DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv14 古の戦士

 

 

 

   [壱]

 

 

 俺達は宿屋の先に広がる見渡す限りの砂漠を南に進んでゆく。

 あの後、ホフマンは意気揚々としながら、立派な白馬パトリシアに荷車を引かせて現れた。

 その馬は体格も大きい上に足も太く、筋肉質な馬であった。見るからに力強そうな馬だ。

 その代わり、サラブレッドのような俊敏性はなさそうであった。

 荷を引きながらこの砂漠を超えるには、これくらい力強さがある馬じゃないと難しいのかもしれない。

 ちなみにだが、御者はホフマンである。残りのメンバーは日除け付きの荷台にて、暫しの間、揺られることになるのだ。

 それはさておき、今日は快晴というのもあり、少し暑かったが、日除けのお陰もあり、直射日光であぶられる心配はなさそうだ。意外と快適である。

 また、馬車は砂の上を進むせいか、最初は意外と静かであった。

 だが、ある程度進むと砂地が浅くなるのか、少し揺れるようになってきた。

 ホフマンが言うには、砂漠の真ん中から下はそこまで柔らかくないそうだ。その為、馬車も揺れるそうである。一応、この辺りからは、普通に歩くことも可能らしい。

 とはいえ、魔物も同じ条件になるので、気を付けないといけないところだ。が、今のところは平穏である。

 

 俺は砂漠の景色を見ながら、水と食料を口に運んだ。

 やはり、喉は乾くので、定期的な水分補給は必須である。

 ちなみにだが、水は革製の水袋に入れてあり、食料はドライフルーツとクッキーのような食べ物だ。

 現実的な旅の携行食である。

 

(だいぶ南下したな……しかし、リアル冒険はキツイわ。おまけにこの砂漠、思ったより大きい。ゲームだとそんなに大きく見えなかったが……リアルは事情が違うみたいだ)

 

 街や城もそうだが、リアルドラクエ世界は位置的なものはその通りだが、規模は現実に即したものになっている。そこが、この旅を難しくしているところであった。

 

(リアルドラクエは40時間クリアとか絶対無理やな……まぁクリアするつもりもないけど。ン?)

 

 ふとそんな事を考えていると、ミネアと目が合った。

 向こうはジッと俺を見ていた。

 睨んでいる風ではないが、まだなにか文句があるのだろうか。

 訊いてみる事にした。

 

「どうしました、ミネアさん。俺、まだ涙でも出てますかね?」

「いいえ……出ておりません」

「なら、なにか気になることでも?」

 

 ミネアはゆっくりと頷いた。

 

「ええ……この間から少し気になっていることがあります」

「何でしょう? 答えられる事なら答えますよ」

「今はやめておきます。いつ敵が襲ってくるともわかりませんので。とりあえず、この先にあるアネイルという街に立ち寄った際にでも、ゆっくりお聞かせ願えれば……」

「そうですか。ではアネイルでお訊ね下さい」

 

 俺はそう言って、馬車の壁に背を預け、欠伸をした。

 

(ミネアのあの目……何か探るような感じだったな。たぶん、なにか納得できない事でもあるのだろう。ン?)

 

 ふとそんな事を考えていると、御者席からホフマンの大きな声が聞こえてきた。

 

【あわわわッ、皆さんッ、魔物です! 見た事ない、凄いデカいのが来ました!】

 

 どうやらモンスターが現れたようだ。

 フォルスは俺に視線を向ける。

 

「では行ってきます」

「ああ、無理はせんようにな」

「はい。では、シンシアにマーニャさんにミネアさん! 行きましょう!」

「わかったわ!」

 

 4人は馬車を飛び出していった。

 そして俺はというと、スペースの広くなった馬車で足を延ばし、一人ゆっくりと休むのであった。

 だがしかし、それはすぐに、中断を余儀なくされるのである。

 程なくして、魔物のモノと思われるドスの利いたデカい声が聞こえてきた。

 

【グへへへ! みぃつけた! こんな所に良い食い物がいるじゃねぇか! さそりアーマーは食い飽きてたとこだ! ヒャッハー】

 

 その直後、ドンという鈍い音と共に、苦悶の叫び声が辺りに響いたのである。

 

【キャァァ!】

【グアァァ! 何だこの化け物は!】

【なんでこんな化け物が、この砂漠にいるんだよ! まさかここ最近の旅人失踪の噂は、コイツが原因なのか!】

 

 皆の慌てる声も聞こえてきた。

 どうやら強い魔物が出たみたいだ。

 

