サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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宿敵の懐へ

闇の遺跡のある島は、なんとも不気味な雰囲気で少し見回しただけでも土地そのものがすっかり枯れている。

植物が見つからず、動物の気配もまともにない。

あるのは嫌な静けさと、遠くで蠢く魔物の気配……。

 

目の前にある闇の遺跡からはひと際嫌な気配がしていて、これが元凶なのは誰が見ても明らか。

ドルマゲスがいるからなのか、それともこんな荒廃したところがドルマゲスの好みなのか……。

なんにせよ、ろくでもない。

 

少し進んだ遺跡の入口の近くには腰に剣を挿した長身の男がいた。

多少腕に覚えはありそうだけど、普通の人間だ。

この島特有の不吉な感じはしないからここの住民というわけではないはず。

 

「あの人は……ヤンガス、知ってる?」

 

「なんでもベルガラックのギャリングの部下らしいでがすぜ。ギャリングもドルマゲスに殺されたって話でがす。つまりアッシたちと目的は同じなんでげすが……」

 

「確か、前に見た時は三人だったわね。そもそも、彼らに『魔法の鏡』のことを聞いたのよ。

今は一人残って留守番なのか、ドルマゲスが出ていかないか見張っているのか……でも前にここで会った時からかなり時間が経ってるわ。見張りとは言っても本当はドルマゲスと戦いたくないんじゃないかしら。まぁ、心の中なんて分からないけど」

 

「そりゃそうだろ。ベルガラックで聞き込みした時に俺たちは何を聞いたかって話だ。殺されちまったギャリングは素手でクマと組み合っていたような豪傑らしい。そんな男があっさり殺された……与太話みたいだがあいつらはギャリングの部下だろ、噂が本当だと知ってたんなら尚更だ。いっそ帰っちまえばいいのに。どうせ闇の遺跡からドルマゲスが出てきたってひとりじゃ殺されるだけだ」

 

「成果もなく帰ったらドヤされるんじゃねぇか? あっちの身内はゼシカみたいに自分で仇討ちするわけじゃなく、自分の部下に命令して済ませようとするんだからしたっぱの苦労なんてわかっちゃいねぇみたいだな。アッシの兄貴みたいに自ら前に立ってくださるってなんならやる気も出るってもんでがすが」

 

ベルガラックカジノのオーナーってそんなに強かったんだ。

亡くなったゼシカのお兄さんもゼシカを見ている限りは戦える人だったと思うし、ドルマゲスは相当な手練なんだろうな。

だって、大杖を持った道化師なんでしょ?

普通に考えたら魔術師が趣味の悪い変装をしていると見るべきだ。

魔術師が肉弾戦が得意な人間を次々と殺して回っているって相当だよね。

ドルマゲスは呪文で暗殺したのかな?

 

まだ僕は、トロデ王とミーティアという「呪いの被害者」しか見てないから実感が薄いのかもしれないな。

みんなに聞いた、呪われしトロデーン城の現状をこの目で見れば少しは実感が湧くのかもしれないけれど……ドルマゲスの顔も知らず、もちろんその戦闘力も知らない。

ギャリングの部下たちの方が人間として真っ当なのかもしれない。 

未知を恐れ、命が惜しい。

人として当たり前だ。

 

僕はまだ、心の中の中の少し「すごく強い相手と戦えるワクワク」があると理解してる。

不謹慎だけどそれを消すことができない時点で、ねぇ?

大事に大事にしまい込まれて世界を知らない、「エイト殿下」の甘っちょろさ、外の世界を知らない無鉄砲さ……それらが僕の欠点となってそこにある。

 

「もしかしたらサザンビークに来てたのかもしれないね。外から来る人に片っ端から声かけてたつもりだったけど、ベルガラックから来た人たちとは話してない……んだけどね。そもそもあの時期、『王者の試練』前で兵士の訓練所にいがちだったし、もしかしたらまっすぐおじ上のところに行ったのかな。もしかすると、似たような話が二回目だったから信憑性があって鏡を託してくれたのかもしれないね」

 

「確かに次々とドルマゲスに人が殺された話や闇の遺跡に引き篭っているから『魔法の鏡』が必要だと言われ続けたら……流石に嘘ではないとも思えるかもな。というかエイト、それであの時、良く俺たちの話を聞いていたな。ずっと訓練所にいたなら俺たちとも会わなかったかもしれないのか」

 

