DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv17 ミントス

 

 

   [壱]

 

 

 雲一つない澄んだ青空の元、水飛沫を上げながら木造の帆船が大海原を進む。

 船の中心に沿って立つ2つの大きなマストには、風を掴む白く大きな帆が張られており、時折、波のように揺らめいていた。

 マストの頂きにはカモメらしき鳥が羽を休めている。

 また、甲板には慌ただしく動く船乗りの男達の姿があった。

 操舵を担当する者、望遠鏡で海を監視する者、積み荷を移動する者等、それは様々である。

 彼等のお陰で船は動かせるのだ。

 そう、俺達はようやく船を手に入れたのである。

 ちなみにこの船、トルネコが私財をなげうって建造した船らしい。

 動力は風で、そこそこの大きさの帆船である。全長は50メートルくらいで、横幅は10メートル近くはありそうだ。

 また、ゲームではあまり気にならなかったが、実際問題、船を動かそうと思うと海の専門家が必要である。

 その為、船には船長を始め、船乗りの男達も何人か乗っていた。

 海の知識がない主人公に、まともな航海など無理なのである。

 ゲームのように、十字キーで動かすわけにはいかないのだ。

 まさにリアル航海である。

 

 話は変わるが、俺達は大灯台から帰ってきた翌日の早朝、まず港へと向かった。

 そこで俺達は、港に着けられた新しい船を眺めるトルネコと再会し、大灯台の件を伝えたのである。

 その時のやり取りはこんな感じだ――

 

「よくやってくれました! 邪悪な炎も消えて、ほら海もあんなにおだやかです。そして、うれしいことに、わたしの船もようやく完成しました。そこで、お願いがあるのですが……実は、私は魔物達に恨まれているようなのです。でも、貴方がたのような強い人達と一緒なら、とても心強いでしょう。私も仲間にしてください。一緒に、世界中をまわろうじゃありませんか!」

 

 フォルスは快く返事した。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。僕達は船を持っていないのでトルネコさんが味方になって頂けるのであれば、こんなに心強いことはないです。一緒に世界をまわりましょう」

 

 トルネコが導かれた瞬間であった。

 事前にミネアから、トルネコは導かれし者と聞いていたからというのもあるだろう。

 ちなみに、仲間になる時の音楽は流れなかったが、思わず口ずさんでしまいそうになったのは言うまでもない。

 

「私はトルネコと申します。よろしくお願いしますぞ」

「僕はフォルスといいます。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 2人は固く握手を結んだ。

 

「この港を出たのは大灯台の異変前、サントハイムのお姫様が乗っていた船が最後らしいので、それ以来の出港となります。我々も大海原に出ましょう。さぁお乗りください。準備はあと少しで終わります。乗船してお待ちください。まずはこの船の処女航海ですので、ココから一番近い南の大陸にあるミントスに向かおうと思います。ミントスには海に詳しいヒルタン老人が住んでおられますのでね。ヒルタン老人といえば、世界を股にかけた元冒険家にして、今では商売の神といわれている方です。私達商人のあいだでも、大変有名な方ですから」――

 

 と、まぁそんな感じで、俺達は大海原への旅ができるようになったのであった。

 ちなみにだが、俺はこの辺りの展開をど忘れしているので、アリーナ一行とどこで仲間になるのか思い出せないでいる。だがトルネコからこのワードが出てきたことを考えると、もうそろそろ、脳筋姫とザラキ使いと、頭の寒いヒャド使いの一行と出くわすのかもしれない。 

 つーわけで話を戻そう。

 

 コナンベリーを出港して1時間ほど経過した。

 甲板には船乗りの男達の他に、仲間達の姿もある。

 皆、船旅ということで少し浮足立っている風であった。

 今までが地上の旅だったから、心躍るものがあるのだろう。

 フォルスとシンシアは一緒になって無邪気に海を眺めている。モンバーバラ姉妹も同様であった。

 また、トルネコとホフマンはさっきからずっと甲板の一角で対談中だ。

 恐らく、商人の世界についてホフマンが色々と聞いてるに違いない。

 そして俺はというと、1人で、甲板から穏やかな海をボンヤリ眺めているところなのであった。

 色々と考えることがあるからだ。

 ゲームだと今から中盤に入るくらいだが、既にゲームと同じ展開じゃないので、この先どうなるか予測できないのである。

 

