[壱]
ハバリアの酒場で話を色々と聞いた後、俺達は更に情報を得る為、武器屋や道具屋などにも顔を出し、聞き込みした。
その結果、得られた情報は、キングレオ王家の黒い噂と、錬金術師エドガンが魔法の鍵を作り出したという話だけであった。
他には大した情報もなかったので、俺達は一旦船に戻り、船室で作戦会議となったのである。
船で作戦会議をするのには勿論理由がある。
やはり、ここは敵地なので、情報リークが怖いからだ。
まぁそれはさておき、全員が揃ったところで、まずフォルスが話を切り出した。
「それでは皆さん、これからなんですが……どうすると良いですかね? 僕は残念ながら、この土地の事はよくわからないので、良い案が思い浮かばないんです。魔物であるキングレオ王を倒すとなると、色々と障害が多すぎると思いますし……」
フォルスはそこで言葉を切ると、モンバーバラ姉妹に視線を向けた。
「この土地の出身者であるマーニャさんとミネアさんは、どう思われますか?」
マーニャとミネアは互いに顔を見合わせる。
「私達もキングレオやバルザックに顔が割れてるから、正面から行くのは不味いのよね。あの城は裏口があるから、そこから行くといいかも。でも、今はどうなってるかわからないから、あまり当てにはできないわね……」と、マーニャ。
「しかし……かといって、他に方法があるかというと……私にはわからないです」
ミネアはそう言って表情を曇らせた。
するとアリーナが、正拳突きするような仕草で、威勢よく前に出てきた。
「面倒だから、正面から行けばいいじゃない。私が扉を蹴破ってあげるわ!」
恐るべき、脳筋理論である。
コイツは本当にそれをやりそうだ。
「アリーナ姫様、それは幾ら何でも……相手は魔物だけでないので」
クリフトは苦笑いを浮かべ、アリーナを諫めた。
そしてフォルスは困った表情になり、俺に視線を向けたのであった。
「ジュライさん……どうするといいのでしょうか。僕は、こういうの疎くて……」
どうやらフォルスは、戦略を練るのは苦手なようだ。
おまけに、自分達が何をしようとしてるのか、わかってないようなので、俺はそれを指摘しておく事にした。
「お前な……どうもこうも、今回の目的は敵大将の首……つまり、キングレオ新政権の王様だ。一国の王を討つって、どういうことかわかるか? 普通なら戦争おっ始めるような行為だぞ。まぁ今回は魔物に乗っ取られてる状況だから、ある意味、大義名分はたつが、俺達はそういう大それた事をするんだという認識をまず持て。ただの魔物退治とはわけが違うんだよ。王様を討つことによって、この国は一時的に権力の空白ができるんだ。場合によっては……国が乱れて内戦になり、国民が路頭に迷う可能性もあるんだからな」
「な、内戦……」
フォルスは俺の言葉を聞き、少し青褪めた表情になった。
現実を理解したのだろう。
他の皆も同様であった。軽く考えていたに違いない。
「まぁそれはともかくだ。国王を討つつもりなら、当然知らなきゃいけないことがある。キングレオ城に駐留する兵力と警備の体制、それから俺達の侵入経路や侵入方法だ。それに加えて、国王がいる場所の特定だよ。船で聞いたマーニャさんの話だと、影武者の可能性も念頭に置かなきゃいけないしな。それらを知らなければ、目的達成はまず無理だと思ったほうがいい」
俺が話し終えると、場はシンと静まり返っていた。
重い空気が辺りに漂う。
そんな中、ブライが珍しく言葉を発したのである。
「その通りじゃ、ジュライ殿。流石にお主は、現実をわかっておるようじゃな。よって、儂はそのような事に姫が参加するのは、あまり良しとは思っておらぬ。今はこんな感じじゃが、かつてサントハイムとキングレオはそれなりに交流もしておったのでな。まぁそれは今は置いておこう。話がそれたが、ジュライ殿はどうやってそれらを調べるつもりじゃ? この街で、それらの情報を仕入れるとしても限界があるじゃろうて」
ブライは宮仕えが長いだけあり、現状をある程度把握はしてたようだ。
ゲームでは髪と影の薄い爺さんだったが、この世界じゃ髪が薄いだけで、存在感は示しそうな感じである。
まぁそれはさておき、俺は自分の意見を述べる事にした。
