[壱]
ポツポツと雨が降り始める中、魔法の絨毯で船に近づくにつれ、フォルス達の姿が見えてきた。
甲板にはフォルスとシンシア、マーニャとミネアの姿があった。
他にも船乗り達の姿がある。
だが、フォルス達は敵と思っているのか、身構えていたのだ。
とはいえ、ある程度近づくとフォルス達も気づいたようで、戦闘態勢を解いてくれた。
そして、俺達に向かって両手を振り、大きな声で呼びかけてきたのである。
「ジュライさぁぁん!」
「本当にジュライさんだ!」
「よぉフォルスにシンシア。元気にしてたか」
続いてマーニャとミネアがこちらに寄って来た。
「ジュライさん、なんですか、その乗り物は!」
「やだ、凄い乗り物じゃない。って……おとう……じゃなかった、スライムもいるし」
エドガンさんはぴょんと飛び跳ねた。
スライム転生の件を口外するなと、エドガンさんは姉妹に言ってあるので、マーニャも言葉を選んだようだ。
進化の秘宝に通じる案件なので、それもやむ無しだろう。
「マーニャとミネアも元気そうだな。これは旅先で手に入れた乗り物さ。つーわけで、ちょっと雨宿りさせてくれよ、フォルス」
「いいですよ、どうぞどうぞ」
「じゃあ、甲板借りるよ」
俺は魔法の絨毯をフォルス達の船に着艦させた。
その際、船のクルー達も作業の手を休め、こちらをガン見していた。
恐らく、この魔法の絨毯に驚いてるのだろう。
俺達の方を指差し、「おい、アレ!」などと言ってる船乗りもいたからだ。
もしかすると、エドガンさんを見て驚いてるだけの可能性もあるが。
まぁそれはさておき、俺はそこで魔法の絨毯を丸め、フォルス達に向き直った。
「いやぁ、雨が降ってきてさ。ちょうどよかったよ。ところで他の皆は?」
「他の方々は下の船室にいますよ。呼んできましょうか?」
「いや、いいよ。雨もポツポツ降ってきてるし」
と、そこで、ミネアとマーニャが俺の前に来た。
「見違えました、ジュライさん。サランの町で別れた時と全然雰囲気が違うから」
「そうよ、更にカッコよさが増したというか。服や装備品も全然違うもんね。なんか凄腕の剣士に見えるわよ」
今の俺は白く長い陣羽織みたいな衣服と、その下に忍者のような濃紺の装束を着ているので、サランの時とはかなり雰囲気も違うだろう。
背中の見慣れない太刀も相まって、微妙に佐々木小次郎風ファッションとなっているからだ。
「それと新しいお仲間もおられるのですね。ス、スライムもいますし、どういった方々ですか?」
ミネアはエドガンさんをチラッと見た後、リバストに目を向けた。
お父さんと言いたいところだが、我慢してるのだろう。
俺も姉妹の意を汲んで答えるとしよう。
「ああ、この剣士はリバストだよ。さる錬金術師のお陰で現世に召喚できたのさ。で、コッチは旅先で仲間になった、喋るスライムのエドっちだよ」
「エ、エドっち?」
エドガンさんは目を大きくしながら俺を見た。
咄嗟の俺のアドリブに驚いたのだろう。
「スライムはともかく、その方はリバストさんなのですか!」
「ジュライさん、どうやってリバストさんを仲間にしたの。あの人……幽霊だったような」
フォルスとシンシアは若干、引き気味に驚いていた。
まぁ元はというか今もだが、亡霊だし、仕方のないところだ。
「うそ……リバストさんなの。それと、エドっちって……プッ」
マーニャは少し吹き出し気味であった。
ゆるキャラ風にしたので、ウケは良さそうだ。
「そうなのですか。でも、リバストさんと旅しているとは思いませんでした。頼もしい方々と旅されてたのですね。そして……その絨毯も気になります。どういった物なのですか?」
ミネアはさすがに、冷静で知的な受け答えである。
「これは魔法の絨毯というらしい。エドガンさんの研究所で見つけた物さ。細かい事はまた後で教えるよ」
「え、お父さんの研究所に!? こんな物があったのですか?」
「それがあったんだよ」
「でも凄い乗り物ですね。空を飛べますし。いいなぁ」