(それにしても……大灯台でまさか、ヘルバトラーが出てくるとは思わなかったよ。山奥の村で色々とやったから警戒されてるんだとは思うが、いきなり四天王をけしかけてくるとはな……。デスピサロの奴、俺がうっかり話した四天王の裏切りエピソードで、疑心暗鬼になってるのかもしれん。本丸のエビルプリーストも、そのうち俺の前に現れそうだ。まぁそれはともかく……武器をどうにかせんとなぁ……。一旦、エルフの里に戻ってもう一振り作るか。でも、また折れる可能性もあるからなぁ……。仕方ない、この際だから、俺が刀を打って、本当の摩利支天浄魔光剣を作ることも考えたほうが良いかもな。その為には、鍛冶工房をどこかで借りないといけないけど。まぁその辺の事は、トルネコに訊いてみればいいか。ン?)

 

 ふとそんな事を考えていると、フォルスとシンシアとモンバーバラ姉妹がこちらにやって来た。

 

「どうしたの、ジュライさん。浮かない顔してるけど。もしかして船に酔ったの?」と、マーニャ。

「違うよ。色々と考え事してるんだよ」

 

 ミネアが隣に来る。

 

「何を考えてたのですか?」

「この間、魔物との戦いで剣が折れちゃったから……それをどうするか、今考え中なんだよね」

「そういえば、そうだったわね。でも、鋼の剣なら、その辺の武器屋行けば売ってるんじゃない?」

 

 マーニャは何でもないような言い方をした。

 他の者達からすると、あれはただの剣に見えるのだろう。

 見た目は普通の鋼の剣だから、そう思うのも無理はない。

 するとフォルスがそれを否定してくれた。

 

「マーニャさん、あの剣は、ジュライさんが改良したモノだったと思いますから、その辺の武器とは違いますよ。僕、それを近くで見てましたから」

 

 エルフの里で付加術を掛けてたのを憶えていたようだ。

 

「フォルスの言う通りだよ。あれは普通の剣じゃないから、すぐには用意できないんだよ」

「あら、そうなの?」

「ではどうされるのですか?」

「とりあえずは、もう一振り作るしかないかなとは思ってる。半日あればできるからね。でも、強い魔物が相手だと、鋼の剣の強度じゃ限界あるんだよね。あの魔物との戦いで折れたということは、そういうことだし……」

「そうなのですか。ではもっと強い武具が必要なのですね」

「まぁね。でも、俺の術に対応させるには、この辺で売られてる武器じゃちょっと都合が悪いんだよ。だから、もう俺が自分で直接、剣を打つしかないかなと今は考えてる。ちょっと時間のかかる作業だけどね」

 

 するとミネアは少し驚いた表情をした。

 

「ジュライさんは鍛冶もできるのですか?」

「刀剣だけだけどね。まぁでも、剣を鍛造する場所を借りないといけないから、それはそれで探すの大変なんだよ。君達、場所を貸してくれそうな鍛冶屋って知らない?」

「さすがにそれは知らないわよ。私の人生では全く関係ない場所だし」

 

 マーニャはお手上げと言わんばかりに、両手を軽く上げる。

 

「僕もちょっとわからないです」

「私もそっち方面は……」

 

 フォルスとシンシアも頭を振る。

 だが、ミネアは何か思うところがあるのか、思案顔をしていたのである。

 

「ン、どうかした、ミネアさん。もしかして、心当たりがあるの?」

 

 ミネアは俺に視線を向け、ゆっくりと頷いた。

 

「え? 本当なの、ミネア。もしかして、今までの占い客に鍛冶屋の店主でもいたの?」

「いいえ。違うわ、姉さん。私が知ってるのは1つだけよ。姉さんも知ってるでしょ。お父さんの仕事場よ」

 