「爺さんの言う通り、この街じゃ、もうこれ以上の情報は得られないだろう。そもそも、ここはキングレオ城じゃないから、今の現状はわからない。だから、もう直接、城に行って調べるしかないよ。行けば、今のキングレオ城の付け入る隙が見つかるかもしれない」
そこで俺は、ゲームの知識を思い返した。
(確かゲームだと、ここは魔法の鍵が必要だったんだよな。ゲーム通りなら、コーミズ西の洞窟に行くことになるけど、ここはちょっと違う世界だからなぁ……。まぁそれも含めて、行ってみるしかないだろう。もしかすると、違う方法でキングレオ城内に入れるかもしれないし……)
俺がそんな事を考える中、ブライはそれに賛同した。
「うむ、そうじゃな。お主の言う通り、それしかあるまい。ここにいては恐らく、何もわからぬじゃろうからな」
俺はそこでフォルスに視線を向けた。
「フォルス、これが俺の意見だ。とりあえず、俺が今言った事を知るには城に行くしかない。ここで議論をしていても、何も始まらないよ。後は……責任者にして勇者であるお前の判断だ」
フォルスは覚悟が決まったのか、真顔になり、静かに頷いた。
「ジュライさんの言う通りですね。ここにいても何もわかりません。行きましょう、キングレオ城に」――
[弐]
俺達は翌日の早朝、キングレオ城へと馬車で向かった。
やや暑かったが、本日も快晴で旅日和の天気であった。
ハバリアの街を出た俺達は、キングレオ城まで続いているという平原の街道を南に進んでゆく。
その道中、魔物を何回か蹴散らしながら半日ほど進むと、俺達はいつしか、キングレオ城の付近にあるという丘陵地帯へと差し掛かっていたのであった。
マーニャとミネアの話によると、キングレオ城はこの丘陵地帯を抜けた先にあるそうだ。ようやくである。
まぁそんなわけで、徐々に目的地が近づいてきているわけだが、ここにきて想定外の事態が俺達を待ち受けていたのであった。
なんと、キングレオの兵士達が検問をしており、俺達は街道の途中で、足止めを余儀なくされたのだ。
キングレオの兵士は両手を大きく広げ、俺達の前に立ち塞がった。
兵士の数は10名。全員、王家の紋章が入った重装備をする兵士達であった。兜まで被ったフルアーマー兵士である。暑いのにご苦労さんな事だ。
御者席からトルネコの大きな声が聞こえてくる。
「ちょっとちょっと、何なのですか、一体! 我々は何もやましい事はしておりませんよ!」
責任者と思わしき兵士が声を荒げた。
【黙るがいい! ここより先は、キングレオ城なり! ここ最近、我が王に逆らう愚か者が多い為、お前達を調べさせてもらう! 問答無用だ!】
その直後、他の兵士達は馬車の後ろに回り、中を覗き込んできたのである。
兵士の1人が大きな声を上げた。
【隊長殿、馬車の中には8名います!】
【全員、外に出せ!】
【ハッ! 全員、馬車から降りるんだ!】
そして、俺達は全員、馬車から降りる事となったのだ。
続いて隊長と呼ばれる男が、次の指示をしてきた。
【全員、横一列に並ばせろ!】
【ハッ!】
俺達は横一列に並ばされる。
すると、隊長と呼ばれた兵士は、俺達を順に見てゆき、ニヤリと笑ったのであった。
【この若い女4人を王の元へ連れて行くぞ! 他の者は牢へ連行しろ!】
【ハッ!】
【な! そんな横暴な!】と、トルネコ。
この検問は恐らく、これが目的なのだろう。
つまり、若い女を拉致する為のモノだ。
男は口封じで連行されるのかもしれない。
ゲームにはなかった展開だが、ここまでする理由が気になるところである。
(さて……コイツ等の霊気の質からすると、魔物ではないな。コイツ等は人間だ。とりあえず、色々と話を聞きだして、利用させてもらうとしよう。しかし、ここまでするかね……)
などと考えつつ、俺は大きな声で仲間に指示を出した。
「ミネアとシンシア、コイツ等にラリホーをお願い」
「わかりました。ラリホー」
「はい。では、ラリホー」
ミネアとシンシアが呪文を唱えると、灰色の霧みたいなのが兵士達を覆う。
するとその直後、7人の兵士達がバタバタと倒れ、眠りについたのである。
しかし、隊長と思われる兵士と、その取り巻き2人は、ラリホーの霧からうまく逃れていたのであった。
隊長と思われる兵士が声を荒げる。
【な! 貴様等! おのれ、我等に歯向かうつもりか!】
兵士は剣を抜く。
だがその前に、俺が動いていた。
