【完結】最終戦国武闘伝 〜バイオレット・ダークネス〜   作:無敵ざかり

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おまけ
EXTRA 脱兎の独白


月が美しい、人っ子一人居ない夜。

 

イナバ・ギーゼは一人、月明かりの下に(たたず)み、思っていた。

 

一応、それなりにこなしたぜ……こなしたよな……? 俺……

 

俺はまず、ナイトに取り入って……

 

爆獣騎士団に接触して……

 

馬鹿どもの中で過ごした……

 

そして、ようやく馬鹿どもとお別れだ。せいせいするぜ。

 

ああ、思い出すな……本当に馬鹿だったぜ、あいつら……

 

彼は、思い出す……

 

 

 

 

「ごめんあそばせ〜。私はイナバ・ギーゼと申しますの。ピーカプ・フィリッパ様はいらっしゃるかしら?」

 

「あ〜らごめんなさい。今フィリッパは席を外しておりますの……お前、また腕を上げたな」

 

「お前こそ……さらにやるようになったんじゃないか? ダキテー」

 

……くだらない。実にくだらないやり取りだ。 何が爆獣お嬢様部だ。貴族をなんだと思っている? このくだらなさだけで論文が書けるぜ。

 

なんで俺がこんな馬鹿な事やる羽目になったんだ?

 

……だが、こうでなくちゃな。

 

「フィリッパになんか用か?」

 

「いや、逆だ。今はフィリッパがいない方が良かったんでね。」

 

「……理由次第では酷い発言になるぞ、それ」

 

ダキテー・ドラグーンは顔をしかめて言った。

 

「まあ見ろよ」

 

ギーゼは頑丈そうな金属製の箱を一つ、テーブルの上に置いた。

 

「これは……?」

 

「これは100箱あるうちの1つだ。残りは外に積んである。魔光からちょっと仕事を頼まれたんだよ。これを邪眼に届けてくれって。なんでも、これの中身はお貴族様秘蔵の魔弾らしい。……あいつ、絶対いじりたがるだろ。ちょっとだけとか言って、片っ端からいじりまくるぜ、きっと、いや、絶対」

 

万が一、壊したりしたら大変だ。だって中に入ってるのはお貴族様秘蔵の魔弾なんかじゃなくて、超銀河弾(ギャラクシーショット)(ただし試し撃ち用の大幅に威力を削がれたもの)なんだからな。作るの大変なんだぜ? これ。

 

超銀河銃(ギャラクシーガン)は内部で超銀河弾(ギャラクシーショット)を生成する能力を持つが、本物の超銀河弾(ギャラクシーショット)なんか試し打ちで撃った日には邪眼の城がボロボロになっちまう。戦国武闘会の闘技場くらい頑丈に作られた場所じゃないと、本物の超銀河弾(ギャラクシーショット)の威力には耐えられない。

 

暗黒皇(ダーク・カイザー)には超銀河弾(ギャラクシーショット)を生成する練習もしてもらわなきゃならないが、まずは超銀河銃(ギャラクシーガン)を撃つ体験をしてもらいたい。あいつもナイトだ。ってことは、凄い銃を試し撃ちしたら、テンションも上がるんじゃないかと思う。

 

「なるほど、そういう理由か……いやお前、今なんて言った?」

 

「だから、あいつ絶対いじりたがるって。」

 

「それの前! 魔光に仕事頼まれたって言ったろ!」

 

「言ったな」

 

「すげーじゃねーか! 流石だな!」

 

「ああ……ありがとう」

 

「いやそうじゃなくて!」

 

「……すごくないのか?」

 

「すごいけど! すごいけどよ! お前魔光に行っちまうんじゃねえだろうな!」

 

「行かないよ。行きたくても行けないし」

 

「やっぱ行きたいの!?」

 

「話は最後まで聞け。魔光は火文明の俺を受け入れないだろう。だから俺が爆獣を抜けて魔光に行くことは無い……俺が仕事を頼まれたのは、魔光に技術者として行ってたからだ。魔光は今どんどん魔銃を作っててな……メンテナンスが追いつかなくなってるから、俺にやって欲しいってさ」

 

なんだそれは。追いつかない訳ないだろう。仮にそうだとして、外部の、それも火文明の超獣を呼ぶ訳がない。だが、馬鹿を騙すにはそれで十分だ。

 

