[壱]
サントハイム城での災難の後、俺達はアリーナの手引きで、城の宝物庫へと足を踏み入れた。
アリーナ曰わく、「皆、宝物庫に行くわよ。地面から溶岩を出すことができる凄い魔法の杖があるんだから」との事である。
ちなみにだが、宝物庫はゲームのように宝箱3つのみという仕様ではない。
20畳くらいある部屋だが、床には赤いカーペットが敷かれており、その上には多種多様な絵画や彫像といった美術品、そして武具等が博物館のように綺麗に陳列されていたので、ちゃんとした宝物庫っぽい感じであった。
そして、俺達はそこで色々と物色し、マグマの杖と幾つかの宝物を拝借することになったのである。が、しかし……そこで、少し不可解な事があったのだ。
なぜなら、サントハイム組が首を傾げる奇妙な箱が置かれていたからである。
それは不気味な紋様が彫られた黒く細長い箱であった。
両手で軽々持てる程の重さで、それほど大きくはない。
掛け軸を入れておく木箱のようなサイズ感の物である。
しかし、色が黒檀のように真っ黒なので、少々不気味であった。
おまけに、周囲に置かれている美しい絵画や美術品の中では、一際浮いた存在だったのである。
アリーナはその箱をマジマジと見ながら、ボソリと言った。
「ねぇ、ブライにクリフト……こんな箱、宝物庫に前からあったっけ? 私が旅に出る前、少し物色しに来たんだけど、こんなのなかったと思うわ」
「このクリフト、宝物庫に立ち入るのは初めてですので、ちょっとわかりません」
「儂は初めて見る箱ですな。というか、姫……勝手に宝物庫からなんでも持ち出してはいけませぬぞ! 然るべき手続きを経てからです!」
アリーナは意に介した素振りもなく、淡々と話を進めた。
「はいはい、守衛に止められて何も取ってないから心配しないでいいわ。それはともかく、ブライとクリフトは見た事ないのね。じゃあ、この箱は何なのかしら?」
「3人が知らないなら、魔物が置いたんじゃないのか?」と、俺。
「えぇ!? 魔物!?」
アリーナは嫌そうな顔をした。
「そういう可能性もあるって事だよ。まぁそれはともかく、中を見ればわかるだろ。特に変な邪気は感じないから、罠の類はないだろう。俺が確認してやるよ」
俺はそう言って黒い箱を手に取り、上蓋を開けた。
するとそこには、奇妙な紋様が彫られた黒い棒状の物が1つ入っていたのである。
俺は箱から棒状の物を取り出した。
それは中が空洞になっており、表面には幾つかの小さな穴が確認できた。
見た感じは日本の横笛に似た物である。
(なんだこりゃ……少し霊的な気配を感じるな。でも、邪気は感じないから、あまり害はないだろう。それと見た感じは笛みたいだが……ン……笛? あ!?)
俺はそこでゲームに出てきたキーアイテムを思い出した。
(これ……もしかして、
と、そこで、マーニャとミネアが箱を覗き込んできた。
「なにこれ? なんとなく、笛みたいだけど」
「姉さんの言う通り、恐らく笛ですね。でも……この紋様が彫られた笛……以前、父の部屋にあった書物で見た事がありますよ。確か、妖の笛という名前だったと思います」
ミネアは博識な女性である。
錬金術師の娘なだけあり、父が持つ色んな文献に目を通しているのだろう。まぁ姉は違うみたいだが……。
「え? そうなのか?」
「はい。ちなみにその書物には、幻覚を見せる妖精の笛と書かれておりました。本当かどうかわかりませんけど」
「ふぅん、妖精の笛ね……」
新たな新事実である。
デスピサロはロザリーヒルの塔で、幻覚を解いていたという事なのかもしれない。まぁゲームでの話だが。
「ねぇジュライ、この笛どうする? よくわからないけど、魔物のなら捨てた方が良いんじゃない?」
「アリーナの言う事もわからんではないが、これは何かの役に立つ時が来そうだから、持っておいた方が良いと思うよ」
「え? なんで?」
「箱に罠の類もなかったから、魔物達も多分、保管場所としてここに置いたんだろう。ついさっきまで、城は魔物に支配されてた状態だったしな。つまり、魔物達にとっても大事なモノの可能性があるって事だよ」
俺の言葉にミネアが頷いた。
「そうですね。ジュライさんの言う通り、これは持っていった方が良いかもしれません。魔物達は何か良からぬ事に使うかもしれませんので」
