DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv39 無限地獄Ⅱ

 

 

   [壱]

 

 

 俺達はグレイス城の中に案内された後、直ぐに放置された。

 周囲を見回したところ、ここは吹き抜けの玄関ホールとなっており、かなり広い。

 床は色褪せたグレーの石畳になっており、前方には上へと続く厳かな石の階段があった。

 壁には美しい風景画や甲冑などが飾られている。

 そして、何人かの兵士や使用人の姿も見受けられた。が、誰も俺達に指示しに来ないところを見ると、どうやらゲーム同様、ここからは自由行動ができるようだ。

 

「ジュライ殿、これからどうするのだ? 無限地獄か何か知らぬが……我等は帰ることが出来るのだろうか?」と、リバスト。

「さぁどうなんだろうね……」

 

 とはいえ、そこが問題である。

 ゲームでは帰れたが、ちょっとシチュエーションが違うので断言できないのだ。

 おまけに、さっき見た感じだと、俺達はいきなり城の前に出現しており、加えて、井戸の姿もなかったのである。

 

(ゲームだと、井戸に行けば戻れたけど……その井戸があったかな。仕方ない、もう一度、確認するか)

 

 俺はそこで、アーチ状の厳かな玄関扉に視線を向けた。

 

「とりあえず、さっきのところに戻れば、帰れるかもよ」

 

 俺は重厚な扉の取手に手をかけた。が、しかし……鍵が掛かっているのか、ビクともしなかったのである。

 頭の痛い展開であった。

 

「あらら……開かないね。参ったな……」

 

 リバストも取手に手をかけて確認した。

 勿論、結果は同じだ。

 

「ふむ……この感じだと、向こう側から閉められているな」

「つまり、我々は閉じ込められたということか?」と、エドガンさん。

 

 俺はとりあえず、頷いておいた。

 

「かもしれませんね」

「それは困ったな。いやぁ、困った困った」

 

 エドガンさんはそう言いつつも、ニコニコとしていた。

 言動と表情が一致してない。

 明らかに、興味津々といった感じである。

 ちょっとイラッとしたのは言うまでもない。

 

「エドガンさん……何笑ってんスか。むしろ嬉しそうに見えるんですけど……」

「これは失礼した。だが、こんな体験、滅多に出来るモノではないのでな」

 

 エドガンさんは悪怯れもせず、そう答えた。

 殺されてスライム化してる事といい、波瀾万丈な星の下に生まれてるだけに、こういう体験は大した事でもないのだろう。強い人である。

 

「私もエドガン殿と同じだ。こんな体験、滅多に出来ぬのでな。其方と会って以降、生前よりも面白い出来事が多くて、私も驚いているよ。まぁとはいえ、一番の衝撃は、私を現世に呼び戻す魔法薬を作った御仁がスライムだった事だがな……」

「そう言わんでくれ、リバスト殿。あの薬を作った時は人間だったのだから」

 

 俺がエドガンさんを紹介した時、リバストは少し固まっていたので、相当衝撃を受けていたのだろう。

 まぁそれはさておき、リバストも同じような星の下に生まれてる苦労人なので、大してビビってないみたいである。

 頼もしい妖怪達であった。

 

「ったくもう……なんか2人の様子見てたら、深く考えるのが馬鹿らしくなってきたよ。ん?」

 

 俺達がそんなやり取りをしていると、城内にいる兵士の1人がこちらに近づいてきた。

 それは青い鎧を纏う青年兵士であった。

 顔つきはラテン系で、髪型については頬を覆うような兜を被ってるのでよくわからない。

 年は20代後半くらいで、上背は俺よりも少し高い。

 なかなかガタイの良い青年兵士であった。

 兵士は俺達の前で立ち止まった。

 

「見かけぬ顔だな……其方達は旅の者か?」

 

 俺は白々しく答えておいた。

 

「ええ、そうですよ。お取込み中にすいませんね。今日は城で、お祭りでもあるんですか? なにやら物々しい感じですけど」

 

 すると青年兵士は、俺達をマジマジと見た。

 