「俺は魔光の魔銃を見れて勉強になるし、お互い利害が一致したってこと。それがきっかけで荷物を運んで欲しいって頼まれたって訳だ。ほら、俺、時々一人で出かけてただろ? で、それから……別に俺は魔光に行きたいなんて思ってない」

 

「あ、そうなんだ。良かった〜」

 

「お前、今の話ちゃんと全部聞いてたか?」

 

「もちろんだ! つまりお前は魔光には行かないんだろ!」

 

「なんで俺が魔光に仕事を頼まれたかわかるか?」

 

「……なんでだっけ? ……なんでなんだ!?」

 

「魔光に技術者として行ってたのがきっかけで、ついでに荷物を届けて欲しいって頼まれたんだよ。俺は時々一人で出かけてただろ……?」

 

「あーなるほど! そういうことね! やっぱ俺長い話聞くの苦手だわ……そうやって小刻みにしてくれると助かる。つーかお前、前から凄かったんだな! 魔光に技術者として行ってたって!」

 

フン。馬鹿が。ここまで小刻みにしないと理解できないのか。

「いやーすげぇなぁ! ギーゼは!」

 

馬鹿に褒められたって嬉しくない。頬が緩むのは、馬鹿すぎるこいつらを嘲笑(あざわら)っているからだ。嬉しいからじゃない。

 

そんなギーゼの思いとは裏腹に、二人の話は弾んだ。

 

 

 

 

「そういえば、ダキテー……お前、不死鳥を見たことがあるんだよな」

 

「おうよ。ありゃあ凄かったぜ。今だから言えることだけどな、敵だけど格好良かったぜあいつら。見た目がな。特にアポロなんとかっていう名前のやつはティラノ・ドレイクっぽい感じがあって、憧れたもんだ。あ、ぽいって言っても見た目だけだったけどな」

 

「ドレイクらしき不死鳥か。ふん、なかなか興味深い」

 

「でも憧れるならやっぱよ……」

 

「……ドラゴンかな?」

 

どこか遠くを見ながら呟くダキテー・ドラグーンにイナバ・ギーゼがそう聞いた。

 

「ああ。やっぱ、なってみてえと思うか?」

 

「なれればいいな」

 

「だよなあ……」

 

「お前は俺よりいいじゃないか。ティラノ・ドレイクはドラゴンっぽくなれる可能性はあるんだから。ま、別に俺は本気でドラゴンになりたいとは思わんがね」

 

そう。ティラノ・ドレイクであるダキテー・ドラグーンは、いずれドラゴンのような姿になれる可能性はある。一方、ドラゴノイドであるギーゼがなれる可能性は低い。

 

ドラゴノイドという種族の多くは、ドラゴンに生まれ変わることを願う。生まれ変わることを願うということは、今生でドラゴンになることは、無理だと考えているということでもある。

 

生まれ変わることを願う。それは、羨望と諦め、そして憧れと希望が込められた願いなのだ。

 

だが、ギーゼは違う。ドラゴンになることを強く願ってはいなかった。

 

そう、ギーゼは、"普通のドラゴノイド"ではないのだから……

 

「……ドラゴノイドってみんなドラゴンになりたがってるもんだと思ってたわ」

 

「なりたくない訳じゃないが……なるより、むしろ乗りたいかな」

 

「あー……ドラゴンじゃねえけど……ワイバーンに乗るドラゴノイドの話は聞いたことあるな」

 

「俺は見てみたいねえ、ワイバーンより爆竜凰……いや、爆獣凰ダキテーサドルを」

 

「おい……誰の頭がサドルだって?」

 

「そして俺がドラゴンっぽくなったダキテーの上に乗るのさ。そのサドルの上にね」

 

「まだ言うか。お前いい度胸だな」

 

「ユーモアだよ、ユーモア」

 

二人の会話は続いた。

 

 

 

 

「……やめたいよ。今の仕事」

 

イナバ・ギーゼはぽつりと呟いた。

 

「魔光の仕事、そんなきついのか?」

 

「魔光…………? ああ……そうか……悪い。聞かなかったことにしてくれ」

 

なぜ、なぜこんな気持ちになるんだ。馬鹿どもが超銀河弾(ギャラクーショット)の餌食になったとして、だからなんだというんだ。

 

俺はどうしちまったんだ。

 

「なんだよ聞かなかったことにって……もしかして、俺とお前の仲だってのに隠し事か……?」

 

ダキテーは不服そうだ。

 

「ダキテー、お前を見込んで頼みがある」

 

「え? なんだよ……」

 