「言われてみればそうだね? あの日はトーポがちっとも落ち着かなかったから早めに鍛錬を切り上げていたんだよ。我ながら根詰めてたから叱ってくれたのかも。ねっトーポ」

 

ポーチにいるトーポが「チュッ」と鳴いて返事してくれた。

今日も元気そう。

 

もしかしたら、トーポが三人と引き合わせてくれたのかも。

僕の小さな家族はいつだって不思議。

どこから来たのか、どうして僕にだけくっついているのか、なんでいつまでも歳を取らないのかも全部謎。

なんにも分からなくても、僕にとって大事な家族ってことには違いないし何だっていいんだけど。

ミーティアが実は人間のお姫様だったお陰で話せたように、トーポともなにか奇跡が起きて話せたらいいのにな……。

 

ま、ギャリングの部下についてはいいか。

目的が同じなら邪魔してくることはなさそうだし、「太陽の鏡」に悪さしてくることもないはず。

 

さっそく、鏡を持ったゼシカが遺跡の前にある構造物? に近づく。

そこは柱のようになっていて、遺跡側にはいかにも何かをはめるようなくぼみがあった。

 

「さ、みんな退いていて」

 

鏡がくぼみに嵌め込まれる。

途端、太陽のような魔力が高まっていき……ゼシカが鏡の前から退いた途端、凄まじい光の一閃が遺跡の入口目掛けて放たれた!

 

太陽光を幾重にも束ねてさらに強化したような強い光。

容赦なく叩き込まれた闇の遺跡の窓という窓から光が漏れ出し、入口のあたりに蠢いていた怪しげな暗闇がすっかり晴れる。

 

すごい……サザンビークの国宝として何十年、下手すれば何百年も前からも存在していただろうに、正しい使い道をするとこんな凄まじい威力を持っていたんだ。

これこそ兵器じゃないか。

直撃したら間違いなく人は死ぬ。

この威力を見れば結界を解くなんておまけの機能にしか見えないな。

鏡の魔力で発射できるなら誰が持っても同じ威力の範囲武器だ。

「国宝」としてしまい込んでいて正解だね。

 

「お、おぉ! 暗闇の結界がなくなった! もしや、お前たちが持ってきたのはサザンビークの魔法の鏡か?」

 

ギャリングの部下がこちらを見て興奮気味に言う。

 

「いかにも、正真正銘うちの鏡だよ」

 

「これでドルマゲスを追い詰めることができる! サザンビークに向かわせた部下を連れてこなくては! 恩に着る!」

 

返事も待たずに駆け出して行ってしまった。

ちょっと待って、キメラの翼やルーラで向かわないの?

サザンビークはこの前まで両方ともご禁制だったけど、せめてベルガラックなり、この島から出るまでは徒歩や船以外で行かないの?

それじゃあドルマゲスの寿命が来る方が先になるんじゃない?

 

「……まったく話を聞かない奴だな」

 

「ま、いいんじゃない。のんびりしているうちにあたしたちが倒すだけだし」

 

「違いねぇや。兄貴、行きやしょう」

 

「うん。あ……ぴったりすぎて鏡、もう取れないね。この場所にあるのがきっと正しいのだろうけど、使ったら持って帰った方がいいかと思ったんだけどな。まぁいいか。帰ったらおじ上には報告だけしておくよ」

 

そして、僕たちは闇の遺跡の中に足を踏み入れることになった。

 

遺跡の暗がりに入った途端、僕の右腕は燃え上がる炎のように光を強めて周囲を照らした。

この先に呪いの主がいるからなのか、本当に竜になってしまうタイムリミットを示しているのか、なんとも不吉な気持ちになったのだけど。

 

不思議と、心のうちは温かい。

元の姿に戻りたいという思いはあるけれど、僕は鱗に覆われた自分の身体のことが不思議と気に入っているのかもしれなかった。

 

鱗の生えた腕を意識すると……夢の中のような、根拠不明の奇妙な安堵がそこにある。

安堵……いや。

どこかあたたかな、形容しがたい安心感……。

 

 

 

 

 

 

「太陽の鏡」であれだけ眩しく中を照らしたのだから、魔物が弱っていないかと期待したけれどぜんぜんそんなことはなかった。

 

盛大に先触れしてから侵入したわけだし、矢継ぎ早に魔物が襲ってくるのは納得だけど。

 

