DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv19 姫君の従者達

 

 

   [壱]

 

 

 ヒルタンホテルに宿泊した早朝、食事を終えた俺は、ホテルの受付カウンターにて元仲間と暫し談笑していた。

 ちなみにその元仲間とはホフマンである。

 彼はもう今日から、ヒルタンホテルの受付業務を担当しているのであった。

 とりあえずはホテルマンとして修行を始めるようである。

 

「ジュライさん、今日は早い旅立ちなんですか? もういつでも旅に出れそうな格好ですけど」

「旅立ちはいつも通りだろ。俺が早いのは、部屋で特にする事もないからだよ。そういや、ココって飲み物の提供とかってあるかい?」

「ありますよ。ミントス産のハーブ茶ですが、どうです?」

「お、いいねぇ。頂くよ」

「そこのテーブルで待っていてください。今持っていきますから」

 

 俺はホフマンの指示に従い、ロビーに幾つかあるテーブル席の1つに腰を下ろした。

 周囲に目を向けると、朝早いこともあってか、テーブル席には俺しかいないようだ。貸切状態である。

 ロビーの窓は全て全開になっており、そこから清々しい朝日とそよ風が入ってきた。

 ついでに静かな街の様子も視界に入ってくる。

 気持ちの良い、朝の光景である。今日も旅日和の一日となりそうだ。

 暫くそうやって外を眺めていると、ホフマンがマグカップを乗せたトレイを持ち、こちらにやってきた。

 

「ジュライさん、お持たせしました。こちらがハーブ茶になります。熱いので気をつけて下さいね」

 

 ミントの香り漂うハーブ茶が目の前に置かれる。

 

「ありがとう、頂くよ」

 

 俺はマグカップを手にとり、ハーブ茶を口に運ぶ。

 すると、清涼感があるミントの香りと共に、温かい紅茶のような風味が口内に広がってきた。

 リフレッシュに丁度いい飲み物であった。

 

「おいしいよ、旅立ち前に丁度いいね」

「本当ですか。ありがとうございます。では、後で皆さんにも、お出しするとしますかね」

 

 ホフマンはそう言って微笑んだ。

 と、そこで、俺は思い出した事があったので、それをホフマンに訊いてみる事にした。

 

「それはいい。皆、喜ぶと思うよ。ところで話は変わるんだけどさ……以前、砂漠でデカい魔物と遭遇した時、君、妙な事を言ってたよね。確か……ここ最近の旅人の失踪が云々と。アレってどういう事?」

「ああ、その話ですか。実は塞ぎこんで部屋に閉じ籠ってた時、外にいる旅人達の会話が聞こえてきたんですよ。ここ最近、旅人達が突然いなくなる現象があると。しかも、結構色んな旅人達が同じことを言ってたんで、印象に残ってたんだと思います」

「突然いなくなる現象……なんだそれ?」

「詳しい事はよくわかりませんが、俺はそれを聞いて、魔物に襲われて食べられてしまったのかなと思って。だから、あの時そう言ったんですよ」

 

 よくわからないが、失踪事件的な事が起きてるのかもしれない。

 しかし、俺がプレーしたドラクエⅣでは出てこない現象であった。

 

(ドラクエⅣで突然いなくなるか……そんな神隠し的な展開あったっけ? 子供が攫われるならあったけど……って、そういや、サントハイムがそうだったか)

 

 もしかするとサントハイムの現象みたいなのが各地で起きてるのかもしれない。

 まぁとはいえ、今はなんとも言えないところだ。

 

「ふぅん……物騒な話だね。ン?」

 

 と、その時であった。

 昨日出会ったサントハイムの方々がロビーに姿を現したのである。

 ブライは俺を見つけると、クリフトを伴いこちらにやって来た。

 この様子を見る限り、クリフトは結構回復したみたいである。

 ちなみにクリフトはあの帽子を被っていた。

 ベッドでこの服装だったなら、俺も流石に気付いただろう。

 この世界ではゲームと違い、病人は帽子被らないようである。残念。

 

「ジュライ殿……昨晩はお世話になり申した。仲間もこの通り、見違えるほど良くなりましたわい。ほれ、クリフト、そちも礼を言うのじゃ」

 

 クリフトは前に出ると、胸の前で祈るように手を組んだ。

 

