【完結】最終戦国武闘伝 〜バイオレット・ダークネス〜 作:無敵ざかり
「皆様! 大変お待たせいたしました! ただいまより、第百回戦国武闘会、決勝戦を行います!」
実況のミラクル・ショーの声が響き渡る。
「うおぉぉーっ! シデン! シデン!」
「グレイテスト・シーザー! その新しい銃のパワーを早く見せてくれーっ!」
観客の盛り上がりは最高潮に達していた。
「あーっとグレイテスト・シーザー選手、またもや一人です! 一人でシデン・ギャラクシー選手と戦うつもりでしょうか!」
「問題……ない……一人で……十分……」
「おっとぉー! 準決勝に続きまたもや一人で十分宣言だ! それでは、シデン・ギャラクシー選手、グレイテスト・シーザー選手、両者準備はよろしいですね!?」
「ああ!」
「……ああ」
「それではカウントダウンを行います! 会場のみなさんもご一緒に! 今回は何せ決勝戦ですから! デュエマ・スタートまでご一緒にお願いします!」
「「「5! 4! 3! 2! 1!」」」
「「「デュエマ・スタートオオォォ!」」」
試合開始と共に、グレイテスト・シーザーが、《
シデンはそれを回避した。
この威力……これが、グレイテスト・シーザーが持つと聞いていた世界を破壊しかねない武器か。と紫電は思った。
どんな超獣の攻撃が当たっても粉砕などされたことのない、超強固に作られたモニター。
それを粉砕した
そして、その威力に恐怖する超獣達もいた。
シーザーは感じていた。妙な感覚がする、と。そう、あの時……。まるで、この
シーザーの体の主導権が、奪われた。
幾つもの超銀河弾は闘技場の観客を守る防壁をぶち抜き、観客を粉砕していく。
「うわあぁーっ!」
「助けてくれえぇーっ!」
「あ……ああ……!」
「ひいぃ……! うぎゃあぁっ!」
闘技場で決勝戦を見ている者達も、遠くから中継で決勝戦を見ている者達も、超強固に作られた闘技場の防壁が粉砕され、無差別に大量の観客達の命が奪われていく光景は、見たことがなかった。
「だ……駄目だ……!」
「このままでは……世界は……!」
グレイテスト・シーザーをここで誰かが止めなければ、世界は荒廃する。決勝戦を見ている誰もがそう思っていた。
「いや……もう駄目なのだな……」
「世界は……世界は……」
しかし、誰なら、一体誰なら、グレイテスト・シーザーを止められるのか。あれ程強力な超銀河弾を使う者を止めることなど不可能。皆がそう思い、絶望していた。
体が勝手に動く。シーザーはあっけに取られたあと、かつてない恐怖と焦燥感を感じた。
そしてまた、
一人のナイトが飛び出し、超銀河弾の前に立ちはだかる。肉体が鎧ごと粉々に粉砕される。その騎士は文字通り身を粉にして、ある魔弾を守った。
武闘会を守護する特殊部隊。その騎士隊長が叫ぶ。
「あ……あれだけは……! あの魔弾だけは守らなければならない……! 《魔弾ソウル・キャッチャー》だけは! 皆、後に続けぇ! 我らが盾となるのだ!」
天雷の騎士を中心としたナイト達が突撃する。
「今こそ……気高き精神性を、高潔なる魂を見せる時!」
「我らは護るべきものを見捨てはしない! シルヴァー・グローリーの連中に目にものを見せてやれ!」
そして一人、また一人と超銀河弾に打ち砕かれていく。
「あ……ああ……」
当然と言うべきか、目の前の惨状に足がすくんで動けない超獣たちの中にはナイトもいた。
己と比べることすらおこがましい程の実力と、気高いと言う言葉だけでは形容しきれないほどの気高さを兼ね備えた名だたる騎士たちが、次々と粉砕されていく。
復活のために必要な《ソウル・キャッチャー》を守りきれる保証もない。つまり、それが何を意味しているか……
「案ずるな、必ず護ってみせよう」
