サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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隠者の助言

「お待ちしておりました、エイト殿下と旅の方々。呪いの方は……」

 

()()()()()。あぁいや失礼。きっと見えているのだろうけど、表現が不適切だった。姫も僕も呪いは解けなかった。姫はすぐに馬に戻ってしまったし、僕の方はそもそも解けもしない」

 

「なんと。それほどまでに強力な呪いとは。長年、様々なまじないを見てきましたが泉の力さえ及ばないのは初めてのことです……」

 

「そうなんだ。ドルマゲスはそれほど強大な敵ってことらしいね。じゃあ早速だけど、問題の魔法の鏡を改めて欲しい」

 

「承知いたしました、エイト殿下。……おお、本当に魔力がすっかり抜き取られておる。古から伝わる魔導具にこのような細工をするとはなんたる手練」

 

隠者の書斎にて、ゼシカが抱え持った「魔法の鏡」を見てもらう。

 

「鏡には一から魔力を込めるしかありますまい。そもそもこの鏡の正しい名前は魔法の鏡ではなく『太陽の鏡』。この鏡には太陽のごとく強い光を放つ呪文を当てれば輝きを増したという話がありましてな。おそらくはその言い伝えこそが鏡の魔力の込め方でしょう」

 

「強い光を放つ呪文……か」

 

「魔物の呪文を当ててみられると良いでしょう。太陽の鏡についてはこれ以上の助言はできませぬが、エイト殿下におかれましては別件で申し伝えたいことがあります」

 

「? なにかな」

 

太陽のように強い光を放つ呪文とやらに心当たりがないので旅慣れた三人に質問しようと思ったけれど、話はまだ続くらしい。

 

「実は今朝、不思議な夢を見たのです。なにか要領を得ない予知夢のようなものだと思っておりましたが……エイト殿下がいらっしゃったことでどのような意味なのかが分かったのです。

エイト殿下、砂漠の大竜の骨はご存知ですかな」

 

「うん。知っているし、見たことがある。昔、ひとりでこっそり城を抜け出して見に行ったことがあってね」

 

「それならば話が早い。もしかしてその後体調を崩されたのでは?」

 

「帰ってから高熱を出したね。竜の骨との因果関係はよく分からないけれど」

 

ご隠居はこちらに顔を向けて僕の身体をじっくりと見聞している。

 

「本当に大きく、ご立派になられた。幼少期に謁見させていただいた時からエイト殿下は何か偉大なことをなさるに違いないと、世界に羽ばたくべき方だと思っていましたが。

さて、御託はやめて予知夢の話をいたしましょう……竜の大骨はエイト殿下に助言を与えます。

『今を生きる竜()()がいにしえの竜骨の迷宮に至る時、先祖の悲願が託される』

一度目は再会。殿下を愛した者の記憶を見る。二度目は太古の願い、殿下は得難い出会いを得るでしょう。以前に殿下が竜の大骨の赴かれた際に体調を崩されたのは『その時』ではなかったからです。

今。時は満ちたようです」

 

「今を生きる竜……それは僕のこと? 前に行ったときは竜の呪いを受けていたわけではないから、『その時』ではなかった……?」

 

「数奇なものですな。運命とはそのようなものでしょう。殿下はこれから二度、あの骸を訪れるべきです」

 

「それも二度、か。……とにかく、助言ありがとう」

 

「殿下のお役に立てたのであれば、この老いぼれもまだ生きていた甲斐があったというものでございます」

 

上手く飲み込めなくて、頭の中で言葉がぐるぐる回る。

混乱する頭を抱えながら、荷物から紙と携帯用の羽根ペンを取り出して今の言葉を書きつけておく。

貰った不思議な言葉は頭の中でぐるぐるとさせておきたいような気持ちもあるけれど、同時にじっかりと書きつけておいて後から文字列を眺めるような、少し客観的な時間が欲しいような心地だった。

