[壱]
翌日の早朝、俺はチャオル君に起こされ、オズボーンさんの塔へと行くことになった。
但し、呼ばれたのは俺だけで、リバストとエドガンさんは宿屋にて待機中である。
まぁそんなわけで、俺は今しがた自称メダル王の元へとやってきたところだ。
目の前にある玉座には、昨日と同様、オズボーンさんが腰掛けている。
だが昨日と打って変わり、今日は若干疲れたような感じだ。
目の下にクマのようなものができている。
何かあったのだろうか?
まぁいい、用件を訊くとしよう。
「おはようございます。メダル王陛下……とでも言えばいいのかな?」
するとオズボーンさんは弱々しく手を挙げた。
「お、おう……悪いな、ジュライ。朝早くに来てもらって……チャオル、ちょっと外してくれるか? というか、今日はもう休んでくれて構わんぞ」
「わかりました、オズボーン様。では僕はこれで失礼しますね」
「ああ」
チャオル君はお辞儀をすると、ここから去っていった。
この場にはオズボーンさんと俺の2人だけである。
俺だけ呼んだということは、人に聞かれたくない話があるんだろう。
面倒事が起きそうな気配である。
「さて……昨日の今日で悪いんだが、アンタにどうしても話したいことがあってな。それでチャオルに連れてきてもらった」
「話したい事ねぇ……まぁなんとなく察しはつくが」
と言って、俺はコイツの背後にいる亡霊に目を向けた。
オズボーンさんも俺の視線に気づき、溜息を吐きながら頷く。
「ああ、その通りだよ。まさか……このクソジジイを見える奴がいるとは思わなかったんでな。コイツに付き纏われてからというもの、碌なことがない。ったく……お陰で昨夜は眠れてねぇよ」
「それはお気の毒に。で、話はできるのかい?」
「話しかけてみたらどうだ」
できるという事なんだろう。
「なるほどね。じゃあ、本人に直接聞いてみるか。おい、爺さん、アンタ……一体何者だ?」
亡霊はニヤリと笑った。
『ほう……余が見えるのか。大したものじゃ。余は今より遥か昔……メダル王としてこの世界に生きていた者じゃよ。大魔王に滅ぼされ、こんな思念だけの存在になっているがな』
「へぇ、大魔王にね。もしかして……デスタムーアとかいう輩の事かい?」
『ふぉふぉふぉ……お主こそ、何者じゃ? その名が出てくるということは、もう既に、何かが見えておるようじゃのう』
「買い被り過ぎだ。何も見えねぇよ」
「だ、大魔王……って、なんの話だよ」
オズボーンさんは俺達の会話を聞き、ポカンとしていた。
ついていけないんだろう。
それはともかく、この口ぶりを聞く限り、当たらずとも遠からずといったところか。
「まぁいい、世間話はこのくらいにして、本題に行こうか。俺を呼んだのは爺さんのようだが、一体何の用だ?」
『お主……夢の世界というのは知っておるか?』
とうとうこの言葉が出てきたか。
面倒な事にならなきゃいいが。
「夢の世界……アンタのような存在がいる世界の事か?」
『お主、物分かりがよいな。ま、そんなところじゃ。で、そんなお主を見込んで、お願いがあるのじゃよ』
「お願い? 言っとくが俺は、わけのわからんお使いイベントをする気ないよ。他を当たってくれ」
すると爺さんは、予想通りと言わんばかりに微笑んだ。
『ふぉふぉふぉ、どの道、お主は行く事になるじゃろうがな。お主は昨日、天空城を目指しておると、この男に言っておったの?』