(なんだなんだ一体……ゲームだと、そんなに強い魔物は、この辺で出ないだろうに……)

 

 俺は馬車から降り、魔物を確認することにした。

 だが次の瞬間、俺は口をあんぐりと開けて驚愕したのであった。

 

(はぁ!? ……マジかよ。なんでドラクエⅣにコイツがいるんだ……まさか、またアークデーモンみたいに迷い込んだ魔物じゃないだろうな……勘弁してよ、もう……)

 

 そこにいたのは、緑色の肌をした4頭身の寸胴巨人であった。

 4メートルはあろうかという上背と、大きな口から長く伸びた舌。そして、つるっぱげの頭とエルフのような長い耳。右手には先端に突起物が沢山飛び出た棍棒。そう……あの化け物である。

 

(なんでボストロールがここにいるんだよ……ったく。でも、不味いな……今のフォルス達じゃ無理だ。とはいえ、ここまで接近されてると、逃げようがない。仮に逃げれたとしても、すぐ追いつかれるだろう。仕方がない、俺が行くしかないか。しかし、どうするか……アークデーモンは悪魔そのものだったから降魔の要領で行けたが、コイツはちょっと毛色がちがう。あの不動結界じゃ、上手くいくかどうかわからん。しゃあない……近接の肉弾戦はあんましたくないが、直接、コイツの霊体にアレをかまして確実に動きを止めるしかないか……)

 

 俺の基本戦術は、敵に何もさせずに勝利するを信条としてる。

 降魔依頼は1人で行う事が殆どなので、こういう戦い方になるのだ。殴り合いはしたくないのである。

 まぁそれはさておき、俺は皆の元へと向かい、そこで指示をした。

 

【みんな下がれ! コイツはかなり強い。まだフォルスでは無理だ。ここは、俺が相手する】

【わかりました。みんな一旦下がろう】

 

 フォルス達は後ろへと下がる。

 俺はそこでボストロールと対峙した。

 

【グへへへ、また新しいのが来やがった。まぁいい、お前から食べてやろう。ウッヒッヒッヒ】

 

 ボストロールはそう言うと舌なめずりをした。

 そして俺へと向かい、棍棒を勢いよく振り下ろしたのである。

 奴は油断してたため単調な攻撃であった。

 

(さて……まずはコイツの懐に入らないとな。使い過ぎると筋肉痛になるから、あまり使いたくないが……走りながら縮地の唱紋修咒(しょうもんしゅうじゅ)を使うとしよう)

 

 俺は霊力を高めながら駆けると、迫りくる棍棒を避けたところで、縮地のマントラを唱えた。

 その直後、俺の身体は一気に加速し、ボストロールの懐へと到達する。

 そして俺は、奴の霊体の中心部……鳩尾部に、高めた霊力を掌底で打ち込んだのである。

 次の瞬間、ボストロールは嗚咽と共に動きを止めた。

 

【ガハッ……】

 

 ちなみにだが、これも一時的な金縛りを与える不動術である。

 名を幽震掌(ゆうしんしょう)という。某世紀末漫画の奥義に出てきそうな名前だが、そこは無視をしよう。

 これは悪霊や悪魔に限らず、動物や人にも効果がある。勿論、熊やライオンにも可能だ。

 霊的免疫がない一般人の場合は、額に指先で打ち込むだけで、動きを止める事もできてしまう。汎用性の高い不動術なのである。

 だが難点として、相手に直接練った霊力を打たないといけないので、近接戦闘になってしまうのが面倒なところであった。

 まぁそれはさておき、俺はそこで鋼の剣を抜いた。

 

(よし、上手くいった。さて……あまり殺生はしたくないが、コイツは恐らく、色々と食い散らかしている。これも因果応報だ)

 

 コイツがいた周辺には、さそりアーマーのモノと思われる魔物の四肢があちこちに散乱していた。

 どうやらコイツは、この砂漠の生態系を乱す外来種のようである。

 始末するしかないだろう。

 俺は摩利支天浄魔光剣を発動すると、金縛りに遭っている奴の身体に飛び乗り、喉から頸動脈へと向かい深く切り裂いた。

 その刹那、傷口から緑色の血液が勢いよく大量に噴き出した。

 砂の大地に緑の血だまりが出来てゆく。

 そして、奴は事切れたのか、ゆっくりと倒れていったのだ。

 だが、その時であった。

 なんと奴の死体は急激に萎んでゆき、1枚の大きな金貨へと変化していったのである。

 

