DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv13 裏切りの洞窟

 

 

   [壱]

 

 

 ホフマンとの交渉に失敗した俺達は、砂漠の宿屋で一晩泊まり、翌日の早朝、彼が言っていた東にあるという洞窟へと向かった。

 洞窟はゲームと同じく、宿屋から東へ半日ほど進んだところにある山の中にあった。

 川に囲まれるという景観もゲーム同様である。

 この洞窟は小高い丘にあり、その入り口は綺麗に石を積まれて出来ていた。

 明らかに人為的な手が加わるモノであった。

 まぁそんなわけで、後は中へ入るだけなのだが、洞窟を前にして俺達は少し足を止め、そこでベースキャンプを張ることにしたのである。

 なぜなら、洞窟の入口に俺達が近づいた瞬間、『中に入れるのは4名まで……それ以上の者で挑んでも、財宝は手に入れられぬ』という文字が浮かび上がってきたからである。

 ちなみにだが、俺は見た事ない文字なので読めなかった。

 他の皆は読めているところを見ると、多分、この世界で一般的に使われている文字なのだろう。

 まぁそれはさておき、ここにきて不可解な縛り発動である。

 

(こんな演出あったっけ……まぁゲームだとほぼ強制的に3人しかおらんかったから、あんま関係ないけど。さて、俺はちょいと休ませてもらうかな。ここはフォルス達に頑張ってもらおう……ま、一応、多少の手助けはしてやるつもりだが)

 

 というわけで、俺は皆に言った。

 

「俺はここに残ってますんで、皆さんで行かれたらどうですか? 俺の見立てだと、罠の類はあるかもしれませんが、恐らく、魔物はそんなにいないと思いますんで」

「え? 一緒に行ってくれないんですか?」

 

 フォルスは不安そうに俺を見た。

 

「大丈夫だよ。強い邪気は感じないから、多分、そんな強い魔物はいないと思う。まぁこれも修行だ。旅の途中、休憩の合間に、基本的な足捌きと間合いの取り方を教えただろ。あれの練習だと思って行ってこい」

「そうですか……わかりました」

 

 フォルスはまだ不安そうだが、自信つける為にも行ってもらうとしよう。

 

「でも、ジュライさんいないと私が不安なんですけど……」と、シンシア。

 

 意外と心配性である。

 

「大丈夫だって。まぁとりあえず、助言を1つ与えるよ。ホフマンの証言から考えると、この洞窟は恐らく、疑心暗鬼にさせる類の罠があると思うから、どんな時でも冷静にな」

 

 続いてマーニャが不満そうに頬を膨らました。

 

「え~なんか、ずるいわ。私も残りたいわよ。私はジメジメしてる所と暗い所が嫌いなのよ。しかも洞窟って埃っぽいじゃない。肌によくないわ」

 

 お前の場合は、それ以前の問題だろ。守る気がない、その露出が多い服装をどうにかしろよ。

 などと思いつつ、俺は彼女に言った。

 

「でも、ここは勇者との親睦を深める意味でも、ぜひマーニャさんとミネアさんには行って頂いたほうが良いかと思います。俺はもう結構深まってますから」

 

 するとそこで、ミネアが俺に流し目を送ってきたのである。

 

「貴方……もしかして、自分一人だけ楽しようとしてませんか?」

 

 なかなか勘の鋭い女だ。

 とはいえ、もう休む気満々なので押し切らせてもらう。

 

「なんでそう思うかなぁ。俺はですね、勇者と行動を共にする時間を増やしていただいて、彼の考え方や行動を知ると共に、それを糧にして仲間同士の連携を深めてほしいから、そう言ってるんですよ」

「なんとなく、そんな気がしただけです。貴方を見ていると、本心は別のところにあるように見えたので」

「心外だなぁ。勘ぐりすぎですよ」

「私はどちらかと言うと、貴方の考え方や行動の方が気になりますけど……」

「それはあまり知らない方が良いですよ。俺はこの物語の主人公じゃないので」

「仰ってる意味が全く分かりません」

 

 どうやらミネアは、俺の事をあんまり信用して無いようだ。

 占い勝負の一件で、かなりネガティブイメージをもたれたようである。

 するとそこでマーニャが突然吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。

 

