[壱]
サントハイムの玉座に腰掛ける魔物は予想通り、エビルプリーストであった。
この段階で、コイツが出てくるとは思わなかったが、前例があるので仕方ないところである。
全部、俺のせいだ。後悔先に立たずである。
まぁそれはともかく、今はコイツの出方を窺うとしよう。
アリーナは握り拳を作り、ワナワナと怒りに震えながら、エビルプリーストを指さした。
【お前を倒す前に訊くわ! お父様や皆を一体、どこにやったの!】
エビルプリーストは鼻で笑い、それに答えた。
「クククッ……どこにやった、か。それはこちらが訊きたいくらいだ。ただし、1つだけわかっている事がある」
「それは何! 教えなさい!」
「サントハイム王達は何らかの力が働き、消されたのだろうという事だ。あの時……上空に突如、黒い雲が現れ、サントハイムの方へ流れてゆくのを我も見たのでな。そう……ちょうどお前が、エンドールでの武術大会なんぞにかまけていた頃だ……クククッ」
「何らかの力ですって! どういう意味よ!」
「少しは自分で考えたらどうだ、愚かなる人間の姫君よ。といっても、頭の弱い小娘には無理な話か。まぁいい。何らかの力とは……恐らく、闇の力であろう。サントハイム王は毎晩、地獄の帝王が復活する夢を見て、うなされていたと聞くからな。大方、いらぬ事をしようとして、エスターク様に消されたのであろう」
「クッ……」
アリーナは今にも飛び掛かりそうな気配であった。
だが、エビルプリーストの返答に、少し戸惑っているようにも見える。
恐らく、魔物も知らないという内容に落胆したのだろう。
まだ魔物が連れ去ったと答えてくれた方が、アリーナ的には良かったのかもしれない。
まぁそれはさておき、エビルプリーストの対応に引っ掛かりを覚えたので、とりあえず、俺も確認してみる事にした。
「ええっと……アンタ、エビルプリーストと言ったっけか。お取り込み中、悪いんだけどさ、俺も幾つか質問いいか?」
エビルプリーストはイラっと来たのか、切れ長の赤く鋭い目で、俺を睨みつけてきた。
「なんだ、貴様は……。気に入らんな、お前のその舐めた態度が……」
癇に障ったのだろう。
意外と了見の狹い奴である。
「まぁいいじゃないか。ところで、お前はなんでそんなに、ベラベラと情報を教えてくれるんだ? それとも……何か別の思惑でもあるのか?」
エビルプリーストは忌々しそうに鼻を鳴らした。
「フン、何を言うのかと思えば……。我はお前達を嘲笑っているのだ。馬鹿か、貴様は」
とはいうものの、話しながら少し目線を反らしているので、何かあるのは間違いないだろう。
「そのわりに、質問に答えてくれてるじゃないか。さてはお前……何か企んでいるな? ずる賢そうな顔してるし」
するとエビルプリーストは、探るような目で、俺をジッと見ていたのである。
何か考えているような感じであった。
「ジュライさん……コイツ、何か罠でも仕掛けているの?」と、マーニャ。
「さあね……だが、こういう小馬鹿にした態度をとる奴は、俺の経験上、たいてい狡猾なクソ野郎と相場が決まっているんでな。ン?」
エビルプリーストはニヤリと笑った。
「クククッ、ほう……貴様がジュライという奴か。噂は聞いてるぞ。ピサロ様に一泡吹かせたばかりか、四天王のヘルバトラーをあんな風にした奴だな……。そして、あのバルザックをも倒したそうだな。そうか……貴様だったのか……」
ヘルバトラーの
「へぇ……どんな風に噂になってるか気になるところだが、それがどうかしたか?」
するとエビルプリーストは、先程とは真逆に、フレンドリーに話しかけてきた
「これは丁度良かった。我はお主を待っていたのだよ。勇者一行と旅をしていると聞いたのでな。いずれここに来るだろうと待っていたのだ」
わけのわからん事を言う奴である。
「はぁ? 待っていた?」
俺が首を傾げる中、エビルプリーストは饒舌に続けた。
