[壱]
翌日の早朝、俺達は旅を再開し、モンバーバラへと続く街道を南下していった。
昨晩は俺の重大カミングアウトのせいか、あの後、なかなか大変であった。
なぜなら、皆、やはり俄には信じてくれなかったからだ。
ただ、向こうの世界で使っていた持ち物などを見せたら、少しづつではあるが、受け入れてくれる者もいた。とはいえ、完全に信じている風ではなかったが……。
まぁこればかりは仕方ないだろう。
俺もすぐに信じてもらえるとは思ってないので、とりあえず、気長に行くしかないようである。
そのうち、信じてくれる時が来るだろう。たぶん……。
さて、それはともかく今日の旅だが、本日も好天に恵まれ、気温30℃超えの暑い1日となりそうであった。
だが、それほど湿度はないので、日本にいた時のようなジメジメした暑さは感じない。
ミネアが言うには、今のキングレオ大陸は乾季に入った頃らしく、比較的カラッとした日が多いそうだ。
ちなみに、南にあるモンバーバラは更に暑くて湿度も低いとの事であった。
結構大きな大陸なので、南北でそれなりに気候は違うのだろう。
まぁそれはさておき、街道を南に暫く進んで行くと、途中に分かれ道があったので、俺達は姉妹の指示に従い、そこを西に進んだ。
そして、そこから更に半日ほど進み、俺達はようやく、マーニャとミネアの故郷であるコーミズ村へと到着したのであった。
カラッとしているとはいえ、暑いのには変わりないので、旅は結構大変であった。もうヘトヘトである。途中、魔物との戦闘もあったので尚だ。
話は変わるが、俺はバルザックとの一戦で縮地を使い過ぎた影響か、筋肉痛が凄かったので、戦闘はなるべくしないようにしていた。
ただ、今後もこういう事が頻繁に起きると予想されるので、旅をしつつ、更なる身体能力の強化も必要だと考える今日この頃なのであった。
というわけで話を戻そう。
空を見上げると、もう夕暮れ時であり、あと1時間もすれば夜の帳が降りてくる頃合いであった。
とりあえず、夜になる前に着けたので、一安心といったところだ。
で、そのコーミズ村だが、ごく普通の長閑な山間の集落で、住民も少なく、世帯も20軒ほどしかない小さな村であった。
ただ、ゲームと同じく、ログハウス調の宿屋は一軒あるので、旅人が立ち寄った際に野宿という心配はなさそうだ。
だがそれは、通常ならばと付け加えなければいけないだろう。
なぜなら、今日は旅の商人達が幾つか部屋を使っているそうで、空き部屋がそれほどないからである。
その為、今回は俺達の中の誰かが、野宿となりそうな気配であった。
このパーティも面子が多くなったので、それなりに寝具が必要なのだ。
とりあえず、あぶれる人数は3名だが、それは違う方法で解決となりそうだ。
【ジュライさん、良い機会なので、私達と一緒に実家で泊まりませんか? 父の仕事場もあるので、一度見て頂いたほうが良いと思いますし】
ミネアが俺にそんな提案をしてきたからである。
マーニャも嬉しそうに、それに賛同した。
「そうよ、ジュライさん。私達と一緒に、実家へ泊まりましょうよ」
実はキングレオでの一件があってからというもの、モンバーバラ姉妹は、やたら俺と一緒に行動したがるのである。
昨晩は野宿だったのだが、女性陣は馬車の中で寝ればいいと言ったのに、なぜか外で俺と一緒に寝るくらいであった。
両脇を美女に挟まれてだったので悪い気はしなかったが、正直、(なんで?)と思ったのは言うまでもない。
まぁそれはさておき、俺は仕事場が気になったので、この誘いを受け入れる事にした。
「そういえば、実家にお父さんの仕事場があるんだったね。じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「では、行きましょうか。コッチです」――
そして俺は、姉妹の後に続いたのであった。
[弐]
夕暮れの寂しい明るさの中、俺は姉妹と共に村の中を歩いてゆく。
途中、村人ともすれ違ったが、皆マイペースな感じなので、時間の流れがゆっくり感じる村であった。
稀代の錬金術師と言われる人が、こんな田舎に居を構えてるのか不思議だったが、この村を見る限り、静かに考え事するにはちょうど良い所なのかもしれない。
