サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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第2部 竜の末裔、宿敵の影
淡い想いは秘められて


あれは、サザンビークの国宝である「魔法の鏡」を譲っていただくためのご依頼の最中のこと。

朝早くからチャゴス王子が、眠っていた私を無理やり起こして、背中に股がり、乗り回そうとして。

私は人に乗られるのが嫌で、無遠慮な彼を振り払おうとしたけれどなかなか上手くいかず、とうとう鞭を当てられそうになった、その時。

 

「何をしている!」

 

大きな声が私を救ってくれたのです。

 

「あの人」は、ミーティアがお馬さんにされている「人間」だとは知るはずもなく。

旅の人間の持ち物、人目を引く白いお馬さん。

精々がお父様の財産扱いで、魔物の姿にされてしまったお父様が私のことを「姫」と呼べば「魔物の姫」だと勘違いされてしまうくらい。

 

何を言われても、何をされても反論はできなかった。

お馬さんの私は喋れないのだから。

本物のお馬さんのように地面に生えている草を食べ、桶に顔を突っ込んで水を飲む。

十八歳の誕生日のお食事は雑草で、悲しくなったけれど……国で茨にされてしまった国民のことを思うとそんなことを悲しめるだけ、恵まれているの。

でも、お馬さんだったおかげで元の姿なら動かすことも叶わない馬車を牽くことが出来て、そのお陰で皆様のお役に立てているなら、あるいは良かったのかもしれないけれど。

 

だって私にはお父様のような兵法や道具に対する知識はなく、しかも人間の姿のままだったとしても戦える訳でもなく。

むしろ人間のままなら、荷物も持たずに身一つで歩いていたとしてもすぐに疲れてしまって皆さんに迷惑をかけたに違いないの。

 

お馬さんであることは嫌。

でも、役たたずの存在であるのはもっと嫌よ!

だから、私はいろいろと言い聞かせて自分を慰めていたの。

 

馬車を引っ張って走ることが出来てよかったって。

だって、せめて役に立てている。

それにお馬さんだから、無駄にお金をかけることなく草を食べて生きていける。

喋れないから、弱音を吐けないでよかった。

皆さまを困らせてしまわないで、良かった。

ミーティアはワガママなの。

小さい頃と同じように、ワガママなの。

きっとあれこれ嫌だ嫌だって言って、皆さまを困らせたに違いないの。

だから、何も言えなくてよかった。

 

私は、すでに半分、半分以上諦めていたの。

呪いを解いて元の姿に戻るのも、トロデーンで待つみんなを元に戻すのも……。

 

お父様も、旅で出会ったヤンガスさんもゼシカさんもククールさんも、それぞれの事情でドルマゲスを倒すために精一杯頑張っているのを、私は何もできずに目の前で見ているのに。

こんな考えを持つなんてなんて恩知らずで悲観的なんでしょう。

 

でも。

私をお馬さんだと知らないはずの「あの人」はチャゴス王子を私の背中から降ろして、叱り飛ばしてくれた。

 

「何をしていたの? 僕に分かるように言ってくれよ、なぁチャゴス」

 

お父様は私のことを可哀そうに思ってくださっていたでしょう。

他の皆さまも、お父さまの仰ることを話半分ながら信じて、お馬さんとは思えないくらい気遣ってくれたわ。

それでも、あぁ、何も知らないはずのこの方が、まさか私を助けてくださるとは思っていなかった。

 

その行動は「私」を尊重してくれたように思ったの。

「ミーティア」に手を差し伸べてくださったように、私は感じたの。

 

私の婚約者、サザンビークのチャゴス王子の従兄弟。

サザンビーク王兄の忘れ形見、エイト様。

姿絵だけ知っていたチャゴス王子とはちっとも似ていない、優しげな風貌の方。

いつかお父様が仰っていた、「もしかしたらミーティアの旦那様になるかもしれなかった」お方。

……この婚約はニ国間の政略結婚だけど、それ以前におばあ様とサザンビークの先代王の古い約束あってのこと。

 

かつて悲恋の末に結ばれなかったおふたりの、孫。

その条件を満たしているのは当然、エイト様も同じだったのでお父様はあぁ仰ったのでしょう。

 

