[壱]
デスピサロは眉間に皺を寄せ、かなり険しい表情でこちらを睨み付けていた。
ロザリーはこの突然の展開に呆然としている。
俺達の間に無言の時が過ぎてゆく。
まず最初にデスピサロが口を開いた。
「その名前の間違え方……聞き覚えがあるぞ。貴様……以前、勇者の村を襲った時にいたジュライとかいう妙な魔法使いだな。チッ……またココに来るだろうと思っていたが、そのような姿で、ようやくお出ましか。小賢しい人間めッ!」
それを聞き、俺は山奥の村でも同じように名前を間違えたのを思い出した。
魔物どもを束ねるだけあって、デスピサロはなかなか記憶力が良いようだ。が、ここは惚けておこう。
「さあ、何の話かな? ピスタチオ君。それはそうと、なかなか笑わして貰ったよ。山奥の村であんなにイキってた自称魔族の王とやらが、まさか少女監禁マニアのロリコン性癖だったとはね」
「ろりこん? わけの分からぬ事を言いやがって! 貴様……そのような術を使って我等を誑かそうというつもりだろうが、そうはいかんぞ。出てこいッ! 卑怯者めッ!」
「え!? この白い鳥が喋っているの!?」
ロザリーもようやく、事態が飲み込めたようだ。
つーか、気付くのが遅い。
案外、天然娘なのかもしれない。
「まぁまぁ、そう怒りなさんな。変態魔王さん。ちょっと世間話でもしないかい?」
「貴様ァァァ!」
デスピサロは凄い形相で剣を抜き、斬りかかってきた。
完全にブチ切れたみたいである。
つーわけで、俺は式を羽ばたかせ、奴の斬撃をヒョイと避けた。
その刹那、式が止まっていたバルコニーの手摺りを、奴の剣が稲妻のような速さで切り裂いた。
そして俺はというと、式を部屋の中へと侵入させたのである。
室内を見回すと、フロアの中央に天蓋付きベッドがあったので、俺はその最上部に式を着地させた。
因みにだが、そのベッドの周囲には高級感漂うカーテンが付いてるので、なかなかブルジョワジーな感じであった。
このベッドでロザリーとピサロは、随時、合体行為をしているのかもしれない。
想像しただけでムカつくシチュエーションであった。
おのれ……ロリコンの変態イケメン魔王め!
まぁそれはさておき、デスピサロは血相を変えて、こちらにやってきた。
ついでにロザリーも。
「本当に怒りっぽいねぇ。あまり感情的になりすぎると判断を誤るよ、ピスタチオ君。少し話がしたいだけなんだがなぁ。落ち着いて話さないかい? ピンサロ君。色々と訊きたい事があんだよね」
「黙れ! 小賢しい鳥め! さっきからフザケた事ばかり抜かしやがって! 俺の名はデスピサロだ! ならば、イオナズンで吹き飛ばしてくれるわ!」
デスピサロは聞く耳持たずといった感じで、コチラに向かい掌を突き出した。
どうやら、極大爆裂呪文を使うみたいである。
さっきボロクソにこき下ろしたのも影響しているのだろう。
癇癪起こして聞かん坊になったみたいだ。
(あらら……こんな狭いところでイオナズンかよ。不味いな……この式じゃ、多分、避けきれん。コイツのナルシーな行動にイライラしすぎて、ちょいとばかし言い過ぎたか……ン?)
