サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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亡者の呼び声

深夜。

教会の人間も寝静まり、外の魔物の気配も遠く……都会の宿屋とも違う聖なる加護に守られた安心感のもと眠っていたが。

 

ふと、目が覚めた。

さて、虫の知らせに関してはマイエラ修道院でドルマゲスの気配を感知できたように一家言(いっかげん)ある俺だが、何に反応したんだか。

 

静かに息を殺して気配を探るも部屋に響いているのはいつもの騒音、違った、ヤンガスの規則正しいでかいイビキだけ、のように思えたが。

幸い、半月近く大都会サザンビークに留まっていた割には俺のカンは鈍っていなかったらしい。

深夜に起き上がる「誰か」の気配に釣られて目を覚まし、暗闇に輝く一対の金色の瞳の持ち主がするりと立ち上がり、出て行くのに気づけたわけだ。

 

俺はエイトが立ち上がった時点で身体を起こし、部屋の奥にあるエイトのベッドの方を向いたが……。

ひたり、ひたりとただの素足の足音よりは蛇が這いまわるような音を立てて足取りを緩めずに俺の横を通り過ぎていく。

俺は、不覚にもその尋常ではない雰囲気に圧倒されて息を殺したまま見送っただけだった。

 

ま、それがただの野暮用ならそれはそれで構いやしなかった。

ただ、明らかにあの温厚かつやけに人懐こいエイト殿下は後から目を覚まして起き上がった俺を無視したし、なにか目的があるかのように出ていった。

……ま、それだって本来どうでもいいことだ。

わざわざ、ちょっとばかり夜外に出たくらいで何か問題が起きるほどサザンビークの兵器殿下は弱くないだろう。

誰よりも戦える野郎をいちいち心配して差し上げるほど俺はお人好しではない。

 

とはいえ、あからさまに異様だと気づいてしまったわけだ。

一直線に、武器も持たず靴も履かずに寝巻同然の姿でふらふらと外に向かっていく。

夢遊病のように、……何かに呼ばれているかのように。

 

一体何に?

 

不思議な泉の隠者の「予知夢」とかいう与太話を聞いたばかりで嫌な予感がする。

わざわざ、竜の呪いに侵された人間をでかい竜の骨に近づけようとする時点で「良い予感」なんてしなかったが。

しかも前回高熱を出したとか言っていた本人に向かって「『その時』ではなかった」、「時は満ちた」とのたまうか?

 

まるで、殿下が呪われるのが既定路線だったかのような言いようだ。

まったく温厚なもんだね、別に偉い人間でなくても気を悪くして当然な言われよう。

「予知夢」を見たのが今日だったとはいえ、だ。

本来なら不謹慎だと言うべきところを素直に受け止めて、のこのこと砂漠にやってきて、それでこれか。

 

俺はサザンビーク国王陛下にこれを報告しなきゃならないのか?

御免だね。

 

悪いが起きろ、二人とも(キアリク)。準備してくれ、すぐ出るぞ」

 

「ンガッ……なんだククール、いきなり起こしやがって何しやがる……」

 

「なに、何があったの、まだ暗いわよ……」

 

眠気まなこで文句を言いながらも、強制的に覚醒させられたふたりは真っ先に靴を履き、武器に手を伸ばそうとしている。

ま、文句を言うのは様式美ってやつだな?

 

「緊急事態かもしれない。今、エイトが丸腰の上に裸足で出ていった。しかも様子がおかしい」

 

「それを早く言え! 兄貴ぃ! 待って下せえ!」

 

「声が大きいわよ、みんな起きちゃう」

 

ベッドの近くに放置されたままのエイト殿下の剣と靴をヤンガスが回収し、ゼシカが急いで髪の毛を結い上げて準備をしている間に俺は急いで外に出てどこへ向かったか確認した。

幸い、昼間とは対称的に冷え切った砂の上にくっきりとした足跡が残されていたので追うのは楽そうだ。

風に消されなきゃいいが、今日は大丈夫だろう。

空に雲ひとつない満月の上に、少しの風もなく……恐ろしいほど夜の世界は静かだった。

耳鳴りがしそうなほど、静かな夜だった。

 