天雷の導士アヴァラルド公が、そのナイトを含めた超獣達に一声かけて、そして自らも盾になるべく駆け出そうとした時だった。
「ちょっと待てよ」
「離したまえドリームメイト! 一体何のつもりだ!」
風雷の雲ベンケイが、アヴァラルドを引き止める。
「お前には他にできることがあるはずだ。ほらあの……プラスなんたらがあるだろ? それにお前って導士……つまり、何かを導く奴なんだろ?」
「それがどうした……!」
「ちょっと導いて欲しいやつがいるのよ。もし僕が"帰ってこれなかったら"の話だけどね。ナイトにばっかり良いとこ持ってかせる訳にはいかねえ……僕も格好つけさせてもらうぜ」
ベンケイは傘を深く被りふわりと飛び立つと、まるで吸い込まれるように
爆音とともに、その身が砕け散る。
「そうだ! 俺達もナイトに負けてられねえ!」
「戦国武闘会の主役はサムライだ! 一番格好いいのはサムライじゃなくっちゃなあ!」
《ソウル・キャッチャー》を守るため、ベンケイに続いて、サムライたちがその身を盾としていく。
「ベンケーイ! 待てよ! オラを置いてどこに行くんだよ……!」
続いてトドロキが、息を切らしながら現れる。
「少年……」
「アヴァラルド! 大変なんだ! ベンケイが急に飛び出して! 一体どこに……あれは……! オラも……オラも行かなくちゃ!」
自らもソウル・キャッチャーの盾になるべく飛び出そうとしたトドロキを、アヴァラルドが引き止めた。
「待て、少年。私はあのドリームメイトと今しがた約束を交わした」
「……約束? なんだそれ」
「内容は後で伝える。少年にはここにいてほしい」
まるで理解できないという表情をしているトドロキを尻目に、アヴァラルドは魔銃に魔弾を装填する。
「アヴァラルドは!? アヴァラルドはどうするんだよ!」
「あのドリームメイトは私にはできることがあると言った……それは、これの事だろう!」
アヴァラルドは会場と観客を守るべく、《魔弾プラス・ワン》を撃ちだし、観客を守る防壁の代わりとすべく、いくつもの光の盾を展開した。
アヴァラルドの頭の中を思考が目まぐるしく駆け巡る。
一人でも死者を減らさなければ。ソウル・キャッチャーはいくつ残るだろうか。そして己のマナはいつまで持つ? あと何回、プラス・ワンを使える?
ひょっとしたら、盾を展開し続けるなど奇跡に等しい事なのではないか? 奇跡など、到底起きるものでは無い。いや、しかし奇跡とは……
「オラは魔弾が使えないから、こんなことしか出来ないけど……受け取ってくれ。今オラにできることは、きっとこれだ。」
トドロキがアヴァラルドの隣に並び立ち、その身と魔導具からマナを放出する。そしてそれは、アヴァラルドの肉体と魔銃に注ぎ込まれていく。
「……十分だ……! 十分すぎる!」
魔銃の力が高まり、魔弾の連射速度が上がっていく。幾重にも光の盾が重なってゆく。
奇跡は到底起きない? 上等だ。
奇跡は起きるのを待つものではない、起こすものだ。第1の魔弾は、強化の魔弾。
「見ろ! 俺達を守ろうとしてくれてるぞ!」
「よし! 今のうちに逃げるんだ! 一人でも死者を減らすのが、みんなのためになる! ソウル・キャッチャーの数には限りがあるからな!」
「おい! 大丈夫か! 腰が抜けてるのか! 俺が背負ってやるから逃げるぞ!」
「あ……ありがとう……ありがとう……」
「おぉい! ソウル・キャッチャーを回収してる奴ら! こことここの光の盾の隙間から逃げろ!」
「よし! そうさせてもらう!」
「私達にできることはこれ以上なさそうだ! 闘技場の外へ逃げるんだ!」
そして多くの観客が逃げ切り、まだ無事だった《魔弾ソウル・キャッチャー》の闘技場の外への持ち出しが終わると、アヴァラルドとトドロキは何故かまだ闘技場内にまだ大勢残っていた一部のナイト達に逃げるよう呼びかけた。
