DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv5 寄らば大樹の陰

   [壱]

 

 

 シンシアのルーラで、俺達は奇妙な場所へと舞い降りた。

 そこは信じられないような馬鹿でかい木が1本だけ聳え立つ所で、もはや木と呼んで良いのかどうかさえ怪しいレベルであった。

 木の幹は直径にして100mは優にありそうな感じで、その高さはあり得ないくらい高い。

 地上からだと確認できないが、木の先端は恐らく、空に漂う雲の付近まであるんじゃないだろうか。

 恐ろしくデカい木である。もはや、山と呼んでも差し支えなさそうな感じだ。

 現実世界じゃまずお目に掛かれないシロモノだが、ドラクエ4でこんな馬鹿でかい木がある所と言ったら1つしかないだろう。

 おまけにその周辺は砂漠になっており、ここだけがオアシスかの如く、緑を携えているのだ。ゲームの状況と全く同じである。

 ちなみにだが、世界樹の周辺は砂漠なので暑そうなイメージだが、意外と涼しい。カラッとした湿度の低い外気で、日本で言うなら4月後半のような気候であった。

 見た目は暑そうだが、ファンタジーな世界なので現実世界の常識で考えない方が良さそうだ。

 また、転移前は夜だったが、今は澄み切った青空が広がっている。ドラクエ4は昼と夜の概念もあるゲームだったので、時差もあるのかもしれない。

 ゲームにおけるブランカと世界樹の位置関係を考えるに、そのくらいの時差は十分考えられる距離だった気がする。なので、とりあえず、そういう事にしとこうと考える俺であった。

 まぁそれはさておき、到着したところでシンシアが微笑みながら俺達に振り返り、その答え合わせをしてくれた。

 

「皆さん、ここは世界樹の麓にある私の故郷です。ここまでくればもう安心ですよ。魔物もここまでは流石に追ってこれないでしょうから」

 

 やはり世界樹で間違いないようだ。

 よく考えたら、ゲームだと終盤に気球で来るところである。

 おまけに天空シリーズ最後の武具があるところだ。

 皆の驚く声が聞こえてくる。 

 

「なんだって!? ここが噂に聞いたあの世界樹なのか!」

「世界樹の噂は本当だったんだ……」

「なんと……」

 

 他の皆はシンシアの言葉に驚きを隠せないようであった。

 まぁ無理もない。

 俺も世界樹の存在感に圧倒されているのだから。

 

「一応、エルフの里なんですが、他にも色んな種族が住んでいるんですよ。世界樹の中や上には魔物もいますが、ここに住まう者達は良い方々ばかりなので、安心して下さい。さぁでは、ついて来て下さい。里の長であるフェルミナ様のところへ行きましょう」

 

 というわけで、俺達はシンシアの後に続き、移動を始めたのであった。

 その途中、エルフの里の住民ともすれ違った。

 シンシアの言うように、ここにはエルフの他にもホビットみたいな小さな種族や、喋る動物、そして魔物も確かにいた。それらはみんな仲良く暮らしている風であった。長閑な良い村である。

 おまけに世界樹から発せられる清らかな大霊気があるので、霊的なセキュリティーもかなりのモノであった。

 ここならば、悪霊とかの心配は皆無だろう。

 だが、少々魔物の気配はする。

 シンシアも今言ってたが、ゲーム同様、世界樹の中には魔物がいるに違ない。

 だが、先程戦った魔物達の霊気と少し違う。

 もしかすると中の魔物は、デスピサロ達とは関係がないのかもしれない。

 霊気の感じで、なんとなくそんな気がした。

 

(しかし……世界樹とはね。勇者が来る順番が色々とおかしいだろ。正直、この展開は予想してなかったが、よく考えたらシンシア自身がエルフなので不思議ではないのかもしれない。まぁともかく、シンシアがあの状況で生きていたら、こうなってたという事で納得するしかないか)

 

