DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv35 魔界からの刺客

 

 

   [壱]

 

 

 新たな仲間と共に、俺は旅を再開した。

 俺達はのんびりと徒歩で、サランから伸びる馬車街道を北西に向かって進んだ。

 まずはフレノールへと行く前にテンペの村があるので、そこに向かわなければならないのだが、リアルドラクエは意外と広大な大地なので、途中で野宿は避けられない。

 つーわけで今日の目的地は、テンペの少し手前にある地域となる予定である。

 クリフト曰く、テンペの付近に岩山の丘陵地帯があるので、そこで野営する旅人が多いとの事であった。

 なので、今日はそこで野営するつもりである。

 クリフトとは旅の途中で色々と話したが、なかなか優秀な奴なので、信じても大丈夫だろう。

 その代わり、アリーナの事になると冷静さを失うのが駄目なところだが……。

 まぁそれはさておき、日は結構沈み始めており、空を見上げると雲が朱に染まっていた。

 あと少しで夜の帳が降りてくる頃合いだが、目的地である丘陵地帯が前方に見えてきたので、日がある内に、なんとか到着出来そうだ。急ぐとしよう。

 ちなみに眼前に広がる丘陵地帯は、草木のない褐色の大地であり、グランドキャニオンのような岩の谷を思わせる場所であった。

 とはいえ、グランドキャニオンほどの壮大さはない。あくまでも少し似ているというだけである。

 

(荒れた丘陵地帯だな……草木がなんもないやん。だがまぁ身を隠す場所が多そうだから、クリフトの言う通り、確かに野営には適してるかもしれんな。とはいえ、野宿はあまり好きではないけど……)

 

 ふとそんな事を考えていると、リバストの声が聞こえてきた。

 

「そろそろ日が沈むな……なんともいえない、美しい瞬間だ……」

 

 リバストは地平線に落ちかけている太陽を眺めていた。

 少し感動している風であった。

 

「何言ってんだよ。生前は飽きるくらいに見てたろうに」

「生きていた頃はな。しかし、久しく見ていなかったモノだ。其方(そなた)にはわかるまい」

「かもしれないな。さて、それじゃあ、前方に見える丘に着いたら、今日はもう休むとするか」

「其方の好きにするがいい。だが、よいのか? 少し離れた後方に、何やら気配を感じるが……」

 

 リバストはそう言って後ろをチラッと見た。

 

「ああ、気付いてたのか……」

 

 どうやらリバストも、尾行されているのは気付いていたようだ。

 後方には街道があるが、その両脇は背の高い草木が覆い茂っている。

 尾行するにはうってつけの環境ではあった。

 

「魔物ではないようだが……どうするつもりだ?」

「別にどうもしないよ。それに尾けているのが誰かは察しがついてるしね」

「ふむ、そうか。ならば、もう何も言うまい」――

 

 それから程なくして丘陵地帯に着いた俺達は、とある岩陰で魔除けの結界を張り、そこで腰を下ろした。

 そして、地平線に沈みつつある太陽の姿を眺めながら、俺は後ろにある岩壁に背を預け、肩の力を抜いたのである。

 リバストはそこで俺に話しかけてきた。

 

「ジュライ殿……其方はオーリンという男を探していると言ったが、その者は一体何者なのだ?」

「ああ、それか。オーリンは、とある方のお弟子さんでね。旅の途中で会う事があったら、事の顛末を話してほしいと言われたんだよ。それと、できれば連れてきてほしいともな」

「とある方?」

 

 リバストは首を傾げた。

 

「錬金術師のエドガンという方だ。マーニャやミネアの親父さんだよ」

「ほう、あの姉妹の父君か」

「ああ。ちなみに、アンタが今のように動けるのも、その人が創り出した魔法薬のお陰さ。だから、アンタも全くの無関係って事でもないんだな。ま、あくまでも結果論ではあるが……」

「なんと……そうであったか。さぞや立派で、凄いお方なのだろうな。私を現世に戻すような事ができるのだから……」

 

 リバストは感心したように頷いていた。

 恐らく、立派な人物像を想像してるに違いない。

 スライムエドガンを見た時の反応が気になるところだが、今は言わないでおこう。知らぬが仏である。

 

「まぁそういう経緯があって、俺はフレノールに向かっているんだよ。それはそうとアンタ、かなりの凄腕剣士だな。アネイルの英雄と言われるだけあるわ。あんなに強いと思わなかったよ」

