DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv38 無限地獄

 

 

   [壱]

 

 

 武具の制作を終えた俺は、リバストとスライムエドガンと共に、コーミズ西の洞窟へとやってきた。

 キメラの翼で行けない上に、コーミズ村から徒歩で2日ほど掛かるので、ちょい面倒な所である。

 まぁそれはさておき、ここに来た理由は勿論、グレイスの古文書が発掘された場所らしいので、興味が勝ってしまったからである。

 要するに探検に来たわけだ。

 ゲームでは魔法の鍵を手に入れて以降、用がない場所だが、この世界はゲームではない。

 というわけで、調べてみようと思ったわけである。

 なにか出てくるかもしれないからだ。

 ちなみにだが、なぜこんな人里離れた洞窟を錬金術研究所として利用していたのかが疑問だったので、道中、俺はエドガンさんに訊いてみた。

 すると、「逆だよ。離れているから良いのだ。我等の錬金術は君の魔法と同じく、誰にでもそう簡単に教えて良いものではないのだよ。良からぬ事に、その技術を使おうとする輩がいるのだ。だから私は、娘達にも教えていなかったのだからな。まぁとはいえ、今回は弟子にヤラれてしまったがな……。お陰で、私は少し人間不信になってしまったよ。ハッハッハ」と、返ってきたのである。

 笑ってる場合か! とは思いつつ、納得の回答であった。

 エドガンさんも自分がやっている事の重大性は認識してたのだろう。

 正しい判断である。

 なんせ、人間という奴は、心に隙が生まれると怠惰になる生き物なので、悪用できるモノは、何れ必ず悪用するからだ。

 ただ惜しむらくは、弟子の野心に気付けなかったのが悔やまれるところである。

 まぁとはいえ、『そうじゃないとゲームが始まらんだろ』という、メタ的な考えもあるので、そこは控えておくとしよう。

 

 話は変わるが、今回探検をするにあたり、俺の装備は一新されたので、それを紹介しておこう。

 

 武器  真・摩利支天浄魔光剣

 頭   霊壁の秘紋を施した黒いバンダナ

 鎧   霊壁の秘紋を施した紺色の旅人の服+幾つかの秘紋を施した丈の長い陣羽織風の白い着物。

 盾   無し

 靴   霊壁の秘紋を施した黒い革製のブーツ

 装飾品 まもりのルビー

 

 といった感じである。

 背中に長刀を背負っているのもあり、ぱっと見の外見は某無双ゲームのコスプレのような姿だが、かなり強力な呪術付加を施した武装となっている。

 特に霊的耐性は強力だ。が、1つ気掛かりな事がある。

 試してないのでまだわからないが、ホイミのような回復魔法の効果が得られにくくなってるかもしれないという事であった。

 これに関しては追々確認するつもりである。

 まぁそれはさておき、現実世界でこの格好をして街中を歩いていたら即行で職質モノだが、この世界では全然大丈夫なので、こういう出で立ちとなったのだ。

 ちなみにこれらの武具は、旅人の服とまもりのルビー以外、俺がコーミズで滞在中に作り直したモノである。

 作刀の合間、コーミズ在住の織物職人にオーダーし、それに術の付加をじっくりと行ったのだ。

 お陰で、かなり良い仕上がりになった。

 霊的武具としては一級品のモノが出来たと自負しているところである。

 気合い入れて行くとしよう。

 というわけで話を戻そう。

 

 昨日はホイミンが来たので、なかなか面白い話を聞けた。

 あの後、来客対応に向かったエドガンさんは、暫くすると、吟遊詩人を思わせる薄い紫色のローブを纏った若い男と共に、地下の作業場へと戻ってきたのだ。

 その男はキングレオ城で、ライアンに別れを告げに来たあの男であった。

 見た感じだと、年は20代半ばから後半くらい。

 背丈は俺くらいだろうか。

 痩せ型で筋肉質ではない。

 そして、やや色白な肌をしていた。

 顔はまぁ中性的なイケメンで、肩より長い髪はモンバーバラ姉妹のように紫色であった。

 額には銀色のサークレットのようなモノをしており、全体的な印象としては、非常に物静かな雰囲気を纏う、ナルシストっぽい男であった。詩人はこういう人が多いのだろう。

 まぁそれはさておき、そんなホイミンから色々と話を聞けたのだが、その時のやり取りが興味深かったので、少し抜粋しておこう。

 こんな感じだ――

 