 俺達は地面から見え隠れする飛び出た世界樹の根を跨ぎながら、幹をぐるりと回るように進んで行く。

 そして世界樹の裏側へと周り、とある場所でシンシアは立ち止ったのである。

 シンシアの視線の先には世界樹の幹があり、そこには自然に出来たであろう丸い穴があった。

 穴は直径2mくらいあるので、そこそこ大きなモノだ。

 

(ゲームにこんな所あったっけか? そもそもあのゲーム、世界樹の裏側には確か回れなかったような気がするんだよな。まぁでも、魔物もリアルだったし、やはりこの世界はゲームとは違うのだろう……)

 

 俺がそんな事を考える中、シンシアは穴に向かって呼びかけた。

 

【フェルミナ様、シンシアです。ただいま、戻りました】

 

 程なくして穴の中から声が聞こえてきた。

 

【お入りなさい。客人の方々もこちらへ】

 

 俺達はその言葉に従い、穴の中へと足を踏み入れた。

 中は広い空洞になっており、床には木製のテーブルや椅子、棚などが置かれていた。やや生活感の漂う様相をしている。

 そして、そのテーブルには今、紺色のワンピースを着た妙齢の美しいエルフの女性が静かに腰を下ろしているところであった。

 シンシアと比べると歳はいってる感じだ。人間ならば30代前半くらいに見える。

 とはいえ、人間と寿命が違うはずなので、正確な年齢はわからない。

 こんな風に見えても、人間からすると理解不能な年齢なのだろう。

 それとこの里に来て気付いたのだが、エルフ達は皆、緑色の流れるような瑞々しい綺麗な髪をしている。この女性も同様であった。

 だが、シンシアは赤毛なのでちょっと違和感があった。

 もしかすると何らかの事情があるのかもしれない。

 

「シンシア、久しぶりですね。先程、貴方が帰って来たと世界樹から聞きました。何があったのですか?」

「フェルミナ様……その事で、お話ししたき事がございます。実は……」――

 

 シンシアはその女性の前へと行き、これまでの経緯を説明した。

 それを聞き、長の女性は残念そうに表情を落とし、言葉を紡いだのである。

 

「そうだったのですか。とうとう魔物達に見つかってしまいましたか……。こうなった以上は仕方ありません。フォルス殿をこの里で匿う事を許可しましょう」

「ありがとうございます。フェルミナ様」

「いいえ、シンシア……礼を言うのは私の方です。よくぞ今までフォルス殿を守って下さいました。これよりはこの里でフォルス殿を守り、ニース様の願いを達する事にしましょう」

 

 長の女性はそこで俺達へと視線を向けた。

 

「皆様も引き続き、この地でそのお力をお貸しいただけませんでしょうか? この里には武に秀でた者はあまりおりませぬ。ここは元より、争いなど起こらぬ平穏な場所でありますので」

 

 他の者達は皆、力強く頷いた。

 

「勿論、そのつもりです」

「フォルスは実の子じゃないが、私達の子だ。当然、そのつもりです」

「まだまだフォルスには教える事があるからのう」

「私もフォルスの為にまだまだ頑張るつもりです」

「フォルスを立派な勇者にするまでは死ぬに死ねない。私もそのつもりだ」

 

 まぁこんな感じで、熱い言葉が飛び交っていたのである。

 フォルスは皆の言葉を聞き、涙ぐんでいた。

 

「皆さん……こんな私の為に……あ、ありがとうございます。ううっ……」

 

 そして俺はというと、そんな皆を若干引きながら見ていたのであった。

 俺的にはついていけない雰囲気であった。

 

(うわぁ……なんだ、この熱血漫画みたいな暑苦しい展開は……正直、ついていけんぞ。とりあえず、もうこれ以上、彼等と深く関わるのは止めとこう。ゲームだと可哀想な主人公だったから、不憫に思って手を貸しただけだし……。うん、これで終わりにしよ)

 

 俺はそう心に誓った。

 それから暫しの歓談の後、シンシアだけがここに残り、俺を含む他の者達はこの場を後にしたのである。

 

 

   [弐]

 

 