「アレクサンドル様! アウグスト様! 皆様! 逃げて下さい! ここは危険です!」
「そうだ! 早く逃げろ!」
「断る」
「私達には、万が一の時やるべきことがあるからなぁ〜」
「えっ……!?」
「……仕方ない! せめてこうしておこう!」
そのナイト達は、"やるべきことがある"と言って全く逃げようとしなかったので、アヴァラルドは最後にできるだけ防壁を展開し、ここまで強く防壁を貼ればしばらくは持つだろうと考えた。
「さあ! あなた達も!」
アヴァラルドはミラクル・ショー達関係者にも避難を呼びかけた。
「えっ!? しかし、私達は武闘会を管理する義務が……」
「今一番必要なのは死者を一人でも減らすことだ! 復活に必要なソウル・キャッチャーがいくつ残っているか、分からないのだから!」
「そうだよ! さあ、早く!」
「わ、分かりました……! 聞きましたか、皆さん! 避難です! 試合を中継・録画するカメラがグレイテスト・シーザー選手に全部破壊されてしまったので、試合の行く末を見れない可能性があるのが残念ですが……仕方ありません!」
アヴァラルドとトドロキは、ミラクル・ショー達を、武闘会の関係者達を連れて闘技場の外へ避難した。
その頃シデンは……
「くっ……あの弾丸に当たったらただではすまない……距離をとって回避し続けるのでやっとだ……しかし、弾丸が当たる度に闘技場が破壊されていく。闘技場が完全に破壊されたら、あの弾丸の被害は闘技場の外にまで及ぶ。おまけに、あの弾丸が空に飛んで言った先に開いた奇妙な穴も気になる……このままではまずい……やはり
「案ずるな! 世界は我らが守ってみせよう! このままでは世界は
煙とともに突然現れたドルゲユキムラが世界を守ると約束し、その力を使うよう告げた。
「まさか……
闘技場の外へ逃げ出した後、ボルシャリオは何かに気づいた。
「魔導具なのか!? それも、強固な意思を持つ!」
その考えは当たっていた。
【さあ、もっと
シーザーはその言葉をかき消すようかのに思考する。
やめろ……やめろやめろぉー……!
しかしその思いは超銀河銃には届かない。シーザーには超銀河銃に思考を伝える能力はない。超銀河銃には耳もない。シーザーがその思いを仮に口に出せたとしても、超銀河銃に伝わることはないだろう。
超銀河銃とシーザー、一人と一つ、いや、"もはや二人"の関係は一方通行だった。
シーザーが感じた"別の超獣と融合しているような感覚"は錯覚ではなかった。
【私は
シーザーは思考し続ける。
やめろ……やめてくれ……私はただ……試合を勝ち上がることが自分の存在意義だから戦っているだけで……観客を無差別に傷つけてまで最強になることなど……
【
違う……違うんだ……私の願いは……
駄目だ……願いのことなど考えている場合ではない……
アレクサンドル様もアウグスト様もまだ観客席で試合を見ている……ソウル・キャッチャーの残りの数が把握できていない今……死なせてはいけない……!
私は……止めなくては……この魔導具の凶行を止められるのは使い手である私が止めなくては……だが……私の体はもはや微塵も私の思う通りに動かない……
こうなってはあなたしか頼れない……私の中の暗黒王の魂よ……叶うならば、叶うことならば……私の体を、この魔導具を止めてくれ……!
シーザーの中の暗黒王が答える。
〈ふむ。我を拒絶していたお前が、もはや我にすら頼るか。我に肉体の主導権を握られることに反発し、我から主導権を取り返したお前が。我が邪念を送り、正気を失わせてもなかなか主導権を奪わせなかったお前が。だが、悪いがそれは不可能だな。〉
なぜ……!?