 

 そうなのである。

 リバストは凄腕の剣の使い手なのだ。

 道中、魔物と数回戦闘があったのだが、素早い身のこなしと斬撃で、襲い来る魔物をアッサリと倒したからである。

 今の俺は武器無しなので、これは良い相棒を得たようだ。ラッキー。

 

「ふん、何を言うかと思えば……そういうジュライ殿も相当な手練れではないか。わけのわからぬ魔法や体術で、魔物共を翻弄してな。ジュライ殿のような戦い方をする者を初めて見たわ。何者だ、其方は?」

「何者と言われてもねぇ。まぁとりあえず、愉快な旅人って事にでもしといてよ」

「愉快な旅人だと……食えぬ男だな。まぁよい。それよりも……」

 

 リバストはそこで言葉を止め、少し離れた所にある岩陰に視線を向けた。

 

「アレをどうするつもりだ? 監視されているようで落ち着かんのだが、何とかならぬものかな」

 

 尾行者が気になって仕方が無いようである。

 

「気になるか?」

「ああ。気配を感じてしまうと、どうしてもな」

「そうか。なら、解決するしかないな」

 

 俺は立ち上がり、岩陰に向かって声を掛けた。

 

【おい! そこに隠れている人! こっちに来いよ。1人で野宿は心細いだろ?】

 

 暫くすると、岩陰から人がひょっこりと姿を現した。

 そして、その人物は岩をヒョイヒョイと飛び移りながら、身軽にこちらへとやって来たのである。

 尾行してたのは、思ってた通りの人物であった。

 

「やっぱりアンタだったか……たしか、メイとかいう名前だったな。もう身体は良いのか?」

 

 俺達を尾行していたのは、エビルプリーストに進化の秘法を施されそうになっていた女であった。

 細身の若い女性で、まぁまぁ可愛い顔をしている。

 また、長い金髪をポニーテールに纏め、絹のローブと鱗の盾、そして聖なるナイフを装備する出で立ちであった。年齢はアリーナよりちょい上といった感じだ。

 まぁとりあえず、そんな感じの女性である。

 あの時の状況証拠から考えるに、ゲーム第2章の偽姫誘拐事件の張本人とみて、まず間違いないだろう。

 ちなみにこのメイという女は、サントハイム城での災難の後も体調が優れなかったので、そのままサランの宿で休ませたのである。

 アリーナが同じ部屋に泊まって少し看病をしていたらしいので、この様子を見る限り、その甲斐があったのだろう。

 意外と優しいところがあるアリーナであった。

 

「ええ、一晩寝たら、だいぶ良くなったみたい。って……そうじゃないわ! もしかして、ずっと前からバレてた?」

「ああ、バレてたよ。なかなかうまく身を隠していたが、俺はそういうのに鋭い方なんでな」

「なんだ、もう……それならもっと早くそう言ってよ。怖い思いして尾けて来たのバカみたいじゃない」

 

 メイはそう言って溜息を吐き、肩を落とした。

 

「ところで、なんで俺達を尾けてきたんだ?」

「それは……あれよ。貴方が凄く強いって聞いたからよ。貴方がアリーナ様達と船着き場で別れた後、街を出て北の方へ進んだのを見て、尾けることにしたの。私も北に行く予定だったから……」

「は? なんで?  尾ける理由がわからんのだが……」

「それは……決まってるじゃない。貴方の近くにいれば、魔物に襲われても大丈夫かな……なんて、思ったからよ。私はか弱い女なんだから……」

「じゃあ、そう言って付いてくればよかったのに。俺達も尾行されるのは、あんま気分良くないぞ」

「それは、ごめんなさい。悪かったわよ。でも、言いだし辛いじゃない。貴方はアリーナ様達と知り合いみたいだけど、私とは何も面識がないし……。それに……貴方だけかと思ったら、途中で、そこのフード被った人とも合流したし」

 

 メイはそこでリバストを指さした。

 英霊召喚の儀までは見てないので、合流したと思っているのだろう。好都合である。

 

「まぁ……確かに言い出しづらいか。それはともかく、アンタはどこに向かってるんだ? 俺達と同じ方角に来てるから、テンペの村か?」

 

 するとメイは頭を振った。

 

「ううん、違うわ。私はずっと先にある砂漠のバザーに行きたいのよ」

 

