DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv26 贖罪の道標

 

 

   [壱]

 

 

 観念したキングレオは、魔物から人間の美丈夫姿へと戻った。

 それはまるで、ホラー映画に出てくる狼男の変身シーンを逆再生させたかのようであった。

 はっきり言って、見ていてあまり気分の良いものではないが、これは恐らく、もう攻撃はしないというコイツなりの意思表示なのだろう。

 

(人が魔物に変化か……現実世界にも妖怪と呼ばれる者達がいるから、今更驚く事でもないが、コイツは元人間だからなぁ。ある意味、驚きだよ。まぁそれはともかく……コイツはバルザックみたいに人の魂は取り込んでないな。それほど欲はかかなかったのか……あるいはなにか別に理由があるのか……。まぁいい、訊けばわかるか)

 

 キングレオ王は、完全に人間へと戻ったところで話を始めた。

 

「まさか……あのバルザックを倒す奴がいるとはな。アイツは進化に取り憑かれ、私の力すら軽く凌駕する魔物になってしまっていた。それこそ、あのデスピサロですら一目置くくらいにな」

 

 コイツは勘違いしてるので、一応言っておくとしよう。

 

「言っとくが、俺は呪いを解いただけで、厳密には倒してなんぞいない。まぁある意味では倒したと言えるがな」

「呪いを解いた……だと」

「ああ。進化の秘法なんて大層な名前がついてるが、あれは呪いみたいなもんだからな。力は得られるが、その先は破滅に通じる道だよ。よりにもよって、あんな邪法に手を付けるとはね……お前達は愚かにもほどがあるよ」

 

 俺の話を聞き、この場にいる全員が険しい表情となっていた。

 そんな中、クリフトが訊いてきたのである。

 

「今、破滅に通じる道と言われましたが……一体どういう事なのですか?」

「バルザックを見る限り、進化の秘法とは、自分の魂に他人の魂を括りつけ、肉体もろとも取り込んで進化させてゆく邪法のようだが、それを繰り返すに従い、取り込んだ魂の数も天井知らずに増えてゆくんだよ。つまりこれは、自分の中に、死者の世界を創ってゆくに等しい行為なんだ。そんな邪法に、幸せなんて絶対に来ない。その先は、不幸な破滅が待っているだけだよ」

「じ、自分の中に死者の世界……」

 

 フォルスはそう言って息を飲んだ。

 それは他の仲間達も同じであった。

 

【なによそれ……】

【死者の世界じゃと】

 

 ちなみにこの仮説は、ある程度根拠があって俺は言っている。

 なぜならば、現実世界でも祟り神が生まれた場合、それによって色んな魂の結合現象はやはり起きるからだ。

 この仮説はあながち間違いではないのである。

 

「そう、死者の世界だ。さて……話を戻すとしよう。キングレオ王……と、今は一応呼ばせてもらうが、幾つか訊きたい事がある。話してもらうぞ」

「良いだろう。何が聞きたい?」

「まずはこれからいこうか。キングレオ王とバルザックは、デスピサロと一体どういう関係なんだ?」

 

 キングレオ王は焦点の定まらない眼で、ボソボソと話し始めた。

 

「デスピサロ様……いや、デスピサロと会ったのは2年前だ。その時、奴はバルザックと共に私の前に現れた。奴はそこでバルザックの素性を話してくれたよ。父が支援していた錬金術師エドガンの弟子だとな。加えて、エドガンを殺した犯人だとも……。そして、それらを話した後、奴は私に、ある取引を持ちかけてきたのだ」

「取引?」

「奴は言った……『お前の願いを叶えてやろう。その代わり、バルザックと共に進化の秘法の研究を続けろ』とな」

 

 コイツの言い分が正しいなら、バルザックはエドガンさんを殺す前から、すでにデスピサロと接触していたのかもしれない。

 

「へぇ、なるほどね。その時から既に、デスピサロとバルザックは接触してたのか。で、アンタの願いってなんなんだ?」

「私の願いは1つ……この国の王となることだ。しかし、先王である父は、私に王位を継承させるつもりがなかった。だから私は、デスピサロの手を借りる事にしたのだよ」

「ふぅん……王位継承にまつわる骨肉の争いってやつか。よくある話だな。ん? てことは、アンタの他に王位継承権を持ってる者がいたのか?」

「ああ……いた。もう既に、私が始末しておらぬがな」

「なるほどね。それで道を踏み外したのか。で、その人って、アンタの兄弟かなにかか?」

 

