[壱]
木こりのオッサンは俺の言葉を聞き、少し探るような目をしていた。
俺達の間に、やや張り詰めた沈黙の時が過ぎてゆく。
だが程なくして、木こりのオッサンは肩の力を抜き、地面に横たわる丸太に腰掛けると、静かに口を開いたのであった。
「ふん、息子の事か……話すつもりはねぇ……って、言いたいところだが、命の恩人だし、話してやるよ……だが、1つだけ忠告しておく。これを聞いた事によって、お前さん達にどんな不幸が訪れようとも……文句は言うなよ。その覚悟があるのならば、聞かせてやろう」
ローグさんとシンシアはやや強張った表情をしている。
フォルスは静かに聞き耳を立てていた。
オッサンはそんな俺達を見ながら、捲し立てるように強い口調で続けた。
「いいか、これはそう言う話なんだよ。悪いが、責任が持てんのでな。俺がなぜ外の者達と関わらず、ここで1人住み続けてるのかわかるか? これは……贖罪であり、そう言う不幸を防ぐ為でもあるんだよ。軽々しく話すような事じゃねぇんだ。これは息子の事を話すのが嫌だからじゃない。もっと……別の深刻な理由があるからだ……」
木こりのオッサンの重い言葉を聞き、3人は少し萎縮していた。
フォルスは弱々しい表情で俺に視線を向ける。
「ジュライさん……この方はこう言っておられますが、どうしたらいいんでしょうか?」
「聞くか聞かないか、それは自由だが、俺は話を聞くべきだと思うけどね。特にフォルス……お前はな。ちなみに、俺は聞く気満々だよ」
これは嘘偽りがない本音だ。
ゲームで語られてない話を聞けるので、興味津々である。
それに……恐らく、天罰は起きないだろう。
ゲームにおける同時期の状況と今の状況を考えると、マスタードラゴンも俺達に天罰を落とすほどの余裕はないはずだ。
今はデスピサロの動きや黄金の腕輪の行方のほうが気になってるはずだろうし、尚且つ、コイツ自身が太古の昔に封印したという地獄の帝王の事も気になっているに違いない。
世界を見通すという力があるなら、今のアッテムト鉱山の様子も恐らく把握してるはずだからだ。
まぁあくまでも、ゲーム知識と照らし合わせての推察ではあるが……。
「僕も聞きたいです……昨日の話もあるので、真実が知りたいんです」
フォルスは口を真一文字に結び、覚悟を決めた表情であった。
俺はそこで他の2人に視線を向けた。
「シンシアとローグさんはどうする? 俺達に無理して付き合う事はないから、好きにすれば良いとは思うけど」
2人は顔を見合わせ微妙な表情になったが、少し間を置き、ゆっくりと首を縦に振った。
「ここまで来たのだから……俺も聞かせてもらおう」
「私も聞きます。ちょっと怖いけど……」
2人は覚悟を決めたようだ。
俺はオッサンに言った。
「話は纏まりましたんで、続けてもらえますかね」
オッサンは諦めたように溜め息を吐いた。
「ったく……どうなっても知らねぇぞ。じゃあ話してやるよ……で、息子の何が知りたいってんだ?」
俺はフォルスをチラ見したあと、直球でリクエストした。
「では単刀直入に訊きます。息子さん夫婦の馴れ初めと、どうして息子さんが亡くなったのかを聞かせて頂いてもいいですかね。話したくない部分は無理に話さなくても結構ですから」
木こりのオッサンは少し憮然としながらだったが、頷くと静かに話を始めた。
「今から十数年前の話だ……俺と息子のツェインが山で木を切っていた時だった。空から人が俺達の近くに弱々しく舞い落ちてきたんだ。俺達は手を止め、そこへすぐに向かった。するとそこには美しい娘っ子が1人倒れていたんだ。その娘っ子は酷く傷ついていたが、まだ息はあった。だが……奇妙な事に、その娘っ子の背中には白く立派な翼が生えていたんだよ。しかも、片方の翼は酷く傷ついていた。そんな感じだから、俺とツェインはその時、御伽話に出てくる天女だと思ったよ。娘っ子は
木こりのオッサンはそこで一旦言葉を切った。
少し間を開け、話を続ける。
「で、まぁそんなこんなで俺達親子と娘っ子は、一緒に暮らし始めたんだが、息子のツェインと娘っ子は妙に馬が合ってな。それから暫くすると……まぁその、なんだ……そういう間柄になっちまってたのさ」
木こりのオッサンはそう言うと、お腹が出たようなジェスチャーをした。
まぁ要約すると、エッチして出来ちゃったということなのだろう。
これ系の言い方は世界が変わっても同じみたいだ。
「ツェインと娘っ子がそういう仲になっちまったもんだから、親である俺としても認めねぇわけにゃいかなかった。だから俺は込み入った事情には目を瞑り、ツェインの嫁として娘っ子を迎えることにしたんだ。その後、俺と息子夫婦は穏やかで楽しい時間を過ごしていたよ。華やかな生活ではなかったが、娘っ子も毎日が新鮮で楽しいと言ってたしな。俺もツェインが嫁さん見つけて子供も出来て、一端の男の顔になったもんだから、安心して仕事を任せられるようになってきた。死んだカミさんも喜んでるに違いねぇと思ってたもんさ。でも……そんな生活もそう長くは続かなかったよ……」