「ああ、言ったよ。それが何か?」
『まさにそこが夢の世界への入口だからじゃ』
やはりそういう事か。
面倒だから惚けておこう。
「へぇ、それは知らなかったなぁ。そこが入口だったのか。まぁどうでもいいけどね。で、それが何か?」
『天空城の主マスタードラゴンは、全てを見通す目を持っておる。それはこの世界だけではない。魔界と天界……そして、夢の世界をも見通せる目をな』
「あらら、とんでもない覗き魔なんだね、天空城の主とやらは。覗いてばかりいないで、自分で動けばいいのに。まったく悪趣味な神様だよ」
爺さんは困ったように苦笑いをした。
『お主、なかなか言うのう。余はさすがに、そこまでは言えぬぞ。まぁお主が言うのもわからぬではないが、そう簡単にゆかぬ事情もあるのじゃろう』
「事情ね……で、何を言いたいんです?」
『まぁそう話を急ぐな。物には順序というものがある。さて、それでじゃが……実は夢の世界もこの世界と同様、大地もあり、国もあり、住民もおる。ここにいる者達には見えもせぬし、聞こえもせぬがな。そう……確かにあるのじゃ。そして……そこで今、とんでもない異変が起きておるのだよ』
「とんでもない異変?」
『うむ。実はな、大地が少しづつ消え始めておるのじゃよ。なぜかは知らぬがな……』
と言って、爺さんは俺をチラッと見た。
どうやら俺の反応を見ているようだ。
今は軽くいなしておこう。
「へぇ、それは大変だね……少しづつ大地が消える、か。何が起きているんでしょうねぇ。俺にはサッパリだな。で、何を言いたいんです?」
『夢の世界は、この世界の者達の願望や信仰によって存在しうる世界。それが消えるという事は、それら願望そのものが消え失せるという事に他ならぬ。じゃがとはいうものの、この世界はそこまで荒廃しておらぬようじゃ。お主はどう考える?』
質問を質問で返すなァァァッ!
と言いたいところだが、それが事実ならば、確かに妙な話であった。
但し、この世界が本当に天空の物語ならば、あり得るパターンが1つだけ考えられるのだ。
良いだろう。まどろっこしいのはやめにして、単刀直入に訊くとしよう。
「何者かが、大地を封印をしているとでも言って欲しいんですかね? 自称メダル王の爺さん」
俺の言葉を聞き、爺さんは水戸の御老公のように笑い出した。
『ふぉふぉふぉ、今しがた大魔王デスタムーアの名をお主が口にしたから、もしやと思うて問うてみたが、どうやら、余より詳しそうじゃな』
「よく言うよ、そっちが誘導したんだろ。俺は付き合ってやっただけだ。まぁいい、で、俺に何をさせたいんだ? 聞くだけは聞いてやるよ。聞くだけ、はな」
『ふむ、では言おう。これは余からではなく、この大地を創りし女神様からの伝言じゃ』
「はぁ? 女神からの伝言だと……」
『女神様はこう仰っておられた。異界の勇者ジュライよ、夢の世界へ向かいなさい、との。そういうわけじゃ。余は確かに伝えたぞ』
いきなり、何を言い出すんだ、このジジイ。
「ちょっと待て! なんで俺が行かなきゃならないんだ。それと、誰だよ、その女神って!」
『残念じゃが、それは言えぬな。言ってはならぬ約束じゃからのう。じゃが、高貴でそれはそれはお美しい方じゃぞ。お主も驚くじゃろうのう。ふぉふぉふぉ、さぁどうする?』
この大地を創造した女神だと……まさか……おのれぇ!
断固拒否だ!
