【完結】最終戦国武闘伝 〜バイオレット・ダークネス〜   作:無敵ざかり

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今回は超獣世界の文化に少しフォーカスしています。特にタラコご飯について。


第三章 忍者推参
第一節 天雷を蝕む威牙


考えるより先に、手が動く。

 

一人のヒューマノイドが、手に握ったそれを一心不乱に動かしている。

 

「おかわり!」

 

戦国武闘会の選手村で、片手に箸を握り、もう片方の手に茶碗を持ったサムライのヒューマノイドが叫ぶ。

 

修行に明け暮れた後の飯は美味い。美味すぎる。一心不乱に食事を続けるそのヒューマノイド……《牛若剣士トドロキ》はそう思っていた。

 

「はいよ。たんとお食べ」

 

「いただきます!」

 

「いただきますは食事の最初に言うんだよ」

 

差し出された茶碗に米を大盛りにしてトドロキに返した鳥のようなドリームメイト《風来の雲ベンケイ》がトドロキを軽く(さと)す。

 

この時代では、グレートメカオーの参入によって、超獣世界の米業界は大きく変わった。

 

米を栽培するためには土地が必要だ。

 

米の栽培に適した土地は自然文明が持っている。

 

ゆえに米を食するのは自然文明と、自然文明と友好的な火文明の超獣達と、光文明の一部の超獣達だった。

 

"だった"のだ。

 

グレートメカオーはまず、土地を自然文明から物々交換で買い取った。

 

コンピューターによって導き出され行われる最適な品種改良。高度に発達した機械による効率的な田植えに収穫。

 

膨大な量のデータから考案され作り上げられる安く製造でき効果の高い農薬と肥料。睡眠を必要としない機械によって日夜行われる精米。

 

それらによってメカオーグループは質が高く味の良い白米を大量生産することに成功した。

 

その味の良さは、日常的に米を食べ慣れている自然文明の超獣達も認めるほどだった。

 

グレートメカオーは食事をしない。ならば、なぜ米を作るのか?

 

答えは、金のため、である。金を儲けてエネルギーそのものまたはエネルギー源を購入するために、グレートメカオーは米を作るのだ。

 

かつては米を食するのは自然文明と、自然文明と友好的な火文明の一部の超獣達と、光文明の一部の超獣達だけだった。

 

現在は、水文明の超獣と、闇文明の一部の超獣達もメカオーグループから米を購入し食している。

 

メカオーグループは、米を売るにあたって戦略を立てた。

 

自然文明は自分達で米を作れるし、物々交換で成り立っていることも多い。戦国武闘会が流行るにつれてどんどん普及してきたとはいえ、金を持っていないこともまだ割とある。よって、自然文明相手に売ろうとするのはあまり得策ではない。

 

火文明と光文明には、米を入手するための自然文明とのルートを持っていない超獣達も数多くいるし、火文明と光文明は自然文明より金を持っているので、そういった超獣達相手に米を売れば買ってくれるはずだ。と、メカオーグループは考えた。

 

さらに、水文明と闇文明にも売ろうと考え……まずは、米を食べたことはないが、金を持っていそうで、食に関心があり、しかも自分達と共通点のある相手……水文明にも売ろうと考えたのだった。

 

ならば、どうすれば良いか。

 

タラコと共に売ったのである。

 

タラコと言えば、水文明の特産品である。

 

一部のフィッシュの卵を塩漬けにしたタラコは美味い。が、少し塩辛い。ゆえに長年の間、海藻を発酵させて作られた酒と共に食す趣向品とされてきた。

 

娯楽の発展している水文明においては、食も大きな娯楽の一つである。

 

水文明中から多くの超獣達が集まる水文明最大の食の見本市(みほんいち)に参加したメカオーグループは、米をタラコと共に試食品として提供したのである。

 

これが大ウケ。米を知らない超獣も多数いる中、思いもしなかった組み合わせが予想に反して美味いという衝撃は、水文明の超獣達にとって大きかった。

 

商魂たくましい水文明の超獣達はその場でメカオーグループに取り引きを申し込み、お互いが納得する価格で米を売買することが決まった。

 

そして、その超獣達が他の水文明の超獣達に米を売り、米は水文明内で広まっていったのである。

 

敵対していた自然文明と火文明で主に食されていた米だが、今では水文明の超獣達の生活に深く根付いている。

 

反撃の戦術"アクア・タクティクス"で有名な水文明の精鋭、アクア・スーパーエメラル氏が、タラコご飯が好物だと公言したことも大きいと言われている。

 

なお、アクア・スーパーエメラル氏はその発言がきっかけで、タラコ型の着ぐるみを着て米のPRをすることとなった。スーパーエメラル氏は、"オレのタラコ姿、みんな見てくれ!"とノリノリだったという。

 

今は、闇文明にも少しずつメカオーグループが米を売り込んでいるところだ。

 

いずれ、闇文明でも、鎧に身を包んだ騎士が、嬉しそうな顔をしながらタラコご飯を食べる日が来るだろう。

 

ただ、闇文明ではパン食が既に普及しつつある。が、闇文明では小麦はまだ高価だった。闇文明は水文明ほど新しいものに飛びつく傾向はないため、ならばパンや小麦を安く売った方が買って貰えると考え、メカオーグループはタラコに合うパンを作るために小麦の栽培にも手を出し始めたという。

 

メカオーグループが闇の貴族達に試食させようと考えているのは、バゲットタイプのパンにタラコを塗って焼いたタラコバゲットである。

 

他文明の貴族達もパンを好むため、小麦の大量生産に成功すれば、メカオーグループの資産はさらに潤沢になることだろう。

 

そして、トドロキがタラコと共に食べているのはメカオーグループの作っている品種の一つ、"純白王"である。

 

「ひょっとしてオラって、飯を美味く食うために修行してんのかな」

 

トドロキはふと呟いた。

 

「だとしたら酔狂な奴だなあ……今日はお前の試合がある日だろ? 朝飯はその辺にして、早く会場に行こうぜ」

 

二人は足早に闘技場のそばへと向かった。

 

 

 

 

「やっぱりでっけぇなぁ〜……!」

 

「そろそろ見慣れなよ」

 

闘技場を見上げているトドロキとベンケイに、天雷のナイト《アヴァラルド公》が声をかける。

 

