DQⅣ世界に、迷い込みて候   作:虚夢想

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Lv6 世界樹からの伝言

   [壱]

 

 

 フォルス達が去った後、俺は横になって寝直すことにした。

 物語に介入してしまったが故ではあるが、全くもって面倒な展開が続く。

 異世界に飛ばされたというだけでもナーバスなのに、これ以上の面倒事は正直勘弁であった。

 ちなみにだが、さっきのフォルスの申し出は断っておいた。

 理由は簡単だ。俺はドラクエ世界の魔法なんぞ使えないからである。

 この世界の魔法も、俺が使う呪術同様、霊体の力を用いてるのは霊気の流れからわかるが、どうやってそれを引き出してるのかわからないので、教えようがない。

 それに、俺の呪術はそもそも一子相伝に近いので赤の他人に教えられないのもある。まぁそんなわけで断ったのである。

 ゲームを知ってるとはいえ、知ったかぶりをするわけにはいかないのだ。

 だが、この世界の魔法という技能については気になるところであった。

 ゲームだと、つよさのコマンドでキャラのステータスが見れたが、その中の魔力の項目が、もしかすると霊力に当てはまるのかもしれない。

 まぁあくまでも仮定の話だが。

 加えて、他にも気になる事がある。

 それは、俺がベレスに使った迦楼羅焔の火炎呪の事だ。

 日本で使っていた時と比べると、明らかに強力なのである。そこは気になるところであった。

 他の呪術を試してないからまだ何とも言えないが、もしかすると、この世界と現実世界とでは、大気中に漂う霊気量が違うからかもしれない。

 実際、この世界は大気中でもそこそこの霊気があるように感じる。その上、大地の霊気もかなり強い。

 山奥の村で使った八門の結界も、よくよく考えたら現実世界で使ってた時より、かなり強力であった。なので、そこがもしかすると関係してるのかもしれない。

 まぁとりあえず、この件は後で検証してみる必要がありそうだ。

 

(にしても……ドラクエ世界の魔法って、一体どういうメカニズムなんだろう。メラとかギラとか唱えるだけで、自分の霊体から霊力が引き出されて魔法が使えるんだもんな。幾らゲームの事とはいえ、その世界にいる俺からすると無視できない現象だ。俺の呪術は霊力を高めて、複雑な術式や真言(マントラ)を用いないと発動できないから、そこは気になるわ。ゲームしてたときは気にしたことなかったけど……ん?)

 

 そんな事を考えていると、また人の気配がしてきた。

 気配の感じからして、今度は恐らく1人だろう。

 程なくしてその人物は俺の前へとやって来た。

 現れたのは里の長、フェルミナさんであった。

 瑞々しい緑色の長い髪をふわりと靡かせ、そこから尖った長い耳が見え隠れしている。

 線が細く、人形のように整った顔立ちの美しい女性であった。

 神秘的な美しさというやつである。

 

「お休みのところ申しわけありませんが、今、お時間よろしいでしょうか?」

 

 面倒くさかったが、里の長でもあるので俺は身体を起こした。

 

「はい、何でしょうか?」

「ジュライ様……シンシアから全て聞きました。まずは貴方にお礼を言わせてください。あの村の者達を救って頂き、誠にありがとうございました」

「いや、まぁその事に関しては成り行きでそうなっただけなので、あまり気にしないでください」

「いえ……そういうわけには参りません。あの村は、然るお方からフォルスを保護してほしいとの願いを受けて造られた村なのです。貴方のお力無くば、その願いを踏みにじるところでした。感謝してもしきれません。ありがとうございました」

 

 フェルミナさんはそう言うと両膝をつき、俺に向かって祈るかのように手を組んだ。

 なんか知らんが、大袈裟な仕草であった。

 ここではこういう風に感謝するのかもしれない。

 

「フォルスを保護するための村ですか……依頼主が誰かは知りませんが、色々と事情があるのでしょうね。さきほど、ニース様と仰っておられましたが、その方ですか?」

「ええ、その御方です。少々込み入った事情がありまして……」

 

 フェルミナさんは少し表情を曇らせた。

 多分、あまり話したくはないのだろう。極秘事項なのかもしれない。

 なんとなくだが、フォルスの出生に関する者な気がする。名前からして女性っぽいから、母親という線かもしれない。

 まぁそれはさておき、詮索してもしょうがないので、話題を変えるとしよう。

 

「ところで、他に何かあるのですかね? 今、まずはお礼と仰いましたが?」

「はい、実はその事で参りました。ですが、私ではありません……世界樹が、貴方に伝えたい事があるそうです」

「世界樹が、俺に?」

 

