DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv22 ハバリア

 

 

   [壱]

 

 

 ミントスを出てから2日後、俺達は雨に見舞われ、荒波を進む事を余儀なくされた。

 その為、俺達は甲板下の船室にて、今日はずっと待機となる予定である。

 船が波に揺られる度、船室はギィギィと木の軋む音が響き渡っている。耳障りで嫌な音であった。

 また、木造の帆船なので雨漏りとかが心配ではあったが、排水の役目をする頑丈な甲板がある為、雨水は船内に入ってこない構造になっている。

 まぁその辺の心配はあまりしなくて良さそうだ。

 船長の造りが良いというのは、こういうところにもあるのだろう。

 それと、船内には幾つかの部屋があり、1つは貨物室で、他の船室は、スタッフである船乗りと俺達が使っていた。

 で、俺はというと、今はその船室の1つで、休んでいるところであった。

 ここが一番広いので、仲間達も1名を除き、今はここに集合中である。

 部屋の広さは10畳ほどで、真ん中には木製の四角いテーブルが置かれている。

 一応、この部屋は、憩いの場兼会議室として使っており、船内の福利厚生的な場所でもあるのだ。

 とはいえ、今日は雨天のせいで、あまり快適ではない。

 なぜなら、船室は窓を全て締め切っているので、外の明かりや空気があまり入ってこないからだ。

 船室の明かりは、ランタンみたいなモノを天井から吊り下げて照らしてるので、不規則に揺れる上に薄暗く、やや鬱屈とした感じになっている。

 おまけに、今日はやや波が荒いので、皆、少し船酔い気味なのか、言葉少なであった。

 慣れない船旅の疲れもあるのだろう。

 まぁこればかりは仕方ない。海の生活に慣れるしかないようである。 

 ただ、構造材として針葉樹が使われてるのか、檜や松のような香りが船内に漂っており、それが幾分か安息効果を持たせていた。ちょっとした森林浴のリラクゼーション効果といったところだ。

 とはいうものの、雨と荒波の影響で、今はそこまでリラックスはできないところである。

 

(しかし、雨の日は船が揺れるな……。俺は船旅なんてした事ないからわからなかったが、中々大変だ。酔いには強い方だけど、流石にこれがずっと続くと吐くかも……パデキアが酔に効くらしいが、今はないしな)

 

 フォルス達が手に入れたパデキアの種は、ソレッタ王に寄贈したらしい。

 だがゲームとは違い、すぐに成長はしないそうだ。

 とはいえ、成長は早いらしく、7日ほどで収穫できるそうである。

 その辺はご都合主義にはならないみたいだ。残念。

 

(しかし、こんな荒波の時に、魔物が襲ってきたら、最悪だな。まぁいつでも戦えるようにはしとくけど……ン?)

 

 するとそこで、甲板の方へ様子を見に行ったトルネコが帰ってきた。

 トルネコはヒルタン老人から貰った世界地図をテーブルに広げ、真ん中あたりに指をさした。

 

「今、船長に確認しましたら、恐らくこの辺りだとの事です。この辺りは確か……天空に一番近いと言われる島の辺りかもしれませんな」

「天空に一番近い島? そんな島があるのですか?」と、フォルス。

 

 トルネコはニコリと笑って頷いた。

 

「船で上陸できないほど、切り立った高い岩壁に覆われた島があるのですよ。その高さたるや山の如くらしいです。この辺りに住まう者達は、その地域の事を天空に一番近い島と呼ぶらしいですな。ま、とはいうものの、誰も島に上陸したことはないらしいですがね。ですが、晴れた天気の良い日だと、運がよければ、空を突き刺すような一筋の線が遠くから見えるらしいですぞ。普段は雲が多くて見えないそうですがね」

 

 その話を聞き、俺はゴットサイド島の事を思い出した。

 トルネコが指している位置関係を見る限り、ゲームでもその辺りだったはずだ。

 そして、やはりこの世界でも、船で上陸は無理なのだろう。

 

(山のように高い、切り立った岩壁の島か……この表現を聞く限り、島自体の海抜も相当高いんだろうな。おまけに空を突き刺す一筋の線ねぇ……もしかすると、それが天空への塔なのかもな。ま、今はまだ天空装備が1つもないから、そこに至っても登ることは出来ないだろうけど……ン?)