「ジュライと言ったか。お主……我と手を組まぬか? お主と我等が手を組めば、この世界を手中に収めるのも、そう時間は掛からぬだろうからな。ピサロ様もそう申しておったぞ。ピサロ様から聞いた話だと、お主は元々、成り行きで勇者達と行動を共にしているそうじゃないか。ならば、無理に付き合う事もなかろうて。どうだ? 目的が達せられた暁には、お主も、それ相応の褒美が得られようぞ。それこそ、世界の半分くらいは、お主のモノにできるくらいの褒美がな。クククッ、どうだ? 悪い話ではあるまい」
予想外の展開である。
ここでまさか、ドラクエⅠのような竜王取引が来るとは思わなかったからだ。
まぁそれはさておき、受けるつもりなどないが、もう少しこれをエサに、コイツから色々と聞きだすとしよう。
「へぇ……世界の半分か。それは良い話だね」
俺はそう言って、ミネアとマーニャに軽くウインクした。
「クククッ、そうであろう」
エビルプリーストは愉快に笑った。
アリーナが勢いよく振り返る。
「ジュライ! 何を言ってるのよ! こんな魔物の言葉に惑わされないで! そんなの絶対ダメなんだから!」
「そうですよ、ジュライさん! そんなの絶対ダメです!」と、続いてフォルスも。
他の仲間達に視線を向けると、フォルスやアリーナ同様、非難の視線を俺に送っていた。が、ミネアとマーニャは、なんとなく察したのか、特に何の反応も示さなかった。
他の者達とはアイコンタクトを取る暇がなかったので、これは仕方ないところである。
気を取り直していってみよう。
「返事をする前に、幾つか訊きたいことがある。お前達は魔界って知っているか?」
するとエビルプリーストは、意外にも首を傾げたのであった。
「マカイ? 我等、魔族の祖先がいると謂われている、あの魔界の事か?」
この反応を見る限り、ドラクエⅣのラストフィールドである地底世界とは別なのかもしれない。
「どの魔界の事を言ってるのかわからんが……多分、その魔界だ」
質問しておいてなんだが、ここはこう言うしかないだろう。
「妙な事を訊いてくる奴だ。で、それがどうかしたのかな?」
魔界はドラクエⅤに出てきた世界だが、その経緯について、ゲームではあまり詳しく触れられてないので、実態はよくわからない。
ゲームだと、ミルドラースという、非常に影の薄いラスボスが生息していたのは憶えているが、現時点でもいるのかは謎である。
まぁそれはともかく、話を進めよう。
「以前、俺の知り合いが、魔界よりの使いという奴と会ったそうなんだが、お前達の知り合いかと思ってな。で、どうなんだ?」
するとエビルプリーストは、怪訝そうに眉根を寄せたのである。
「魔界よりの使いだと……知らぬな。何者だ、其奴は?」
コイツの霊気の感じからして、嘘はついてないようだ。
本当に知らないみたいである。
「お前達の仲間かと思ったんだが……その反応見る限り、どうやら違うみたいだな」
残念な展開であった。
これで益々、わけがわからなくなったのは言うまでもない。
「魔界の地は遥か昔、天空の神によって分けられたと、我等は聞いている。ふむ……今の話が本当ならば、実に興味深い話だ。魔界には、魔族の神がいると謂われているからな。まぁ興味は尽きぬが……それ以上の事は知らぬぞ。で、他は何が聞きたい?」
コイツが知らないのなら、もうどうしようもない。
質問を変えるとしよう。
「じゃあ、もう1つ行こうか。今、突如黒い雲が現れ、サントハイム城の方へ流れていったと言ったが、どういう事だ?」
実は、雲という部分がさっきから気になっていたのである。
なぜならそこは、天空の領域だからだ。
「その言葉通りよ。我もあの時、サントハイムにいたのでな。まぁとはいっても、サントハイム城からは離れていたので、ただ目撃したというだけだがな。あの後……我も使いの者にサントハイム城を偵察させたが、報告でもぬけの殻になっていたのを知り、驚いたところだ。まず間違いなく、強大な闇の力の為せる業であろう。エンドールで武術大会に出ていたピサロ様にそれを伝えたら、すぐに戻って来たくらいだからな。サントハイム城の有り様を見て、ピサロ様は言っていたぞ。地獄の帝王の復活は近いとな……クククッ」