 俺は思わず、背後にある世界樹に視線を向けた。

 

「はい……世界樹はこう言ってます。貴方は天空城の主……マスタードラゴンに会う必要があると……」

 

 頭の痛い展開である。

 おまけに気にくわない話であった。

 

「唐突ですね……しかも、マスタードラゴンにですか。なぜ会わないといけないのですかね?」

「世界樹が言うには、マスタードラゴンは世界を見通す力を持っているからとの事です」

「なるほど……ところで、フェルミナさんは世界樹と話が出来るのですか?」

「はい。世界樹は意思を伝える者として私をお選びくださいました。この里は世界樹に選ばれた者が、代々長となる慣わしがあるのです」

 

 ゲームでは聞いた事ない話だが、今は置いておこう。

 

「そうだったのですか……では今の事について幾つか質問があります。まず1つ目、世界樹はなぜ私の事を知っているのですかね? 御聞きしてもらえませんでしょうか」

 

 フェルミナさんはそこで目を閉じる。

 世界樹と交信してるのだろう。

 

「この世界に根差す木々は全て世界樹の影響下にあります。それらの木々を通して、貴方があの森に突如現れたのを世界樹は知ったそうです」

「森の木々を通して知ったというわけですか……なるほど。では2つ目、世界樹は私が元々どこにいたのかを知ってるのですかね?」

「それはわからないそうです。ただ……」

「ただ?」

「貴方があの森に現れた時、この世界に穴が開いたと言っております。その穴から、貴方がこの世界にやって来たと……」

 

 恐らく、穴というのはあの青い渦の事だろう。

 もしかすると、あれは旅の扉だったのかもしれない。

 俄かには信じられないが、質問を続けるとしよう。

 

「今、穴が開いたと仰いましたが、それはどういう意味ですか?」

 

 フェルミナさんはまた目を閉じる。

 すると目尻に皺をよせ、少し困った表情になった。

 世界樹が妙な事を言ったのかもしれない。

 程なくしてフェルミナさんは、やや曇った表情で口を開いた。

 

「私もよくわからないのですが……穴とはそのままの意味だそうです。それと、世界樹が言うには、貴方が現れた時にできた穴の他に、もう1つ……地の底奥深くに別の穴があるそうです。そして、そこから大きな災いが生まれようとしていると……」

 

 どうやら穴とは、この世界と別の世界を繋ぐワームホールのような意味合いのモノなのかもしれない。

 現に俺がその穴とやらを通ってきたので、その可能性は大いにありそうだ。

 

「大きな災いねぇ……」 

 

 するとその時であった。

 フェルミナさんが慌てたように声を上げたのである。

 

「えッ!?」

 

 フェルミナさんは困惑気味な表情で胸に手を当てていた。

 

「どうかされましたか?」

「そ、それが……このままでは大地が死んでしまうと世界樹が言っているのです」

「はぁ? 大地が死ぬ?」

 

 これは俺も想定外の話であった。

 

(ドラクエ4ってこんな展開なかったよな……どういう事? とはいえ、もうすでに俺が要らんことして規定路線ではなくなってはいるけど……ン?)

 

 フェルミナさんは真剣な眼差しで俺をジッと見ていた。

 

「また世界樹が何かを言われたのですか?」

 

 フェルミナさんはゆっくりと首を縦に振った。

 

「世界樹はこう言ってます……貴方が希望になるかもしれないと……その為にも、天空城の主、マスタードラゴンに早く会う必要があると」

 

 俺は思わず額に手をやり、溜息を吐いた。

 正直、ついていけないというのが本当のところである。

 俺は彼女に言った。

 

「残念ですが……俺にも都合というのがあるので、世界樹の言い分をそのまま聞くわけにはいきませんね。一時的に避難場所として受け入れてくれた御恩はありますが、それとこれとは話が別です。それに……フォルスがいるじゃないですか。彼はこの先、天空の勇者としての資質に目覚めるかもしれませんよ。天空の武具を揃え、塔を登り、天空城の主に会うべきは彼なんじゃないでしょうかね。なんでしたら、この世界樹にある天空の剣を彼に渡したらどうですか?」

 

 するとフェルミナさんは目を大きく見開き、驚きの表情を浮かべていた。

 

「あ、貴方は……なぜそれを知っているのですか。天空の剣がここにあるという事を……」

 

 どうやらゲームの知識を出し過ぎたようだ。

 まぁいい。適当に話を合わせておこう。

 

「やはりあるのですか? そういう噂を聞いただけですよ。まぁそれより、あるのなら彼に渡したらどうです。彼が天空への塔を登らない限り、どの道、天空城へはいけないのでは?」

