DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv43 エルの民

 

 

   [壱]

 

 

 小人オッサンズの後に続き、俺達はロザリーヒルの中を進んでゆく。

 ロザリーヒルは森の中にあるせいか、外界と切り離されたかのように、静かで長閑な村であった。

 ただ、日当たりが悪いので少し薄暗い。今は夕暮れ時なので尚更だ。

 また、村内を進む途中で何人かの小人や喋る動物を見かけたが、全員が俺達に向かい、奇異の視線を送っていた。

 ある者は物珍しそうに、またある者は畏怖の目で俺達を見ている。

 この様子を見る限り、恐らく、人間がこの村に来ることは、そんなにないのだろう。

 

(ゲームでもそうだったが……人間はあまり歓迎はされてないんだろうな。にしても、この村……武装した小人が意外といるな。これはもしかすると、デスピサロの指示かもしれん。山奥の村でかなり過激な交渉したからなぁ。でもそうなると……ロザリーはココにいるという事か? デスピサロの事だから、どっか別の場所に匿ったんじゃないかと考えてたけど……ン?)

 

 そんな事を考えながら歩いていると、前方を歩く小人達が、とあるログハウス調の建物の前で立ち止まった。

 奥行きのある長方形の建物だが、少し変わった佇まいをしていた。

 なぜなら、建物の半分はログハウス調で、もう半分は東屋のように、柱と屋根だけのオープンな感じとなっていたからだ。

 そして、その東屋の四方は全て木製のカウンターで囲われており、その内側の中心で、緑色のローブを纏った禿げ頭の老人が、静かに椅子に腰掛けているのである。

 老人の周囲には沢山の武具や道具が所狭しと並んでいた。

 見た感じだと、結構良い品物が揃ってるようだ。

 因みに、老人は人間で、今は周囲をぼんやりと眺めているところである。

 小人オッサンズはカウンターの向こうにいる老人に話しかけた。

 

「お~い、ラモン爺さん。ちょっと話があんだけんどもよ」

 

 爺さんは俺達をチラッと見た後、人の良さそうな笑顔を浮かべ、カウンターに移動した。

 

「ホイホイホイ、こっちは防具屋じゃが、何か欲しいモノでもあるのかの。お主達は地元割りで安くしとくぞい。そっちは駄目じゃがのぅ」

 

 爺さんはそう言うと、探るような目で俺達を見たのであった。

 なんとなくだが、微妙に警戒されてるようだ。

 

「いや、違うべ。コイツ等、迷ってこの村に来てしまったらしいんだけんどもよ、爺さんの所で泊めてやってくんねぇかな。ついでに、この村の事も教えてやってくんろ。うろちょろされても困るんだな」

 

 すると爺さんは、射抜くような鋭い視線を俺に向けたのである。

 

「ほう……迷ってこの村にのぅ。しかも、魔物を2匹も連れた旅人が、か……」

 

 小人達は首を傾げた。

 

「ん? なに言ってんだラモン爺さん。魔物はスライムだけじゃねぇか」

「んだ、んだ。もしかしてボケちまったか?」

 

 爺さんは微笑むと、惚けたように頭をポリポリかいた。

 

「ホホホ、まだボケてはおらんよ。どうやら、儂の勘違いじゃったか。そっちの身かわしの服を着た者から、さまよう魂のような気配を感じたのでな。気のせいじゃったようじゃ。良かろう。儂がこの者達の相手をしてやろう」

「すまねぇな、ラモン爺さん。じゃあ、頼むわ」

「おう、気にせんでよい。持ちつ持たれつじゃ」

 

 そして小人オッサンズは、この場から去っていったのである。

 小人達がいなくなったところで、爺さんは俺達に視線を向けた。

 勿論、探るような目つきで。

 

(この爺さん……ただのジジイじゃねぇな。気配だけで、リバストが人間じゃないと気づきやがった。ゲームじゃ、ドラクエ総合商社みたいな事してたオモシロ爺さんだったが……この世界ではそれだけに留まらないかもな。なんとなく、裏の顔がありそうな気がする……)