少しだけ、少しだけ、胸の内で不義理なことを思うことだけ、許して。

エイト様が婚約者だったら、ミーティアは無理やり乗られて、鞭で打たれそうになることもなかった、かもしれない。

今の自分をどうにかできないのに、将来を不安がることもなかったかもしれない。

ままならないもの。

なんて。

 

今回のことは、チャゴス王子が必ずしもすべて悪いわけではないって、分かっているの。

チャゴス王子が悪かったのは、無許可で旅の人間の「馬」を借りようとして、扱いが悪く暴れされてしまったこと。

決して、「白いお馬さん」の正体に気づかなかったことが悪いわけではないの。

お馬さんへの乱暴な扱いは褒められたものではないけれど、私が本当の「馬」ならどうして一介の旅人が一国の王子を咎めることができるでしょう。

 

だけど、だけど、優しいエイト様は私を、何も知らないまま助けてくださった。

それが嬉しくて、私は沈み込んでいた心に少し光が差したような気持ちになって。

 

魔物に襲われていたヤンガスさんを大立ち回りして助けたエイト様。

チャゴス王子の試練の間、私たちを護衛してくださったエイト様。

ただの「道具」ではなく、「ミーティア」を尊重してくださる、エイト様……。

 

「改めて、ミーティア。僕は君に無礼なことをしたチャゴスの従兄弟なんだ。僕にも謝らせておくれ。サザンビークに戻ったら美味しいニンジンとリンゴを届けさせるよ」

 

あぁ、どこまでも澄んだ優しい瞳が私の瞳を覗き込んでいる。

ちゃんといきなり触れないでお父様と私の許可を得ようとしてくれるのね。

あなたになら、お馬さんのように撫でてもらってもいいわ。

 

鼻先で返事をして、彼の優しい手の感触に身をゆだねる。

護衛の途中だから、彼は防具を外さないままだったけれど、「呪われて」しまってからこんなに穏やかな心地になったのはいつぶりなのかももう、分からない。

 

「ありがとうミーティア。短い間だけど、サザンビークに着くまで君のこともしっかり守らせてもらうね」

 

穏やかで、静かな声を聞きながら、私は。

 

エイト様の話してくれる、サザンビークで過ごされた日々を聞いてなぞりながら、いけないのに、私は。

ふたりの殿下のことをろくに知らないのに、ミーティアは運命のいたずらを呪った。

 

呪われてしまったのだから、私だって少しくらい呪ったっていいでしょう?

でも、なぜか。

初めて会うのに、何故か……前から知っているような、不思議な感覚を抱くエイト様。

穏やかで、ほんの少しそばにいるだけで心が落ち着く彼。

彼の方こそ私の婚約者だったら……。

そうだとしたら。

今この時、むしろ苦痛だったかもしれないの。

だってあなたのミーティアですのよ、と名乗りを上げることもできないで、ただ優しい優しい彼に甘えるだけの今を到底許せないのだから、これでよかったの。

 

呪われてしまったのは、嫌なこと。

でも、お馬さんになったのは必ずしも悪いことじゃないのよと自分に言い聞かせているのと同じように。

 

ミーティアは、今日もひとつ自分に言い訳をしたの。

 

エイト殿下が婚約者だったら良かったのに。

いいえ、そうでなくて良かったの。

やるせなく、切ない気持ちを抱えたまま、家族になるはずの人に別の存在として扱われるくらいなら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

街道を西に進み、ベルガラック方面に向かって歩いていく。

城でご隠居の弟子である学者に話を聞いたところによると、途中からは道なき道になるとか、獣道みたいな道だとかなんとか。

随分な秘境に住んでいるんだね。

まぁ、ともかく移動呪文「ルーラ」は一度行ったところでないと発動できないという、当たり前の制約があるらしいのでここはぞろぞろ歩いていくしかないらしい。

 

とはいえ、真昼間に街道を歩いていると当然目立つし、こちらに気づいているからと言って多勢に無勢が分かっていれば必ずしも襲ってくるわけではないらしい。

そのせいか、今のところ魔物に襲われることもなかった。

 

サザンビークを出てすぐになんだか、強烈に砂漠の方が気になるような気がするんだけど……なんでだろ?

あんなところ、大きな竜の骨が転がっているだけで何も面白いものはないんだけど。

あとは教会があるくらい?

