[壱]
人生というモノは時に妙な業を背負わせる。
これはそう言うお話だ。
なんの因果かわからないが、運命の悪戯によって俺が遭遇した摩訶不思議な出来事である。
それは世にも不思議な体験。見た事もない世界……いや、正確には違った形で知っている世界での……そう、それはまさに御伽噺のような世界での話だ。
俺も職業柄、不思議な事には慣れっこだが、コレばかりは首を捻りたくなるような出来事であった。まさに青天の霹靂である。
さぁそれでは始めよう。
おっと、その前に、自己紹介がまだだった。
まずは簡単に、俺の事を記す事にする。
名は
職業は、とある地域に代々続く観音堂の山主だ。早い話が寺の住職みたいなものである。ちなみに言っておくが坊主頭ではない。普通のやや短めの髪型だ。それと独身である。
この若さで山主になったのには勿論理由がある。それは、先代の山主である父が病で倒れたからだ。俺がその後を引き継いだという形である。
また基本的にお勤め内容は寺院と同じだが、我々は単立寺院なのでどこかの宗派に属しているわけではない。
まぁとはいえ、強いて言うなら密教系の宗派に近いだろうか。まぁそんなところだ。
だがとはいうものの、それは表のお勤めで、実は裏のお勤めも行っている。
裏の仕事はもっぱら
小さい頃から先代の山主である父に、呪術や武術に加えて降魔業も習っていたので、そういう摩訶不思議な方面には強いのだが、この体験ばかりは最早なんといってよいやらである。
さて、身の上話はこの辺にして、本題に入るとしよう。
その出来事に遭遇する事となったのは7月半ば。長かった梅雨も終わり、やや暑い日差しが降り注ぐ日の事であった――
当時、俺は降魔依頼があり、とある山中のダム湖へと愛車のSUVで来ていた。
緑豊かな山々に囲まれたダム湖だが、ここはつい最近、自動車事故が起きた場所であった。
ちなみに依頼内容だが、『夜になると、天使の姿をした美しい女の霊が現れ、そこを通る車が、霊に魅入られたかのように操作を誤ってダムへと飛び込んでしまう。至急何とかしてほしい』といったモノである。
早い話が除霊案件であった。
俺はこの時、別の案件を抱えていたので断るつもりだったが、依頼主が普段世話になっている方だったのもあり、付き合い上の都合で受ける事にしたのだ。
それはともかく、俺はダムの脇を走る国道の路肩に車を止め、事故現場の下見をすることにした。
車から降りると、ひんやりとした湿っぽい風が俺に纏わりついてきた。ダムの水温が低いせいもあるのだろう。日射しの割に外はやや肌寒かった。
風通しの良い紺色の
事故現場へと来た俺は、まずその様子を暫し眺めた。
舗装された道路にはブレーキ痕はない。
車が落ちたであろう白い金属製のガードレールは、大きくひん曲がり破られていた。そこには規制線の黄色いテープが施されている。
またその付近には綺麗な花束が供えられていた。どうやら死亡事故だったようだ。
ガードレールの向こう側は切り立ったかのような崖になっており、そこから先はダム湖となっていた。
周囲が緑豊かな木々という事もあり、静かに波打つ湖面は不気味なほど深い緑色を携えている。
ややおどろおどろしい雰囲気のする場所であった。
また俺の霊感的にも少し嫌な感じがする場所でもあった。
おまけに、なぜかわからないが、奇妙な霊的な気配も感じられたのである。
それはまるで水と油のように相反する気配が入り混じったかのようなモノであった。
(しかし……妙だな。今まであまり感じた事がないような霊気だ。もしかすると、今回のはちょっと厄介そうな案件かもしれない。それにしても、天使の姿をした女の霊ねぇ……初めて聞いたわ、そんな霊。事故った方々は天国からお迎えにでも来たってか。笑えん話だ。さて……場所はここで間違いなさそうだが、問題は肝心の結界をどこに仕掛けるかだな。依頼内容を見る限り、質の悪そうな悪霊だと思うから、不動結界で確実に悪霊を捕縛して浄霊するしかないだろう。ン?)
