[壱]
亡霊達が昇天した後、俺は高度な呪術を沢山使った疲労もあり、その場に腰を下ろした。
あんな化け物の相手をしていたので、肉体的にも精神的にも疲れたからだ。
そして俺は、予言者の正体について暫し考える事にしたのである。
(ふぅ……面倒な事に巻き込まれたもんだ。それはともかく、グレイス王はさっき、予言をした者はルビスと言っていたな。ルビスねぇ……ドラクエでルビスって言ったら、精霊ルビスしか知らんぞ。でも、天空シリーズに精霊ルビスっていたか? ルビスってロトシリーズな気が……あ! そういや、ドラクエⅥにいたわ……ムドーがいた島近くの海底に……って事は、天空シリーズにいてもおかしくはないのか。でも、一体どこで俺達の事を……ン?)
ふとそんな事を考えていると、リバストとエドガンさんがこちらに来た。
「流石のジュライ殿もお疲れかな?」と、エドガンさん。
「ええ、まぁそんなところです。高度な呪術を駆使して悪魔祓いをしたのでね。流石に骨が折れましたよ」
「そうであろうな。あのような悪魔と戦ったのだ。しばし休んだ方がよいだろう」
と、リバストも労いの言葉をかけてきた。
リバストは続ける。
「ところで、あのゴーリキとかいう男……去り際、生前にその絨毯をこの近くの湖に沈めたと言っていたが……あの者は悪魔の手から逃れる事ができたという事なのか?」
「だと思いますよ。古文書の記述と彼の証言が一致してますからね。恐らく、そうなんでしょう」
「ならなぜ……」
リバストの言いたい事はわかるところだ。
生き延びたにもかかわらず、なぜあの無限地獄の中にいたのかが引っ掛かっているのだろう。
まぁ当然の疑問である。
つーわけで、俺の見解を話すことにした。
「多分だが……例え生き延びたとしても、あの時、あの場所にいた者達の魂は、悪魔から逃れる事は出来ないのだろうね。悪魔が紐づけた因果の鎖は、それだけ強力なんだと思うよ。因果律の呪いとでもいった方がいいくらいに……」
恐らく、この因果律の呪いは、魔法陣を描いた事実から始まっているに違いない。
俺が魔法陣の起点を破壊して解けたのが何よりの証拠だ。
恐ろしい魂の呪縛である。
発動したら最後、悪魔を退けるか、もしくは調伏出来なければ、この呪縛からは逃れられないのだ。
あの魔法陣はもしかすると、ダークドレアムの栄養補給用のトラップなのかもしれない。
事実、奴はあの魔法陣を知っているような口振りだった。
そして、それをデスタムーアが利用した可能性が高いのだ。
かなり狡猾な手段である。
「そうなのかもしれぬな。つくづく……あの城の者達は、恐ろしい事をしたモノだ」
「リバスト殿の言うとおり……恐ろしい選択をしたものだよ。しかし……あのように恐ろしい悪魔がいたとはな。アレは触れてはならぬ存在だ。ゴーリキという男は伝えてほしいと言っていたが、私はこの事を伝えてよいのかどうか、悩むところだよ。知れば……愚かな事を考える者もいようからな。バルザックのように……」
「人はすぐに道を誤る生き物だ。エドガン殿の危惧も当然だな」
2人は溜息を吐き、肩を落とした。
過去の事とはいえ、かなり考えさせる事案だったようだ。
「まぁ2人の言いたい事はわかりますよ。問題は伝え方でしょうね。事実をありのまま伝えるのではなく、それこそ、御伽噺のように伝えるしかないんじゃないですか。教訓としてね」
「それしかないだろうな。しかし……それはそうと、凄いモノを見せてもらったよ。ジュライ殿は只者ではないと改めてよくわかった。私は娘達を心配していたが、ミネアとマーニャは男を見る目は確かなようだ。ところでどうだね、最近、ウチの娘達とは?」
エドガンさんは先程までの深刻な表情と打って変わり、ニコニコとしていた。
意外と親バカなようだ。
「またその話ですか。好きだな、本当に……。というか、エドガンさんも知っての通り、最近は別行動なんでどうもこうもないでしょ」
「確かにそうだが……君が娘達と一線を超えてしまっても私は怒ったりしないから、そこは安心してくれ給え。ハッハッハッ」
「じゃあ、親公認て事で、俺も姉妹と……って、突然何言わすんですか!」
「そうなっても構わないという事だよ。但し……ちゃんと責任は取ってもらうがね」
サラッと本音をぶっ込んでくるエドガンさんであった。
ようは俺と娘をくっつけたいのである。
なんというか、あからさまな親父であった。
「ったく、娘さん達の意志も確認せずに……」
「確認せずともお見通しよ。私を誰だと思っておる」
俺達がそんな下らない会話をしていると、リバストが呆れ気味に話に入ってきた。
「またその話をしているのか。エドガン殿もなかなかに過保護な親のようだな。それはともかく、これからどうするのだ? まだ洞窟の中を調べるのかな?」
今日は疲れたので、正直なところ、もう帰りたい気分であった。
というわけで、俺は2人に言った。
「今日のところは帰りましょうか。色々とあって疲れましたしね。それに……外に出てちょっと試したいことがあるんですよ」