シーザーと暗黒王は頭の中で会話を続ける。
〈
かつて暗黒凰としてボルフェウス・ヘヴンと戦い敗北した暗黒王は、その時ほどの力は持っていなかった。
〈我の力は過去の敗北によって傷つき弱体化している。奇跡を封じる力も、知識を奪う力も、マナを焼く力も、今の我にはない。ちゃんちゃらおかしいことだが、今の弱体化した我の力では、この
そう。今の暗黒王すら超える力を、
〈しかも奇跡を封じる力に至っては、この
そんな……暗黒王ですら……止められない……のか……
【はぁ……はぁ……! さあ……まずはシデン・ギャラクシーを倒しましょう。そうすれば
駄目だ……そんなことは……駄目だ……! 止めなくては……! 止めなくては……! だが、どうやって……? 私には……止められそうもない……
その時、シデン・ギャラクシーが空に向かって手をかざすと、重厚、という言葉が陳腐に思えるほどの巨大な何かが飛来し、地面に突き刺さった。
そしてシデンはそれを手に取った。"それ"は尋常ならざるオーラと存在感を放っていた。シーザーは"それ"が何なのか分からなかった。
闇のマナが溢れ出し、輝き始める"それ"。
世の常を超えたものを見ると理解が遅れる。
シーザーは、ようやくそれが一振りの剣だと分かった。
ああ、そうか。
奴なら、
この悪夢を止めてくれるだろうか。
【ようやく
この声は……?
【戸惑っているかの?
【何か頭の中で考えて
ああ……そうか……そうだったな……。魔導具には言葉ではなく……マナで伝えるのだったな……
シデンは腕を通してマナの輝きを超銀河剣へと流し込んだ。
【おお……熱く、燃えておるの……
【グレイテスト・シーザーが手にしているのもまた、魔導具じゃ】
そうか、あれもまた魔導具か……と
【奴はあの魔導具に支配されておる。あの魔導具は強いぞ、より一層、気を引き締めてかかるのじゃ!】
観客席の邪眼皇アレクサンドルⅢ世は
「シデンが手にしたあの魔導具……なんという力を秘めているのだ……見ただけで分かるほど強力な……まさか……
もしシデンが勝利すれば、
「おやあ? 兄上……何を
思考を巡らせていた邪眼皇アレクサンドルⅢ世を、邪眼皇弟アウグストⅢ世が軽くおちょくる。
「貴様こそ……この事態に何をふざけている?」
「おやおやぁ、この私がふざけているように見えるとは。兄上の目には大きな穴が空いておられるようだ。それではこの私の勇士も拝むことが出来ないでしょうなあ。ああ〜! なんてお可哀想な兄上……」
アウグストは、大袈裟期に泣き真似をしてから立ち上がった。
その時、薄まってきていた観客を守るアヴァラルドが作り出した防壁は、完全に消えていて、観客席からグレイテスト・シーザー達の元へ行けるようになっていた。
「いやあ残念……それでは兄上、私はひと足お先に」
そう言うと、アウグストは
「あいつ……まさか……!」
アレクサンドルも走り出す。そしてアウグストに追いついた。
「おやあ兄上……もう私に追いつかれたのですか。相変わらず足の速さだけは一流のようで」
「ほざくな。私がお前に引けを取るところが一つでもあると思うのか?」
「い〜っぱいございますでしょう。私は兄上を凌駕している所がたっくさんあるのですよ」
「よく口が回るな……」
「兄上こそ、どうしてそう風車男のように、はたまた飛行男のプロペラのように口がぐるぐると回るのです。ああひょっとして、兄上はヘドリアンでいらっしゃいましたかぁ〜」
「私がヘドリアンならお前も、そしてⅠ世も同じくという事になるのではないか? 良いのか?」
「おやこれは墓穴を掘ってしまいましたか! 流石、兄上には構いませんなぁ〜!」
「心にもないことを言うな……アウグスト。万が一の時が来るらしい。やるぞ」
「言われなくても、そのつもりでございますよ! 愉悦の瞬間でありますなぁ……あ・に・う・え」
二人はシデン・ギャラクシーの前に立ちはだかるために、走り続けた。
「グレイテスト・シーザーの存在を終わらされてはならない!」
「皆、続け! 続くのだー!」
二人の後に、邪眼と魔光の騎士を中心としたナイト達が続く。
そのナイト達の中には、
【いけません! いけません! あの剣は全てを終わらせる力を持っています! あれに斬り裂かれたら終わってしまう!
