[壱]
俺達は翌日、魔法の鍵を求めて、コーミズ西の洞窟へとやってきた。
洞窟内はエドガンさんが言う通り、城や神殿を思わせる石の壁でできており、広い上に妙に明るい所であった。
エドガンさん曰く、ここには古代の魔法の明かりが灯っているとの事だ。
パッと見た感じだと、光る石のようなモノが天井に埋め込まれており、蛍光灯のように明るかった。
ちなみに原理は、エドガンさんにもわからないそうである。
また、洞窟の中は強い魔物がいたので、進むのは結構難儀であった。
とはいえ、俺はあまり戦闘してないので、苦労してるのは主にフォルス達なのは言うまでもない。
で、中にいる魔物で特にヤバいのが、大灯台で戦った炎の戦士と、青い司祭帽子みたいなのを被り、白いローブを纏った黒人系呪術師の魔物であった。
俺の記憶が確かならば、この呪術師は恐らく、ゲームでは死霊使いとかいう名前の魔物だった気がする。
前者はベギラマを連発してくる上に、後者はザキを頻繁に使ってくるので、今のフォルス達には危険極まりない魔物なのである。
そして実はなんと、その死霊使いのザキにより、初の死者が俺達のパーティに出てしまったのだ。
ザキで命を奪われた仲間は……ライアンであった。
ライアンはザキを喰らった瞬間、苦しそうに胸を押さえて蹲り、そのまま倒れてしまったのである。
前線で戦うライアンは、魔物達の魔法の餌食になりやすかったのだ。が、しかし、俺とシンシアは世界樹の葉を1枚ずつ所持していたので、何とか事なきを得たのであった。
その時に知ったのだが、シンシアはエルフの里を旅立つ時、フェルミナ様から世界樹の葉を1枚もらったそうである。
俺もこのあいだ立ち寄った際に1枚拝借したので、計2枚あったわけだが、コレがないと現状、蘇生手段がないので、冷や汗をかいたところだ。
即死呪文……恐るべしである。
まぁそれはさておき、俺達はなんやかんやとありつつも、洞窟内を順調に進んで行き、エドガンさんが言っていた場所へと、ようやく辿り着くことができた。
姉妹の話だと、ここでオーリンと出会ったそうである。そこはゲームと同じなようだ。
俺はエドガンさんの指示通り、近くにある宝箱の中を調べた。
すると中は二重底になっており、その下に、黒いボタンがあったのである。
そして、そのボタンを押すと地下に降りる隠し階段が現れ、その先には金属製の大きな両開きの扉が待ち構えていたのであった。
扉には鍵が掛かっていたが、サントハイム組が所持していた盗賊の鍵により、難なく解錠できた。
そして俺達は、その扉の向こうへと足を踏み入れたのである。
昨晩のエドガンさんの話によると、秘密の研究室とやらは、ゲーム同様、そこで間違いないようだ。
この世界は必ずしもゲームと同じではないので、そこは安心したところである。
話は変わるが、エドガンさんが言うには、西の洞窟は元々は何らかの遺跡だったようである。
洞窟内は広い上に、人目につかず水も豊富なので、そこを錬金術の本格的な実験場として利用していたそうだ。
言われてみると、隠し階段のある辺りは神殿の柱を思わせる丸い石柱などもあるので、納得の見解であった。
ちなみに、洞窟内には奇妙な照明や昇降装置などもあるが、それはエドガンさんが作ったモノではなく、元々そこにあったモノらしい。
ただし、エドガンさんがここに初めて来た時、この照明や昇降装置は作動してなかったようで、錬金術で使う液体などで床装置の錆びを落としたり色々としている内に、動くようになったとの事である。
まぁとりあえず、以上の事から、エドガンさんもよくわからん洞窟だそうだ。謎の遺跡である。
というわけで、話を戻そう。
扉の向こうには、石壁で覆われた10畳ほどの広さがある四角い部屋が2つあった。
壁際には幾つもの研究器具や資材、そして、木製の古びた作業台に加え、書物が沢山並ぶ本棚で埋め尽くされていた。
作業台の上には、フラスコや試験管みたいな物もある為、理系大学の研究室のような感じであった。
また、奥の部屋の突き当たりには、もう1つ扉があり、その先は3畳ほどの小部屋となっていた。