「嫌だね。と、その美しい女神様とやらに伝えておいてくれ」
『おう、そうきたか。じゃが、いずれにせよ、お主はそこへゆかねば帰る事はできぬようじゃぞ』
大地の女神とは恐らく、あの精霊の事だろう。
いい気になりやがって……。
というか、この大地もアイツが創造していたのかよ。
大地を創るって、一体、どういう設定の女神なんだ。
「チッ……小賢しい女神め。そういうのは、覗き魔の天空の神にやらせろよ。なんで俺が行かなあかんねん」
『女神様が言うには、天空の神の力をもってしても、よく見えないそうじゃ。つまり、何かとんでもない異変が起きておるんじゃよ。余はそう見ておるがな』
なんという面倒な展開。
とはいえ、『やってられっか!』と、言えないのが辛いところである。
帰る道順がわからんからだ。
この先、一体何が待ち受けてるのかわからんが、天空シリーズの全部盛りは勘弁したいところである。
『おお、そういえば……昨夜も、余の前に女神様の声が聞こえたのじゃが、こうも仰っておられたぞ……破壊と殺戮の神を退けられる其方でなければ、この異変に対処するのは無理じゃとの。余には何の事かわからぬが……女神様に期待されておるのう』
まさか、こんなところでダークドレアムの件を蒸し返されるとは。
余計に腹が立ってくる展開だ。
と、そこで、ポカンとしながら傍観していたオズボーンさんが口を開いた。
「アンタ……よく分からんけど、スゲー奴なんだな。このメダル王とかいうクソジジイが珍しく感心してるじゃねぇか」
コイツまで勘違いしだした。
否定しておかねば。
「全然凄くないよ。俺はただのボンクラさ。この爺さんが勝手に勘違いしてるだけだよ。それはともかく、その女神とやらは、いつ爺さんにそれを伝えたんだ?」
『つい最近じゃよ。そう、ほんの数日前じゃ。余を見る事ができる者が、じきに現れると仰っておられたからのう。本当に現れると思わなんだわ』
「だろうね……じゃないと辻褄が合わんからな。イラっとくる話だが……」
『お主は面白くなかろう。気持ちはわかるぞ。じゃがのう、これは世界の危機じゃと余は思うておる。是非とも、女神の願いを聞き届けてほしいのじゃよ』
「女神の願いね……不愉快極まりないが、いずれにしろ、天空城には行くつもりだ。そこで考えさせてもらうよ」――
大地の女神とは、精霊ルビスの事かもしれない。
実際のところ、ゲームの設定上では、大地の創造神でもあるからだ。
但しそれは、ロトシリーズのアレフガルドを創造した精霊という位置づけであった。
天空シリーズにもルビスが出てくるが、そういう風には語られていなかったような気がする。
そもそも、それら両方のルビスが同一の存在かどうかがわからない。が……困ったことに、あながち否定もできないのである。
なぜなら、ロトシリーズと天空シリーズは他にも微妙な繋がりがあるからだ。
ドラクエⅥにはルビスの他に、夢の世界を統治するゼニス王というのがいるのだが、リメイク版ドラクエⅢに出てくる天界の王様と同名なのである。
まぁとはいえ、今考えたところで真相なんぞわかるわけもない。
今はこのイラっと来る展開に対し、どうやって対応していくかである。
まったくもって頭が痛い話であった。
俺を巻き込んだ代償を払わせてやりたいところだ。
もしこの先、その美しい女神とやらと出会う機会があったならば……色んな技を駆使してヒィヒィ言わせてやりたいものである。できるかどうかわからんけど……。
などと不埒なことを考える、神をも恐れぬ俺なのであった。
[弐]
メダル王の島で7日ほど滞在した後、俺は妖怪2名と共に旅を再開した。
目指す先は西の大陸のバトランド方面。
アルゴが言っていた夢占い師が気になるので、次の物見遊山に決定したのである。
なんでもアルゴの話だと、その旅の夢占い師は、イムル地方に長い間滞在していると聞いたからだ。
今もいるかもしれないので、向かうことにしたのである。
但し、メダル王の島からだと、標高の高い山脈が聳えているので、北の外洋から回り込んで向かうルートだ。
魔法の絨毯では、さすがに山越えは難しいからである。
まぁそれはさておき、少々長く滞在したが、なかなか有意義であった。
大地の女神とやらの伝言はイラッとさせるが、色々と面白い話を聞けたり、体験もできたからだ。
一番笑えたのは、オズボーンさんがなぜあの爺さんに憑かれたのかの真相だろう。
