DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv4 駆け引き

   [壱]

 

 

 デスピサロは腕を組み、不遜な態度で俺に返してきた。

 

「フン……貴様、一体何者だ。この辺の者ではないな。惚けたフリをして、我等を貶めるとは……」

「まぁ当たらずとも遠からずかな。お前の言う通り、俺はこの辺りの者ではないよ。さて、そんな事より、取引といかないか?」

「取引だと? 馬鹿馬鹿しい……我等はそこにいる勇者に用があるだけよ。関係ないお前は引っ込んでいろ!」

 

 この口振りを見る限り、かなり俺の事は警戒しているようだ。

 交渉する余地はありそうである。続けよう。

 

「まぁまぁそう言わずにさ。それに彼が勇者かどうかという確証もないんだし、ここは一旦、引いてもらえるとありがたいんだがね」

「今は勇者でなくとも、そのガキは勇者誕生の予言にある天空人の血を引く人間だ。地獄の帝王エスタークをも倒せる勇者としての資質に目覚める前に、なんとしても殺さなければならぬ。見ろ、この村を……。人が寄り付かない結界を張り、そのガキを外にも出さず守ってきたこの村が何よりの証拠ではないか。貴様等人間共を滅ばすために邪魔な存在なのだよ」

 

 こいつの言い分を聞く限り、色々と下調べをしてこの村に当たりをつけているみたいだ。

 まぁ実際正解だから、なかなかの推察力である。

 

「へぇ、じゃあ、誰が言ったかわからない予言を信じるのかい?」

「信じる信じないではない。可能性のあるモノは取り除くだけだ」

「じゃあ、引くつもりはないって事ね?」

「当たり前だ」

「そうか、残念だ。あまりやりたくないが、次の手段に出るとしよう」

「次の手段だと……」

 

 俺はここから悪人のような交渉に移ることにした。

 術式の描かれた剣の刃に手を当て、練り上げた霊力をそこに籠める。

 続いて俺は、浄化のマントラを小さく唱えた。

 その直後、刃全体がボワッとした白いオーラに包み込まれる。

 これは霊剣としての力を開放させた状態だ。

 そして俺は、結界に捕らわれた魔物の一体へと向かい歩を進めたのである。

 ちなみにその魔物はアームライオンであった。

 理由は一番近かったからである。

 身動きできないアームライオンの首筋に、俺は剣の切っ先を当てがった。

 

「さて……では交渉だ。この結界内にいる魔物全ての命を犠牲にしても、お前は引かないか? それだけではない。大切にしている者の命を犠牲にしてまでも、お前は進軍を続けるのかな? デスピサロよ、お前にその覚悟はあるのかどうかを問うとしよう」

「貴様! どういう意味だ!」

 

 流石にこの言葉には反応した。

 ここからはゲームの知識を使いつつ、捲し立てるとしよう。

 

「そのままの意味だよ。ああ、そうそう……言ってなかったが、俺は妙な呪術に精通しててね。離れた所にいる者の命を奪う事も、やろうと思えばできるんだよ。まぁとはいっても、仕込みが必要だがね。この間、お前の大切なモノが置いてある場所に立ち寄った際、それがある塔の付近に仕掛けを施しておいたんだよ。後は私がソレをするかどうかだ……」

「なんだとッ!? ググッ……お、おのれ……人間風情が……」

 

 デスピサロはワナワナと握り拳を震わせ、怒りで顔が歪んでいた。

 だが、次の言葉は出てこないところを見ると、流石に悩んでいるみたいである。

 俺が得体の知れない呪術を使う奴なので、それも好材料になっているのだろう。

 まぁそれはさておき、俺は勇者の命を天秤にかける為、2つのモノを奴に掲示した。それは部下の信頼喪失と愛の喪失である。

 少々汚いかもしれないが、この場で取引するには生半可なモノでは交渉材料にならない。奴が本当に大切にしてるモノでないと天秤にかけられないのだ。

 それにこの交渉材料には一応、逃げ道も作っておいてある。

 取引を飲んでも、これによって奴の信頼が下がったりすることはないだろう。

 寧ろ、より一層上がってしまう可能性の方が高いので、そこが頭の痛いところであった。

 