ふとそんな事を考えながら歩いていると、前方に白い犬と散歩する老人の姿が小さく見えた。
すると程なくして、姉妹に向かってその白い犬が、勢いよく駆けてきたのである。
ちなみにその犬は、ラブラドールレトリバー風の大型犬であった。
ミネアは両手を広げ、その犬を笑顔で迎え入れた。
「あ! ぺスタ! ただいま。元気にしてた?」
「久しぶりね、ぺスタ」
程なくして老人もこちらに来た。
すると目を丸くし、驚きの声を上げたのである。
「おや、誰かと思ったら、マーニャちゃんにミネアちゃんじゃないか。久しぶりじゃな。ぺスタが駆け出した理由がわかったわい。元の飼い主じゃからのぅ。わしゃてっきり、またスライムでも見かけたのかと思ったんじゃ」
「でも、ぺスタが元気そうで安心しました。ところで、スライムはまだ村の中にいるのですか?」
「そうみたいじゃの。わしゃ見た事ないが、村の者は見たというモノがいるからの。最近、ぺスタはそのスライムにやたらと執心らしくてのぅ。村の者の話じゃ、よく追いかけまわしてるそうじゃわい」
「スライムまだいるんですね」
あまり良くは憶えてないが、ゲームでもこんなやり取りがあった気がした。
老人の言葉を聞く限り、この犬は恐らく、ミネア達がかつて飼っていた犬なのだろう。
「ところで、2人はお父さんの墓参りかな?」
「はい、それで来ました。それと、父が持っていたという魔法の鍵についても調べに来たのです」
老人は何かを思い出すように、空を見上げた。
「そういえば、その昔……エドガンさんはそんなモノを作ったと言っておったな。見つかると良いの。さて、それじゃあ散歩の途中じゃから、わしゃそろそろ行くとするわい。ぺスタ、行くぞい」
「わんわん」
そして、ぺスタと老人はこの場から去って行ったのである。
「さて、では私達も行きましょうか」――
その後、俺はやや奥まったところにあるログハウス調の家へと案内された。
そこは周囲を林に囲まれた家で、村内の他の場所と比べると、やや日当たりの悪いところであった。
だが、家の隣には綺麗な水を湛える天然の池があるので、それに光が反射し、そこまで暗くはなかった。が、今は夕暮れ時なので、他よりは間違いなく薄暗い場所である。
ただ、意外と大きな建物だったので、寝場所は十分ありそうな感じであった。
(へぇ……なかなか大きな家だな。30坪くらいはありそうだ。この感じだと、作業場とやらも結構広いかもな……)
ミネアは玄関扉の前に行き、俺に振り向いた。
「ジュライさん、ここが私達の実家です。鍵が掛かってますので、ちょっとお待ちくださいね」
ミネアはそう言うと、鍵を取り出し、解錠を始めたのである。
マーニャは懐かしそうに家を眺めていた。
「久しぶりの実家だわ……最近、全然来てないから、結構埃っぽいかもね。ここで寝るには、まず掃除しないといけないかもよ。ミネア、お願いね。ウフッ」
解錠中のミネアは、冷たい流し目をマーニャに送った。
「なにが、ウフッよ。というか、なんで掃除するのはいつも私なのよ。今日は姉さんもしてよね」
「わかったわよ、そんな怒らないで」
「ん、もう……あ、鍵が開きました。どうぞ、中に入ってください」
ミネアはドアノブに手を掛け、扉を開いた。
マーニャは大きく背伸びをし、中に入ってゆく。
「ただいまぁって、感じかしら」
俺とミネアもそれに続いた。
「じゃあ、お邪魔しまぁす」――
家の中は思った通り、かなり広かった。
玄関を潜ると、仕切りのないだだっ広い空間があり、丸太が剥き出しの壁には木製のベッドや台所、それから収納ボックスのような木箱が幾つか置かれていた。
ベッドは2つあり、そこには布団類はない。ただ剥き出しの木のベッドが並んでいるだけであった。
恐らく、どこかに仕舞ってあるのだろう。
また、入って左手の奥には、地下に行くであろう階段が見えた。
そして、俺達の正面にある壁には、家の裏口と思われる扉があるのであった。
かなりシンプルな室内といったところである。
恐らく、父親が亡くなった後、姉妹は色々と整理したのだろう。
まぁそれはさておき、家の中に入ったところで、ミネアが正面の壁にある扉を指さした。