 懐かしい名前が出てきた。

 この世界でも砂漠のバザーはやってたようだ。

 

「砂漠のバザー? フレノールのずっと南のところか?」

「ええ、そこよ。私……あの魔物に、あそこで捕まったのよね。すり替えた本物の黄金の腕輪をバザーで売ろうとしたら、見つかっちゃって……。だから、一旦戻ろうと思ってるの。逸れた仲間もいるかもしれないし」

「ふぅん……なるほどね。ま、境遇はわかったよ。じゃあ、途中までは一緒に行くか? 俺達はフレノールが目的地だから、砂漠のバザーには行かないけど」

 

 俺の言葉を聞き、メイは嬉しそうに微笑むと、パチンと手を打った。

 

「え、良いの!? やったぁ! 貴方達みたいな凄腕と旅できるなら安心だわ。私はメイっていうの。途中まではよろしくね」

「ああ、よろしく。俺はジュライで、こっちはリバストバー」

 

 と、言いかけたところで、即座に訂正が入った。

 

「リバストだ!」

 

 どうやらお気に召さんみたいだ。残念である。

 まぁそれはさておき、俺はそこで近くの岩に腰を下ろした。

 メイも対面に腰を下ろし、体操座りになる。

 

「ジュライさんと、リバストさんね。覚えたわ。ところで、貴方達は何者なの? 後ろから尾けてた時、魔物と戦ってるの見たら、物凄かったんだけど……。それに、アリーナ様達とも知り合いみたいだし……」

「ただの旅人さ。ところで、さっき『貴方が凄く強いって聞いた』って言ってたが、一体誰から聞いたんだ?」

「それはアリーナ様からよ。昨夜ずっと、私に付き添って看病してくれたのよね。あんな事をして騙したのに……感謝してもしきれないわ。私、それを見て、自分が情けなくなってきちゃった……」

 

 メイはそう言うと、背を丸めてシュンと小さくなった。

 少し自己嫌悪に陥ってるのだろう。

 

「やっぱ、アリーナか。まぁそんな事だろうとは思ったよ」

「昨夜、アリーナ様と色々とお話をしたのよ。そこで貴方の事を聞いたの」

「へぇ……色々とね。ま、何を話していたのかまでは聞かないでおくよ」

「あら、それは残念ね。貴方の話を沢山聞いたのに。でも、エンドールの武術大会で優勝するくらいに腕っぷしの強いアリーナ様も、年頃の女の子だったのねぇ……それが意外だったわ」

 

 メイはそう言うとニコニコとしていた。

 

「意外? って、何が?」

「アリーナ様は……たぶんだけど、アレは恋をしてるわね」

「恋? あのアリーナがか?」

 

 これは確かに意外な話である。

 それが本当なら、戦闘狂(バトルジャンキー)が恋をしてる相手が気になるところだ。

 

「そうよ。あれは恋煩いだと思うわ。だって、その人の事を考えると、なぜか胸がドキドキして、身体が熱くなるって言ってたもん。しかもここ最近、その人の事ばっか考えちゃうんだって。その人が他の女の子と話してるのを見ると、複雑な気持ちになるって言ってたわ。こんな気持ち初めてだって。ねぇ、これって恋でしょ?」

 

 するとそこで、沈黙を貫いていたリバストが話に入ってきた。

 

「フッ……いつの世も女心は変わらぬものよ。其方の言うとおり、恐らく、その女はその男に惚れているな」

「でしょ! 絶対そうよ!」

「まぁ普通はな……でも、アリーナだからなぁ。三度の飯より、戦いが好きな子だし……。違うんじゃないか」

 

 そう、アリーナはある意味規格外なのである。

 初対面の俺に挨拶代わりのドロップキックを見舞ってくるような奴なので、常人の物差しでは測れない子なのだ。

 

「そうかなぁ……私は絶対、恋してると思うけどなぁ。女の勘てやつ?」

「女の勘ね……つか、その相手って誰よ? クリフトか?」

「えへへへ、それは言えないわね。だって、女同士の約束だもん」――

 

 などと、他愛のない会話をしつつ、俺達は眠りについたのであった。

 

 

  [弐]

 

 

 サランの街を出てから3日後、俺達はテンペの村がある谷を抜け、フレノールへと続く街道を進み続けた。

 今日は天候が曇りの為、やや寂し気な空模様となっている。

 雨が降らない事を祈るばかりである。

 まぁそれはさておき、メイが言うには、あと1日くらい街道を進めば、フレノールに着けるとの事であった。

 ゲームだとテンペから30秒くらいで着くイメージだが、リアルはなかなか大変である。

 

(それにしても、徒歩はやはり疲れるなぁ。歩きは小回りが利くけど、馬車移動が恋しいわ。ン?)

