サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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氷の告白

旅の彼らを連れ立って玉座の間に入る。

取って返した形になったけど、幸いおじ上以外は大臣と近衛兵たちしかいない。

 

「おじ上」

 

「む、どうしたのだエイト」

 

こちらを見て親しみのこもった微笑みを向けてくれるおじ上は、間違いなく僕のことを……本当の親と同じように愛してくれている。

疑いようもない事実を僕は知っているのに、おじ上の愛情深さを()()()()()()知っているのに、黙って抱え込んだ僕は不孝者だと思う。

 

すぅっと大きく息を吸い込んで、吐き出す。

覚悟を決めろ、エイト。

その先が糾弾だろうと、排斥だろうと、赦しだとしても。

何にしたって悪く転んだのなら黙っていた僕が悪いんだ。

 

「お話があって参りました。そしてこの話は家族であるチャゴスにも聞かせるべき……いえ、僕が話すべき話です」

 

「……良かろう。近衛よ、チャゴスを呼んで参れ」

 

「それには及びません。ぼくはここに」

 

気づけば脇の部屋からチャゴスが現れ、さっき僕が立っていたところに立ち、僕を見返した。

 

「チャゴス。タイミングが良かった」

 

「なんだかさっきのエイトの様子がおかしかったから見に来ただけだ。そしたら案の定じゃないか。とっとと言っちまえよぼくたち家族なんだから」

 

「はは、情けないことにやっと腹を括ったのさ」

 

トロチャン殿が到着していないけど、まぁいいか。

説得の材料にさせてもらうつもりだけど、僕の問題を公開する方には関係ないからね。

 

「数週間前、城に道化師ドルマゲスが現れたのをご存知でしたか、おじ上」

 

「道化師? 確か、そこの旅の一行が追っているとかいう男がそのような格好をしていたと聞いたな。サザンビークにも来ていたのか……」

 

「先程発覚したのですが、国宝『魔法の鏡』に本来宿っていたはずの魔力は恐らく、その道化師ドルマゲスに盗まれてしまったようでした。

そして、奴が城に来た際に仕出かしたのはそれだけではなかったのです」

 

「と、いうと?」

 

「長々論ずるより直接証拠を見せた方が早いでしょう」

 

僕は手袋を外し、そのまま上衣を脱ぎ、床に落とした。

 

明るい室内で僕の腕が、黒い鱗が光を反射する。

自分だっていつも夜、室内でしか見ていなかったからこんなに光るものだとは知らなかったな。

なんて、現実逃避が脳裏を過ぎる。

 

当然、「エイト殿下」の異形の姿にその場は騒然となった。

勤務中黙っているように厳しく教育されている近衛たちでさえ、冷静ではいられなかったらしい。

当たり前か。

 

「な! エイト、その姿は!」

 

「そ、それって、もしかして……」

 

「この通り。数週間前から僕の身体には『竜の鱗』のようなものが現れていて、日に日にその範囲は広がるばかり。そしてそれが初めて発生した日こそ、ドルマゲスがサザンビーク城に訪れた日なのです」

 

「な、なんでそんな大事なこと早く言わなかったんだ、エイト!」

 

「なんで、か……さっきのキミに倣うよ。正直に言う。

僕は怖かったんだよ。今もとても怖いんだ。『家族』に恐れられ、排斥される可能性を考えてた。化け物だと言われてこの国を追い出されるんじゃないかって、怖がっていたんだよ」

 

僕はそのまま鋭い爪で自分の腕を引っ掻いた。

鮮血が飛び散り、「鱗」が何枚か外れてバラバラと絨毯に落ちていく。

鱗の下は薄橙色の皮膚ではなく、直接血肉に繋がっているだけ。

 

チャゴスはぎょっとした目で僕を見て、すぐに飛びかかるように駆け寄ってくると僕の腕を掴んだ。

 

裂傷から流れる血が自分についてしまうのも恐れずに。

 

「うわああああぁっ! 『癒せ(ホイミ)』! 何やってるんだエイト!」

 

「一応、本物の『鱗』が生えているんだって証明しようと思って。皮膚に貼り付けただけの偽物じゃないって」

 

「そんなの、証明する必要が、あるか! エイトがそんなタチの悪い冗談を言うわけないって、この国の人間なら誰でも知っているだろ!」

 

「だって! 最初は『鱗』を剥いだら、元に戻るかと思った。僕が、僕こそが『鱗』を偽物だって思いたかった。駄目だったんだ。剥がして回復呪文を掛けても、自然治癒に任せても駄目だった。事情を隠して解呪を受けても駄目だった。その間にも鱗はどんどん増えて、今は腕も足もすっかり覆われてしまった。

チャゴス、見なよ僕の目を。僕の目は、いいや、ヒトの目はこんな、蛇のようだったかい。ギラギラ光って、人間じゃないみたいだ」

 

「なんだっていいだろそんなこと! そ、そうだ! 父上! エイトを元に戻す方法は、父上ならなにかご存知でしょうか!」

 

見ると、おじ上は思わず玉座から立ち上がったといった格好で目を見開いていた。

驚愕。

僕にはそれしか読み取れない。

浮かんだ感情が恐怖、嫌悪、ではなかったのは良かったのか……それとも理解が追いついていないだけか。

 

チャゴスはひたすら「必死」で、そっちは予想していたのだけど。

そこに悪感情はなく、記憶にほとんどない母君のように奪われたくないという必死さだけがそこにある。

冷静になったらどう変化するだろう?

