DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv12 砂漠の宿屋

 

 

   [壱]

 

 

 モンバーバラの姉妹と合流した俺達は、とりあえず、さっきローグさんに教えてもらった宿屋兼酒場へとやってきた。

 そこで俺達はチェックインを済ませ、酒場でこれからの事について話をする事になったのである。

 ちなみにローグさんは、占いでのいざこざの後、そこでお別れした。

 バタバタした騒がしい中でのお別れだったので、あまり悲しさというのは無かったが、フォルスやシンシアも変に悲しみを引きずる事がないので、却ってよかったのかもしれない。まぁそういう事にしとこう。

 それはさておき、この酒場内はかなり活気にあふれていた。

 やや雑然とした小汚いところだったが、王都の酒場なだけあり、幾つも並ぶ丸テーブルには沢山の客が集い、酒と料理を楽しんでいた。

 まぁそれでも今はまだ日が明るい事もあり、それなりに席は空いていたので、俺達は適当にその辺のテーブル席に着いたのである。

 全員が腰掛けたところで、まずマーニャが陽気に話を切り出した。

 

「さっきはごめんねぇ、占いの最中に乱入しちゃって。まさか勇者様達が来てるなんて思わなかったのよ。謝るわ。今、料理と酒を頼んできたから、ゆっくりいきましょ。さて、ええっとじゃあ、まずは自己紹介から行こうかしら。私はマーニャよ。モンバーバラで踊り子してたの。あと魔法も得意よ。よろしくね」

 

 次にミネアが俺を一睨みした後、自己紹介を始めた。

 

「私は占い師のミネアです。マーニャの妹になります。私達姉妹は、勇者様と共に暗黒の力に対抗すべく運命づけられた者。これからよろしくお願いします」

「僕はフォルスと言います。僕の旅の目的は勇者になる事ではありませんが、こちらこそよろしくお願いします」

「私はシンシアです。よろしくお願いします」

 

 次は俺の番だ。

 俺はチラッとミネアを見た。

 めっちゃ睨んでたのは言うまでもない。こわっ。

 まぁいい、少しは丁寧に自己紹介くらいしとこう。

 

「俺はジュライと言います。恐らく、そちらのミネア様が仰られた【導かれし9つの光】とは全くの無関係かと思いますが、よろしくお願いします」

 

 するとミネアがムスッとしながら無言で、水晶玉をテーブルの上に出してきたのである。

 俺に仕返しするつもりなのかもしれない。

 

(なんだ急に……コイツ、まさかとは思うが……またここで占い勝負を始めるつもりか。そんなに言い当てられたのが悔しかったのかよ……ったく、めんどくさい女だな……)

 

 とりあえず、俺はミネアに訊いてみた。

 

「あの……なぜ水晶球を? まさかとは思いますが、ここで占いを始めるのですか?」

「ええ、そうです。特別に無料で、貴方を占って差し上げましょう。導かれた者かどうかすぐわかりますから」

「いえいえ、結構ですよ。絶対に違うと思いますので」

「何を仰います。こういう事ははっきりしときませんと。では……」

 

 ミネアはそう言うや否や、問答無用とばかりに水晶玉に手をかざし、占いを始めた。

 

「大きな優しい光が見えます……この大きな光は1つの小さな光を照らして包み込み……小さな光を大きく成長させ……その光の元へと1つ、また1つと、8つの光が集い……て、え? まさか……そんな事……」

 

 そこでミネアは驚いたように水晶玉から顔を上げ、俺に視線を向けたのだ。

 ミネアは俺をジッと見つめたまま、暫し無言であった。

 

(コイツ……わざとこんな事してるんじゃないだろうな。俺を慌てさせるために……)

 

 これ以上、占いに付き合うのも馬鹿らしいので、俺は彼女に言った。

 

「あの、どうかしましたか? 何か面白い未来でも見えたんですかね。まぁ別に言わなくても良いですよ。未来は常に変化するモノですから」

「まず最初に……これだけは言っておきます。貴方は間違いなく9つの光の1つです」

「またまた御冗談を」

「いえ……これは冗談ではありません」

「まさか、この俺が……導かれし者だとでもいうのですか? 俺は絶対に違いますよ」

「これは本当です! 私は嘘なんて吐いてません!」

 