「ジュライ殿にリバスト殿、紹介しよう。コチラは私の知人であるホイミンという者だ」

「初めまして皆さん。私はホイミンといいます。以後、お見知りおきを」

 

 俺は刀研ぎをしながら挨拶しておいた。

 

「どうも、私はジュライと言います」

「私はリバストだ」

 

 スライムエドガンはプルプル震えながら、話し始めた。

 

「実は以前、ホイミンがここに訪ねて来たのだが、その時にジュライ殿の事を話したのだよ。そしたら是非会って見たいと言っておったのでな。今日はちょうどジュライ殿もいるので連れてきたのだ」

「是非会ってみたい?」

 

 するとホイミンが俺の前に来た。

 

「先日はどうも、ジュライさん。お会いするのは2度目ですね。以前、ライアン様との別れの時もお会いしております。あの時は話すことはなかったですが……」

 

 俺は直球で話を振った。

 

「へぇ……貴方がホイミンさんなのですか。そういえば、ライアンから旅の途中に聞きましたよ。ホイミンという心の清らかなる魔物と一緒に旅をしていたと……もしや、貴方が?」

 

 と、そこで、リバストが反応した。

 

「おいおい、何を言ってるのだ、ジュライ殿。ホイミン殿は人間ではないか」

 

 普通はこういう反応になるだろう。

 ホイミンはそれを聞き、クスリと笑った。

 

「ジュライさんは、もう全てをお気付きなのですね。エドガンさんの言う通り、大したお方です」

 

 スライムエドガンはプルンと震えた。

 

「ジュライ殿はもう既に気付いておろうな。何と言っても、初めて会ったのにも拘らず、私がエドガンだと、一目で見抜いたくらいだからな」

「そのようです。ジュライさん……貴方の仰る通り、私は元魔物です。ですが、ココにいるエドガンさんのお陰で、私は人間になることができたのですよ」

 

 その直後、リバストが椅子からガタッと立ち上がった。

 

「人間になっただと……そんな馬鹿な事!?」

「リバスト殿……ホイミンの言っている事は事実だ。リバスト殿にもこの間話したが、私も元は人間……つまり、我々は魂の錬成によって生まれ変わってしまったのだよ。そういう意味では貴方も同じだ」

「むぅ……確かにそうかも知れぬが、我等は物に宿っているが、その者は人になっているではないか。それはどういうことなのだ?」

 

 そう……確かにそこが問題なのだ。

 何故なら、人には既に魂があるからである。

 しかも、このホイミンの身体からは、人形のような無機質な雰囲気は微塵も感じられないのだ。

 まさに生きた人間なのである。

 

「リバストさんの言う通りですね。一体、どうやって人間の身体を用意したんですか?」

「それは……私とホイミンが出会った時の事から話さねばなるまい。私とホイミンは、洞窟からコーミズへと続く森の街道で出会った。その時、私はまだこの身体をうまく操れなかったので、かなりおかしな動きをしてたのもあり、ホイミンは気になって近寄ってきたそうだ。ちなみにホイミンはその時、ホイミスライムだったのだが、妙に人懐っこい奴でな。まぁ色々と話しているうちに、私達は打ち解けたのだよ。で、私はそこで、彼に自分の素性を話したのだ」

 

 ホイミンは懐かしそうに微笑んだ。

 

「あの時は驚きましたよ。エドガンさんは元人間だと聞いて……でもそのお陰で、私も人間になれるかもしれないと思いました」

 

 話が長くなりそうなので、俺は更にストレートに訊いた。

 

「ふうん、なるほどね。で、どうやって人間になれたんですか?」

「実は30日ほど前の話なのだが……ホイミンは、キングレオの兵士に連行されそうになっている若い男女と遭遇したのだよ。ホイミンはその男女を助けに行ったが、返り討ちに遭ってしまってな……。女は連れ去られ……男とホイミンは命を落としてしまったのだ。その時、ホイミンが待ち合わせ場所に来ないので、不審に思った私は、少し周辺を散策した。それから暫くの後に、街道の脇で無残に横たわるホイミンと若い男を私は見つけたのだよ。で、私はなんとか治療を試みたんだが、ホイミンの怪我は治ることはなかった。これが意味することは1つ……肉体自体がもう既に絶命していたのだ。だが男の方は違った。なんとホイミによって傷が治ったのだよ。だが……男は目を覚ますことがなかった。そう……治療は出来たが、男の身体からは、既に魂が離れていたのだ。だが、ホイミンの魂は魔物故か、消えずにその場に留まっていた。それも私と会話が出来るくらいにな……」