(え? またかよ。また……ゴールドに変わったぞ。どうなってんだ一体……)

 

 俺はそこで剣を仕舞うと、金貨を手に取った。

 大きさはオリンピックのメダルくらいで、別段おかしなところはない。邪気も感じられなかった。

 疑問を1つ挙げるとするなら、初めて見る金貨という事だろうか。とりあえず、そんなところである。

 

(どういうことだ一体……アークデーモンといい、コイツといい、死ぬと金貨に変化するのはなぜだ?もしかすると、またどこかに龍脈の乱れが起きているのか?どこだ一体……ここからでは何も感じないが。チッ……まぁいい、後にしよう)

 

 と、そこで、フォルス達が駆け寄ってきた。

 

「ジュライさん、凄いです!」

「やるじゃない、貴方! フォルスの師匠なだけあるわ」

「凄いなジュライさん……貴方みたいな人とミントスに向かえてよかった。でも、殴るのは勘弁してくださいよ」

「お疲れさまでした。腕は本当に確かなようですね。でも、魔物が消えてしまいましたね……どういう事なのでしょう」

「でも、流石です。どうやって倒したんですか? 何か、突然動きが早くなりましたけど」

「フォルス、それは機密事項だ。まぁそれはともかく、旅を急ごう」

「はい」――

 

 そして、俺達はアネイルへと移動を再開したのであった。

 

 

   [弐]

 

 

 日が沈み始める頃に俺達はアネイルに到着した。

 アネイルは山間(やまあい)の小高い丘にある街で、人口もそれほど多くない。恐らく、千人前後ってところだろう。

 しかもここは温泉街でもあるので、微妙に硫黄の臭いが周囲に漂っていた。そういったところは現実世界と同様である。

 恐らくここは、港湾都市であるコナンベリーまでの宿場町みたいなところに違いない。

 現に宿屋が何軒も軒を連ねているので、当たらずとも遠からずといったところだ。

 ゲームのようにガイドをする宿の主人もいたが、そこには泊まらなかった。理由は特にない。他にも沢山あるからだ。

 それはさておき、街に着いた俺達は、まず付近の教会に行き、お祈りをした。

 この辺りでは、旅の終わりの際、教会へ行って神に祈り、道中の無事を感謝するのが習わしらしい。

 やはり宗教的風習というのは、どの世界でも市民生活に密接にかかわっているみたいだ。

 

 話は変わるが、この辺りで信仰されている神は、天空の神様だそうだ。

 つまり、マスタードラゴンが崇められているのである。

 俺はコイツに会えたらドラゴンキラーで一発どついてやろうと思ってるので、祈るなんて事はしなかった。

 逆に心の中で、(首を洗って待ってろ! 俺を導きやがって!)と、悪態吐いたくらいだ。

 まぁそんなわけで、教会というのは俺にとって、少々複雑な気分になる建物なのであった。

 つーわけで話を戻そう。

 

 祈りを終えた俺達は、教会に展示されている戦士リバストの鎧を見た後、適当にその辺の宿にチェックインした。

 それから食事をする為、街の酒場へと向かったのである。

 食事を終えて酒場を出た頃には、外は暗闇が支配していた。

 店も閉まってるので、何もやる事がない状況だ。

 というわけで、俺達はとりあえず、一旦宿に戻り、温泉で旅の疲れを癒す事にしたのである。

 ちなみにだが、マーニャとミネアはもう少し酒場で晩酌するそうだ。流石、夜の街出身の女達である。

 フォルスとシンシアとホフマンは、明日も早いのでもう休むらしい。その方が賢明である。

 まぁそれはさておき、俺は温泉から上がった後、温まった身体の涼みも兼ね、1人で夜の街へと繰り出した。

 実は行きたいところがあったのだ。

 

(さて……確か、教会の裏の小道を行くとあるって、さっき宿の主人が言ってたな。とりあえず、行ってみよう……出るかな、街を救った英雄は……)

 

 そう、ゲームであったリバストの亡霊を俺は見たいのである。

 これは、アークデーモンやボストロールが出現した原因の調査でもあるのだ。

 道中立てた仮説が正しいなら、この世界の霊にも、同じ論理が当てはまる筈だからである。

 俺は宿屋で借りたランタンを片手に、教会へと向かい歩を進めた。

 だが暫く進んだところで、俺を呼び止める声が背後から聞こえてきたのであった。

 

【ジュライさん! 待ってください!】

 

 声の主はミネアであった。

 ミネアはこちらへと駆け寄ってくる。

 