ファルスは羨ましそうに絨毯を見ていた。
「だろ。ほんとうに便利なんだよ、これが……ン?」
俺はそこでフォルスの頭に目が止まった。
なぜなら、見慣れない兜を被っていたからである。
それは頭頂部も僅かに覆う、金色のサークレット風の兜で、額の部分には青く丸い宝石がはめ込まれていた。
その宝石からはただならぬ霊的気配を感じられる。
また、左右には魚のヒレを思わせる造形の物があり、普通の兜と違い、一風変わった感じになっているのだ。が、この造形は見覚えのある物であった。
ゲームのパッケージに描かれていた主人公の兜と、そっくりだったからである。
もしかすると、あの装備を手に入れたのかもしれない。
「おや……フォルス。変わった兜被ってるじゃないか。もしかして、それ……」
するとフォルスは、ようやく気づいてくれましたか、とばかりにニコリと微笑んだ。
「気付きましたね、ジュライさん。そうです。僕達、スタンシアラという国に行って、この天空の兜を手に入れたんですよ。凄い兜ですよ。魔物を寄せ付けない強さを感じるといいますか。とにかく、凄いです」
フォルスは饒舌になり、嬉しそうにそう答えた。
どうやら、スタンシアライベントを無事に完了してきたようだ。
「へぇ、それが天空の兜なのか……なるほどね。でも……」
俺はそこで言葉に詰まってしまった。
なぜなら、形に違和感を覚えたからである。
リアル天空の兜を見たからだろうか。
イラストだと気にならなかった部分が、あるモノを連想させたからだ。
「ン、どうかしましたか?」
「いや、大したことじゃないんだが……なんかその兜、形が魚っぽくね? お前が被ってると、その髪の影響で緑色の魚に見えるというか……」
するとその直後、この場が一瞬シーンとした。
そして堰を切ったように、マーニャが天空の兜を指さし、腹を抱えて笑い出したのである。
「アハハハハハ、さ、魚……確かに! ハヒィハヒィ、言われてみると魚っぽいわ。緑色の突撃魚みたい、アハハハハ」
「ね、姉さん……わ、笑いすぎです……プッ」
ミネアは服の袖で口を覆った。
笑いを堪えてるようだ。
「ジュライさん……苦労して手に入れたのに、それはないですよ」
フォルスが恥ずかしそうに抗議してきた。
「そ、そうですよ。いくら何でも、さ、魚って……」
シンシアもそうは言いつつ、少しニヤけていた。
内心、思ってはいたのかもしれない。
まぁとはいえ、苦労して手に入れた天空装備だし、一応謝っておこう。
「悪い悪い、別に馬鹿にするつもりで言ったんじゃないよ。形の事なんて気にするな。凄い防具なのには変わりないんだし。でも、手に入れるの大変だったんじゃないのか?」
ゲームだとパノンのイベントだった気がするが、ここではどうだったんだろうか。
するとそこで、マーニャが溜息を吐いた。
「そうよ。聞いてよ、ジュライさん。あそこの王様、余を笑わせる事ができたなら、褒美として天空の兜を授けようなんて言い出してきたのよ。私達、笑わせようと、一生懸命頑張ったのに、無反応だし。嫌になっちゃったわ。私の渾身の笑いの舞いを見せたのに……」
「まぁまぁ、姉さん。あれはどうにもなりませんよ。でもパノンさんという旅芸人のお陰で、何とかなりましたので、それで良しとしないと」
寒いギャグでも披露したのだろうか。
見てみたいものである。
それはさておき、やはりパノンのイベントだったようだ。ここは一安心である。
でも知らんふりはしとこう。
「へぇ、そんな事があったのか。大変だったんだな。ところで、この船はどこに向かってるんだ?」
「今、バトランドに向かってるところです。そこに天空の盾があるという情報を得たので」
行き先も同じみたいだ。
ラッキー。
「バトランドか。なら、俺も同行させて貰うかな」
「本当ですか! それは頼もしいです。でも、今日はイムルという村が目的地なんですよ。そこから徒歩でバトランドに向かうんで、ちょっと遠いですけど」