「貴方が私を治療してくださったのですね。ありがとうございました。ブライ様から今朝聞いたのです。私の治療をしてくれた方がいると」

 

 クリフトはブライの言う通り、見違えるほどに良くなっていた。

 それは彼から感じる霊気の波動からもわかったくらいだ。

 ここまでくればもう大丈夫だろう。

 かなりの奏功具合である。

 

「おお、良くなったみたいだね。まぁ後は美味しい物を食べて、体力戻せば、もう治ったも同然だな」

「実は今、それもあって、朝食を食べにブライ様と来たところなのです」

「ところで、ジュライ殿はもう朝食は食べられたのかな?」と、ブライ。

「ええ、先程、仲間と食べたところです」

「ふむ、そうか……それは残念じゃな。ところで……昨日のアリーナ様の件なんじゃが……」

 

 ブライは言いにくそうに話を切り出した。

 

「実はの、クリフトの容体も良くなったことじゃし、儂等もジュライ殿達に同行させてもらおうと思うんじゃが、どうかの?」

「ああ、その話ですか……となると、俺の一存で決めるわけにもいかないので、責任者に聞いておきますよ」

「責任者? ジュライ殿ではないのか?」

 

 ブライはそう言って眉根を寄せた。

 どうやら俺がリーダーだと思ってたようだ。

 勘違いしてるようなので、訂正しとこう。

 

「俺は違いますよ。ただの付き人ですから。勇者フォルスという、若くて強くて包容力があるナイスガイな男が、一応、責任者ということになってるので」――

 

 その後、フォルスの了解を取り付け、ザラキ使いとヒャド使いは仮ではあるが仲間になった。

 つーわけで、またまたゲームと違う展開が発生である。なぜなら、この時点で、2人は仲間にならないからだ。

 元を正せば、俺が悪いわけだが、もう普通の展開にはならないに違いない。

 まぁそれはさておき、俺達はその後、ミントスで武装を整え、馬車でソレッタ方面へと向かったのであった。御者はトルネコである。

 

 

   [弐]

 

 

 これはソレッタへと向かう馬車内での話である。

 俺達はそこで、サントハイム一行の境遇を聞くこととなった。

 まぁ大体の経緯はゲーム通りといったところだ。

 やはり、サントハイム城はもぬけの殻になっていたらしい。

 アリーナ姫がエンドールの武術大会で優勝し、サントハイムに戻ったら誰もいなかったそうだ。

 というか、これに関してはゲームでも結局、なぜ消えたのか説明がなかった気がする。

 一応、エンディングではいつの間にか全員戻って来ていたが、それまでどこにいたのかは、俺も未だに知る事が出来ない謎なのである。

 まぁ所詮、ゲームの話なのでどうでもいい事ではあるが。

 

「――そういうことがあったのじゃよ。それ以降、儂等は宛てもなく、消えた王や城の者達を探し続けておるのじゃ。未だ手掛かりはなしじゃがな」

 

 ブライは自分達の境遇を話し終えると、疲れたように溜息を吐いた。

 

「これまで大変だったのですね。心中、お察しします。ところで、アリーナ姫様は凄いのですね。女性なのに、エンドールの武術大会を制覇するなんて……」

 

 フォルスはそう言って感心したように頷いていた。

 まぁわからんでもないところである。

 するとブライは、憮然としながら口を開いた。

 

「そこが儂等の悩みの種でもあるのじゃがな。全く困ったもんじゃわい。のう、クリフト?」

 

 クリフトは苦笑いを浮かべていた。

 

「ええ、まぁ……でも、姫様は武術の腕前もそうですが、あれで中々優しいところもあるのですよ。今も、私の為にパデキアを探しにソレッタへ向かっておりますし。私は……姫様にどこまでもついてゆく所存です」

「それは儂も同じじゃわい。しかし、今頃どうしておるやら……」

 

 ブライはそう言うと、ソレッタがある方角へと心配そうに視線を向けたのである。

 おてんば姫なので、心労が結構溜まってそうである。

 と、そこで、隣にいるミネアが俺の肩をツンツンしてきた。

 

「ジュライさん……今の話、どう思いますか?」

「今の話って……アリーナ姫が武術大会で優勝したって話か?」

「違いますよ! その……サントハイム城がもぬけの殻になっていたという話の方です」

 