 するとマーニャは思い出したのか手を打った。

 

「ああ、実家ね。そういえば地下に、そういうのあったわね。お父さん、色んな物を作ってたから」

 

 錬金術師の仕事場というのが気になるところである。

 現実世界だと中世欧州で貴金属を生み出す科学者的な人々の事を指してるが、今の2人の会話からすると、この世界では発明家的な側面もあるのかもしれない。

 

「へぇ、お父さん、そんな設備も持ってるんだ。まぁ錬金術師だったそうだし、あっても不思議じゃないけど」

「もしよろしければ、使っていただいて構いませんよ」

「そうなの? ならお言葉に甘えようかな。ところで、その実家ってどこにあるの?」

 

 ゲームと同じかどうか確認してみた。

 

「キングレオ大陸にあるコーミズ村です」

 

 やはり、この辺の設定はゲームと同じなようだ。

 

 

   [弐]

 

 

 コナンベリーを出港してから8時間ほどで、俺達はミントスへと到着した。

 幸運な事に魔物との戦闘もなく、快適にすんなりと移動できたので、新しい船の処女航海にしては良かったんじゃないだろうか。

 トルネコもそんな風な事を言ってた。船長も良い船だと言っていたので、上々の出来だったみたいである。

 まぁそれはさておき、ミントスの港に船を着けた後、俺達は早速、街に繰り出す事にした。

 特にホフマンは早かった。

 

「ではヒルタン老人の所に行ってきます。また後ほどお会いしましょう」

 

 ホフマンはニコニコとそれだけ告げ、街へと消えていったのである。

 憧れの有名人が住む街とあって、はやる気持ちが抑えられなかったのだろう。

 

「おお! ホフマンさん、行動が早いですな。しかし、彼は見所のある青年ですよ。もしかすると大物になるかもしれない」と、トルネコ。

「ホフマンさん、凄く嬉しそうでしたね」

「ずっと憧れていた人に会えるんだから、そりゃ当然でしょ。まぁ私はヒルタン老人なんて興味ないから、どうでもいいけどね。私達はゆっくり行きましょ。ね、勇者様?」

 

 マーニャはそこでフォルスを見た。

 フォルスは頷く。

 

「ですね。僕達は慌てず、ゆっくり見て回りましょうか」

「それがいいわ。私も新しい街はゆっくり見てみたいから」

 

 シンシアはそう言ってフォルスに微笑んだ。

 フォルスも微笑み返す。

 仲睦まじいやり取りであった。

 少しムカついたのは言うまでもない。

 

(気楽でいいよなぁ……まぁでも、こういう時くらいはしゃあないか。さて、俺はとりあえず、ここで鋼の剣を仕入れるとするか。その後、エルフの里でまた付加術をしないといけないし……)

 

 とまぁそんなわけで、俺を含めた他の者達は、焦らず物見遊山と相成ったわけである。

 

 話は変わるが、ミントスはコナンベリーほどの華やかさはないが、そこそこ大きな港町であった。

 人口もそれなりにはいるのだろう。あくまでも俺の主観だが、中規模の街といった感じである。

 だがこのミントスは、他の街にはない、ある特徴があるのだ。

 それは、下船してすぐに見える巨大な宿屋の存在である。

 まるで城のような佇まいをしており、石の壁に設けられた窓の数から考えるに、相当な部屋数を有してるみたいである。

 これはトルネコ情報だが、50部屋は優にあるそうだ。

 俺がこの世界で今まで見てきたどの宿屋よりも、多い部屋数だったのは言うまでもない。

 ゲームではそんなに大きく感じなかったが、リアルにすると、この規模になるという事なのだろう。リアルすごッ。

 で、この宿屋のオーナーこそが、街の名士であるヒルタン老人なのである。

 もういっそのこと、ヒルタンホテルと名付けたいところであった。

 というか、俺は呼ぶつもりだ。

 たぶん、あのゲームの製作者もヒルトンホテルのノリで作ったに違いないから。

 つーわけで話を戻そう。

 