「やあ、ヒューマノイド。名前は、トドロキ君、だよね? それとドリームメイト」

 

「ん? オラ達になんか用? 何度か会ったことのある奴だよな……あ! そうだ! 最終予選の控え室で何度か会ってる! 話したことはないけど!」

 

最終予選とは、世界各地で行われる予選と、この闘技場で行われる本戦の間にある戦いである。

 

第百回戦国武闘会では、数十億の選手が、まず世界中で行われる予選で戦い、そして数万の選手が世界各地で行われる最終予選で戦い、最後に1000名の選手が本戦で戦うこととなっている。

 

予選と最終予選は十年の歳月をかけて、既に終了している。武闘会の予選・最終予選は第一幕、本戦は第二幕と表現されることが多い。第一回のころはこんなに巨大な大会では無かったのだが、いつの間にか、戦国武闘会はとてつもなく巨大な大会となっていた。

 

「うむ。君は、四歳の時に初めて予選に参加して、そのまま十年戦い続けて予選と最終予選を勝ち上がり、今、第二幕に挑戦しているのだろう? ヒューマノイドの四歳といえば、相当子供なはずだ。その歳で、よく勝ち抜いてきたものだ」

 

「へへっ、まあな!」

 

「私は、予選の最中、猛然と試合を勝ち上がる若すぎるルーキーがいると聞いてから、君のことが気になっていたのだ」

 

「そうなのか! 最終予選の表彰式でも会ったよな! オラ、緊張してて周り見えてなかったけど!」

 

「そう。上位5名が本戦に進めるルールだったからな。君と当たるかと思って君対策の修練を積んでいたのだが、当たらなかったのでな。私と君は体の大きさも近いし、いい勝負が出来るのではないかと、その時から思っていたんだが。本戦こそは君と戦えることを願って、まずは挨拶をと思ったのだ」

 

「なるほどなー、いい勝負が出来そうか。最高の褒め言葉だよ。ありがとう。確か名前と種族は……」

 

「アヴァラルドだよ」

 

ベンケイが口を挟んだ。

 

「そうだ! アヴァラルドだ!」

 

「アーク・セラフィムのアヴァラルドさんよ、僕の名前は覚えてないって?」

 

「いや、そんなことはないぞ。そう……ゴエモン君だったな」

 

「違う」

 

「ああ、ドルルガン君だったか。」

 

「違うよ」

 

「そうだ。モクロー君だったな」

 

「違います。なんだそりゃ」

 

「思い出した。間違いない。リャヌァッテャ君だ」

 

「あんたわざと間違えてないか? ベンケイだよ。ベンケイ」

 

「ああ、そうだったそうだった。ベンケイ君だったな」

 

「あんたナイトだろ。こんな所でこいつ(サムライ)と話してていいの?」

 

「ロレンツォ様はサムライの精神も認めておられる。だから、サムライと私が関わりを持とうと(とが)められることはない。流石にサムライを天雷に引き入れようと思案されている訳では無いようだが……」

 

アヴァラルドが、まるで頭の痛みを感じた時のように、額に手を添えながら言った。

 

ベンケイが頃合いを見計らって提案する。

 

「まあ、中に入ろうか。そのロレンツォ様の試合を見に」

 

 

 

 

闘技場の入場ゲートには行列ができていた。超獣は大きな者から小さな者まで、様々な大きさの者がいる。その入場ゲートは小型の超獣達のためのものであり、大型の超獣達の入場ゲートはまた別にある。そして、座席もまた、エリアごとに大きさが違うのだ。

 

試合の観戦を希望する選手には、事前にチケットが渡される。トドロキ達は闘技場の中へ入るべく、チケットを係員に見せに行く。

 

「あの、トドロキ選手ですよね!」

 

係員が、トドロキに声をかけた。

 

「え、オラのこと知ってんの?」

 

「もちろんですよ! その若さで本戦出場はすごいですからね! 数万人の中から1000人に残って最終予選を突破した、期待のルーキーとして注目されてるんですよ!」

 

「もうスターです、スター!」

 

トドロキ達の対応をした二人の係員は、トドロキのことを褒めちぎる。

 

「へえぇ、オラがスターかぁ……」

 

「ベンケイ選手も後日の試合頑張って下さいね!」

 

「おうよ! トドロキに優勝者の座は渡さないぜ!」

 

ベンケイは親指を立てるように羽の一部を立てて言った。

 

「なんでだよー! 勝つのはオラだって!」

 

「うんにゃ、小僧に優勝なんぞ500年早い!」

 

「小僧って言う奴が小僧なんだぞー!」

 

「どういう理屈だそりゃ!」

 

「「仲がおよろしいんですね!」」

 

「「まあな!」」

 

二人の声が重なった。

 

「アヴァラルド選手も、本戦出場おめでとうございます!」

 

「うむ。少年とドリームメイトには負けんぞ。勝つのは私だ」

 

「違うって! 勝つのはオラだって! アヴァラルドと予選で当たってたら、オラが絶対勝ってたからな!」

 

「その言葉、そっくり返そう! 予選で当たっていたら、私が勝っていた!」

 

「「仲がおよろしいんですね!」」

 

「「よくない!」」

 

二人の声が重なった。

 

 

 

 

「係員の兄ちゃん姉ちゃん達、結局オラとアヴァラルドが仲良くないって言っても分かってくれなかったな……」

 

「全くだ。仲良くなどないというのに」

 

「別にどうでもいいじゃねえか。嫌い合ってるわけでもねえんだから」

 

トドロキ達が闘技場内に足を踏み入れると、まず、巨大なモニターにロレンツォと対戦相手の姿が映し出されているのが目に入ってきた。

 

「ロレンツォ様ー!」

 

「ロレンツォ様、ご武運を!」

 

闘技場内では天雷の大物、ロレンツォを(した)うクリーチャー達から歓声が上がっていた。

 

「おーおー、すごい人気だな」

 

「流石はロレンツォ様だ」

 

ベンケイは呑気に感心し、アヴァラルドはうんうんとうなずく。

 

「じゃあオラ達の席あっちだから」

 

「うむ。私はあちらの方だ。ではな」

 

トドロキ達とアヴァラルドは別れ、それぞれ自分達の席へと向かった。

 

ロレンツォの対戦相手はハンゾウなる超獣と、ヤミノザンジなる超獣。

 

