サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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魔法の鏡と容疑者

あのチャゴス王子の成長、いや改心と言うべきか?

驚き半分、感心半分、そこにひとつかみのやっかみを混ぜたようなことを口々に好き勝手言い合いつつ。

 

着いた宝物庫の前には先回りしていたエイト殿下がいた。

物憂げな顔で考え込んで、あるいは暇そうにぼんやりとしていたが、こちらに気づくとパッと顔を明るくして駆け寄ってくる。

 

やれやれ、まるで子どもみたいだ。

相当「護衛任務」が楽しかったみたいだな。

 

宝物庫といえばトロデーンやメダル王女の城のような鉄格子に守られているイメージだったが、サザンビークでは鉄格子はあるがどちらかというとただの部屋のようになっている。

 

いくらチャゴス王子の「王家の試練」の手助けをしたという口止め料込みだとはいえ、ほかの国宝まで持っていかれるリスクを考えると対外的なパフォーマンスも含まれた「宝物庫」なのかもしれない。

ま、目的の物が手に入るなら細かいことは言いっこなしということだろ。

 

「やぁ。無事におじ上から許可を貰えたみたいだね」

 

「殿下の尽力のお陰様でな」

 

「僕は大したことはしてないよ。じゃ、宝物庫は好きに入っていいって話なんだよね? 良かったら僕にも見せてよ。僕の立場だっておいそれと見たり触ったりすることは出来ないものなんだ」

 

「それは構わないけど。エイト殿下、なんだか元気ないように見えるわ」

 

「あ、わかる? もしかしたらちょっと……気圧されちゃったのかもね。これならサザンビークは安泰だよ。嬉しい反面、なんだか置いていかれちゃった気持ちなんだ」

 

「アッシらはチャゴス王子が後暗そうな商人からでっかいアルゴンハートを買うのを目の前で目撃したんでがすが、その時の様子だとまさか自分で撤回するとは思わなかったでがすよ。あぁ見えて兄貴の従兄弟なだけはあったんでがすな」

 

「チャゴスは……いい方向に考えを改めてくれたけど、ちょっと僕を買い被ってるって思うようになってきた気がする。僕って別に正直でも真面目でもなくて、自分の都合のいいように行動してもらうにはこっちは何を提示したらいいかな? って打算的に考えてるだけなんだけど。常に対話も駆け引きも、あげてばかりも貰ってばかりもいけないってだけさ。

ま、僕のことはいいから。さぁ、どうぞ」

 

エイト殿下に促されて宝物庫に入る。明らかに「魔法の鏡」以外の宝もそのまま置いてあるが、これは持っていかれてしまうとか考えていないのか?

それとも、暗黙の了解で謝礼に含まれているのか。

あとあと恐ろしくてこっちから手を出せないな、まったく。

 

とりあえずほかのお宝には触れないようにして、分かりやすく飾られている鏡の前へ行く。

 

いかにもな見た目で分かりやすいのは助かったな。

 

それから俺は台座にはめ込まれている鏡をゼシカが外そうとしているのを手伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが『魔法の鏡』、か……」

 

「これがあれば、ドルマゲスに追いつくことができるんだな」

 

「あ! 兄貴も見やすか?」

 

「ご迷惑でなければ、ぜひとも」

 

ゼシカが鏡をもってこっちに来てくれた。

うん、昔々に見せてもらったのと変わらない豪華な装飾の鏡。

縁にはルーン文字と宝石で飾られていて、これぞ「国宝」って風格だ。

まさか毎日磨いているわけではない……と思うけど、ぴかぴかだ。

状態もいいし、綺麗だからいつからあるモノなのかわからないね。

 

覗き込むと当たり前だけど自分の顔が映り込む。

うーん、「魔法の」鏡っていうんだから何か面白いかと思ったけどなんてことないな。

普通に鏡の僕が見返してきて、僕の部屋にある鏡より精度がいい気がするくらいで……不意に僕の目が金色にギラリと光るのを見て慌てて顔をあげた。

 

「やっぱり綺麗な鏡だね。僕にはちょっとこの鏡のチカラは分からないけれど、君たちの旅の一助となってくれたらサザンビークの人間として嬉しいよ」

 

「確かに、『魔法の』鏡というからには俺にも分かるくらいの魔力が込められていても不思議じゃないと思うが、サッパリだな」

 

「そうね。綺麗だけど……別に何も」

 

「アッシにはそのテの話は分からないでがすが、三人も言うんじゃちょっと気になりやすね」

 

あ、僕より呪文とかに詳しそうなひとでもそう思うんだ。

じゃあもっと詳しい人に見てもらった方がいいんじゃないかなあ。

 

「それならうちの学者を紹介してあげようか? マジックアイテム系の国宝の管理をしている人だから詳しいことが分かるかも」

 

「それは助かる」

 

「こっちとしても非公式とはいえ恩賞として与えた物が紛い物だったら沽券に関わるし、よそで『サザンビークの国宝は偽物だった』なんて話になったら困るしさ」

 

なんて話をしながら宝物庫から出るとちょうど目的の人物が通りがかった。

 

「ちょうど良かった。そこのキミ、こっちに来て。学者のイ……」

 

「は、はい、エイト殿下。本日もご機嫌麗しく。私めに何か御用でしょうか」

 

「この『魔法の鏡』、なにか様子が変みたい。見てくれる?」

 

「ああ、この方たちが例の。事情は陛下から伺っております。それでは失礼して……」

 