 

 などと考えていると、フォルスはそこで俺に視線を向けた。

 

「ジュライさん……天空に一番近い島があるらしいですが、どう思われますか?」

「どうと言われてもねぇ……ただ、そこに天空城へと続く何かがあるとしても、今の俺達ではその手段がない。ま、気長に行くしかないんじゃないか」

「でも船で行けないとなると、どうやって行くんでしょうね」

「そりゃお前、空からじゃね」

 

 俺がそう言った後、場はシンと静まり返った。

 全員、顔に『無理に決まってんじゃん』と、書いてあるかのような表情であった。

 

(ン、なんか変な事言ったか、俺。まぁでも、ゲームだとそれしか方法ないんだよね。とは流石に言えんか……)

 

 すると、トルネコが苦笑いを浮かべた。

 

「ジュライさん、流石にそれは無理でしょう。私も船は作れましたけど、空飛ぶ乗り物は作れませんよ。そんな乗り物、聞いたことございませんしな」

 

 これが、この世界における現在の常識なのだろう。

 

「現時点だとそうですが、どこかに空飛ぶ乗り物を作ってる人がいるかもしれませんよ。世の中広いですから、何事にも、夢を追いかける馬鹿はいるもんですしね」

 

 空を飛ぶのは、地に足をつけて生きる者達の憧れである。

 これは現実世界でもそうだから、ここでも同じだろう。と、思いたい。

 

「確かにそれはわかりませんな。しかし、空を飛べる乗り物ですか……。私には見当もつきませんな。これから向かうキングレオ大陸も広いですし、調べてみるのも良いかもしれません。かの国には有名な錬金術師もいたと聞きますし……」

 

 俺は今の話を聞き、マーニャとミネアの因縁を思い出した。

 

(あれ……そういや、2人の因縁話を知ってるのって、もしかして俺だけか? 確か、フォルス達には話してないよな。話してるの見た事ないし……ン?)

 

 俺がそんな事を考えていると、隣にいるマーニャとミネアは、やや強張った表情になっていた。

 恐らく、トルネコの話を聞いた事で、自分達の宿命を再確認したのかもしれない。

 

「どうした、ミネアにマーニャさん」と、俺。

 

 すると、マーニャはビクッと肩を震わせ、俺に振り向いたのである。

 その表情からは、いつもの陽気さは見る影もない。

 

「え? あ、いや……ちょっとね。今から向かう、キングレオは色々とあったところだから……昔を思い出しちゃって」

 

 俺は今後の事を考え、2人に進言することにした。

 

「そうだったね……辛いよな。今から行くキングレオは、2人にとって因縁の地だし」

 

 マーニャは目を見開いた。

 

「え? ジュライさん、知ってるの?」

「ああ、ミネアから色々と聞いたよ。エドガンさんの事とかね」

「そうだったの……」

 

 マーニャはなんとも言えない表情で、ミネアを見た。

 複雑な気持ちなのだろう。

 

「姉さん……皆さんにお話ししましょう。私達の事を」

「ミネアの言う通り、この際だし、皆に話した方が良いと思うよ。どの道、避けて通れないと思うしね」

 

 俺達の言葉を聞き、覚悟が決まったのか、程なくしてマーニャは頷いた。

 

「そうね……迷惑をかけるかもしれないけど、皆の力を借りたら、仇を討てるかもしれないもんね。わかったわ」――

 

 その後、マーニャとミネアは、自分達の身の上話を語った。

 仲間達は息を飲み、深刻な表情で、その話に聞き入っている。

 あまり愉快な話ではないので、こればかりは仕方ないだろう。

 よく考えたら、導かれし者達は、魔物に運命を狂わされた者ばかりなので、かなり共感してるに違いない。

 

「……そういうことがあったの。そして、私達はエンドールに逃れて来たのよ。そこでフォルス達と出会って、今はここにいるわけだけどね」

 

