サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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憧憬、あるいは恐怖

城門の前まで戻ってきた。

 

帰る前にククールが何か呪文を唱えようとしたけど、トロチャン殿になにか小声で窘められて呪文を辞め、僕らは来た道を歩いて戻ってきた。

というか「それ以外」にどうしろって話なんだけど。

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それが出来たら一度行ったら実質世界中どこにでも行けちゃうだろうから、便利すぎて技術の革命が起きちゃうか。

 

なんだろ?

ククールは「トヘロス」で魔物避けをしてくれようとしていたのかな?

それなら辞める理由が思いつかないんだけど。

というかできるなら行きの時点でやってくれているか。

 

「よーし、お前たちもういいぞ。ここからはぼくひとりで戻らないと国民たちに気づかれて……ん?」

 

「なんだか街が賑やかだね。もしかしてもうバザーが始まってるんじゃ?」

 

「おお! ならこうしちゃいられないな! よしエイト、戻る前にちょっと先に見て回るか!」

 

「うん……と言いたいところだけど僕、この格好じゃあチャゴスの横にいるのはダメでしょ。普段の格好に着替えてくるから」

 

「でもぼくたち城に戻ったらもうバザーに出られないだろ。今なら帰ったついでに寄ったってことで言い訳もできるじゃないか。

そのみすぼらしい格好の方が父上や頭の硬い侍従たちに気付かれずに済む。だけどこのぼくといるのは目立つから……仕方ない、おい、お前たち! エイトの仲間のフリしてバザーを見て回れ! エイトが満足するまで付き合うんだからな!」

 

「ガッテン承知でがす! さぁ兄貴、行きやしょう!」

 

「え、あ、ちょっと、」

 

「ここは家族想いのチャゴス王子の好意を受け取っておけよ、エイト。さぁ行こうぜ」

 

「ちょっぴり見直したと思ったら大きくやらかして、もうダメだと思ったわ。だけどまたちょっぴり見直すところがあるのね。従兄弟の好意は素直に受け取るのがいいわ」

 

「なんか褒めてるより差し引きでは大きく負の方向にめり込んでないかな、それ……」

 

ヤンガスに腕をぐいぐいと引っ張られていく僕を少し満足気に見送ってくれたチャゴス。

うん、やっぱり家族には優しいやつで、文句のつけようもなく良いヤツではないけど最悪なヤツではないんだ。

というか僕にとってはどこまでも……。

 

そういうわけで、僕たちは色んなお店を見て回った。

三人は普段は売っていない舶来の防具や武器の店を見つけて、あーでもないこーでもないと言い合ってひとつずつ新調しているのを羨ましく見ていた。

僕はバザーの店主に正体に気づかれないよう、でも彼らの仲間に見えるようにそれなりに近い位置でその様子を見守る。

 

他にも華やかな雑貨の店を冷やかしたり、旅で使う物資を補充したり。

貴重な世界樹の葉っぱを売るお店もあった。

 

最初は僕も記念に何か買いたかったけど、見ているだけでも面白いもので。

そうなってくると何かが欲しいなと思うこともなく、見物だけでもすごく面白い!

 

小さい頃はチャゴスとお小遣いを握りしめてバザーに行ってたっけ。

僕らが何かを買うと、そこの出店には「小さな殿下御用達」って張り紙がされていたの、面白かったなぁ。

大きくなってからはバルコニーから活気のある様子を見ることしかできなくなっていたけれど、やっぱり間近で見た方がずっとずっと楽しいや。

チャゴスが毎年抜け出してバザーに繰り出していくのって理にかなっていたんだなぁ。

断らずにこうして変装してでもついて行けばよかった。

ううん、チャゴスはいつもの服装なんだから、おじ上がお叱りになっても僕も普段通りの格好で自室の窓とか、バルコニーを伝って脱走しちゃえば良かったかな?