学者の彼が顔を近づけて鏡を見ると、やっぱり何かあったのかすぐに首を傾げた。

 

「おや、殿下の言うとおりですね! どうしたことでしょう、この鏡には魔力が宿っておりません。これではただの鏡ですよ。本来のチカラなど発揮されないはずです」

 

「そんな!」

 

「そういえば、数週間前に宝物庫の辺りを怪しい道化師がうろうろしていたという話がありましたね……何もせずに立ち去ったので、曲者とは思っていなかったのですが……まさか」

 

「……それって全部分かっていたドルマゲスがサザンビークに来ていて、先に『魔法の鏡』を潰していたってことなの?」

 

「おや。道化師をご存じだったんですね。あなたがたの用途はわかりませんが……高位の魔術師ならあるいは魔力だけ抜き取るのも可能かもしれませんね」

 

「……キミ、この鏡から下手人の情報、たどれたりする?」

 

「いえ、私でそこまでは……エイト殿下のご意向に沿えず申し訳ございません」

 

「責めてるわけじゃない。できないなら、できる人を知ってる? あるいは鏡の魔力を取り戻す方法でもいい」

 

「それなら。私の師なら鏡に魔力を宿らせる方法を知っているかもしれません。かつてサザンビークの宮廷魔術師だったお方ですから」

 

「昔の宮廷魔術師……あのご隠居か。僕も噂には聞いたことがある。彼の居場所は?」

 

「はい。今はずっと西にある泉のそばにお一人で住んでおられるとか。サザン湖よりもずっと西です」

 

「例の魔物と住んでる人ね」

 

「はい。流石は殿下、情報通でございます」

 

彼らに向き直る。

「魔法の鏡」の魔力を盗んだのが推定ドルマゲスなら、サザンビークの問題になってきた。

……そして、それが僕の「鱗」の生えだした時期と被るってことも。

 

どうせおじ上には話すつもりだったんだ。

すごくいい機会だ。

 

「ねぇ、悪いんだけどもう一度おじ上のところに行ってもらいたい。もちろん魔力がないからってその鏡を取り上げようって訳じゃないんだけど。

僕から君たちと、そしておじ上にどうしても話したいことができてしまったんだ」

 

「いや……まあそこまで深刻そうに言ってもらわなくたってそれくらい構わないが」

 

「そうでがすよ。何よりエイトの兄貴が仰ることなら何かお考えがあって事のはずでがす!」

 

快諾してくれて助かるよ。

僕も覚悟を決めた。

 

「キミもその道化師について証言を聞くかもしれないから一緒に来て。あと、そこの……」

 

「はっ! エイト殿下、私どもでございますか」

 

「うん。キミたちには……」

 

そうして、彼らと玉座の間に向かう途中で見つけた兵士たちに城門の外で待機しているトロチャン殿とミーティアを呼んでくるように言った。

 

こういう時も相変わらず、学者や兵士の個人の名前を呼ぼうとするとその前に先回りして話されてしまう。

「エイト殿下」に敬意を払ってくれるのはいいけど、疎外感は否めないな。

いきなり名前で呼ぶと本当にびっくりさせてしまうからそれも悪いし、だから呼びかけてから呼ぼうとしているんだけど。

 

ともあれ。

馬のミーティアは流石に王城の中には入れないだろうから、城下町で一番いい馬小屋に入れるようにしてニンジンとリンゴを沢山振る舞うように、とても美しい馬なので万が一がないように警備を付けるように、と言いつけておく。

 

もちろんトロチャン殿の容姿については注意したし、決して彼に危害が加えられないようにとも厳命した。

勝手に、それも言質を取る前に呼んでしまってほんの少し申し訳ないなとは思う。

 

でも、人の言葉を使い、人ならざる姿の理知的な彼が、おそらくはドルマゲスの呪いで容姿を変化させられた彼が、物証としてどうしても必要なんだ。

 

「おいおい、トロ……チャンたちをこっちに呼ぶなんて本当に大丈夫なのか?」

 

「決して彼らに危害は加えさせない。そして君たちに損はさせない。約束する」

 

「まぁ……それならいいのか?」

 

「何かお考えがあってのことなんでしょ。こっちとしても『魔法の鏡』が使い物にならないのは困るし、解決策が見つかるなら協力するしかないのだし」

 

「もしトロ……チャンのおっさんが文句を言うようならそこはアッシが説得しやすよ」

 

「ヤンガスの説得はもう口喧嘩じゃない?」

 

「……とりあえず、行こうか」

 

緊張していた。

腹の底から震えるほどに。

 

「王者の試練」を受けた時よりも、魔物と戦っている時よりも、これまでの人生の何よりも。

 

それを押し隠して……外に見せている感情と内心が異なるのは王族として当然のことだけど、無邪気なエイト殿下としては珍しく……僕はすまし顔で彼らを引き連れて歩いた。

 

「そういや」

 

「何?」

 

「エイト殿下。身体は無事か?」

 

「何のこと? 僕、怪我なんてしてないけど」

 

「なら、いい。いやなに、初対面の時の殿下からは……」

 

うっすら血の匂いがしたもんで。

 

はっきりとククールはそう言った。

気づかれていた。

 

なんだ。

隠せてなかったんだな。

 

「それのネタバラシはすぐするさ。今の僕は完璧に無傷、当時も行動に支障はなく。ならそれは問題なかったってことで」

 

僕は、うまく笑えていたか自信が無い。




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