まるでエイトを呼んでいるみたいだ。

なんて、縁起でもないことは思っても口に出さないが。

 

外に出たついでに寄り添って眠っていたトロデ王とミーティア姫も起こしておく。

 

「なんじゃと、殿下が? 全く気づかなかったわい」

 

「今日のところはとりあえず連れ戻せばいいはずだ。ふたりは無理に着いてこなくてもいいんじゃないか」

 

「む……おぉ姫や、すでにやる気十分じゃな。姫が行くならばわしが行かぬ訳にはいくまい」

 

来るってならそれはそれで助かる。

もしかすればふんじばって連れ戻すかもしれないし、そうしたらミーティア姫の世話になるかもしれないからな。

馬車を急いで準備し、その時間で距離を離されてしまっただろうが俺たちは駆け出した。

 

はた迷惑なエイトが向かった先はどうやら砂漠の中心部で、つまりは目的地の竜の遺骨がある場所なのだろう。

足跡をたどりながら、今更ながら夜の外なんて魔物が凶暴に違いないだろうし、武器もなく夢遊病のように歩いていた姿を思い出して少々心配になりかけるも……。

 

「あ、あれ! 見て!」

 

「うお魔物じゃねぇか! 兄貴! 今加勢しやすぜ!」

 

なだらかな砂の丘を登ったところで遠くに見えた姿。

案の定魔物に囲まれているじゃねぇかよ。

こっからだと呪文さえ届くかどうか。

届いたとて、術者から離れすぎた呪文がどれだけマトモな威力を出せるか分かったもんじゃない。

だが、やらないって訳にもいかないだろ。

 

とにかくエイトの剣を届けようと駆け出すヤンガス、普段よりも時間をかけて練りに練り上げた詠唱の呪文でどうにか加勢しようとするゼシカ、同じく単なる「そよ風」になりかねないが真空呪文(バギマ)を詠唱する俺。

 

と。

月明かりに照らされて存外明るい砂漠に、突如巨大な魔法陣が出現した。

 

何を使ったんだか、エイトを中心に発生した妖しげな円形のルーン文字。

素早く地面を走り抜けながら拡大していく黒い魔法陣、そして下から立ち上がる強烈な紫の電撃が魔物どもを一網打尽にしていく。

 

あれは……地獄の雷(ジゴスパーク)だ。

直感が告げた。

 

俺の目が間違っていなければ、武器も詠唱もなしに素足を踏み鳴らしただけでアレを喚んだように見えたがね。

あれが本当に地獄の雷(ジゴスパーク)ならただの棒切れでもいいから「触媒」がいるはずじゃねぇのか。

地獄ってのは地底にあると相場が決まっている。

たとえ本物の地獄が空の彼方にあるのだとしても、魔法というものは想像力が大事なもんで「地面の下」を想像することがまず大事だという意味だ。

通常地底の雷を喚ぶには、魔力と詠唱だけではなく地面にぶっ刺した「何か」を触媒、つまるところ喚び出すための「軸」にする必要がある……訳だが。

 

魔物の使ってくる呪文だってこっちからすれば何言っているか分からなくとも発動しているし、詠唱ひとつ取ったってそのスタイルはそれぞれ、無言のままぶっ放つ奴だっているわけで、つまるところ「個人差」があり、つまるところ理屈めいた無駄な考えだってわかるんだが。

 

習得途中の俺にわかるのは、「地獄の雷(ジゴスパーク)」が結構な魔力を消費する大技だってことだ。

あの状態で意識があるのかないのか分からないが、あれでもし本人の理性がブッ飛んだ暴走状態だってなんならたまったもんじゃねぇ。

理性もなく、自分の心配をしなくなった捨て身の相手がいちばん厄介なんだからな。

追いついたとてアレをこっちに向けて連発でもされたらもう逃げるしかないが……。

 

「はぁ、心配するだけ無駄だったか。結構大暴れする姿は見せてもらったつもりだったがまだ奥の手があったとはな」

 