 するとその直後、キングレオ王は握り拳を作り、ワナワナと怒りに震えたのである。

 

【私に兄弟はおらぬ。だが、血縁の者だったならば、まだ私も納得できた事だろう。しかし……アイツは……よりにもよって、傍流である分家の男を次の王として指名するつもりだったんだよ! 将軍のグレンをな! 私はそれが許せなかった。しかもアイツは、私に向かってこんな事を言いやがったんだ! 『お前ではこの国は統治できぬ。故にグレンを次の王に指名するつもりだ。お前の出来が悪いのは父である私の責任だ、許せ』とな!】

 

 キングレオはそう言うなり、四つん這いになって悔しそうに、床をバシバシと叩き出したのであった。

 これが暗黒面に落ちた原因のようだ。

 要は、プライドをズタズタにされた事による暴走なのだろう。

 この国は、嫡子が必ずしも後継ぎとはならないみたいである。

 

【お陰で、私はその時、悪魔に魂を売る覚悟ができたよ。そして私は、進化の秘法で得たこの力を使い、父を幽閉し、王となり、この国の重鎮が見ている目の前で、グレンを八つ裂きにしてやったのだ! どいつもこいつも、私をコケにしやがって! クククッ……いい気味だと思ったよ。父は事あるごとに、私と同い年のグレンを比べ、コケにしてきたからな。おまけに、大臣や他の兵士達は、それを見て青ざめた表情になり、私にひれ伏した。実に気分が良かったよ。最高の気分だった……】

 

 アホな男だが、まぁ哀れな奴ではある。

 父親が自分の子をあまりに卑下にし過ぎたので、心が歪んでしまったのだろう。

 王としては優秀だったのかもしれないが、親としては残念な人だったのかもしれない。

 とはいえ、現実世界でも、昔はこういう事がよくあったので、これに関してはとやかく言わないようにしよう。

 価値観の違いってやつだ。

 

「ま、アンタがどういう境遇だったかは知らんが、好きなだけ吠えるがいいさ。どうやったところで、アンタがやった事は元には戻らないんだからな。さて、話を戻そう。さっき2年前、デスピサロと会ったと言ったが、奴は今もここに来るのか?」

「ああ、5日ほど前にデスピサロが来た。そこで私は、勇者フォルスの事を聞いたのだからな。デスピサロは言っていたよ。『勇者が来たら、バルザックと共に始末しろ』とな」

 

 これが正しいならば、ミントスを出港する前、俺達の動向を魔物達は既に把握してたという事になる。

 もしかすると、俺達の行動を遠くから監視する魔物がいるのかもしれない。

 これからはもう少し慎重になった方がよさそうだ。

 

「へぇ、来たのか。ちなみに、この城にはデスピサロ配下の魔物はいるのか?」

「ああ、いる。数匹だがな。奴等の下僕である使い魔は、兵士に化けて城内にいる筈だ」

「兵士に化けてね……。あ、そうそう、これを聞きたかったんだ」

 

 俺はそこでキングレオの記念硬貨を取り出し、奴に見せた。

 

「この硬貨、見覚えあるだろ?」

「我が国で発行された記念硬貨だな。それがどうした?」

「ある魔物を倒した時、死骸が消え失せ、この硬貨がそこに落ちていたんだが……最近、デスピサロから、こういう硬貨……いや、道具でもいいが、そういったモノを用意しろという指示はあったか?」

 

 だが意外にも、キングレオは頭を振ったのである。

 

「そんな指示なんぞ受けたことはない」

「そうか……なら、なにか変わった指示を受けたとかはないか?」

 

 キングレオはそこで、少し考える素振りをした。

 

「変わった指示……そういえば結構前に、魔界よりの使いとかいう、全身を黒いローブで覆い隠した妙な奴が城に来たんだが、そいつがこんな事を言っていた。『この城で一番欲深い者は誰か教えろ』とな」

 

 初めて聞く単語であった。

 

「魔界よりの使いだと……。で、教えたのか?」

「ああ、我が国の大臣を紹介しておいたよ。大臣は私が見てきた中で、一番欲深い奴だからな」

 

 確証はないが、ゲームでは大きな音に弱いという大臣の事かもしれない。

 

「へぇ、欲深い大臣ね。まぁそれはともかく、その魔界よりの使いとやらは、どんな奴だったんだ?」

「黒いフードも被っていたし、どんな奴と言われてもそれ以上はわからない。ただ、口振り的に、デスピサロとはあまり関係のない感じではあったがな……」

「そうか……」

 