「ン、どうしたの?」

 

 呼吸を整えた後、ミネアは話を始めた。

 

「部屋に行ったらいませんでしたので、探しましたよ。宿の主人に訊いたら、さっき外に出てったと言ってましたんで、追いかけてきたんです」

「探した? なにかあったの?」

「馬車の中で言ったじゃないですか。ゆっくりとお話をお聞きしたいと」

「ああ、そういえばそうだったね。俺も忘れてたよ。でも俺、今、行きたいところがあるんだよね」

「え、どこですか?」

「この街を救ったという英雄の墓場……かな」

 

 ミネアは眉間に皺を寄せた。

 

「なんでそんなところに?」

「宿の主人曰く、亡霊が出るらしい。なので、見てみたいと思ってね」

「亡霊ですか……それは気になりますね」

 

 ミネアは微笑んだ。

 オカルト好きなのか、少し興味があるようだ。

 

「で、そこに行こうかと思うんだが、一緒に行ってくれるなら、歩きながら話せるけど」

 

 ミネアは少し考える素振りをすると頷いた。

 

「わかりました。それで構いません」

「じゃあ、行こうか」

 

 俺は歩き始めた。

 ミネアが隣に来る。

 

「で、何を訊きたいの?」

「ではお訊きします。貴方はエンドールでの占いの際、私達姉妹の事を的確に当てられましたが、どうやってそれを知ったのですか?」

「どうやってとは?」

「貴方の占いをエンドールの酒場で拝見しましたが、私の占いと同じく方向性は示せるモノの、詳細なことまではわからない感じでした。ですが、大通りで貴方がした占いは、かなり詳細に的中させています。それが気になったので……」

 

 どうやらミネアは、かなり洞察力がある女性みたいだ。

 事実、俺はあの時、占いなんてしていない。

 ただ単にゲーム知識から得た情報を話しただけなので、ミネアが正解である。

 

(凄いな、ミネア。探偵になれるわ。まさかそれを確認する為に、酒場で俺に占いをさせたのか……正直、ちょっと見縊ってたよ。まぁそれはともかく、どうやって答えようかな。……仕方ない。もうこうなったら、ウソの上塗りで行くしかないか……それもバレたら、どっか1人で高跳びしよう)

 

 などと考えつつ、俺は彼女の問いに答えた。

 

「ミネアさん……貴方は凄いね。中々の洞察力です。そのとおりだよ。俺はあの時、占いなんてしてない。あれは旅の途中で、とある人物から聞いた話の内容だからね。その人から聞いた姉妹の特徴があまりにも似てたから、俺はカマをかけてみたんだよ。姉妹はエンドールへ向かったはずと言ってたからね」

「え!? ジュライさん……今の話は本当ですか?」

 

 予想外の返答だったのか、ミネアは少し強張った表情をしていた。

 

「ああ、本当だよ。貴方の父……え~と確か、錬金術師のエドガンさんというんだったかな。そのお弟子さんから聞いたんです」

「弟子ですって……」

 

 俺の言葉を聞くなり、ミネアは息を飲んだ。

 そして、恐る恐る訊いてきたのである。

 

「で、弟子の名前は……なんていうのですか?」

「なんだったかな……ええっと、オーラン? いや違うな、オーリンだったか。確か、そう言ってたと思うんですけど、そういう人いませんでしたか? ちょっとごつい感じの人です」

 

 そこでミネアはホッと肩の力を抜いた。

 

「なんだ、オーリンさんか。って……オーリンさん生きてたんですか? 会ったのっていつなのですか?」

 

 よかった、どうやらオーリンは実在したようだ。

 話を進めよう。

 

「そんなに前じゃないよ」

 

 するとミネアは、心配そうな眼差しで訊いてきた。

 

「オーリンさん……お元気でしたか?」

 

 俺はとりあえず、創作話を続けた。

 もうどうにでもなれ。

 

「あんまり元気じゃなかったと思うよ。包帯でぐるぐる巻きだったし。結構、酷い怪我してたんじゃないかな。なんでも、キングレオの城から生贄の女性と逃げてきたと言ってたが……。キングレオ城というところで、何かあったんですか?」

 

 ミネアの表情が曇る。

 

「実は……」――

 

 ミネアは自分達の境遇と父の仇敵であるバルザックの因縁を話し出した。

 まぁ内容はゲームとほぼ同じであった。

 

「……というようなことがあって、私達姉妹はエンドールへと逃げてきたんです。でもいつの日か、父の仇は必ず討つつもりです」

 