「確かに貴方の言う通りですが、それはできません……いや、その前に、天空の剣は今の彼を主と認めないでしょう。フォルスは天空の勇者としての資質は確かにありますが、彼はまだその力に目覚めていません。世界樹の中には天空の剣を守る為の魔物が沢山いますが、それらを跳ね除ける力がない限り、剣を手にする事は許されないのです」

 

 どうやら世界樹にいる魔物は、天空の剣を守る為にいるようだ。

 他の魔物と霊気の質が違う理由はこれなのだろう。

 世界樹の影響下にある魔物に違いない。

 

「じゃあ、彼が成長するのを気長に待つしかないですね。それに……俺も元いた場所に帰りたいので、あまり面倒事に付き合う気持ちもないんですよ。なので、お断りしますと世界樹にお伝えください」

「ですが……世界樹はこうも言ってますよ。それが、貴方が帰る為の道になるかもしれないと……」

 

 その言葉を聞き、俺はまた額に手をやり、溜息を吐いたのであった。

 なんでこう面倒な展開が続くんだよと、心の中で嘆きながら――

 

 

   [弐]

 

 

 この世界に来てから数日が経った。

 世界樹の麓にあるエルフの里で、俺は今も尚、過ごしているところだ。

 この場所から出たいのだが、如何せんどうにもならない。

 なぜなら、周りは砂漠な上に、この世界樹のある地域は高い山々に囲まれているので、徒歩移動はかなり厳しいからである。まぁ早い話が、八方塞がりなのだ。

 よく考えたらゲームだと、この辺りは気球がないと来れない秘境であった。

 なもんで、やる事がない俺は世界樹に寄り掛かり、今はフォルス達の修行風景をただボケーと眺めているところであった。

 フォルスは朝食後から、剣士風の若い男と剣の修行中である。木刀で模擬戦闘をしているところだ。

 剣士風の若い男はローグという。この間、自己紹介をした時、そう言ってた。それ以降は会話はない。まぁ特に用事もないからだが……。

 それはともかく、ゲーム同様、今のフォルスはあまり大したことない。

 ハッキリ言って弱い。まさしくレベル1だ。前途多難である。魔法もニフラムだけであった。

 

(今日も頑張ってるねぇ、フォルス君は。にしても、無駄な動きが多すぎるだろ。ローグさんも、もう少し体裁きとか教えてやれねぇのか。あんな直線的な動きばかりじゃ、すぐに死ぬぞ。って、そういや、この世界で死んだらどうなるんだろ……ゲームだと所持金半額で、教会復活だったけど……ま、フォルスの心配してもしゃあないか。さて……これからどうすっかな。フェルミナさんはというか、世界樹は天空城へ行けと言ってるみたいだが、勇者の冒険に付き合うのは御免被(ごめんこうむ)りたい。それに俺はイレギュラーな存在だから、導かれてないと思うし……)

 

 そんな事を考えていると、シンシアがこちらにやって来た。

 

「ジュライさん、どうしたんですか? さっきからボーとしてますけど」

「見たまんまだよ。ボーとしてるところです」

「アハハ、なんですかそれ」

 

 シンシアは無邪気に笑った。

 そこで、ふと思い出したことがあった。

 

「あ、そういえばさ……昨日、フェルミナさんからコレを貰ったんだよ。転移の時に必要だとか何とか言ってたけど、何なんだコレ?」

 

 俺はシンシアに、フェルミナさんから貰った腕輪らしきモノを見せた。

 木で作られたバングルタイプの腕輪で、それには奇妙な文字みたいなのが彫り込まれていた。

 やや濃い霊気を感じるので、ただの腕輪ではない筈だ。

 霊気の質からすると、世界樹に縁のあるモノかもしれない。

 それはさておき、シンシアはやや驚いた仕草をした。

 

「あ、それは世界樹の腕輪じゃないですか!」

「よくわからんが、コレはなんなの?」

「それは世界樹の腕輪といってですね、これがないと、エルフの里に転移出来ないんですよ。エルフ以外の者にこの腕輪を渡す事って滅多にないので、ジュライさんの事をフェルミナ様がお認めになられたのだと思います。よかったですね」

「要するに、里に出入りする為の許可証みたいなもんてことね」

「ええ、その通りです」

 

 よく考えたら、ゲームだと世界樹にルーラ出来なかった気がする。

 これがあるとルーラで転移出来るという事なのだろう。

 あまり喜びたくはないが、とりあえず、レアアイテムをゲットしたようだ。

 