どうやらコイツは、ゲームで言う第2章の時点で、サントハイムにいたようである。
あの時のイヴェントで、コイツが関わっていそうなのは、もうアレしかないだろう。
そう……黄金の腕輪の取引イヴェントである。
「さて……いつまでこんな下らない問答を続けるつもりか知らんが、返事を聞かせてもらおうか?」
まぁとりあえず、コイツから聞ける話なんてこんなところだろう。
核心部分は絶対に喋らないに違いない。
「そうだな……じゃあ、返事するよ。世界の半分か……まぁ悪くない話だ」
エビルプリーストはニヤリと笑う。
「ほう……こちら側に来るという事かな?」
俺は頭を振ると、某奇妙な冒険に出てくる漫画家風に返事をした。
「だが……断る!」
一度言ってみたかったセリフである。
「残念だが……俺は世界の支配とか、あんまり興味ないんでな」
すると思いの外、エビルプリーストは大きな溜息を吐き、落胆していたのであった。
どうやらマジで勧誘してたみたいだ。
「それは残念だ……あくまでも我等の邪魔をするという事か。ならば仕方がない……我も相応の対応はせねばなるまいな」
エビルプリーストはそう言って、指をパチンと鳴らした。
その直後、右側にいる黒いローブ姿の何かが立ち上がったのである。
「その方、こ奴等に姿を見せてやるがいい」
その言葉に従い、黒いローブ姿の何かはフードを捲り上げた。
するとなんと、フードの下に隠れていたのは、若い女性だったのである。
操られているのか、目は虚ろであり、覇気のない表情をしている。が、俺は見たことない女性であった。
(誰だ、この人……ン?)
と、そこで、サントハイム組が驚きの声を上げたのである。
【あ、貴方は、メイ!】
【なッ!?】
【その方……まさかあの時の!】
どうやらアリーナ達は知ってるみたいだ。
つーわけで訊いてみた。
「3人の知り合いか?」
「は、はい。話すと長くなるのですが……フレノールという街でちょっとありまして……」
クリフトはそう言って言葉を濁した。
たぶん、ゲームでいうところの偽姫誘拐事件の事かもしれない。
エビルプリーストはニヤリと笑った。
「クククッ……アリーナ姫には、さぞかし懐かしい顔であろう。この者達の狂言に付き合わされて、黄金の腕輪を取りに行ってくれたのだからな」
それを聞き、アリーナ達は目を見開いた。
「なんですって!?」
「なんじゃと!? あれも計画じゃったのか!」
「まさか、あの誘拐事件はすべて仕組まれていたのか!」
エビルプリーストは不敵に笑いながら立ち上がると、懐からピンポン玉サイズの紫色の玉を取り出し、メイという女性を手招きした。
女性は夢遊病患者のようにフラフラと、エビルプリーストの元へと向かう。
そしてエビルプリーストは女性の首を掴み、その玉を彼女の口へ押し込んだのだ。
エビルプリーストはそこで厭らしい笑みを浮かべた。
「そういえば、アリーナ姫……お前には礼を言っておかねばならんな」
「礼ですって!? 一体何のことよ!」
「良い事を教えてやろう。あの洞窟に封印されていた黄金の腕輪はな、厄介な事に……サントハイム王家の者でなければ解く事が出来ないようになっていたのだ。おかげで我も苦労したが、アリーナ姫が旅に出たと聞いた時は、渡りに船であったわ。礼を言うぞ。まぁとはいえ、コイツ等に偽物を掴まされたので、少ししてやられたがな。だが……それももう既に、回収は終わった。これで終わりよ。クククッ……」
と、その時であった。
【ガァ……ヴァァァ】
女性は突如、呻き声を上げ、胸をかきむしるように苦しみだしたのである。
「この子に一体、何をしたのッ!」
アリーナはエビルプリーストをキッと睨みつけた。
「クククッ……よくぞ訊いてくれた。我はこの女に、進化の秘法の前処理である魂の調合を施したのだ。さぁよく見ておけ、今からこの女の魂と魔物の魂の結合が始まるのだからな、クククッ」
と言ったその直後!