何も買えなくても楽しいんだ。

 

人々の楽しそうな会話、店員たちの呼び込みの声、子どもたちの笑い声……。

ざわめきはどれも楽しそうで、温度があっていきいきとしている。

城の中の澄ましたような静かな空気とは違う人の営み。

王族の僕たちが護るべき、背負うべき世界。

 

ちょいちょい立っている見慣れた顔の兵士たちに気づかれないように立つ向きを気をつけたり、誰かの影になるように立ち位置を考えたり、そういうこともまるで子どもの頃のかくれんぼでもしている気持ちでバレないかドキドキして、童心に戻ったよう。

 

もう依頼はこなしたのに、律儀に三人はチャゴスの言った通り僕をちゃんと仲間のように扱って、人混みに紛れてしまわないようにしてくれる。

時に気安く腕を引っ張り、肩をつかみ、兵士たちに気づかれないように僕に話しかけて向き直らせ、彼らと常識がズレていて参考にならないだろうに買いたいものへの意見を聞いてくれて、僕のすぐ後ろを兵士が通り過ぎるまでさり気なく庇ってくれているというか。

 

「エイト殿下」としてこれまでの人生ずっと、丁重な扱いを受けてきた。

おじ上は僕を通して優秀だった「(エルトリオ)」を見て、等身大の「僕」を見ているのはいつだって近しい立場のチャゴスだけだった。

チャゴスはチャゴスで、将来への重圧から目を逸らすようになってからは別の意味で視線がかち合わなくなったものだけど。

 

今だって、特別扱いはある意味変わらない。

かりそめのものだって分かっているけれど。

なんとなく気安くて、普段より壁が薄いようなそんな錯覚。

そんなわけはないのに、その時の僕は「ただのエイト」だった。

 

でもね、彼らに本当の意味で迷惑をかけちゃいけないのも分かってる。

おじ上が捜索を始める前に帰らなくちゃ。

それにチャゴスが帰る前に着替えておかないと。

チャゴスがアルゴンハートをお披露目するめでたい場所に遅れる訳には行かないよ。

まぁ、そのチャゴス本人もバザーを楽しんでからゆっくり帰るとは思うけどさ。

 

「これまでありがとう。僕、先に戻るよ。着替えなきゃいけないし、事情を知らない兵士や侍従は僕が泊まりで抜け出したと思って今頃大騒ぎしてると思うんだ。

『魔法の鏡』を受け取りに城に来るでしょ? ついでにチャゴスのお披露目会にも参加しなよ。その方がおじ上とスムーズに話できると思うからさ」

 

君たちについて行きたい。

広い世界が見たい。

思いっきり戦い、全力で駆け抜け、風を浴びて。

「目的」に向かって進み続ける。

そんな君たちと一緒に行きたい。

 

そう言えたら、それが叶ったらどれだけ幸せだろうな。

言ってみるだけ言ってみる?

向こうからしたらヤンガスがパーティから抜けないで済むし、僕は腹芸と違って戦うことだけは明確に得意だし。

戦力としてなら間違いなく役に立つよ。

近接戦闘だけじゃない、遠距離から延々と落雷を落としながら回復呪文をばらまくことだってできるし。

 

でも、「エイト殿下」を連れていくのはかなり面倒な「しがらみ」だよね。

 

ふふ、そもそも王位継承権持ちが簡単に出ていって旅ができるわけないのに。

おじい様は漫遊王子として冒険して、よくもまぁトロデーンの姫君と恋愛したものだよね。

僕も真似してみたい。

チャゴスの婚約者である「人間の」ミーティア姫と恋愛する訳にはいかないけど。

 

そうだ、「呪いを解く」って口実ならどうだろう?

僕がおじい様のように漫遊の旅をしてみたいとか、極悪人のドルマゲスと戦ってみたいとか、そんなことを訴えても却下されるに決まってる。

でも、僕の身体に黒い鱗が生えているのは本当で、剥がしても解呪しても効かなかったのも本当で……状況証拠はドルマゲスが来た日に「呪われた」んだって分かっているんだから。

あとは……トロチャン殿をおじ上の前に連れて行って、話してもらう? とか?

 

そんなの気が早いだけ。

本人に「あなたのその姿は呪いですか?」と聞いてすらいないのに。

あれで普通に生まれつきだったり、あるいは奇病のせいだと分かっていたりしたらとんだご迷惑だよね。

 

でも。

どうせ、そろそろ隠し通せなくなるんだ。

僕の状況の告白ついでに、言ってみるのはどうだろう?

どうせ、どうせ「鱗」のことを公表しても誰にもなんにもできやしないさ。

理由を提示してお願いするだけ漫遊の旅に出たおじい様よりは理由があるし、だまって駆け落ちして帰らぬ人になった父よりはずっと誠実じゃない?