 

だって、飲み込むに飲み込めない。

 

普通なら、妄言と流してしまうような要領を得ない言葉だけど。

心眼を持ち、長らくサザンビークに貢献してきた元宮廷魔術師だった人物の「予知夢」を理解しがたいからって流してしまうのは、ちょっと僕にはできない。

神秘を解きほぐし、使いやすいよう体系化された現代の呪文では解明できない古の神秘が、不思議な泉とこのご隠居には不思議と色濃く残っているような気がして。

 

「これでよし。

おまたせ。じゃあ、外に待っておられるお二方と話のすり合わせかな?」

 

「そうね。次の行き先は砂漠かしら」

 

「砂漠の魔物なんて僕ひとりで大丈夫だよ」

 

「アッシは兄貴のお供をさせていただきたいでがすが、いかがしやしょう」

 

「……短い時間でも分断されるのも戦力的に困るんだ。どっちから行くにしても一緒に行く。『仲間』になったからにはある程度こっちのやり方に従ってもらいたいところだ」

 

「ごめん、そうだよね。とにかく君たちの方針には従うよ」

 

旅の本筋から外れてしまうから僕ひとりでさっさと行ってきて、身軽なひとりならきっと追いつくのも難しくないかも? なんて思っていたけど、集団行動と考えたら落第の考え方だったか。

というかそもそもククールは「ルーラ」を覚えているんだからいくら身軽でも追いつけないか。

考えが甘かったな。

 

小屋の外に出ると、すぐにトロデ王が出迎えてくださった。

 

「おお、どうじゃったか?」

 

「鏡の魔力の戻し方なら大体わかったぜ。鏡に強い光の呪文を当てると鏡に魔力が宿るらしい。

ちょっとその呪文の心当たりを考えてみたんだが、船でこの大陸に来るとき橋の下で海竜と戦って厄介なことになった、アレだ。海竜が使ってきた『ジゴフラッシュ』だろ。あれを当てればいいとみたな」

 

「ほう。それは朗報じゃ!」

 

「朗報かしら。あの時は二体も出てきて、『ジゴフラッシュ』で目潰しされて前が見えなくてすっごく苦戦したわ。あたしの呪文も当たっていたのか外したのかもイマイチ分からなかったし、ヤンガスは海に落ちかけたし、ククールもマストにぶつかってたじゃない」

 

「いっそ掻っ捌いて焼いて食ってやりたいと思ったくらいだったぜ、あのモンスターども。だけど今はエイトの兄貴がいる。なら海竜ごときイチコロでさあ! 俺も……いや、アッシも腕が鳴るってもんでがすよ、兄貴!」

 

「敢えて呪文を誘発するように戦うのは一度もやったことないな。みんなに合わせて戦うね」

 

やっぱり彼らの気安い感じの会話って、なんだかすごくいいな。

僕がトロデ王にこんな態度で接するのは無理だけど、それを許す寛大な姿勢を見ているとここまでの旅を乗り越えてきたみんなの絆を感じる。

 

「それから、ご隠居から別口の助言といいますか……僕に関する『予知夢』の話をしていただきました。

ここから南に砂漠があり、その中央部には大きな竜の骨が鎮座しています。ご隠居はそこに二度、行くようにと。『竜の骨が助言を与える』……ええと、聞いたお話を書きつけておきましたが『今を生きる竜たちがいにしえの竜骨の迷宮に至る時、先祖の悲願が果たされる』とのことです。

かなり抽象的な話なのですが、とりあえず一度目の機会として行ってみたいと思っています。しかし、旅の本筋からは離れていますのでまずは太陽の鏡を優先し後回しにして頂ければと」

 

「ふうむ。なんとも絶妙に意味の分からない不思議な話じゃな……。エイト殿下、しかし我らはもう道づれ。旅の仲間というのはそういうものですぞ。ここから南の砂漠は近く、海竜の出る海はここからは遠い。海に行ってからまた取って返して砂漠に向かうというのも二度手間ですじゃ。しかも意味深なことを言われたならばなにやら気になるというのが人の常。