ふとそんな事を考えながら事故現場周辺を眺めていると、背後の山林の奥から妙な霊気の波動を感じた。
それは弱い霊気の波動ではあったが、確かに感じ取れた。
(なんだ、この妙な波動は……向こうの林から感じるが……さて、どうするか。霊気の感じからして、恐らく、ここで起きた事故と無関係ではないだろう。仕方ない……一応、降魔の道具を持って様子を見てくるか)
あまり気は進まなかったが、俺は車の後部座席にある降魔の道具が入った肩掛け鞄を手に取り、トレッキングシューズを履くと山林の中へと入っていった。
山の中はより一層肌寒いが、それよりも難点は、無節操に伸びた地面に生い茂る雑草や木々の枝葉だろう。
俺の衣服はゆとりのある作務衣なので、それらが引っかかってしょうがない。
途中で引き返そうかと悩んだくらいだ。
そんなこんなで、それらを掻き分けて暫く進んで行くと、ようやく開けた場所に辿り着いた。
(ふぅ……とりあえず、ひと段落着いたか。ん、ここは……広場か。にしては荒れ果てた感じだが……まぁいい。それはともかく、波動はこの辺りから発せられてるみたいだ……何が出るやら)
そこは木々の生えていない広場みたいな所であったが、地面は手入れされておらず、雑草が伸び放題となっていた。
日光を遮るモノがないので、ここだけ雑草が生き生きとしている。
また、広場の中心には昔何かが建っていたのか、朽ちた石垣らしきモノが残っていた。相当長い年月経っていそうであった。
まぁそれはさておき、霊気の波動はその辺りから感じる為、俺はそこへと歩を進めた。
石垣の中へと入ったところで、俺は立ち止まった。
そこには色褪せた狛犬の石像や、鳥居の土台らしきモノが残っていた。
ここから察するに、その昔、神社が此処にあったのだろう。
いや、それどころか、この広場自体がかつては小さな集落だったのかもしれない。
(神社跡ね……この辺りに人が住んでいる形跡はないが、かつてはここに集落があったのかもな。まぁいい。さて、霊気の発生源はここで間違いないようだが、この感じ……普通の悪霊とかではない。山の精か、恐らくその類のモノだろう。なにがしかの封印が破れかけているのかもしれない。なにか嫌な予感がする……とりあえず、慎重に調べるとしよう。下手な事をして、山の精に牙をむかれても困るしな)
俺はそんな事を考えながら、霊気の発生源と思わしき石垣の中心部へと静かに近づいた。
だがそこで異変が現れる。
近づくにつれ、キーンという耳鳴りがし始めたのだ。
そして更に異変が起きた。
なんと発生源と思わしき場所で青白い霧のようなモノが地面から吹き出し、渦を巻き始めたのであった。
(なんだこの青い霧の渦は……何かヤバい気がする。一旦引いたほうが良いか。って、なッ!?)
するとその時であった。
青い霧の渦が一気に大きく広がり、俺の方にまで到達したのだ。
尚も青い霧の渦は広がり続けてゆく。
俺の周囲は青い霧で視界が遮られるくらいにまでなっていた。
それに伴い、霊気の波動も強いモノへと変化していた。
(なんだこの霧は!? しかもこの強い霊気……ヤバいぞ。クッ、山の精を怒らせてしまったか……不味い。早くこの場を離れなければ……ん? なんだ一体!?)