そして、目的の魔法の鍵はというと、その小部屋にある棚の上に、小さな木箱に入れられて置かれていたのである。
ゲームのように宝箱ではなかったが、普通はこんな感じで仕舞っておく物なので、あまり違和感はないところだ。
まぁそれはさておき、これで主目的は達成だが、まだ他にする事があった。
実は昨晩、エドガンさんからお願いされた事があるので、姉妹は今、それに取り掛かっているところなのである。
マーニャは独り言をブツブツ言いながら、本棚へと向かっていた。
「ええっと……確か、グレイスの古文書とか言うのと、5年分の錬成記録と……ええっと……ミネア、他なんだったっけ?」
「その他は、錬成の水と錬成する器と言ってましたね。錬成する水は青い色をしてるから、すぐわかると言ってました」
ミネアとマーニャは昨晩、研究室から幾つか持ってきてほしいモノがあると、エドガンさんに言われたので、それを回収しているのであった。
まぁそんなわけで、俺達はそれが終わり次第、ここを撤収する予定である。
姉妹が慌ただしく動く中、フォルスとシンシアが俺の所にやって来た。
「ジュライさん、錬金術師って色々な道具を使うのですね。僕、こんなの初めて見ましたよ」
「私もです。村や里ではお目に掛かれない物ばかりですね」
2人はそう言って、室内をキョロキョロと見回した。
「俺もよくはわからないが、錬金術師は基本的に、色々なモノを合成して貴金属を作り上げるのが目的らしいから、それなりに色んな道具が必要なんだろ。まぁとある人物曰く、過去の遺産を紐解き、現代に蘇らせる学者という側面もあるとは言ってたがね」
とある人物とは勿論、エドガンさんである。
古文書とか読み解くあたり、考古学者的な事もしてるのだろう。
ただ、エドガンさんが言っていたグレイスの古文書という名前が気になるところであった。
(グレイスの古文書ねぇ……まさか、グレイスって、ドラクエⅥに出てきたあの国の事じゃないだろうな……って、考えすぎか……)
俺がそんな事を考える中、フォルスは感心したように頷いていた。
「過去の遺産を蘇らせる、ですか……なんだか壮大な話ですね」
「まぁ詳しいことはわからんけどね。ン?」
と、そこで、奴がこちらにやって来たのであった。
【ねぇ、ジュライ。貴方、これが終わったら、手合わせ願えるかしら】
やって来たのは勿論アリーナであった。
いきなり呼び捨てかい! と思ったのは言うまでもない。
流石、王族である。
俺の事を下僕だとでも思ってるのだろう。
とはいうものの、コイツは女性に対しては、ちゃんとさん付けで呼ぶのである。
アリーナ的に、男の階級は相対的に低いのだろう。
まぁそれはともかく、断るとしよう。
「やだ」
「なんでよ! いいじゃない。フォルスには今朝も稽古つけてたでしょ!」
コイツのいる前でフォルスの稽古をつけたので、俺は少し後悔してるところだ。
というか、稽古つけてたら、こっちに来たというのが正しい表現である。
「でも、やだ。アリーナは色々と面倒そうだから」
「面倒そうってどういう意味よ。私はそんなに難しいこと言ってないじゃない」
「だって……俺、直接殴り合うのは苦手なんだよね」
「嘘つき。私、このあいだ、バルザックと戦ってたの見てたもの。素早く懐に潜り込んで殴ってたじゃない。私、ちゃんと見てたんだから!」
恐らくコイツは、幽震掌を放った時の事を言ってるんだろう。
あの場で、よくこっちを見ていられたものだ。
つか、キングレオ無視かい。
「まぁあれは仕方なくだよ。それに女の子と戦うのは、なんか嫌なんだよね」
「なによ、それ! そんなの関係ない。私は強くなりたいんだから!」
本当に面倒臭い子である。
「なんでそんなに強くなりたいの?」
「決まってるじゃない。デスピサロ達を倒す為よ! そして、お父様達を救って見せるんだから! それが私の使命なのよ!」
一応、ちゃんとした信念があって言ってるようだが、女子とはあまり戦いたくないもんである。
(どうしたもんかねぇ……まぁでも、一度だけちゃんと手合わせしてやるか。しつこいし……場合によっては、わざと負けてやろう)
というわけで、俺はアリーナに言った。