ま、困らせたくないし、言わないけど。

 

本音を言うならちょっくら行ってみたいけど。

いきなり寄り道宣言はまずいでしょ。

 

そういうわけで、僕は好奇心を抑えつつ丁度いいのでいろいろ話を聞かせてもらうことにした。

 

「それで、この一行の戦闘指揮は誰かな? 作戦や命令にはもちろん従うし、自由にやっていいとしても暗黙の了解とかあるんじゃないかなって思ってさ」

 

「戦闘指揮、ねぇ……」

 

「ええと、これまでは見ての通り三人で戦ってきたのよ。最初にヤンガスがいて、あたしが加入してからなんとなく前衛と後衛の概念が生まれて、ククールが加入してからはなんとなくフィーリングで、各個撃破? ってやつ? もちろん、補助呪文をかけあうとか、攻撃から守るとか、協力することはあったのだけど」

 

「アッシは作戦とか考えないで前にいただけでがす! そうだ、これからはエイトの兄貴に指揮してもらえたらなんだって従うでげすよ!」

 

「つまり、おのおの戦い方はなんとなくであった、と」

 

「いやまったく、殿下のおっしゃる通り。適当なもんだろ? 笑ったっていいんだぜ」

 

「責めてるわけじゃない。ただ、むしろ感心したよ。それだけ個人の能力が高いってことじゃないか」

 

とりあえず、何も言われなかったってことは様子を見ながら何をしてもいいって意味だと受け取っておく。

とはいえ、彼らがどれくらいの頻度で休憩を挟むのかとか、今日はどれくらい活動するつもりなのかとか、もちろんこれから向かう、ご隠居の対応次第なところはあるけれど、分からないことも多いので魔力は節約気味にしておこうかな。

 

おじ上に薬草やアモールの水をたんまり持たせてもらった上に、「ふくろ」が魔法のかかった大容量仕様だと知られると国民たちまで真似して薬草を渡してくれたから、魔力が切れてもただちに困ることは無いだろうけど。

有り難すぎるね、本当に。

 

にしても、みんな大陸を横切るような移動になるっていうのに平然としているね。

本当に旅慣れているんだな。

いいね、不謹慎ながらワクワクしてきた!

広い世界をどこまでも自分の足で歩いていく、なんて夢にまで見たことじゃないか!

 

「じゃあ僕もとりあえずのところ自由にさせてもらって、なにか指摘事項がある時や僕にやって欲しいことがあるなら随時言ってもらうってことでいいかな? ヤンガスには悪いけど、いきなり指揮できるほどみんなの能力を把握していないから」

 

「いえ! 調子に乗って出来すぎたことを言っちまったんでさぁ! アッシは兄貴と肩を並べて戦えるだけで天にも昇るような心地なんでげすよ!」

 

「う、うん。そんなに……そんなに嬉しかったんだね?」

 

「えぇ、そりゃもう宿に泊まっている時も顔を突き合わせたら『兄貴』の話ばっかりだったわよ」

 

「下手に『姫体験』をさせるとおっさんに懐かれちまうってことかよ。おお怖。モテるなら素敵なレディに限るだろ、なぁゼシカ? 俺は君だけの騎士として今日も守らせてもらうからな」

 

「あーはいはい、ありがとうございますぅ。こんなこと言ってるけどちゃんとククールは瀕死の順番に回復してくれるわよ」

 

「……全滅したらおしまいだからな……」

 

「あんなにアッシの中の世界ってものがひっくり返っちまう経験はこれまでの人生でなかったでがすよ。あれから兄貴が輝いて見えるっていうか、アッシは恥ずかしながら初めて会った時の兄貴が噂の通りお強い方だとは思っていなかったんでがすが……自分の目の節穴さに気づかせてもらえたっていうんでがすかね。

今は兄貴のパワーを目視できそうなんでげすよ! たちのぼる青い闘気でげす!」

 

「たちのぼる……パワー? 青?」

 

初めて会った時って言ったら、三人が城の中で聞き込みかなにかをしていて、「魔法の鏡」を貰うためにチャゴスか僕に恩を売ってどうにかしよう! って話をしていた時だよね。

僕はそれを後ろから見てて、全然気づかないね? って思いながら面白かったような気がする。

 

ま、まあいいか。

これはこれで面白い。

舎弟? みたいなポジションで僕を慕ってくれる若い兵士……とは言ってもせいぜい三つ差くらい……はいたけど、こんな風に率直に敬意? を伝えてはこなかったし、なんというか、新鮮というか?