 ミネアはそう言うなり、テーブルをバンと叩き、勢いよく立ち上がった。

 なんか知らんが、怒り気味である。

 俺もつられて、思わず声を荒げてしまった。

 

【俺は……導かれてなんかいない! 俺はただ迷い込んだだけじゃ!】

 

 するとミネアは怪訝な表情になり、俺に顔を近づけてきたのであった。

 何なんだ、この女は……。

 ミネアはそこでクスリと笑った。

 

「なんですか? 俺の顔に何かついてるのですかね?」

「あの……もしかして、泣いてるんですか?」

「な、泣いてねぇよ。さっき欠伸したからだ。ふあぁ」

 

 俺は服の袖で涙を拭き、思わず欠伸をしながら誤魔化した。

 どうやら不本意にも、少し涙が出てしまっていたようだ。 

 多分、この理不尽な展開に対する悔し涙が出てきたのだろう。俺も人の子って事だ。

 この涙はホームシックとかそんなのではなく、『なんで俺が、ドラクエ世界の騒動に深く巻き込まれなきゃいけないんだ』という、苛立ちから来たものに違いない。

 フォルスを救ってからこうなったわけではあるが、元を正すと、ダム湖の依頼が原因の為、あの依頼を断るべきだったという後悔の念もあるのだろう。

 怒りと悔しさの入り混じった、なんとも説明の難しい涙だ。ムキー!

 

「それは良かったです。大の大人が、こんな事で泣いたのかと思いましたわ」

「だから泣いてねぇって! 欠伸ですよ、欠伸」

「ふふふ、そういう事にしときましょう」

 

 言葉は丁寧だが、あからさまに俺への敵対心が見え隠れするやり取りであった。

 フォルスとシンシアが心配そうに俺を見ている。

 近くのテーブルにいる客達もコッチをチラチラと見ていた。

 ちょっと気分が高ぶり過ぎたようだ。

 俺はとりあえず、みんなに謝ることにした。

 

「すまない……らしくないな。ここ最近、正体不明のなにかに自分の運命をかき乱されてる気がして、少し感情的になってしまったようだ。せっかくの親睦の場なのに、すまない。さ、どうぞ、続けて。気楽にいこうか」

「そうね。私も少しムキになり過ぎてたかもしれません」

 

 ミネアも少しは申し訳無さそうであった。

 まぁ俺が火種作ったようなもんだし、これに関しては流すとしよう。

 とはいえ、占い結果は認めるわけにはいかないが。

 まぁそれはさておき、俺達がそんなやり取りをしていると、そこで酒場の給仕達が料理が盛られた皿や酒を次々と運んできた。

 この辺りで取れたであろう野菜や肉の炒め物に、果物やスープにパンといった物がテーブルに並べられてゆく。

 続いて金属製のジョッキが各々の前に置かれていった。

 ジョッキに注がれている液体の表面には、炭酸のような気泡があり、ビールみたいな香りとアルコール臭を放っていた。

 たぶん、これが酒なのだろう。その昔、中世欧州で飲まれていたという、常温発酵のビールであるエール酒に近いモノなのかもしれない。

 料理が出揃ったところで、マーニャは仕切り直しとばかりに柏手を打った。

 

「ハイッ、それじゃあ、料理も来た事だし話を戻しましょうか。これからの事なんだけど、どうするといいかしら?」

「姉さん、それに関してはフォルス様にお任せしましょう」

「それもそうね。これから先、私達を養っていただく方だし、お任せしましょ。私達姉妹は貴方様と共に、どこへでもついて参りますわ」

 

 マーニャはそう言って、嬉しそうにキャピキャピしながら両手を合わせた。

 しかしまぁ、なんつー女だ。

 ゲーム同様、主人公の事を寄生先と思ってるようだ。

 とはいえ、コイツは目の保養になる。

 旅の間、この寄生嬢には鑑賞用で役に立ってもらうとしよう。ヒュー。

 スタイル良いし、際どいし、うっかり胸揉んでも笑ってスルーしてくれそうだし。まぁそんな事はするつもりは今のとこないが……。

 

「姉さん……もっと他に言い方はないの」

 

 ミネアは額に手をやり、ゲンナリとしていた。

 