オズボーンさんが旅の行商人に、秘宝の1つである杖を売ろうとした事が発端らしい。
しかもその秘宝とは、いつも手にしているアンク十字風の金色の杖だったのである。
なんでもオズボーンさん曰く、売ろうとした瞬間、電撃のようなモノが全身を駆け抜け、それ以来ずっと、メダル王の爺さんに憑かれてしまっているとの事であった。
まぁ早い話が、バチが当たったのである。
自業自得というやつだろう。
ただ、ラモンさんも言ってたように、変わったコインを集めるメダル王っぽい趣味は本当らしい。
なんでも、エンドールに行った際、カジノを見て触発されたらしく、そういうお店を創るのが夢なんだそうだ。
そこで流通しているコインを見て、それにも興味をもったとの事であった。
まぁなかなかの馬鹿野郎だが、メダル王に憑かれている限り、その夢は諦めるしかないだろう。
余談だが、俺はそれを聞き、手持ちの100円玉と10円玉を1枚づつ、オズボーンさんに寄付してあげた。
するとそれを見るや否や、「おお! なんだよ、これ! こんなに小さいのに美しい花が彫りこまれているじゃないかぁぁ! こっちの茶色いのには、こんなに小さいのに美しい建造物まで彫り込まれてるぅぅ!」などと言いながら、物凄く感激していたのである。
この世界で流通している貨幣は単純な紋章だけなので、驚くのも無理はないだろう。
造幣技術から考えると、ある意味、オーパーツだからだ。
それに伴い、嬉しい誤算もあった。
オズボーンさんがお礼とばかりに、エルの秘宝の1つをくれたからだ。
そのアイテムとは……天罰の杖であった。
対価が釣り合ってないような気がしたが、ここは素直に貰っておいた。
税込み110円で、天罰の杖をゲットできたので、ある意味ラッキーな展開であった。
因みに天罰の杖だが、エルの民達からすると、それほど珍しいものではなく、何本もあるとの事であった。
レア感がそれほどないのが残念なところだ。
とはいえ、魔力消費なしでバギマを発動できる貴重な杖なので、エドガンさんの武具として使うことにした。
まぁそんなこんなで、装備を固めながら旅を続ける俺達なのであった。
他にも幾つか手に入れたアイテムがあるが、それはまた追々に記述するとしよう。
さて、話を旅に戻すが、外洋を西へ向かうにつれ、やや空が曇りだしてきた。
出発時は晴れていたが、結構な距離を進んだので、天候も変わってきたようだ。
「ジュライ殿……空の雲行きが怪しくなってきたぞ。海の波も高くなってきた。風も強いし、そろそろ雨が降ってくるかもな」
エドガンさんはそう言って空を見た。
空はどんよりと曇っており、魔法の絨毯の下に広がる大海原は、エドガンさんの言う通り、やや荒れ始めていた。
これは確かに雨が降ってきそうな兆候である。
というか、すでにポツポツと降ってきている状況だ。
魔法の絨毯は屋根がないので、雨はちと辛いところであった。
「エドガン殿の言う通りだな。これはじきに雨が本降りになるだろう。このままでは絨毯が濡れてしまうぞ。大丈夫なのか?」
確かに、そこは気になるところである。
ベタベタに濡れた状況で使用可能かどうか試していないので、どうなるかはわからないからだ。
もし飛行能力が失われたならば、俺達はこの荒れた大海原の中に放り出されることになる。
それは是が非でも避けたいところであった。
「ですよね……どこかに陸地があるといいんですけど、ここからじゃ見えませんしね。ン?」
するとその時であった。
俺達の斜め前方に、大きな船が見えたのである。
しかも、それは見覚えのある帆船だったのだ。
これは正しく、渡りに船である。
俺は船を指さした。
「おや、ちょうどいいところに知り合いの船を見つけましたよ。あれです。グッドタイミングですよ」
「知り合いの船? あそこに見える大きな船か?」
「知り合いの船とな? ジュライ殿は船主に知り合いがおるのか。顔が広いな」
リバストとエドガンはそう言って船を見た。
そういえば、この2人は初めて見る船だったのを思い出した。
とりあえず、言っておくとしよう。
「あれは多分、トルネコの船です。天空の勇者候補フォルス達が使っている船ですよ。マーニャとミネアも乗っているかもしれませんね」
「ほほう、娘達の乗った船か……元気にしておるかな」
「ならば、早く向かったほうがいい。雨が強くなりだしたからな」
「ですね。このままだとずぶ濡れになりますし」
というわけでレッツゴーだ。