 ミネアは少し怯えた表情であった。

 結構勘のいい女性だから、何か恐ろしい力が関わっていると思ったのだろう。

 

「ああ、それか。それは流石に、今の話じゃ情報が少なすぎて、俺も分からないよ。まぁでも、皆で旅行に出かけたわけではなさそうだね。何か不吉な出来事があったのかもしれないな」

「そうですよね。私は……やはり、魔物が関係してる気がします」

 

 ミネアはそう言って表情を落とした。

 ブライもそれに同調する。

 

「うむ。貴方の言う通り、儂等もそう思うておる。それに、城から皆が消える前、少し妙な事もあったのじゃよ」

「妙な事?」

 

 ブライは頷く。

 

「うむ。実はの……これはアリーナ様にも言ってない事なんじゃが……歴代のサントハイム王には、未来を予知する能力があったそうなんじゃ。で、我が王は、その少し前に、巨大な怪物が地獄から蘇るという夢を毎晩見たらしいのじゃよ。しかも、それを大臣に話そうとした途端、声が出なくなるという症状に見舞われたのじゃ。その際は、さえずりの蜜という薬で事なきを得たのじゃがな。それはともかく、今の夢じゃが……儂は予知夢ではないかと思うておるのじゃよ。確証はないがの」

 

 懐かしいアイテム名が出てきた。

 ここでも実在したようだ。

 ミネアはそこで俺を見た。

 

「巨大な怪物が地獄から蘇る……どう思います、ジュライさん?」

 

 俺は遠慮せず、ストレートに答えておいた。

 

「そうだねぇ……もしかするとサントハイムの王様は、地獄の帝王エスタークが復活する予知夢でも見たのかもねぇ」

「じ、地獄の帝王エスタークが復活ですって……そんなまさか……」

 

 シンシアはそう言うや、青い表情になっていた。

 こう見えてシンシアは長寿のエルフなので、恐らく、深い神話レベルの話を聞いた事があるのだろう。

 地獄の帝王と天空の神との戦いの話とかも、もしかすると知ってるのかもしれない。

 

「今までの話から考えると、間違いなく、魔物が関わってそうね。でも、夢で見た事を魔物達はどうやって知ったのかしら?」

 

 マーニャはそう言うと、空を見上げて首を捻った。

 

「姉さんの言うとおりね。どうやって知ったのでしょう」

 

 確かに、そこが一番の謎である。

 思考盗聴でもしない限り、無理な話だからだ。

 

「ジュライさんはどう思いますか? やはり、デスピサロですかね?」

 

 今度はフォルスが訊いてきた。

 俺に聞くなよとは思うが、色々と物語に介入しまくったので、その弊害として受け入れるしかないようである。

 まぁそれはさておき、俺の適当考察でも話すとしよう。

 

「どうと言われてもねぇ……ただ、その予知夢とやらが、地獄の帝王復活に関するモノならば……それをサントハイム王に知られると都合が悪いのは、なんとなく、デスピサロ達ではないような気がするんだよね。これは俺の勘だけど……」

 

 すると全員が意外そうに俺を見た。

 

「どういう事じゃ?」と、ブライ。

「地獄の帝王って太古の昔に封印されたそうですけど……ブライさんとクリフトさんは、どこに封印されたかって知ってます?」

「そんな事、儂が知るわけなかろう」

「私も分からないです」

 

 2人は大きく頭を振る。

 まぁ当たり前である。

 

「ですよね。たぶん、人間は誰も知らないと思います。俺が思うに……サントハイム王はその予知夢とやらで、地獄の帝王が封印されている場所を知ってしまったのかもしれませんね。となると、都合が悪いのは……その場所を知っている者達じゃないでしょうか」

「封印されてる場所を知っている者じゃと……今、お主は誰もおらんといったではないか。そんな者などどこにいるというんじゃ。それとも、巷で噂になっているデスピサロとかいう魔族の王か」

 

 俺は頭を振った。

 

「いいえ、多分、デスピサロじゃないと思います。そもそも奴は、地獄の帝王がどこにいるかを知らないんじゃないですかね。まぁこれは勘ですけど」

「では誰じゃというんじゃ」

「消去法で可能性があるのは、2つですかね。封印された地獄の帝王と、封印したという天空の神でしょうか。まぁこれは伝説が本当ならば……という注釈がつきますけど」

 