「だって事実じゃない。もう私達の懐はそんなに暖かくないんだし」

「全部、姉さんのせいじゃない! 私が占いで稼いだお金、ほとんどカジノにつぎこんで使い果たしてしまうんだから」

 

 フォルスとシンシアはこの姉妹のやり取りを見て、口元をヒクつかせながら俺に視線を向けた。

 ドン引きしてるのだろう。

 するとそこで、シンシアが俺に耳打ちをしてきたのである。

 

「あの……ジュライさん。以前話してくれた占いの冗談話に、この方々みたいなのがあった気がするんですけど……」

「よく覚えてたね。それがどうかした?」

「まさかとは思いますが……あの占い……本当の話なのですか?」

 

 俺はスマイリーに返事をした。

 

「あれはただの冗談さ、気にするな。今回のは、たまたまね」

「そ、そうですよね……たまたまですよね」

「そうたまたまだ。稀によくある事さ。ン?」

 

 俺達がそんな会話をする中、フォルスは眉間にシワを寄せ、難しい表情をしていた。

 気になったので訊いてみる事にした。

 

「どうしたんだ、フォルス? 難しい顔して」

「あの……これから我々はどうすると良いんでしょうか。マーニャさんとミネアさん達と合流したのはいいですが、これからどこへ向かえばいいのか……それがわからなくて」

「そうねぇ……でも確か、北にあるエンドールの関所の旅の扉は、サントハイムの兵士が閉ざしてて、今は使えないとか聞いたことあるわ」と、マーニャ。

 

 そういや、そんな施設があったのを俺は思い出した。

 

「じゃあ、北は無理そうですね」

「西と南は海だし、東も砂漠があって大変らしいわよ。トルネコという商人がキャラバン隊と共に、東の砂漠を超えたって以前聞いた事あるから、抜ける方法はあるみたいだけど。というか、なんだったらミネアに占ってもらう? まぁでも、この子、時々嘘を言うときもあるけどね」

「え、噓を?」

 

 フォルスは驚きの表情でミネアを見た。

 

「姉さん、人聞きの悪い事言わないでよ。それに、占いというのは、相手が言ってほしい事を言ってあげる人生相談みたいな面もあるんです。多少、事実とちがっていても、お客さんが前向きになるなら、ウソも方便というわけですよ。それはともかく、私が占ってもいいですが、占いだったらこの方も得意だそうですから、お任せしてみたらどうですか?」

 

 ミネアはそう言って俺を指さした。

 

「はぁ? なんで俺が?」

「得意なんですよね? 先程、私の事をなかなか的確に当てられましたし。まぁ事前に、私達姉妹の事を調べていたからかもしれませんが……」

 

 やけに突っかかって来やがる。

 ミネアは根に持つタイプなのかもしれない。

 挑発に乗るわけじゃないが、まぁいいだろう。

 実を言うと、俺もこの後、どう進めばいいのか忘れているところもあるのだ。多分、人間不信の男がいる宿屋に行くことになるんだとは思うが……。

 まぁそれはさておき、本業ではないが、真面目に占いをしてやろうじゃないか。

 

「いいよ。占って進ぜよう。フォルス、お前の髪の毛何本か貰うぞ」

 

 俺は問答無用でフォルスの髪の毛をむしった。

 

「あ痛たた! なんで僕の髪の毛を」

 

 フォルスはやや涙目になっていたが、俺は構わずに続けた。

 

「お前の進むべき道が、このパーティの進むべき道なんだ。文句言うな。さて、ではいこうか」

 

 俺はそこで道具入れから、ハンカチサイズの布を取り出した。

 これは簡易な布製の遁甲盤(とんこうばん)である。まぁとはいっても、風水で使う普通の遁甲盤ではない。

 真紋の一族が扱う術具の1つで、僅かな霊気の流れを探る為に用いるモノだ。

 使いようによっては占術にも使えるのである。

 別名、真紋式の遁甲盤というやつだ。

 某有名学習塾の名前みたいだが、そこは気にしないようにしよう。

 

 話は変わるが、こういった呪術式を物に付加して使う術や手印を結ぶ呪術の総称を真紋の一族では秘紋修咒(ひもんしゅうじゅ)の法、通称で秘紋法(ひもんほう)という奥義としている。