 鵜呑みにするわけにはいかないが、これが本当なら、裏で暗躍する何かがいるのかもしれない。

 面倒事が増えそうである。

 

(しかし、魔界よりの使いか……エビルプリーストの事かな? つか、魔界ってドラクエⅣにあったっけ? Ⅴではあったけど。よくわからんが、いずれにしろ、色々と怪しい奴等が暗躍しているのかもしれないな。これからは、いつも以上に用心したほうがよさそうだ)

 

 まぁそれはさておき、俺は少し気になっていた事があったので、それを訊ねる事にした。

 

「ところで1つ訊きたい。……アンタはなぜ、バルザックのように人の魂を取り込まなかったんだ?」

 

 すると仲間達は意外そうにキングレオを見たのである。

 

「え? コイツは若い女達を取り込んでないの?」と、マーニャ。

 

 俺は頷いた。

 

「ああ、恐らくな。キングレオからはそういった霊気は感じられないんだよ。その代わり、別の霊気を感じるけどな。アンタ……魔物の魂を取り込んだな?」

 

 キングレオは俺に視線を向け、大きく目を見開いた。

 どうやら当たりのようだ。

 

「なんでもお見通しというわけか……。そうだ、私は人間の女など取り込んでいない。デスピサロが用意した雌のアームライオンと、進化の融合をしたのだからな」

 

 これを聞く限り、若い雌ならば種族は関係なく、進化の秘法に使えるのかもしれない。

 

(バルザックはさっき、生命を育む若い女の肉体と魂が必要と言っていたが、もしかするとそれは、女性の生殖能力の事を言ってるのかもな。まぁあくまでも仮説だから、確証はないが……。つか、アームライオンに雌がいたとはね。寧ろ、そっちの方が驚きだよ)

 

 俺は質問を続けた。

 

「雌のアームライオンと進化の融合か。で、なんでバルザックのように、若い女達を取り込まなかったんだ?」

「私はもう目的は達成していた上に、奴ほど力に執着はなかったからな。それに……こんな事を今更言うのもなんだが、罪悪感も多少はあったのだ。バルザックはもう、そういった感情はなかったようだがな……」

 

 するとそこで、マーニャは目を潤ませ、声を荒らげたのであった。

 

【なら、なぜ止めなかったのよ! 王様である貴方が止めたら、私の仲間達はあんなことにならなかったのに!】

 

 マーニャの怒りはもっともである。

 しかし、キングレオは淡々と、それに答えるのであった。

 

「それがデスピサロとの取引だったからだ。私はそれに従うしかなかった。逆らえば……私はすべてを失う事になるからな。奴の軍門に下る以外なかったのだよ。もう後には引き返せない。それが魔物との取引なのだ。私も同罪だ。それは否定しない。恨むなら恨むがいい」

「こんな事って……グッ」

 

 マーニャはやるせない表情で唇を噛んだ。

 重苦しい空気が俺達の間に漂う。

 と、そこで、フォルスが困った表情になり、俺に視線を向けたのである。

 

「あの、ジュライさん。このキングレオ王なんですが、どうすると良いのでしょうか?」

「どうするって、俺に聞かれてもねぇ……」

 

 としか言えなかった。

 なぜなら、バルザックはもう倒せたので、当初の目的は達成できたからである。

 話を聞く限り、キングレオはエドガンさんの殺害には無関係なので、対処が悩むところなのだ。

 まぁ進化の秘法の実験に加担してたという罪があるので、それに対する断罪は必要だとは思うが、それは俺達がすべき事ではないような気もしたのであった。

 とはいえ、コイツは邪法により、もはや人ではなくなっているので、そこは見過ごせないところである。

 

(どうするといいんだろうねぇ。俺的には戒めの秘紋施して、終わりにしても良いと思ってるが、多分、マーニャやミネアは納得しないだろう……ン?)