 

僕は人目につかないように自室に戻り、「旅人の服」を脱いだ。

 

出かける前は腕の全てを覆う程じゃなかった鱗は、肩までびっしりと艶やかで真っ黒い「鱗」に覆われている。

手のひらには「鱗」がない代わり、薄橙色だった皮膚はヒトのものとは思えないなまっ白い色に変わっていて、随分と分厚く頑丈な「皮」に変化している。

蛇の腹よう。

ううん、やっぱりどっちかというと「竜」の腹のよう。

足も似たようなもので、小指の先から太ももまですっかりと鱗におおわれてしまった。

これまでと違って身体の方も無事ではなくて、顔や胸元は何ともなかったけれど、腰や腹の方にはぽつりぽつりと「鱗」が生え始めている。

尻尾やトゲは生えていないみたいだけどね。

 

僕がもっと大きな生き物だったなら、良い防具の材料になったに違いない。

剥がして、回復してを繰り返せばぼくの体力が続く限り採り放題じゃないか。

人間のスケールだと鱗の一枚一枚もそんなに大きくないから、せいぜい花びらサイズで使えそうにないのが残念だね。

 

鏡を覗き込むと、顔にはまだなんの変化がない……と思っていたけれど、よくよく見ると目が変わっているような。

生まれつきの黒い瞳には変わりないけれど、瞳孔ってこんな、「縦」に裂けたようなかたちだっけ?

なんだか猫かトカゲみたいだ。

角度を変えるとチラチラと金色に輝く黒い瞳。

 

ヒトの瞳孔は丸いはずなのにおかしいな。

本当に、おかしい。

ヒトじゃないよ、これ。

きっと呪いだ。

呪いじゃなきゃ、なんなんだ。

 

僕はサザンビーク王兄の子。

エルトリオと、彼が愛したウィニアの子。

ヒトじゃなくなったら、僕はなんなの。

僕は……僕は……。

 

さっきまでの楽観的に浮き立っていた心が急速に萎んでいく。

本当の本当に、もう、ここにはいられないのかもしれなかった。

僕の故郷を探したいという夢も、「夢」で終わらせるべきなのかもしれなかった。

人気のないところを探して、そこで静かに「成り果てる」のを待って、誰かに魔物だと思われて討伐されるのが正しいのかもしれない。

 

「アルゴリザード」も竜の一種。

ドラゴン殺しの王族が、「竜」に成り果てるなんて。

アルゴンハートを手に入れる「試練」で、竜の恨みと怒りを買いすぎたのかな。

 

両腕を、逆の手のひらで掴む。

爪を立てて強く強く握りしめる。 

この変化がある前なら、爪は皮膚を突き破り、きっと血が流れただろうに頑丈になった「鱗」は痛みすら感じさせない。

恐怖でカタカタと震える身体は、笑う膝は、止まりそうにない。

まるで自分を抱きしめようとして失敗したみたいだ。

そのままただただ力任せに目障りな「鱗」を剥がし取ろうとして、

 

「あぁ、そろそろ、行かなくちゃ」

 

我に返った。

 

いい加減、遊ぶのが好きなチャゴスでも戻る頃だろう。

僕はいつも通りの服に着替えて、白い手袋で「鱗」を隠した。

チャゴスに貰った羽飾りを挿した帽子をかぶる。

おじ上に頂いた剣を背負う。

最後にトーポを胸のポケットに入れて。

ネズミのキミなら、僕とずっといてくれるよね?

竜になってしまったら君を乗せて遠い遠い空まで飛んでいこうかな。

 

冗談さ。

さぁ、行こう。

 

もうこの部屋には戻れないかも、しれないけど。




人でも魔物でもない、と明確に「人ではない」と公式がアンサーしているのに2周目のおまけ要素のフレーバーになっているのは本人の見た目と自認が人、もっと言うならあまりにも要素が父すぎる
思うに本当に要素も中身も人に近くて半分も竜神族ではない……のではなく、人×竜神族(人と竜)なので3/4は人要素で構成されているのでは……耳の尖りくらいしか人形態では人外要素がないのでそれくらいなら1/2引いただけと思われる
ところで、半分血を引いていても「人ではない」なら同じくハーフの竜神族も「竜神族ではない」判定されてそう。封印ほとんど効くのに?(たまに効かないこともあるらしい、チーム呼びで避けるため未確認)
今作では「人でも竜神族でもある」判定で書いています。つまり人ではある

ライデインは両親どっち由来なのか……母っぽくもあり、父っぽくもある
ミナデインで焦げ竜にされた一般竜神族いそう
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