 俺がそう告げた後、場はシンと静まり返った。

 程なくして、シンシアが恐る恐る口を開いた。

 

「地獄の帝王と天空の神……確かにそれらの存在なら封印した場所を知っていますね。でも……そんな事……」

 

 シンシアはそれ以上は言わなかった。

 恐ろしくて口にできなかったのだろう。

 

「しかし、ジュライさん……地獄の帝王はともかく、天空の神様がサントハイムの人達を消したというのは、幾らなんでもないんじゃないでしょうか? 理由が見当たりませんよ」

 

 クリフトはそう言って頭を振った。

 神官なだけに疑えないところだろう。

 

「まぁ確かにそうとも考えられますが、天空の神も触れてほしくない部分ならわかりませんよ。伝説が本当ならば、倒す事ができず、封印しか手段がなかったという事ですからね。恐らく、その為には多大な犠牲も払ったでしょうし」

 

 可能性は低いが、実はこれも考えられる1つの推察であった。

 藪蛇になりそうだから、マスタードラゴン的に、今はそっとしておいてほしいという理由も考えられるのである。

 とはいえ、城の者全員を消す理由には確かにならないところだ。

 

「まぁいずれにせよ、サントハイムの城とやらに行けば、何かわかるかもしれませんね。今は結局、この件に関しては根拠となる情報が少なすぎて、答えなんて絶対出ないですよ」

「え? それはどういう事ですか? 行けばわかるとでも?」と、クリフト。

 

 俺はそこで、とある咒法について話す事にした。

 

「物には様々な思いというモノが宿るんですよ。それらを見る事ができる咒法を用いれば、その時、何があったのかわかるかもしれない」

「そんな事が可能なのですか?」と、ミネア。

「上手くいくかどうかは、やってみないことにはわからないけどね。まぁいずれにせよ、俺の一族に伝わる天眼通(てんげんつう)の咒法を用いれば、何かわかるかもよ。思いが強ければ強いほど……それが痕跡として残るからね」

 

 俺がなぜこんな提案をするのかというと、ただ単に興味からである。

 なぜなら、ゲームではあまり語られていないシーンだからだ。

 知りたいという欲求である。

 するとブライが眉根を寄せ、俺に怪訝な表情を向けてきたのであった。

 

「ジュライ殿……お主、一体何者じゃ。なぜそんな事ができる……」

「まぁこう見えて、俺はそれなりに優秀なんですよ」

 

 面倒なので、俺は適当に答えておいた。

 

「そうですね。ジュライさんは確かに優秀です。それは間違いないです」と、ミネア。

 

 すると、その直後であった。

 マーニャが突然、なぜか俺に甘えるように、しなだれかかってきたのである。

 

「やだぁ……ジュライさん。私、なんだか怖いわぁ。お願い、ジュライさん、助けてぇ」

「はぁ? 今の話、そんな怖いか?」

 

 あからさまに、ワザとらしい甘え行為であった。

 ちなみに、オッパイが腕に当たったのでラッキーてな感じである。

 またドサクサに紛れて揉んでやろうかと思ったところだ。

 

「ちょっと姉さん! 何してるのよ! 離れなさい!」

 

 ミネアは俺とマーニャを引き剥がそうとする。

 そんなミネアを見て、マーニャはニコニコとしながら、自ら離れたのであった。

 

「ふふふ、冗談よ。そんなに必死にならなくても良いじゃない。こういうところはわかりやすいわね、ミネアは」

「必死って……もう」

 

 ミネアは恥ずかしそうに頬を染めた。

 なんかよくわからんやり取りであったのは言うまでもない。

 そんな中、御者席にいるトルネコの大きな声が聞こえてきたのであった。

 

【皆さん! 魔物ですよ!】

 

 フォルスは俺を見た。

 

「よし、フォルス。では昨日、トルネコさんから貰った破邪の剣で頑張ってこい。危なくなったら俺を呼べよ」

「はい! ではいつもの通り……シンシアとマーニャさんとミネアさん、行きましょうか」

 

 3人は頷く。

 そして戦闘メンバーは馬車から飛び出し、魔物の集団へと向かっていったのであった。

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