 

 ふとそんな事を考えていると、なにやら不穏な気配が、周囲から感じられるようになってきた。

 それは明らかに邪悪な気配であった。が、少し普通とは違っていたのである。

 なぜなら、どこかから湧き上がるような感じだったからだ。

 俺は周囲をチラッと見回した。

 しかし、魔物の姿はない。

 すると不思議な事に、気配だけが徐々に大きくなっていたのである。

 

(何か嫌な予感がする。なんだこの気配は……捉えどころがない。普通、ここまでの邪気を感じるなら、何かが見えてもよさそうなものだが……)

 

 俺はそこで立ち止まった。

 リバストとメイもそれを見て足を止める。

 

「どうかしたか、ジュライ殿?」

「ジュライさん、なにかあったの?」

 

 2人は何も気付かないようだ。

 

「メイはともかく、リバストさん……アンタは何か感じないか?」

「いや、特に何も感じな……ン? な!? 何だこの気配は!?」

 

 ようやくリバストも気付いたようだ。

 リバストは慌てて、周囲をぐるりと見回した。

 しかし、魔物の姿はない。

 ひっそりとした街道と長閑な草原が広がるのみであった。

 と、その時である。

 龍脈の流れに異変が起きたのを俺は感じ取ったのだ。

 

「ま、まさか……これは! 不味い! 2人共、今すぐ、ここから離れるんだ!」

「え!? ど、どういうこと?」

「うむ、その方が良い!」

 

 説明してる暇がないので、俺はメイの手を掴み、街道を駆けた。

 だがその直後であった。

 俺達の行く手を阻むかのように、前方に大きな黒い霧の渦が噴水の如く立ち昇ったのである。

 

【キャァァ!】

【なんだ! この黒い霧は!?】

【あ~あ、間に合わなかったか……】

 

 そして、そこから巨大な魔物が姿を現したのであった。

 それは緑色の肌をした筋肉質な1つ目の巨人であった。

 高さは優に5mはあり、獣の毛皮を袈裟に掛け、手には3メートル以上はある大きな棍棒を持っていた。

 また、禿げた頭頂部には大きな角が一本伸びており、パッと見は鬼のような姿の魔物なのであった。

 そう、ドラクエではお馴染みの魔物だ。

 だがとは言うものの、ドラクエⅣには出てこない魔物であった。

 

(チッ……肌の色からすると、コイツはギガンテスか。また、厄介な魔物が出てきたなぁ。しかし、コイツを倒さんとフレノールには行けそうもない。仕方ない、やるか……コイツにはそれなりに高度な呪術使わんと無理だろうから、気が滅入るわ……)

 

 などと思いつつ、俺はそこで道具袋に手を伸ばした。

 ギガンテスは半笑いで俺達を睨みつける。

 

【オオ! サスガハ マカイノカミダ ワレヲコチラヘト ミチビイテクレタ。ジッコウシタゲマサマモ サスガダ。コレヨリハ メイニシタガイ オマエタチヲ シマツシテヤル グウォォォォ!】

 

 そしてギガンテスは大きく両手を広げ、咆哮を上げたのである。

 まぁなんというか、ムキムキの巨人なのですんごい迫力である。

 つーわけで、俺はすぐに動けるよう、縮地のマントラを静かに唱えた。

 

「ジュライ殿……どうする? この魔物……恐らく、かなり手強いぞ」

「ですよね。どうしよう、って!? 不味いッ!」

 

 すると次の瞬間、ギガンテスはその巨体からは想像できないほど、素早く間合いを詰め、メイに向かって馬鹿でかい棍棒を振り下ろしたのである。

 メイはその威圧に飲み込まれ、身動きできないでいた。

 万事休すである。

 

【マズハ オマエカラダ! シネ!】

 

 俺は急ぎ縮地を使い、メイを抱きかかえ走り抜けた。

 その刹那、後方の大地が震撼し、地面が陥没したのであった。

 なんとか間に合ったようだ。

 すぐに動けるよう、準備しておいて良かったところである。

 まぁそれはさておき、俺はメイに指示をした。

 