「我らは二人で戦うのだが……そちらのもう一人はまだ現れぬのか? もうすぐ試合が始まってしまうが、大丈夫か?」

 

ハンゾウがロレンツォに尋ねた。

 

「お見せしよう」

 

ロレンツォは石碑を持ち込んでいた。

 

ロレンツォが石碑に触れると、石碑から光球がふわりと飛び出す。

 

そしてそれはもう一人のロレンツォとなった。

 

「ロ……ロレンツォ選手が増えたーーッ!?」

 

数多の試合を目にしてきた実況の《ミラクル・ショー》も、これには驚きを隠せなかった。

 

「ロレンツォ様が二人!?」

 

「まさか双子だったのか!」

 

「いや……三つ子以上の可能性も捨てきれんぞ」

 

観客席から見当違いな声が上がる。

 

アヴァラルドは、双子ではないだろうと思いながら、しかし、確かにあの自然文明から貰い受けたという石碑の力はすごい、と思っていた。もちろん、それを使いこなせるロレンツォ様は、それ以上にすごい、とも。

 

「双子ではないよ。これはこの神秘と創造の石碑の力で作り出した私の分身だ」

 

「……なるほど。素晴らしいな……ここまで瓜二つの分身を作り出すとは……」

 

ハンゾウは素直に感心した様子でロレンツォと分身を見比べる。

 

「何、石碑の力を借りているに過ぎんさ」

 

「そう謙遜なさるな……ん? 何だ」

 

ヤミノザンジがハンゾウの耳元に手を添えでひそひそと耳打ちをする。

 

「あ、ああ……そうだな。ふん! まあそんなくだらん石碑のことなどどうでもよいわ! それで? 二人のロレンツォが我らの前に立ちはだかるというわけか」

 

ハンゾウは打って変わって、不遜(ふそん)な態度で話し始める。

 

「君達の力を見せてもらうとしよう。私も君達も、どこまでやれるか見ものだな」

 

「我らを相手に分身とは、天雷の龍聖ロレンツォIV世とはなかなか洒落(しゃれ)たことをなさるお方のようだ。見かけ倒しではないといいが……拍子抜(ひょうしぬ)けさせてくれるなよ? さあ、試合を始めようか。もちろん我らの勝利に終わるだろうがな!」

 

「デュエマ・スタートオォ!」

 

《ミラクル・ショー》の声が闘技場内に響く。

 

「ロレンツォ……さてはお前、"護りの力"を得ているな?」

 

「ご明察。その通りだ」

 

「ならばこれが使えるなあ……」

 

ハンゾウは、護りの力を持つ超獣の天敵とも言える《クリティカル・ブレード》を取り出した。

 

「ほう……それは?」

 

「これを我が投げれば、お前の体に突き刺さり、お前の持つ護りの力に反応して体内で爆発する……フフフ……命乞いをするなら今だぞ。そうすれば許してやらんこともない」

 

生憎(あいにく)、君に許しを乞うつもりはないな」

 

「では死ぬるがよい!」

 

ハンゾウが、ロレンツォに向かってそれを投げつけようと振りかぶる。

 

「死ねロレンツォォー! お前の負けだァァ……! 敗北のカウントダウンが始まるぞォ!」

 

放り投げられた死の刃《クリティカル・ブレード》が、ロレンツォに迫った。

 

そしてそれは、ロレンツォの周りに現れた、いくつかの六角形のオーラに弾かれて地に落ちた。

 

「なにッ!?」

 

ハンゾウがうろたえる。

 

「どうやら敗北のカウントダウンとやらは、当てにならないようだな」

 

ロレンツォは全くの無傷だった。

 

天雷のナイト達から歓声が上がる。

 

「今度は、こちらから行くぞ」

 

ロレンツォと分身が、ヤミノザンジ相手に雷撃を放った。

 

「おおっ……!?」

 

ヤミノザンジはそれをまともに食らう。

 

「決着と行こうか」

 

ロレツンツォと分身は、同時に魔弾を放った。

 

それは電光のように素早く、ヤミノザンジに向かって飛んでいき、命中した。

 

「ぐああぁぁぁーっ! ……ま、参った……私は降参だ……!」

 

ヤミノザンジは敗北宣言をした。

 

「君はここまでか。この試合はあくまでハンゾウ君の戦い。君は助っ人にすぎないから、ハンゾウ君に勝たなければこの戦いは終わらないが……それでも二対一だな。さあ、ハンゾウ君、続けようか。君と私、どちらかが倒れるか、敗北を宣言するまで。そういうルールだからね」

 

「「「ワアアーーッ! ロレンツォ様ーーっ!!」」」

 

ロレンツォの勇姿に、アヴァラルドを含めた観客席の天雷のナイト達が沸き立つ。

 

「ええい、ならば次の手よ」

 

ハンゾウはニヤリと笑い、小声でロレンツォに伝える。

 

「観客席に爆弾を仕掛けてある。あの爆弾が引き起こす爆発は特殊でな。あの爆発で命を落としたものは、魔弾ソウル・キャッチャーで復活させることが出来ない」

 

「な……何だと……!?」

 

「観客席に(ひそ)んでいる我の部下に指示を下せば、天雷の騎士どもが集まっている場所に仕掛けた爆弾を、いつでも起爆することが出来るのだ……分かったか? ロレンツォよ」

 

「みんな……!! 逃げ――」

 

ロレンツォは天雷の騎士達へ避難を促そうとする。

 

しかし――

 

「いいか? お前が何か一言でも言おうとしたり、動いたりすれば、お前の仲間達を木っ端微塵に消し飛ばす。防御もするなよ」

 

「……!」

 

ロレンツォはじっと黙り込むしかなかった。

 

動かないロレンツォ相手にハンゾウは猛攻を仕掛ける。

 

「な……なんだ……ロレンツォ様……なんで何もしないんだ……?」

 

「分身も動かないじゃないか……どうなってるんだ……?」

 

観客達は何が起きているのか理解できない。

 

「ぐっ……!」

 

棒立ちで何度も攻撃を受けるロレンツォが声を漏らす。

 

「声を出すなと言ったはずだが? まあ、意味を持たぬうめき声なら許してやるとするか……仲間の命が惜しければ、抵抗しないことだな。そして、敗北を宣言するのだ」

 

再びハンゾウがぼそぼそとつぶやいた。

 

「く……私の……このロレンツォの負けだ……」

 

「ロ……ロレンツォ選手が……!? 天雷の龍聖ロレンツォIV世選手がまさかの敗退ーッ!?」

 

実況のミラクル・ショーも驚きを隠せずにいた。

 

「違う! ロレンツォ様は敗れてはおられぬ!」

 

「相手が卑怯な手を使ったに違いない!」

 

「一体どんな手を使ったのだ! 白状せよ!」

 

天雷のナイト達は口々に講義の声を上げる。アヴァラルドもその中にいた。

 

「どんな手を使ったかだと……? いいだろう……教えてやろう。我はロレンツォに、観客席の天雷の騎士どもが集まっている所に爆弾を仕掛けたと……そう言ってやったのよ! 特殊なその爆弾で命を落としたものはソウル・キャッチャーで復活させることができないとな! そして、お仲間の命が惜しければ、黙ったまま身動きするなともな!