「其方達……相当な手練れだな。其方達から、只ならぬ気配を感じる。しかも、スライムのような魔物を連れてるとは珍しい。まぁそういうスライムもいないわけではないが……」

 

 なんとなくだが、品定めをしているような言い方であった。

 嫌な予感がしたのは言うまでもない。

 

「いや、そんな大した者ではないですよ。それはそうと、なんか大変そうですね。城門の前にいたら、いきなり兵士に中へと連れ込まれてしまいましたよ」

 

 それを聞き、青年兵士は苦笑いを浮かべた。

 

「其方達も運が悪い……今日、このグレイス城ではとんでもない儀式が行われるのだ。そう……神をも恐れぬ、世にも恐ろしい儀式がな。いや……もう何も言うまい。我等は王様を信じるのみ……」

 

 と、その時であった。

 

【ゴーリキよ、ここにいたか。探したぞ!】

 

 城の奥から大きな声が聞こえてきたのである。

 青年兵士は慌てて後ろを振り返った。

 するとそこには、純白の衣服の上から眩い銀の鎧を纏う、ダンディーな髭面の中年兵士がいたのである。

 青年兵士はその兵士に向かい、背筋を伸ばして敬礼のような仕草をした。

 どうやら、この兵士の名前はゴーリキというらしい。

 そういえば、そんなキャラがゲームにもいたような……いなかったような。

 まぁそれはさておき、エドガンさんの話だと、グレイスの古文書と魔法の絨毯が入っていた箱に、ゴーリキという人物からの言葉が記されていたようだが、同一人物かどうかはわからない。

 だが、記憶に留めておく必要がありそうだ。

 

「兵士長殿、ご苦労様でございます」

「ゴーリキよ、今から鎧の間へ行くぞ。ついてこい」

「はッ!」

 

 青年兵士はそこで俺達に振り返り、城の奥を指差した。

 

「其方達、この先にある階段裏の広場か、城内の大聖堂に向かうがよい。そこに城の者達は皆集まっている。こんな入口にいると、何が起きるかわからぬぞ。では……」

 

 それだけを告げ、青年兵士と兵士長はこの場から去っていったのだ。

 俺はそこで同行者に振り返った。

 

「だ、そうですが……どうします?」

「ゆこう」

「参ろう」

 

 そういう事になった。

 

 

   [弐]

 

 

 ゴーリキという青年兵士の言葉に従い、俺達はグレイス城の奥へと歩を進めた。

 玄関ホールをまっすぐに進むと上へと続く階段があり、その裏には花壇が並ぶ中庭のような広場があった。

 青年兵士はここの事を言っていたのだろう。

 かなりのフロアスペースがあり、学校の体育館くらいの広さがあった。

 また、兵士の言う通り、そこには沢山の人々がいた。

 見た感じだと、数百人はいるんじゃないだろうか。

 ある者は肩を寄せ合って怯え、ある者は神に祈りを捧げ、またある者は頭を抱えて蹲っている。

 かなり深刻な雰囲気の漂う所であった。

 

(うわぁ……この世の終わりって雰囲気やな。この感じだと……ゲーム同様、悪魔を呼び出す儀式をするんだろう。くわばら、くわばら……)

 

 俺達はそんな広場の空きスペースに行き、そこに腰を下ろした。

 周囲を見回した感じだと、老若男女が勢揃いであったが、兵士のような見た目の者はいなかった。

 恐らく、城の内外の警備に当たっているんだろう。

 

(流石に兵士の類はここにいないか。だが、この人達の霊的気配って……アレだよな。間違いない。多分、この人達は……ン?)