「流石は珍しい雷魔法の使い手といったところかしら。すごい技。あの状態でも戦えるみたいでよかったけど……でも、やっぱりなんだか様子がおかしいわよ」

 

「さすがは兄貴! 違った、待ってくだせえ!」

 

魔物を蹴散らすだけ蹴散らしたエイトはやはりこちらを振り返る様子もなくふらふらと歩いていく。

必死に走るヤンガスのでかい叫び声が聞こえないなんてまさかそんな訳はないだろ。

 

必死で追いかけつつ、近寄ってくる魔物は次々とエイトに屠られていく。

こっちが武器を構える前に魔物が消し飛ぶのは結構なことだが、中々追いつけない兵器殿下は着の身着のまま、素手に素足で鎧も装備せずにただの青いチュニックとインナーのズボン姿でふらふらしているんだからハラハラするしかない。

あんな状態で魔物の攻撃を受けたらたまったものではない。

しかもここはサザンビーク国領、旅立ってすぐに責任問題に発展するなんて思うと胃が消し飛びそうだ……。

 

足取りからは想像もできないほど滑るように前に進んでいくエイトに追いつけたのは、砂漠の真ん中にたたずむ例の「竜の骨」にたどり着いたところだった。

なんとか追いつけたというよりは、ようやくエイトが立ち止まったから追いついたというべきだが。

 

「ハァッ、ハァッ……追いつきやしたぜ兄貴! お身体は大丈夫でがすか!」

 

「……ん? あれ? ここはどこ? みんなどうしたの?」

 

こちらを見てきょとんと首を傾げる。

どっと力が抜けた。

とりあえず、正気を失ったエイトと戦わなくて済んだらしい。

こちらを見る目は黒い瞳で、竜のチカラに侵食された恐ろしい姿ではない。

あの温度のない爬虫類のような金の瞳は……しばらく夢に見るかもしれないな。

 

「やっと正気に戻ったみたいだな……」

 

「びっくりしたかしら? いきなり起き出して、操られたみたいにここまで歩いてきたのよ。ひとりで魔物を蹴散らしながら」

 

「え……なにそれ……もしかして呪いのせい、なのかな?」

 

ショックを隠せない様子のエイトだったが、周囲を見渡してすぐに冷静になった様子だった。

そして後ろから遅れてひーこらやってきたトロデ王とミーティア姫を見て、すぐに卒倒しそうな表情になったわけだが。

不思議な泉でミーティア姫の真の姿を見た今となっちゃあトロデ王が本当にあのトロデーン国王なのは疑っていないが、だからって人をすぐに家臣扱いするような人間だぜ? 

礼儀に真面目過ぎるのは損な気質なもんだね。

従兄弟王子くらい不真面目に適当やっていればよかったものを。

ま、それならこんなに戦闘力に秀でた殿下にはならなかったんだろうが。

 

エイトが破壊的に戦えるおかげで俺たちがドルマゲスに挑んで死ぬ未来は確定的、ではなくなった。

例えヤンガスがパーティから離脱しなくても、力不足の三人で挑めばまぁ無残に殺されただろうさ。

マルチェロは手を汚すことなく憎い腹違いの弟を始末できたろうし、ゼシカの母親はふたりの子どもをドルマゲスに殺されてこれからどうすることやら。

ヤンガスだって死んじまえばあのゲルダ嬢だって涙のひとつくらいは見せただろう、つまるところ全員で「無駄死に」ってわけさ。

トロデ王にだって戦力差が分かっていないわけじゃなかっただろうが、闇の遺跡の結界を破るために「太陽の鏡」が必要だという目先の目標を達成するために戦いの方からは「目を逸らして」いたんだろうしな。

実際挑むとなれば止めていたかもしれないわけだ。

あれで聡明なのは知っている。

まぁ止めたら止めたでこれからどうするんだって話だがな。

自分も娘も国民も呪われたまま。

かといって知り合った俺たちがみすみす見殺しに出来るような王様じゃないのは、知っている。

難儀なもんだが、ちっとも助けてくれない我らが神はここに戦闘力の高い呪われし殿下を授けてくださった。

おお神よ、この巡り合わせに感謝いたします……とでも言えばいいのか。

 

