[壱]
キングレオ兵士への事情聴取を終えた俺達は、それから暫く進み、ようやく目的地へと到着した。
キングレオ城……それは、標高300メートルほどの高さがある丘陵地帯に四方を囲われ、その中心に位置する西洋風の城であった。
言うなれば、天然の要塞に守られるような形であり、軍事的な意味合いからも、攻略しづらい城となっている。
またそれ以外にも、ゲームと違って高い城塞に覆われており、その向こう側は城下町となっていた。
宿屋や武器屋や道具屋などもあったが、規模はそれほど大きくはない。
街としては、ハバリアよりも全然小さいくらいだ。
しかし、この町は、城を形成する城塞の中にある為、どちらかと言うと、城の一角という位置づけなのであった。
なぜならば、ここは町の規模よりも、遥かに城の面積の方が大きいからだ。
そして、その城下町の奥には、四角い石をレンガ積みにして建てられた、堅牢で巨大なキングレオ城が鎮座しているのである。
俺達は今、そこにいる。人数は19名。
メンバーの内訳は仲間達全員に加えて、道中拘束したキングレオの兵士達である。
ここにいるのは勿論、これからキングレオ城内に侵入するためだ。
そんなわけで俺達の眼前には、キングレオ城の正面玄関にあたる大きな扉がある。
木と金属でできた両開きの大きな扉で、中央には、獅子を象った厳かなキングレオ王家の紋章が、レリーフとして描かれていた。
また、その扉の両脇には、重装備をした20人くらいの衛兵が、背筋を伸ばし立っているところだ。
見ての通り、警備は異様なくらいに厳重であった。
衛兵の数が多過ぎだからである。
(しかし……なんでこんなに沢山の衛兵が出張ってるんだ。今まで見てきた城の玄関扉なんて、せいぜい数人だと思うが……。まぁいい、ちょっと嫌な霊気を城の奥から感じるが、俺達はやるべきことをやるのみだ……)
というわけで侵入方法だが、俺達は捕らわれたフリをして、正面から堂々と入城するという作戦である。
現状、これが一番安全に侵入できる方法なのだ。
災い転じてなんとやらである。
話は変わるが、隊長兵士と他の兵士達は協力的ではなかったので、コイツ等には戒めの秘紋を施して、いつでも発動できるようにしておいた。
まぁ早い話が、脅して俺達の作戦に従わせているのである。
コイツ等は恐怖心を与えないと従わないので、致し方ない方法だったが、少しは贖罪しろと言い包めておいた。
なぜなら、命令とはいえ、コイツ等は悪事に加担していた責任があるからだ。こればかりは見逃すわけにはいかないのである。
というわけで話を戻そう。
玄関扉の前に来たところで、隊長兵士が怪訝な表情になり、衛兵に声を掛けた。
「どうしたんだ? この厳重な警備は?」
隊長の言葉を聞く限り、どうやら、いつもと違うようだ。
ということは、恐らく、何かがあったのだろう。
衛兵の1人が答える。
「実は先程、城に忍び込もうとした怪しげな旅の戦士を捕まえたのだ。大臣の尋問が終わりしだい、王様の前に連れて行かれるはず。恐らく、奴もそれまでの命だろう。気の毒にな……」
デジャヴを感じるやり取りであった。
もしかすると、既にライアンが来ていたのかもしれない。
(しかし……もしライアンなら、よくこのタイミングでココに来たなって感じだ。タイミング良すぎだろ……)
俺がそんな事を考える中、隊長兵士がそれに相槌を打った。
「そんな奴が来たのか。愚かな奴だ。キングレオ王に楯突くなど……馬鹿なことを。どうせ、無残な結果になるだけなのにな」
なんとなく、俺達に向けて言ってる風であった。
これがコイツの本心なのだろう。
「まったくだ。さて、それはそうと、また若い女を連れてきたようだな。しかも美しい者達ばかりだ。哀れな……。で、そっちの男共は、地下牢行きの者達か?」
衛兵は悲しげな表情で女性陣を見た。
少しは罪悪感があるのだろう。
しかし、野郎組に関しては、何も哀れみがないのが腹立つところだ。
こんな状況じゃなかったら、俺はこいつにも戒めの秘紋を施してた事だろう。
運がよかったな、クソ兵士共! といったところである。
まぁそれはさておき、隊長兵士はそれに答えた。
「ああ、そうだ。よって、また、王にお目通しだ。悪いが、扉を開けてくれぬか?」
「よかろう、通るが良い」
衛兵はそう言って扉を開けてくれた。
そして俺達は、城内への侵入に、アッサリと成功したのである。
[弐]
城内に入った俺達は、隊長兵士の後に続き、廊下を進んで行く。
廊下には、高級感が漂う赤い絨毯が敷かれており、壁には絵画や甲冑が幾つか飾られていた。
豪華な城の廊下といった感じだが、擦れ違う人々はどこかおかしかった。
隊長兵士の言う通り、焦点の定まらない眼で、うつらうつらとしながら歩いている者が、結構いたのである。
その他にも、イカれた女を追いかけまわすアホな兵士の姿もあり、全体的に、かなりおかしな雰囲気が蔓延する城内であった。
魔物に何かされてるのは、まず間違いないところである。
(なるほどね……確かに、操られてる感じだな。どうやってかはわからないが、多分、魔物達が暗躍してるに違いない。ン?)