だが特殊な爆弾など……嘘に決まっておるであろう! まさか騙されるとは……間抜けよのう……クフッ……クハハハハハハハハハ!」

 

ハンゾウの高らかな笑い声が木霊する。

 

「な……なんと卑怯な……!」

 

「そのような手を使った者は失格とすべきであろう!」

 

「そうだ! ロレンツォ様の勝利とすべきなのだ!」

 

「往生際が悪いぞナイトども!」

 

「それでも高潔な天……えー……天なんとやらか!」

 

「大人しく負けを認めろ!」

 

観客席の天雷のナイト達が抗議の声を上げ、それにサムライ達が反応する。

 

「おのれ……言わせておけば!」

 

「阿呆のサムライどもめ……!」

 

「こうなればハンゾウもろとも力ずくで黙らせてくれようか……!」

 

天雷のナイト達が怒りの炎を燃やす中、ハンゾウはおちょくるように語り始める。

 

「おやおやぁ〜……? 我はロレンツォに対し、ただちょっとしたジョークを言っただけではないか。それとも何か? 戦国武闘会には試合中ジョークを言ってはならないというルールでもあるのか? なあ? 無いよなぁ〜、ミラクル・ショー……」

 

「し、しかし……この試合におけるハンゾウ選手達の行いは……」

 

ミラクル・ショーも動揺を隠せないでいた。

 

「そんなことは聞いていない……戦国武闘会にジョークを言ってはならないというルールは、有るのか、無いのか!」

 

「…………ありません」

 

「ほぉ〜ら見たことか。天雷の騎士団とはルールも知らん愚か者の集まりのようだな!」

 

さらに、ハンゾウが天雷の騎士たちを挑発した。

 

「貴様ァァッ!!」

 

「許しては置けぬ!」

 

「今ここに天罰を下してくれるわ!」

 

居並ぶ騎士たちが、今にもシノビたちを撃ち抜きそうな勢いで激昂する。

 

「よすんだ。負けたのは私だ」

 

静かにそれをたしなめたのは、他でもないロレンツォだった。

 

「ロ……ロレンツォ様!?」

 

「卑怯な手を使われたとしても、仮にそれが反則寸前でも、ルール違反では無いのだろう? 我らが良しとしない行為でも、おそらくハンゾウ君達にとっては何ら問題がない行為なのだろうな。世の中には多種多様な文化や価値観が存在する。私が私の信念を(つらぬい)いたように、あの者らはあの者らの信念を(つらぬい)いたのだろう。それを(とが)めることはできない。今回は"ここまで"だったという事だ。なに、また次がある」

 

「し、しかし……」

 

「お言葉ですが、次の戦国武闘会については、噂があり……!」

 

「そうです! 根も葉もない話ではありますが、これが最後の武闘会だという噂を耳にした者がおり……!」

 

「仮にもし武闘会がこれで最後でも、また次の何かが訪れるさ。天雷は不滅。気高き精神をもって、高潔な魂をもって、その時、その時代の何かに挑戦すればいい。しかし、その"噂"は興味深いな。一体どこで誰の言葉を耳にしたのか、詳しく知りたいものだ……私はすぐに帰路につき、それについての調査をしたいと思う。では、行こうか」

 

天雷の騎士たちはやり切れない思いを抱えつつも、足並みを揃えてその場を後にし始めた。

 

「あのロレンツォ選手に土をつけた謎の超獣達は……一体何者なんだーッ!」

 

ミラクル・ショーが叫びを上げ、そして勝者は深く息を吸い込み、口を開く。

 

「知りたいというのならば教えてやろう! 我らはこの地より(はる)か遠くからやってきた者……以前から素性(すじょう)を隠して武闘会に参戦していたが……今回は本気で勝ちを狙わせて頂く! もはや、素性(すじょう)を隠す必要も無い。勝つためならどんな卑怯な手段もいとわない我らの名は……"シノビ"! 我らに信念などない! 求めるのは勝利だけ! 以後、お見知り置き頂こう! と言うより、お前たちは嫌でも我らの事を忘れられなくなるだろうがな……ハハハハハハハ……!」

 

「勝つためならどんな卑怯な手も使うだと!」

 

「恥知らずが!」

 

「卑怯者ー!」

 

「確かに……よく考えたら卑怯だよな!」

 

「ナイトが負けを認めないんでお前達の卑怯さから目をそらしちまってたぜ! この卑怯者どもー!」

 

「フフッ! では、失礼!」

 

サムライを含めた観客達のひんしゅくを買う中、そう言って、ハンゾウとヤミノザンジは文字通り身を煙に巻いて姿を消した。

 

 

 

 

帰路につく天雷の騎士たちは怒り狂っていた。

 

「無礼にも程がある!」

 

「敗者相手にも敬意を払うのが戦国武闘会のあるべき姿では無いのか!」

 

「そもそもロレンツォ様は負けていない! 負けるべきは汚い手を使ったシノビどもだ!」

 

「戦いの勝者であるよりも、高潔な者であれ。それこそが、真の勝者である」

 

まだロレンツォの負けを認めない天雷のナイト達を、ロレンツォがたしなめる。天雷家の家訓を聞き、騒ぎ立てていた者達は一斉に静まった。

 

「天雷の騎士であるならば、既に決まった勝敗にケチをつけるような、高潔さに欠ける真似は(つつし)みたまえ。そして、先程述べたように、シノビはシノビの信念を貫いたまでだ」