 

「……近衛よ、今すぐ神父を呼んで参れ」

 

「はっ!」

 

「そしてチャゴスよ、一旦エイトから離れなさい」

 

「な、な、嫌です! エイトに何するつもりですか!」

 

チャゴスは痛いほどに僕の腕を掴んだまま、まるで自分が近衛に捕えられるんじゃないかという顔をしていた。

違うのに。

「チャゴス王子」を保護したい人間はいても、害をなす存在なんていないのに、チャゴスは僕の腕を握っていた。

 

「何もせぬよ。腕を掴まれたままでは服を着れないではないか。エイト、まずは服を着なさい」

 

「はい、この話が終わればすぐにでも」

 

バタバタと兵士が神父を連れて戻ってくる。

神父は鱗の生えた僕を見て、泡を食ったように驚いたけどすぐに解呪を唱え始めた。

 

……勿論、それでなんとかなるわけもなく。

 

「おじ上、お聞きください。この旅の一行はドルマゲスに親しい人間を殺されており、その仇討ちの旅なのだとか。そして彼らの仲間には()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()

 

「ええい、離せ、離さんか! 自分で歩けるわい!」

 

近衛兵がトロチャン殿を抱えあげたまま入ってくる。

緑の皮膚の、魔物のような姿と確かな北大陸訛りの言葉を聞いて、おじ上はトロチャン殿をまじまじと見つめた。

 

僕とは違う様相だけど、人ならざる姿に変貌させられてしまった被害者のひとり。

 

「丁度いらっしゃったようですね。

トロチャン殿。無理にお連れして申し訳ない。僕は貴殿()ドルマゲスに姿を変えられてしまった人間であると確信していたのです。おじ上に僕の状況をより円滑に伝えるために呼んだのです」 

 

「な、な、な、エイト殿下! そのお姿は……!」

 

「ドルマゲスがサザンビーク城にやってきたことがあったのですよ。たった数週間前のことです。僕は直接会ってはいませんが、その日からこのザマですよ。ずっと周囲には隠していましたが、国宝である『魔法の鏡』の魔力まで盗まれたと知って、とうとう腹を括ったのです。

『鱗』は日々増え続け、そのうち僕の理性まで食われてしまうかも、しれないと。貴殿はそのようなこと、ないようですがね」

 

驚愕の表情のままのおじ上に向かって僕はさらに続けた。

 

「お願いがあります。僕をこの人たちと行かせてください。原因であるドルマゲスを討てば如何に神父でも解呪できない呪いとはいえ解けるはず。ドルマゲスを討つためにサザンビークが出すべき支援があるとしたら、この僕を彼らに同行させる以上のことはないでしょう?」

 

到底許可なんてされない事を、知っている。

でも、ただ待っているだけなんて。

今と同じようにただ城に閉じこもって……閉じ込められて、待つだけなんて。

僕には耐えられない。

 

「そんなことは到底許さんぞ! 

エイトよ、事情はわかった。そこの者がドルマゲスに呪われ姿を変えられてしまった人間で、エイトも同じく被害者であることが事実であるとしても……そして、サザンビークとしてドルマゲスを追うとしてもだ、お前が矢面に立つことは有り得ぬ。立場を考えなさい」

 

やっぱり。

 

「しかしおじ上、僕より強い人間は最早サザンビークにおりませんよ。事態の解決は早い方がいい。なぜなら、僕の『呪い』は日に日に侵食しているのですから。『竜の鱗』のようなこれが全身を覆ったら、次はどうなるのかわかったものではありません。トロチャン殿は心はヒトのままでいられたようですが、僕の心まで異形になってしまうやもしれません。竜殺しの王家が竜に成り果て、僕はおじ上、あるいはチャゴスの命令で討たれる自我なき悪竜として死にたくはないのです。

僕が出るのが最善です」

 

「高慢な考えは捨てよ。エイトよ、お前は世界を知らぬ。自分の強さが如何ほどのものかを分かっていない思い上がりに過ぎない。

確かにお前は素晴らしいアルゴンハートを持ち帰るほどの実力がある。実際に……兄上のように強いだろう。しかし、サザンビークで一番だというのはただの思い上がりだ。あの兄上さえ、魔物に殺されてしまったのだ。立場もある、役目もある、そんな人間を危険な戦いにやることなどできん。

が、お前は言っても聞かないだろうな。

……カイ将軍よ」

 

あぁ、チカラを示せと。

この僕にチカラを示せと仰るのか。

 

僕にサザンビークの人間をけしかけるなんて。

なんにも分かっておられないのだ、やはり。

 

玉座のそばに控えていた将軍が進み出て跪いた。

 