シーザーは思う。
紫電……今のお前はまるで戦いを楽しんでいるようには見えない……
全てを終わらせる力を持つ剣で、私を、終わらせようとしているのだな……
対戦相手との熱き試合を望む紫電が……目の前の相手を終わらせようとする冷酷な行為を楽しめるはずもない……
勢い余って試合で相手の命を奪ってしまうのとは、わけが違うのだ……意図的に相手の命を奪うという行為は……
大勢のナイト達が、シデン・ギャラクシーの前に立ちはだかる。
シデン・ギャラクシーは、ためらいつつも
これ以上ためらっていては、世界は
「超銀河・一閃!!」
この時のために万全の準備をしていたシノビ達が印を結び盾となったことで、
だが、突発的に
全てを終わらせる剣が、グレイテスト・シーザーへと突き立てられる。
超銀河剣が、グレイテスト・シーザーの体を引き裂いた。その
もはやグレイテスト・シーザーと一体化していると言っても過言ではなかった
体の主導権を取り戻したシーザーは、これ以上の惨事を引き起こさないようにするために、力を振り絞って握っていた手を広げ、
ガランと重い音がした。
爆風が広がっていき、轟音が辺りに響き渡る。グレイテスト・シーザーの姿が、爆風の中に消えてゆく。
走馬灯のように、シーザーの中で思いが巡る。
ああ……遂に……終わる…………か…………
やっと…………
しかし、なんと滑稽な事だ……
だが……それでもいい……ロマノフ様のお役に立てたなら……敗れてしまったとしても、ひと時の夢をお見せすることができたなら……
ロマノフ様は、私が決勝戦に向かう前、私にこう
「お前なら、本当に紫電に勝てるのではないか?」
と……
あの時の貴方は、ひと時の夢を、見ることが出来ていたのではないですか……?
自分の作り出した存在が、紫電に勝つという、夢を……
間接的とはいえ、自分が紫電に勝つという、夢を……
ロマノフ様がグレイテスト・シーザーを生み出したのは、魔光から圧力をかけられたからです……
ロマノフ様は何としてもサムライ達を打ち倒し、戦国武闘会を勝ちたいとお考えになられた。そして暗黒王の魂を封じ込めたグレイテスト・シーザーを作り出した……それが筋書き……
ですが、それは嘘という訳でもない……そうですよね……? ロマノフ様が、サムライに、紫電に勝ちたいと思っていたのは本当です……
心の底から、好敵手・紫電と戦い、そして勝ち、戦国武闘会で優勝したいと……紫電に勝った上で優勝したいと、ロマノフ様はずっと、心の底から熱望されているのですから……
しかしロマノフ様はいつしか、自分の手で紫電に打ち勝ち優勝するのを諦めてしまっているような所がありました……
私はそんな姿を見る度、悲しく思っていました……
ロマノフ様は、紫電と比較しても引けを取らない実力とポテンシャルをお持ちでいらっしゃる……それは紛れもない事実だと、私は思っています……
ですが、勝負は時の運……武闘会に参加しても、紫電と対戦できないこともありましょう……紫電と対戦できても、敗れてしまうこともありましょう……
勝負は時の運……ロマノフ様は、紫電に敗れていたのではありません……運に、敗れていたのです……私はそう考えております……
ロマノフ様は、私と初めて出会った時こう言われました……
「お前なら、紫電を倒せるかもしれない……」
後にこう言われました……そう、あの夜に……
「すまなかった。お前のことを、紫電を倒すための存在のように見ているところがあった……私が作り出したお前が紫電を倒せば、間接的とはいえ私が紫電を倒したことになるのだと……だが、お前はお前という一人の超獣だ。道具ではない。お前をどこか道具のように思ってもいたことに、心底自分を軽蔑している」
夜の風が吹く中、私は膝をついてこう答えました……