「さぁ、どうする? 引くか引かないか……決断してもらおうか」

 

 だがその時であった。

 

【メラミ!】

 

 後続の魔物が呪文を唱えたのである。

 唱えたのは全身緑色の小さい悪魔のような魔物だ。多分、ミニデーモンだろう。

 バスケットボールくらいはある大きな炎の塊が、勢いよく俺に迫ってくる。

 だがしかし……炎は結界内に入った時点で霧散したのであった。

 

【何ィ! メラミが搔き消えただと!】

 

 この不動結界は大地の霊力を利用しているが、俺の霊力を基調にして作られている。その為、俺以外の霊的なモノは拒絶されてしまうのである。

 ある意味、最強のバリア結界でもあるわけだが、清らかな大地の霊気が宿る場所でないと使えないので、そこが難点と言えば難点であった。

 まぁそれはともかく、俺は奴等に忠告した。

 

「ああ、そうだ。言い忘れていたけど、この結界内は霊的な術は効かないよ。お前達が使う魔法もね。原理的には同じだからな。まぁそれより……今のが君達の答えと受け取って良いのかな、デスピサロ君。良いのなら、まずはお仲間の殲滅に入るけど」

 

 俺はそこで刃の術式紋様に手を当てて、霊力を更に籠めた。

 その直後、剣のオーラが更に大きくなる。それはまるで青白い炎を纏う剣といった感じであった。

 すると苦虫を噛み潰したかのようにデスピサロは顔を歪めた。

 

「ま、待て! クッ……仕方ない。今日の所は引いてやろう。仲間の命を無駄に死に至らしめるわけにはいかんからな。だが忘れるな! 勇者だけじゃない……貴様も必ず始末してやる。そう……必ずな!」

「はいはい、わかったよ。では交渉成立だ」

 

 俺はそこでパルメロさん達に視線を向けた。

 

「皆さん、確か、奥の物置に彼がいるんでしたね?」

「え、ええ……しかし」

 

 彼等は顔を見合わせていた。何とも微妙な表情である。

 色々と言いたい事もあるのだとは思うが、俺は話しを進める事にした。

 

「では今から、私が彼を連れてきますんで、それから動くとしましょうか」

「え? 動くって一体……」

「後で話します」

 

 俺はパルメロさんにそう言うと、起点に剣を突き刺し、奥の物置へと向かったのである。

 

 

   [弐]

 

 

 池の畔にある橋を渡った先には東屋があり、そこには地下へと続く階段があった。

 俺はその階段を下りてゆく。すると、壺や木箱が幾つも置かれたフロアへと出た。

 それはもう、ゲームと同じような雰囲気の所であった。

 少し感動モノではあったが、俺はそれらを1つ1つ調べていった。

 すると、とある壺の中で蹲るようにして、噂の人物が入っていたのである。

 

「ええっと、君がフォルスか?」

「はい。貴方は確か……パルメロさんの所にいた方……ですよね」

「ああ、そうだが……今、外がとんでもない事になっていてね。ちょっと来てもらえるかい。大丈夫、多分、襲われるような事はないと思うから」

「は、はい」――

 

 外に出た俺達は結界の方へと向かった。

 俺達を見るなり、デスピサロは舌を打った。

 

「チッ……本物は隠れていたとはな。という事は、そっちの奴はモシャスで化けているだけか……騙されたよ」

 

 俺はそんな奴を横目に、パルメロさん達の所へフォルスを連れて行った。

 偽物のフォルスはそこでモシャスを解いた。

 その正体は、村に入った時に見かけた美しいエルフのような女性であった。

 見た目は、赤く長い髪と白いワンピース姿が特徴の可愛い女の子といった感じである。

 