「あ、そうだ。姉さん、お父さんに報告しなきゃ。仇討ちが終わったんだから」
「そうよ、まずそれをしなきゃね」
「ジュライさんも、一緒に来てもらえますか?」
たぶん、父親の墓参りでもするのだろう。
「いいよ、行こうか」
俺は姉妹の後に続き、裏口の扉を潜った。
エドガンさんの墓は家の裏手にあり、花に囲まれるような形で、墓標となる石板が置かれていた。
姉妹は墓標の前に行き、そこで膝を付け、祈るように両手を組んだ。
【お父さん……仇は討てたよ。ここにいるジュライさんのお陰で……どうか安らかにお休みください】
というわけで、俺も姉妹に習い、祈りを捧げるポーズをした。
そして、俺達は暫しの黙祷を捧げた後、家の中へと戻ったのである。
墓参りをしている内に、辺りはもう、夜と言って差し支えないくらいの暗さとなっていた。
その為、ミネアは家に入ると、まず燭台に火をつけ、明かりを灯したのである。
ミネアはそこで俺に視線を向け、階段を指さした。
「ジュライさん、もう夜ですが、父の仕事場はあの階段下になります。行ってみますか? それとも食事にします?」
「お父さんの仕事場を見てみたいな。気になってたんだよ」
「では行きましょうか。こちらです」
俺はミネアに続いた。
マーニャもそれに続く。
「地下室か、久しぶりね。あのスライムまだいるのかしら?」
燭台を手に持つミネアを先頭に、俺達は階段を下りて行った。
すると階段の先には、石の壁で覆われた頑丈そうな作業部屋があったのである。
部屋の大きさは10畳ほどで、壁際には簡易な溶鉱炉みたいなモノが置かれていた。
また、この部屋の隣には20畳ほどの大きなスペースを持つ部屋があり、そこには井戸と思わしき円形の石枠があるのであった。
(へぇ……炉の仕組みをちょっと調べてみないといけないけど、刀の鍛冶になんとか使えるかもな。最悪、
と、その時であった。
水のように透き通る玉ねぎみたいな物体が、ズザザザと音を立てながら、こちらに近づいてきたのである。
それはなんとスライムであった。
(おおう、スライムやんけ。そういやゲームでも、夜になると地下室に現れるスライムがいた気がするな。……という事は、それがコイツか。でもコイツの霊気、なんかおかしくねぇか。この感じ……これ、ただの魔物じゃないぞ。もしかして……)
俺がそんな事を考える中、マーニャがスライムに話しかけた。
「あら、貴方、まだいたのね」
「いじめないでくれよ~、ボクは悪いスライムじゃないよ」
「この前はありがとね。貴方のお陰で、オーリンさんは見つかったわ」
「そういえば、オーリンさんを見つけれたのは、このスライムのお陰でしたね。あの時はありがとうございました」
スライムは嬉しそうに微笑んだ。
「それはよかった。あ、そうだ! エドガンさんはここ以外にも秘密の研究所を持ってたよ! 確か西の洞窟の中! そこに行けば魔法の鍵も見つかると思うよ」
ゲームでもそうだが、やけに具体的な情報を出してくるスライムであった。
しかも、訊いてもいないのに、いきなり魔法の鍵のことを言ってくるなんて、まるでどこかで盗み聞きしてたかのような感じだ。
というか、本人しか知らないような情報である。
これはもう、霊気の質とこの状況証拠から考えて、まず間違いないだろう。
「あらそうなの。ありがとうね。魔物だけど、貴方の事を信じてみるわ」
マーニャはそう言ってスライムを撫でた。
というわけで俺は、このスライムにカマを掛けてみることにした。
「君、凄く物知りなスライムだな。優秀なスライムなんだねぇ。凄いや」
「そうかい。そう言われると照れるなぁ」
スライムは嬉しそうに、プルンと身体を震わせた。
「こんな物知りなスライム、初めて見たよ。あ、そうそう。ところで最近、調子の方はどうなんですかね……エドガンさん」
「最近ねぇ……この姿にも慣れてきたところなんだが、犬に追いかけられるのが……って、え!?」
姉妹はその言葉を聞き、目を丸くしていた。
「エドガンさん?」
「え? どういう事?」
スライムは時が止まったかのように、無言で微動だにしなかった。
どうやら当たりのようだ。
俺は姉妹に、このスライムの正体を告げる事にした。