 

「お忘れですかロレンツォ様! シノビどもは"信念などない"と言い放ったのですよ!」

 

「その目を見たか? 虚妄(きょもう)で塗り固められていたが、瞳の奥には真実があるように見えた。ふふ……きっと大いなる真実のため、あの場で"信念がない"と宣言する事が、シノビの信念を貫く行動なのだろうな」

 

その場でロレンツォの言葉を理解出来た者は、一人もいなかった。

 

 

 

 

アヴァラルドは、まだ闘技場内に残っていた。怒り狂いながら。

 

「おのれおのれ……! シノビどもめ……!」

 

怒りを紛らわすために売店で買った熱い紅茶の入った耐熱ビンを握り締め続け……ピシリ、と、とうとうビンにヒビが入った。

 

「おのれ……!」

 

これではいけない。いくら悔しくても、あの者の試合を見るのなら、冷静にならなくては。アヴァラルドはそう思い、その熱さにも怯まず、自分の怒りの炎の方が熱いと言わんばかりに、一気に紅茶を喉に流し込み飲み干した。

 

天雷の城で飲むものに比べれば幾分か、魔光の城に招かれた時に飲んだものに比べればさらに幾分か味は落ちたものだが、紅茶を飲み干したことで少し落ち着いた。

 

やはり茶はいい。こんな時でも、気を紛らわせてくれる。と、アヴァラルドは思った。

 

「これで何とか、少年の試合が見れるかな……」

 

そう、アヴァラルドは、この後行われるトドロキの試合を見るために、闘技場に残っていたのだった。

 

「……ビン、弁償しなくてはな……」

 

売店のビンは使い捨てではない。洗ってまた使うものだ。

 

アヴァラルドはスタッフに謝って弁償しようとしたが、スタッフは、天雷の騎士ならば、あの試合を見たら怒って当然と、こちらで負担しておくので、弁償しなくていいと言ってくれた。

 

アヴァラルドはスタッフに感謝の言葉を伝え、さらに冷静になるために、顔を洗いに小型超獣用のお手洗へと向かった。

 

 

 

 

「まさかロレンツォの試合、あんなふうになるなんて……正直納得いかないな……」

 

「モヤってる場合じゃないぜ。お前の試合が迫ってる」

 

不満そうなトドロキの肩を、ベンケイがペンと叩く。

 

休憩室のとある席にテーブルに並んで座っているトドロキとベンケイ。トドロキの前には、とっくに飲み干されたグレープジュースのビンが置かれている。

 

「そうだな……忘れちゃいないさ。で、試合の相手は……グレイテスト・シーザーだよな」

 

トドロキは長い返却口にビンを置きながら答えた。

 

「ああ、シデン・ギャラクシーと戦った奴だ。強敵だぞ……」

 

「でも最強じゃない。あいつはシデン・ギャラクシーに負けた。つまり、絶対倒せない相手じゃないってことだ」

 

「そうだな、その意気だ!」

 

「っしゃ! オラの心に、火がついてきたぜ!」

 

トドロキは気合いを入れ、顔つきが変わった……ように見えたのだが……

 

「ってことで……腹ごしらえしなくちゃな! 売店の飯、関係者用の食堂の飯、そして選手も使っていい観客用のレストランの飯、食いまくりタイムだ! 闘技場の飯はこれまた美味いからなぁ〜っ!」

 

「そう言うと思ったよ。試合直前によくそんなに食おうと思えるよな……緊張と運動で吐かないのが不思議だぜ」

 

「早く行こうベンケイ! まずは売店から! 今日行く売店は決めてあって、とりあえず握り飯全種類とー、パンも全種類いくだろー? パンはちょっと高えけど……でも食べておきたいし……後は……他に何か食べたくなったら、また売店に戻ればいいか」

 

闘技場の売店には二種類のタイプがある。コンビニ、という言葉はこの世界にはないが、いわゆるコンビニタイプの店(ただし巨大であり、小型超獣用の売店ですらアメリカのスーパーマーケットをゆうに凌ぐ大きさの店)である"大型売店"が十数箇所と、この世界に野球場はないが、野球場にあるような売店、"小型売店"が何十箇所か存在する。それらも入場ゲートや観客席と同じように、小型超獣用や大型超獣用と、超獣の大きさに合わせて分かれている。

 

トドロキは、選手村での生活用に武闘会運営組織から支給されている資金の大半を、食に使っていた。そして、この日もそうするつもりだった。

 

一方ベンケイはしっかり貯金していた。急に魔導具が壊れて、修理屋に依頼することもあるかもしれないからだ。

 

実際、最終予選会場ではトドロキの魔導具にヒビが入ったことがあり、使えなくはないが、万が一試合中に折れたら大変なので、無償で修理してくれる武闘会運営がやっている修理屋に依頼したところ、依頼が入りすぎていて修復に取り掛かるのに時間がかかり、試合までに修復が間に合わない可能性があるとのことだった。

 

武闘会運営の資金にも限りがあるため、これ以上運営側の鍛冶屋を増やせないという理由によるものだった。

 

あわや壊れかけの魔導具で試合に出ることになるかというところだったが、トドロキが運営側ではない鍛冶屋を見つけ、ベンケイが修理費用を払って、試合までに魔導具を修復してもらうことが出来た。

 

トドロキはまだ五歳だったし、ベンケイが武闘会に出場する側になったのは、トドロキが武闘会に出たいと言ったからで、つまり二人とも、初めての武闘会参加だった。だから、運営側ではない鍛冶屋の存在を知らなかったのだ。トドロキが走り回って、偶然見つけられたのは幸運だった。

 

ベンケイな思い返した。そう言えば、トドロキが初めて見た試合は、水文明の端末で見た録画だったな。名試合と名高い、第97回の紫電VSアクア・マルガレーテ卿の試合だったよな……あれは確かに名試合だった。

 

魔弾を撃ち魔導具を何度も叩き落とすマルガレーテを相手に、紫電は何度でも素早く魔導具を拾い、そして勝利へと繋げたんだったな……

 

マルガレーテもマルガレーテで、ずっと紫電に指一本触れさせずに翻弄し続けたんだよな……正直実力差のある相手だと思うが、マルガレーテはよく戦ったよな。俺も当時見てた時は、途中まで、もしかすると奴が勝つかと思ってたぜ……と。

 

