DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv40 無限地獄Ⅲ

 

 

   [壱]

 

 

 リバストが鎧を見て呆然と立ち尽くす中、兵士長とゴーリキの話し声が聞こえてきた。

 2人は鎧の前で、俺達の事など気付く素振りもなく、会話を続けている。

 俺はそれに耳を傾けた。

 

【しかし、兵士長殿……魔王は本当に、この城を狙ってくるでしょうか?】

【うむ。必ず来るはずだ。この鎧がこの城にあるかぎり……】

【勇者が身につけたとき、魔王のオーラをも跳ね返すという伝説の鎧……ですか。確かに、勇者にまつわる伝説を知る者は、次々と魔物に殺され、あのダーマ神殿や魔法都市カルベローナまでもが滅ぼされたとか……】

【なあ、ゴーリキ……勇者は、我々に残された希望の光だ。いつか勇者が現われるまで……決して、この鎧を魔王に渡すわけにはいかんのだ! 例え、悪魔の力を借りたとしてもだ!】

 

 兵士長とゴーリキはそんなやり取りをした後、鎧に視線を向け、その場で静かに佇むのであった。

 非常に懐かしい場面が展開されていた。

 このシーンはよく覚えているところだ。

 とはいえ、今は時代が違う上にシリーズも違うので、ここで見た内容を参考にする必要性はない。

 強いて言うなら、ゲームで語られない裏話が聞けるくらいだろう。

 というわけで、俺は空気を読まずに部屋に入り、そっと彼等に近づいた。

 リバストとエドガンさんも俺に続く。

 そして、俺は背後から彼等に話しかけたのだ。

 

「あのぉ、お取込み中にすいませんが、これはそんなすごい鎧なんですか?」

 

 2人は慌てて俺に振り向いた。

 兵士長は怪訝な表情で俺達を見る。

 

「うん? お主達、何をしておる。ここは鎧を祭る大切な部屋。早々に出てゆかれよ」

「おや……貴方は先程の。どうかされましたかね。広場や大聖堂はもう一杯でしたか?」

「いえ、ちょっと下の広場に居辛くなったモノですから、場所を変える事にしたのです」

「居辛くなった? 何かあったのですか?」

 

 俺はこめかみ辺りをポリポリ掻きながら、事の顛末を話した。

 

「いやぁ……実はですね、広場にいた学者さんに悪魔召喚の件を聞いたんですけど、問題点を色々と指摘をしたら元気なくなっちゃったのでね。まぁそういうわけです」

 

 兵士長とゴーリキは顔を見合わせた。

 

「問題点だと……」

「悪魔を呼び出す事で、何か不味い事でもあるのですか?」と、ゴーリキ。

「ええ……少しね。まぁそれはさておき、これはもしや……伝説の鎧と呼ばれるモノですか?」

 

 すると兵士長が、眉を吊り上げて反応した。

 

「むっ……お主……まさかとは思うが、この鎧を狙う賊ではあるまいな」

 

 とりあえず、誤解を解いておこう。

 

「いやいや、滅相もない。いりませんよ、こんな中二病満載のかっこ悪くてイタい鎧。大体、俺では装備できませんしね。というか、できても装備しませんけど」

「か、かっこ悪い鎧だと……なんという事を言う奴だ。この鎧はな、代々グレイス王家が管理している由緒正しき、伝説の勇者の鎧なのだ! 非常に有難い貴重な鎧なのだよ! それを……ん?」

 

 兵士長はそこで言葉を止めた。

 なぜなら、リバストが鎧に近づきマジマジと見ていたからである。

 

「むぅ……天空の鎧かと思ったが……少し違うな。しかし……似ている」

 

 そんなリバストを見るや否や、兵士長はそれを牽制した。

 

「こらこらこら、そんなに鎧に近づいてはならぬ。ここは本来、限られた者以外立ち入り禁止の場所なのだぞ。はい、下がった下がった」

 

 兵士長はそう言って、露を払うかのようにシッシッと手振りをした。

 続いてエドガンさんも、空気を読まずに鎧へと近づいた。

 

「ほほう……これは伝説の鎧というのですか。なかなか興味深い代物ですな」

「コラァ、そこのスライム! 勝手に鎧に近づくでない! って、え? ス、スライム?」

 

 兵士長はキョトンとしながらエドガンさんを見ていた。

 