俺たちが死なないためにも、ドルマゲスを倒すためにも、「進行型の呪い」といういかにもな厄ネタを抱えているエイトを失うわけにはいかない。

 

「ご迷惑をおかけしました……こんな深夜にみんなを砂漠に強行させてしまうとは」

 

「ふむ。エイト殿下、今はお変わりないですかな。先ほどの尋常ではない様子、ドルマゲスの呪いによるものなのか、それとも別の何かなのかは分からないことじゃがまずはご自分の身を心配するのが王族の務めですぞ」

 

「はい。ご忠告痛み入ります、トロデーン国王陛下……僕は大丈夫です」

 

「兄貴、靴と剣を持って来やしたぜ。とにかく兄貴が無事ならそれでよかったんでさぁ」

 

「ありがとうヤンガス。あはは、足の鱗のおかげでここまで靴を履いていないことにも気づかなかったよ。闇の遺跡に行ったらドルマゲスには盛大にお礼を言っておかないとね……」

 

ドルマゲスに向かって爽やかな嫌味を言いながら、エイトは剣と靴を受け取り、目の前にたたずむ竜の大骨を見上げた。

 

「ここ、前来た時と変わりない。悠久の時の向こうで死んでしまった竜の遺骨。僕を呼んでいたのかな、それとも僕が勝手に来たがったのかな」

 

そう言いながらエイトの黒い鱗に覆われた指が巨大な竜骨に伸ばされて、触れた。

 

その瞬間、糸が切れたようにエイトはぶっ倒れ、驚いて飛び上がったヤンガスが受け止めるのに失敗しつつも滑り込み、見事に下敷きになった。

舎弟の鑑だな、こりゃ。

で、今度はなんだよ。

 

「兄貴! しっかりしてくだせぇ!」

 

「おいおい頭を動かすなよ。そのままゆっくり砂に横たえて差し上げろ、あとちょっとどいてくれ」

 

とにかく、こうなっちまえばパーティの回復役である俺の出番か。

変なことの連続で逆に冷静になっちまった。

かがみ込み、腕をつかんで脈を取ろうとしたが鱗が邪魔でよく分からねぇ。

仕方なく呪いに侵されていない首筋に触れる。

緊急事態だ、不敬罪には問うなよ、頼むから。

 

とりあえず外傷はないし、顔色も悪くない。

やや心拍が早い気がするがさっきまでの大立ち回りを考えればむしろ落ち着いている方だろうか。

医者ではない俺に分かるのはこれくらいか。

 

とりあえずここでもたもたしているとまた魔物どもが襲ってくるかもしれないな。

少なくとも夜の砂漠の冷たい砂の上なんてゆっくり休むには向いていない場所だろう。

さて背負って移動するか、それとも馬車に積み込むか、どっちでもいいが。

教会に戻るしかないだろ。

 

そう思案している時のことだった。

 

突如、エイトの右腕の黒い鱗がまばゆく輝いた。

あの雷撃の呪文のように青く。

同時にパキリパキリと音を立てて腕の鱗がより大きくゴツゴツとトゲのような形状に変わっていく。

素足の両足と左腕に変化はないが、明らかに右腕が一回りか二回りは大きくなって竜のソレへ近くなっていき……。

 

あっけにとられている俺たちの目の前で、静かに目を開けた金色の瞳のエイトは。

 

「母上……」

 

絞り出すような声と共に一筋の涙を流した。

 

瞬きの間には瞳の色は元の黒色に戻り、だけども竜化の進んだ右腕が元に戻る様子は、なかった。




槍スキルを振ってないのでエイト殿下は本来ジゴスパークを使えない(素質は原作通りある)
地面ぶっ刺し方式ではないジゴスパークももちろん存在するけれど(テリーがやってる)、ドラクエ8は竜神王も地面ぶっ刺し方式なので世界による術式の違いという解釈

竜神族はたぶん恒温動物なのであたたかドラゴンと思われる
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