【メラミ!】
なんとエビルプリーストは、謁見の間の窓に向かい、メラミを放ったのである。
そして窓を破壊するや否や、脱兎の如く、そこへダッシュしたのであった。
この突然の行動に、俺達は誰も身動きできなかった。
それほどに予想外の行動だったのだ。
エビルプリーストは窓の縁に足をかけ、こちらに振り返った。
「クククッ……では、我はこれにて失礼させてもらおう。ヘルバトラーをあのような目に遭わせた奴と、まともにやり合うほど、我は愚かではないのでな」
「待ちなさい! 逃げるな、卑怯者!」と、アリーナ。
「どうとなりと言うが良い。我は最終的に目的を達せれば、それで良いのだ。クククッ、さて……そんな事より、いいのかな? 早くその女から魂を吐き出させないと手遅れになるぞ。進化の秘法は、魂の結合が完了したら、もう後戻りはできぬからな。クククッ、では失礼する! ルーラ!」
そしてエビルプリーストは光りに包まれ、天高く舞い上がったのであった。
[弐]
エビルプリーストが逃げ去った後、俺達は急ぎ、女性から玉を吐き出させ、進化の秘法を阻止した。
女性はその後、気を失って倒れ込んだが、命に別条はないようであった。
但し、別の問題があったので、俺は破魔の秘紋を女性の身体に施したのである。
なぜならば、魔物の魂の残りカスのようなモノが、まだ女性の中にあったからだ。
ちなみにそれらは、女性の上半身をすっぽんぽんにして、鳩尾から丹田のあたりに秘紋を描く作業であった。
男連中は目のやり場に困っていたが、緊急を要する局面なので、まぁ仕方ないところである。
そして、その後、少し落ち着いたところで、俺達は城内の様子を一通り確認していったのである。
その結果、害のある魔物はもういなかったので、俺達はそこで一旦、休憩を挟むことにしたのだ。
話は変わるが、害にならない魔物は1匹いた。
それは、屋上で猫と戯れるスライムであった。
例の如く、「僕は悪いスライムじゃないよ。友達の猫のみーちゃんが心配で、会いに来たんだよ。みーちゃんが言うには、サントハイムの王様には不思議な力があったんだって! 王様に詳しい人がサランにいるから聞いてごらんって言ってるよ!」などとほざくスライムである。
お馴染みの悪い魔物じゃないよシリーズだが、このスライムはエドガンさんと違い、マジモンの魔物であった。
実を言うと俺は、エルフの里以外で、初めてそういう魔物を見たのである。
まぁそういうわけで、友好的な魔物は里以外にもいるのだなと、改めてわかったのであった。
つーわけで話を戻そう。
休憩を終えたところで、俺は仲間達に、謁見の間へと続く階段がある1階の開けた場所に戻るよう、指示をした。
なぜここに戻るのかというと、勿論理由がある。
実はここに来てからというもの、俺はその都度霊視をしているのだが、ここが一番強い霊気の波動を感じるからだ。
かなり強い思念が残っている感じなので、もしかするとサントハイム王は、ここに皆を集めて、何か話すつもりだったのかもしれない。
とりあえず、天眼通の咒法でその謎に迫れる事を期待するとしよう。
まぁそれはさておき、俺はそこで、咒法に必要な物をアリーナ達に説明した。
「さて……とりあえず、魔物もいないようだから、始めるとするか。ただ、天眼通の咒法をするには必要な物が幾つかある。まず1つは、このサントハイム城で使われている水が必要なんだが、それはここにある池の水で使うとしよう」
俺はそこで、この空間の四隅にあるL字型の池に視線を向けた。
そう……この場所には、お誂え向きにも、池が設置されているのである。