 

 ホイミンがそれにしんみりと頷く。

 

「そうでしたね。だから私は、そこでエドガンさんに言ったのです。私の魂をその男の身体に宿してくださいと……」

「うむ。まぁそういう経緯があって、ホイミンは人間として復活することができたのだよ。私も予備で錬成薬を少々持っていたのでな。これが今のホイミンになった真相だ」――

 

 といった感じのやり取りがあったのである。

 まぁ要するにホイミンは、偶然出くわした修羅場で命を落とし、尚且つ、そこで死んだ人の身体を乗っ取る事で、今の自分を手に入れたようである。

 宝くじ並の幸運ではあるが、それを引き寄せたのもホイミンの徳によるモノなのは間違いない。

 仏教的に言うなら、これもある意味、縁というモノなのだろう。

 種族は違えど、善良な者には良い縁があるのかもしれない。

 

(しかし……この世界って、ゲームで語られてない部分がうまく整合性がとれてるよなぁ。違和感がない。ただ……デスタムーアのお陰で、色々と真相が見えてきたよ。この世界は恐らく……いや、まだ結論は早いな。とりあえず、天空城の主に会えば、自ずとわかるだろう。ン?)

 

 ふとそんな事を考えながら進んでいると、いつしか俺達はエドガンさんの研究室へと到着していた。

 エドガンさんはピョンと飛び跳ね、フロアの中心に敷かれた青く綺麗な絨毯の前で立ち止まった。

 大きさ的には、一辺が3メートルくらいある正方形の絨毯であった。

 ちなみに絨毯の上には作業台が置かれている。

 コレがそうなのかもしれない。

 

「ジュライ殿、この絨毯が古文書と一緒に入っていたモノだよ」

「へぇ……確かに、綺麗な絨毯ですね。ん? なんか真ん中に紋章がありますね」

 

 絨毯の中央には六芒星の魔法陣みたいな紋章が描かれており、その下にはルーン文字に似た何かが記されていた。

 なんとなくだが、この辺で使われている文字ではないようだ。

 とりあえず、訊いてみよう。

 

「何か書いてありますね……エドガンさんはこの文字って読めますかね?」

「ああ、これは古代文字だ。以前、解読したよ。それは確か……カルベローナ製と書かれていたように思う」

 

 俺は思わずズッコケたくなる衝動に駆られた。

 

「カッ、カルベローナ製だって!?」

「知ってるのか、ジュライ殿?」

「其方、知っておるのか?」

 

 2人の反応を見る限り、カルベローナの記録はこの世界に残ってないのかもしれない。

 

「魔法都市カルベローナって聞いたことないですか?」

 

 リバストは頭を振る。

 

「私は知らぬな」

 

 スライムエドガンはプルプル震えた。

 

「魔法都市だって……そういえば、グレイスの古文書に大魔王に滅ぼされた魔法都市国家が記述されていたな。カルベローナとは書かれてなかったが……まさか、そのカルベローナとやらが魔法都市の名前なのか?」

「さぁね……でも、俺が知っている御伽話には出てくるんですよ。大魔王に滅ぼされた魔法都市カルベローナの事がね……」

「ジュライ殿は昨日、別の世界からこの世界にやって来たと言っていた。しかも、貴殿の住んでいた所では、我等の世界の事が御伽話として存在していると……」

 

 実は昨日、リバストとエドガンさんとホイミンに、俺はその件をカミングアウトしたのである。

 勿論、3人共、半信半疑であったのは言うまでもない。

 

「ええ。ですが、御伽話と完全に同じではないですけどね……細部が結構違っていますし。それに、語られてない部分も多いです」

「私もそれを聞いて俄には信じられなかったが……ジュライ殿が使う魔法や様々な知識を見ていると、そうでもないような気がしてきたのだよ。もしかすると、この世界とジュライ殿の世界はその昔、どこかで繋がっていたのかもしれぬな」

「私は今も信じられぬがな。だが……ジュライ殿は嘘を言うような者には見えぬ。そういう事もあるのかもしれぬ……とだけ、今は言っておこう」

 

 リバストらしい答えであった。

 英雄らしく、義に厚い男なのだろう。

 また、エドガンは錬金術師なだけあり、学者的な柔軟性を持ってるので、完全否定することはしないようだ。

 ある意味、話のわかる人である。

 