 

 そんな事を考えていると、キングレオは床に大の字になったのである。

 逃げも隠れもしないという事なのだろう。

 まな板の上の鯉といったところだ。

 

【さぁ……ひと思いに殺せ。私は覚悟はできている。デスピサロも国をも裏切ったのだ。好きにするがいい……】

 

 俺達は互いに顔を見合わせた。

 全員、困った表情である。

 どうしていいかわからないのだろう。

 そんな中、マーニャとミネアは互いに耳打ちし、俺に視線を向けたのであった。

 

「ジュライさん、貴方が決めてちょうだい。私達はもう、父の仇は討てたから」

「姉と同じです。私達は貴方の決定に従います」

「ええ、俺!?」

 

 すると他の者達も同じような事を言い出したのである。

 

「貴方に任せるわ」

「ジュライさんにお任せします」

「お主が決断すればよいぞ」

「ジュライさんなら、良い解決してくれそうですしな」

「僕もそう思います」

「私も」

 

 責任の押し付けをされてる気分であった。

 

「アンタ等もかい! ったく、なんで俺なんだよ……」

「それは、ジュライさんが一番判断を間違えなさそうだからですよ」

「シンシアの言う通りです。僕も、ジュライさんに決めて頂くのが一番いいと思います」

「そうよね。今までの旅でわかったけど、ジュライさんはそういう判断が早くて的確なのよ」

「お金のこと以外で、滅多に人を褒めない姉さんがそう言うくらいなので、ジュライさんが決めてください」

「どういう意味よ、ミネア」

 

 気楽に言いやがる仲間達であった。

 

「ったく、わかったよ。でも、後で文句言うなよな」

 

 というわけで、俺は渋々ではあったが、キングレオ王の処遇を考えたのである。

 

(コイツ等、そろいもそろって責任回避かよ。ったく、面倒くさいなぁ、もう……。でも、どうすっかな。ただ、コイツには責任を取らせる必要があるんだよね。かといって殺すと、この国はさらに乱れそうな気がするし……。仕方ない。とりあえず、アレを施して、コイツに無難な贖罪方法を伝えるとするか……)

 

 俺は道具袋から筆と霊薬を取り出し、キングレオの前へと移動した。

 

「おい、キングレオさんよ。話があるから、ちょいと身体を起こせ」

 

 キングレオはムクリと起き上がる。

 

「処刑の方法が決まったか? できればバルザックにした方法以外で、あの世に送ってほしいが、無理は言わぬ。好きにするがいい」

 

 コイツはドロドロ処刑は嫌なようだ。

 俺も引くくらいインパクトある死に方だったので、わからんでもないところである。

 

「期待はずれで悪いが、お前は殺さないでおくよ。その代わり、まずはコレを施させてもらうとしよう」

 

 俺はそう言って、奴の額に戒めの秘紋の強化バージョンを施したのである。

 ちなみに何が強化かと言うと、怒りや憎しみを抱いた瞬間、頭痛に見舞われるという効能であった。

 これは術者に括られてないので、誰にでもである。

 早い話が、悪意を持つと強烈な頭痛を伴う生活になるのである。

 喜怒哀楽が、喜哀楽になるので、結構、辛い戒めとなるだろう。

 俺も修行時代、これをしながら心身鍛えたので、その辛さはよくわかるところだ。

 まぁそれはさておき、俺は秘紋を施したところで奴に言った。

 

「今、お前に、俺の一族に伝わる戒めの術を施させてもらった。これは、怒りや憎しみを持つと、頭痛に見舞われる呪術だ。道を踏み外した罰だと思って、受け入れてもらうぞ!」

 

 と、その直後であった。

 

【なに!? グアァァ】

 

 キングレオはそこで、突然、頭を押さえだしたのである。

 いきなり洗礼を浴びたようだ。

 

「怒るな、怒るな。とりあえず、深呼吸でもして気を静めろ」

 

 キングレオは蹲り、大きく深呼吸をした。

 

「そうそう……そうやって気を静めれば、頭痛からは解放されるから」

「わ、わかったよ。これで生きてゆけと言うのだな?」

「いや、これはまだ序の口だよ。お前には、これからやってもらわなきゃいけない事があるんでな」

「私に……一体何をさせるつもりだ?」

 

 キングレオ王は恐る恐る訊いてきた。

 というわけで、俺は遠慮せず、奴に贖罪方法を告げたのである。

 