ふとそんな事を考えながら歩いていると、前方で何やら騒ぎが起きていた。
俺達が進む先にある大きな扉の前で、数人の兵士達が入り乱れて騒いでいたのだ。
そこから大きな声が聞こえてくる。
【おのれ、貴様! 大人しくしろ!】
【ええーい! 貴様等ごときに、このライアンが押えられるものか! デヤァァァ!】
【ウワァァァ】
その直後、1人の兵士が宙を舞ったのであった。
俺はそこで、自信が確信に変わった。
(はい、確定です。大きな声で自供してます。奴は男版脳筋キャラである王宮の戦士で、間違いない!)
というわけで、忍び込もうとしていた旅の戦士は、ライアンで決まりだろう。
ライアンは今、他の兵士達の手を振りほどき、もう1人の兵士にも、思いっきり背負投げをしているところであった。
ちなみにライアンの出で立ちは、勿論、ピンク色の鎧姿だ。
古代ローマ帝国の指揮官が被ってそうなモヒカンが付いた鉄兜と、チャップリンみたいな口髭もイメージ通りである。
年は恐らく、30歳前後といったところだろう。
また、鎧の間から見える体躯はかなり筋肉質で、上背も180cmは優にありそうであった。
まさに、歴戦の戦士といった風格を持つ男である。
今後は前線で頑張ってくれるに違いない。
まぁそれはさておき、俺達は程なく、その現場に到着した。
そこで隊長兵士が俺に振り返る。
「お前に言われた通り、連れてきたぞ。前が騒がしいが、この扉の向こうが謁見の間だ。そこにキングレオ王がいる。後はお前達がどうするかだ。我々はここで失礼するぞ。殺されたくないんでな」
この期に及んでも、相変わらず、保身しか考えてないようだ。
目には目をで、お礼を返す事にした。
「ああ、ご苦労さん。お前達はもういいよ。自分の国を守ろうともしない臆病兵士に、俺達も用はないからな。どっちが勝つか、どこかで賭けでもしてればいい」
俺の言葉を聞き、兵士達3人は悔しそうに唇をかんだ。
隊長兵士は涙目で声を荒げる。
「クッ……お前に俺達の何がわかる! 俺達だってな……こんな事はしたくないんだよ!」
「ああ、そのとおりだ。お前達の事なんて、全然わからないさ。自分達で過ちを正せないなら、引っ込んでいろと俺は言ってるんだ。後は……こっちで決着をつけてやるよ」
兵士達は言い返すこともなく、静かに俯いていた。
少しは自分達が情けなくなってきたのだろう。
俺はそこで仲間を見た。
仲間達は真顔になり、静かに頷いていた。
どうやらもう既に、覚悟は決まっいてるようだ。
では始めるとしよう。
【よし、では行こうか。悪魔退治にな……】
俺達は移動を始めた。
扉の前に到着すると、いざこざはもう終わりを迎えていた。
キングレオの兵士達は床に叩きつけられ、全員ノビているところである。
これを見てもわかる通り、ライアンはなかなかの猛者であった。
俺はそんなライアンに、労いの言葉をかけた。
「よう、ご苦労さん。アンタなかなかやるねぇ」
「ン?」
ライアンはそこで俺に振り返る。
するとその直後、ライアンは大きく目を見開き、俺の両肩を掴みながら、熱く語りだしたのであった。
【ぬおおー! ついに捜し求めていた勇者殿にお会いする事が出来たぞ! お告げ所の預言者は、今日のこの日に、勇者は私の前に姿を現すと言っていた! まさしく、お告げ所のお告げ通り! この部屋の中にいるのは世界を破滅せしめんとする邪悪の手のものと聞きます! 共に打ち倒し、その背後に潜む邪悪の根源を突き止めましょうぞ!】