ちなみに、その周囲には花壇もあるのだが、今はすべて枯れ果て、無惨な姿となっていた。
管理する人間がいないので、こうなるのも仕方ないところだ。
俺は話を続けた。
「で、その水を入れる皿状の大きな器が欲しいんだ。できれば大きめのモノがほしい。用意できるかい?」
「それならば儂が用意しよう。他に必要なモノはあるかの?」と、ブライ。
「後は、丈夫な長い縄みたいなモノと、何でもいいから剣を9本探してきてくれるか。魔除けの結界を張るのに使いたい」
するとクリフトが手を挙げてくれた。
「それらは、私が探してきましょう」
「じゃあとりあえず、お願いするよ。他に必要な物は、俺が適当にその辺から拝借させてもらうから、それらが揃ったら始めるとしようか」――
―― それから2時間後 ――
準備は滞りなく進み、後は天眼通の咒法を行うだけとなった。
俺の前には今、簡易な祭壇のようなモノが組まれている。
祭壇の見た目は、真言宗でよくやる護摩行のような感じだが、今から火をくべるわけではない。
そこには、水が満たされた大きな器が置かれているだけだ。
そして、その祭壇の四方には縄の結界が施してあり、術者である俺は、その手前にいるのである。
他の仲間達はというと、今は俺の後ろで、静かに見守っているところだ。
ちなみにだが、実は今回、天眼通の咒法をするにあたって、浄魔八葉紋という魔除けの結界を施しておいた。
それはこの城全体に及ぶ規模のモノであった。
前回、お告げ所の近くで行使した浄魔八葉印を更に強化した結界である。
かなりヤバ気な相手なので、このくらいしないと安全が保たれないと考えたのだ。
但し、一か所だけ結界の弱い部分がある。それは祭壇の中心であった。そこだけは思念を映さないといけないので、やや弱いのである。
とはいえ、ここを完全に塞ぐと咒法が行使できないので、止むを得んところだ。狭い部分なので、今は目を瞑るしかないだろう。
まぁそれはさておき、俺はそこで仲間達に視線を向けた。
仲間達は不安げな表情で、祭壇の器を凝視している。
なぜ仲間達がここを見ているのかというと、水面に思念が映し出されると、俺がさっき説明したからである。
そう……これは天眼通の咒法の1つ、思念を映す水鏡の咒法なのだ。
というわけで、後は実行するのみである。
【さて、では始めるとしようか】
仲間達は神妙な面持ちで静かに頷いた。
俺は深呼吸をしながら霊力を高め、手印を組みながら、天眼通のマントラを唱えて始めた。
すると程なくして、水鏡にぼんやりと、サントハイム城の様子が映し出されたのである。
水鏡には様々な場面が、あたかも走馬灯に映る影のように、次々と流れてゆく。
それに伴い、ギャラリーの驚く声も聞こえてきた。
「おお! 本当に映りましたね……まさかこんな事ができるとは……」
「いやはや……これは凄い。勇者殿は変わった魔法を使えるのですな」
「ジュライさんは……見たこともない武術や魔法に精通しているので、驚くことばかりです」
「フォルスは凄い方に師事してもらってるのかも……」
「流石、ジュライさんね。魔物が警戒するだけあるわ」
「ジュライさんの傍にいると驚くことばかりです。占い師である私も、こんな魔法を使えるようになりたいですね」
なんか知らんが、えらく絶賛されていた。
この世界には、こういう魔法が有りそうで無いのかもしれない。
「でも、これ……変じゃない? これはサントハイム城だと思うけど、こんな人達、私は見たことないもの。誰よ、この王子みたいな人」