 フェルミナさんとの会談の後、俺達はとりあえず、里にある宿屋に泊まる事になった。

 だが、村人の数が多過ぎて部屋とベッドが足らない為、何人かは外で野宿する事になったのである。

 ちなみに俺は野宿する側だ。村人達は先の戦いの功労者である俺に宿屋を使ってくれと言っていたが、深手を負った怪我人が多かったので彼等に譲ったのである。

 そんなわけで俺は今1人で、タオルケットのような布を掛け、世界樹の幹の付近で寝転がっているところであった。

 俺の他には誰もいない。色々と考え事をしたかったので1人になりたかったのだ。

 まぁそれはさておき、野宿ではあったが、寄らば大樹の陰という言葉もあるように、世界樹のおかげで物凄い安心感があった。これなら安眠出来そうである。

 

(それにしてもドラクエⅣの世界樹で野宿とはね……なんか、わけの分からん体験が続くな、俺。しかし……元の世界に帰れるのか。正直、ゲームのような世界で一生終えるのは勘弁したいんだが……ン?)

 

 そんな事を考えながら横になっていると、こちらへと来る人の気配が感じられた。

 人数は2人ほどだろうか。そんなに大人数ではない。

 俺はそこに視線を向ける。

 すると気配の正体はフォルスとシンシアであった。

 

(なんだアイツ等か……散歩でもしてんのかな。って、コッチに来たな……)

 

 程なくして、2人は俺の前で立ち止まった。

 フォルスが神妙な面持ちで俺に前に来る。

 

「ジュライさん……今日は本当に、ありがとうございました。村の皆から聞きました。貴方がいなければ全滅してただろうと……」

「私からもお礼を言わせてください。貴方の助言で、私は大切な者と再会できました。本当にありがとうございました」

 

 俺は寝ながら彼等に返事をした。

 

「それは別に良いよ。気にしなくていい。迷い込んだ俺にも非はあるからね。ただし……手を貸すのはこれが最後だ。あとは君達で何とかしてくれ」

 

 2人は気まずそうに顔を見合わせた。

 すると、シンシアが言いにくそうに話を始めたのである。

 

「ジュライさん……実はお願いがあるのです。この里に暫し留まって頂けないでしょうか? 貴方の魔法の腕も然る事ながら、あの魔物達との駆け引きや、状況を読むその力に感服いたしました。どうかお願いです。この里で私達に力をお貸しください」

 

 シンシアはそう言って両膝と両掌を地面に付け、土下座の一歩手前のような姿勢になった。

 必死さが伝わる姿であった。が、俺は頭を振った。

 

「残念だけど……俺にはしなければならない目的がある。それはできない」

 

 元の世界に戻る事しか考えてないので、俺は申し出を断った。

 俺みたいなイレギュラーな存在は、この世界から早々に立ち去るべきなのである。

 するとそこで、フォルスもシンシアと同じような姿勢になった。

 

「魔物を退けたあの魔法……さぞや名のある魔導師の方だとお見受けしました。この里に留まり、軟弱な私を鍛え上げてくださいませんでしょうか。私は……ただただ、自分が情けないんです。皆に守られてばかりで……。今回ばかりは、こんな自分が心底嫌になったんです。ウウウッ……」

 

 そしてフォルスは大粒の涙を流し、顔を俯かせたのであった。

 もう見るからに悔し泣きといった感じだ。

 本来ならばもっと悲惨な目に遭っていたところだが、これはこれで、よりみじめな気分になったのかもしれない。

 だが問題はそこではない。

 フォルスは今の状況の本質的な問題に気づいてないのだ。

 俺は彼にその事を告げる事にした。

 

「なぁ、フォルス……お前はこの里に留まるつもりなのか?」

 

 フォルスは顔を上げる。

 

「え? は、はい、そのつもりですが……」

「さっき会ったフェルミナさんが、この里でお前を匿うのを許可する、と言ってたよね。なぜ、今頃になって許可したんだと思う? するなら、最初からここで匿えばよかったのに。なぜだろうね?」

「え? そ、それは……」

 

 フォルスは言葉が出てこなかった。

 指摘の意味に気付いたからだろう。

 