俺に向かい、わけのわからん事を熱く語るライアンであった。
(なんか知らんが、コイツは盛大に勘違いしてるな……恐らく、極度の緊張でパニクってるんだろう……)
というわけで、俺はライアンの顔を両手で掴み、フォルスへと強引に向けたのである。
「勇者はコイツだ。俺じゃない」
するとライアンは、なぜか首を傾げた。
「え? こちらの若者が勇者? おかしいな……お告げ所の預言者は、黒っぽい衣服に身を包み、頭に黒い布を巻いた男と言ってた気がするんだが……はて、聞き間違いか……」
俺はこれを聞き、突如、頭痛と眩暈が襲ってきた。
なぜなら、俺の見た目とこの内容が酷似してるからである。
「ちょ、ちょっと待て! アンタが探してるのは、天空の勇者だろ?」
「天空の勇者? いや、私が探してるのは、邪悪なモノを討ち滅ぼす勇者だが……」
話がイマイチ噛み合わない。
とりあえず……確認してみよう。
「おい、アンタ……そのお告げ……一体、どこで聞いたんだ?」
「ハバリアの西を海岸沿いに進むとある、海辺のお告げ所だが」
思い返してみたが、ちょっとわからなかった。が、あったような気もした。
(なんで俺が勇者なんだよ、ふざけんな! そのお告げ所とやらに行って、問いただしてやる! 勝手にストーリー変更しやがって! ン?)
と、その時であった。
城内に大きな声が響き渡ったのである。
【
時代劇の終盤のようなセリフが響く中、ライアンは俺の肩に手を置いた。
【ここは私が引き受けた! 勇者殿はこの向こうにいる化け物を成敗してくだされ!】
【だから、俺は勇者じゃないって!】
【それは後にしましょう。さあ早く中へ!】
ライアンは扉を開き、俺達を謁見の間に入るよう促してきた。
俺はまだ釈然としなかったが、とりあえず、戦闘モードへと切り替え、扉の奥へと足を踏み入れたのであった。
[参]
俺達が入ったところで扉は閉められた。
誰も入らないよう、ライアンが扉の前で通せんぼをしているのだろう。
まぁそれはさておき、中はかなり広い上に天井も高かった。
また、若干薄暗かったが、視界はそれほど悪くない。
しかし、謁見の間は禍々しい邪気で満ちていたのである。
フォルス達もそれを肌で感じるのか、中に入るや否や武器を構え、周囲を警戒していたくらいだ。何か異様なモノを感じたのだろう。
そんな謁見の間であるが、周囲を警戒しつつ、俺達はゆっくりと前へ進む。
俺達の前方には、厳かな玉座に腰掛ける金髪の美丈夫がいた。
古代ローマ帝国の皇帝を思わせる赤いトーガのような衣を纏い、額にはサークレットのような黄金の冠が見える。
そして、その男は今、笑みを浮かべながら、コチラを見ているところなのであった。
どうやら、コイツがキングレオ王なのだろう。
感覚を研ぎ澄ますと、コイツ以外にも禍々しい大きな邪気が感じられた。
しかもそれは、奴の背後にあるカーテンの奥からであった。
そこに、コイツよりもヤバい何かがいるのだろう。
(キングレオよりも、後ろの奴の方が大きな霊力を持っている。しかも、この霊気……幾つもの霊体が集合したような感じだ。おまけにそこから……無念の叫び声が幾つも聞こえてくる。これは……ま、まさか、進化の秘法とは……チッ、クソったれめ!)