俺はそう言って、丸めた青い絨毯に視線を向けたのである。
「ほう、なるほど。先程、ゴーリキという戦士が言っていたことを試すのだね?」と、エドガンさん。
俺は頷いた。
「ええ。もしかすると、物凄いお宝かもしれないのでね」――
その後、洞窟から出たところで、俺は早速、地面に絨毯を広げた。
約3メートル角の絨毯なので、それほど大きくはないが、空飛ぶ移動手段としてはまぁまぁの大きさである。
また、色は青だが、紺に近い青なので妙に高級感があった。
中央の六芒星が描かれた魔法陣風の紋章がカッコいい。多分、これがカルベローナの紋章なのだろう。
まぁそれはさておき、魔力注入作業を試してみる事にした。
広げた絨毯に足を踏み入れた俺は、カルベローナの紋章と思われる刺繍に手を当て、練り上げた霊力を指先から少し送り込んでみた。
するとその直後、紋章は白く発光し、光り輝いたのであった。が、すぐに輝きは消えてしまった。
これを見る限り、霊力……もとい、魔力を送り込み続けないといけないのだろう。
というわけで、俺は霊力の注入作業を続けてみた。
すると続けるに従い、紋章の色が変化していったのである。
最初は白い輝きだったのが、青や黄色に変化していったのだ。
そして、金色に光り輝いたところで、更に変化が起きたのである。
なんと、絨毯が静かに波打ち、俺を乗せたままフワリと浮き上がったからだ。
アンビリーバボーな瞬間である。
「おお、絨毯が浮き上がったぞ!」
「これは凄い……魔法の絨毯とは、こういう事だったのか」
リバストとエドガンさんはかなり驚いていた。
もしかすると、魔法の絨毯についての伝承自体が無いのかもしれない。
たぶん、失伝アイテムなのだろう。
というか、ゲームには出てこないアイテムなので、当然といえば当然である。
「俺が知ってる魔法の絨毯とは、まさにコレですよ。空飛ぶ絨毯てやつです」
「しかし……浮いたは良いがどうするのだ? 操れるのか?」と、リバスト。
「それはアレですよ。コントローラーの十字キーを動か……」
俺は言葉に詰まってしまった。
盲点だったからである。
リバストの言う通りであった。
ゲームじゃないので、操り方がわからないのだ。
(そういや、これはゲームじゃないんだった。てことは、どうやって操るんだこれ? ……ン?)
などと考えながら固まっていると、エドガンさんがピョンと絨毯に飛び移ったのである。
絨毯はビクともせず、浮遊していた。
エドガンさんは水の塊なので意外と重いのだが、これを見た感じだと全然大丈夫そうだ。
あと数人は余裕で乗れそうである。
エドガンさんは絨毯の上でピョンピョンと跳ね、俺に視線を向けた。
「ふむ……なかなかの乗り心地じゃないか。地に落ちる事もない」
続いてリバストも搭乗してきた。
「空飛ぶ絨毯か……古の時代には、このような絨毯があったのだな。で、どうやって動かすのだ?」
「そこなんだよね。ゴーリキは、それについては何も言ってくれなかったからさ」
俺はそこで絨毯をマジマジとみた。
(それにしても、この絨毯……真ん中の紋章以外、何も模様が無いんだよな。となると……コントロールするのもココなのか? とりあえず、念じてみるか……)
というわけで、俺は紋章に手を触れ、前に進めと念じてみた。
すると次の瞬間、絨毯は突如と前進を始めたのである。
「おわッ……う、動いた。なるほど、この紋章に触れて念じながら操作するのか」
「ほう、なるほど。そういう風に動かすのか……これは確かに便利な道具だ。神秘の絨毯というのも頷ける」
「こ、この絨毯……こんなに速く動くのか……」
リバストの言う通り、結構なスピードであった。
速度的に言うなら、時速50から60kmくらいだろうか。
この世界の乗り物としては、かなりの速さだったのである。
おまけに、ある程度の高さまでは高度も調節できるのだ。
素晴らしい乗り物をゲットしたぜ。ラッキー。
そして、テンションが上がってきた俺は、大海原が見える西の方向を指差し、某世紀末漫画のモヒカンの如く吠えたのである。
【とりあえず、試運転といきますか! ヒャッハー!】――
[弐]
魔法の絨毯はかなり快適であった。
海だろうが、陸だろうが、お構いなしに進み続けるからである。
ただ、1つ難点を上げるなら、高度が10メートルくらいしか上がらない上に緩やかな上昇なので、急な地形変化がある山とか森は厳しいところであった。
まぁこの辺はゲーム通りなので、やはりといった感じだ。
とはいえ、それを差し引いても素晴らしい乗り物であった。
平地や海はどんと来いである。
(良いねぇ、魔法の絨毯……とはいえ、今は海上のせいか、ちょい蒸し暑いのがな。おまけに快晴だから、直射日光もキツイ。屋根があると良いんだけど、無い物は仕方ないか。さて……今はどの辺りなんだろうな。地図がないからさっぱりわからんわ。つか、ずっと海のせいか、今どの方角なのかすらわからんぞ。迷ったら、キメラの翼を使うしかないか……ン?)