ここは先に砂漠に行き、頭の中をすっきりさせてからでも良いかと」

 

「それはありがたいお言葉です。……みんなも、いい?」

 

「『不思議な泉』にはルーラで来れる様になったが、それでも近い方から行くのがいいだろ」

 

「そうね。それにあんな話をされたら砂漠にある大きな竜の骨が気になるし」

 

「兄貴に関わることなら最優先が当然でげすよ!」

 

話はまとまり、僕らはこのまま砂漠に向かうことになった。

南に向かって歩きながら、とっくにトヘロスが切れてしまったから襲ってくる魔物をみんなで打ち払いつつ前に進んでいく。

 

そういえばもう日が傾きかけているけれど、このまま進んで夜になれば野営をするつもりなんだろうか。

いいね、旅慣れてる感じで。

今度は水汲みのお手伝いよりももっと働きたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はてさて、エイト殿下のお姿は()()()うっすら二重に見えたもの。今はどちらが幻か、いや両方本当のお姿なのか。

運命とは不思議なもの……特別な血を引く殿下が旅立たれたこと、継がれた血の一端に触れるように導くことになったが、それは果たして吉兆なのか否か。とはいえわしに出来るのはご無事に国に戻られることを祈るばかり」

 

老人はひとりごちて、思い返す。

 

彼の心眼には亡き王兄にそっくりに育った青年の姿と、それに重なるように見えた黒い鱗の竜の姿がはっきりと見えていた。

 

きっと殿下に降り掛かっているものは呪いではないのだろうと老人には感じられたが、自分の変化に心より困惑している相手に憶測でものを言うのははばかられた。

 

「それにしても。今も殿下はお気に入りのネズミを連れておられるのだなぁ」

 

赤ん坊の時から、そういう所は変わりない。

まさか同じ個体であるとは夢にも思わず、賢人であれども人間であり老獪な竜の化け姿を看破することはできずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け足気味に南へ、南へ。

魔物と完全に接敵する前に、遠くから敵意を持って向かってくるのを確認したら遠距離攻撃で先制攻撃をして倒せればよし、逃げてくれたならそれもよし。

とにかく進む速度を落とさないように、僕らの駆け足の速度を維持するように。

 

砂漠までの距離を考えて、もう魔力の節約は最小限でいいと判断した。

ベホマ四発、いや五発分。

これだけは保持しておく。

 

雷光よ、降り注げ(ライデイン)!」

 

「さぁ、吹っ飛ばすわよ(イオラ)!」

 

「アッシも斧無双で加勢しやすぜ! どりゃあああああっ!」

 

「やれやれ、俺も派手に暴れたいところだがひとりくらいは堅実に魔力の温存をしておくか」

 

日が傾いてきて、目に入る世界は既に黄昏の色に染まっている。

 

前に来たことがあるし砂漠の入り口には教会があるのを知っているので、今日はそこに泊まらせてもらうか、ダメならそばで野営するということで話がまとまった。

教会の周りならば魔物もそうそう寄ってこないだろうし、そこならミーティアも安心して眠れるはず。

本当は彼女も安全な建物の中に入れたらいいのだけど……なかなか難しいよね。

サザンビークに何か用事があって立ち寄る際は彼女も部屋を用意するし、できる限り居心地の良い寝床を用意できるのだけど、他でも同じようにできるわけじゃない。

なら、僕にできるのはできる限り安全な場所を確保することだ。

 

夜、視界が悪い上に強い魔物がうろつく時間帯に進むのは危険。

なら、明るいうちに進めるだけ進んで、夜になってしまったら夜はトヘロスを掛けて……夜の凶暴な魔物にどれだけ効くのかは分からない……なるべく目立たないように進む。

 