「いえ……これは先代の陛下ですぞ、アリーナ様。姫の曾お祖父様です。今映っておるのは、過去のサントハイム城ですぞ。まさか、こんな魔法があろうとは……」
「そうなのですか、ブライ様? 私は初めてみました」
「当たり前じゃ。お主など生まれてもおらぬわ」
城内の思念を映す水鏡は、途切れることなく色んな場面を流し続ける。
そして場面は更に変化していった。
「あ!? お父様だ! 小さい私もいるわ! それと、お母様も……ああ、お母様……」
水鏡には、3歳くらいの小さなアリーナを抱く、若い美男子の姿が映し出されている。なかなかのイケメン王様のようだ。
また、その隣には、今のアリーナとそっくりな顔付きをした貴婦人の姿があった。
これが母親なのだろう。美しい女性である。
勿論、武闘家のような勇ましい雰囲気はない。
「ジュライ……生きていた頃のお母様をまた見れるなんて思わなかった。ありがとう……」
アリーナはそう言って目を潤ませていた。
俺は天眼通のマントラを一定のリズムで唱え続けないといけないので、返事はできなかったが、とりあえず、頷いておいた。
それから暫くすると、今のアリーナ達が映る場面になっていった。
「私の姿が見えましたね。このクリフトが、王城の教会に配属された日の一幕ですよ。この時は、王様から直に激励を受けましたので、感極まる思いでした」
「儂の姿もあるの。姫様の教育係を仰せつかった時じゃ……懐かしいの。あまり教育はできておらぬのが、陛下と、今は亡きお妃様に申し訳ないところじゃわい」
それから程なくして水鏡は、サントハイム王が大勢の者達の前に立ち、演説する場面を映しだした。
ちなみにその場所は、俺達がいるココであった。
(時系列的にもうそろそろ、その時が来る頃だろう。さて……何があったのか、拝ませてもらうとしようか……)
王様は大勢の者達の前で咳払いした後、何かを話し始めた。
だがその直後!
城内が薄暗くなり、王様を含めた大勢の者達は、突如現れた巨大な黒い霧の渦に覆われていったのだ。
しかもそれは、以前、龍脈の乱れを見た時のような黒い霧の渦だったのである。
王様達は、この突然の事態に取り乱し、かなり慌てふためいていた。
声は聞こえないが、それは手に取るようにわかる光景であった。
(やはり……龍脈の乱れが関係してるな。しかも、この感じだと、城全体に及ぶ規模に違いない。これは本当に、地獄の帝王の仕業なのだろうか? 何か違うような気がするが……)
そして事態は更に悪化し、王様達は黒い霧の渦に飲み込まれるような形で、この城から忽然と姿を消してしまったのである。
と、そこで、ギャラリーの動揺する声が聞こえてきた。
【な、何よ、今のは……お父様達が一瞬で消えたわ】
【面妖な! これは魔物の仕業か!】
【な!? ジュライさん、これはブランカの北の森で見たのと、同じ渦じゃないのですか!?】
【フォルスの言う通りよ……あの時のと同じ渦に見えるわ!】
【こんな恐ろしい光景初めて見ましたよ、私は……あわわわ】
【黒い霧が出たと思ったら、皆いなくなった……どういうことよ】
【なんなのですか、今のは……】
【そんな馬鹿な……消えてしまったぞ。なんじゃ、今の黒い旅の扉みたいなモノは】
【ブライ様の言う通りです。なんですか、今の黒い旅の扉みたいなのは……】
黒い旅の扉。
言い得て妙な表現であった。
そう……それはまるで、旅の扉のような現象だったのである。
(ブライの言う通り、確かに旅の扉みたいな現象だ。これがもし旅の扉なら、どこかに出口がある筈……一体どこだ……ン? な!?)