「それもそうね。さて、それじゃあ、他に何か必要な物があったら、じゃんじゃんここから持って行ってね」
アリーナは陽気にそう言うと、部屋の中心で両手を広げた。
「これこれ、姫様! ここはサントハイムの宝物庫ですぞ。今は事情が事情なので、儂も少々は目を瞑りますが、あまり関係ないモノはダメですぞ!」
「はいはい、わかったわよ。じゃあ、旅に使えそうな物は持っていきましょ」
ブライは渋々といった感じだ。
宮仕えの長いブライなので、なかなか踏ん切りがつかないのだろう。
アリーナは適当な性格なので、お目付け役は大変に違いない。ご苦労さんである。
とまぁそんなやり取りをした後、俺達はサランへと戻ったのである。
[弐]
日が明るい内にサランに到着した俺達は、とりあえず、宿屋へと向かった。
そこで今後の打ち合わせをする為である。が、しかし……宿屋にはアリーナを待つ者がいたのであった。
待っていたのは、ローブに身を包み、杖を突くという出で立ちの老人であった。
ちなみにその老人は、子供時代のサントハイム王の教育係をしていたそうだ。
まぁそんなわけで、俺達はその爺さんに案内され、教会の周囲にあるお堀に沿って歩を進めたのである。
先頭を進む爺さんは、お堀を挟んで教会の裏側になるところで立ち止まった。
周囲を見回すと、芝のような背の低い雑草が覆い茂っており、ちょっとした広場の様相をしていた。
まぁとりあえず、そんな感じのところである。
立ち止まった爺さんは、そこでこちらに振り向いた。
「確かこの辺りだと思いますじゃ。アリーナ様、少し待っていてもらえますかな」
「何をするつもりか知らないけど、いいわよ」
「ではちょっと待っていてくだされ」
爺さんはそう言うと、用意しておいたスコップみたいな道具を使い、地面の土を掘り出したのである。
暫く掘ったところで、爺さんは声を上げた。
「おお、コレじゃコレじゃ」
するとそこにはなんと、金属製の古びた宝箱みたいなモノが埋められていたのである。
「あら、箱が埋められてたのね。で、これがどうかしたのかしら?」
「アリーナ様……儂はその昔、サントハイム王が子供の頃、未来の娘の為にと書いた木板があったのを思い出したのですじゃ。娘が困っていたらコレを見せてほしいと、その時、頼まれたのです。さぁどうぞ、中をご覧になってくだされ」
爺さんはアリーナに、掘り出した箱を手渡した。
「そうだったの。わかったわ。お父様の子供時代のモノか……気になるわね」
アリーナは箱を開けた。
すると、中には木製の板があり、そこには文字が刻み込まれていたのである。
アリーナはその板を手に取り、文字を読んだ。
「何か書いてあるわ。ええっと……未来のボクの娘へ……今、君はきっと困っているはずだから、良い事教えてあげるね。お空のずっと上には天空のお城があって、竜の神様が住んでるんだって。その神様はとても強くて、大昔、地獄の魔王を闇に封じこめたくらいなんだ。天空のお城のことは北の海のスタンシアラの人々が詳しいと思うよ。サントハイムの王さまより……」
文章を読み終えたアリーナは、少し涙目になっていた。
父の直筆アドバイスを見て、感動しているようだ。
まぁそれはさておき、ゲーム通りの文言なので安心したところである。
とはいえ、ゲームと違い、立札ではないようだ。
もうこれは、リアルドラクエだとこうなるという事で納得するしかないだろう。
野ざらしの場合、風雨に晒されて劣化するのは間違いないからである。
(こういうところが変にリアルなんだよな、この世界は。それはともかく、これで打ち合わせはしやすくなったかな)
周囲がシ~ンとする中、爺さんは感心したように頷いた。
「いやはや、サントハイム王は凄い方じゃわい。こうなることを既に予見しておられたとはのぅ……」
「うむ。サントハイム王は流石じゃ」と、ブライ。
アリーナはそこで顔を上げ、意を決した表情で俺達に向き直った。
「お父様がせっかく助言してくれたんだから、次はスタンシアラね。さぁ皆、宿に戻って今後の打ち合わせするわよ!」
「そうですね。まずは今後の打ち合わせです。ここからは、ジュライさんが暫くの間いなくなりますんで、厳しい旅が予想されます。しっかりと準備もしましょう」