 

 ふとそんな事を考えていると、エドガンさんが小声で話しかけてきた。

 

「ジュライ殿、1つ訊きたいのだが、もしやここは過去なのか?」

 

 俺はとりあえず、やんわりと答えておいた。

 

「かもしれませんね。あの壁に刻まれた文字の内容や、この城の名前を聞く限りは……」

「確かにな……となると、いつの時代なのだろうか……」

 

 それはゲームでも語られてない謎であった。

 

「さぁ、いつの時代なんでしょうね。でも、あの井戸や壁があった場所に、この城があったと仮定すると……相当な年月が経っているんじゃないですかね。あの場所は、地表からかなり下なので、埋もれた土の量から考えても、それこそ、数万年くらい経過してても、おかしくはないかもしれませんよ」

 

 これは有り得る仮説であった。

 なぜなら、多量の土に城が埋もれる状況というのは、相当な時間の経過があって然るべきだからである。

 

「ジュライ殿の言う通りかもしれぬな。しかし……無限地獄か。実に興味深いところだ」

 

 エドガンさんは錬金術師として興味が湧いたのだろう。

 と、そこで、リバストの声が聞こえてきた。

 

「ジュライ殿……向こうから、誰かが来るぞ」

 

 俺はリバストの指さす方向に視線を向けた。

 すると、眼鏡をかけた痩せ型の中年男が、こちらへと向かって歩いていたのである。

 その男は白いローブのような衣服を纏っており、天パがかった頭はボサボサになっていた。

 目の下にはクマがあり、整えられてない無精髭が、顔半分を覆っている。

 明らかに、身も心も疲れ果てた雰囲気を醸し出す中年男であった。

 その中年男は俺達の前で立ち止まり、覇気のない表情でボソボソと話しかけてきた。

 

「見かけぬ顔ですね……旅の方ですか? しかも、スライムと一緒とは……」

 

 入り口の兵士やゴーリキといい、この城の者達にとって、スライムと旅している俺達は珍しいのだろう。

 まぁそれはさておき、俺は適当に答えておいた。

 

「ええ、ご指摘の通り、旅の者ですよ。城の外にいた兵士に、なぜか招待されたんですよね」

 

 中年男は苦笑いを浮かべた。

 

「無理もない。今日はこの城で……危険な儀式が行われるのです。貴方達も大変な時に現れたモノだ」

「みたいですね。さっき、別の兵士にも同じ事を言われましたよ。で、どんな儀式が行われるのですかね? その兵士は、世にも恐ろしい儀式とか言ってましたけど」

 

 ゲームと同じかどうかを確認する為、俺はとりあえず、訊いておく事にした。

 するとその直後、中年男は深刻な表情で弱々しく膝をつき、両手で顔を覆ったのである。

 男は狼狽えながらも、唇を震わせ、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

【わ、私は少し……後悔している。王様に、あの悪魔の存在をお教えした事を……。その力は、今の大魔王を超えるという伝説の悪魔。そいつを呼び出し、操る方法を……私は発見してしまったのだ……その事をお聞かせした為に、王様は……】

 

 どうやらこのオッサンが原因のようだ。

 もしかすると、ゲームにおける学者風キャラの男なのかもしれない。

 まぁそれはさておき、ゲームでも思っていた事だが、突っ込みどころが満載の供述内容である。

 と、そこで、リバストが反応した。

 

「なッ!? もしや……これから行われる儀式というのは……」

 

 中年男は弱々しく頷いた。

 

「そう……貴方の考えている通りですよ。今日、このグレイス城では……その悪魔の召喚儀式が執り行われるのです……そして、大魔王デスタムーアをその悪魔によって退けてもらうのですよ」

 

 リバストは落胆したのか、溜息を吐き、ゆっくりと頭を振った。

 

「なんという愚かな事を……」

「何を考えているのだ。幾ら大魔王とやらが脅威と言っても、同じような存在を呼び出して解決しようだなんて……馬鹿げているぞ」

 

 リバストとスライムエドガンはドン引きしていた。

 無理もないところである。

 そんな中、男は疲れたように話を続けた。

 

【もう、コレしかないのですよ……このグレイス王国は、周りを高い山脈に囲われた陸の孤島。援軍も期待できぬ上、ひと度、魔物の軍勢との交戦が始まれば、食料等の物資輸送もままならぬのです。この国は高地故に、農産物の収穫量や蓄えもそれほど多くありません。魔法都市カルベローナやダーマの地が、大魔王の軍勢によって滅びた今、伝説の武具を代々継承しているこのグレイス王国に、大魔王の手が伸びるは時間の問題なのです。最悪な手段だというのは勿論、王様もわかっていらっしゃる。だが……我が国にはもう……魔物の軍勢に抗える程の兵力や兵糧もないのです。運命に抗うには、悪魔にでもすがる他ないのですよ。大丈夫……悪魔を操る方法は王様にちゃんとお伝えしてあります。後は……神に祈るのみです……】