と、その時であった。
なんと、ロザリーが両手を大きく広げ、俺達の間に入ってきたのだ。
「お待ちください! ピサロ様!」
「なんのマネだ、ロザリー……今は下がっていろッ!」
「退きません! 私もピサロ様にお話ししたい事があるのです」
「何……話したい事だと……」
なんか知らんが意外な展開になってきた。
今はロザリーの作った流れに便乗して、奴を会話の席に着かすとしよう。
「そうだよ~、ピンサロ君とやら。俺も言い過ぎたよ~。まだムカついてるから、本当は謝りたくないけど、ちょっとだけ謝るよ。メンゴメンゴ。だから、まずはロザリーちゃんの話を聞こうよ~」
「何を抜かすッ! 貴様が言うな! コソコソと隠れ、我等を偵察する腰抜けの貴様に、そんな事を言われる筋合いなどないわッ! 卑怯な人間めッ! 本体はどこにいるッ!」
と、そこで、ロザリーは俺にキッと鋭い視線を向けたのである。
ちょっと怒ってる感じであった。
「貴方! どこのドナタか知りませんが、今はややこしくなるので黙っていてください!」
「え? 俺? お、おう……わかったよ。黙ってるから、続けて……」
ゲームでは悲壮感漂うエルフっ娘だったが、意外と気の強い部分も持ち合わせているのかもしれない。
それはさておき、仕切り直しとばかりに、ロザリーは穏やかに問い掛けた。
「ピサロ様……先程の話ですが……本当なのですか?」
「フン、人間を滅ぼすという話か?」
「はい……」
「本当だ」
「なぜ……そのようなことを」
「ロザリー……お前は知る必要が無いことだ」
「そんな……」
2人は無言になった。
重苦しい空気が辺りに漂い始める。
話が進まないので、空気を読まずにログインしてやった。
「じゃあ、俺もシツモーン! 何で滅ぼすんだよぉ、ピスタチオ君? 誰かからそう命令されたん?」
「貴様は黙っていろ!」
「別にいいじゃんか。減るもんじゃねぇんだし、教えてくれよ。俺の想像だと、魔界の使者かなにかに、要らん事を吹き込まれたんだろうと考えてんだけど」
「な!? 貴様……」
デスピサロは眉間に皺を寄せ、こちらを睨みつけてきた。
直情型なので、顔に出るみたいだ。
ある意味、わかりやすい奴である。ウケるw
それはさておき、どうやらビンゴなのかもしれない。
「え? マカイの使者?」
ロザリーはそう言って首を傾げていた。
するとデスピサロは、苦虫を噛み潰したような表情でこちらを指差し、声を荒げたのである。
「誰が貴様なんぞに教えるか! コソコソ探る小賢しい人間風情が!」
あんまり触れてほしくない話なのだろう。
ならば仕方がない。
遠慮なく触れてやるとしよう。
「へぇ……その反応だと、どうやら、当たらずとも遠からずって感じのようだな。なんとなく状況がわかってきたよ。アンタを
「忠告だと……」
「アンタは利用されてるだけだ。黒幕はアンタより遥かに狡猾だからな。引き返すなら、今な気がするがね」
「何を言うかと思えば……下らん! 俺は自分の信念で動いている! 黒幕なんぞおらぬわ!」
「でも……アンタって魔界の王とやらの血を引いてんだろ?」
デスピサロは眉を吊り上げ、こちらを睨んだ。
「貴様……どこでそれを知った?」
「風の噂ってやつさ」
「フン……まぁいい。魔界で覇権争い中である俺の父が黒幕だとでも言うつもりか? 下らぬ! 今のアイツにそんな余裕などはないわ!」
「はぁ? 魔界で覇権争い?」
「チッ……お前には関係ない話だ。忘れろ!」
デスピサロは罰が悪そうに、少し目を泳がせていた。
ちょいとばかり口が滑ったようだ。
まぁそれはさておき、ここでまた新たな情報が入ってきた。
なんか知らんが、魔界は魔界で、あまり纏まってないのかもしれない。
(しかし……ゲームにない話がポンポンと出てくるな。というか、コイツ……結構口が軽くね? おまけに直情型だし、こりゃ都合良くエビルプリーストに洗脳されるワケだわ……)
などと思っていると、ロザリーの声が聞こえてきた。
「ピサロ様……今の話は本当なのですか?」
「フン……本当だ」
「マカイとは一体……」
「ロザリー……お前は知らぬ方が身の為だ」
さっきとほぼ同じやりとりであった。
つーわけで、俺もさっきと同様、ビッグウェーブに乗っておいた。
「あ~あ、見てらんねぇな。そんな事言わずに、教えてあげればいいじゃんか。お前、女心ってもんがわかってねぇなぁ。そんなだから、変な電波を飛ばされんだよ」
デスピサロは頭に来たのか、またイキリ返してきた。
「だァァかァァらァァ! 貴様は黙っていろと言ってるだろがッ! さっきから貴様のせいでややこしくなるんだろうがッ! コソコソ隠れてかき回しやがって! 出てこい! この卑しい人間がァァァァ!」
と、次の瞬間、デスピサロはこちらに向かい、持っている剣を思いっきり投げつけてきたのであった。
俺は式を羽ばたかせ、それを回避した。
剣は天井に衝突し、カランカランと床に転がった。