 

 俺がそんな事を考える中、爺さんは人の良さそうな笑みを浮かべ、話しかけてきた。

 

「ようこそ、迷い込んだ旅の方々……ここは防具屋じゃが、何か見てくかね? 一応、初めてじゃろうから言っておくが、コッチは道具屋でアッチは武器屋じゃ。で、後ろ側は儂の住居兼教会となっておる。後は……」

 

 爺さんはそこで言葉を切り、後方の少し離れた所に見える大きめのログハウスを指差したのである。

 

「あそこに見える建物があるじゃろ。あれも儂がやっとる宿屋じゃ。店番はここの住民に任せておるがの。まぁ儂が営んでおるのはこんなところじゃが……で、どうするかの?」

 

 どうやらゲーム同様、全方向型の受付スタイルのようだ。

 受付は一カ所で良くね? とは思ったが、この爺さんは裏の顔がありそうだから、敢えてそうしてるのかもしれない。

 なぜなら、監視や調査が目的ならば、この方が都合が良いからである。

 この世界は因果関係がしっかりしてるので、ゲームのように軽く考えてはいけないのだ。ちゃんと理由があるからである。

 

(さてと、どうすっかな。にしても、何モンだ……この爺さん。まぁいい、とりあえず、様子見するか。敵意は見せないようにしよう)

 

 俺はフレンドリーに返事した。

 

「そうですね。とりあえず、宿を取りたいんですが、それは後にしましょうか。先程の小柄な方々は、この村の事を教えてやってくれと言ってましたが……何かあるんですかね?」

 

 すると爺さんは溜息を吐き、親指で後ろを差したのである。

 

「お主達……何者か知らんが……少し話がある。後ろの教会側に周れ」――

 

 というわけで、俺達は爺さんの指示に従い、大人しく移動したのであった。

 

 

   [弐]

 

 

 自称教会の中にお邪魔した俺達は、室内に幾つかある木製の椅子に腰掛けるよう、爺さんに促された。

 因みにだが、教会というので聖堂ぽい雰囲気をイメージしたが、何のことはない、学校の教室を思わせる素朴な感じであった。

 壁は木板が剥き出しで、奥には御神体かどうかわからないが、そこそこ大きな金色の竜の彫像が置かれていた。

 もしかすると、この竜はマスタードラゴンなのかもしれない。

 居合道の試し斬りで用いられる巻き藁の如く、摩利支天浄魔光剣でこの像をぶった斬ってみたい衝動に駆られたが、今はやめておこう。

 またその隣には、爺さんが顔をのぞかせる木製のカウンターがあり、今は俺達をジッと見据えているところであった。

 まぁそれはさておき、爺さんは俺達が腰掛けたところで、溜め息を吐いた。

 

「お主達……一体何者じゃ? よりにもよって、こんな時にこの村に来るとはな。悪い事は言わん。早く去るがいい……奴が帰ってくる前にな」

「奴? 誰ですか?」

 

 爺さんは周囲をチラ見すると小声で答えた。

 

「決まってるじゃろ……魔族の王・デスピサロじゃよ。奴は最近、頻繁にこの村に帰ってくるんでな。このあいだも、人間がこの村に来たんじゃが、奴が大事にしてるモノに近づこうとしたばかりに、首を切り落とされたんじゃからの」

「へぇ……そうなんですか。頻繁にねぇ」

 

 これは意外であった。

 もしかすると、ロザリーとデスピサロの間で何かがあったのかもしれない。

 

「だから悪い事は言わん。早く去るのだな。まだ外で寝た方が安全じゃと思うがの」

「それは大変な事になってますねぇ。じゃあ仕方ないな。気になるから、俺は泊まる事にしよう」

 

 デスピサロがロザリーに対して、どんな対応をしたのかが気になったからである。

 まぁ早い話が、野次馬的な好奇心であった。

 すると爺さんは目を大きくしていた。

 