ダキテーはちょっと嬉しそうに聞く。

 

「これを届けて欲しい」

 

「いやお前の仕事だろ……? なんでお前がやらないんだよ……」

 

「別に俺がやってもいいけど? ただ、レインボーの魔弾、ベター・トゥモローの完成はその分遅れるなあ。それとも? お前が俺の代わりにベター・トゥモローを完成させてくれるのかい?」

 

「……無理です」

 

「だよな。ほら、分かったら早く行った行った」

 

「オッケー! マチューとマグヌスと行ってくる!」

 

流石は馬鹿だ、切り替えが早い。今の今まで不服そうにしていたとは思えない。

 

「レインボーの魔弾なんて、名門のナイトだって見たことないかもしれないよな。完成したやつをこの目で見れる時を、楽しみにしてるぜ」

 

馬鹿はそう言うと一目散に駆け出し、二人の馬鹿に声をかけると、すぐさま荷物とともに出発した。

 

ギーゼは思う。

 

……今ならまだ間に合う。

 

今引き止めれば、俺はこれからもあの馬鹿達と……

 

どっちだ?

 

勝つのはどっちだ?

 

始祖(オリジン)か、地上の馬鹿共か。

 

俺は賢い。オリジンの中でもかなり上位に位置する頭脳を持っていると言っていい。

 

そんな賢い俺が始祖の軍勢を裏切れば、オリジンは負けるんじゃないか?

 

いったい俺がいくつの兵器を作ったと思っている?

 

いったい俺がいくつの兵器の弱点を知ってると思っている?

 

……それとも、俺は俺を過大評価しているのか?

 

 

 

 

……地上の馬鹿共は俺を受け入れるのか?

 

魔光を焚き付け、サムライとの対立を深めさせ、ナイトに超銀河弾を撃たせる俺を……

 

俺が考えた作戦じゃない。でも、やるのは俺だ。俺なんだ。俺と、イザハヤテと……

 

それに、地上の馬鹿共は裏切り者を受け入れるのか? 裏切り者に未来などあるのか?

 

だが、もしオリジンが敗れたら、帰る場所を失い、この世界にも居場所がないとしたら……

 

いやだ。俺は、俺は……

 

やっぱりオリジンを裏切って……地上の超獣達に全てを話して……

 

……落ち着け。そんなことをして、爆獣の馬鹿どもが俺を許すと思うか?

 

俺が元凶の一味の一員だって知ったら、あいつらが、俺を許すと思うか?

 

オリジンを裏切り、オリジン達に糾弾(きゅうだん)される事より、爆獣のあいつらに非難され、軽蔑される事を想像した方がぞっとする。

 

なぜだ、俺はおかしくなっちまったのか。なぜあの馬鹿どもに……

 

そうか。あいつらが馬鹿だからか。馬鹿に非難されるなんてまっぴらだ。そうだ。あいつらが馬鹿だからだ。そうに違いない!

 

馬鹿だからな、馬鹿なことをするかもしれない、馬鹿なことをするのは止めなきゃな!

 

よし! 止めるぞ! 止め……

 

 

 

 

だが、だが俺は――

 

 

 

 

ダキテー達を止められなかった。

 

 

 

 

なあ、どうか忘れないでくれ。俺という一人の超獣がいた事を。

 

そして、どうか許さないでくれ。俺という大馬鹿者を。

 

イナバ・ギーゼは、一人、心の中でそう唱えた。

 

 

 

 

暗黒皇(ダーク・カイザー)計画?」

 

「ええ、そのような計画を、進める方針をオリジンは固めまして」

 

一人のオリジンが、ギーゼに書類を渡す。

 

ギーゼは書類を読み、思う。

 

暗黒皇という作られる存在は……

 

伝説の無双竜騎に比肩するほどの力を誇っていたとも言われる神滅竜騎の鎧――を模した鎧を着せられ……

 

二体の五大王……永遠なる不死鳥、エターナル・フェニックスの三叉槍(さんさそう)と……かつて暗黒王と呼ばれた不死鳥、ゼロ・フェニックスの剣……それらを模した武器を持たされ……

 

そして、暗黒王の魂が封じ込められるらしい……

 

混ぜこぜだな……キマイラじゃないんだから。

 

ロマノフ・シーザー計画……邪眼皇すら素材として加える計画もあったのか。

 

ダークロードを取りんだら、本当にキマイラみたいだな。

 