「メイ、後ろに下がっていろ! 敵は強すぎて、アンタじゃ無理だ」

「う、うん、わかったわ」

 

 メイは息を飲みながら、慌てて後ろに下がった。

 俺はそこで不動結界の呪符を行使した。

 5枚の符は白い鳥になり、奴の周りを羽ばたく。

 そして、俺はいつも通りの要領で、五芒星の不動結界を完成させたのである。

 

【アガァァ、ナンダ、コノマホウハ! カラダガ オモイ……ウガァァ】

 

 不動結界により、ギガンテスの動きは鈍くなったが、完全に動きを止めるには至らなかった。

 とはいえ、これは想定内である。

 この結界は悪魔的な魔物じゃないと効果が半減するからだ。

 

「リバストさん! 動きを少し封じたから、剣で奴をお願いします!」

「承知した!」

 

 リバストは素早く間合いを詰め、ギガンテスの腕に一太刀浴びせた。

 だが、奴の皮膚は相当固いのか、掠り傷ほどのダメージしか与えられなかったのである。

 

【グハハ、ソンナヤワナコウゲキガ オレニツウジルトデモオモッタカ】

 

 ギガンテスは振り払うようにリバストへと棍棒を振るった。

 しかし、リバストは翻すようにその攻撃を躱し、奴との間合いを取ったのである。

 流石の身のこなしであった。

 

「ムゥ……これは不味い。この剣では、奴に歯が立たんぞ。これはただの魔物ではない。ジュライ殿、他に武具はないのか?」

 

 どうやら、今の攻防でリバストは悟ったようだ。

 ゲームでも終盤にしか出てこない最強雑魚クラスの魔物なので、こんな中途半端な武器じゃ歯が立たんのだろう。

 リバストの剣の腕で何とかなるかな? と思った俺が甘かったようだ。

 仕方ない。俺が骨を折るとしよう。

 

「それが、無いんだわ。じゃあ、次は俺がやるから、リバストさんはちょっと離れてて」

「わかった。お手並み拝見と行こう」

 

 リバストは剣を戻し、後ろに下がった。

 続いて俺は霊力を練り上げながら、印を組み、迦楼羅焔のマントラを唱えたのである。

 俺の眼前に、直経1メートルほどの青白い炎の球体が出現する。

 そしてギガンテスに向かいそれを放ったのだ。

 炎はギガンテスに直撃する。

 

【グギャァァ ナンダコノホノオハ! ウガァァァ】

 

 ギガンテスは膝を付き、もがき苦しんでいた。

 俺は即座に次の行動に出る。

 間合いを一気に詰め、しゃがんで丁度良い高さになった奴の鳩尾部に向かい、幽震掌を放ったのである。

 その直後、ジタバタしていたギガンテスは動きを止め、その場に突っ伏したのであった。

 完全に動きを封じる事に成功したようだ。

 そこでリバストが驚きの声を上げた。

 

「なッ!? 魔物が動きを止めたぞ……ジュライ殿、一体何をしたのだ?」

「一時的にコイツの動きを封じただけだよ。さて、それはそうとリバストさん、破邪の剣を貸してくれるかい」

「ン? それは構わぬが、コイツにはあまり効果がないぞ」

 

 リバストはそう言いつつ、俺に破邪の剣を手渡した。

 

「この状態ならね。でも、俺には別の方法があるんだわ。ま、そこで見ててよ」

「拝見させてもらおう」

 

 俺は道具袋から筆と霊薬を取り出し、摩利支天浄魔光剣を付加させる紋様を描いた。

 これで一度だけなら、摩利支天浄魔光剣が使えるのである。

 まぁそれはさておき、俺はそこで摩利支天浄魔光剣の力を発動させた。

 刀身は青白いオーラに包み込まれる。

 そして俺は、ギガンテスの太い首に剣を突き刺し、横に薙いだのであった。

 蒼い色をした血液が噴水のように飛び出し、辺りに血溜まりを作ってゆく。

 次第にギガンテスはグッタリとしていった。

 幽震掌の効果が無くなったところ見ると、事切れたのだろう。

 俺の不動術は肉体ではなく、魂の動きを止めるモノだからである。つまり、肉体から魂が離れたのだ。

 