【お前には、今のままキングレオ王をやってもらうとしよう。ただし、ちゃんと国を統治しろ! 今、自分の国がどういう状況なのか見た事はあるのか? お前がアホな事してたせいで、この国は滅茶苦茶だぞ。民は希望をなくし、この国はもう終わりだと思っているくらいにな。今のお前は間違いなく、キングレオの歴史上、最低の王様だ。ゴミみたいな糞国王だよ! 前の王がお前を選ばなかったのは、恐らく、王としての器がないと思ったからだろう。さっきからお前の話を聞いてると、自分の事しか見てない感じだからな。そういやお前、王になるのが願いだと言ってたな? 何言ってんだ、オメェ? いいか……国というのは民がいて初めて成立するんだよ。お前1人だけじゃ王にはなれんのだ。国を栄えさせるのも失墜させるのも、王であるお前次第なんだよ! そして国王はな、統治者としてだけじゃなく、その象徴じゃなけりゃいけないんだ! 成りたいから成れるもんじゃねぇんだよ! 部下も満足に使いこなせないアホな国王に、国が統治できるわけネェだろが! それに加えて、今のお前みたいな自己中心的な奴に、まともな奴がついてくるわけねぇんだよ、バーカ! お前の人生はこれから、世の為、人の為に使いきれ! それでようやく人が付いてくるってもんだ。わかったか、このバカチンが! いいかッ、それが出来ねぇうちは、死んでも戒め解いてやんねぇからな! 覚悟しとけよ! 楽に死ねると思うな、この外道が! お前の人生はこの先ずゥゥゥゥゥッと、贖罪じゃ! アホンダラ! テメェで仕出かした事なんだから、テメェできっちり責任とれや!】

 

 場はシンと静まり返っていた。

 キングレオは、忖度しない俺のボロカス通告で涙目であった。

 そんな中、俺は穏やかに、奴に付け加えたのである。

 

【っと、お前の親父なら言うのかもな。まぁ俺からは以上だ。これからのお前の健闘を祈る】

 

 するとキングレオは四つん這いになり、大きな声で咽び泣いたのであった。

 

【ウワァァァァァ! 父上、ごめんなさい、ごめんなさい……私が悪かったのです! ごめんなさい、ウワァァァァァ】

 

 なぜか知らないが、父親に泣きながら謝罪していた。

 もしかすると、俺に怒られた反動で、昔、父親に怒られてた記憶が蘇って来たのかもしれない。

 と、その時であった。

 謁見の間の扉が開かれたのである。

 そこにはライアンの姿とキングレオの兵士達の姿があった。ついでに隊長兵士達の姿も。

 彼等は互いに諍う素振りもなく、こちらをじっと見詰めていた。

 どうやらこの様子を見る限り、彼等は外で、俺達の戦いの決着を待っていたのだろう。

 国王の咽び泣く声が聞こえたので、扉を開いたに違いない。

 

「おお! どうやら決着がついたようですな。流石は勇者殿だ!」

 

 ライアンの大きな声が響いた。

 その言葉を皮切りに、キングレオの兵士達はこの部屋になだれ込んできた。

 

【陛下! ご無事ですか!】

 

 キングレオの周囲に兵士達が駆け寄ってくる。

 しかし、キングレオは兵士達に振り向かず、ただただ泣き続けていた。

 俺はそこで兵士達を適当に誤魔化しておいた。

 

「アンタ等の王様は、デスピサロに操られていたみたいだ。魔物達の呪縛が解けたみたいだから、今はそっとしておいてやってくれ」

「なんと!? そうだったのですか!」

「なんという事だ!」

 

 信じやすい人達である。

 これでは魔物に騙されてもしょうがないところだ。

 と、そんな中、開け放たれた入口の方から、不気味な低い声が聞こえてきたのであった。

 

【チッ……実験は失敗だったようだな】

 

 入口に視線を向けると、そこにはミニデーモンみたいな緑色の小悪魔が何匹かいた。

 

【早くデスピサロ様に報告せねば。進化の秘法を完成させるには、やはり黄金の腕輪が必要なのだ。暗黒の力を増幅させると言う黄金の腕輪が! 黄金の腕輪を手に入れ、進化の秘法を完璧な物としたとき……。その時こそ、我ら暗黒の世界の者達の勝利の時ぞ!】

 

 その直後、魔物達はフッと消え去ったのである。

 そして、この場にいる者達は入口に目を向けたまま、暫し呆然と立ち尽くしたのであった。

 

 

   [弐]

 

 

 キングレオでの一件が片付いた俺達は、モンバーバラ姉妹の実家のあるコーミズ村へと向かい、旅を再開した。

 ちなみに、キングレオで一泊するという案もあったのだが、ついさっきまで魔物に支配されていた場所という事もあり、俺達は旅を続ける事にしたのである。

 で、コーミズ村に向かう理由だが、それは勿論、彼女達の父親が持つと言われる魔法の鍵について調べる為であった。

 まぁそんなわけで、キングレオから南へと更に進むわけだが、日が暮れてきたこともあり、俺達はその途中にある丘陵地帯で野宿をする事にしたのである。

 ミネアの話だと、ココからあと1日程度で着くそうだ。

 とはいえ、流石に夜中の行軍は大変なので、野宿となったのである。

 ゲームならば構わず進むところだが、リアルはなかなか大変だ。

 