 俺達は適当に街を散策していると、いつしか石畳の広場へと来ていた。

 そこには沢山の人だかりが出来ており、その先にはスクリーンボードを前にするローブを纏った坊主頭の老人の姿があった。

 その老人は今、スクリーンに何やら文字を書いており、人だかりに向かって講義を聞いているところだ。

 まさにゲーム通りの様相である。

 勿論、ホフマンの姿もそこにあった。

 

(お、ヒルタン老人の講義か。やっぱ青空教室開いてんだな。しかし……人が多いな。信者が100人くらいはいるんじゃねぇか。ヒルタン教、恐るべし……ン? そろそろ休憩か)

 

 どうやら、ここで一息つくようだ。

 ヒルタン老人は椅子に腰掛け、テーブルにある飲み物に手を伸ばしていた。

 喋りすぎて喉が渇いたのだろう。

 するとそこで、トルネコの声が聞こえてきた。

 

「フォルスさん、今から講義も休憩のようですので、ちょっとヒルタン老人に挨拶してきても良いですかね? 一度はお会いしたかったのですよ」

「ええ、良いですよ。僕達も行きます」

 

 リーダーであるフォルスの決断により、俺達はヒルタン老人のところへと向かう事となった。

 で、このヒルタン老人だが、世界中を旅してまわったというだけあり、若い頃は相当な猛者だったようである。

 今は年老いて皺やシミに見えるが、顔にはいくかの切り傷が確認できる。

 また、その眼つきや仕草も堂々としたモノであった。

 

(なるほどね……確かに、世界を股にかける冒険家の顔だな。それに相応しい風格があるよ)

 

 トルネコはそんなヒルタン老人の前に行き、腰低く丁寧に挨拶をした。

 

「ヒルタン殿、お会いできて光栄です。私は旅の商人でトルネコと申します」

「ほう、旅の商人であるか? どこから来られたのじゃな?」

「コナンベリーです。私はそこで船を建造し、これからその船で世界を巡る旅を始めたところにございます。その最初の立ち寄り先として、まずこちらのミントスに参ったのです。海に詳しいヒルタン殿のいる街ですので」

 

 するとヒルタン老人は、突然、声を荒げたのであった。

 

「ばかもん! わしは海に詳しいのではないわ! 出直してまいれ!」

「え!? ええ?」

 

 トルネコはあっけにとられて声が出せないようだ。

 だが、このやり取りはゲームでなんとなく憶えていたので、俺はトルネコに耳打ちした。

 

「トルネコさん……海じゃなくて世界ですよ。この人は【世界】に詳しいと言ってほしいんだと思います。世界を股に掛けた冒険家なのでしょ?」

「ああ、そうか! すいません、間違えてしまいました。ヒルタン殿は世界に詳しい方でございました」

 

 俺の指摘を聞き、トルネコは言い直した。

 するとヒルタン老人は満足そうに頷く。

 

「ほう……よくわかったな。そう、儂は世界に詳しいヒルタンじゃ。ま、よかろう。お主、少しは骨がありそうじゃな。どうじゃ? わしの試験を受けてみるか?」

「はい、喜んで」

「では問題じゃ! 商売において一番大切な事とは何かな?」

「……」

 

 トルネコは何かを考えているのか無言であった。

 すると程なくして、ヒルタン老人は自分の膝を叩き、にこやかに口を開いたのである。

 

「むむっ! あっぱれ! 何も言わない……。つまり沈黙は金なりじゃ!」

 

 正直、意味の分からない答えであった。

 

(ゲームでこんなやり取りしたか? ……したかもなぁ。もうよく憶えてないわ、この辺の事。まぁどっちにしろ、あんま大切な事じゃない気がするけどね。黙ってた時が良い時はあるだろうが、時と場合によるだろ。有名な諺だけど。って……マジ突っ込みしてもしゃあないか)

 

 俺がそんな事を考える中、ヒルタン老人は手元にある鞄から巻物を取り出し、トルネコに差し出した。

 