「おいおいおい……何言っとるんじゃ。去るのではなく、泊まるのか?」

「ええ、そうですよ。駄目ですか?」

「いや……駄目というわけではないが……」

 

 どことなく歯切れの悪い言い方であった。

 何か都合の悪いことがあるのかもしれない。が、無視して話を進めた。

 

「なら、大丈夫ですね。リバストさんとエドガンさんはどうします?」

 

 2人は顔を見合わせる。

 

「私は構わぬぞ」

「私もリバスト殿と同じだ。泊まらせてもらおうかな」

 

 決まりである。

 

「じゃあ、お爺さん。3名宿泊でよろしくお願いします」

「お主達……いや、そっちの魔物達はともかく、お主は恐ろしくないのか? あの悪名高い魔族の王が来るのじゃぞ。しかも今、この村には、奴が連れてきた凶悪な魔物もいる……本当に泊まるつもりなのか?」

 

 俺はどこぞの執事の如く、丁寧に返事しておいた。

 

「イグザグトリー。泊まらせて頂けませんでしょうか。気になって夜も眠れないかもしれませんので」

 

 爺さんは『駄目だこりゃ』とばかりに、両手を上げて頭を振り、大きく溜め息を吐いた。

 

「ならば、好きにすればいい……但し、儂はどうなっても知らぬかの」

「すいませんね。でも、忠告は有り難く受け取っておきますよ」

「ところで……お主等は何者じゃ? お主は人間じゃが……そっちは魔物じゃろう? 魔物と旅してる者などあまり見た事ないのでな」

 

 と、そこで、リバストが非難の声を上げた。

 

「私は魔物などではない! 今はこのような姿だが、嘗ては人間だった者だ!」

「何……どういう意味じゃ?」

 

 爺さんは首を傾げる。

 するとなんと、リバストはそこでフードを勢いよく捲り上げたのであった。

 

(え? ちょっ……ここで!?)

 

 ぼんやりと薄く浮かび上がるリバストの顔が現れる。

 そして爺さんは目を見開いたのである。

 

「なッ!? お、お主……亡霊なのか。どういう事じゃ、一体……」

 

 予想外にも、ここでリバストが正体を曝してしまった。

 魔物と思われて憤慨したのだろうが、ちょっと頭が痛い展開である。

 面倒だが、少し事情を話さないといけないようだ。

 というわけで、説明することにした。

 

「仕方ない。実はですね……」――

 

 俺は爺さんに、ここまでの経緯を自己紹介も交え、簡単に話しておいた。

 そして、俺もついでに、この村の現状を少し聞き取りしたのである。

 で、わかった事だが、このロザリーヒルは心優しい魔物や喋る動物もいるが、元々はコビットという種族が住まう村のようだ。

 ゲームでは指輪物語に出てくる種族名だった気がするが、爺さんは頑なに【発音が違うと言うとろうが、ホじゃない! コだ! コビット族だ!】と連呼していたので、もうそういう事にしておこう。

 幾らなんでも、現実世界のトールキン財団による著作権訴訟問題とは関係無い筈だ……と思いたいところである。

 まぁそれはさておき、現在のロザリーヒルの状況は、かなり緊迫したモノとなっているらしい。

 特に、デスピサロが建造した村の奥にある塔は、物々しい事態になっているみたいである。

 爺さん曰く、デスピサロは最近、目の色を変えて塔の護りを固めているとの事であった。

 なんでも、強力な魔物が常駐で警備についているそうである。

 そして、先住民であるコビット族達も、本当のところは、今の状況を憂いているとの事であった。

 ロザリーヒル出身のデスピサロなので、村人達も無碍にできぬ上、動物達に知恵を授ける秘術を施した事もあり、最初はこの相談を聞き入れたそうだ。

 だが、流石にこの物々しさは少々度が過ぎてるので、村人達も思い悩んでいるそうである。

 以上がこのロザリーヒルの現状のようであった。

 なかなか大変な事になっているみたいだ。

 とはいえ、原因は俺に違いないので、この件については爺さんに話さないでおいた。

 知らぬが仏である。

 因みにだが、この爺さんの名はラモンというらしい。この村に来たのは数年前との事だ。

 まぁそれはともかく、ゲームと違う状況になってるのは、間違いないようである。

 

(しかし……そこまでの警戒態勢を敷いてるって事は、ロザリーはまだ塔にいるのかもな。デスピサロがそこまでして、ロザリーをこの村で匿う理由がわからない。なんで場所を変えないんだろ……ん?)