「……ロマノフ様……私の……紫電を……倒したいという……想いは……元はと言えば……あなたから……受け継いだ……もの……です……当時の私は……何を……していいのか……それすらも……全く分かりませんでした……あなたに……初めてお会いした時……私なら……紫電を倒せるかもしれない……と……ロマノフ様は……
「……」
「何を考えて良いのか……それすらも……分からなかったのです……あなたは……私に……考えるということを……与えてくださいました……何も……考えることのできない……虚無の存在から……考えるということの……できる存在へと……貴方が……この私を……目覚めさせて下さったのです……感謝……しています……ご自分のことを軽蔑など……なさらないでくださいませ……私はあなたに……深く……深く、感謝、しています……」
「……よせ、買いかぶりだ。我はそんなに見上げた存在ではない……」
「…………ロマノフ様……私は、私は…………」
私は、何かを言いたかったのですが、思いつきませんでした……私の貧弱な
「……よせ、もうよい。それより、今日はもう遅い。早く休め。休息も重要な任務だ」
「…………はい……それでは……失礼……いたします……」
「ああ……」
私は立ち上がり、一礼し、ロマノフ様に背を向け、自室へ行こうと一歩踏み出しました……ですが、振り返ってこう言いました……
「……ロマノフ様……」
「……なんだ」
「……おやすみ……なさい……」
「……ああ、おやすみ……」
そして私は、自室へ向かって歩き始めました……。私に向けて、ロマノフ様は背中越しに私に言葉をかけられました……
「……いい夢が、見れると良いな……」
「……はい……」
私はまた、振り返って答えました……
……なぜ、私は、あの夜のことを、思い出しているのだろうか……
ああ、そうか……
これが……走馬灯……というものか……
ロマノフ様……ロマノフ様……
私はあなたに……ひと時のいい夢を見せることができたと……思っています……
あなたは……どう思ってくださって……いらっしゃるでしょうか……
ロマノフ様……ロマノフ様……
申し訳……ありません……
私は……
……やはり、あまりにも滑稽だ……。こんなことでは、ロマノフ様に笑われてしまう……
これが……私の最後か……
命の音が消えゆく――
意識の糸が途切れゆく――
シーザーを包み込む爆風を突き破って、シデンの手がシーザーの前へたどり着く。
「まだだシーザー!!」
吹きすさぶ空気の向こう側、シデンの黄金の
生きて立っている者は他に誰もいない闘技場に、シデンの声が轟く。
「まだ拙者は、本当のお主と出会っていない!」
シーザーは思った。
紫電…………? と。
シデンは思う。
目の前のたった一人すら救えず、何がスーパーチャンプだ。頼むギャラクシー、もう少しだけ踏ん張ってくれ……力を貸してくれ……! と。
「拙者が終わらせたいのは貴殿の命では、貴殿の存在ではない……!」
既に紫電から離れ、地面に置かれていたが、超銀河剣は独り言のように思う。
【そうじゃ。
「拙者が終わらせたかったのは、悪夢のような惨状と! 悲しみと虚ろを抱えながら戦う貴殿の生き方だ! 以前戦った時からずっと貴殿の中に感じていた違和感! この試合を通して、それが悲しみだと分かった!」
先程
「もう貴殿に、悲しみを抱えた剣は振るわせたくない! 虚ろに銃を撃たせたくはない! 今日この時が《グレイテスト・シーザー》の最期だ!」
爆風に押し返されつつも、紫電は少しずつ前に進み続け、手を伸ばし続ける。
「そしてこれから始まる! 《シーザー》の物語が! まだ、貴殿の物語は始まっていない! シーザー! さあ、拙者の手を取れ! すぐに拙者の手から貴殿の体に拙者のマナの一部を流し込めば、貴殿はまだ生きられる!」
シーザーは思う。
始まって……いない……?