次の瞬間、俺の眼前に猛烈な眩い光が襲い掛かってきた。
俺は袖で顔を覆い、光を遮った。
だがそれから
俺はそこで袖を下げ、周囲の様子を窺った。
だが視界に入るその景色を見るなり、俺は息を飲んだのである。
【なッ! そんな馬鹿な!?】
俺は思わずそう口に出していた。
なぜなら驚かずにはいられなかったからだ。
俺の視界に映るモノ、それは薄暗い中で浮かび上がるように見える無数の木々の姿であった。
空を見上げると木々の枝葉の隙間から夕焼けの空が見え隠れしていた。
つまり、俺は今、夕暮れ時の森にいるという事なのだ。
(馬鹿な……なぜ夕暮れ時の森に俺はいるんだ。さっきまで森の中ではあったが、太陽が燦然と輝く青空の下にいたはずだ……こんな馬鹿な事ある筈……)
気が動転する中、森の中で狼の遠吠えのような声が響き渡った。
どうやら、近くに野犬の類がいるのかもしれない。
まぁそんな事はさておき、今はこの状況をどう考えるかである。
(面倒な事になったな……間違いなく、あの青い霧の渦がこうなった原因だろう。チッ……しまったな。山の精を怒らせてしまったか……しかし、長い事、降魔業をしているがこんな事は初めてだ。もしかすると幻覚の可能性もある。とりあえず、周辺を調べてみよう……)
俺はまず幻覚を疑い、周囲を隈なく調べた。
これだけの幻覚を人に見せようと思うと、相当に強い霊力が必要だからだ。俺のように呪術に長けた者なら、尚の事である。
だがしかし、その痕跡を見つける事はできなかった。
それだけではない。土や草木の手触りやニオイまでが物凄くリアルに感じられ、木の枝を折る事も出来たのである。
勿論、折った音もリアルであった。現実と遜色がないモノである。
(幻覚ではない……のか。どういう事だ一体……神隠しにでもあったというのか、この俺が……。しかし、今調べた感じだと……霊的な痕跡はない。参ったな……どこかに飛ばされたのかもしれない。この業界に長く身を置いてるが、どこかに転移したなんて話は聞いた事もない。だが、そういう事もあるのかもな。超常現象は当たり前の業界だし。とはいえ、あまり考えたくはないが……。仕方ない、とりあえず、スマホで現在位置を確認しよう)
俺はスマホを手に取り、位置を確認した。
すると、残念なお知らせがスマホ画面に映し出されていた。
(はぁ……電波とGPSは圏外か。たぶん……森の中だから電波が届かないんだろう。さて、これからどうするか……)
溜息が出る展開だが、俺は状況を整理する為、その場で立ち尽くし、色々と考えた。
だが妙案は浮かんでこなかった。
もうこの現状を受け入れて進むしかないようである。
(仕方ない。まずは現状を把握して、帰る道筋を探すしかない。もうすぐ夜になりそうだから、まずは早く森から出なきゃな。森を出てスマホも確認したいし。とりあえず、周囲を散策するとしよう。っというか、どこだよ、此処は。スマホが使えないってすごい不便……)
愚痴をこぼしながらもとりあえず、肌寒い夕暮れ時の森の中を俺は静かに歩き始めた。
歩き始めて暫くすると薄暗さに目が慣れてきたのか、木々の姿がはっきりと見えるようになってきた。これなら散策するのに不都合はないだろう。
まぁそれはさておき、森の中は人っ子一人いない。当たり前と言えば当たり前である。
野生動物の姿も確認できない。ただ、遠くで狼や鳥の鳴き声らしきモノは聞こえてくるので、何もいないというわけではなさそうだ。
そんな森の中を進み続けて暫くした頃、奇妙な気配が前方に感じられた。
とりあえず、俺はそこへと向かう事にした。
近くに来たところで、俺は物音を立てないよう静かに木陰から気配の正体を探る。
だが次の瞬間、俺は驚きのあまり目を見開いたのである。
なぜなら、水色の玉ねぎのような形をした化け物が数匹屯していたからだ。
それはまるで、ガキの頃に遊んだゲームに出てきたモンスターのようであった。
