にアピールを始めた。しかし、手遅れだった。
大きくなりすぎた灰被りを相手に、跨がり腰を振れる雄は居らず、妥協した身体ばかり大きな個体も、灰被りの気迫に
己に恥をかかせた役立たずの雄を灰被りは殺し続けた。その結果、雄は更に萎縮した。
繁殖できる時期は遠退き、灰被りは大いに荒れた。
──どうして!? なんで!? アアアアッ!!!
何時しか己に子供を産み育てる事ができないと気付いたドスファンゴは、怒や悲しみ、憎しみや嫉妬に狂い、目に付く全てを破壊する怪物と成ったのだった。
★オマケ
■主人公
・狩りや武器作成の知識は、物好きな友達とネット由来。とある友が狩ったり捕まえた獲物を運んだり、解体の手伝いをしていた経験から、四つ足の相手はそこそこ出来る。
・荒振るドスファンゴを灰被りと名付け、その処理方法を考える。灰被りの行動から「このままじゃマズいな」と殺意が高まる。
■家族たち。
・主人公の作る武器や罠に、父や弟は興奮しっぱなし。そして遂に「落ち着け!」と母に叩かれる。
・各々武器を手に、主人公の狩りを見守るつもり。
■灰被り
・泥濡れの
・右目と右の牙を斬られ、その痛みと焦燥と怒り、そして死の絶望から逃げる為、ひたすらに暴れ藻掻いている。
・その行動が、全ての地雷を踏み潰しているとはついぞ知る事はなかった。
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途中、ドスファンゴは雄しかなれないという情報見付けて泡吹いたゾ。