「其方……何をしたのだ。剣が突然、光を帯びたが……いや、その前に、その剣にそこまでの切れ味はない筈だ……一体何をした?」

「簡単に言うと、今のは一時的に武器の性能を上げたんだよ。まぁどうやったのかは秘密だがね。ン?」

 

 と、そこで、メイが恐る恐るこちらにやって来た。

 

「ジュライさん……貴方、本当に凄く強いのね。あんな化け物をあっさり倒すなんて……」

「そんなに簡単な奴でもなかったよ。ン? おや、またか……」

 

 するとその時であった。

 

「な! 魔物が縮んでゆくぞ!」

 

 ギガンテスの亡骸は縮んで消えてゆき、そこには1000ゴールドくらいありそうな金貨と、斧のような形をした黒い大剣、そして黒い勾玉が残されていたのであった。

 

(アークデーモンやボストロールの時と違い、今回はやけに遺品が多いな。金貨に剣に勾玉か……。たぶん何か理由があるんだろう。おまけに奴は、さっき妙な事を言っていた。確か、『流石は魔界の神だ。我をこちらへと導いてくれた。実行したゲマ様も流石だ。これよりは命に従いお前達を始末してやる』だったか。……この言動から考えるに、奴は俺を狙ってやって来たに違いない。不味いな、これは想定外だ。奴の言動が正しいなら、ピンポイントで魔界から刺客を送る手段を持っているという事に他ならない。おまけに、ゲマ様とか言ってたのが気になる。まさかとは思うが、Ⅴのアイツじゃないだろうな。なんかもう嫌な予感しかしないわ……ああもう、早くこの世界から撤収したい……もうやだやだ)

 

 頭の痛い展開が続くので、溜息しか出てこない今日この頃であった。

 と、そこで、リバストが遺品に近づいた。

 

「なんだこれは……ゴールドに剣じゃないか。なぜこんなモノが……」

 

 リバストは呆然としていた。

 まぁ無理もないところである。

 メイもわけがわからないのか、リバスト同様、呆然と立ち尽くしていた。

 そんな中、俺は金貨と勾玉を道具袋に入れ、剣を暫し眺めたのである。

 なぜなら、その見た目たるや異様な剣だったからだ。

 しかも、邪気を感じるのである。

 先端部が斧のようになっており、人の背丈くらいある刀身には、血管を思わせる歪な筋のようなモノが纏わりついていた。

 おまけに、持ち手には髑髏を思わせる紋様が描かれているのである。

 ハッキリ言って呪われそうな剣であった。

 ギガンテスはゲームだと、破壊の剣をドロップするので、もしかすると、これがそうなのかもしれない。

 

「なぁリバストさん、この剣て知ってるか?」

「いや、わからぬ。私も初めて見る剣だ。しかし……何やら禍々しい気配を感じる。恐らく、魔物にしか扱えぬ剣であろう」

「かもしれないですね。とりあえず、このままだと物騒なので、魔除けの咒法を施して回収するとしますかね」――

 

 

   [参]

 

 

 ギガンテスを撃退した後、暫しの休憩を挟んでから俺達は旅を再開した。

 そして、その日の夜に、俺達はようやくフレノールへと到着したのであった。

 メイ曰く、フレノールは小さな海辺の町だが、景色が凄く良いとの事だ。

 壮大な海と町の景色が見れる高台の宿屋が、このサントハイムでは有名だそうである。

 だが、今は夜なので、その景色が拝めないのが残念であった。

 朝に期待するとしよう。

 

 話は変わるが、ギガンテスを倒した後、黒い霧の渦が現れる事はなかった。

 これは恐らくだが、魔物達は刺客をこちらに送り込む手段はあるものの、そう何回もすぐには使えないのだろう。

 なぜなら、それが出来るならば、連続して送り込めばよいからである。

 1体といわず、複数体送ればよいのだ。

 しかし、現れたのは1体のみ。その後も現れる事はなかった。

 これが意味するところは1つなのである。

 何か理由があるに違いない。

 そして、その鍵を握るのが、回収した勾玉だと俺は考えているのである。

 つーわけで話を戻そう。

 