ちなみに、武闘会に出る前、トドロキが、"オラなら優勝出来る"と言ったので、ベンケイが、"だったら僕も出場する。僕に試合で勝ってみろ。言っとくが本気の僕は強えぞ? 本気の本気の僕に勝てなきゃ、優勝なんて無理さ無理"と言って、ベンケイも武闘会に出場することを決めたのだった。

 

武闘会では死んでも復活出来るので、殺さないようにという手加減は必要ない。

 

ゆえに、特訓や修行とは違い、本気の本気が出せる。

 

もっとも、わざと相手を殺すような真似をすれば、ぐんと観客からの人気が落ちるのだが。

 

そして、トドロキとベンケイはまずは予選に出場し、そして、二人が予選と最終予選で当たることはなく、上位に残り、本戦出場が決まったのであった。

 

少しだけ鍛冶屋の話を補足すると、武闘会の予選・最終予選・本戦の会場には運営側ではない鍛冶屋がやって来ており、無償ではないが、金を払えば武器を直してくれるのだ。

 

運営組織もそれを黙認しているどころか、むしろ歓迎している。武器も含めて、選手にはベストコンディションで戦って欲しいので、そのためには猫の手も借りたいということだ。

 

さて、トドロキは、売店で何を買うかを考えた後、今度は食堂とレストランで何を食べるかを考えている。

 

「そしたら食堂でチャーハンと、焼きそばと、ラーメンと……で、レストランでオムライスとピラフとカレーライスと……」

 

「かなり炭水化物だな! 肉や野菜も食え! タンパク質は! ビタミンは!」

 

ベンケイは、幼くして親をなくしたトドロキを育てるに当たって、栄養学を学んだ超獣だった。そのため、栄養素の重要さを知っている。

 

「じゃあ売店でタラコ弁当買って、食堂でタラコ定食食べて、レストランでタラコオムライス食べる!」

 

「タラコばっかじゃねえか! まあ、分かるぜ? タラコは美味いし……俺達の住んでた山の中じゃなかなか手に入らない……予選会場でも、最終予選会場でも売ってなかった。その二箇所の選手村でもな。だが、ここじゃ売ってるってわけだ。タラコご飯と言えばこの時代を代表する平和の象徴でもあるし……何より美味い」

 

そう、水文明の領域でとれるタラコと、自然文明の領域でとれる米。それらを合わせたタラコご飯。その本来出会うことのなかった奇跡の組み合わせは、平和なこの時代を体現する食べ物だった。

 

「痛みやすいから流通しにくい生タラコだって、ここなら食べれるからなぁ。水文明の奴らはいつでも食えるらしいが、僕ら他文明の超獣達にとっては貴重なもんだ」

 

闘技場の売店では、タラコおにぎりやタラコ弁当だけでなく、タラコご飯と、大きめのタラコご飯であるタラコ丼も売っている。タラコと米の組み合わせは、戦国武闘会には欠かせないのだ。これらを食べながら試合を見る超獣も多い。

 

「この機会に食べまくりたいのは分かる……タラコを食べる為だけに闘技場に来るやつもいるくらいだからな……じゃあ、タンパク質はタラコでいいとしても、野菜はどうする?」

 

「野菜はいいだろ別に……」

 

「よくないっ! 食えっ! 野菜! 食え食え食え! ビタミンミネラル食物繊維!」

 

「分かった分かった食うから食うから」

 

「分かりゃいいんだよ」

 

「じゃあ電車に乗らなきゃなー」

 

と言ってトドロキは歩き出した。

 

この闘技場はあまりにも巨大だ。第一回戦国武闘会の頃はここまで巨大ではなかったのだが、幾度も改築・増築を繰り返し、第百回戦国武闘会が行われている現在では、小型の超獣ではとても一周などできない大きさになっている。

 

そのため、闘技場には専用のフロアが(もう)けられ、電車が走っているのだ。

 

蒸気機関車が主流なこの世界において、電車というのは珍しい。屋内で蒸気機関車を走らせると、煙が問題になるためだ。

 

「またかよ……近くの売店でいいだろ……また電車かよ……」

 

と言いつつも、ベンケイもトドロキと共に歩き出していた。

 

「いいじゃんか闘技場の電車は無料なんだし。近くの売店はもう何度も行った。そこだって美味いけど、オラは遠くの売店に行きたいんだ」

 

そう、電車の電気代や維持費などは試合観戦のチケット代や売店・飲食店の売上、スポンサーの企業や財閥の出資などで充分(まかな)えるため、無料なのだった。

 

「確かに電車は無料だけどよ……確かに闘技場に十数箇所ある大型売店は違う企業がやってるから、商品は違うけどよ……」

 

超獣世界の大企業や大財閥は、競うように闘技場に出店したがる。もはや世界の中心とも言えるこの闘技場に出店すれば、大きな宣伝になるからだ。武闘会運営もそれを理解しているため、出来るだけ多くの企業・財閥に店を出店させる。

 

飲食店だけではない。服屋だってある。魔導具を売っている店だってある。それらの店は、主に有名選手とのコラボ商品を販売している。

 

中には店舗経営にも力を入れている選手もおり、服屋の集まる一角には、邪眼のアウグストが主導する邪眼ブランドの店舗がある。

 

魔導具屋の方には、ボルメテウス・武者・ドラゴンになりきれる《竜装 ムシャ・レジェンド》という人気商品がある。この魔導具は大人にも子供にも大人気であり、これを使って武闘会に出場する者も多く、ミラーマッチも発生しやすい。

 

正直この魔導具を使う超獣はいわゆるエンジョイ勢の超獣が多く、本戦まで勝ち上がってくることは少ないのだが、以前、この魔導具を使って本戦まで勝ち上がり、さらには武者本人と戦い、結果として敗北はしたが善戦した無名の超獣がいた。その試合中、闘技場は熱狂の渦に包まれた。

 

今ではその超獣は、《竜装 ムシャ・レジェンド》といえばこの超獣、と言われるほど有名になり、その魔導具を販売するメーカーからPRで呼ばれることも多い。武者もその超獣を大きく(たた)えている。

 

闘技場の外には、観客達が寝泊まりできる宿やホテル、飲食店、服屋など、本当になんでもあるのではないかというレベルで、闘技場の内外は充実している。

 