 

 中年男はそう言って四つん這いになり、苦しそうに喘いだのであった。

 悪魔を呼び出し、神に祈るという、かなり矛盾した供述内容だが、まぁなんとなく事情は飲み込めた。が、俺は別の事が引っかかったので、それを訊ねる事にした。

 

「あの……苦しい胸の内はわかりましたけど、幾つか質問いいですか?」

「なんだろうか?」

「その悪魔を呼び出す方法ですけど……どうやって知ったのですか?」

「それは……城の書庫に眠っていた悪魔召喚に関する古い文献を紐解く事で知りました。ただ、その文献を見つけたのは私ではなく、書庫を管理している者でしたが……」

「へぇ……なるほど。貴方が見つけたわけではないのですね。では質問を続けます。その悪魔を呼び出す方法ですが、なぜそれが本物だと思われたのでしょうか? 何か根拠でもあるのですかね?」

 

 すると中年男は顔を上げ、少し驚いた表情で俺を見ていた。

 

「貴方……結構、冷静ですね。とんでもない儀式の話をしているのに……。今の私の話を聞いて、感情的にならなかったのは貴方が初めてです」

「まぁそういう性分なんですよ。で、どうなんです?」

「実はそれなんですが……その文献に記載されていた他の召喚儀式を幾つか試してみたのです。しかも、それらは全て成功でした。その結果により、文献が信用に足るモノだと私は考え、王様にお教えしたのです」

「他の召喚儀式ね……で、何を呼び出したのですか?」

「私は友人である兵士長達が見守る中、文献の記述に従い、弱い悪魔を何体か呼び出しました。それらは大した悪魔ではなかったので事なきを得ましたが、それにより、文献の記述に間違いはないと、私は確信するに至ったのです」

 

 どうやら試しに、弱い悪魔を何体か召喚したようだ。

 小さな事実も積み重なれば、そう思うのも無理はないのかもしれない。

 

「そういう事だったのですか……なるほど。では質問を続けます。その伝説の悪魔ですが、使役する方法とかも書かれていたんでしょうか?」

 

 中年男は頷くと、ゴクリと息を飲み、緊張した面持ちで話してくれた。

 

【文献にはこう書かれていました……伝説の悪魔を召喚せし者は、この書に描かれている深紅の魔法陣を描き、蛙の干物と蛇のスープを供物として祭壇に捧げ、これに記した大悪魔の召喚の呪文を唱えよ。さすれば、伝説の悪魔は供物に感謝の意を示し、汝の声に耳を傾けるであろう。悪魔は真紅の魔法陣に捕らわれている限り、汝に゙危害は加えない。必ずや、汝の願いを聞き届ける事であろう……と】

 

 ツッコミどころ満載である。

 書かれているのは予想であり、何の確証もないからだ。

 これはもしかすると、高度なトラップなのかもしれない。

 

「そういう事ですか……では最後にもう1つお訊きします。その伝説の大悪魔とやらの名前は何というのですかね?」

 

 すると、なぜか中年男は眉間に皺を寄せ、困った表情になったのである。

 

「それが……実は……大悪魔の名前はわからないのです」

「はぁ? 悪魔を召喚するのに名前がわからないって……どういう事ですか?」

 

 驚きの証言であった。

 

「文献には、魔王の魂をも食べてしまう、比類なき強さを誇る伝説の大悪魔とだけ記されておりました。名前に関しては、どこにも記述がなかったのです」

 

 それが本当ならば、これは巧妙なトラップと見て間違いないだろう。

 溜息が出るくらい、残念なオチであった。

 ちなみにこの溜息は、ゲームを知っているからではなく、俺の経験則からくるモノである。

 

「あらら、そう来ましたか……ちょっと先走っちゃいましたね。その大悪魔……多分、呼び出す事は出来ても、使役は無理かもしれせんよ」

 

