「エイトさん! いや、エイトの兄貴と呼ばせてくだせぇ! アッシは兄貴に命を救われ、心底感服したんでがす!」
「どういたしまして。怪我はなかった?」
「兄貴のおかげで無傷でがす!」
「よかった。我ながら手荒な助け方だったからさ」
「手荒ではなかったでがす! アッシにはまるでおとぎ話の王子さまが助けに来てくれたように感じたでげすよ!
命の恩人であるエイトの兄貴! どうか、どうかこのヤンガスを舎弟にして欲しいでがす! 使いっぱなしでもなんでもさせて頂きやす!」
「え、えぇ……?」
「こ、これヤンガス。エイト殿を困らせるでない。だいたいサザンビーク王の依頼の最中であろ。途中で鞍替えなどおふたり共に失礼だとは思わんかっ」
「うるせぇぞおっさん。アッシはエイトの兄貴に感服したんであって、最初からあんたの家来じゃねぇんだから指図なんかされねぇ! それにトラペッタでの一宿一飯の恩義はもうじゅうぶん返しただろ?
それにもちろん、護衛の任務はキッチリこなした後の話をしてるんだ! なんたってエイトの兄貴のおじの依頼なんだからな! ここは漢としてきっちりしっかりやり遂げて見せるに決まってるだろうが!」
「む、むぅ……」
「えぇっと、もしかして、この護衛が終わったらこのパーティ抜けてまで僕の舎弟になりたがってる感じなの?」
「もちろんでがす、今後のアッシはたとえ火の中水の中! どこまでもお供させてくだせぇ! エイトの兄貴の為に救われた命を使いたいんでげすよ!」
「えぇ……でもそれって……」
目をキラキラ、いや
助けたことを感謝してくれるのはいい、感銘を受けて僕のお供したいと言うならサザンビークで何かしら職を斡旋するのもいい。
たとえ身元がはっきりしていなくても兵士の採用試験を受けられるように口利きするのも構わないし、やりたい分野があるならそこも配慮もしたいと思う。
「兄貴」呼びも新鮮で面白いし、きっと僕の知らない色んなものを見てきた人だろうから色んな話を聞きたいし。
こっちとしては困らないけど、面白そうだけどさ。
でも、ヤンガスにパーティを抜けられるのは他のメンツが困るんじゃ?
だって、戦闘要員の三人のうち、明確に前衛なのはヤンガスだけ。
ククールも騎士らしくレイピアを手に近接戦闘しているのを見ていたけど、魔法使いのゼシカをかばいながら回復も前衛もこなせるのかは分からない。
ゼシカもムチを持ってて、近くに来たモンスターを打ちすえていたけど……動きを見るにメインは呪文攻撃だよね?
ふたりともじゅうぶん強い人だと思うけど、適材適所があると思うんだ。
それに、ドルマゲスの話を聞かせてもらったけど、マイエラの方の聖堂騎士団が本拠地で総出で戦って為す術もなかったんでしょ。
そんな強力な相手に、たったふたりで挑むのは無茶としか言いようがなくて。
もしかしてトロチャン殿も戦えるのだろうか?
見たところ、老人だ。
若くても壮年に見える。
少なくともここまででは一度も戦っている姿は見てないし、厳しいのかも?
いや、肌が緑色だから年齢なんて正確に測れない。
勝手な推測なのだけど。
「とにかく、今その話をしても仕方ないと思うんだ。此度の護衛任務については問題なくこなすつもりなんだろう? なら、終わってからでいいじゃないか。僕から言えるのはヤンガスが無事でよかったってことだけだから」
「あ、兄貴ぃ……!」
「話は終わったか? そろそろ出発だ! エイトが倒した個体が居たということは……近くに番もいるはずだ! そいつを探して倒せばきっと大きなアルゴンハートが手に入るに違いない! そうすれば父上もぼくを見直すに違いないし、エイトのアルゴンハートと並べられていい気分だろうな! 今代の王族は優秀だと!
よーし、エイト。さっきのデカブツの番を見たかどうかだけは教えてくれるか?」
「見てないよ。何度も言うけど自分で探してね。あと本当はひとりでやるんだからね、この儀式」
「ちぇっ。分かってるけどぼくが死んじゃったら伝統だの儀式だの意味ないだろ!」
「もちろんそうさ」
あれだけ怒って首根っこまで掴んできた相手に、いくら家族だからってケロッとして普段通りに接せられるところは明確にチャゴスの才能だよね。
なんて思いながら、僕は一行と共に野営地を片付けた。
置いてきちゃってたバンダナ、風に飛ばされてなくて良かった。
そうそう、アルゴングレートの返り血が本格的にこびり付いてしまう前にその辺の水場に服ごと飛び込んで洗い流し、「ベギラマ」ギリギリくらいの威力の「ギラ」でサッと乾燥させることで僕の大事な「一般人の一張羅」は無事で済んだ。
頭からトカゲのエキスを追加で振りかけて、これでよしっと。
◇
あれからしばらくアルゴングレートを探して、見つけた。
まるでチャゴスを待ち構えていたように、野営地のすぐ下にいたんだ。
うん、まだ太陽も真上になっていないしこいつを倒したら帰るのにいい時間じゃないかな。
そろそろバザーも始まる頃だし、運が良ければ帰ったらそのまま見に行けるかも。
「さぁ、始まった。さすがのチャゴスもあの個体のアルゴンハートなら満足するでしょ」
「あれがエイト殿が持ち帰ったアルゴンハートの個体の番ですかの?」
「ええと、同じオスだから違うと思いますが。でも他と比べて大きな個体でしょう?」
「なるほど、そうですな」
「あぁ、今まで通り三人が戦っている間は貴方と愛馬は僕が護衛しますからご心配なく。
ところで、彼……いえ、彼女ですかね? この馬の名前は何と言うんです?」
チャゴスが目をつけてしまったのは心底申し訳なかったけれど、その気持ちも少しわかるくらい気品のある、毛並みも素晴らしい馬だ。
だから軽い気持ちで名前を聞いただけなのに、トロチャン殿はひどく動揺したみたいだった。
なんでだろう。
「す、少しばかり彼女の名前はサザンビークの方には申し上げにくいのですじゃ。気を悪くされるかもしれぬので……」
「もしかして人名とでも被ってしまいました? 別にクラビウス号でもエイト号でも怒りませんよ」
「それが……その。
「なるほど。響きの美しい姫君の名前ですが、由来を考えれば愛馬に流星のごとく駆けて欲しいと願うのは当然です。それに……僕にとってミーティア姫は将来義理の家族のなる相手なので、悪い意味と捉えないで欲しいのですが。白馬のミーティアも『姫』と呼びたくなるような気品を感じます。名は体を表すとはこのことですね」
たてがみも綺麗に分けて結われているし、毛艶もいい。
白い身体にくすみもなく穏やかな優しい目をしていて、トロチャン殿は姫君のごとく愛娘として本当に可愛がっているんだろうな。
にしても「ミーティア」か。
トロチャン殿は言葉の訛りからしてトロデーン王国のある北大陸の人だよね?