「いいよ。おっと、それはそうと……雨も降ってきたし、中で話そうか。そのほうがゆっくりと話できるし」
「ええ、そうしましょう」――
[弐]
甲板の下にある船室の中に入ると、他の導かれし者達が勢揃いであった。
全員が俺の顔を見るなり、驚きの眼差しを向けている。
1か月ぶりの再開だ。
皆、元気そうである。
「おや……って、ジュライさんじゃないですか! どうやってここに!」
「やぁトルネコ、ちょっとした移動手段を手に入れてね。それはともかく、皆も元気そうじゃないか」
俺はそこでトルネコ以外の者達に目を向けた。
アリーナにクリフトにブライ、それとライアンの姿があった。
皆、変わりはないようだ。
因みに全員、中央のテーブル席に着いていた。
テーブルには地図が広げてあるので、旅の打ち合わせでもしてたんだろう。
「ジュライ殿、お久しぶりですな。お別れした時と姿が随分変わりました。見違えましたぞ。只者ではない雰囲気がありありと感じられる」
ライアンは顎に手を当て、感心したように俺を見た。
他の者達も、ウンウンと頷いている。
某無双ゲームキャラ風のコスチュームだが、この世界でも通用しそうな出で立ちのようだ。
「まぁな、そういうライアンも、装備がガッチリしてるじゃないか」
俺はそこでライアンの得物をチラッと見た。
ライアンの腰には、リバストの持ってる剣と同じ物がぶら下がっていた。
そう、渦を巻く、まどろみの剣である。
「この前、スタンシアラに立ち寄った際、仕入れたのだ。さすがに破邪の剣では心許ないのでな」
「へぇ、ン?」
と、そこで、クリフトが立ち上がり、俺の前に来た。
続いて、アリーナとブライも。
「お久しぶりです、ジュライさん」
「ジュライ殿、元気そうじゃな」
「へぇ、雰囲気変わったね、ジュライ。でも私、そういう格好は嫌いじゃないよ。強そうだし」
アリーナの戦闘民族的な価値観は相変わらずのようだ。
コイツは戦闘服以外、興味ないのかもしれない。
「それはそうと、背中の剣……もしや、目的の剣を作る事ができたのですか?」
と、クリフト。
「ああ、無事作れたよ。代用品で作ったから、未知数な部分もあるがな」
「ほほう、それが、ジュライさんの作られた剣ですか。変わった雰囲気の剣ですな……後でじっくり見せてくださいよ。私はこう見えて武器商人でもありますからな」
などと言いながら、トルネコも興味深そうに剣を見ていた。
この世界では見られない
と、そこで、アリーナが勢い良く前に来た。
「それはともかく、ジュライ……ようやく、私達とまた旅をするのね。いい機会だわ、早速、上で手合わせするわよ」
アリーナはそう言うや、ボクサーのようなファイティングポーズをとった。
脳筋ぶりも相変わらずのようだ。
「いきなりそれかよ。そんなことよりさ、アリーナに贈り物があるんだ。以前立ち寄った所で面白い物を手に入れたんでな」
「贈り物? 何よそれ」
「これだよ」
俺はロザリーヒルで購入したキラーピアスを手渡した。
ゲームでは、両耳につけるアリーナ専用の強力武器である。
因みにこのキラーピアスは、神秘の力の反響を利用した武器だとラモンさんは言っていた。
1度の攻撃で2度の打撃を与えるとの事だ。
話を聞く限り、ゲームと同じ効果があるようだが、試したわけではないので実際のところはわからない。
ゲームに習って買ってみただけである。
銀色のティアドロップ型の形状で、中心にブルーサファイア風の美しい宝石が入ってるのが特徴だ。
因みに、7500ゴールドの定価で買った。
破壊の剣を売って得た金があるので購入はできたが、高い買い物なので少々痛い出費だ。
だが、これも天空城へ行く為の出費と思い、割り切ったのである。
「なにこれ? すごい綺麗だけど……何かの宝石?」
アリーナはキラーピアスを見るや、眉根を寄せた。
するとそこで、なぜかモンバーバラ姉妹が割って入ってきたのである。