 俺の言葉を聞き、中年男とリバスト、そしてスライムエドガンは即座に反応した。

 

「なッ!? 突然、何を言うのです! そんな馬鹿な事……」

「え? どういう事だ、ジュライ殿」

「ジュライ殿、何か不味い事でもあるのだろうか?」

 

 3人は上手くいくと思ってるようだ。

 これを仕込んだ何者かは、してやったりといったところだろう。

 相手を上手く騙すには、それなりに事実を伴わないといけないので、真贋を見極めるにはもっと慎重にならないといけないのだが、今となっては後の祭りである。

 まぁそれはさておき、とりあえず、まずは俺の世界における悪魔召喚について話さねばなるまい。

 

「俺も職業柄、悪魔を呼び出す行為によって生じた後始末を何度かした事があるので、そういう系はなんとなくわかるんです。ま、それは今は置いておきましょう。で、話を戻しますが……悪魔召喚は古今東西、様々な方法がありますが、呼び出して使役するにあたり、1つだけ外せないモノがあるんですよ」

 

 中年男は生唾をゴクリと飲み込んだ。

 

「1つだけ外せないモノですと……そ、それは一体……」

「悪魔を使役するには真名(マナ)が絶対に必要という事です」

「マナ? もしや……名前の事かな、ジュライ殿」

 

 流石にエドガンさんは気づいたようだ。

 

「ええ、そうです。真の名と書いて真名……名前というモノは不思議なものでね、本人が名前と認識した時点で、魂はそれを記憶し、それに一生縛られる事になるんですよ。悪魔だろうが、人間だろうが、物の怪だろうがね。名前という(まじな)いに一生縛られて生きてゆくので、俺の家では生咒(じょうしゅ)に掛かると言ってますが……。まぁそれはさておき、今の貴方のお話を聞く限り、呼び出す方法はあれど、使役するのに一番肝心なモノが抜けているように思います。とはいえ、この世界ではそれも可能と言われれば、それまでですけどね」

 

 俺の言葉を聞き、中年男は力なく項垂れた。

 

「そ、そんな馬鹿な……そんな事ある筈ない……やり方は間違ってない……あれでいいんだ……あれが正解なんだ……何も間違ってはいない……何も間違っては……何も……」――

 

 そして、この場に、男の弱々しい言葉が、寂しく漂い続けるのであった。

 

 

   [参]

 

 

 考察話で中年男が塞ぎ込んでしまったのもあり、居心地が悪くなった俺達は場所を変える事にした。

 ツッコミどころが多いとはいえ、ちょいと余計な話をしてしまったようだ。反省である。

 とはいえ、ゲームで語られてないグレイス城の話を色々と聞けたので、それなりに有意義な時間であった。

 しかも、ちゃんと話の整合性がとれてたので、俺も納得の展開だったのである。

 これがこの世界の凄いところであった。

 それはさておき、俺達は今、2階へと向かい、歩を進めているところだ。

 あの後、同行者と話し合った結果、折角なのでグレイス城を散策しようとなったのである。

 そんな中、エドガンさんが小声で、俺に訊いてくるのであった。

 

「ジュライ殿……先程の話を聞いていて思ったのだが……もしや、このグレイス王国は、悪魔召喚によって滅びたのか? 古文書にもそのような事が書かれていたんだが……」

「多分、そうじゃないですかね」

「ということは……今、我々が見ているモノは……」

 

 エドガンさんはそれ以上、言葉が出てこなかった。

 色々と察してしまったのだろう。

 

「エドガンさんが考えている通りだと思いますよ。ただし……これは幻ではないですがね。もっと恐ろしい……何かだと思います」

 

 と、そこで、リバストも会話にログインしてきた。

 

「もっと恐ろしい何かだと……どういう事なのだ、一体?」

「あの洞窟の壁には『無限地獄を彷徨っている』と書かれておりました。周囲を見て気付きませんか? これはある種の現実でもあるんですが……現実でない部分もあるんです。この世界は恐らく……いや、今はまだ結論を出すのはやめておきましょう」

 

 リバストは首を傾げた。

 エドガンさんは目を細め、無言であった。

 恐らく、何か思うところがあるのかもしれない。

 