 マーニャが話し終えると、仲間達は暫し無言であった。

 なんとも言えない重い空気が漂っている。

 そんな中、まずフォルスが言葉を発した。

 

「まさか……キングレオの王子が魔物になってただなんて……そんな事が……」

 

 するとアリーナが握り拳を作り、勇ましい声を上げた。

 

「そんな奴……私がブチのめして上げるわ! 絶対に許さないんだから!」

「姫、無茶はいけませぬぞ。落ち着きなされ」

 

 ミネアは不安げに俺を見る。

 

「あの、ジュライさん……キングレオの王子が魔物になったのは……やはり、父の発見した進化の秘法が関係してるのでしょうか? 仇のバルザックも魔物になってましたし……」

「かもしれないな。進化の秘法か……生物の進化を捻じ曲げる秘法らしいが、そんな事をして何が楽しいんやら。人も魔物も……欲望には果てがないねぇ。エドガンさんも、それを危惧して闇に葬る予定だったんだろうが……」

「はい……ジュライさんの言う通りだと思います」

「しかし……人を凶悪な魔物に変えてしまうような秘法に打ち勝てるのですか?」と、トルネコ。

「勝てるのかじゃなく、勝つのよ!」

 

 普段は自重してほしいが、こういう時は頼もしいアリーナであった。

 マーニャはそこで仲間達に視線を向け、祈るように両掌を組んだ。

 

「皆……私達の仇討ちに、少し力を貸してもらってもいい?」

 

 仲間達は頷いた。

 

「勿論です」

「私も行きます」

「私がやっつけて上げるわ」

「お供します、姫様」

「姫が行くのなら、儂も行くしかなかろう」

「私の力で良ければ、いつでもお貸ししますよ」

 

 皆、力強いコメントであった。

 そして、まだコメントしてない俺に、皆の視線が注がれるのである。

 

(この空気の中で、俺は行かない……とは流石に言えんな。仕方ない。同調圧力に弱い日本人らしく、熱く語っとくか)

 

 俺はそこでミネアとマーニャに視線を向けた。

 2人は不安そうに俺を見ている。

 ダメと言われたら……と考えてるのかもしれない。

 そんな2人を見てたら、こう言うしかないだろう。

 

「心配すんな。俺も力を貸すからさ。キングレオだろうが、バルザックだろうが、悪事を働いた報いは受けさせないとな。それが世の中ってもんだよ」

 

「ありがとう……ジュライさん。貴方が力を貸してくれるなら、どんな奴にも勝てそうな気がするわ」

 

 マーニャはそう言って安堵の息を吐いた。

 するとそこで、ミネアが俺の手を取り、目を潤ませながら、祈るように両手で包み込んだのである。

 

「ありがとうございます、ジュライさん……私達の我儘を聞いてくださって。よろしくお願いします」

「待て待て、泣くのは目的が達せられた時だよ」

「はい、そうですね。でも……なぜか出ちゃうんです。なんででしょう……」

 

 ミネアは袖で涙を拭う。

 俺はそんなミネアを見て、思わず抱き締めてやりたい衝動に駆られたが、セクハラになりそうなので思い留まる事にした。

 そして船は、荒波の中を静かに進むのであった。

 

 

   [弐]

 

 