 

 俺がそんな事を考えていると、ラモンさんがリバストをジッと見ていたのである。

 明らかに、何かを思案してる顔であった。

 訊いてみるとしよう。

 

「リバストさんがどうかしましたか? 彼がこうなった経緯は話ましたが、何か気になる事でも?」

「ん? あ、いや、なんでもない……コッチの話じゃ」

 

 ラモンさんはそう言って目を逸らした。

 何かありそうである。

 

「気になる言い方ですね、ラモンさん。差し支えなければ教えてもらえませんか?」

「お主は遠慮せずにズケズケとモノを訊いてくる奴じゃのぅ……しかも、このような状況にもかかわらず、物怖じせずに堂々としておる。おまけに、妙に鋭いしの。何者じゃ、一体?」

「そういう性分なんですよ。因みに、俺の属性はただの旅人です。まぁそれはともかく、聞かせてくれませんか?」

 

 すると、リバストとエドガンさんも俺に続いた。

 

「私もだ。何かあるならば言ってくれぬか」

「なにやら事情がありそうですな。私も聞かせてもらいたい」

 

 ラモンさんは諦めたように肩の力を抜いた。

 

「仕方ないのぅ……まぁよいわ。話を戻すが……実は先程の話を聞いていてな、祖先の話を思い出したんじゃよ。それでリバスト殿を見ていたんじゃ」

「祖先の話だと……」

 

 リバストは目を細めた。

 これは俺も俄然気になる話だ。

 是非とも聞かねばなるまい。

 

「どんな話なのですか?」

 

 ラモンさんは目を閉じて静かに語りだした。

 

【今から数百年前……嘗てこの地に、魔物の大軍勢が押し寄せた事があったそうじゃ。祖先の言い伝えによれば、それはそれは恐ろしい魔物の群れだったらしい。(おびただ)しい数の魔物の群れは、大地を喰らいつくすかのように進軍を続け、この地に住まう者達は次々と餌食になっていったそうじゃ。じゃがある時、祖先達は、魔物が執拗に南西へと向かって進軍しているのを突き止めたのじゃよ。祖先達は先回りをし、西の山を越えた地へ、警告しに向かった。そして、そこに住まうリバストという若者と共に、魔物の軍勢を退けたという伝承が残っているんじゃ。それで、もしやと思うてな……】

 

 これはもう当たりだろう。

 そこで、リバストがボソリと呟いた。

 

「もしや……エルの民か?」

 

 その言葉を聞き、ラモンさんは目を細めた。

 

「ムッ!……その名を知っておるという事はやはり……」

 

 リバストは頷く。

 

「恐らく、そのリバストとは私の事であろう」

「という事は……あの祖先の伝承は本当だったのじゃな。数百年も昔の事なので、儂も半信半疑じゃったが……」

 

 さっきからわけわからん会話してるので、俺もログインする事にした。

 

「あの、エルの民って何なのですか?」

 

 すると、ラモンさんは少し強張った表情になったのである。

 都合の悪い話なのかもしれない。

 

「ラモン殿……話してくれぬか? 私も気になっていたのだ。彼等の助けにより、私は街を守る事が出来たのだからな。それに……ジュライ殿とエドガン殿は信用に値する優れた者達だ。私が保証しよう」

 

 リバストの言葉を聞き、ラモンさんは観念したのか、溜息を吐きつつも話してくれた。

 

「エルの民……それは、天空の神と大地の精霊から、魔界の門の監視を委ねられた者達の事じゃ。そして、儂等はその末裔なのじゃよ。一応言っておくが、儂は以前、エルの民の長だった者じゃ」