俺は霊力を練り上げ、3人へと幽震尖を素早く打ったのである。
そして次の瞬間、奴等は金縛りに遭い、動きを止めたのであった。
ちなみに、鉄の兜で額と頬が隠れていたので、眉間に打ちこんでおいた。これでも効果アリである。
と、そこで、トルネコとマーニャの陽気な声が聞こえてきた。
「おお! 流石ですな、ジュライ殿。手際がすばらしいです」
「本当よね。ジュライさん、判断が早いから助かるわ」
続いて、アリーナの声が聞こえてきた。
「ふうん、流石、私に勝っただけあるわ。もう一度手合わせ願いたいものね」
とりあえず、今のは聞こえなかった事にしよう。
そこで、フォルスが隣に来た。
「ジュライさん、兵士達は無力化しましたが、これからどうされるのですか?」
「ん、これからか? それは勿論、コイツ等から事情聴取するんだよ。と、その前に、なにか縛る物ってあるかい?」
「馬車の中に日除けの固定に使う紐がありましたので、それでいいですかね?」と、フォルス。
「ああ、それでいい。とりあえず、それでコイツ等を縛り上げるぞ」――
兵士達を縛り終えたところで、俺は金縛りに遭っている兵士3人の術を解いた。
ちなみに、ラリホーに掛かっていた兵士達はほぼ目が覚めているが、両手両足を拘束してるので、今は身動きできない状態である。
まぁそれはさておき、事情聴取開始だ。
「おい、キングレオ兵の隊長さんよ。単刀直入に訊くが、お前等の王様は魔物か?」
「ふん……知らんな。何でそんな事を答えなきゃいけないんだ。お前等のような野盗風情に答える筋合いはないわ!」
「ほう、そんな口を利くのかい。ならこっちにも考えがある」
俺はそこで霊薬と筆を取り出し、戒めの秘紋をコイツの額に施した。
するとその直後であった。
【ギャァァァ! あ、頭が割れるように痛い! グァァァ】
隊長兵士は転げまわるように絶叫したのである。
その様はまさしく、七転八倒であった。
それを見た他の兵士達はドン引きであった。
勿論、フォルス達もである。
あのアリーナですら、引いてる状態だ。
そんな中、ミネアが恐る恐る訊いてきたのである。
「あ、あの……今、この人に何をされたんですか?」
「ああ、これか。これは戒めの秘紋と言ってだね、術者に悪意を向けると、強烈な頭痛に見舞われるんだよ。俺も昔、修行中に、クソ親父から罰としてされたことあったけど、まぁ……凄い痛さだよ。もう本当に、頭が割れるかと思ったからね」
「そ、そうなんですか」
ミネアは口元をヒクつかせていた。
ある意味、衝撃の光景なのだろう。
まぁそれはさておき、今は事情聴取である。
「お~い……ちゃんと答えるなら、痛みから解放してやるぞ。どうする、俺が術を解かん限り、一生続くぞ」
兵士は俺に向かって涙目で懇願してきた。
【言う言う言う言う……言うから! だから、もうヤメテクレェェ!】
観念したようなので、俺は戒めを解いてやった。
兵士はゼーゼーと息を荒げながら、地面に突っ伏していた。相当堪えたようだ。
つか、かなり早いギブアップである。
口を割るのにもっと時間がかかるかと思ったが、これを見る限り、忍耐力は大したことなさそうだ。
俺は質問を再開した。
「で、どうなんだ? 魔物なのか?」
「ああ……アンタの言う通りだよ。もはや我が王は、魔物そのモノだ。俺は一度、大臣達と共に、王が魔物に変身するのを見たが、恐ろしい姿だったよ。他言はせぬよう言われたがな。しかし……王は王だ。我等は命令に逆らえぬ。お前らにはわかるまい、我等の辛さを! 女を連れて行かねば、今度は我等の家族が犠牲になるのだ。恨むなら恨むがいい!」
どうやら逆らえんように、兵士の家族は人質状態のようである。
恐怖と束縛による政治統制を敷いてるようだ。
「へぇ……なかなかの暴君だ。恐怖で政治統制してるとはね。まぁいい、話を続けよう。今、キングレオ城には、王の他に魔物はいるのか?」
「さあな……だが、今の王の側近に、ついこの間まで
「バルザックですって!」
「やはり、バルザックはいるのね」
マーニャとミネアが険しい表情になった。
父の仇なので、まぁこの反応は仕方ないだろう。
だが、俺は少し引っかかりを憶えたのであった。
なぜなら、ゲームだとこの時期、バルザックはそろそろサントハイムにいる筈だからだ。ここにはいないのである。