 摩利支天浄魔光剣や山奥の村で使った八門の不動結界、それと符術なども秘紋法の一種だ。

 まぁ後者の術にはマントラを用いる唱紋修咒(しょうもんしゅうじゅ)の法といったモノも組み合わせて行使するが、俺が使う呪術は一応、全て一子相伝なので、門外不出の呪術奥義となるモノである。

 というわけで話を戻そう。

 

「へぇ……変わった占いをするのですね。初めて見ます」と、ミネア。

 

 占い師というだけあり、少しは気になるのだろう。

 

「この占術は、嘘か真か……古の軍師が百戦百勝の兵法として用いたという占術、奇門遁甲(きもんとんこう)の系譜なんだが……って知るわけないですよね。まぁそれはともかく、やってみるとしましょうか。うまくいけば、霊的な導きが得られるでしょう」

 

 俺はむしったフォルスの髪を近くにあった花瓶の水で濡らし、遁甲盤の上に掲げた。

 それから霊圧を少し上げて手印を結び、髪を絞った。

 指圧により、濡れた髪から雫が滴り、遁甲盤の上にポタポタ落ちてゆく。

 そして、俺は滴ったの水の流れを暫し眺めたのであった。

 水は意志を持ったかのように移動を始める。

 占いの結果は予想通りのモノであった。

 

「これを見る限り、東だな。ブランカ城の更に東……そこにお前を待ち受けるモノがあるのかもしれない」――

 

 

   [弐]

 

 

 翌日の早朝、朝日輝く時間帯に、俺達はシンシアのルーラでブランカに降り立った。

 それから東へと進路を取り、その日の夕刻、俺達は岩山に囲まれた砂漠の宿屋へと辿り着いたのである。その先には広大な砂漠が広がるのみで、砂の海といった感じだ。

 ちなみにだが、もう見るからに寂れた宿屋であった。

 石造りの平屋の建物で、砂が風で飛んでくるのか、至る所に砂がこびり付いている。その内、砂で埋もれるんじゃないかといった感じだ。

 まぁそれはさておき、後はこの先を進むだけだが、結果から言うと、ゲーム同様、俺達は砂漠には進めず、足止めを喰らう事となった。

 血気盛んなフォルスが、なんとか進もうと砂漠に足を踏み入れてみたが、細かな砂に足を取られて、前に進むのは難しかったのだ。

 ゲームと同じく、徒歩での移動は厳しい砂漠なのであった。

 

「あ~あ……これじゃあ、進めないわね。どうするのよ?」

 

 マーニャはそう言ってブーたれた。

 

「これでは進めませんね。かなり足を取られます。宿屋のおじさんの言う通り、歩いては無理ですよ」

 

 フォルスはそう言いながら、ブーツを脱いで中に入った砂を出していた。

 かなり砂が入ったようだ。

 俺をそれを見て、入らなくてよかったと少し安堵してるところである。ナイスガッツ、フォルス!

 と、そこで、後ろにいる恰幅の良い宿屋の親父が、ほら見ろと言わんばかりに口を開いたのである。

 

「な? 進めないだろ。この先は、砂に負けないくらい足腰の強い馬じゃないと無理なんだよ。人の足じゃ、とてもとても」

「ねぇおじさん、何か良い手はないの?」

 

 すると親父は裏手の建物を親指でさし、溜息を吐きながら話し始めた。

 

「まぁない事もないが……今は難しいやな。息子のホフマンが馬と馬車を管理してんだが、塞ぎ込んじまっていてな。この間も馬を貸してくれって旅人が来たんだが、全然取り合わないんだよ。俺も参っちまってんだ。東にある洞窟に行って、パトリシアが血まみれの息子を乗せて帰ってきてからこうなったんだが、なんであんな事になったんやら」

 

 ゲームと変わらず、人間不信は継続中のようだ。

 まぁとはいえ、話が進まんので、俺が交渉を買って出る事にした。

 

「じゃあ、息子さんを説得してみても良いですかね?」

「まぁ好きにすりゃいい」

「じゃあ行くぞ、フォルス」

「はい」

 

 俺とフォルスは早速、裏手の建物へと移動した。

 他の皆も俺達についてくる。

 俺は玄関扉をドンドンと力強くノックし、大きな声で呼びかけた。

 