「ヒルタン殿、コレは?」

「そなたに宝の地図を使わそう。若い頃手に入れたが、ついに記された秘密を解き明かす事が出来なかった……。さぁ受け取るが良い!」

「なんと、宝の地図ですと!?」

 

 トルネコは大きく目を見開いた。

 

「えっ! 宝の地図!?」

 

 マーニャもその言葉に反応する。

 目がキラキラと輝いていた。わかりやすい女である。

 

「そなたなら、その地図の秘密を解き明かすことが出来るかも知れぬな。がんばるのじゃぞ!」――

 

 その後、俺達は少し買い物をした後、ヒルタンホテルへと行き、宿にチェックインしたのであった。

 

 

   [参]

 

 

 ヒルタンホテルに到着した俺達は、暫しロビーとなってるホールで足止めとなった。

 なんでも、まだベッドメイクが終わっていないそうである。

 もしかすると、この宿屋は規模の割に、スタッフの数が足りてないのかもしれない。

 まぁそれはさておき、俺達はロビーに置かれている幾つかあるテーブル席の1つに腰掛け、暫しの間、待つ事になったのである。

 

(それにしても……今日は潮風を沢山浴びて、よく歩いたから、身体がクタクタだ。ま、目的の鋼の剣は買ったし、後は明日考えるとするか)

 

 と、そこで、ミネアが俺の隣に腰掛けてきた。

 

「ジュライさん、ミントスは活気のあるいい街でしたね」

「まぁね。ただ、ヒルタンさんの影響か、この街は商人志望の若者が多い気がするよ。ま、だから活気もあるのかもしれないけどね」

「確かに、それはありますね」

 

 するとマーニャが頬を膨らました。

 

「でもカジノが無いから、私はつまんないわよ。劇場もないし……。ヒルタンさんは、この街に劇場作る気ないのかしら」

「姉さんの基準だと、殆どの街が駄目になる気がするわ」

 

 マーニャにとって最高の街は、今のところ、モンバーバラとエンドールなのだろう。

 

「でも、この宿屋凄いですよ。僕こんな大きな宿屋初めて見ました。お城みたいです」

 

 フォルスはそう言って、ロビーを見回した。

 実際、城にありそうなシャンデリアが吊られていたり、カーペットが敷かれているので、まぁわからんでもない感想である。

 

「本当ね。エンドールのもそこそこ大きかったけど、これは規模が全然違うわ」と、シンシア。

 

 2人は完全に圧倒されてるみたいだ。

 山奥の村出身だし、今は訪れる街の全てがカルチャーショックに違いない。

 

(この2人が現実世界の高層施設みると、どんな反応するか気になるな……まぁありえない話だけどね。ン?)

 

 するとそこで、トルネコが地図を持って俺の前にやって来たのである。

 

「いやいや、先程はどうもありがとうございました。ジュライさんのお陰で、この地図を手に入れる事ができましたよ」

「良かったですね。しかも、それ世界地図じゃないですか? 今後の航海で役に立つと思いますよ。まぁ海流の流れまでは描いてないかもしれないですけど」

「ですな。でも、この×印のところって何なんでしょうね? ヒルタン殿はこの謎は解けなかったといってましたが……」

 

 ×印はモロにあの地域の部分に描かれていた。

 つまりコレは、天空の剣の在処を指し示す地図なのである。

 

(とりあえず、黙っとこう。どっちにしろ、今のフォルスでは世界樹を登りきる力量はないだろうし……)

 

 俺は適当に答えておいた。

 

「なんなんでしょうね。まぁでも、珍しいお宝が眠ってるんじゃないですか?」

「一生遊んで暮らせるくらいの金銀財宝だといいのにね」

 

 マーニャは嬉しそうに微笑んだ。

 

「そんなに都合の良い話はないですよ、姉さん」

「夢がないのねぇ、ミネアは」

 

 他の者達は姉妹のやり取りを見て、苦笑いを浮かべていた。

 