そういうわけで、見える範囲に広範囲雷撃(ライデイン)を撃ち落としながら、ほとんどないけど接敵したら剣で斬り伏せてトドメを刺す。

そこにゼシカの多彩な属性呪文が僕の雷撃の隙間を器用に埋めてくれるから、間近に迫ってくることはまずないのだけどね。

ヤンガスも近接戦闘が得意そうな感じがしたけれど、実際にそうらしいのだけど斧を振り回して真空の刃を飛ばす「斧無双」で中距離の魔物を倒してくれる。

そしてククールは少し引いたところから司令塔のように魔物の接近を教えてくれるし、多分接敵があれば回復呪文を構えてくれている……そんな「魔力の気配」がする。

ひとり魔力を節約しながらも時折撃ち漏らした魔物に僕よりずっと早く気づいて倒してくれる。

彼が攻撃呪文を使っている姿は「王者の試練」の護衛任務中に見たから、役割分担を冷静にしてくれているんだ。

 

いざとなれば「ルーラ」で離脱できる人間が魔力をしっかり残しているのは理にかなっているね。

僕も使ってみたいから、早く教わりたいな。

脱出呪文「リレミト」なら使えるし、原理が似てたりしないかな。

そうしたら取っ付きやすいのだけど……。

 

考え事はあと。

今晩のベッドを確保してからでいい。

ヤンガスと共に前に駆け出して、ふたりで魔物を打ち払う。

馬車がちゃんと着いてきているのを確認しつつも先頭に立って進んでいると遠くに金色に輝く砂の海が見えた気がした。

 

「もう、すぐそこだ。一気に駆け抜ける? 僕の魔力は足りるよ」

 

「俺もラストスパートくらいなら加勢しても大丈夫だろ。ゼシカはどうだ?」

 

「大丈夫よ。ヤンガスは?」

 

「アッシは兄貴のおそばで戦えるなら、何時でも絶好調でがすよ!」

 

「もう、最近そればっかりなんだから! 口を開いたら兄貴兄貴、エイトの兄貴って」

 

「なんでぇ、『兄貴』を慕っている奴が仲間にふたりもいりゃあそうもなるぜ。」

 

「そういえば、そうね?」

 

「……俺はノーコメントだ」

 

「おぬしら仲がいいのは分かったから、エイト殿下が露払いをして下さっているのに加勢せんか!」

 

背中に聞こえてくる賑やかな声に、僕は堪えきれずに大きな声で笑ってしまった。

彼らは等身大で生きている。

僕もそうなりたいって思ってさ。

 

あぁ、いいね。

カタチの決まった主従とも、血の繋がった家族とも違った関係性。

これが仲間ってやつなんだ。

 

ほどなくして砂漠の教会にたどり着いた僕たちは、無事に今晩の宿を確保できた。

 

宿屋も店も整備されていて、結構大掛かりというか豪華というか。

残念ながら馬屋はなかったけれど、外には先客の持ち物らしい馬が繋がれていて、その馬がリラックスしている様子からするとミーティアもトロデ王も安全な時間を過ごせそうで、良かった。




竜骨の迷宮の竜骨は竜神族の遺骸。
リブルアーチで読める本より、
『太古の昔 今は砂漠となった かの地で 竜の軍勢と 地上をほろぼそうとする 暗黒の神が 戦ったそうだ。
そして 暗黒の神に敗れた 竜の軍勢の 大量の屍が 今日の竜骨の迷宮の いしずえになったという説だ。』
つまりあそこは地上にいたころの竜神族VSラプソーンの軍勢の決戦の跡地。
時系列的には七賢者との戦いよりももっとずっと前かと推測される 竜神族の情報が少なすぎる上、七賢者の時代に近いことならレティスが主人公に「特別な血を持つ選ばれた者」以上のことを言ったはず 
七賢者と同じく暗黒神と戦った者の子孫、的な
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