などと考えていると、前方に緑溢れる陸地が見えてきたのである。
ついでに、見覚えがある大きな灯台も見えてきたのだ。
と、そこで、リバストの声が聞こえてきた。
「むぅ……あの山々の形は見覚えがある。あの山の向こうは、恐らくアネイルだ」
リバストはそう言って、前方に小さく見える緑豊かな山脈を指差した。
俺達はどうやら、コナンベリーの近くに来ているようだ。
ここから見えるあの灯台は、魔物退治した大灯台なのだろう。
「ほう……という事は、この辺りがリバスト殿の地元なのかな?」
「ああ。私が死んでから数百年経つが、景色は変わらぬモノだな。恐らくここは、コナン海峡だろう。南の大陸との間にある海だ」
リバストが懐かしむ中、俺はそこである事を思い出した。
(そういや……ロザリーヒルって、ゲームだと、あの大灯台のすぐ近くだったよな。この際だし、行ってみるか)
というわけで、俺は灯台の東側に見える海岸線を指さし、彼等に言ったのである。
「灯台の東にある岬に行きましょうか。大きな川があるみたいですし」
2人は頷いた。
「この絨毯の行き先はジュライ殿次第だ。好きにすれば良い」
「うむ、私もリバスト殿と同じだ。ジュライ殿が行きたい所へ向かえば良いぞ」
「じゃあ、行きますか」――
大灯台の東の岬を横切り、その先にある大河を俺達は北上してゆく。
ちなみにそこは、湖かと思うほどの大河で、対岸がかなり小さく見える。
そのせいか、海上にいるかのような錯覚を起こしたくらいだ。
そして、そんな大きな河川を更に北上してゆく中で、俺達は、大河の畔に佇む小さな森の集落を発見したのであった。
その集落には、塔のような石造りの建造物があり、その周囲には小さな木造家屋が幾つか点在していた。
それはかなり小規模な集落で、襲撃にあった山奥の村と同レベルといったところだ。
というわけで、どうするかである。
空を見上げると日は少し落ち始め、夕暮れ時となっていた。
ちょうどいい頃合いである。
(日も落ちてきたな……この際だし、あの集落に行ってみるとするか。もしかすると、ロザリーヒルかもしれないし……)
つーわけで、俺は2人に言った。
「今日はあの村で休むとしますか。そこそこ建物があるんで、宿はあるかもしれませんよ」
「其方の好きにするがよい」
「私も若い頃は大陸の方に旅した事があるが、初めて行くところだな。これは楽しみだ」
「じゃあ決まりですね」――
[参]
大河の畔にある小さな森の集落付近に来たところで、俺達は絨毯を降りた。
そして絨毯を仕舞い、俺達は集落へと歩を進めたのである。
程なくして、集落に足を踏み入れた俺達は、そこで周囲を見回した。
するとそこで、意外な発見があったのだ。
大きな建造物は集落の奥にある石造りの塔だけで、他は小さいログハウス調の家屋ばかりなのだが……問題は、それらの家屋の大きさであった。
なぜなら、俺がこの世界に来てから見たログハウス調の家屋と比べると、明らかに小さいモノばかりだったからである。
建物の高さが2階建てのモノでも、5m程度なのだ。
おまけに玄関も小さい。
背の低い子供が出入りできる程度の小さい玄関扉なのである。
つーわけで、かなり違和感のある集落であった。
(なんか……子供の秘密基地みたいな建物ばかりだな。この集落……もしかして、小人の村か……ン?)
