【完結】最終戦国武闘伝 〜バイオレット・ダークネス〜   作:無敵ざかり

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第二節 紫電と邪眼皇、語らう

「やあ、ロマノフ」

 

赤い竜の鎧武者《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》は闇文明のナイトの領域にある、廃城の地下室を訪れていた。

 

「……邪眼皇様と呼べと言ったはずだが?」

 

気高き貴族の騎士、《邪眼王ロマノフⅠ世》が紫電を一瞥(いちべつ)する。

 

「そんな堅苦しい事を言わないでくれ。拙者とお前の仲ではないか」

 

「貴様と仲良くなったつもりはない」

 

「そうか、それは寂しいな」

 

「我と貴様は……友ではない」

 

「拙者は、友だと思っているのだがな」

 

紫電が笑って返答した。

 

「……ナイトの名門邪眼家の当主ともあろうものが、サムライなんぞと落ち合っていると噂になったらどうしてくれる」

 

「だからこうして、お前の城からも随分離れた、誰も来ないような辺鄙(へんぴ)な場所で落ち合っているんだろう」

 

「……」

 

「おい、言い返せないからって黙るな」

 

「……極神戦争」

 

「うん?」

 

「極神戦争は、当然知っているな……? 平和な世界を作り上げようとした神々に反旗を翻したオルゼキア率いる闇文明はボルフェウス・ヘヴンに敗れ……」

 

「うん」

 

「そして闇文明の地位は失墜した……」

 

「うん」

 

ロマノフがゆっくりと()き、紫電がうなずく。

 

「光と敵対し、闇と友好的な文明だった火文明は……敵対していたはずの光文明と友好的な関係を築いている……今となっては、闇と火より、光と火の方が友好的と言えるやもしれん……」

 

「それで?」

 

「さらに、サムライとナイトは言うまでもなく対立している……貴様は火文明のサムライ、我は闇文明のナイト。この事がどんな意味を持つか本当に分かっているのか?」

 

「……なるほど」

 

「ようやく分かったようだな」

 

「拙者は闇文明と、ましてやお前との友好関係を捨てたりしない。ロマノフ、そう心配するな」

 

「……違うッ!」

 

叫んだロマノフが息を整え、しばし沈黙したあと、再び話し始める。

 

「……いいか? よく聞け……極秘の話だぞ……」

 

「うむ。いつも通り、ここでの話は極秘だ」

 

「……魔光の上層部で……絶滅計画の実行が決まった」

 

「……絶滅計画?」

 

「ああ……その計画の目標は唯一にして絶対……全てのサムライのオール・デリート!」

 

「……!! な……なぜ魔光が突然……? 確かにナイトはサムライと対立してはいたが、武闘会での勝敗を競っての対立だったはずだ……どうして全てのサムライを絶滅させようなどと……」

 

「分からぬ……」

 

少しの沈黙。その間、ロマノフは考えていた。絶滅計画の切札として、グレイテスト・シーザーという超獣が用意されていることを。それを、紫電に伝えるべきか否かを。

 

だが、紫電は武闘会のどこかでグレイテスト・シーザーと当たることになる。その時、紫電が試合相手を、絶滅計画の切札だと知っていたら、純粋に試合を楽しめなくなるのではないか? と。

 

また、紫電に限ってないと思うが、紫電が、絶滅計画の切札であるシーザーを恨むようになったら? シーザーに罪はない。それはも避けたい。と。

 

ロマノフは、グレイテスト・シーザーのことをこの場で紫電に伝えないことを選んだ。

 

まさか、決勝戦でシーザーと紫電が当たることになるとは、思っていなかった。

 

……いや、だがロマノフは、紫電の優勝を誰よりも信じていた。かつて自分に敗北の味を味わわせた紫電の優勝を。

 

ゆえに、決勝で紫電とシーザーが当たると思っていなかったのではなく、思いたくなくて目を逸らしていたというのが正確なところか……

 

あの邪眼皇ですら、そんな子供じみた現実逃避をする。

 

権力者であろうと、ひと皮向いてしまえば大きくなっただけの子供だ。

 

責任という鉛のコートを羽織って、震える足で、複数ある山のうちの一つ、その頂点に立っている。権力という、乱用すれば他者を簡単に踏みにじれる力を持ちながら。

 

その状態で完全に正気を保てる者がいるとしたら、その者こそ、逆に正気ではない。それは元から狂っているのだ。

 

ロマノフとて少し狂っていた。だからこその現実逃避だった。

 

責任の重さから逃げ出さず、権力の乱用もしないロマノフI世の高い理性が評価され、ロマノフⅤ世が成人してもなお、当主の座はI世のものだ。

 