「この御仁のお仲間のようです」と、ゴーリキ。

 

 すると兵士長は驚きの表情で、俺に視線を向けたのであった。

 

「スライムが仲間だと……まさか、この男が……」 

 

 正直、わけのわからない反応であった。

 ゴーリキはそれに頷く。

 

「もしかすると……そうかもしれませぬ。いつぞやの予言にあった……」

「そうか。ようやく来たのか……。だが、鎧には近づいてはならぬぞ。これは……真の勇者に渡す大事な鎧なのだからな」

 

 なぜか知らないが、悪寒の走るやり取りであった。

(予言……て、何?)と思ったのは言うまでもない。

 まぁそれはさておき、兵士長がやたらそれに拘るところを見ると、伝説の勇者の言い伝えを頑なに信じているのだろう。

 伝説の勇者教の熱心な信者といったところである。

 あまり変な事を言うとマジギレしそうなので、この辺にしとくとしよう。

 

「真の勇者ね……まぁ私は興味ないですが、いつかこの鎧がその勇者とやらに渡せると良いですね」

「うむ。ところで……先程、お主は儀式の問題点がどうとかと言っておったが……どういうことだ?」

 

 兵士長は俺に鋭い視線を投げかけた。

 

「私も気になっております。問題とは一体……」

 

 起きてしまった事は、もう変えられないので、俺は適当に答えておいた。

 

「簡単に言えば、悪魔召喚における考え方の違いですよ。別に気にしなくてもいいです。今更、どうにもならないですし。それよりも……儀式っていつ頃行われるんですかね?」

「儀式は準備が整い次第、速やかに行われるであろう。今は供物の準備中だ。それが用意でき次第、王様に連絡する手筈になっている。それがどうかしたかな?」

 

 もう時間がないみたいだ。

 これは急いだほうがいいだろう。

 俺は一刻も早くトンズラしたいので、外に出れる場所を訊いてみることにした。

 

「我々は旅を急いでるので、ここから立ち去ろうと思います。どこかに勝手口みたいなところないですかね? 正面の扉は完全に閉ざされているんで」

 

 するとその直後、なぜか知らないが、兵士2人は目を見開き、驚きの表情を浮かべたのである。

 

「えッ!? か、勝手口? いや……それは知らないなぁ……というか、今日は儀式の日だから、外に出る扉は全て閉め切っている筈だぞ。だから、探すだけ無駄だと思うがな。なぁ……ゴーリキよ。ナハハハ、ハ」

 

 兵士長はそう言うと、目を泳がせてぎこちなく笑った。

 ハッキリ言って、不信感が半端ない挙動である。

 

「そ、そうですぞ。兵士長殿の言う通り、今日は外へ通ずる扉は、全て閉ざされている筈。城の外へ出るのはやめたほうがいいです。できれば、其方達には中にいてもらいたい。ぎ、儀式の妨げになるといかぬからな」

 

 続いてゴーリキも、そう捲し立ててきた。

 2人共、尤もらしいことを言ってるが、俺の中の面倒事警戒センサーはMAXレベルの警報音を鳴らしていた。

 俺の脳裏に、『WARNING!』という文字がデカデカと過ぎったくらいだ。

 何かがおかしいのである。

 

(なんなんだ、コイツ等……ゲームでもこんな感じだったか? いや、こんな事言わなかった筈だ。どうなってる……明らかに、俺達を城内に留めておこうという意図が見え隠れするぞ……これはヤバい感じだ。何、この展開……怖ッ!)

 

 俺がそんな事を考える中、リバストが会話に入ってきた。

 

「お話し中のところすまぬが、この鎧について教えてほしい。これはどういった鎧なのだ。私は以前、これと似た天空の鎧という武具を所持していたので、非常に気になっているのだ」

「これは伝説の武具の1つ……オルゴーの鎧と呼ばれるモノだ」

 

 と、兵士長が答えた。

 

「オルゴーの……鎧だと……」

「そう、オルゴーの鎧だ。真の勇者のみが纏えるという伝説の武具の1つである。この他に、スフィーダの盾とセバスの兜、そしてラミアスの剣と呼ばれる武具があるそうだが、私は見た事がないので、どんな武具かはわからぬ。だが、この鎧と同じく、それはそれは神々しい武具なのであろう」

 

 懐かしい名称である。

 正直、名前の由来がわからないので、どういう経緯で作られた武具なのかが気になるところだ。

 