「ところで……ジュライさんは、これからどうするんですか?」

「それを今考えてるところだよ」

「じゃあ……フォルスの力になってやってくれませんか? 貴方みたいな凄腕の魔導師がフォルスについてくれたら、どれだけ力になるか……」

 

 シンシアはそう言うと表情を落とした。

 このお願いは、愛ゆえにというやつだろう。

 フォルスが心配でしょうがないに違いない。

 

(でも、独身28歳の俺からするとイラっとくる話だけどな。こちとら稼業のお陰で彼女もできにくい上、フラれまくりの人生である。友人にコンパに誘われて、そこで職業言おうもんなら、全ての女性に距離を取られる始末だ。こういう奴等を見てると腹が立ってしょうがない……おのれ、フォルスめぇ……)

 

 などと思いつつも、俺は爽やかに返した。

 

「そっかぁ……君はフォルスの事が大好きなんだな」

 

 するとシンシアは顔を真っ赤にした。

 

「え!? そ、そういう意味で言ったんじゃないです。私は勇者としてフォルスが成長してほしいから」

「まぁまぁ別にいいじゃん。やるなぁフォルス」

「んもう……ジュライさんたら。それはそうと、どうですか? 貴方ほどの魔導師がフォルスの傍にいてくれると、彼も心強いと思います」

 

 さっきから妙な職業名を言われてるところを考えるに、俺はかなり誤解されてるようだ。

 この際だから、はっきり言っておこう。

 

「さっきから俺の事を魔導師って言ってるけど、そんなんじゃないよ。俺はあの森に迷い込んだ、ただの通りすがりの山菜取りだ。妙な期待はしないでくれ」

「そんな謙遜しなくていいですよ。ただの山菜取りが、あんな魔法使えるわけないじゃないですか」

「じゃあ、妙な術が使える通りすがりの山菜取りって事にしといて」

「アハハ、なんですかそれ。ン?」

 

 するとそこで、噂してたフォルスがこちらへとやって来た。

 どうやら休憩のようだ。

 ローグさんもこちらへと来る。

 

「ジュライさん、シンシアと何を話してたんですか?」と、フォルス。

「この間の事をもう一度お願いしてたところよ。ね、ジュライさん」

「まぁね。とりあえず、シンシアちゃんは、フォルスが心配でしょうがないというのはよくわかったよ。愛ゆえにってやつだね。いいなぁ、フォルス。こんな可愛い子に心配してもらえて」

「もう、ジュライさん。突然何を言うんですか」

「そ、そうですよ」

 

 フォルスとシンシアは互いに顔を見合わせ、頬を赤く染めながら恥ずかしそうにそう言った。

 ちょっとイラっとしたのは言うまでもない。

 そこでローグさんが俺に話しかけてきた。

 

「ところでジュライさん、貴方はこれからどうするのだ? 色々とあって世界樹にまで来てしまったが……」

「そこなんですよね。まぁ何れにしろ、俺はもう一度、あの森へ行ってみようかと思います」

「あの森?」

「皆さんが住んでいた村があるあの森ですよ。実はですね……」――

 

 隠していてもしょうがないので、俺は彼等に今までの経緯を簡単に話しておいた。

 元々違う場所にいたという事と、青い霧の渦に巻き込まれてあの森に迷い込んだという事等をである。

 3人は俺の話を聞き、最初は微妙な視線を向けていたが、まぁ納得はしてくれたようだ。

 

「青い霧の渦か……今の話を聞く限りだと旅の扉かもしれないな。突然出現したというのは初めて聞いたが……」

 

 ローグさんは顎に手をやり、首を傾げた。

 

「そんな事があったのですか。ジュライさんも大変だったんですね」と、フォルス。

「まぁな。そんなわけで、俺はあの森にもう一度行きたいんだよ。帰る糸口が見つかるかもしれないからね。ところで、シンシアってルーラで行けるとこって他にあるのかい?」

「他にですか……ブランカくらいしかないですね。時々、モシャスで変装して買い物に行くことがあったので」

「ブランカか……」

 

 第5章の超序盤の王国である。

 あの森から近いので足掛かりとしては良い場所だが、今はデスピサロ達の動向が気になるところだ。

 行くかどうか悩むところである。

 

(どうすっかな……まぁでも行ってみるか。世界樹の言ってた内容も気になるが、他に何かわかるかもしれないし。よし……善は急げだな)

 

 というわけで、俺はシンシアにお願いする事にした。

 

「なぁシンシア……急で悪いんだが、今から君のルーラで俺をブランカに連れて行ってくれないか」

「え? 今からですか?」

「ああ、今からだ」――

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