「まぁいずれにしろ、これは楽しみな地図ですよ。ン? おや」

 

 と、そこで、トルネコは隣のテーブルに視線を向けたのであった。

 するとそこには、頭に手拭いを撒いた爺さんが1人おり、俺達のテーブルをジッと見ていたのである。

 その老人は、裾の長い緑色の衣服を纏い、口元と顎には真っ白な髭を沢山生やしていた。

 頭に手拭いを撒いてることもあってか、全体的な見た目は、どことなく、使用人のような恰好をした小柄な爺さんであった。

 ただ、少々疲れた顔をしているのが気掛かりなところだ。

 それはさておき、トルネコはその爺さんに声を掛けた。

 

「ん、どうかされましたかな?」

 

 すると爺さんは俺を指さした。

 

「そこの御仁、もしやソレッタから来られたお方かな?」

「俺ですか? いや、違いますけど……」

 

 山奥の村でもそんな事を言われたが、俺の容姿はソレッタの人と似ているようだ。

 つまり、ソレッタ人はアジア系なのかもしれない。

 

「そうか……すまぬな。忘れてくだされ」

 

 爺さんは溜息を吐き、肩を落とした。

 

「御老人、どうなされたのですかな? かなり疲れておいでのようですが。ここで会ったのも何かの縁ですし、お話くらいは聞きますよ」と、トルネコ。

 

 爺さんは元気なく話しを始めた。

 

「実は……共に旅をする若い仲間が病に臥せって倒れてしまったのじゃ……一向に良くなる気配もなく、儂も困っておっての。昨夜からずっと看病のしっぱなしで、疲れてしもうて……。そこの御仁はソレッタの者と似ておる風貌じゃったから、何か薬のようなモノを持っておったらと思い、声を掛けたのじゃよ。かの国は万病に効くというパデキアの産地として有名じゃからの」

「おお、そういう事でございましたか。それは大変でございますな」

「まったくじゃ。今、儂等の仲間の1人が、儂の制止を振り切ってソレッタへと向かったのじゃが、帰るのがいつになるともわからぬのでな。もうほとほと困っておったんじゃよ。色々と手に負えぬ状況になって、心身共に儂も参ってしまったんじゃ」

 

 なんか微妙に既視感があるやり取りであった。

 

(あれ……俺なんか大事なこと忘れてる気がする。ここで、なんかあるんだったっけ? う~ん、思い出せん。なんだったっけ……)

 

 そんな事を考えていると、トルネコが俺に話を振ってきた。

 

「ジュライさん、この方はこう仰っておられますが、何か薬のようなモノは持っておられるのですか?」

「まぁない事もないですが、その人はどういう症状なんです。俺が持ってるのは腹痛や解熱を対象としたモノなんで」

 

 俺も一応、食中毒や風邪系に対処する霊薬は持っていたりする。

 これと秘紋を組み合わせると劇的に効果があるのだ。

 ちなみに、外傷の塗薬もあるにはあるが、回復魔法ほどの効果は得られない。まぁそういう事である。

 この世界ではホイミ使っとけって話だ。

 

「おお! 持っておるのか、御仁! 是非、それを分けてくれまいか」

「分けるといっても、病人がどういう状態かわからないと、処方しようがないですよ。色々と調合しないといけないですし」

 

 爺さんは勢いよく立ち上がる。

 

「では一緒に来てくれぬか?」

 

 俺はフォルスに視線を向けた。

 

「と、この方は言ってるが、行ってきてもいい?」

 

 フォルスが頷く。

 

「構いませんよ。部屋の鍵は、僕とシンシアが受け取っておきますから」

「悪いな。じゃあ、ちょっと行ってくるわ。誰か、他に来る?」

「私も行きます」と、ミネア。

「わったし、行かな~い」

 

 マーニャは腕をクロスさせ×を作る。

 トルネコも頭を振った。

 

「私はちょっと疲れましたので、もう少しお休みさせてもらいますよ」

 

 というわけで、俺とミネアは、爺さんに案内され、病人の元へと向かう事になったのである。

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