木こりのオッサンは目尻を下げ、表情が曇りはじめた。
辛い記憶を思い出してるのだろう。
「ある日のことだった。娘っ子のお腹もだいぶ大きくなってきた頃、白いローブを纏った初老の男が1人、家に尋ねてきた。話を聞けば、その男は娘っ子の知り合いだと言うもんだから、俺は会わせたんだが、そこで男が一言こう言ったんだよ。『裁きの日だ』とな。それを聞き、娘っ子は途端に青褪めた表情になった。その後、男は2人で話がしたいといい、娘っ子と一緒に森の中へと行ったのさ。だが、近くで話を聞いていたツェインは怪訝に思い、2人の後をそっと尾けて行った。そして暫らくすると……突然、空に真っ黒な雲が現れ……一筋の稲妻が森の中に落ちたんだよ。俺は胸騒ぎがしてすぐにそこへと向かった。そして……俺はそこで、黒く焼け焦げたツェインの無惨な姿と、付近の木に刻まれた警告を目にしたんだ」
木こりのオッサンはそこでガタガタと震えだした。
俺達の間に無言の時が過ぎてゆく。
話しにくそうな感じだが、ここで切られると気になってしょうがない。
つーわけで催促した。
「どんな警告だったのですか?」
「警告は……焼き印を押したかのように木の幹に刻まれていた。こんな内容だったよ『天空人と地上人は夫婦になれぬがさだめ。予期せぬ事だが、これも禁を破った報いである。許せ』とな。俺が知ってるのは……ここまでだ。これは天空の神からの警告だと絶望したよ。だから、今まで誰にも俺は話さなかったんだ。だが……罰を与えた神が俺は憎かった……でも、恐ろしかった。それだけだ……」
オッサンはそう告げるや否や、顔を両手で覆い泣きじゃくった。
悲しく重い空気が俺達の間に漂い始める。
3人に視線を向けると、かなり感情移入してたのか、沈痛な面持ちであった。
フォルスとシンシアに至っては、今にも泣きそうな表情である。
そんな悲しい話だが、腑に落ちない点があるので、俺は空気を読まず、訊いてみる事にした。
「そこにはもう誰もいなかったのですか?」
「ああ、いなかった。ツェインの亡骸だけだ」
「そうなんですか……でも、なんか妙ですね」
「妙? なにがだ」
木こりのオッサンは首を傾げていた。
ついでにフォルス達も。
「最初に男が言った『裁きの日』という言葉と、警告にある『予期せぬ事だが、これも禁を破った報いである。許せ』の部分です。今の話だと、息子さんはその2人の後を尾けて行ったそうですが、もしかすると、そこで何か想定外の事があったのかもしれませんね」
「想定外って、どういう意味だ?」
「それはわかりませんが、例えば……本来は女性が受ける筈だった罰なのに、息子さんが女性と子供を守る為に身代わりになった……とかね。まぁただの推測ですが。何れにしろ、息子さんが雷に打たれてしまったという事実には変わりはありませんけどね……」
「まぁ確かに……そういう状況だったなら、ツェインはそうするだろうな。本当にそうなら、俺も少しは納得がいくが……まぁいい。さて……俺が知ってるのはこんなところだ。満足したか?」
「ええ、満足しましたよ。ところで、ここにいる少年なんですが……貴方は何か感じませんか? 彼、実は天空人の血を引く地上人らしいんです」
俺はここで唐突にフォルスを指さした。
ある意味、ここからが本題だからだ。
すると木こりのオッサンは、フォルスに視線を向けた後、軽く微笑んだのである。
「お前さんが息子の話を聞かせてほしいって言った時、なんとなく気付いちまったよ。さっきそっちの小僧……いや、命の恩人にそんな言い方しちゃいけねぇな。そこの兄ちゃん見た時、声には出さなかったが、娘っ子と同じような髪の色をしてる上に、目や鼻はツェインにそっくりだったんでな」
どうやら、薄々ではあるが感づいてはいたようだ。
「まぁ確証はありませんけどね。でも、そうじゃないかと思って俺は彼を連れてきたんです」
「確かに証拠はねぇやな……だが、面影はある。ありすぎるくらいにな……兄ちゃん、名前と歳は?」
「僕はフォルスと言います。歳は17です」
木こりは少し微笑みつつ、空を見上げた。
「娘っ子のお腹にいた赤ん坊が生まれていたら、そんくらいの歳だな……そうか。両親はいるのか?」
フォルスは頭を振る。
「それが……つい最近、親だと思っていた方達から、本当の親ではないと言われました。なので、僕の本当の親は誰なのかわかりません。ですが、僕は天空人の血を受け継いでいるそうなんです」
「そういう事か……なるほどな。で、兄ちゃんは本当の親に会いたいのか?」
「ここに来るまでは僕もよくわかりませんでした。でも……おじさんの話を聞いて、今は会いたいと思っています」
「当てはあるのか?」
フォルスは頭を振る。