「オルゴー……か。その名を聞くのはこれで2度目だ。その名が出てくるという事は……天空の鎧と無関係ではないのかもしれぬな……」

 

 リバストのこの様子を見る限り、天空の鎧と似てはいるが、全く同じ物ではないのだろう。

 と、まぁそんな感じで、俺達はそこで少し時間を潰した後、他の場所へと移動したのであった。

 

 

   [弐]

 

 

 グレイス城の中を割と隈なく調べたが、勝手口のようなモノはなかった。

 厳密に言うと、それらしきモノはあるのだが、完全に塞がれていたからである。

 俺は何かがおかしいと思った。

 何故なら、ゲームではここまで雁字搦めに閉じ込めるイヴェントではなかったからだ。

 このままだと最悪な事態が想定されるので、俺はとりあえず、城内の散策ついでに、少し咒術的な細工を施しておいた。

 出来れば使わずに撤収したいところである。

 

(はぁ……溜息しか出ない。つか、なんでこんなイヴェントに遭遇したんだろう。洞窟に行こうなんて言うんじゃなかったよ……ったく。おまけに、同行してる妖怪共は愉快そうにしてるしよ。イラッと来るぅ!)

 

 こんな俺とは正反対に、エドガンさんやリバストは観光モードであった。

 

「ほほう……リバスト殿が生きていたのは、我等のいた時代よりも数百年も前でしたか。このグレイス城は更に過去のようだが、それはそれで、なかなか昔ですな。しかも、魔物の軍勢が迫っていると伝えに来たその……エルの民でしたか。それも気になりますな。何者ですかな?」

「エルの民は、アネイルの遥か東、ロザリーヒルという秘境の近くに住まう者達らしい。詳しくは知らぬがな。それはともかく……ここは私が生きていた時代よりも、遥かに遠い昔のようだ。そのような時代に……このような国があり、大魔王の脅威に苦しみ……このように恐ろしい決断をした国があったのだな。魔物の脅威はいつの時代も変わらぬようだ。いつまで続くのであろうな……この不毛の争いは……」

 

 リバストはそう言って、悲しげに城内を見回したのである。

 エルの民の部分とロザリーヒルの部分が非常に気になるところだが、コイツ等は自分の置かれている状況を認識してないようだ。

 念の為に確認するとしよう。

 

「あの……2人は今、そこにいるのわかってますか?」

「無論だ」

「それはわかっているとも。このままでは、我等も巻き込まれると言いたいのだろう?」

 

 危機感はあまり感じられないが、一応、理解はしてるようだ。

 多分、ダークドレアムという悪魔の凄まじさを知らないからだろう。

 俺もゲーム経験がなければ、この妖怪達と同じ反応だったかもしれない。

 

「わかっているのならいいですけど……ただ、妙なんですよね」

「妙?」

「ここの住民達……俺達を閉じ込めようとしてると思いませんか?」

 

 そう……なぜかそんな気がしてならないのである。

 ゲームと対応が違うので、俺もドン引きしているところであった。

 それもあり、ただの体験イヴェントには到底思えないのだ。

 今、俺達が体験してるのは、もっと別の恐ろしいモノに感じているのである。

 それに加えて、俺の中にある感度良好な厄介事警戒センサーは『早く逃げろ!』と、警報を鳴らしっぱなしなのであった。

 

「ジュライ殿、それは考えすぎなのではないか。扉や窓を閉め切っているのも、儀式の妨げになると思ったからであろう」と、リバスト。

 

 リバストにはもう少し、疑うという事を覚えてほしいところだ。

 

「いや……リバスト殿、ジュライ殿の言う通りかもしれぬ。実は、私もさっきからそんな気がしているのだよ」

 

 流石にエドガンさんは、少しおかしいと思ってるようである。

 対象的な感性を持つ2人であった。

 

「エドガンさんもそう思いましたか。俺も、なにか違和感があるんですよ。このままだと、滅亡の瞬間に立ち会うことになりかねません。早く出口を探した方がいいかもしれませんね」

「確かに、それはそうだが……かといって1階と2階はどこもかしこも塞がれているぞ。窓までな。しかも、全て外から閂を入れられてるような感じだ。中には鉄格子まで入ってる所もある。一体、どうするのだ?」

 

 リバストはそう言って、閉ざされた窓に視線を向けた。

 そう、そこが問題なのである。

 扉という扉は、全て厳重に閉ざされているので、後は屋上かどこかから、縄を使って脱出を試みるくらいしか手はない状況なのだ。

 呪術を使って強引に脱出する手もあるが、ここはある種の異次元空間。現実世界の理の外なので、それによって何が起きるか予想がつかないのである。

 下手をすると、一生出られなくなる可能性も否定できないので、呪術系は最後の手段なのであった。

 

(どうすっかな……王様に直談判してお願いしてみるか……いや、あの感じだと無理か。瞑想中だったし。仕方ない……とりあえず、屋上行くしかないか……ン?)