シーザーは体に電流が走ったかのような、否、強烈な雷撃に打たれたような衝撃を感じた。
そうだ……
シーザーは一つの気づきを得た。
私は……
私は何も始めていない……!
私の生涯は、まだ何も始まっていない……!!
ロマノフ様、やっと分かりました……! 私は、ただ貴方に与えられた任務を遂行したいのではなく……自分の意思で、貴方のそばに、並び立ちたいのです……! あなたをお支えしたい……! あなたを、お救いしたい……!
私は、自分の意思を、意志を持ちたい……!
今までそんなものは、持ったことがありませんでした……! そんな気持ちになったことはありませんでした……!
私は私の物語を始めます。今、ここから……!
「シーザー! 拙者と貴殿の物語には……誰も、何も言えやしない!!」
紫電は思う。
拙者はただ、楽しかったんだ。
戦うのが楽しかった。
勝つのが楽しかった。
負けるのが悔しくて、楽しかった。
皆が拙者の技に目を見張るのが楽しかった。
好敵手が観客の目を引き付けている様を見るのも楽しかった。
選手だけが戦国武闘会の全てじゃない。関係者も、観客も、皆の手で作り上げた戦国武闘会だ。
力が抜け出たシーザーの姿は、無理やり力が抜かれた影響で、今までシーザーがとってきたどの姿とも違う姿に変化していき、幼くなったかのように縮んだ。それでも、紫電に匹敵するほどの体躯はあったが。
シーザーは思う。
そうか、紫電は……
私は、紫電に敗れた……
決勝戦は、私の負けになるだろう……試合に負けるのは初めてだ……
だが、私は私でなくなってはいない……私は私だ……
不思議と、悪くない気分だ……紫電も負けた時は、こんな気分を味わっていたのだろうか……?
紫電は、私に気づかせてくれた。
試合に負けても、私が私でなくなることはないと。
試合を勝ち上がり、優勝することが、私の存在意義ではないのだと。
そうか、紫電は……
紫電は、私に気付かせてくれた……
紫電の手が、さらにシーザーに近づいてくる。
私に、意思を、意志を持ちたいと……
ロマノフ様が、私を目覚めさせて下さって、紫電が、私に気付かせてくれた……
私は、きっと、心の底で、ずっとそんな存在が現れることを願っていたのだ……
そうだ、紫電は……
紫電は、私が願っていた存在そのものだったのだ……!