どうやらマジ切れしたようである。
「どこにいるッ! 出てこいッ! ぶっ殺してやるッ!」
仕方ない、少し相手してやるとしよう。
つーわけで、俺は奴に言ってやった。
「しゃあねぇなぁ……じゃあ、ちょっと待ってろ」
「何……」
というわけで、俺は式を一旦屋上へと戻した。
そして式の術を解いて呪符を回収した後、俺は孔雀破魔秘紋法という術を行使したのである。
俺は霊力を練り、術を発動させる幾つかの印契を組みながらマントラを唱えた。
その直後、俺の全身から孔雀の羽のような青白い霊気のオーラが発せられたのだ。が、現実世界の時よりも大きなオーラだったので、俺は少し驚いたのである。
他の呪術もそうだが、やはりこの世界では、いつもより効果が強く出るみたいである。
孔雀破魔秘紋法……物理的にも霊的にも護身の力を高める奥義の1つである。
ドラクエ的に言うなら、真紋の一族版アストロンといった感じだろうか。
で、なぜこの術を選んだのかだが、防御一点張り効果の副産物として、緩やかではあるが、多少の飛行が可能だからである。
ただ、1つ難点があり、この術を行使している間は、常に最終印契を組み続けなければいけないので、これを行使しながら他の術は使えないという事であった。
話は変わるが、この孔雀破魔秘紋法は密教の孔雀明王咒経とは関係がない。
これは真紋の一族が伝承する魔の力を退ける独自の咒法である。
恐らく、摩利支天浄魔光剣と同様、術を行使した後の感じが孔雀のようだったから、ご先祖様はこの名前を付けたのだろう。
ついでに言うと、山奥の村で襲撃された時、これを使ってトンズラしようと思っていたのであった。
まぁ早い話が、戦略的撤退時によく使う術なのである。
つーわけで、話を戻そう。
孔雀破魔秘紋法を発動した俺は、数メートル下にあるバルコニーへと静かにフワリと舞い降りた。
すると、デスピサロとロザリーは目を見開き、驚きの声を上げたのである。
【な!? いつの間に! おのれぇ……やはり貴様だったのか! どこから来た!】
【だ、誰ですか、貴方は……】
俺はとりあえず、術を行使したまま紳士的に返事しておいた。
「やぁ久しぶりだね、いつぞやは世話になったよ。元気にしていたかい、ピスタチオ君」
デスピサロは血走った目を俺に向け、腕を突き出すと、すぐさま行動に出てきた。
【丁度いい! 貴様は始末せねばならないと思っていたところだ! 死ねッ! イオナズン!】
その直後、奴の掌から光り輝く魔力の塊が放出され、俺の眼前で大爆発が巻き起こったのであった。
建物全体が震撼するかのように、振動が起きる。
また、爆風によって、室内の土埃やベッドのカーテンも一気に舞い上がった。
だが、俺は無傷であった。
俺の周囲は濃い霊気の放出によって空間が歪んでいるので、術を行使している間は、ほぼほぼ無効化できるのである。
ちょっとやそっとの事では、この孔雀破魔秘紋法の壁は突破出来ないのだ。
そしてデスピサロはというと、そんな俺を見て、苦虫を噛み潰したような表情になっていたのであった。
「チッ……全く、効果がないだと……おのれぇ、ならば!」
そう言うや否や、デスピサロは床に転がっている剣へと駆けた。
俺はその隙を見逃さず、次の手に出た。
孔雀破魔秘紋法を解き、俺はすぐさま縮地のマントラを唱える。
そして、呆然としているロザリーの前に素早く移動すると、俺はそこで彼女を抱き寄せたのである。
「キャッ……な、何をするのです!」
ロザリーは突然だったのでビックリしていたが、ここは我慢してもらおう。
それと、抱き寄せてわかった事だが、ロザリーちゃんからラベンダーのような良い香りがした。
身体は華奢な感じだが、肌も白く美しい。目もクリッとしてて可愛かった。清純系の美少女という言葉が相応しい女性である。
そしてデスピサロはというと、そこで剣を手に取り、俺に向かって正眼に構えをとったところなのであった。
デスピサロは俺達を見るなり、眉と口を吊り上げ、凄い形相で睨んできた。
「貴様ァァァ! その薄汚い手でロザリーに触れるな! ロザリーから離れろ!」
「まぁまぁ、そう怒らないでくれよ。俺はアンタと少し話がしたいんだ。ロザリーちゃんに危害は加えないよ。ただ抱き寄せただけさ」
「話だと……貴様と話す事などないわッ!」
埒が明かないと思ったので、俺はロザリーちゃんに耳打ちした。
「君はロザリーちゃんと言うんだったっけ? 君からも言ってくれないかなぁ。俺と落ち着いて話をしようと……」
ロザリーはぎこちなく俺に振り向いた。
その表情はキョトンとしており、心ここにあらずといった感じであった。
多分、この展開についていけないんだろう。
無理もないところだ。
「え……は、話?」
「奴の暴走を止めたいんだろ?」
するとロザリーはそこで真顔になり、コクリと頷いたのである。
「わかりました……やってみます」――