 ミネアはそう言うと、歯を食いしばるように口を固く結んだ。

 

「なるほどねぇ……色々とあったんだ。バルザックか……仇討ち成功するといいね」

「はい。でも、オーリンさん生きてたのなら良かったです。ところで、オーリンさんは今どこにいるのですか?」

「どこだろうね。でも確か、サントハイム大陸へと向かってると言ってた気がするけど」

「サントハイム大陸ですか……私達と逆の方向ですね。でも、いつの日か会えたら、お礼を言いたいです」

 

 ミネアはそう言って空を見上げた。

 命の恩人だから、感謝してもしきれないのだろう。

 まぁそれはともかく、そんな話をしている内に、俺達は目的地に着いたようだ。

 

「ここだな」

 

 そこは少し開けた林の中であった。その中心に墓石がある。

 ちなみに墓は、四角い石を横に寝かせて置くタイプの物であった。

 そこには文字が彫られているが、俺は勿論読む事ができなかった。

 つーわけで、ミネアに解読をお願いした。

 

「あのミネアさん、ここに書かれている文字、俺は読めないから教えてくれないか?」

「え? 読めないんですか?」

 

 ミネアは意外そうに俺を見た。

 

「ああ、ちょっと俺の国で使われてる文字と違うんでね。で、なんて書いてあるんだい?」

「そうなのですか。ええっと、ここにはこう書かれています。『アネイルを守りし、偉大なる戦士リバスト ここに眠る』と」

「偉大なる戦士リバスト……か。いるのなら出てきてくれるかい」

 

 するとその時であった。

 

《誰だ、私を呼ぶのは……》

 

 墓石から湧き出るように、ふわふわした透き通る存在が姿を現したのである。

 それは西洋鎧を身に纏った長髪の若いイケメン戦士の亡霊であった。

 

【キャッ】

 

 突然でミネアは驚いたのか、俺に抱き着いてきた。

 普段は知的で物静かな印象のせいか、こういう反応するのは意外だった。

 

「ジュライさん……これって噂の亡霊……ですよね。初めて見ました」

「ああ、そのようだ」

 

 俺はそこで亡霊に語り掛ける事にした。

 霊力調整を少しすれば、幽霊とも会話が可能だからだ。と言っても地縛霊や浮遊霊くらいだが……。

 

「戦士リバスト……それが貴方の名前か?」

《いかにも、私はリバスト。そなた……私と話せるのか? その娘の声は聞こえぬが……》

 

 抱き着いたままのミネアは、上目遣いで俺を見ると、驚きの声を上げた。

 

「ジュライさん……亡霊と話せるんですか?」

「まぁ……職業柄ね。ところで、貴方をこの地に縛り付けるモノは何なんだい?」

《ならば頼みがある。私の使っていた鎧は天空の鎧と呼ばれていた。だが何者かが海の彼方に持ち去ったのだ。それを取り返してくれまいか。それが心残りである》

「取り返すったってね。まぁでも……いずれ天空の血を引きし者が、それを手にするよ。俺が保証しよう。だから、アンタは安心して成仏すればいい」

《そうか……ならばそれを信じるとしよう。そなた……私を天へ導いてくれぬか?》

「いいだろう」

 

 俺はそこで印を結び、リバストと現世との繋がりを絶ち切る、縁切の呪法を行った。

 そしてリバストは、更に宙へと舞い上がったのである。が、しかし……そこで予想外の事が起きたのだ。

 なぜなら、リバストは宙に浮いたまま、いつまでたっても成仏しなかったからである。

 

(あれ……なんで? なんで成仏しないの? いつもならフワッと消えてくれるのに……)

 

 リバストは困惑した表情で、俺の元にやって来た。

 

《あの……いつになったら私は天に昇れるのだ? 何も起きんが……》

「ですよねぇ。なんでだろう。あれ、なんか間違えたか、俺……」

 

 リバストは一向に消える気配がない。

 

「どうしたんですか? 亡霊は困ってる風ですが……」と、ミネア。

「それがね……なんか知らないんだけど、縁切りが失敗したみたい。地縛霊から浮遊霊になっちゃった……どうしよう」

「そんな事、私に言われても……」

 

 俺達は暫し途方に暮れた。

 しかし、リバストはいつまで経っても消えてくれなかった。

 その為、俺はとりあえず、人に見えないよう呪術的処理をして、彼をお持ち帰りする事にしたのであった。

 全くもって想定外の結果である。

 そして俺は、今後は余計な事をしないようにしようと固く誓ったのだ。

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