(なんだありゃ……ドラクエに出てきたスライムそっくりじゃないか。しかも意外とデカい。中型犬くらいありそうだ。物の怪系の降魔はあまりないから、これはこれで新鮮な光景だが……とりあえず、この場を離れるとするか。奴等からは友好的な雰囲気は感じられない。今は面倒は避けるとしよう……)
俺はこの場を静かに離れ、別の方角へと散策を再開した。
薄暗い中を当てもなく進んで行くと、木々の間から弱い光が見えるようになってきた。
その光の方へと向かい、周囲を警戒しながら俺は無言で進み続けた。
程なくして、光源へと辿り着いた俺は、とりあえず、木陰から様子を窺う事にした。
するとそこは丸太小屋であった。ログハウスのようなおしゃれな感じではない。見たまんまの丸太小屋だ。
両開きの窓が開いており、そこから蠟燭のモノと思われるユラユラとした明かりが確認できる。
また時折、西洋人と思わしき白人のおじさんが窓辺を横切っていた。
茶色い髪と髭を沢山蓄えた小太りな外見の男で、古代ローマ人のような質素な布の服を着ていた。
現代ではなかなかお目にかかる事の出来ない服装だ。
(妙な外人のオッサンが一応いるな。さて、どうするか……窓から挨拶するのもなんだし、とりあえず、正面玄関から挨拶するか。問題は言葉が通じるかどうかだが……というか、ここ日本だよね? 変な化け物いたけど、多分、日本な筈だ……多分)
そんな事を考えながら、俺は丸太小屋の正面玄関へと向かった。
その際、付近に積み上げられた丸太や材木が視界に入ってくる。
もしかすると、この家の主は木こりでもしてるのかもしれない。
それはさておき、玄関扉の前に来たところで俺は武骨な木製の扉をノックし、とりあえず、日本語で呼びかけた。
「すみません。どなたかおられませんでしょうか?」
暫くすると中から足音が聞こえ、玄関扉がギィィという錆びれた蝶番の音と共に開かれた。
扉の向こうには窓辺にいた先程のおじさんが立っていた。
ギロッとした目でこちらを睨んでおり、その右手にはなぜか知らないが鉄製と思われる斧が握られていた。
やや殺気立った雰囲気であった。
(え? なんで……斧持ってきたの? なんか殺気立ってない。もしかして、ヤバいオッサンなのか?)
嫌な予感がしたが、俺は気を取り直しておじさんに話しかけた。
「お休みのところ申し訳ありません。ちょっと道に迷ってしまいまして、此処がどこなのか教えて頂けるとありがたいのですが……って、え? ちょっ、ちょっと!?」
話している途中だったが、俺は思わず後ずさった。
なぜなら、このおじさんは斧を振り被ったからである。
生命の危険を感じたので、思わず後ずさったのだ。
おじさんは血走った目を向け、大きな口を開いた。
【此処がどこなのかだと! 馬鹿も休み休み言えってんだ! こんな飯時に何しに来やがった、この人に化けた魔物ガァァァ!】
そういうや否や、おじさんは俺の脳天に目掛けて斧を振り下ろしてきた。
俺は後ろに飛び退き、間一髪で斧を避けた。
空を斬った斧はそのまま地面に突き刺さる。
フルスイングだったので、確実に殺そうとしている迷いのない攻撃であった。
俺の背中に、嫌な冷や汗が流れ落ちる。
【ノァァァ! ちょ、ちょっと! いきなり何すんですか! 俺は人間ですよ! 魔物じゃない。つか、なんなんだよ、いきなり!】
【黙れ魔物がァァ!】
おじさんは問答無用とばかりに、また俺へと襲い掛かってきた。
そして俺はというと、そんなおじさんを見て、一目散に森の中へと駆け出したのであった。
(この木こりのオッサン、頭イカれてやがる。超怖ェェェ)と思いながら。
[弐]
木こりの奇襲を逃れた後も尚、俺は当てもなく森の中を彷徨い続けていた。
かれこれ1時間は歩き続けただろうか。
森の中はかなり暗くなっていた。夜の一歩手前といったところだ。
(あ~あ……暗くなってきたな。森で野宿は勘弁だぞ、ったく。それはともかく……あの木こり、日本語喋ってたな。ということは、ここは日本のどこかなんだろうな……まぁいいや、そのうちわかるか。にしても……この森、どんだけ広いんだよ。いい加減歩き疲れたぞ。もしかして、絶賛遭難中なんか、俺……ン?)