 

 と、そこで、1人の兵士が俺達に向かい、小走りで近づいてきたのである。

 

「おお、ここでしたか。探しましたぞ」

「探した? 我々をですか?」と、俺。

「ええ、そうです。先程、兵士長殿から言伝を頼まれたのですよ。貴方がたに儀式の供物を持って行って頂くようにと」

 

 俺の知らないところで、最悪な仕事を割り振られていた。

 これは断るしかない。

 

「すいません。僕達、急いでるんで、他あたって下さい」

 

 すると兵士は、通せんぼするかのように両手を広げ、俺達の前に立ち塞がったのであった。

 

「ちょ、ちょっとお待ち下さい! これは兵士長殿から直々のご命令なのです。どうか何卒、宜しくお願い致します。そんなに重い物でもないので」

「いや、重いとか軽いとかじゃなくってね……」

 

 と、その時である。

 

「供物を運べばよいのだな。わかったぞ」

 

 リバストが軽く返事をしたのだった。

 

「うおぉい! リバストさん! なに簡単に返事してンすか!」

「よいではないか、供物を運ぶくらい。城を出るのは、それからでも遅くはあるまい」

 

 どうやら、供物を運んで終わりと思ってるようだ。

 供物配達は滅亡チケットだと知らないからだろう。

 ゲームだと、供物を運んだら兵士がすぐに王様を呼びに行き、儀式が始まるからである。

 

(はぁ……前もって教えておくべきだったか。でも難しいよな……そのまま言ったら、『そんな事ないだろう』で流されそうだし……知識があっても説明が難しいわ。もうこうなったら、兵士が王様を呼びに行った隙に、玄関に猛ダッシュするしかない……)

 

 などと俺が考える中、兵士は安堵の息を吐いた。

 

「おお、そう言って頂けると有り難い。供物は1階の厨房にありますので、お頼み申したぞ。では!」

 

 そして兵士は逃げるかのように、颯爽とこの場から立ち去ったのであった。

 

 

   [参]

 

 

 仲間の安易な返事により、俺達は供物の配達係をすることになった。

 全くもって最悪な展開が継続中である。

 ゲームではこれを配達したら最後、もう滅亡フラグ完成なので、俺はさっきからナーバスになっていた。

 

(リバストさんよぉ……どうなっても知らねぇぞ。悪魔召喚に立ち会いたくないから逃げ道探してたのに……はぁ……溜息しか出てこない)

 

 そんな風に嘆いていると、俺達はいつしか1階の厨房へと到着していた。

 ちなみにだが、厨房は供物の件があるので、俺は城内散策の際、行かないように妖怪達を誘導していたのである。が、ここに来て、その苦労が水の泡となったようだ。

 まぁそれはさておき、大きな竈が幾つも並ぶグレイス城の厨房にやってきた俺達は、そこにいる小太りなおばちゃんに要件を伝えた。

 

「儀式のお供えが出来たと聞いたので、取りに来たんですけど……」

「おや、儀式のお供物を持って行ってくれるの? あたしゃ、手が離せなくてね。じゃ、ヘビのスープとカエルの干物、頼んだよ」

 

 おばちゃんはそう言って、黒いトレイに供物を乗せ、俺に差し出した。

 見た目もグロい。蛇のスープはモロで、蜷局を巻くかのように茶色いスープの中に蛇が盛り付けられていた。蛙の干物はそのまんまである。

 おまけに、供物から鼻を突くような異臭が漂っているのだ。

 あまりの臭いに、俺は思わず、袖で鼻を覆った。

 

「クッサッ!? なにこれ! なにこれ! やべぇ臭いすんだけど! これ持ってくんかよ……」

 