 話は変わるが、ライアンはあの後、俺達の仲間になった。

 ミネア曰く、これにて導かれし者達はコンプリートしたようである。

 それとキングレオの王城を出る際、突然、若い男が俺達の馬車の前に現れ、ライアンに別れを告げに来た。

 その男は吟遊詩人の様なローブ姿の男であった。

 名前は聞かなかったが、恐らく、その男がホイミンなのかもしれない。

 ライアンはその若い男との別れに涙を浮かべ、感謝の言葉を贈っていた。

 恐らく、彼等の間に、深い友情のようなモノがあったのだろう。

 というわけで話を戻そう。

 

 俺達は街道から死角になりそうな丘へと行き、そこでベースキャンプを張ることにした。

 切り立った小高い丘の下なので、敵に背後を取られる心配は無さそうな地形であった。

 また、辺りに魔物の気配もないので、休むには最適の場所である。

 というわけで俺達は、満天の星空の元、そこで焚火を囲みながら携行食を食べ、暫し寛いだのであった。

 学生時代の林間学校を思い出すシチュエーションである。

 まぁそれはさておき、今日は色々とあったので、流石に皆は疲れたのか、言葉少なであった。

 そんな中、ブライが俺に話しかけてきた。

 

「ジュライ殿……お主、どこかの国の王族か?」

 

 いきなり、わけのわからん事を訊いてくるブライであった。

 

「は? そんなわけないでしょ。俺は皆と同じ、ただの旅人さ。なんでそんな事を訊いてくるんだ?」

「お主、あのキングレオの若造に説教しておったじゃろ。なかなか、王としての心構えがわかっておるなと思っての……だからじゃ」

「なんだそれの事か。ありゃ、王としてというより、人の上に立つ者としての心構えを説いただけだよ」

「ふむ、なるほどの。となると疑問が湧くの。お主は一体何者なんじゃ? 儂が知らぬ魔法を幾つも使いよるが……」

 

 すると、俺の両隣にいるモンバーバラ姉妹も、それに乗っかってきた。

 

「奇遇ね。私もそれが気になってたのよ」

「私もです。ずっと気になってました。すごく強いですし……。それに以前、迷い込んだと言ってたので、それも気になっていたのです」

 

 続いて他の者達も声を上げた。

 

「私に勝ったくらいだから、さぞかし、有名な武闘家なんじゃないの」

「確かに、ブライ様の言う通りです。実は私も気になってました」

「私も気になりますな。ジュライさんが使っている特殊な鋼の剣も、武器屋として気になってるんですよ」

「僕も知りたいです。ローグさんからそれとなく聞いてはいるんですけど、よく分からなくて」

「私もフォルスと同じです」

「ほう……勇者殿が何者かですか。それは気になりますな」

 

 この際だし、ある程度打ち明けといたほうが良いのかもしれない。

 変に疑念を持たれると、あらぬ誤解を招く上に、魔物の仲間とか思われるのも困るので、俺は皆に素性を話す事にした。

 

【俺が何者か、か……そうだな。この際だから話すとするか。驚かないで聞いてほしいんだけどさ、実を言うと……俺は、この世界の人間じゃないんだよね】

【え!?】

 

 これを言った瞬間、皆は動きを止め、大きく目を見開いていた。

 予想外の返答だったからだろう。

 驚くなと言っても、無理がある話だったかもしれない。

 まぁそれはさておき、俺は続けた。

 

【俺の家はね、古来より、悪魔退治や悪霊払いを生業としている一族なんだが、実はこの世界に来る前も、ちょうどそういう仕事をしていたところだったんだよ。でも、そこでちょっと色々とあってね……気が付いたら、この世界に飛ばされてしまっていたんだな。俺も最初は、付近の場所に飛ばされたのかと思っていたんだが……まさか、全然勝手の違う世界に飛ばされたとは思わなくてね。まぁそういうわけで、俺は今、自分の住んでいた世界に帰る為に、皆と旅してるような状況なんだよね……信じられないかもしれないけどさ】

 

 俺がそう語った後、仲間達は無言であった。

 そして、バチバチと木の燃える音だけが、辺りに響いていたのである。

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