 

 なんか知らんがドラクエⅤっぽい雰囲気になってきた。

 もしかすると、エルヘブンと何か関係がありそうである。

 

「へぇ……魔界の門の監視ですか。しかも、長だったのですね」

「さようじゃ……ま、とはいっても、ここにいるエルの民は儂だけじゃがな。他の者達は、この地より遥か北の海にある島にいる。今は息子に長の座を譲り、儂は隠居の身じゃがな」

 

 ラモンさんはそう言って軽く微笑んだ。

 

「ロザリーヒルに隠居ですか……」

「ああ、儂ももう歳じゃしな。カジノのメダルを集めるのが趣味の変な息子じゃが、エルの民としては中々に優秀なので任せる事にしたんじゃよ。じゃから儂は今、自由に過ごしておるところじゃ」

 

 メダル集めが趣味という事で、一瞬メダル王が脳裏に過ぎったが、あまり考えないようにしておこう。

 それはともかく、これは本心ではないだろう。

 

「自由に、ね……でも、貴方がここにいるのは、単なる隠居が理由ではないのじゃないですか? 例えば……デスピサロの監視……とかね」

 

 ラモンさんは目を見開き、参ったとばかりに深く頷いた。

 

「お主は本当に鋭いのぅ。お主の考えている通りじゃよ。ピサロがこの地に来たのは今から数十年前じゃが、奴が魔界から追放されて以降、エルの民はずっと、奴を監視しているのじゃからな。何と言っても奴は、魔界の王の血を引く者じゃからのぅ」

「魔界から追放? 魔界の王?」

 

 また新しいワードが出てきた。

 しかも、ゲーム本編にはない肩書である。

 

「うむ、魔界の王じゃ。まぁとはいっても、名前は知らぬがな。儂等エルの民は、そうお告げを受けただけじゃから、詳しい事はよくわからん。じゃが、奴が魔界を追放されたというのは本当じゃ。訳あって、エルの民が奴を一時的に保護してしまったのじゃからな」

「えッ!? エルの民がデスピサロを?」

「なんと……」

「そんな事があったとは……」

 

 ゲームにない驚きのエピソードであった。

 ここはゲームのような世界ではあるが、本当に因果律がしっかりしている。

 ちゃんと出来事に繋がりがあるからである。

 

「まぁ驚くじゃろうな。これも成り行きでそうなったんじゃよ。この地より遥か北に、儂等が古来より監視を続けている『海鳴りの祠』というのがあるのじゃが、そこで奴はエルの民に保護されたのじゃ。当時、奴はまだ小さい子供での、祠の洞窟で1人泣いておったそうじゃ」

 

 意外なエピソードだが、正直言うと、デスピサロよりも海鳴りの祠の方が気になるところであった。

 ゲームだと海鳴りの祠には、天空の鎧があるからだ。

 おまけに、スゲー強い敵ばかりで難儀した記憶のある場所であった。

 だがゲームでは、エルの民なんて出てこない上に、祠といっても神聖な雰囲気の場所でもない。

 なので、そこが引っかかったのである。が、今は置いておこう。

 

「へぇ……アイツにもそんな頃があったんですね」

「当時、祠の監視をしていた先代の長が偶然見つけての。先代の話じゃと、魔界から追放の魔法陣で追い出されたと言って、小さいピサロはそこで大泣きしていたらしい。先代は魔物の子とはいえ不憫に思っての、このロザリーヒルにて奴を保護して貰ったんじゃよ。この地は、先程話した魔物の軍勢との戦い以降、儂等エルの民とそれなりに友好的な関係を築いておるのでな。まぁとはいっても、一部の者しか今は知らんじゃろうがの。とりあえず、大体の経緯はこんなところじゃわい」

 

 奴も色々あって、このロザリーヒルに辿り着いたようである。

 まぁかといって甘い顔をするつもりもないが。

 