「プッ! アハハハ! ミネア、もう良いじゃない。ジュライさんも色々と考えがあるのよ」

「それはそうでしょうけど」

 

 ミネアはあまり納得して無いようだ。

 とはいえ、こんなやり取りしててもキリがないので、俺はフォルスに言ったのである。

 

「フォルス、それはそうと早く探索を終えないと、『世界で一番大切な宝物』とやらが手に入らないよ。俺も違う形で、皆を支援するからさ。早く行った方が良い」

「そうですね。わかりました、では皆さん、行きましょう!」

 

 そして、ようやく彼等はダンジョンへと降りて行ったのである。

 やれやれだぜ。

 

 

   [弐]

 

 

 フォルス達が洞窟の中に入ってから少し時間が経過したところで、俺は道具入れから呪符を1枚取り出し、霊力を籠め発動した。

 呪符は白い鳩のような鳥へと変化する。

 これは偵察用の式神呪符みたいなモノである。

 

(さて……それじゃあ、式を使って皆の様子でも見てくるか)

 

 俺は式神を飛ばし、洞窟の中へと向かわせた。

 式神から送られてくる洞窟の映像を見ながら、俺は手印をその都度結び直し、上下左右に式神を操縦する。

 巷で流行りのドローンレースさながらの行為であった。

 ちなみにだが、洞窟内部は思いのほか明るい。

 どうやら、外の光が少し射し込む仕様になっており、松明は必要ないくらいであった。

 おまけに、石積みで作られた灰色の壁や、古代ギリシャの神殿を思わせる丸い石柱などが幾つかあり、元は何らかの施設だった所のようだ。

 床や壁や天井には汚れやシミが沢山あり、相当な年数が経過しているのが確認できる。

 もしかすると、ここは洞窟というよりも、遺跡の類にカテゴライズする場所なのかもしれない。

 まぁとりあえず、中はそんな感じのところであった。

 そうやって洞窟内を見ていると、ある場所でフォルス達の慌てる映像が見えてきた。

 案の定、彼等はどうやら疑心暗鬼に陥ってるようである。

 

(おお、やってるやってる……自分と同じ姿のやつが出てきてテンパってるな。まぁしゃあないか。裏切り小僧達はドッペルゲンガーかと見紛うばかりの変装だし。モシャスか変化の杖でも使ってるのかもしれない。まぁでも、早く終わらせるために、ちょっとは手助けしてやるか……)

 

 俺は魔物と思われる奴等に軽く攻撃し、フォルス達に知らせてやった。霊気の質が人とまるで違うのでモロバレである。

 最初はフォルス達も訝しんでいたが、鳥が俺の仕業だと気づいたのか、魔物達に向かい攻撃を始めていった。

 それから暫らくすると、フォルス達は裏切り小僧をすべて倒し、宝箱の中から彫像を手にしたのである。そんなに大きな像ではない。片手で持てるくらいの小さな彫像だ。

 しかもその上、奇妙な彫像であった。

 それは、イエス・キリストのような出で立ちをした人の像で、その表情は満面の笑みを浮かべていた。奇妙というか気味が悪いというか……いや、趣味の悪い彫像である。

 とてもではないが信じれそうにない。

 しかし、他に何も見当たらない為、釈然としないながらも、彼等は来た道を帰り始めたのであった。

 その道中、彼等の会話が聞こえてきた。

 

「しかし大変でしたね。てっきり僕は、あっちがマーニャさんかと思いましたよ」

「私もわけがわからなくなって」

 

 フォルスとシンシアはそう言うと、疲れたとばかりに背伸びした。

 モンバーバラ姉妹もそれに同調する。

 

「そうなのよぉ! 私もどっちがフォルスか分かんなくなっちゃったわ」

「私はニセモノだとわかっても、戦うのに抵抗がありましたが、姉さんは平気だったのか、躊躇せずにフォルスさんに攻撃してたわね」

「仕方ないじゃない。殺らなきゃ殺られるんだから」

 

 ゲーム同様、裏切り小僧の術中に少しは嵌まったようだ。

 フォルスはこちらに視線を向けた。

 