もうほとほと嫌になりだしていたそんな頃であった。
俺は歩きながらも、奇妙な霊気の波動を感じとったのである。
(なんか向こうから妙な霊気を感じるな……行ってみるか)
他に目ぼしい手掛かりはないので、俺はその波動を辿って進むことにした。
すると程なくして俺は、奇妙な石像を発見したのであった。
霊気の発生源はここで間違いようだ。
その石像は日本でよく見かける地蔵のような大きさで、女神を象ったモノであった。
だがその姿が異様であった。
なぜなら、石像自体が鋭利な刃物で無残にも両断されていたからである。
俺は腰を下ろし、両断された女神像を近くで見た。
(この石像に残っている霊気の波動……我々が使う人除けの結界術と似ているな。恐らくは、何らかの結界の要となっていたモノの1つなのだろう。それと、斬り口が新しいところを見ると、何者かがつい最近、その結界を強引に破ったようだ……さてどうするか)
俺はそこで、石像の奥に広がる森へと視線を向けた。
(何が出てくるかはわからんが……とりあえず行ってみよう。今は状況を把握しないといけないからな)
そして俺は、石像の奥に広がる森へと歩を進めたのである。
暫くすると幾つかの明かりが見えてくるようになった。
この感じから察するに、恐らく、集落があるのかもしれない。
俺はその明かりへと向かい歩を進める。
だがその時、野太い男の声が前方から発せられたのであった。
【おい、貴様、そこで何をしている!】
その直後、木陰から武装した男2人が行く手を阻むかのように現れた。
中世時代の西洋鎧に身を包む欧州系の外国人で、今にも腰に帯びた剣を抜きかねない雰囲気であった。
身体は俺よりも大きく、見るからに戦士といった感じだ。
首の太さから、中々に鍛え上げられているのが見て取れる。
だがそんな2人の姿は、俺からすると異様なモノでもあった。
こんな中世の武装は、コスプレ好きな奴等かエンタメ系でしか、現在ではお目に掛かれないからである。
(しかし、なんだコイツ等……流暢な日本語話す外人だな。ここで映画の撮影でもしてんのか?)
などと思いつつも、先程の木こりの件もあるので、俺はすぐに呪術を行使できるよう霊力を練っておくことにした。
その上で彼等に答えた。
「あのぉ……すいません。道に迷ってしまいまして、此処がどこか教えて頂けるとありがたいのですが……どこなんでしょうかね?」
すると2人の男は、首を傾げながら顔を見合わせた。
明らかに、何言ってんだコイツといった感じである。
「また道に迷った奴か。夕べの銀髪の男といい……妙な日が続くな」
「ところでアンタ、森の中で一体何をしてたんだ? 武器も装備してないし、それに初めて見る顔付きだ」
「この男、もしかするとソレッタの者じゃないのか。あの国の民と顔立ちが似てるよ」
「そういや、そんな感じだな」
男はそう言って俺をマジマジと見た。
2人の会話が意味不明だったのは言うまでもない。
彼等の会話についていけないので、俺は適当な理由をつけてもう一度訊いてみた。
「あのお話し中に申し訳ないんですけど、此処どこなんですかね? 山菜取りに入ったらわかんなくなっちゃったんですよ」
「おいおい、このご時世に山菜取りなんてしてたのかよ。ったく、ここは名もないしがない村さ。どこでもないよ」
「どこでもない? もっとわかりやすく教えてくれませんか?」
「俺達はよそ者があまり好きではないんでな」
あからさまに『どっか行きやがれ、よそ者が』というのが見え隠れする口調であった。
まぁいい。閉鎖的な人々はどこにでもいる。
ピリピリしているところを見ると、恐らく、映画の撮影が押しているんだろう。
良いだろう。退散してやるとしよう。
「そうですか……では、1つお聞きします。この近くに宿と食事をとれるような所ってありますかね?」
「残念だがないな。この森を出ないと町はないよ。森の中で野宿するか、この村で休むかだ。で、どうする? 村の中に入るか?」
意外な申し出であった。
「良いんですか? あまり外部からの者は歓迎してないような口振りでしたが……」
「まぁしょうがない。迷った者を見捨てるわけにもいかんのでな。それに、アンタ以外にもう1人いるんだよ。道に迷った奴が」
「そうなんですか。お心遣い感謝します」
「だが、この村はちょい訳ありなんでな。俺達の指定する場所以外は出回らないでくれ。それが村に入る条件だ」
「それで構いませんよ。よろしくお願いします」
多分、映画の撮影してるから邪魔すんなって事なんだろう。
まぁこの際なんでもいい。
とりあえず、一休みしたいところだったので、この条件を飲むことにした。
「じゃ、ついてきな。村の宿に案内してやるよ」
そして俺は男の後に続いたのであった。
ここが何の村かも知らずに――