【言っとくけど、このスライム……ただのスライムじゃないよ。人の霊気を感じるからね。カマかけてみたんだが、やっぱりそうみたいだ。貴方、エドガンさんでしょ?】
するとスライムはぎこちなく俺に振り向き、溜息を吐いたのである。
【よくわかったな……そうだ。私はこんな姿だが、錬金術師のエドガンだ】
姉妹は声にならないのか、口をパクパクさせていた。
そして、この場にシンとした静寂が訪れたのである。
[参]
スライムとなった錬金術師エドガンは、姉妹にこれまでの経緯を話した。
それによると、エドガンはバルザックに襲われて死ぬ寸前、自身が持っている魂の錬成技術を使い、近くにあった水と自分の魂を融合したそうである。
その為、スライムみたいな生き物になってしまったそうだ。
ここに至るまでは中々、大変な道のりだったそうである。
スライムの動き方がわからない上に、早く移動できないので、コーミズ村に来るのも相当時間を要したそうだ。
手足がないのでわからんでもないところである。
まぁそれはさておき、エドガンの話を聞いた直後、マーニャは涙目でブーたれた。
「なによ、もう……生きてたのなら、そう言ってくれればよかったのに。あの後、私達、どれだけ悲しんだか……大変だったんだから」
この状態で、まともに生きてると言えるかは疑問が残るところだ。
全く別の生き物になってるので、エドガンさんの行動は仕方ないところである。
「姉さん、お父さんも色々と大変だったんですから、そんな言い方しないでください」
スライムエドガンは、シュンと微妙に小さくなった。
「私もできるならば、名乗りたかったんだ。しかし、声も違う上に、こんな魔物の姿では、娘達も信じるわけがないと思ったのだよ。だから助言を送るという形で、私は地下室に身を潜めていたんだ。すまないな、今まで迷惑かけて……」
ミネアは目を潤ませながら、頭を振った。
「ううん、大丈夫よ。それに、ジュライさんの手を借りて、進化の秘法で化け物になったバルザックを倒す事も出来たから」
スライムエドガンは、そこで目を大きく見開いた。
「そうだった! 進化の秘法だ! 奴は使ったのか、あの邪悪の秘法を!」
姉妹は頷いた。
「うん、使ったわ。沢山の命を取り込んで、とんでもない化け物になってた」と、マーニャ。
「そうか。でも、倒せたならいい。ところで、進化の秘法はどうなったんだ? ちゃんと葬る事が出来たのか?」
「それが……バルザックの奴、魔物達と手を組んでたみたいなの。だから、進化の秘法の資料とかは、たぶん……バルザックを通じて魔物達の手に渡っちゃってると思うわ」
マーニャはそう言うと、悲しげに頭を振った。
するとその直後、スライムエドガンはプルプルと小刻みに体を震わせたのである。
喜んでる時との差がわからない震えであった。
「な、なんという事だ……不味い……これは不味いぞ。あれは……本当に大変な事になるんだ。魔物の手になんて渡ったら、沢山の命が奪われてしまう事になりかねんのだよ!」
俺はそこで親子の会話にログインすることにした。
「エドガンさん……1つ聞きたいんだけど、黄金の腕輪という闇の魔力を増幅させる腕輪があるそうなんですが、これを進化の秘法に用いると、どういう結果が考えられます?」
「お、黄金の腕輪だと! 待て待て待て……駄目だ駄目だ! そんなモノを使ったら、何が起きるかわからない。進化なんて話じゃなくなる。この世における最悪な化け物を生み出しかねんぞ!」
この反応を見る限り、ある程度、結果は想像できているようだ。
ゲームじゃその通りになっていたので、流石、稀代の錬金術師といったところである。
「魔物達は今、それを手に入れる為に躍起になっていますよ。もしかすると、もう既に手に入れてるかも」
「それはいかんぞ。もう手が付けられなくなる」
スライムエドガンはそう言って、更に小刻みに震えた。
「ジュライさん……そういう化け物って、バルザックにやったみたいに、進化の秘法を無理やり解く事は出来ないの?」と、マーニャ。
「それは……わからない」
そうとしか言えなかった。
なぜなら、進化の秘法は状況が常に同じではないからだ。