「絶滅計画は、大帝ネロ・グリフィスの意思によるものだ。なぜ大帝がそのような意思を持ったのか……それはまだ分からん……そして、これは噂なのだが……」

 

「ああ……」

 

「ネロ・グリフィスはどうも焦っているようなのだ……」

 

「焦っている……? なぜ……?」

 

「分からぬ……」

 

長い間、二人の沈黙が続いた。

 

ろうそくの炎が静かに揺れていた。

 

「ネロ・グリフィスは大帝……ただの王や皇帝とは違う。最も偉"大"な皇"帝"だ。全てのナイトの中で最も強い権力を持っている。その大帝がサムライのオール・デリートを宣言し、邪眼家に圧力をかけてきた……」

 

「何……!? 邪眼に圧力を……?」

 

「お前達もサムライの絶滅計画に手を貸せと……であれば、邪眼家の当主である我、ロマノフⅠ世もサムライを滅さなければならない。逆らおうものならゴッドの力さえ持つ魔光に、我が邪眼家が襲われるだろう……そして氷牙もまた……」

 

「氷牙が、どうしたのだ?」

 

「魔光は、氷牙にも圧力をかけ、邪眼と、氷牙に、極魔弾を解放させた。筋書きの通りに……」

 

ロマノフは椅子に腰を下ろしたまま、ボソボソと語った。

 

「極魔弾を解放……? 筋書き……?」

 

「それらに関しては、"ただならぬことが起きている"とだけ理解してくれれば良い……」

 

「そうか……ただならぬこと……」

 

「……普段のネロ・グリフィスなら、こんな手段に出そうにないのだが……今のネロはどうもおかしいのだ。そのくらいやりかねない雰囲気がある。ゆえに邪眼は……その魔銃をサムライに向けて……全てのサムライが息絶えるまで引き金を引かねばならないのだ」

 

ロマノフはうつむきながらつぶやいた。

 

「……なあ」

 

「何だ」

 

「大帝のその絶滅計画ってやつ、つい最近に宣言されたわけじゃないんだろ?」

 

「どういうことだ」

 

「お前が、急に拙者と会うのを拒むようになったのは結構前からじゃないか。今回は会ってくれたが……今分かったよ。あの頃、サムライの絶滅計画が宣言されたんだろう?」

 

紫電が立ち上がって言う。鎧ががちゃりと音を立てた。

 

「……」

 

「でも言い出せなかったんだろう?」

 

「……確証がなかったからな」

 

「大帝が宣言したんだろう? 疑う余地があったのか?」

 

「……まだ分からぬか? ナイトはお前のことを狙っていると言っているのだ」

 

そう。二人が会う時に使っている廃城は、闇のナイトの領域にある。邪眼の土地とはいえ、魔光のナイトも通ることがある領域に。

 

「……心配するな。拙者はまた、お前に会いに来るさ」

 

「……この愚か者が!! 危険だと言っているのが分からぬのか!! 二度と来るな!! 二度と我の前に顔を見せるな!!」

 

ロマノフが立ち上がって激昂する。

 

「サムライの身を案じてくれるとは。滅殺の邪眼皇は、その名前とは裏腹に随分心優しいお方だ」

 

「黙れッッ!!」

 

ロマノフが魔銃の引き金を引き、紫電の足元に向かって魔弾ロマノフ・ストライクが炸裂した。

 

紫電は避けなかった。当てる気がないのが分かっていたから。だが、一応抗議する。

 

「よせ! 危ないだろう!」

 

紫電が口笛を吹くと、竜の形をした意思を持つ鎧《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》が現れた。そして、紫電の身を包んでいく。

 

「また会おう、ロマノフ」

 

ロマノフが放つ魔弾の嵐の中、疾風のごとく、紫電は去っていった。

 

「…………二度と来るな……」

 

絞り出すように、ロマノフは一人、つぶやいた。

 

 

 

 

次回予告

 

「イエス」

 

天雷と光神龍は、同盟関係を結んでいた!

 

「魔光と天雷はその関係をより深いものにしようと考えている……という噂を耳にしたのだが」

 

噂は本当なのか?

 

「以前、私の元に魔光の魔弾"アルカディア・エッグ"が届けられましたよ」

 

魔光の目的とは一体!?

 

「最高の勝利より、勝ち誇るべき平和もある」

 

平和、それは戦国の世の象徴!

 

次回《断罪の天雷 〜答えはひとつ〜》

 

「火文明の竜でもある聖霊を、天雷に迎え入れてしまったのです」

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