「それに小型売店も、こっちでは売ってないもんがあっちには売ってるからな! 食堂もレストランも、あっちの方はまた違うし!」

 

「そうだよな……オムライスがあるレストランって、あっちの方だもんな……でもお前……電車に乗るとすぐ退屈してその辺の奴に話しかけるだろ……意気投合することも多いし、それはいいが、ナイトに話しかけて、ケンカ寸前になることだってあるじゃねえか……ナイトに話しかけるのはやめろよ……」

 

トドロキはケンカを売っているつもりは全くないのだが、ナイトにはサムライを下に見ている者もいるため、"サムライごときに話しかけられた"と捉え、"無礼なことをされた"と思われる場合がある。結果的に、ケンカを売ったような形になってしまうことがあるのだ。そして、"私と戦うつもりか?"とか言われるのだった。

 

ナイト側は(いきどお)っているのだが、トドロキの側は相手が腹を立てているとは思わず、手合わせしようと言ってきたと解釈し、ワクワクしながら、"よっしゃ! 戦おう! オラは強いぞ!"と言ってしまう。そして電車の中で、あわや乱闘騒ぎを起こしそうになってしまうのだ。

 

選手が電車内で乱闘をすれば、最悪武闘会を失格になってしまう。それを知っているベンケイは必死に止めるのだが、トドロキは"戦ったぐらいで失格にならない"と言って聞かないのだ。

 

そういう時、ベンケイは、"すんません! こいつガキなもんで! ホントすんません!"とナイトに平謝りする。

 

最終的に、大抵は、相手のナイトが、"そなたは子供のようだし……そのドリームメイトに免じて許してやろう"と言って引いてくれる。誇り高きナイトは、子供相手にいちいち目くじらを立てたりしない。という考えが、ナイト達の中にあるのだろう。

 

ちなみに、トドロキが、"なんだよ、戦わないのかよ。怖気付(おじけづ)いたか?"とか言って、せっかく片付いた問題を再発させようとすることも多い。トドロキ自身は全く挑発しているつもりはなく、戦えなくなってがっかりしているだけなのだが。

 

そんな時、それ以上問題をややこしくさせないため、ベンケイはトドロキを引っ張って、別の車両に連れていくのだった。

 

さて、駅に向かって歩いている二人に戻ろう。

 

「たまにナイトにだって打ち解けてくれる奴はいるじゃないか! 今朝のアヴァラルドだって、きっと良い奴だって!」

 

「そうかもしれねえけどよ……」

 

『《氷牙バブル・ヘルマー公》選手VS(たい)《爆獣マチュー・スチュアート》選手の次の試合は、30分後に行われます。選手の方は、控え室へどうぞ。観客席エリアへの入場も、ただいまより再び可能になりますので、観客の方々は、焦らず、押さず、走らずに、順番に観客席エリアへお入り下さい』

 

闘技場内にアナウンスが流れた。

 

「噂をすれば、次はナイトの試合かあ」

 

「しかもナイト同士ときたか」

 

バブル・ヘルマー公は、氷牙一の正々堂々とした戦いを好む超獣だった。何せ、自分の手の内を明かす上に、自分だけではなく、対戦相手をも強化する技を使ってしまうのだから。しかも、その上でここまで勝ち上がってきたのだから、只者ではないことがわかる。

 

一方マチュー・スチュアートも、これまでにされたインタビューなどで、好印象を与える若者として認識されている。この試合もまた、名勝負になりそうな予感を感じさせるものだった。しかも、ナイト同士の戦いとあり、ナイトマニアにとっては見逃せない一戦だった。

 

しかも、ヘルマーとマチューの二人にとって、これはこの本戦での初めての試合だった。

 

 

 

 

これから控え室に向かう選手達は、関係者用の場所にて……

 

「しっかりな、マチュー」

 

と言うのは、爆獣のヴァルアーサー。

 

「お前ならやれるぜ!」

 

と早くもガッツポーズを取るのは、爆獣のダキテー・ドラグーン。

 

「俺達はこれまで鍛錬を積んできた。相手は強いが、ダキテーの言う通り、お前なら勝てるはずだぜ」

 

と、もはや"お前達"ではなく、"俺達"と言うのは、爆獣のイナバ・ギーゼ。

 

それを暖かく見守る爆獣のピーカプ・フィリッパ達。

 

「みんな……ありがとうっチュ! 行ってくるッチュ!」

 

マチュー・スチュアートは、暖かい気持ちで控え室に向かった。

 

 

 

 

一方、また別の関係者用の場所で、氷牙の方は……

 

「君ならやれるさ。ヘルマー」

 

と声をかけるのは、氷牙のネオングライド公。

 

「あなたほどの実力者、そうはいません。相手は何やらわけの分からん自称ナイト……まあ本戦まで勝ち上がってきたのだから、実力は本物なのでしょうが、それでもあなたが負けるはずはありませんよ」

 

と言うのは、氷牙のグリエルモ侯。

 

「サイバー・ウイルスのナイト同士、これまで二人で修練を重ねてきたな……私はこの武闘会、既に敗退してしまったが、お前に(たく)すぞ……!」

 

と気持ちを伝えるのは、氷牙のレオポル・ディーネ公。

 

「みんな、ありがとう……ボク、行ってくるね!」

 

バブル・ヘルマー公もまた、暖かい気持ちを抱えて、控え室へと向かった。

 

この二人の戦いも、本当に名勝負となるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

闘技場内の駅に向かって歩いているトドロキ達とは逆に、駅の方から、ヘルマー公とマチューの試合を見るために、電車から降りてきた小型の観客達が、小型超獣用の観客席を目指して歩いてくる。

 

「爆獣って、結局なんなんだろうな。火文明と自然文明のナイトって、あいつらくらいしかいないよな?」

 

と、トドロキは歩きながら疑問を呈する。

 

「確かに、文明は珍しいが……ま、"幽騎士"とかって肩書きのナイトもいるし、爆獣って肩書きもありなんだろ。肩書きは氷牙とか天雷とかに限らなくてもいいってことなんだろうな」

 

それこそ、お前の次の対戦相手の、"暗黒皇(ダークカイザー)"もどこの所属か分かんない肩書きしてるしな。とベンケイは思いながら歩いていた。

 

そして二人は歩き続け、駅に着いた。

 

「ほら、乗ろうぜ!」

 

「あー……分かったよ……」

 

『セントラルスタジアムエクスプレス、小型・中型超獣用列車、間もなく発車いたします』

 

セントラルスタジアムとはこの闘技場のこと。全ての闘技場の中心たるこの闘技場は、中央闘技場と呼ばれる場合があるのだ。

 

「やばっ! 乗らなきゃ!」

 

「あっおい次のに……って本当に乗る気かよ! 駆け込み乗車は危険なのに……! トドロキ! 乗ったらお説教な!」

 

「えー!」

 

ギリギリで乗り込んだトドロキは、乗客達にも有名だった。

 

彼らは声には出さなかったが、目や顔、身振り手振りで様々な反応をした。

 

"見てあれ! あの選手!"