(やはり、何か細部が違っているな。俺が横やり入れた影響だろうが……まぁいい、確認してみよう)
俺は質問を続けた。
「で、バルザックとやらは、今、キングレオの城にいるんだな?」
「ああ、いる筈だ。とはいっても、ここ最近、声は聞くが、奴の姿を見た者はいないがな」
「ン? どういう意味だ」
「我等が若い女を捕まえた時、女を連れて王に謁見するのだが、その時、奴は姿を見せず、いつも声だけなのだ。そう、いつもそうだ。玉座の後ろにある暗い場所から、バルザックの声だけが聞こえてくるのだよ」
姿を見せなくなったというのが気になるところだ。
「なるほどね……姿を見せない、か。で、奴は何を言ってくるんだ?」
「奴はそこで女を鑑定し、選別するのだよ。なぜかは知らないがな。進化の秘法というのに、質の良い若い女が沢山必要だと言ってたが、我等に質問は許されてないから、これ以上の事はわからない」
「お前の話聞いてると、胸糞悪くなってきたよ。まぁいい、他の事を聞こう。城にいる者達はどんな感じだ? 何者かに操られていたりとかはないのか?」
すると兵士は思案顔になったのである。
何か思うところがあったのだろう。
程なくして兵士は口を開いた。
「確かに……そうかもしれんな。操られてるのかもしれん。城にいる者達は、我等が声をかけても返事をしない事が多いのだ。まるで上の空のように……」
「へぇそういう事もあるのか。なるほどね。さて、それじゃあ、最後だ。我々はこれからキングレオ王を成敗しに行くんだが、お前達は俺達に協力してくれるか?」
兵士達は顔を見合わせる。
しかし、その表情は暗い。
無理だと思っているのだろう。
「あいにくだが……キングレオ王を倒すのは無理だな。謀反を起こした我が国の最強剣士である将軍ですら、成す術無くやられたのだ。お前達では勝てるわけもない。幾らお前が、おかしな術を使えるといってもな。だから協力はしない」
「ン? キングレオ王に楯突いた人がいたのか?」
「ああ、いたよ。キングレオ正規軍の将軍・グレン様だ。女を攫えという命令に反対した上、王が魔物と知って、その場で謀反を起こされたよ。結果は無残なモノだったがな」
どうやら、正義感にあふれる人だったのだろう。
「なるほどね。で……お前達はそれにビビって人攫いの片棒を担いだわけか。見下げ果てた奴等だな」
「う、うるさい! 我等も立場というのがあるのだ!」
「なら、なぜベラベラと機密事項を話す?」
「それはお前が訊いたからだろう」
「ああ、そうだ。簡単に口を割ったもんな、お前。あんなに早くギブアップするとは思わなかったよ。大した忠誠心だ」
「グッ……」
隊長兵士は苦虫を噛み潰したように黙った。
痛いところを突かれたからだろう。
それはともかく、コイツと話しているとムカついてしょうがない。
これまでずっと、強い奴に尻尾を振って生きてきたのだろう。
「お前等みたいな、どっちつかずの奴等は虫酸が走るよ。だがまぁ、魔物達にとっては、扱いやすくておめでたい奴等に違いないがな。だからキングレオ王は、お前等に正体を見せたんだろう。脅せば簡単に尻尾を振る腰抜けだからな」
「何! 我等を愚弄するつもりか!」
「つもり? 違うね。愚弄してるんだよ。さて……」
俺はそこでマーニャとミネアに視線を向けた。
すると2人は下唇を噛み、ワナワナと震えていた。
明らかに怒っている感じだ。
これは意見を聞くしかないだろう。
「コイツ等をどうする? まず2人の意見を聞いとくよ」
マーニャは頷くと、隊長兵士に問いかけた。
「貴方達……今まで何人の女を攫ったのかしら?」
「そんなのイチイチ数えてられるか! コッチも必死なんだよ! モンバーバラまで何回行ったり来たりしたと思ってる!」
その瞬間、マーニャから物凄い怒りの霊気が発せられたのである。
どうやらコイツは、虎の尾を踏んでしまったようだ。
「貴方達みたいな奴のせいで……私の仲間はッ! 許さないわ!」
マーニャは今にも殺しかねない雰囲気であった。
とはいえ、マーニャに殺人はさせたくないので、俺はここで間に入ることにした。
「マーニャさん……殺しはだめだよ。この際だし、こいつ等には無理矢理にでも利用させてもらうとしよう」
「利用? 何をするつもりなの?」
「コイツ等は利用価値があるんだよ。楽に城ヘ侵入するためにね」――