濁りきっていたシーザーの目は、今や透き通り
シーザーもまた、紫電に向かって、手を伸ばす。
そして、指と指が――
手と手が――
繋がれた。
紫電が闘技場の外へ出ると、皆が紫電の元へ集まった。
「終わったんですね!」
「グ、グレイテスト・シーザーは!?」
紫電は皆を安心させるため答える。
「ああ……拙者達が、シデン・ギャラクシーが斬り伏せた。斬られた奴は、跡形もなく消滅した。脅威は……去ったのだ!」
わっ! と歓声が上がる。
"これでいいよな?"とでも言うような目で、紫電は左隣のギャラクシーを見る。
ギャラクシーは小さくうなずく。
「では! 優勝者は紫電選手なのですね! 紫電選手達以外は皆避難していて、私達が今持ち歩いているもの以外はカメラも全て壊されてしまったので、本人達以外の証言が聞けないのは残念ですが……!」
「今、そのカメラで中継しているのかな?」
「はい!」
ミラクル・ショーの言葉を聞いて、紫電は右隣にいたシーザーの背中を押して言った。
「証言なら、この者がしてくれる」
「紫電選手、先程から気になっていたのですが、この方は?」
「足をくじいてしまって、逃げられずに闘技場内に残っていた観客だ。軽傷だったので、拙者が試合後にマナを使って治すことができた。他の怪我人は試合結果を見届ける前にグレイテスト・シーザーに撃たれて絶命してしまったが、この者は運良く撃たれなかった。ゆえに、試合の結果を知っている!」
「本当ですか! あなた、お名前は!?」
「え……!? えっと…………カ……カエサルだ……」
シーザーはとっさに偽名を言った。
姿も声も変わっているシーザーが、先程までグレイテスト・シーザーだった者だと気づく超獣はいなかった。
「カエサルさん! あなたの証言を聞かせてください!」
「……こんな根無し草の超獣の……証言でよければ……答えよう……紫電選手の言う通り……グレイテスト・シーザーは……シデン・ギャラクシーに斬り裂かれて最期の時を迎え、敗れた……勝ったのは……決勝戦に勝ったのは……紫電……! ボルバルザーク・紫電・ドラゴンだ!!」
大歓声が上がった。世界各地で、中継映像の前でも歓声が上がっていた。
「皆さん! まずはソウル・キャッチャーを使って、皆を生き返らせましょう! 紫電選手! それが終わったら、表彰式を始めましょう!」
「……ミラクル・ショー殿、皆を生き返らせるのにはもちろん賛成だ。すぐにやって欲しい。だが……表彰式をやっている場合では、ないようだ」
「え?」
紫電は遠くを見つめていた。
「あれを見てほしい」
やがて、ミラクル・ショーにも、紫電が何を見つめていたのか分かった。
腕に
「じゃ……邪眼皇ロマノフⅠ世!? を拘束している、魔光大帝!?」
「……!?」
ミラクル・ショーだけでなく、シーザーも目を見開いて驚いていた。
「ミラクル・ショー殿、シャルル、バルック。今度は闘技場内に皆を避難させてほしい。そして、すぐに息絶えた皆を復活させてくれないか。ここは拙者達に任せてくれ」
「わ……分かりました!」
「ああ! こっちは任せろ!」
「そっちは任せるでち!」
ミラクル・ショー達は、皆を闘技場の中へと避難させた。
やがて
「ごきげんよう。紫電」
「ロマノフに、何をしている……魔光大帝!」
ネロ・グリフィスと紫電が睨み合った。
一方、ほんの少し前……
「
大空に開いた穴、時空の裂け目を見つめながら、端末で中継映像を見ていたイナバ・ギーゼはつぶやいた。
暗黒凰を模した
しかし、それは真の目的を隠すためのブラフだったのだ。真の目的とは、地上の超獣達を絶滅させること。それはネロ・グリフィスの目的ではなく、古代の超獣達の、オリジンの目的。それこそが、真の絶滅計画。
第百回戦国武闘会、その決勝戦に決着が着いた時、長い間眠り続けている多くの古の超獣達が目覚めた。
それらの超獣達を目覚めさせたのは、既に活動を開始していた古代の超獣達。
最強チャンピオンの誕生は、皮肉にも古代の軍勢を目覚めさせることになった。
古代の軍勢による地上への進行が……今、始まろうとしていた。
オリジンの指揮官は笑みをこぼす。
「さあ、我々がかつて住んでいたあの星を、取り戻しに行こう」
次回予告
「我らはこの大軍をもって、貴様を叩き潰す」
ネロ・グリフィスが紫電に宣戦布告!?
「魔弾ルナンド・ストライク!」
フェルナンドも遂に参戦!
「オリジン……!」
ロレンツォがオリジンの存在に気付く!
「邪眼皇ロマノフⅠ世の最期だ!」
ネロ・グリフィスが、ロマノフにとどめを刺す!?
次回、《邪眼皇、孤軍奮闘。そして……》
「後は頼んだぞ、紫電……」