「ま、好きなように受け取ってもらって結構ですよ。ところで……この絨毯なんですけど、どういうモノか調べなかったのですか?」

「いや、それは勿論調べたが、特に何の変哲もない絨毯だったのでな。それと、コレが入っていた箱には、こんな一文が記されていたのだよ……『我が名はゴーリキ。この箱を見つけし者よ。中の忌まわしい物語を忘れぬよう、後世に語り継いでほしい。そして、箱を見つけし其方に、このカルベ老夫婦が作った神秘の絨毯を授けよう。役立てるがよい。神の加護があらんことを……』とな。だから私は、早速、研究所で役立てることにしたのだよ」

 

 話を聞いていて、溜息が出てきたのは言うまでもない。

 というか、このゴーリキって人は、カルベ老夫婦で全てが通じると思ったのだろうか。

 もう少し後世の人に対して、配慮が必要だと思ったのは言うまでもない。

 まぁそれはさておき、恐らくこれは、魔法の絨毯なのだろう。

 だが、霊気の欠片も感じないので、今はその力が失われているのかもしれない。

 これは調べてみる必要がありそうだ。

 

「エドガンさん、この絨毯を頂いても良いですかね?」

「うむ、構わぬぞ。しかし、絨毯なんぞ、一体何に使うのだ?」

「御伽話で思い出した事があったんです。この絨毯……もしかするとただの絨毯じゃないかもしれないのでね」――

 

 

   [弐]

 

 

 地下5階にある研究室を出た俺達は、地下4階にある洞窟湖の畔をエドガンさんの案内で進んだ。

 そしてエドガンさんは、程なく立ち止まり、俺達に振り返ったのである。

 

「ココだ。古文書が入った箱は、この畔から少し先で見つけたのだよ」

 

 そこは、このフロアに降りるエレベーターの近くであった。

 薄暗い洞窟湖なので底は全く見えない。

 おまけに不気味で静かであった。

 

「もしかして、湖の中を潜って見つけたのですか?」

「ああ、オーリンが湖の底に何か見えると言ったのでな。薄暗いのでわかりにくいが、この湖は手前の方はそこまで深くはないのだ」

「へぇ……ン?」

 

 と、そこで、微弱な霊的気配を俺は感じ取った。

 しかも、それは湖ではなく、やや離れた所にある石積みの壁からなのであった。

 違和感のある気配だ。

 

「どうかしたのか、ジュライ殿?」と、リバスト。

「ちょっと妙な気配を感じたんでな……」

「妙な気配だと……」

「もしや、魔物か!?」

 

 リバストは剣に手をかけた。

 

「いや……魔物じゃないな。かといって、人の気配でもないけどね。とりあえず、行ってみよう。邪悪な気配ではないから」

 

 俺はそう言って、石積みの壁へと歩を進めた。

 すると、壁の前に来たところで、俺はある事に気がついたのである。

 石積の壁の隙間から、空気の流れを感じたからだ。

 

(この壁の向こうに何かあるのか……まぁいい、調べてみるか)

 

 俺は石積みの壁に向かって、思いっきり前蹴りをかました。

 その直後、ガラガラと音を立てて、石積みの壁が崩れたのである。

 

「な!? 壁がこんなに簡単に崩れるなんて……ン? 何だこの空洞は……」

 

 エドガンは瓦礫の先に見える空間に視線を向けた。

 そう、なんと壁の向こうは、人が1人通れる程度の狭い通路が伸びていたからである。

 また、そこからは石積の壁ではなく、普通の洞窟然とした土の壁となっていた。

 しかも、壁面は削り出したような感じになっているので、まず間違いなく、人の手が加わっている通路なのだ。

 おまけにここから先は、この洞窟内にある妙な照明装置も無い。

 つまり、真っ暗闇の洞穴の通路が不気味に続いているのであった。

 ゲームには出てこなかった通路の為、何があるのかは行ってみないとわからないだろう。

 

「これは人が掘った穴だな……所々に掘削の跡がある。奥に何かあるのかもしれないな」と、リバスト。

「うむ。リバスト殿の言う通りだ。しかし、この壁の向こうに、まさかこんな穴があったとはな……これは気になる。どうする、ジュライ殿?」

「行ってみますか。妙な気配はこの先から感じるんでね」

「ならば松明を用意しよう」――

 