「そうか。まぁでも……進まねぇと何も始まらねぇわな。フォルスといったか、ブランカの隣国、エンドールへと向かってみたらどうだ? この間、木を買い付けに来た材木屋の男が言ってたんだが、そこに、すごくよく当たる占い師がいるらしい。そいつに訊いてみると、何か道が開けるかもしれねぇぞ」
「エンドールの占い師……ですか」
「その男が言うには、昔は船じゃないと往来が難しかったそうだが、今は海底トンネルが出来たお陰でブランカとエンドールは交流が活発になってるそうだぜ」
「そうなのですか。よく当たる占い師……行ってみたいです」
木こりの話を聞き、俺は少し安堵した。
実を言うと、俺は今まで5章だとは思っていたが、少し半信半疑だったからだ。
この話を聞く限り、トルネコが資金援助した洞窟は開通してるみたいである。
フォルスもやる気になったので、ようやく物語が動きそうな気配だ。
[弐]
俺達は木こりのオッサンと暫しの歓談の後、家の裏にある息子さんの墓をお参りをして帰ることにした。
その際、この壊れた家はどうするのかを訊いてみたが、「もともと自分で建てた家だから、自分で何とかするよ。気にせず帰りゃいい。まぁそのなんだ……また顔見せにこいや。旅の話でも聞かせてくれ」と照れながら言っていた。
まぁそんなわけで、本人の意向を尊重し、俺達は気にせず帰ることにしたのである。
だが、その前に少し気がかりな事があった。
実はさっきからずっと、アークデーモンがやって来た方角に、妙な霊気を感じていたからだ。
それは邪気と呼ぶべき良くないモノであった。
というわけで、俺は3人にその事を伝え、発生源へと歩を進めたのである。
やや長い道のりだったが、30分くらい進んだ場所にソレはあった。
「ココだな……」
そこは一見普通の森の中といった光景であったが、俺の霊感は別のモノを捉えていた。
「ジュライさん……ここに何かあるのか? 至って普通の森だが……」
ローグさんはそう言って周囲を見回した。
「そうですよね、何も見当たりませんよ」と、シンシア。
「でも、ジュライさんが何か感じるという事は、何かあるんですよね……たぶん、良くない事が……」
フォルスは恐る恐る周囲に目を向けていた。
色々と俺の呪術を見てきたので、フォルスもなんとなく、わかるようになってきたのだろう。
「良い勘してるな、フォルス。その通り、良くない事だよ。今見せてやろう」
俺は降魔の道具入れから小さな香炉をだし、地面に置いた。
それから、俺達一族が使う
龍泉香は瞬く間に燃え、白い靄のように辺りに広がる。
3人はライターを見て驚いてたが、靄が広がったところで、更に驚きの声を上げた。
「な!? こ、これは……」
「何よ、コレ!」
「ジュライさん、これは一体……」
3人が驚くモノ……それは、白い靄に映り込む直径3メートルはありそうな螺旋状の黒い影であった。
黒い影は今も絶えず螺旋を描き続けている。
その様子は不気味の一言であった。
この龍泉香は龍穴の正確な場所を知る為に使うのだが、同時に、どういう性質のモノかも知る事ができる。邪気を含む霊気は黒くなるのだ。
「やはりな……龍脈に乱れがあったか。これは龍穴と呼ばれるモノだよ」
「リュウケツ?」
「大地の霊力……いや、ここでは魔力と言った方が良いか。とにかく、それが噴き出る所の事さ。まぁこの龍穴は本来のモノではなく、龍脈の乱れによって漏れ出た不完全なモノだがね。あの魔物は恐らく……ここから来たのかもな……禍々しい邪気を感じるし」
そして、ここは同時に、俺がこの世界に来た場所でもあるのだろう。
夕暮れ時で薄暗かったが、辺りの景観になんとなく見覚えがあるのだ。
まぁこれは勘としか言えないが。
(チッ……嫌な予感がする……俺がこの世界に来たのは恐らく、この龍脈の乱れが関係してるに違いない。しかも、世界樹の話じゃ、地の底奥深くに穴が開いてるみたいな事を言ってたしな……それが本当なら、この龍脈の乱れも無関係とは言い辛い。ああ、もう……こんな変な世界で、こんな面倒勘弁してほしいわ。物が無いから、取れる手段が少なすぎるやんけ……)
まぁ愚痴が言いたくなる展開ではあったが、まずはこの乱れを塞ぐ必要があるので、俺はみんなに手伝ってもらう事にした。
「フォルスにローグさん、あそこにある大きな石ってココまで運べますかね?」
俺はそう言って、近くに見える一抱えはありそうな大きさの小岩を指さした。
「それはいいが、何をするつもりだ?」
「この龍穴を塞がないと、またあんなのが現れる可能性あるんで、その岩を封印石にして龍脈の流れを戻そうと思うんです。その方が良いですよね? しなくていいなら放っておきますけど」
3人は俺の言葉を聞き、生唾を飲み込みながら、ブンブンと無言で頭を左右に振った。
「じゃあ、始めましょうか」
そして俺達は作業に取り掛かったのである。