 特に蛇のスープから漂う悪臭がヤバかった。

 生ゴミが腐ったような臭いだったからである。

 臭いが服に染み込みそうで、困惑する俺であった。

 凄い罰ゲーム感満載である。

 

「そんな事を私に言われてもね……とにかく、頼んだよ」

「じゃあ、持ってきますね……臭っ」――

 

 悪臭漂う供物を持ち、グレイス城の階段を上る俺。

 心なしか、すれ違う城内の兵士達は、微妙に俺達から距離を置いている風であった。

 顔を顰めているので、悪臭が鼻につくのだろう。

 最悪な役回りである。

 

(なんでこんな臭い供物が必要なんだよ……ったく。大体、あの悪魔にコレを供える意味あんのか。いらんやろ、コレ……)

 

 そんな事を考えながら2階の左手にある階段を上って3階に行き、そこから更に4階へと向かった。

 4階に上がると、階段の先は細長い通路が伸びており、その入り口付近には警備に当たる兵士が2人屯していた。

 すると、兵士2人は俺達を見るなり、手に持った槍を互いに交差させ、道を塞いだのであった。

 

【ここより先は儀式の間である。関係のない方はお引き取り願おう!】

 

 兵士達はそう言って仁王立ちをしていた。

 ラッキーと思ったのは言うまでもない。

 

「あ、そうだったんですね。わかりました。では関係のない者達なので、これで失礼いたします。供物はここに置いておきますね」

 

 俺はそこでトレイを床に置き、クルリと踵を返した。

 と、その直後、今上ってきた前方の階段から、2人の兵士が姿を現したのである。

 それは、兵士長とゴーリキであった。

 兵士長は両手を大きく広げ、声高に言った。

 

【待ち給え! お主達には儀式を最後まで見届けて貰うつもりだ!】

 

 続いてゴーリキも両手を広げ、階段を塞いだ。

 

【兵士長殿の言う通りです。其方達には儀式の最後まで立ち会って貰いたい。どうか……どうかお願い致します……今はこれしか言えぬのです】

 

 この想定外の行動に俺は困惑した。

 明らかにゲームと違う展開だからである。

 

「兵士長にゴーリキさんでしたか……退いてもらえませんかね。俺達はここにいてはいけないのです。なぜなら……」

 

 と、言いかけた、その時であった。

 

【それは知っている! だが……わ、我等はもう……予言にすがるしか……】

 

 兵士長は涙を流しながら、振り絞るように言葉を紡いだのである。

 ゴーリキも涙を流していた。

 後ろを振り返ると、警備の兵士達も涙を流している。

 とはいえ、その表情は悲しくもなく、苦しそうでもない。至って普通の表情だ。が、しかし……彼等の魂は苦悶の霊的シグナルを送っていたのである。

 それは異様な光景であった。

 

「なぜ泣く?」

「これは一体……」

 

 リバストとエドガンも困惑気味であった。

 勿論、俺もだ。

 

(な、なんだ、コイツ等……なんで泣いてる……って、まさか……これは!?)

 

 俺はなんとなくわかってしまった。

 彼等には、これが精一杯の意思表示なのだろう。

 他の事ができないのだ。

 これは無限地獄だからである。

 つまり、この人達の願いは……。

 俺は彼等に告げた。

 

「あ〜あ……ったく、面倒な事に関わってしまったもんだ。この感じだと、それをしないと帰れないというオチですか。その予言者にしてやられましたよ。上手くハメられたモノだ。でも、上手くいくかどうか……わかりませんよ。それでも良いんですか?」

 

 全員が無言で頷いた。

 

「仕方ない……やるしかないか。ところで、予言した奴ですが……いや、やめときましょう。どうせ、今は答えられないだろうし。さて……」

 

 俺はそう言って、床に置いたトレイを持ち上げた。

 全く持って残念な展開である。

 どうやら俺達は、この世界に来た時点で、引き返せない道に来てしまっていたようだ。

 

(まさか……ダークドレアムと対峙しなきゃならんとはな。生半可な方法では、奴は倒せないだろう。但し……デスタムーアがこの悲劇を仕組んだとしたら、そこに付け入る隙がある筈。やるしかないか)

 

 俺は彼等に言った。

 

「じゃあ、悪魔を拝ませてもらうとしますかね。案内してください」

「コチラです」

 

 兵士の1人が俺達を案内する。

 そして俺達は儀式の間へと足を踏み入れたのであった。

 

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