 その後、俺達は松明の明かりを頼りに、壁の向こうに現れた通路を進んだ。

 相当長い年月が経過しているのか、洞窟内は少しカビ臭い。

 だが意外とカラッとしており、土の湿気によるジメジメ感はなかった。

 そんな洞窟内を暫く進んでゆくと、程なくして俺達は、吹き抜けとなっている開けた場所へと辿り着いたのである。

 空間の広さ的には100平米くらいだろうか。

 天井部には小さな穴が幾つかあり、そこから薄明光線のように日光の明かりが差し込んでいた。

 そのせいか、なんとなく神秘的な空間であった。

 新鮮な空気の流れもあるので、酸欠の心配は無さそうである。

 ただ、問題はここで行き止まりという事だろう。

 見たところ、この空間の奥は、城壁のような石積みの壁となっていた。

 そんな感じの場所だが、ここに来る前にあった石積みの壁とは随分と雰囲気が違っていた。

 何故なら、かなりの年月が経っていそうな様式の違う古い壁だったからだ。

 至る所にヒビ割れがあり、苔や土埃が付着している。

 そして、その手前には、井戸と思われる朽ちかけた丸い石枠があり、そこで不気味に佇んでいるのである。

 某呪いのビデオの映画みたいに、〇子でも出てきそうな雰囲気であった。

 

「行き止まりだな……他には何もなさそうだ」

 

 リバストはそう言って周囲を見回した。

 

「ふむ……そのようだ。なぜか、井戸の枠がこんなところにあるがな。」

 

 エドガンさんはぴょんと跳ね、井戸の方へと向かった。

 俺達もそれに続いた。

 ちなみに、井戸は既に枯れており、底が見えるくらいであった。

 

「井戸の中には何も無いな……ン?」

 

 俺はそこで正面にある石の壁に、何やら文字が刻まれているのを発見したのである。

 

「エドガンさん、そこの壁になにか書いてありますね。読めますか?」

「確かに、なにか書いてあるな。むぅ……これは古代文字だな。少し時間がかかるが、解読してみよう」――

 

 スライムエドガンはジッと壁を見つめ、少しづつ読み上げていった。

 

【井戸の中から阿鼻叫喚が聞こえてくる……ここで起きたことは、この世界だけに留まらぬであろう……いずれやすべての世界に災いを及ぼす……愚かなことよ……悪魔を呼び出すとは神の怒りに触れて当然である!……無限地獄だ! この城の者達は無限地獄を彷徨っているのだ! 見せてやろう……マハトラーナ!】

 

 と、その直後。

 井戸から突如白い霧の渦が発生し、俺達を覆い尽くしていったのである。

 

「何!? 何だコレは! クッ、魔物の仕業か!」

「なッ!? どういうことだ、一体!?」

 

 リバストとスライムエドガンは、この突然の展開にたじろいでいた。

 そんな中、俺はゲンナリとしながら、独りごちたのである。

 

「あ〜あ……最悪や。なんでこれなんや……今、このイヴェントいらんやろ」

 

 それから程なくして白い霧は晴れていった。

 そして、予想通りの光景が、俺の眼前に広がっていたのである。

 俺達の目の前には、立派な西洋風のお城が鎮座していた。

 

「これは一体……どういうことだ!? 夢でも見ているのか……」

「馬鹿な……城だと! なんなんだここは」

 

 リバストとスライムエドガンは呆然としていた。

 と、そこで、兵士と思わしき若い男が、俺達に近づいてきたのである。

 

【おい! こんなところで何をしている! むっ、スライムを連れた旅の者か。まぁいい。今日は大事な日だ。旅人に城の周りをうろつかれても困るのでな。さぁ、城の中に入るんだ】

 

 俺達は言われるがまま、兵士に城の中へと招待されてしまった。

 それから城門を潜り、城内へと入ったところで、兵士は俺達に振り返ったのである。

 

【今日は大事な儀式が行なわれる日だ。あまりグレイス城の外を出歩かないようにな。旅の者といえども守ってもらうぞ。良いな!】

 

 それだけを告げ、兵士は持ち場へと帰って行ったのである。

 

(マジかよ……聞いてないよ、この展開は……。つか、オルゴーのよろい入手イヴェントはここで必要ないやろ……最悪や。つか、いつまで彷徨ってんだよ。もうⅣの時代やぞ……ああ、もうヤダヤダ……)

 

 俺がテンションだだ下がりの中、リバストとスライムエドガンが小声で話しかけてきた。

 

「ジュライ殿……これは一体」

「何が起きているのだ、さっぱりわからぬぞ」

 

 というわけで、俺は溜息を吐きつつ、彼等に告げたのである。

 

「たぶん、あの壁に書かれていた無限地獄……じゃないスかね」と――

 

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