「フォルス!」

「シンシア!」

 

 2人は人目も憚らず抱き合った。

 まぁ感動の再開なのだろうが、俺はそんな2人を無視して話を進めた。

 

「では魔族の王であらせられるデスピサロ殿下……我々はこのまま村を出させてもらうとするよ。その際、俺達に危害を加えたら、結界の中にいる魔物は浄化の炎で燃やし尽くす! そしてお前の大切なモノもな……」

「グッ……わかった。良いだろう。行くがいい。皆の者、こ奴等に手出しするな!」

 

 魔物達が少しざわついた。

 

「デスピサロ様……」

「なんて汚い人間なんだコイツは! 今度会った時は食い殺してやる!」

「人間も見下げ果てたモノだ……こんな真似をする奴が人間にいようとは」

「こんな性悪な人間見た事ない! 死ね、死んでしまえ!」

 

 罵詈雑言の嵐である。

 お前らに言われたくないと思ったのは言うまでもない。

 この戦力差で奇襲に来る方が、汚さでは十分上だろう。

 まぁそれはさておき、撤収である。

 

「では皆さん、このまま村から出ましょうか」

「え? あ、ああ」――

 

 俺達は若い剣士の男を先頭に移動を開始した。

 最後尾である殿は俺だ。

 そこでデスピサロが声を上げた。

 

「おい、貴様! 我等の同胞はこのままか?」

「心配しなくていい。そこの結界は俺がある程度離れたら、消えてなくなるよ。お前の大切なモノの方もね。だから、それまで待つんだな」

「チッ、忌々しい」

 

 勿論これは嘘だが、こうでも言わないと俺の思惑がばれてしまうので仕方ないところであった。

 ちなみに結界の持続時間は、あと20分くらいだろう。

 この時間内で奴等から逃れるしかないのだが……頭の痛い事に、村を出る途中、大怪我をした前線の者達が数人いたので、彼等を治療する事となったのである。

 俺はその際、小声で彼等に今の事情を話しておいた。

 するとそれを聞いた皆は、慌ててホイミ等の魔法や薬草を使い、治療を開始したのであった。

 深い傷が塞がっていくのを間近で見たので俺は驚いたが、その効能はゲームの通りであった。

 とはいえ、出血が多かったので、その者達は自力での歩行が難しい状況だ。なので、他の者達が彼等に肩を貸し、移動する事となったのである。どうやら傷は塞がっても、血までは取り戻せないようだ。

 治療に要した時間は10分。これは痛い時間ロスであった。

 まぁそんなこんなで、俺達は魔物共に見守られながら、この村を後にしたのである――

 

 

   [参]

 

 

 怪我人を背負っての行軍は熾烈を極めた。

 おまけに今は夜。外は月夜だが、その明かりは頼りないモノであった。

 色々と条件が悪すぎるのである。

 そんなに早くは移動できないのだ。

 

「ジュライさん、魔物は大丈夫そうですか?」と、怪我人を背負うパルメロさんが訊いてきた。

「ええ、今のところは。ですが、もうそろそろ結界も消える頃なので急いだほうが良いです。それよりも、ルーラとかキメラの翼とか使える人はいないんですか?」

 

 そこでシンシアが俺に振り向く。

 

「ルーラはもう少し先で使えます。この辺りはまだルーラが使えないんです。転移出来ない結界内なので」

「へぇそうなの……君が張ったのかい?」

「いえ……私ではありません」

 

 シンシアは言いにくそうに目を逸らした。

 この表情を見る限り、色々と事情があるようだ。

 それはともかく、あの両断された女神像以外にも、他に何か色々と細工をしてたようだ。

 勇者をただ匿っていたというだけではないのかもしれない。

 

(一体誰が結界を張ったんだろうな……まぁどうでもいいか。それより、今はこの状況を脱することが先だ)

 

 これだけの結界を張れる者ならば、あの魔物達にそうそう後れを取る事はないと思うが、彼女の反応を見る限り、今はこの場にいないのだろう。

 