「わかったよ。じゃあ、明日の朝、旅を再開する前に、少し手合わせしてあげるよ。その代わり、フォルスの稽古の後だけどね。それでいい?」
アリーナはニコニコと微笑んだ。
「それでいいわ、絶対だからね!」――
その後、姉妹がお使いの品々を揃えたところで、俺達はここから撤収した。
ちなみに撤収方法は、マーニャのリレミトである。
初のリレミト体験だったが、不思議な魔法であった。
黄色い光に覆われたと思ったら、一瞬で、洞窟の入口に転移していたからである。
ルーラにしろリレミトにしろ、俺はこういった転移の呪術を持ってないので、衝撃の魔法達であった。
つか、出鱈目である。回復魔法も同様だ。
そして、俺はそれを体験する度に、羨ましく思ってしまうのであった。
現実世界でドラクエ呪文を使えたら、どれだけ楽しい毎日を送れるんだろうか……。
これが日本人の共通認識に違いない。
[弐]
翌日の明け方、エドガンさんの家にフォルス達がやってきた。
まだ夜が明けたばかりなので、出発にはだいぶ早いのだが、なぜか全員勢揃いであった。
しかもフォルス達は、盗賊の鍵を使って扉を開け、中に乗り込んで来たのである。
不法侵入もいいところであった。流石、ドラクエ世界である。
とはいうものの、ゲームと違って、勇者による空き巣や居空き、それから壺や木箱の破壊はないようだ。が、こういう倫理観はあまり成熟してないみたいである。
まぁとりあえず、そういう世界だと思うしかないのだろう。
ちなみに、昨晩も俺は、姉妹と一緒にエドガン家に宿泊であった。
なぜなら、商人達は連泊のようで、宿屋に空きがないからである。
彼等の話を聞く限りだと、商人達はキングレオの検問が怖くて二の足を踏んでいるらしい。
俺達が大丈夫と言っても信じないので、もう放っておくしかないのである。残念。
まぁそれはさておき、あまりに早い訪問だったので、俺は彼等に起こされた感じであった。
というか、現に今も起こされている最中である。
【おっはよ〜! ジュライ! 起きなさい!】
アリーナのバカでかい声がエドガン家に響き渡る。
なんつー迷惑な奴だと思ったのは言うまでもない。
俺は半身を起こし、アリーナに注意した。
「何時だと思ってんだよ。つか、まだ夜が明けたばかりじゃないか! そんなバカでかい声出すなよな。ったく、何考えてんだよ」
するとそこで、マーニャとミネアも、目を擦りながら起きてきたのである。
ちなみにだが、姉妹は共に、白いキャミソールワンピースのようなモノを着て寝ていた。顕わにした両肩がエロい。
どうやらこれが、彼女達のパジャマのようだ。
マーニャも寝るときは露出を控えるみたいである。
また、2人共、寝るときは頭の装飾品を外していた。
これは野宿してた時もそうなので、流石につけたままでは寝れないのだろう。
で、俺の寝巻きはというと、この世界に来た時に着ていた作務衣であった。
寝るときはこれが一番楽だからだ。
といっても、宿屋で泊まるときだけだが。
まぁそれはさておき、姉妹も迷惑そうにアリーナを見ていた。
「なによぉ、もう……まだ出発には早いでしょ」
「どうしたのですか、一体……」
するとアリーナは、目を丸くしたのである。
「あれ……マーニャさんとミネアさんもいるじゃない。3人で寝てたの……ふぅん」
そう、コイツの言う通りである。
俺は姉妹と一緒に、寄せ合わせた2つのベッドで寝ていたところだ。
2つのベッドはサイズ違いで、シングルサイズくらいの物とセミダブルサイズくらいの物であった。
それらを寄せ合わせて広くしているので、大人3人でもなんとか寝れるのである。
姉妹は子供の頃、ここで父親と一緒に寝ていたそうだ。
ちなみに俺は、(美女に挟まれて寝れるのでラッキー!)と思っていたのだが、意外とマーニャの寝相が悪く、寝てる時、コイツから裏拳喰らって、俺は夜中に目を覚ましてしまったのである。
その為、マーニャと寝る時は、ちょっと注意が必要だと考える今日この頃なのであった。
と、まぁそんな事はさておき、そこで、トルネコの陽気な声が聞こえてきたのである。
【おお! ほほほ、これはこれは。ジュライ殿達は、昨晩はお楽しみだったようですな。ささ、皆さん、我々はお邪魔のようですよ】