 ミントスを出港してから5日後、船は順調に進み、俺達はようやくハバリア港へと到着した。

 今は太陽の位置を見る限り、昼頃だろう。

 気温は30度くらいありそうだが、湿度はあまりなく、カラッとしているのが幸いであった。

 さて、そのハバリアだが、ここはキングレオ大陸最大の港湾都市で、石積みの防潮堤で囲われた大きな街であった。

 街の規模的にはコナンベリーに近い感じだが、今はキングレオ王家の悪政の影響か、活気がない。

 港には船も少ない上、魚が腐ったような臭いが漂っていた。

 また、ハバリアの大通りはすべて美しい石畳で整備され、沿道には花壇などもあったが、今はあまり手入れがされてないのか、枯れて萎んだ草花で埋め尽くされていた。

 折角の美しい景観が台無しである。

 それ以外にも、治安が乱れているのか、通りにはゴミなども散乱していた。

 おまけに、人々の表情も全体的に笑顔が無く、冴えない感じなのである。

 道で寝ている酔っぱらいもいるくらいだ。

 国民の心も、悪政によって荒れ始めているのだろう。

 とはいえ、ミネアが言うには、ついこの間まではエンドールとの交易が盛んに行われてたそうで、活気があったようである。

 しかし今は、キングレオ王家の交易禁止令が出た影響もあり、この有り様との事だ。

 まさに絵に描いたような、失政による経済低迷効果といったところである。

 まぁそれはさておき、俺達は下船した後、マーニャの案内で街の酒場へと繰り出すことになった。

 まずは情報収集との事である。

 酒場は街の入口付近にあった。

 青い屋根と白い壁が特徴の欧州的な四角い建物で、そこにはジョッキと酒瓶の絵が描かれた看板が掲げられていた。モロである。

 先頭を進むマーニャは、その建物を指差し、こちらに振り返った。

 

「ここがハバリアで一番大きな酒場よ。やっぱり、情報はこういうところで仕入れるしかないわね。外は明るいけど、店には誰かいると思うわ」

 

 というわけで、俺達はマーニャの後に続き、酒場へと足を踏み入れたのである。

 この街で一番大きな酒場というだけあり、中はやや暗いが、それなりに広い酒場であった。

 カウンター席と複数の丸テーブルというシンプルな作りの酒場だが、大勢の人と酒を楽しむ場所なので、こんなので十分である。

 また、酒場内には客もそれなりにいた。

 これだけ街が荒れてると、昼間から酒を飲む奴等もいるのだろう。

 まぁそれはさておき、俺達が店に入ると、カウンターの近くにいるトレイを持った金髪の女性が近づいてきた。

 大きな胸と太ももを強調した赤いドレスを着ており、男共が寄ってきそうなエロい格好の女性であった。

 ちなみに、顔はなかなかに美人である。

 

「いらっしゃ~い。見ての通り空いてるから、好きなところに掛けて良いわよ……ん? あれ、貴方……もしかしてマーニャ?」

「え? もしかしてシェリー?」

 

 どうやら2人は知り合いのようだ。

 シェリーと呼ばれた女性は笑みを浮かべた。

 

「やっぱりそうだ。やだぁ、久しぶりじゃない。噂でキングレオの兵士に捕まったとか聞いたけど、元気そうで良かったわ」

「そういうシェリーこそ。でも、もう踊り子はやめたの? モンバーバラでは売れっ子の1人だったのに……」

 

 すると女性は目尻を下げ、暗い表情になったのであった。

 

「実はね……マーニャが辞めた後、キングレオの兵士達が来て、踊り子達が強引に何人か連れてかれたのよ……それがあってから怖くなって、皆、劇場を辞めたのよね。今はもう、モンバーバラに踊り子は誰もいないんじゃないかしら」

「そんな事が……あったの」

 

 マーニャはそれを聞き、わなわなと握り拳を作った。

 相当頭に来てるようだ。

 と、そこで、シェリーという女性は周囲を気にしながら、マーニャに囁いたのである。

 

「マーニャも気をつけてね。今、キングレオの新しい王様は、若い女を攫ってヤバいことしてるって噂だから……。王子は魔物に魂を売り渡したという者もいるし、その王子を操る凶悪な魔物がキングレオ城にいるという者もいるわ。もうこの国はおしまいよ……」

 

 それを聞き、マーニャとミネアの表情が強張った。

 シェリーという女は続ける。

 

「この間、ライアンとかいう旅の戦士にその話をしたら、怒りを顕わにして出ていったわ。あの人、大丈夫かしら……キングレオの城に向かいそうな雰囲気だったけど……」

 

 シェリーはそう言って、街の入口の方角へと視線を向けたのであった。

 導かれし最後の者との対面が近づいてきたようだ。

 だがそれよりも、女性の語った内容が少し気がかりであった。

 もしかすると……ゲームよりも深刻な事態が起きているのかもしれない。

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