 

"あ、トドロキだ"

 

"若すぎるルーキーの……"

 

といったふうに。

 

『発車します。お立ちのお客様は、手すりやつり革にお掴まり下さい。次の駅は闘技場北西駅です』

 

「なあベンケイ、オラ、退屈してきた……」

 

「ナイトには話しかけんなよっ……またケンカになる……」

 

ベンケイはボソボソとトドロキに言ったのだが……

 

「おーいそこの奴、オラと話しようぜー」

 

トドロキはボックスタイプの座席から上にはみ出ている魔銃を見て、躊躇(ちゅうちょ)なく持ち主と思われるナイトに後ろから話しかけたのだった。

 

「アワーッ! ス、スンマセン! スンマセン!」

 

早くも平謝りするベンケイだったが……

 

「おや、君は……トドロキ君、だったかな? 私と話がしたいのかい?」

 

そのナイトは、チーム 《シデン・ギャラクシー》の一員として紫電達と共に戦った、《天雷騎聖シャルル公》……真の名を、《聖霊竜騎ボルシャリオ》だった。真の名は、紫電や武者達以外、誰も知らないが。

 

「おおーっ! 試合中は分かんなかったけど、後でヒーローインタビューで聞いたけど、あんた、紫電とギャラクシーを融合させた奴だよな!? シャルル公だっけ!」

 

「うむ。私だけの力ではなく、バルックと力を合わせて、だがな」

 

相手のナイトが(こころよ)く対応してくれて、ベンケイは胸を撫で下ろす。

 

「すげーなぁ、オラとベンケイのことも融合させれたりする?」

 

「え゛っ゛!?」

 

「ははは。もし君達と同じチームになれたら、考えてみようかな」

 

「おぉー、じゃあ融合した状態の名前考えなきゃなあ……」

 

「いや、融合したいか? トドロキ、僕と……」

 

「ベンケイはしたくないのか?」

 

「うーん……」

 

ベンケイは首をかしげた。

 

「ところで、トドロキ君はずいぶんと見込みがあるな」

 

「えっ!? そうか!?」

 

「ああ。若すぎるルーキーの噂は、私も聞いていたし、前の君の試合は見せてもらった。この武闘会に私自身は出場していないから、そんな私が口を出すのもなんだが、君ならグレイテスト・シーザーが相手でもいい戦いが出来ると思う」

 

「ほんとかっ! 勝てると思うか!?」

 

「健闘を祈るよ」

 

「はははっ! オラ、勝てるってさ、ベンケイ」

 

「勝てるとは言われてねーだろ」

 

「ここ、空いているから座ったらどうだい?」

 

シャルル公は自分の前の座席を指して言う。

 

「そうだな! 座って話そう! シャルルはなんで北西駅に向かってんだ?」

 

「うむ。紫電に、これから行われる試合を共に見ようと誘われてな。私は中型超獣だが、紫電は大型超獣だから、大型超獣用エリアで共に観戦しようという話になったのだ。事前に武闘会運営に話を通して、座席を確保してもらった。大型超獣が小型超獣用や中型超獣用のエリアで観戦するのは不可能だが、逆は出来るからな。大型超獣用の観戦エリアは、北西にあるのでな」

 

小型超獣用の観戦エリアは南西に、中型超獣用の観戦エリアは南東に、大型超獣用の観戦エリアは北西に、超大型超獣用の観戦エリアは北東にあった。

 

シャルルの相棒、バルックは、もう既に北西の観戦エリアに到着している。シャルルはそれを追いかける形で、北西に向かって移動していた。

 

「へーっ! なるほどな!」

 

「君の今日の試合も、見させてもらうよ」

 

「そりゃ嬉しいな! ありがとな!」

 

「トドロキ君はどうして北西に?」

 

「あっ……」

 

「うん、飯食いにな!」

 

「飯……?」

 

「いや、その……」

 

「北西には南西とはまた違う飯が売ってるもんで!」

 

小型超獣は、一応全てのエリアで観戦が出来る。そのため、自分より大きな超獣と共に試合を観戦する小型超獣も多い。よって、小型超獣用の店は南西、南東、北西、北東すべてにある。

 

「ああ……」

 

ベンケイは頭を抱える。これではアホだと思われてしまう……

 

「グルメなのだな」

 

が、意外にも反応は良いものだった。

 

「おすすめの店はあるかな? あれば私も、後で行ってみたい」

 

「えっとな、タラコのオムライスを出す店があって……」

 

「ほう、タラコ……」

 

三人は電車の椅子の上で、軽く揺られながら闘技場北西駅へと向かった。

 

ちなみに、ベンケイはトドロキにお説教をするのを忘れていた。

 

 

 

 

この時はまさか、トドロキとグレイテスト・シーザーの試合があんなものになるとは、誰も思っていなかった。

 

 

 

 

次回予告

 

「やあやあ! 我の名はトドロキ!」

 

トドロキが、グレイテスト・シーザーに対し名乗りを上げる!

 

「我の名は……暗黒皇(ダーク・カイザー)グレイテスト・シーザー……。この武闘会にて……サムライを撃ち抜き……銀河を穿(うが)ち……騎士の勝利とする……もの……なり……」

 

グレイテスト・シーザーも、名乗りで答えてきた!?

 

「《鬼神装甲クロウ・トドロキ》……! 今のオラの事はそう呼べ!」

 

トドロキが荒々しさを見せる!

 

「炎だ、炎が紫電の形になっている! しかも、二人!!」

 

トドロキの闘志が、炎の紫電を呼び覚ます!

 

次回、《優勝大本命・トドロキ》

 

「とどめだぜ! グレイテスト・シーザー!」

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