「ああ、なんでアリーナ姫だけ! なんで私には何もないのよ!」
微妙に怒ってるのか、マーニャは頬を膨らましてる。
しかも、なぜかミネアまで、鋭い眼光を俺に向けていた。
(あれ……なんか2人とも怒ってない? もしかして拗ねてるのか? 勘違いしてるな、こりゃ……)
アリーナだけに、ガチ宝石をプレゼントしたとでも思ってるのだろう。
誤解してるようなので、言っておかねばなるまい。
「あのな、何か勘違いしてるようだが、これは武器だよ」
「え、武器? これが?」
皆、ポカンとしていた。
多分、初めて見る武器なんだろう。
「ああ、そうだ。女性専用の武器さ。ただ、力のない女性にはあんまし効果がないみたいだけどね。ほら、やるよ、アリーナ。多分、お前の強い相棒になるだろう」
アリーナはキラーピアスを受け取ると、眉根を寄せて首を傾げた。
「武器に……全然見えないんだけど。これは普通の女の子が喜ぶ装飾品じゃないの? 私、こういうのあんまり興味ないよ」
一応、自分が普通じゃないという自覚はあるようだ。
まぁお姫様だし、こんな宝石っぽいのは見飽きてる事だろう。
「違うんだな、それが。これは1度の攻撃で2度攻撃できる代物なんだよ。店主曰く、肉体と神秘の力の両方で攻撃するんだとさ」
アリーナは目を大きくし、嬉しそうに微笑んだ。
「ええ!? 嘘、本当に!? どうやって使うの?」
「両方の耳に当てがってみるといい。神秘の力で、耳たぶに貼り付くそうだ」
「へぇ、じゃあやってみよ」
アリーナは早速、耳にキラーピアスを当てた。
すると、ふわっと淡く宝石が輝き、ピタリとアリーナの耳に貼り付いたのである。
これは霊的な見方をすると、アリーナの霊体とキラーピアスがリンクしたような感じであった。
もしかすると、この世界における神秘の力とは、霊体と繋がる力の事をいうのかもしれない。
「ねぇ、なぜか知らないけど、凄く体が軽くなった感じがする。これもこの武器の力なの?」
アリーナは俺に近づくと、両掌を見た。
「さぁな。俺は着けた事ないからよくわからんよ」
「ふぅん、でも1度で2度攻撃できるのよね」
「そう言ってたよ」
「よし、じゃあ、ハァァッ!」
と、その直後、なんとアリーナは俺に向かい、正拳突きを見舞ってきたのだ。
「のわぁ!」
俺は咄嗟に腕をクロスしてガードし、それを防いだ。が、しかし、次の瞬間、重い衝撃が立て続けに腕を駆け抜け、俺は後方へと吹っ飛ばされたのだった。
この突然の事態に、俺は少々パニクった。
(こ、この脳筋娘……俺に試し打ちしてきやがった。なんで、ねぇ……なんで俺にしたの? 普通、敵にやるもんだろうがァァァ! このアンポンタン娘!)
アリーナはそこで、悔しそうに口を尖らせた。
「あ~あ、今のを防ぐなんて。今度は決まったと思ったのにな。さすが、ジュライね。でも……これ凄いかも。守りに入ってるジュライをあんなに吹っ飛ばせたし」
これには俺も、ちょっとキレかけた。
「アリーナ……お前、なんで俺で試すんだよ! 危ないじゃないか! 大怪我したらどうすんだ!」
「だって、ジュライで試したほうがわかりやすいもん」
駄目だ、コイツ。
というか、すっごい馬鹿なのを忘れてた。
他の皆も少し引き気味であった。
彼等もアリーナの習性を再確認したことだろう。
「アリーナ、やっぱそれ返せ! お前にはまだ早い」
「ヤダ。これ気に入ったもの」
「仲間を攻撃するような奴にはやらんわ。返せ!」
「ヤダ」
アリーナは耳を押さえながら後ろに下がる。
するとそこで、ブライが含み笑いをしてきたのだった。
「ふっふっふっ……甘い、甘いのう。ジュライ殿はまだわからぬようじゃな。アリーナ様に、そんな道理なんぞ通用せんのじゃよ。まったく修行が足らんわい」
「ブライ様、そこまで言わなくても……」
お前が言うなと思ったのは言うまでもない。
それはさておき、アリーナはやはりアリーナであった。
脳筋の戦闘民族である。
余計な物を与えたのが悔やまれるところだ。残念。