コイツは何かを勘違いしてるようだ。
隣りにいるライアンもそれに続く。
「英雄、色を好むと言いますからな」
「色を好む? どういう意味なのですか?」と、フォルス。
「貴方はそんな事、知らなくていいの!」
シンシアは赤面しつつ、フォルスに注意していた。
仲睦まじい光景であった。
とはいえ、誤解は解かねばなるまい。
「おいおい、トルネコさんにライアンさんよぉ、なにか勘違いしてないか。俺達はそんな事してねぇよ。ただ一緒に寝てただけだ」
ミネアはそれを聞き、恥ずかしそうに俯いていた。
対するマーニャは微笑んでいる。
「そうなのよ。私待ってたのに……」
「マーニャさん、あまり誤解を与えるような言い方は困るなぁ」
するとマーニャは、頬を膨らましたのであった。
「ちょっと……ジュライさん! マーニャさんはやめてって、昨日言ったでしょ」
「そ、そうだったね。じゃあ、マーニャ。あまり誤解を生むような言い方は……」
と、言いかけたその時、マーニャは俺にしなだれ掛かってきたのであった。
「だってぇ、本当なんだもん」
「ちょっと何してるのよ、姉さん! 離れなさい」
ミネアはそう言って、マーニャを遠ざけようと押し返す。
これを見てもわかる通り、マーニャは物凄い積極的な女であった。
寝てる時も、やたら俺に身体を近づけてくるのである。しかも、特に胸をだ。
2人きりだったならば、俺もその物体を揉みしだき、本能の赴くまま、最後まで楽しんでた事だろう。
で、対するミネアはというと、少し遠慮したように、ぎこちない感じなのであった。
野郎と寝るのに慣れてないのか、少し緊張してたみたいである。
おまけに寝てる時、チラチラと悩ましい表情で俺を見てくるのだ。
こういうのも意外とムラムラ来るので、男的には厄介な女であった。
そんなわけで彼女達は、静と動のエロを兼ね備えた、恐るべき姉妹なのである。
とはいえ、下には親父もいるので、あまり下手なことは出来ない。その為、俺は悶々としがら眠りにつくのを余儀なくされたのであった。
姉妹と寝ると、寝不足の日々が続きそうである。
まぁそれはさておき、アリーナはそこでブライとクリフトに振り返った。
「ねぇ、ブライにクリフト。今、お楽しみって言ったけど、何してたの?」
2人は答えにくそうに咳ばらいをする。
「オホン、姫様……なんでもござらん。気にしなくてよいですぞ」
「そ、そうですよ、アリーナ様。ただ遊んでおられただけなのではないでしょうか」
「ふぅん、そうなの。まぁいいや」
無邪気なアリーナはそれで納得したようだ。
コイツはこう見えて王族だから、こういう下賤な世界は知らんほうが良いだろう。
それはともかく、こんなクソ早い時間帯に来た理由が気になったので、俺はそれを訪ねることにした。
「ところで、こんな朝早くに、どうしたんだ一体……」
「決まってるじゃない、それは朝の手合わせをする為よ!」と、アリーナ。
するとフォルスが即座に訂正した。
「違いますよ、アリーナさん。ここに来たのは、今後についての話し合いですよ。手合わせはその後です」
「あ、そうだったわね」
アリーナは戦いしか興味ないのだろう。
可愛い見た目と思考のギャップが凄い少女である。
「おいおい、今後の話し合いなら、こんな朝早く来なくても良いだろ」
すると、フォルスが申し訳なさそうに言葉を紡いだのである。
「それがですね、アリーナさんがどうしても今から行くと言うので……僕もまだ早いとは言ったんですが……」
つまり、アリーナに押し切られたという事のようだ。
おてんば姫、ここに極まれりといったところである。
「仕方ない。今更追い返すのもなんだし、今後の打ち合わせをするか。ミネアとマーニャもそれでいい?」
姉妹は頷く。
「ですね。もう始めましょうか。でも、その前に着替えさせてください。それからにしましょう」
「そうよ。だから、みんな一旦外に出てちょうだい」
「じゃあ、俺も一旦外に出るよ」
ミネアは申し訳無さそうに俺を見た。
「すいません、ジュライさん」――
というわけで、俺達はこんな明け方に、今後のミーティングを行う事となったのであった。