「そうだったのですね。ありがとうございます、ラモンさん。貴重なお話を聞けました。ついでに、幾つか質問しても良いですかね?」

「なんじゃ、言うてみい」

「まずは海鳴りの祠からいきましょう。今、エルの民は、古来よりそこを監視していると仰いましたが、なぜなのでしょうか? これは俺の想像ですが……もしかすると数百年前、魔物の軍勢が最初に現れた場所というのは……」

 

 ラモンさんはゆっくりと首を縦に振った。

 

「本当によく頭の回る奴じゃな。お主の想像通りじゃよ。嘗て、リバスト殿のいた街に襲い掛かった魔物の大軍勢は、全てそこから現れたのじゃ。あの海鳴りの祠はな、魔界の瘴気が濃く漏れ出る非常に危険な場所なんじゃよ。この世界において、もっとも魔界に近い場所でもあるのじゃ。今は、大地の精霊ルビス様による護りの結界と、天空の鎧の力で魔界の瘴気を抑え込んでいるが、いつまた噴き出すとも限らぬからの。儂等はずっと監視を続けねばならぬのじゃよ……それが儂等の宿命なのじゃ」

 

 と、そこで、リバストが反応した。

 

「天空の鎧だと! まさか……私の死後、アネイルに祭られている鎧をすり替え、天空の鎧を盗みだしたのは……」

「恐らく、エルの民でしょうな。ですが、悪意があってそうしたのではない筈じゃ。天空の神から神託を受けて、当時のエルの民がそうしたのじゃろう。貴方が見ている前で、祖先達が無礼な事をしたようですな。この場を借りて謝罪しましょう。すみませんでしたな」

 

 ラモンさんは懺悔するかのように両手を組み、祈りのポーズをした。

 そして、リバストは肩の力を抜いたのである。

 

「そうであったか……私はてっきり、不届き者が盗み出したとばかり思っていたが……そういう経緯があったのか。いや、謝罪はせぬでいい。私は真相が知れたので、それで満足したよ」

 

 どうやら心のつっかえがとれたようだ。

 とはいっても成仏する気配はない。

 どうなってんだよ! と言いたいところである。

 まぁそれはさておき、俺はもう一つ気になっている事があるので、それを訊ねた。

 

「ラモンさん、エルヘブンって聞いたことありますか?」

 

 するとラモンさんは首を傾げた。

 

「エルヘブン? エルヘブンか……いや、知らぬな。なんじゃそれは?」

 

 名前が似ていたから訊いてみたが、知らないようだ。

 ドラクエⅤのエルヘブンと関係があるのかと思ったが、今の時点では何とも言えないようである。

 

「いや、知らないなら良いです。忘れてください」

「すまぬな。しかし……エルヘブンのぅ……フフフ」

 

 なぜか知らないが、ラモンさんはそう言って、軽く笑いだしたのであった。

 

「どうかしましたか? 何か思い出したんですかね?」

「いやいや、他愛ない話じゃよ。お主にその名前を言われて、今、気付いたのじゃが、 そういえば、その名前を聞いた事があるなと思っての。本当にしょうもない話じゃがな」

「気になりますね。なんですか、その他愛のない話って?」

 

 ラモンさんは少し恥ずかしそうに話し始めた。

 

「本当に、しょうもない話じゃぞ。実はな……儂は夢の中で、エルヘブンという名の村にいるんじゃよ。で、そこの長老をしとるんじゃな」

 

 リバストとエドガンさんはポカンとしていた。

 無論、俺もである。

 

「は? 夢?」

「ああ、そうじゃ。儂が時々見る、夢の話じゃよ。な? しょうもない話じゃろ?」

「いえいえ、しょうもなくはないですよ。夢ですか……」

「そう、夢の話じゃ」

 

 ラモンさんはなんでもないように言っているが、これは非常に重要な話のように感じた。

 なぜなら、天空シリーズのドラクエⅥは、正に、夢と現実を行き来する話だったからである。

 そして俺は1人考えるのであった。

 

(もしかして……この世界におけるドラクエⅤは、夢の世界の話なんか?)と――

 

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