「ところで、貴方は一体何者なのだ? あの凶悪な魔物達に、あんな事ができるなんて……」と、若い剣士の男。

「ただの旅人ですよ。ン?」

 

 だがその時であった。

 村のあった方角から、禍々しい霊気の波動が感じられたのである。

 恐らく、不動結界が消えてしまったのだろう。

 

「チッ…もうこっちに移動を始めやがったか。皆さん、魔物がこっちに向かっています。急ぎましょう」

「なんだって!?」

 

 今の言葉を聞き、全員が驚きの表情で俺に振り向いた。

 

「ルーラを使える場所まで、あとどのくらいですかね?」

「あともう少しです」と、シンシア。

「では急ぎましょう」

 

 俺達は行軍を速めた。

 だが怪我人を背負ってなので、そこまで速くは移動できない。

 ここはもうある意味賭けに近い感じであった。

 だが悲しいかな……移動スピードをそう上げられない俺達は、暫くすると魔物の1体に追いつかれ、見つかってしまったのである。

 魔物は俺達の上空にいた。

 

【ケケケ……こんな所にいたのか。見つけたぞ!】

 

 月明かりなので完全には見えないが、大体は確認できた。

 俺達を見つけたのは大鎌をもった緑色の体色をした悪魔のような魔物であった。

 頭部には4本の角があり、背中には蝙蝠のような羽を生やしている。

 俺の記憶が確かならば、ベレスと呼ばれていた魔物だろう。

 他の者達はざわつき始めた。

 

「ああ……魔物に見つかってしまった」

「早く逃げるんだ!」

 

 そんな中、魔物が先に動いた。

 

【逃がすか! 死ねぇ! ベギラマ!】

 

 魔物は俺達に向かってベギラマを唱え、火炎放射のような炎を放出してきたのである。

 咄嗟の事ではあったが、俺はそこで対霊術で効果がありそうな3枚の霊符を出し、その力を開放させた。

 霊符は発光し輝きを纏いだした。

 そして俺は炎に向かい、それを投げつけたのである。

 霊符はベギラマと衝突するや壁のように白く発光し、炎の進行を防いでくれた。上手くいったようだ。

 

(ふぅ……霊壁の符呪で一時的に魔法を止めれたな。どうやら思った通り、魔法は霊術と同じ性質をもっているようだ。ならば……)

 

 そこで魔物は目を見開いた。

 

【ゲッ!? ベギラマを止めやがった!】

 

 これで終わりではない。

 驚く魔物を前にして、俺は更にマントラを唱えながら呪印を結び、降魔で使う火炎呪を行使したのである。

 青白き炎の球体が印を組む手の前に出現する。が、次の瞬間、驚くべきことが起きたのだ。

 俺の予想に反して、かなり大きな炎の球体となっていたからである。その大きさは直径1m以上であった。

 炎の色は同じだが、普段の時よりも数倍の大きさのモノであった。

 

(え? なんだこの大きさは……迦楼羅焔(かるらえん)の火炎呪って……こんなに強力な術だったか。まぁいい、それは後だ。今はあの魔物を早くなんとかしなければ……)

 

 俺は奴に向かい迦楼羅焔を放った。

 

【ヒィィ、な、なんだ、このメラゾーマみたいな強烈な炎は!? グギャァァァ】

 

 その刹那、ベレスの身体は青白き炎に包まれ、もがき苦しみながら森の中へと落ちていったのである。

 他の者達は俺と魔物の戦いを目の当たりにし、ポカンとしながら足を止めていた。

 

「ジュライさん、アンタ一体……」

「それは後です。もたもたしてられません。行きますよ。今の戦いで、もう魔物達は我々の位置を把握した筈ですから」――

 

 その後、俺達はなんとか魔物を振り切り、ようやくルーラでこの森から脱出することができた。

 とんでもない逃避行ではあったが、まぁとりあえずは生きているので、良しとするしかないだろう―― 

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