こっちの人間ならまだ分かるんだけど、結構綱渡りな名付けだなぁ。
場合によってはきついお叱りが飛んできそう。
トロデーン国民は飛び抜けて温厚らしいから大丈夫だったんだろうけど。
「改めて、ミーティア。僕は君に無礼なことをしたチャゴスの従兄弟なんだ。僕にも謝らせておくれ。サザンビークに戻ったら美味しいニンジンとリンゴを届けさせるよ」
いきなり触れるようなことはしない。
彼らは気高く、力強い生き物だから。
側面から人間にするように目を見て話すと、彼女は少し笑ったような気がした。
頭を少し下げ、僕の腕の辺りを鼻先でつつく。
まるで僕に「いいのよ」と返事してくれたみたいだった。
驚いた、とても賢い子だ。
「ええと、トロチャン殿。彼女を撫でてもいいでしょうか?」
「ミーティア、いいかのう?」
するとそっと頭を寄せてくれて、彼女の許可を感じた。
人間の言葉がわかるんだね。
小手をしたままの手で頭を撫で、その優しい目を覗き込む。
澄んだ瞳はまっすぐに僕を見つめていた。
初めて会うのに、何故か……知っている?
そんなはずはないのにね。
なんだか懐かしいような……初めてじゃないような……不思議な感覚。
「ありがとうミーティア。短い間だけど、サザンビークに着くまで君のこともしっかり守らせてもらうね」
あっちでは決死の戦いが繰り広げられているっていうのに。
飛び交う詠唱とアルゴングレートの鳴き声、怒号と血煙。
そんなものが飛び交うのを横目に見つつ。
チャゴスがこっちに逃げてこようとする度に睨みつけて追い返し、時折近寄ってくるモンスターを倒しながら。
優しい「ミーティア」との交流を楽しんだ。
ちょっと頭を撫でさせてもらいながら、僕は知らず知らずのうちに……トロチャン殿もそこにいるっていうのに……サザンビークでの暮らしをぽつりぽつりと語りかけていて。
彼女と初めて会ったはずなのに彼女のそばは落ち着くんだ。
心からよく馴染んで、会うべくしてあったような不思議な感覚。
小さい頃からおじ上が僕の食事に好物ばっかり出すように取り計らってくれていること。
身長が伸びる度に亡き父上の衣装を仕立て直してくれること。
僕が父「エルトリオ」に似ているところがあると、おじ上も周囲の人間も大喜びすること。
学びたいことがあればすぐにでも先生を用意してもらえたから、呪文や剣、槍の先生に囲まれて育ったこと。
そんな恵まれた暮らしなのに、君たちみたいに広い世界を旅をしたいって夢見ていること。
君には無礼なことをしたチャゴスだけど、僕には気まぐれで羽飾りをくれたり、バルコニーから外を見ていたらベルガラックに連れ出そうとしてくれること。
昔、こっそりサザンビークを抜け出して、砂漠にある竜の骨を見に行って帰ったらなぜか高熱を出してしばらく寝込んだこと。
それから城の外に出ることさえよく思われていなくて、今は理由がなければ城下町にもあんまり出られないこと。
「王者の試練」が終わったから、次に城門をくぐるのは君と同じ名前のお姫様と従兄弟のチャゴスの結婚式に参列する日だろうってこと。
チャゴスと違ってこの歳になっても婚約者のいない自分はこれからの人生、ほとんど国から、なんなら城からも出ることもないのかもしれないということ……。
そんな話を。
人目がなければ、ある日突然「鱗」が生えてきて心底肝が冷えた話もしたかもしれないね。
いくら賢いと言ったって「馬」相手なのに。
でも、「ミーティア」はまるで本当に理解しているように頷きを返してくれたり、僕の腕にすり寄ってくれた。
トーポと話している時くらい、いやある意味もっとかもしれない。
僕は心底穏やかな心地になっていたし、「彼女が人間なら、返事を貰えたのに」なんて叶わぬことを思った。
そうこうしているうちに戦いが終わって、嬉しそうな顔で今まででいちばん大きなアルゴンハートを見せびらかしてくる、存外元気なチャゴスに向かって僕はベホマを唱えてあげたとも。
主姫ほのぼのの裏でアルゴングレート戦ではエイトに立ちふさがれて逃げられなかったチャゴス王子は最後まで戦っているし武器のリーチの問題で無事肉壁を遂行 適材適所◎