「はっ、ここに」

 

「エイトと決闘し、己の実力を分からせてやりなさい」

 

「はっ……しかし、陛下」

 

「なんだ?」

 

「いいよ、将軍。結果を見ればおじ上も分かってくださることだろうね」

 

おじ上は、優秀だった兄を失って……本来回ってこないはずだった王の責務に忙殺され、チャゴスと僕を甘やかして育てた、という評判が立っている。

それは事実だ。

だけど、甘やかした……という事実より、当人としては「閉じ込められて育った」という印象がある。

 

城下町に出ることさえ許されない。

城門の外になんてもってのほか。

昔、僕がこっそり抜け出して長い間留守にした挙句高熱を出したせいとはいえ。

 

おじ上は僕たちをひたすら真綿で包んで甘やかした、危険から遠ざけるために。

 

だから、だから、僕って魔物なんかよりよっぽど「人間」と戦うのに慣れているんだってことを……(エルトリオ)と僕を重ねるあまり失念していらっしゃる。

だって相手してくれるのは人間だけだったんだから。

 

しっかりと重い装備を着込んだ将軍が……サザンビーク()()()最高戦力だとしても、僕にとってはもはや敵じゃない。

自惚れではなく事実、僕は狂ったようにこの城の戦闘員を叩きのめしてきたんだから。

 

そして、「人間」の弱点を熟知してしまった。

そこらを歩いている魔物を一匹倒すより、僕にとっては兵団ひとつ打ち破る方が簡単かもしれない。

 

おじ上の言う通り僕はサザンビークの「外」を知らないけど。

でも、差し向けられたのがサザンビークの人間なら、それって「外」を知らないことが悪い方向に働くことはないので。

 

まぁ、「外」の魔物相手でも遅れをとるつもりはないけれど。

実際に「王者の試練」で相手にした魔物と戦って殺されるなんて少しも思わなかったし。

 

「場所はここで?」

 

「ここで構わん。とりあえずそろそろ服を着なさい」

 

「はい、おじ上」

 

チャゴスからやんわり腕を振り払うと、元通り服を着て手袋を嵌め、既に槍を手にしていた将軍と向かい合って剣を抜いた。

 

そして、この戦いを早く終わらせるために言い放つ。

戦意喪失してくれたらいいなって。

早い方が、倒される側も楽でしょう?

 

「カイ。せいぜい足掻けよ、うちの将軍だろう?」

 

「はっ、はは、もしエイト殿下に膝をつかせられたなら、私は兵団の真の英雄になるでしょうな……」

 

僕はただにっこり笑って頷いた。

 

「両者、始めよ」

 

おじ上の声を聞いた途端、僕は真っ直ぐ前に突っ込んで左手で将軍の頭を掴んだ。

 

「『雷撃よ、貫け(ライデイン)』」

 

青い雷光が僕の手のひらから放たれ、一瞬玉座の間は真昼の外のように明るくなった。

収束させた雷撃は本来複数の魔物相手に放つ、広範囲呪文だ。

 

そんなものを直接頭に叩き込まれて無事な人間がいるはずがない。

僕の動きに反応できなかった時点で彼の負けだった。

剣を振るうまでもなく、息を荒らげる必要もなく。

 

もちろん、呪文を使わずとも勝っていたはずだ。

僕に叩きのめされていないサザンビークの戦闘要員などひとりもいない。

だって、僕にはそれしかやれることなどなかったのだから。

 

甲冑姿の大男がガシャンと派手な音を立てて倒れる。

一拍おいて近衛たちから大きな拍手が上がる。

応えず、僕は将軍の得物を奪い取ると少し遠くに放った。

 

鈍い音を立てて金属の塊が虚しく転がっていく。

僕の手に宿っていた雷を霧散させ、倒れ伏した将軍に一礼した。

 

仮にこの後多対一をやらされるなら、その場にいる人間の頭に向かってひとつずつ雷光の槍を投げて貫いていくだけだった。

別に剣技で大立ち回りしたっていい。

取り囲まれたらむしろ雷を剣に宿して薙ぎ払う技……ギガスラッシュでまとめて倒せる。

 

さぁ、続けるか、それともこれっきりで辞めるのか。

無言のままライデインを圧縮した雷光の槍をひとつずつ召喚し、身体の周りに浮遊させていく。

実体を持たない青白い雷の槍が増えていく事に明るさが増す。

 

近衛は身を呈しておじ上を庇う位置にいた方がいいんじゃないの。

決してやらないけど、それはそれとして今の僕がいちばんサザンビーク国王を殺せる状況にあるんだけど。

 

僕はいつもの「エイト殿下」の微笑みを消して、ただの「エイト」としておじ上を見返した。




騎士っぽい挙動をする殿下(騎士ではない)はルーラの代わりに名乗り(自身の攻撃+守備力up)を覚えている

カイ将軍→オリキャラ。男性。いかにもごつく高身長でがっしりした人。大国なんだから大臣がいるなら将軍もいるはずという補完。今回は出オチだったが出番はまだある
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