「なぜ最初から匿わなかったのか……これは俺の見解だが、君を匿うとこの里……いや、この世界樹に危険が迫るからだと思うよ。君は今、奴等が血眼になって探している都合の悪い存在だ。そう……勇者になる可能性のあるね。そんな人間がここに匿われるわけだから、この先、ここに何が起こるかわからないよね。でも、フェルミナさんは許可を出した。勇気がいる決断だと思うよ。君はその事についてどう考えているんだ?」

「ちょっ、ちょっと、突然、何を言い出すんですか! ついさっきまで、フォルスは魔物に狙われてたんですよ。フォルスが一番辛いんです。それなのに、何でそんな事を……」

 

 シンシアはやや怒り気味にそう捲し立ててきた。

 だが俺は構わず続けた。

 

「だから、今はそれを言うな……という事かい? 今言おうが後で言おうが、同じ事だと思うけどね。結論は変わらない。強いて言うなら、後にすると、現実逃避の時間が作れるくらいか。でも魔物達は、そんな事情は汲んでくれないよ。粛々と勇者の排除に動くだろうね」

「……」

 

 2人はゴクリと生唾を飲み込んだ。

 俺は続ける。

 

「フォルス……お前さ、今、この里で自分を鍛えて欲しいと言ったが……仮に、俺がお前を鍛えたとして……その後はどうするんだ?」

「え、その後……ですか」

 

 フォルスは眉間に皺を寄せながら考え込んだ。

 言葉がいつまでたっても出てこない。

 何も思い浮かばないようだ。

 どうやらプランゼロなのだろう。

 村人達も匿う事だけしか考えてなかったのかもしれない。

 

(仕方ない……本来ならば俺の仕事じゃないと思うが、物語のオープニングに介入してしまった責任もある。ここは俺が本来の道を示すとしよう……)

 

 俺は身体を起こすと、彼等に導かれし者達のお話をする事にした。

 

「なぁ、フォルス。実は俺さ……さっき、お前の未来を占ったんだ。結果を聞きたいか?」

「私の未来を……ぜひ聞きたいです。教えてください」

「では教えてあげるよ。お前はこの先……7人の導かれし者達と出会うだろう。そして、その者達と共に旅に出る事になる。巨悪を倒すために」

「7人の導かれし者達……」

「ああ、そうだ。俺には見える……まず1人目は、何を血迷ったのか、思い立ったが吉日とばかりに無計画に当てもなく勇者を探す旅に出かけ、旅先で『早く人間になりたい』という魔物に付き纏われた王宮の戦士。2人目は……ありえない怪力で城の壁を破壊し、これまた無計画に当てもなく旅に出た、脳にまで筋肉が回っているんじゃないかという、武芸に秀でたおてんば姫。3人目は……2人目のお供で、神官のくせに戦いの時の第一選択肢が、1にザラキ、2にザラキ、3、4が無くて、5にザラキという、敵の命を沢山奪うのが大好きな若い男。4人目も2人目のお供で、取り立てて特徴がない、存在感の薄い老魔法使い。5人目は、正直なところなぜ導かれたのか謎だが、『伝説の武器や宝物を探し出す』というアホなロマンを掲げて家を飛び出し、家族を路頭に迷わしかけた小太りな商人の男。6人目は、占いで生活費を捻出する魔法が得意な地道な女。7人目は6人目の姉で、稼いだ妹のお金を博打で使い切る、魔法が得意などうしようもない踊り子の女。それら7人の姿が……俺には見える」

 

 俺の話を聞いた2人は、口元をヒクつかせていた。

 フォルスが恐る恐る訊いてくる。

 

「あの……冗談……ですよね?」

「まぁとりあえず、冗談という事にしておいてくれ。アハハ」

 

 フォルスはホッと安堵の息を吐いた。

 

「そ、そうですよね。よかったぁ……。だって僕、そんな人達と一緒に旅する自信ないですもん。なんだ冗談か……アハハハ」

「そうよ、そんなことある筈ないわ、フォルス。もう、ジュライさんたら、冗談上手いんだから、アハハハ」

 

 そして乾いた笑い声が、この場に響いたのであった。

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