 フレノールに着いた俺達は、まずはその高台の宿屋へと向かった。

 町の中を暫く進むと丘があり、そこにある石の階段を上った先に、噂の宿屋はあった。

 見た感じだと、3階建ての四角い洋館で、オランダ村とかにありそうな雰囲気の建物であった。

 部屋数もそれなりにありそうな感じである。

 玄関扉を開け、中に入ると、吹き抜けのホールになっており、奥には受付のカウンターがあった。

 カウンターの向こうには頭の薄い小太りの親父がおり、入ってきた俺達に向かいスマイリーな笑顔を作っているところだ。

 親父はニコニコとしながら口を開いた。

 

「夜遅くまでご苦労様でした。ようこそ旅の宿へ。お泊りですかね?」

「3人だけど、部屋はありますか? できれば2部屋あると良いかな」と、俺。

 

 親父は宿帳を確認する。

 

「あらら……すいませんね、お客さん。1部屋しか空いてないでさぁ。どうしますかね?」 

 

 俺は2人に確認してみた。

 

「1部屋しか空いてないみたいだけど、どうする?」

「私は構わぬが、メイは気にするのではないか?」

「私も構いませんよ。贅沢言えないので。それに……ジュライさんとリバストさんなら、信用できますから」

 

 というわけで、俺は親父に言った。

 

「じゃあ、1部屋でお願いします」

「はいよ。じゃあ、3人で12ゴールドになりますね」

 

 俺はカウンターに12ゴールドを置いた。

 

「ほい、12ゴールドね」

「まいどあり、これが部屋の鍵でさぁ。部屋は2階の奥から2番目になりますぜ」

「了解」

 

 親父から鍵を受け取ったところで、ふと気になる事があったので、俺は訊いてみる事にした。

 

「そういや、親父さん。この宿屋にオーリンて人、泊ってますかね?」

「ん? ああ、オーリンさんか。泊っているよ。長期連泊中のお客さんの事だね。そういや、アンタ等の隣の部屋にいるんじゃないかな。まぁ……色々とあって、ここで静養中らしいがね。それがどうかしましたかい?」

 

 どうやらゲーム通り、オーリンは静養中みたいだ。一安心である。

 

「いや、ただ聞いてみただけですよ。そういう話を耳にしたので。それじゃあ、一晩よろしくお願いしますね」 

「ああ、こちらこそ」――

 

 俺達は階段を上り2階の廊下を進む。

 そして、親父が言っていた奥から2番目の扉の前へとやって来た。が、しかし……扉を開けようとしたところで、手が止まったのである。

 なぜなら、隣の部屋から悩ましい声が小さく聞こえてきたからだ。

 

(なんだ一体……隣の部屋から、妙な声が聞こえるな。何かトラブってんのか……気になるな。ちょっと行ってくるか……)

 

 というわけで、俺はそこで、お隣さんの扉へと向かったのである。

 リバストとメイが首を傾げる。

 

「部屋に入らないのか?」

「どうしたの、ジュライさん」

「シッ」

 

 俺は口元に人差し指を立てた。

 2人は俺に従い、そこで口を噤んだ。

 そして俺は忍び足で奥の扉の前に行き、耳を欹てたのである。

 他の2人も忍び足で来ると、俺に倣って耳を欹てた。

 程なくして、漏れ出てくる声が聞こえてきた。

 

《あぁん……あぁん、オーリンさぁん凄ぉい! もう5回目なのに、なんでこんなに凄いの! こんなに太いのが奥まで! ああぁ、凄いわぁ! 私、オカシクなっちゃう。あん、あん……もうダメェェ、オーリンさん大好き! あぁん、あんあん……》

 

 俺はそこでリバストとメイを見た。

 リバストはやめておけと言わんばかりに、顔の前で手を振っていた。

 メイは顔が真っ赤になっている。

 2人共、中で何が行われているのか察しがついたのであろう。

 謎は解けたので、俺は忍び足で自分達の部屋の前に戻ることにした。

 リバストとメイもそれに続く。

 そして、俺達はそそくさと部屋の中に入ったのである。

 

(めっちゃ、やってるやん。お盛んやなぁ。つか、オーリン、スゲェ! 5回連チャンかよ。俺でも3回が限界なのに。すげぇ絶倫じゃん。オーリンがそんなに絶倫だったとは……。ゲームでは語られない、裏の世界を垣間見た気分やわ。オーリンは絶倫王だな。これからは梁山泊の初代首領みたいに王倫(おうりん)と呼んでやるとしよう……)

 

 などと、アホな事を俺は思いながら……。

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