「でもジュライさんのお陰で、魔物を見破るのがだいぶ楽になりましたよ」

「この鳥……本当にジュライさんの鳥なの?」

 

 マーニャはこちらを見た。

 

「たぶん、そうだと思います。以前、これと似た鳥を魔法で飛ばしているの見たことありますし」と、シンシア。

 

 アークデーモンの時に使ったのを覚えていたようだ。

 

「へぇ、そうなの。ていうか、魔法なのこれ? こんな魔法、聞いたことないんだけど」

「その辺は私もよくわからないんですけど……たぶん、そうじゃないかと」

「あの……そのことでお訊きしたいんですけど、ジュライさんは一体何者なのですか? お二人と、どのようにして知り合ったのかが少し気になるのですが……」

 

 ミネアは少し探りを入れてきた。

 俺をイジるネタでも探そうとしてるのかもしれない。

 

「僕とシンシアはブランカの北にある山奥の村で一緒に住んでたんですが、ジュライさんとはそこで最近知り合いました」

「え? 最近なの? 洞窟入る前、フォルスとの親睦は深まってるからとか言ってたのに。なんだ、最近か……騙されたわ」

 

 マーニャはそう言って頬を膨らませた。

 

「あまり悪く言わないで下さい。ジュライさんは私達の命の恩人なんです」と、シンシア。

「命の恩人?」

「はい、シンシアの言うとおりです。実は僕、天空の勇者の資質があるとかないとかで、魔物達に狙われる存在らしいのです。なので、そのために山奥で匿われていたみたいなんですが、ついこの間、その村がデスピサロに見つかって魔物の軍勢に襲われてしまって……」

「なんですって!?」

「よくご無事でしたね。しかも……魔族の王デスピサロに見つかるなんて」

 

 モンバーバラ姉妹は驚きを隠せないのか、目を大きくしていた。

 

「運が良かったんですよ。あの時、ジュライさんがちょうど村にいたので、魔物の軍勢から逃れることが出来たんですから。ジュライさんは本当に凄いんです。凶悪な魔物達を前にしても、全然怯みませんし、私達が知らないような武術と魔法に精通してますしね。デスピサロもジュライさんの罠に嵌って、かなり苛ついてましたよ。あの時のこと、私は感謝してもしきれません」

 

 シンシアは雄弁に語る。

 良い子だ、シンシア。

 でも、『あまり変な英雄譚を語らないでくれ』と思ったのは言うまでもない。後が面倒くさいからだ。

 

「そんなにすごいの? でも、全然そんな風には見えないけどね。勇者様に剣術を教えてるのは休憩中に見たけど、旅の途中の戦闘もあまりしないから」

 

 マーニャはそう言うと大きく背伸びした。

 

「ジュライさんは僕に経験積ませるためにそうしてるんですよ。それに、魔物といえど命を奪うのには少し抵抗があると言ってましたからね」

「そんな一面もあるのですね。他にはなにかないですか?」

 

 ミネアはまだネタ探しをするようだ。

 

「他にですか……う~ん、何かあったかな」

 

 するとマーニャがクスリと笑った。

 

「アハハ、ミネアはやけにジュライさんが気になるのね。ミネアが男の事でこんなに興味津々なの初めてみたわ。占いで何か気になることでもあったの?」

「ええまぁ……ちょっと気になることが」

「フゥン、そうなの。で、何?」

「それは……今は言えません。少し繊細な問題もありますので……」

「何よそれ、気になるじゃない。って、ようやく外ね。ああ、疲れたわ。やっぱり洞窟はいやねぇ」――

 

 とまぁそんなやり取りをしながら、4人は帰って来たのである。

 洞窟から出てきたフォルス達は、そのまま俺の所へとやって来た。

 俺はそこで鳥を掌の上に着地させ、式の術を解いた。

 その瞬間、フワッと紙切れに戻る。

 すると4人は驚きの眼差しを俺に向けた。

 

「あら、本当だったのね。あの鳥、ジュライさんの魔法だったんだ」と、マーニャ。

「式神と言うんですが、これで少しはお役に立てたかな。偵察にしか使えないから、あまり大した支援はできなかったけど」

「凄く助かりましたよ。お陰で、コレを手に入れることが出来ました」

 