フォルスはそう言って俺達に視線を向けた。
仲間達はその言葉に頷く。
そして俺達は、この場を後にしたのであった。
[参]
宿に戻った俺達は早速、今後の打ち合わせをした。
その結果、フォルス達は、サントハイム大陸の北に位置する海洋都市国家・スタンシアラ王国へと進む事となった。
まぁ早い話が、ゲーム通りの展開であった。
子供時代のサントハイム王の助言が効いた感じである。
そして俺はというと、このサランからは別行動となるのだ。
サントハイム城でもフォルス達に言ったが、刀の鍛造等をする為である。
とはいえ、少し困った展開も起きた。
なぜなら、俺の離脱に難色を示していたフォルスやシンシア、そしてアリーナは納得してくれたのだが、モンバーバラ姉妹が俺に付いてゆくと言い出したからである。
2人にはとりあえず、「暫くしたら合流するんだから、待っててよ。それより、フォルスを助けてあげて。俺達は導かれし者達なんだろ?」と言って、渋々納得してもらった。
美人姉妹に好意を寄せられるのは悪い気はしないが、俺もここからはしたい事があるので、こればかりは仕方がない。
それに、この物語の主人公はフォルスなので、彼を補佐してくれないと色々と困るからである。
まずはゲーム通り、天空装備を手に入れるイヴェントをこなして貰わねばならんのだ。
まぁとはいうものの、俺も男である。
(次に会った時は……また酒を飲ませて、姉妹の胸を揉みしだいて、その先の展開へ進むとしよう……ウヒヒヒ)
などと、不埒な事を考える今日この頃なのであった。
まぁそれはさておき、彼等との合流だが、とりあえず、「俺はコーミズにいるから、30日ほどしたら迎えに来てよ」とは言っておいた。
本当はもっと早く剣は出来るとは思うが、念には念をである。
話は変わるが、俺は打ち合わせの際、フォルス達に懸念事項を伝えておいた。
その懸念事項とは、俺達の動向が魔物達に漏れている可能性がある、という事であった。
色々と状況証拠を考えるに、魔物の密偵は恐らく、俺達の身近にいる者の可能性があるので、それを伝えたのである。
フォルス達はそれを聞き、少し蒼い表情をしていた。
特にトルネコの表情は深刻であった。
話の内容からして、まぁ無理もないところである。
だが、流石に無視できない事なので、俺は密偵の炙り出し方法と、潜んでいるであろう場所を伝えたのだ。
後は彼等で何とかしてもらうとしよう。
つーわけで話を戻す。
宿を出た俺達は港へと向かった。
木の桟橋に着けられたトルネコ号に、仲間達は乗り込んで行く。
俺は静かにその光景を見守った。
空を見上げると、今日は雲一つない青空が広がっており、航海には絶好の日和となっていた。
風はあるが、波は穏やかである。
良い航海ができるよう、彼等の無事を祈るとしよう。
暫くすると、船の甲板にフォルスと8人の導かれし者達が現れ、桟橋にいる俺に向かい、笑顔で手を振ってきた。
【ではジュライさん! 行ってきます! また会いましょう!】
【ジュライさん、元気でね! またあの物語、聞かせてください】
【フォルス殿の事は私に任せてくだされ。勇者殿、またお会いできる日を楽しみにしてますぞ】
【では、ジュライさんもお元気で!】
【ジュライ! 次会ったら、また色々と教えてよね! 絶対なんだから!】
【お主がおらぬと姫様が暴走しそうで心配じゃ。ジュライ殿、なるべく早く合流してくれぬかの。まぁ無理にとは言わぬが……】
【元気でね、ジュライさん! 恋しくなったら私、旅から抜け出してコーミズに会いに行くわ!】
【何言ってるのよ、姉さんは! それはともかく、ジュライさんも道中気をつけてください! また会える日を楽しみにしてます!】
俺もお返しとばかりに、大きく手を振った。
【おお、皆も元気でな! 俺も皆の旅の無事を祈るよ! また会おう!】――
とまぁそんな感じで船を見送った後、俺はサランの街を後にしたのであった。
[四]
サランの街を出た俺は、眼前に広がる緑の園と街道を眺めた。
北に向かって延々と続く街道は閑散としている。
魔物が蔓延る世の中なので、あまり旅人もいないのかもしれない。
また、気温は20度前後といった感じであり、湿度もなく過ごしやすい気候であった。