俺はそこで、非常に嫌な仮説が脳裏に過ぎったのであった。
しかし、それ以外考えられない為、俺はここで嫌悪感がMAXとなったのである。
仮説が正しいならば、この進化の秘法というのは、救いようのない最悪の邪法だからだ。
(ゲームでは詳細な内容を語ってなかったが……まさか進化の秘法が、ここまで恐ろしい術だったとは……。もし俺の仮説が正しいならば、闇の力を増幅する黄金の腕輪がないと不完全というのは、この効率の悪さを解消する為に違いない……チッ)
俺は嫌悪の気持ちを抑えつつ、玉座の手前で立ち止まった。
すると美丈夫はそこで拍手をし、俺達を出迎えたのである。
【クククッ、ようこそ、キングレオ城へ。私はこの国を治めるキングレオ王だ。ご苦労だったな、勇者フォルス一行よ。デスピサロ様より、お前達が来る事は聞いている。丁重におもてなしをしてやれとな。クククッ】
【ほう……で、どう、おもてなししてくれるんだ?】と、俺。
キングレオはそこで笑みを浮かべ、モンバーバラ姉妹に視線を向けた。
【まぁそう焦るでない。クククッ、しかし……懲りずに、また来るとはな。そこにいるのはエドガンの娘達ではないか】
マーニャは声を荒げた。
【キングレオ! 今度はあの時のようにはいかないわ! 私達には強い仲間がいるんだから! さぁバルザックはどこ!】
するとキングレオは不敵に笑い、後ろをチラッと見たのであった。
キングレオは頬肘を付きながら後方に話しかけた。
【バルザックよ……エドガンの娘はこう言ってるが?】
その直後、低くおどろおどろしい声が室内に響き渡った。
【グフフフ……陛下、ではご要望に答えるとしましょうか】
と、その時であった。
後ろのカーテンが開き、そこから馬鹿でかい悪魔のような魔物が姿を現したのである。
それはアークデーモンやトロル並みの巨体を持つ魔物であった。
身体全体が紫色であり、蛇の鱗のようなモノで覆われていた。
背中には蝙蝠のような羽があり、手には巨大な棍棒を持っている。
全体的な印象は、悪魔をブクブクと太らせたかのような化け物であった。
そう……目の前にいるのは、ゲームでならサントハイムで相対するであろう、2回目バルザックの姿をした魔物だったのである。
マーニャとミネアの驚く声が聞こえてきた。
「えッ!? コイツがバルザックなの!?」
「こんな事が……以前、私達が戦った時と、姿が全然違う……」
姉妹の言葉を聞き、バルザックはニヤニヤとしながら口を開いた。
【グフフフッ、やはり来たか、エドガンの娘よ! 再びこうして相まみえるとはな。どうだ、見違えたであろう! 私がバルザックだ! 既に私は究極の進化を極めたぞ! この肉体は神に近い。もはや、デスピサロ様……いや! デスピサロの奴も私には及ばないだろう。グフフフッ、エドガンの娘よ。さぞかし、父が恋しかろう。すぐに父の元へ、送ってやるッ!】
やはりコイツがバルザックで間違いないようだ。
仲間達はそれを聞き、戦闘態勢に入る。
だが、俺は少し気になっている事があった為、奴にそれを確認することにした。
【おい、バルザックと言ったな……お前の身体から、女達の悲鳴や絶望……そして、無念の声が沢山聞こえてくる。お前……その身体を作り上げる為に、女達の命をいったい幾つ犠牲にした!】
マーニャとミネアが目を見開き、俺に振り返った。
「え? 犠牲って……まさか」
「ジュライさん、まさか今のバルザックの姿は……」
「そのまさかだよ……今の奴は、多数の女達の命を犠牲にして取り込み、そして進化したに違いないからな。奴の霊気の感じからして、それ以外に考えられない!」
そう、進化の秘法とは恐らく、沢山の命を取り込むことで驚異的な進化を促す邪法なのである。
現にキングレオとバルザックでは霊気の質が全く違うので、これはほぼ確定に違いない。
仲間達の怒りの声が聞こえてくる。
「なんという恐ろしい事を……」
「命を犠牲に進化だなんて」
「なんと愚かな事をするんじゃ」
「こんな事が許されていいわけない!」
「酷過ぎる!」
「許せないわ、こんな事! 女達を犠牲になんて!」
するとそこで、バルザックは不敵な笑い声を上げたのであった。
【グフフフッ……犠牲? ちょっと違うな。女達は私の進化を促すために、血となり肉となり骨となり、そして魂となり、私と一体になったのだ! 進化を加速させるには、生命を育む若い女の肉体と魂が沢山必要なのだよ! そして、今の私があるのだ! 女達は私と共に神になったのだァァ! 寧ろ誇らしい事ではないか! さぁ来るがいい……進化の秘法により、神となった私の力を見せてやろう!】――