 フォルスは笑顔で、あの奇妙な像を俺の前に出してきた。

 実物を見ると趣味の悪さは格別である。

 

「たぶん、これをホフマンさんは探してたんですよ。この像の下に、こう書かれてますから。『信じる心、それが世界でいちばん大切な宝物である。信じる者は救われる』って」

 

 俺はその像を手に取り、苦笑いを浮かべながら感想を述べた。

 

「しっかし……趣味の悪い像だな。あんまり救ってくれない気がするよ。どっちかというと、信じる者は足元を掬われるの間違いじゃないのか?」

「私もそう思うわ。信じる心より、金よ」

「姉さんはいつもそればっかりね」

 

 ミネアは額を抑える。

 マーニャらしい意見だ。

 まぁそれはさておき、ここにもう用はないので帰るとしよう。

 

「さて、それじゃあ、帰るか。あの拗らせ野郎のとこに」――

 

 

   [参]

 

 

 裏切りの洞窟から撤収した俺達は、その日の夜、砂漠の宿屋に到着した。

 ちなみにだが、旅の終盤になると周囲はすでに真っ暗だったので、マーニャのメラを種火に松明を灯し、俺達は帰ってきたのだ。

 ゲームのように、夜でも楽に移動はできないみたいである。こういうところはゲーム仕様でいいのに、と思ったのは言うまでもない

 まぁそれはさておき、俺達は疲れもあった為、宿で一泊することにした。

 そして、翌日の朝にホフマンのところへと向かったのである。

 俺はあの趣味の悪い像を片手に、扉を遠慮なくドンドンと叩いた。

 

【ホフマンさん! お話があるんですが! いるのはわかってます、5秒後に突入します!】

 

 すると以外にも、中から陽気な声が聞こえてきたのであった。

 

「ハイハイハイ、今開けるよ」

 

 扉は勢いよく開かれ、雰囲気の違うホフマンが外に出てきた。

 ホフマンは全然塞ぎ込んでる様子もなく、むしろ清々しいくらい爽やかな笑顔で俺達を出迎えてくれた。

 フォルス達も予想外だったのか、ポカンと開いた口が塞がらない様子だ。

 ホフマンは憑き物が落ちたような満面の笑みを浮かべ、勢いよく話し始めた。

 

「やはり君達か! 待ってたんだよ!」

「は? 待ってた? 君、なんか雰囲気違うくない」

 

 するとホフマンは地べたに両膝をつき、俺に向かって祈るように両掌を組んだのであった。

 

「ありがとう、貴方のお陰だ! 一昨日の貴方の言葉が妙に頭に残ってね。昨日一日色々考えていたら、目が冷めたんだよ。夢を思い出させてくれて、ありがとう!」

 

 ホフマンは立ち上がり、空に向かって大きく両手を広げると、ハイテンションで続けた。

 

「いやぁ……清々しい朝だよ! 新しい旅の門出にピッタリの日だ! 今日は私の新たなる歴史の記念すべき日になる! 私の名馬パトリシアと共に、君達も一緒に来てくれないか! さぁ行こう、いざミントスの地へ!」

 

 俺の知ってるホフマンではなかった。

 もはや別人である。二重人格を疑うくらいだ。

 俺達は誰一人として、ホフマンのテンションについていけなかった。

 

「……」

 

 シンとした静寂が暫し場を支配する。

 ホフマンはそれに痺れを切らしたのか、返事の催促をしてきた。

 

「どうしたんだい? さぁ行こうよ! ン?」

 

 と、そこでホフマンは、俺が持つ趣味の悪い像に視線を向けたのであった。

 

「なんだい、その気味の悪い像は?」

 

 俺はそれを聞き、ようやく言葉を絞り出すことができた。

 

「ホフマン君だっけ? 君に1つお願いがあるんだが……」

「ん、なんだい?」

「これで君を一発殴らせてほしいんだ、いいかな?」

 

 俺は趣味の悪い像を振りかぶった。

 するとミネアが振りかぶった腕を下ろしに来たのである。

 

「気持ちはわかりますが……今は我慢です」――

 

 その後、ようやく俺達は、砂漠への行軍を開始したのであった。

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