【ホフマンさん、お話があるのですが】

【帰ってくれ……誰とも話したくないんだ! さっさと帰ってくれ!】

【ホフマンさん!】

【帰れよ! 帰ってくれ!】

 

 かなりの拗らせっぷりであった。

 

(あれ……なんかゲームより酷くなってないか。こんな拗れてたっけ? もう少し会話できてたような)

 

 こうなったら強行突破しかないだろう。

 

「はい、わかりました。では父君より令状を取りましたので、入らせていただきます」

 

 俺は空気を読まずに扉を開き、不法侵入した。

 すると中には、紫のバンダナを頭に撒き、紫色の衣服を着た20歳くらいの青年が背中を丸めながら、地べたに体操座りで小さく萎んでいたのである。

 青年は俺達を一瞥すると屈むように頭を押さえ、大きな声を上げた。

 

【なんで、帰れって言ってるのに入ってくるんだよ! 帰ってくれ! もう嫌だ、誰も信じない! 帰ってくれ!】

 

 俺とフォルスは、そんな青年の前へとゆく。

 俺はそこで話を切り出した。

 

「貴方に話があるんだが、至急、我々に馬と馬車を貸してほしいんだ。お願いできるだろうか」

「だから、帰れって言ってるんだよ!」

 

 かなりの拗らせニートっぷりだが、裏切りの洞窟に行くのはめんどくさい。

 というわけで、奴が気を引きそうなネタを思い出しながら、少々強引に交渉してみる事にした。

 

「貴方に拒否権は無い。馬と馬車を貸してくれ。貴方が我々に馬と馬車を貸してくれれば、世界を救った英雄の1人になれるぞ。というか、貸さないと世界が死ぬし、アンタもヒルタン老人に会えんし、俺も家に帰れんし、まぁ色々と大変な事になる。さぁ悪い事は言わない、貸すんだ。我々に貸せば、貴方はこの先、移民の街を造れるかもしれない。さぁ」

「え? ヒルタン老人……移民の街……って、なにわけの分かんないこと言ってんだよ! 世界を救うだなんて信じられるか! もう帰ってくれよッ!」

 

 チッ、押しが甘かったようだ。

 気持ちが一瞬傾きかけたが、トラウマが勝ったようである。

 するとそこで、ミネアが俺の肩をツンツンし、耳打ちしてきた。

 

「ちょっとジュライさん……貴方、もっと優しく言えないのですか? 彼は苦しんでるんですよ」

「だって、帰ってくれの一点張りだよ。会話が成立できてない」

「だからってあの言い方はないです」

「あ、でも見て、今度は勇者様が交渉するみたいよ」と、マーニャ。

「フォルス頑張って」

 

 シンシアは小さくそう言って、フォルスにガッツポーズした。

 フォルスはシンシアに頷き、仏のような表情になると、奴に語り掛けたのである。

 

「ホフマンさん……何か辛い事でもあったのですか? 僕でよければお話をうかがいます。何があったのですか?」

「え、君、聞いてくれるのかい?」

「はい」

 

 ホフマンは屈んでいた体を少し戻した。

 ニートからフリーターになった瞬間であった。

 

(やるな、アイツ。人たらしの才能あるわ。さすが天空の勇者や)

 

 ミネアも感心していた。

 

「見てください、彼を。あれがあるべき姿です。あれなら、話してくださいますよ」

「だといいけど」

 

 奴はフォルスに白状し始めた。

 

「実はな……俺も昔はアンタ達みたいに旅をしていたんだよ。ある時、世界で一番大切な宝物が隠されているという洞窟の噂を聞いたんだ。俺は友達二人で、その洞窟に入ったよ。でも一番の友達と思っていたのに突然俺を裏切って……。ちくしょう!」

 

 だが、奴は昔を思い出したのか、話すにつれ屈みはじめてゆき、またニートへとジョブチェンジしたのであった。

 

【もう誰も信じない! さあ帰ってくれ!】

 

 フォルスは俺達に向かい、ダメでしたと言わんばかりに無言で頭を振った。

 交渉失敗である。

 俺はミネアに言ってやった。

 

「はい、振り出しです」

「ま、まぁこういう事もありますわよ」――

 

 とまぁそんなわけで、俺達は結局、あの洞窟に行くことになるのであった。残念……。

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