すると、スライムエドガンは俺に向かい、信じがたいモノを見るかのように目を細めていたのである。
「進化の秘法を無理やり解いただと……」
「バルザックの時は出来ましたね。脆弱な部分もあったんで。ところで、エドガンさんに訊きたいんですけど、進化の秘法は、術者の魂に他人の魂を括り付け、肉体もろとも取り込んで急速に進化させていく邪法……という認識であってます?」
「ああ……その通りだ。よくわかったな」
「あのバルザックを見たら、流石にね。で、どうやって知ったんですか?」
エドガンは周囲を気にしながら、小声で話し始めた。
「私は魂と物質の錬成実験をしている過程で、それを偶然見つけたのだ。発見した時は喜んだものだが、よくよく考えると身の毛もよだつ恐ろしいモノだった。そしてこれが、古文書で伝え聞く、進化の秘法なのだと、その時、わかったのだよ。だから私は、研究資料を燃やして闇に葬ろうとしたのだが、その時の弟子であるバルザックが、それに魅入られてしまってな。それが不幸の始まりだった。バルザックは私とオーリンに襲いかかり、研究資料を持ち出してしまったのだよ」
これを聞き、ようやく俺は話が繋がった気がした。
なぜなら、どういう過程であの邪法を知り得たのかが、引っ掛かっていたからである。
現実世界の中世欧州にいたという錬金術師も、魂を素材として考えていたらしいので、妙に説得力のある話であった。
ただ、俺達のような拝み屋稼業の者達からすると、魂と物質の融合も左道扱いなので、正直、エドガンの研究もどうかと思ったのは言うまでもない。まぁ価値観の違いってやつだ。
「なるほどね……まぁエドガンさんの考え方が正しいと思いますよ。あれは、最悪の呪いですしね」
「しかし……ジュライ殿と言ったか、貴殿はどうやってバルザックの進化の秘法を解いたのだ? あれは一度始めたら、もう止まらんはずだが……」
「俺は元々、悪魔退治や悪霊祓いが専門なので、霊体を見たり操ったりするのが得意なんですよ。まぁそういうわけで、奴の霊体の中枢を破壊して、他の魂との縁を切っただけです」
「なんと……そんな事ができるのか! それなら確かに、進化の秘法を止められる。かなり強引なやり方ではあるが……」
「但し、あの時点でのバルザックならできた。と、付け加える必要がありますけどね」
ミネアはそれを聞き、意外そうに俺を見た。
「え? どういうことなのですか?」
「進化の秘法は常に変化しているんだよ。だから、俺の術がいつも通じるとは限らないんだ。おまけに、この邪法で取り込まれた者達は、その殆どが、絶望や恐怖に苦痛、それから悲しみや怒りや嘆きを抱いて死んでゆくことになるから、それらの怨念も、同時に溜め込むことになるのが怖いんだよ。バルザックはまだ自我を保ってそれらの魂を統制できていたようだが、そんな怨念を取り込み続けていたら、いずれ自我を保てなくなってたに違いない。いずれは膨大な怨念の渦に飲み込まれ……自分の魂もそれらの魂と1つにならざるを得なくなる日が来るんだよ。もうそうなったら最後……怨念の塊となった不浄の化け物という未来しかない。この邪法に救いはないんだ。そして……そうなってしまったら、対処できるかどうかもわからないんだよ。予測不可能なんだ」
姉妹は俺の話を聞き、生唾をゴクリと飲み込んでいた。
スライムエドガンは俺の言ってる意味がわかるのか、目を閉じ、静かに溜息を吐いているところだ。
これは更に進化した仮定なので、ヤバさはわかってくれた事だろう。
もしかすると、進化の秘法の最高峰的存在であるエスタークは、それが原因で、破壊のみの存在となってしまったのかもしれない。
膨大な怨念の渦に飲み込まれ、自分を制御できなくなったのだろう。
色々と救いのない邪法だが、本人が本人じゃなくなることが唯一の救いではあるのかもしれない……。
まぁそれはさておき、俺は話を戻す事にした。
「あ、そうだ、エドガンさん。それはそうと、魔法の鍵はどこにあるんです? 詳細を教えてもらえるとありがたいんですけど」
「あ、ああ……それだったな。もう遠回しに助言してもしょうがないから、この際だ。はっきり教えておこう」――
とまぁそんなわけで、想定外の人物と俺達は巡り合う事となったのであった。