「現実でない部分だと……私には難しい事はよくわからぬ。まぁいい、それはともかくだ。この国はもしや、今から滅ぶ事になるのか?」

「既に起こった事実は変えられませんからね……そうなると思いますよ。俺達があの洞窟で見た井戸や壁がその結果ですから」

「ならば……この城は一体何なのだ。まるで現実のような世界だが……」

 

 リバストはそう言って周囲を見回した。

 

「さっきも言いましたが、これはある種の現実なんですよ。だから物にも触れられますしね」

 

 俺はそこで壁に手をやった。

 ひんやりとした冷たい石壁の質感が、指先を通して伝わってくる。

 そう……これは現実なのである。

 だが、ある部分は現実ではないのだ。

 

「ある種の現実と言われても……私にはよくわからぬ。しかし、ジュライ殿……先程の其方の話を聞いてから、ずっと腑に落ちぬのだが、あの悪魔召喚は何者かによって仕組まれたことではないのか? 私は別の者の意図を感じるのだが……」

「おお、リバスト殿もか。実は、私もそう思っていたのだよ」

 

 2人は気づいたようだ。

 俺もそう考えているので、同志を得た気分である。

 

「2人もそう思いましたか。勿論、俺もそう考えてますよ。恐らく、この罠を仕込んだのは大魔王側でしょうね」

「しかし、なぜこんな手の込んだ事をするのだ。先程の学者の話を聞いた感じだと、この時代の大魔王とやらは順調に世界を支配してる風に聞こえたが……」と、リバスト。

 

 物事の表面だけを見るとそうなるだろう。

 だが、視点を変えると、違った見方もできるのである。

 ゲームにおける大魔王デスタムーアは、自らは狭間の世界に引きこもり、配下の魔王に現実世界への侵攻をさせていた。だが、逆に考えると、デスタムーア自身は現実世界に直接影響を与える事が難しいから、回りくどいやり方をしていたと考えると、納得がいくのである。

 そうなると現実世界の侵攻を行うには、相当な手勢が必要になる。

 ここがこの話の肝になるのかもしれない。

 

「これはあくまでも俺の想像ですが……大魔王側も手勢をすぐに揃えられないから、こういう手段に出たのかもしれませんね」 

 

 スライムエドガンがプルンと震えた。

 

「手勢を揃えられない? どういう事かな、ジュライ殿」

「大魔王の軍勢は恐らく、魔法都市カルベローナを落とす時、相当苦労したんじゃないですかね。何と言っても、熟練の魔法使いを沢山相手にしたわけですから、流石に無傷というわけにはいかないと思いますよ」

 

 大魔王側も態勢を整えられないので、別の手段としてこういう罠も仕込んだのではないか? と、考える事も出来るのである。

 とはいえ、確証がないので、あくまでもただの考察だが。

 

「なるほど……確かに、そういう考え方もできるな。ン? この部屋から話し声が聞こえるが……」

 

 エドガンさんはそこで歩みを止めた。

 俺とリバストも足を止める。

 するとそこは、2階の右手にある大きな部屋であった。

 その部屋は両開きの扉が全開になっていたので、中はモロ見えとなっている。

 広さは20畳程。床には高級感のある赤い絨毯が敷かれており、その中央には磨き抜かれた美しい白銀の鎧が台座に飾られていた。

 この世界に来てから初めて見るタイプの鎧であった。

 鎧の形状は普通だが、1つだけ見慣れない部分があったからだ。

 それは何かというと、肩の部分に翼のような装飾が施されていたからである。

 また、その鎧の前には2人の兵士の姿があり、今は険しい表情でなにやら話しているところであった。

 ちなみにその2人の兵士は、俺達が玄関ホールで見た兵士長とゴーリキとかいう青年兵士だったのである。

 

(あの2人がここにいるという事は……もしやアレが、オルゴーの鎧か……ン?)

 

 ふとそんな事を考えていると、そこでリバストの驚く声が聞こえてきたのであった。

 

【あ、あれは……天空の鎧……なぜ天空の鎧がこの城にあるのだ】と――

 

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