と、その時であった。
なんと前方の木陰から、武装した小さいオッサン2人がひょっこりと姿を現したのであった。
背丈は1mほどで、頭には先端が尖った小人帽を被っており、緑色の衣服を着ている。
その上から金属製の鎧を纏い、槍や鎖鎌のような武器を手にしていた。
2人共、口元や顎に沢山の髭を蓄えているのもあり、ややむさ苦しい雰囲気を持った小人のオッサン戦士達であった。
(お、おう……見るからに、白雪姫に出てきそうな小人やんけ。僕達は〜、小人〜、お仕事大好き〜ってな感じで歌ってそうだな)
などと俺が考える中、小さなオッサン戦士達は訝しげにコチラを見ていた。
そして、その内の1人が俺達を指差したのである。
「あんれ? 人間が来たのかと思ったら、スライムもいるじゃねぇか?」
「あ!? 本当だ! でも、コイツ等、どうやってここに来たんだ? さっき木の上から監視してた時、川の方を見たけど船はなかったのにな。このロザリーヒルは船でもないと来れねぇ所なのに……」
どうやらここは、ロザリーヒルで間違いないようだ。
おまけにこの口振りからすると、コイツ等は村の守衛なのかもしれない。
ビバリーヒルズコップならぬ、ロザリーヒルズコップってところだろう。
「本当だな。どうやって来たんだ?」
「もしかすると、船が難破してこの川岸に流されてきたんじゃねぇのか?」
「かもしれねぇな。この辺りの川は入り組んでるし、流れも急だしな」
「んだ、んだ。でもよ、コイツ等どうするよ? ピサロ様は今、村にいねぇしよ」
「ピサロ様は今晩来るって言ってたから、そこで報告すればいいべ」
なんか知らんが、勝手に話を進められていたので、とりあえず、紳士的に彼等に話しかける事にした。
「オホン、そこの方々。つかぬ事を訊きますが、ここは一体どこなのでしょうか? ちょっと迷ってしまいまして……」
「なんだオメェ達、迷子になってんのか?」
「ええ、そうなんです。もう日も暮れますし、出来ればこの村で泊まらせていただけると嬉しいんですが……」
すると、小さいオッサン達は眉間に皺を寄せ、嫌そうに顔を見合わせたのである。
「えぇ〜……オメェ達、このロザリーヒルに入りたいのか? でもなぁ……ピサロ様から誰も入れるなって言われてるしよ。特に人間はよ~……まぁそっちのスライムなら良いけどよぉ」
「そうだがや。だから、人間は誰も入れるわけにゃいかねぇな。オラ達は人間はあんまり好きじゃねぇんだ」
「そう言わずに、なんとかなりませんかね。私達の仲間であるスライムも悪いスライムじゃないんで」
俺はそう言って、エドガンさんに目配せした。
エドガンさんは意図を察したのか、そこで前に出た。
「そうだよ~、僕は悪いスライムじゃないよ~。彼等はとても良い人達だからさぁ~、一緒に入れてくれると助かるなぁ~」
すると小人オッサンズは目を大きくしたのであった。
「おお! なんだオメェ、喋れんのか!」
「こりゃ、驚いた。時々、塔の近くで見かけるスライムみてぇだな」
どうやらこの村にも、話せるスライムがいるようだ。
ゲームでは、ロザリーの部屋に居候のスライムがいたので、そいつの事かもしれない。
「良いスライムみたいだけんども……どうする?」
「まぁでも、悪さしそうな感じじゃねぇし……あの場所に近づかなければ良いんじゃねぇか。あんま暴れるようなら、ヘルバトラーの旦那を呼べば良いべ。なんだったら、村で商売してるあの人間の爺さんに預けちまえ。あの爺さん、宿屋もやってるしよ。それに村のことをよく知ってるから、コイツ等に忠告もしてくれるだろうしな」
「おお! そういや、あの商売上手な人間の爺さんがいたな。そうしよう、そうしよう」
どうやら、話が纏まったようだ。
「おう、オメェ達、ロザリーヒルに入れてやるよ。その代わり、今から行く爺さんの言う事をよく聞くんだぞ。それが条件だべ」
俺は笑顔で快く承諾した。
「助かりました。それで構いませんよ。よろしくお願いします」
「おう。それじゃ、オラ達について来るべ」――
とまぁこんな感じで、俺達はようやく秘境ロザリーヒルへと足を踏み入れたのであった。