などと考えていた、その時であった。
なんと祭壇の水が突如波打ち、そこから黒い霧状のようなモノが立ち昇ったのである。
そして、その黒い霧から、獣のように醜くデカい手が現れ、俺に掴みかかってきたのであった。
それは俺を一掴みできるほどの、大きな腕と掌であった。
【チッ! なんだこの腕は!?】
俺は咒法を止めたが、それは消えなかった。
しかも思いの外、腕は素早かった為、俺はそれに突き飛ばされる形で、天井に押さえつけられてしまったのである。
「クッ……グァァ!」
それは物凄い力であった。
【ジュライ殿!?】
【ジュライさんッ!?】
【キャァァ、ジュライさんッ!?】
仲間達の慌てる声が城内に響き渡る。
(や、やばい! このままじゃ、圧死してしまう! クッ、仕方がない!)
俺は急ぎ、鬼紋修咒の法を行使した。
その直後、俺の身体は霊気の青白いオーラに包み込まれる。
そして、俺は印を組み、浄化のマントラを唱えたのだ。
【グギャァァ】
その刹那、太い腕は悲鳴を上げ、力を緩めた。
俺はその隙に脱出し、なんとか地面に降り立った。
(た、助かった……鬼紋修咒使わないと死んでたかもしれない。でも、ヤバいぞ……これはただの魔物じゃない! デスピサロなんか比じゃないくらいに、ヤバい魔物だ。チッ……)
俺は咳き込みつつも、得体の知れない腕に視線を向けた。
「ゲホッ、ゲホッ……なんなんだこの腕は! 地獄の帝王とやらか!」
醜い獣の腕は浄化のマントラによって焼け爛れていたが、まだ諦めていないのか、尚も、俺に掌を向けて威嚇していた。
俺はそこで剣を抜き、摩利支天浄魔光剣を発動させる。
するとその直後、地の底から響くような、低くおどろおどろしい声が、祭壇の器から発せられたのだ。
【おのれぇぇ! 何奴じゃあ! 邪魔する者は誰であろうと許さぬ! エスタークは誰にも渡さぬぞ! あれはこのデスタムーア様のモノじゃ! 天空の神にも、こればかりは邪魔はさせぬわ! 失せるがいい!】
そう叫ぶや否や、太い腕はまた、俺に襲いかかってきたのである。
(デ、デスタムーアだって!? どういう事だよ……チッ、考えるのは後だ!)
俺は迫りくる腕の手首に向かい、素早く間合いを詰め、剣を鋭く一閃した。
その刹那! 手首は切断され、ボトリとその先が落ちてきたのである。
【ウギャァァァ! 腕がァァァ!】
するとその直後であった。
太い腕は巻き戻るかのように、祭壇の黒い霧と共に消えていったのだ。
仲間達はこの突然の展開に、武器を構える事も忘れ、ただ呆然と立ち尽くしていた。
辺りには不気味な静寂が漂い始める。
俺はそこで、祭壇の器に摩利支天浄魔光剣を突き刺し、結界の脆弱部分を塞いだ。
そして俺は鬼紋修咒を解き、片膝を付いたのである。
先程のダメージに加え、術の疲労も来たからだ。
「ハァ、ハァ……デスタムーアだと……どういう事だ、一体。なんで奴が……ン?」
するとそこで、妙な事が起きた。
切り落とした手首が、白い煙と共に消滅したのである。
それだけではない。
なんとそこには、見慣れたあるモノが落ちていたのだ。
俺はそれを拾い上げた。
(これは勾玉か……なんでこんなモノがここに……)
そう……そこに落ちていたのは、日本古来の装飾品である勾玉みたいな形状のモノであった。
俺はそれを見るなり、奇妙な違和感を覚えた。
なぜなら、ドラクエっぽくないアイテムだったからである。
またそれと共に、現実に引き戻されたような気分にもなったのであった。
(デスタムーアといい、この勾玉といい……一体何がどうなってる……)――