キングレオは糞暑かったので、ちょっと安心したところである。
それと、感覚を研ぎ澄ませて邪気の類を探ってみたが、この周辺に魔物の気配はないようであった。
暫くは魔物と相対することもなさそうである。
(街の近くに魔物はいないようだな。さて……キメラの翼でハバリアに行きたいところだが、その前に、エドガンさんの弟子でも見つけに行くか。ゲーム通り、フレノールにいると良いんだが……。そういや昨日の夜、クリフトに訊いたら、4日程あればフレノール着くと言ってたな。4日か……意外と長いな。道中、1人旅というのもなんだし……旅のお供を作ってみるとするか。エドガンさんに貰った試作の錬成薬と俺の呪術を組み合わせて、試してみるとしよう。どこか良い場所ないかな。お! アソコにするか)
周囲を見回すと、少し進んだ先の街道脇に、褐色の大きな岩が並ぶ箇所があったので、そこで作業をする事にした。
程なくしてその岩場へとやって来た俺は、道具袋の中から、みかわしの服とエドガンさんの錬成薬、そして、結界や呪符を描く時に使う筆と霊薬を取り出したのである。
ちなみにこのみかわしの服は、サントハイム城から拝借したモノである。
見た目はフード付きの緑色のローブで、魔法使いが着ていそうな衣服であった。
まぁそれはさておき、俺はみかわしの服に霊壁の秘紋を施すと、次にリバストを封じた両縛の呪符を取り出し、封印を解いた。
するとその直後、いつぞや見た長髪のイケメン亡霊戦士が姿を現したのである。
リバストは周囲を見回した後、俺に視線を向けた。
《む……ここはどこだ? もしや、天空の鎧が見つかったのかな?》
俺は頭を振った。
「いや、まだだよ。でもいずれ見つかる筈さ。さてと、今日はアンタに用があってね」
リバストは首を傾げた。
《私に用? 一体こんな亡霊に何の用があるというのだ?》
「ちょっと試したい事があってね」
俺はそこでみかわしの服をリバストに纏わせた。
するとどうだろう。
まるで人が着るかのように、亡霊リバストはみかわしの服を装備できたのである。
これは勿論、霊壁の秘紋の効果だ。
リバストは驚きの声を上げた。
《な!?
「まだ終わりじゃないよ。ここからが最後の仕上げさ」
俺はそう言うと、手に持った瓶の液体をリバストに振り掛けたのである。
ちなみにこれは、エドガンさんの試作品だが、魂を物に宿らせる錬成薬だそうだ。
というか、スライムエドガンの素である。これでエドガンさんはスライムになってしまったのだ。哀れなり。
まぁそれはさておき、効果はすぐに現れた。
なんとリバストは、両腕を動かしながら移動を始めたからである。
「動ける!? な、なんだこれは……一体何をした!? なぜ意のままに私は動ける!?」
おまけに、声も普通に発する事ができるようだ。
これなら、誰とでも会話が可能に違いない。
どういう仕組みの液体か知らないが、実験は成功したみたいである。驚きの瞬間であった。
やるやん、エドガン。といったところである。
「へぇ……物は試しにとやってみたが、どうやら上手くいったみたいだな」
「上手くいった? 一体何のことだ?」
リバストはわけがわからないといった感じで、両腕を大きく広げていた。
「アンタは今、そのみかわしの服に魂が宿ったという事だよ。まぁ仮初かもしれないが、とりあえず、現世を歩んでいけるってことさ。さてそれじゃあ、よろしく頼むよ、相棒。アンタの事は……そうだな……これからはリバストバーンとでも呼ぶ事にするよ」
俺は思わず、某ドラクエ漫画のキャラをもじって呼んでしまった。
色は違うが、見た目がそっくりだからである。
次は鉄の小手と、とんがりブーツも装備させてみよう。その内、ビューンと指も伸ばせるようになるかもしれん。などと、アホな事を考える俺であった。
「リ、リバストバーン? いや、リバストで構わん。なぜバーンをつける」
「なんとなくだ。あ、そうそう、これも渡しておくよ」
俺はそこで、サントハイム城で拝借した破邪の剣と魔法の盾をリバストに渡した。
「これは?」
「アンタの武器と防具だよ。よろしく頼むぜ、リバストバーン」
「そうか。それはありがたい。って違う! 私はリバストだ!」
「まぁまぁ別にいいじゃないか。さぁいくぞ、リバストバーン」――