シーザー(仮)……? それ以外何も情報がないな。この名前も本名なのか否か……

 

「全て読み終えましたか?」

 

「ああ」

 

ギーゼから書類を返されたその超獣は、すぐに書類を燃やし尽くした。

 

「では、ナイト勢力への潜伏、よろしくお願いしますよ」

 

「ああ、分かってる」

 

 

 

 

解々(カイト)様。イナバ・ギーゼ、ただ今戻りました」

 

「ごくろうだったね、ギーゼ」

 

「ナイトのトップ、ネロ・グリフィスは、我らの傀儡(かいらい)となりました。これで、ナイト勢力は我らの配下も同然です」

 

「うむ。引き続き、筋書き通りに進めよう。その結果、グレイテスト・シーザーが、全ての元凶となる訳だ。それが未来から見た今の真実になる。歴史が正しいとは限らない……真実が事実とは限らない……ということだね」

 

「ところで……爆獣とやらについてだけれど」

 

「な、なんでしょう……」

 

「どうかな? 居心地とか。不自由してるかい?」

 

「はっ……それはもう……馬鹿どもに囲まれて、鬱屈とした日々を過ごしております……」

 

「ふうん……」

 

解々(カイト)は刺すような眼差しでギーゼを見つめていた。

 

「あの、何か……」

 

「いや、いいんだ。では、引き続き、よろしく頼むよ」

 

「はっ……!」

 

ギーゼが去ると、解々(カイト)は側近に告げた。

 

「一応想定しておいて。ギーゼ、裏切るかもしれないから」

 

「はっ……!? あ、あのギーゼが、裏切る……ですか……?」

 

「うん、随分気に入ってるようだからね。居心地が……いいみたいだからさ」

 

 

 

 

過去の話は終了し、現在の話へと戻る。

 

イナバ・ギーゼは、月明かりの下、一人(たたず)んでいた。

 

「おーい!」

 

「お前無事だったんだな! いや、信じてたけどな!」

 

破壊龍神との決戦の後、動けない負傷者の捜索に参加していた爆獣騎士団は、ギーゼを見つけた。

 

「お前ら……」

 

ギーゼは爆獣騎士団を見つめる。その仮面の下では、どんな表情を浮かべているのか……

 

「とにかく無事で良かったぜ!」

 

「怪我もしてないみたいプラね!」

 

爆獣騎士団の面々は無邪気に喜ぶ。

 

「お前達、まだ気づいてないのか?」

 

「……何にだ?」

 

「俺がオリジンだってことに、だよ」

 

「「「……」」」

 

爆獣騎士団は沈黙する。

 

「お前達を騙して、裏で色々やってたんだよ。俺は」

 

「「「……」」」

 

「どうだ? 俺を許せないだろう。俺が憎いだろう」

 

「「「……」」」

 

「処刑直前みたいな気分だぜ。まあ処刑されたことなんてないから、これが本当にそういう気分なのかは分からないがね」

 

お別れの時間だ。

 

「俺は罪を重ねすぎた」

 

俺を裁いてくれ。

 

 

 

 

「罪……なのか?」

 

ヴァルアーサーが問う。

 

「確かにそりゃ、俺達を騙して、裏で色々やってたってのはショックだよ……でも……」

 

ダキテー・ドラグーンが頭をかきながらそう告げた。

 

「お前は、お前の仲間の力になりたかっただけなんじゃないのか」

 

ヴァルアーサーがイナバ・ギーゼに言葉をかける。

 

「それが悪いことだったのかって言われると……」

 

「それに僕達だって、その……オリジンを……君の仲間をたくさん……」

 

「ソウ、ソウ、オレタチモ、撃ッタ。オ前ノ仲間ヲ」

 

続けてマチュー・スチュアートとパプラとマグヌスグレンオーがそう言った。

 

「仲間……仲間ね……俺の仲間って……誰なんだ? ……誰が俺の仲間なんだ? 俺は……俺は"どっち側"なんだ?」

 

頭を抱えてうなだれるイナバ・ギーゼに、ヴァルアーサーが告げる。

 

「思うようにするといい」

 

ダキテー・ドラグーンが続けて言う。

 

「けど忘れんなよ。お前も含めて、俺達は、もし離れ離れになっても爆獣騎士団だ」

 

 

 

 

その後、イナバ・ギーゼはオリジンの本拠地へ帰って行ったのか、地上にとどまったのか……

 

それは定かではなく、帰って行ったとも、地上にとどまったとも言われている。

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