だって兵士たちは言ってしまえば「王家」、もっと言うなら「おじ上」に仕えているんだから、その甥である僕に良い感情を持つのは当たり前っていうか。

 

「独自の世界観であんまり箱入り息子を困らせてやるなよ。ま、気楽にな。ドルマゲスと戦うのはもうちょっと先らしい、ずっと気張ってちゃもたねぇよ」

 

「ま、のんびりもできないけどね。ドルマゲスだっていつまで闇の遺跡にこもってるかわかんないんだし、追いかけっこはもうゴメンよ。さっさと『魔法の鏡』のチカラを取り戻す方法を教えてもらいましょ」

 

ククールたちの話を聞きながら、思う。

 

サザンビーク王家と関係のない人物で、年上で、全然違う人生を歩んできた人が僕の人生に関わって、結果として良い関係を築きたいって思ってくれるって得難いこと。

それに、きっとヤンガスは僕が「エイト殿下」じゃなかったとしても同じ状況なら「兄貴」と呼んでくれた気がする。

 

うん、いいね。

「殿下」ではなかったとしても得られた関係ってとってもいい。

 

それになにより、ククールもゼシカも気安くて、すっごく「仲間」って感じ!




トロデーン、および旅に近衛兵エイトがいなかったことによる影響は大きい
旅でもこれまでのボス戦は全て辛勝か、勝たずに終了している(ゼシカが乱入して辛勝したオセアーノン、戦闘が長引きすぎて途中で我に返って天に昇った嘆きの亡霊)
そして舵取り不在の癖強メンツしかいないため、各地で聞き込みに難航していた

ヤンガス→空腹に耐えかねて吊り橋から移動しトラペッタを彷徨い歩いていたところ、トロデたちが追い出される場面を見て、自分の強面もありちょっと慰めたらユリマとの会話に遭遇、その後一宿一飯を奢って貰えたので同行していた。既に義理は果たしたと思っており何度かパーティ離脱しようとしたが、どう考えてもゼシカククールのふたりでは道中の魔物すら辛そうなのでここまで人情でギリギリ着いてきていた。原作との違いは仲間に「げす」「がす」の彼なりの敬語を使っていないところ

ゼシカ→大体モチベーションは原作通りだが、エイト不在で戦力不足が否めず各地の苦戦でやや焦り。ヤンガスとの出会いはリーザスの塔ではなく、ポルトリンク。リーザスのイベントは誤解でメラぶっ放しなしでひとりで終了、真実を聞いて母に啖呵切って出てきて、ポルトリンクでヤンガスに戦わせる……と思いきや苦戦を見て船員の不意をついて普通にオセアーノン戦に参戦した

ククール→加入経緯は原作と同じ。早々に戦力不足の戦闘の連続でゼシカを口説くだの酒場やカジノで遊ぶだの以前の問題すぎて真顔になっている。トラップボックス→ドン・モグーラ両方で全滅ギリギリを経験し、とても辛い。元山賊とお嬢様に金銭管理を任せられずに船入手後はトロデに丸投げされている。回復役なので誰よりも危機感が強く、正直奇跡でも起きない限りドルマゲス戦で全滅するだろうと思っていた(でも挑むつもりである)ところにMAP兵器の殿下が加入した

エイト殿下→スペックは高いが内省的で考え込みがち、やることないのに外に出ることは許されない雁字搦めの結果、無力感で自己肯定感が下にめり込んでいる。戦闘力についてだけ誇るものの、他のことだってちゃんとできるはずなのだが……。案外金銭感覚や常識的にはまともである、というより自分がまともではない自覚があるので問題を起こさない。城では備品破壊魔だったが、「知らないことは都度確認する」程度の常識があるため旅では大丈夫。粗食も平気で不平を言わない、野営で寝床が地面でも問題ない、王子と同等の扱いを受けていたのにそのような人間だが本人無自覚ながらチャゴスと同程度にプライドは高い。基本的にぞんざいな扱いをうけても「相手を瞬殺できるので」笑って流す。つまり気に触ったらニコニコしながら相手をどう攻撃したら倒せるのかを考えているロイヤルゴリラ
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