とはいえこっちは魔力を節約し、できるだけ体力を温存し、今日ドルマゲスと戦うことも想定して動くわけで。

辿り着いて終わりじゃないもの、困るね。

 

おあつらえ向きのゾンビキラーで地面から奇襲をしかけてきたミイラ男、マミー、ブラッドマミーの首を回転斬りで切り落とす。

物陰の怪しげな気配に振り返るとそこには邪悪な神官の格好をした魔物がいた。

呪文を構えている様子だったので先手を取って勢いそのまま頭から縦にぶった切り、集まってきた顔が沢山ある不気味な魔物……エビルスピリッツを盾で思い切り突いて壁に叩きつけ、破裂させた。

 

そんなことの繰り返し。

 

他のみんなも魔力の消費が少ないように工夫して戦っているけれど、やっぱり広範囲の魔法で殲滅できた方が早いし、体力の消耗も少ない。

今のままでゆっくり進むのが悪いわけじゃないけど、もっといい方法があるはず。

 

「ねぇ、『トヘロス』いる? 結構キリないよね」

 

「頼む。……が、効くのか? いかにもな敵の本拠地だが」

 

「何言ってんだ、兄貴の強さを知らない訳じゃないだろうが!」

 

「はは。そればっかりは試してみないと分からないけど。『聖なる光よ、邪魔者を退けよ(トヘロス)』!」

 

白い光が僕の身体を中心に放たれ、一定の範囲を覆う球体のような結界を作る。

すると、さっきまでどれだけ倒しても恐れずにじり寄ってきていた魔物たちが一斉に背を向けて逃げていく。

 

「……これ、しっかり効いてるわね。レベルいくつなのよ……」

 

そういえば今、いくつなんだろう?

神父に聞かなきゃ分からないな。

あ、さっきの戦いでレベルが上がったみたいで、魔力の節約が出来るようになったし、それもあるんじゃないかな。

もっと突き詰めたら半分くらいの魔力で呪文や特技が使えそうな気がする。

「トヘロス」はもともと大した消費のある呪文じゃないけど、大技でも節約ができるってことだからとても有用だ。

 

帰ったら魔力節約、カイ将軍や兵士たちにも教えてあげようっと。

「帰ったら」したいこと、たくさんあるな。

それっていい事だと思う。

 

「さぁ、行こう。薄暗いけど明かりはあるし、なんだか僕の右腕が光ってて前もよく見えるし。あ、殿の方が良かった?」

 

「いや……」

 

「好きにしたらいいんじゃない? それにどうせヤンガスがすぐ後ろについてるから一番後ろにはなれないと思うわ」

 

「違いない。ま、せいぜい気をつけて行こうぜ」

 

『トヘロス』は完璧な呪文じゃないけれど、自分のレベルがその地域のレベルを上回っていればその地域に住む魔物をシャットアウトできる。

殺傷力はないけど、強烈な忌避作用があるみたいで向こうから逃げてくれる仕組み。

ま、ドルマゲス自体にはどれだけ魔の者に近くても人間みたいだから効かないだろうけど。

 

闇の遺跡は見る限り、記録に残らない古代に建てられた異教徒の祭場だったらしい。

様式は違うけど、大仰な飾りやかがり火の配置を見れば宗教施設なのは何となくわかる。

ドルマゲスというのは異教の使徒で、何らかの儀式をするために生贄を集めていたとか?

なんて、それっぽいことを考えてみるけどいまいち分からない。

ま、動機なんて今更どうでもいいし、分かったところでこっちが止まることはないのだけど。

 

錆びついて重たいレバーを引き、遺跡の仕掛けを解いて立体的な迷路のような道を抜ける。

これは異教徒がこちらを阻むために用意していた嫌がらせなのか、彼らなりの防護策なのか、はたまたドルマゲスの嫌がらせか。

仕掛けを無視して踏み越えていく方が、仕掛けを解くより絶妙に骨が折れそうだ。

足元に気を付けながら下の階へ。

 

定期的に「トヘロス」を掛けながら外気と隔絶されたかび臭い空気を浅く吸う。

なんとなく、ドルマゲスへ近づけば近づくほど鱗と全身の毛が逆立つような緊張感が増してくる……。

 

下へ下へ向かっていくとパキリパキリと小さな音が肩甲骨のあたりから聞こえてくる。

鱗が皮膚の下から現れて僕の人間味を覆い隠していく。

はは、このペースじゃドルマゲスの前にお出しされるのはいびつな黒竜かもしれないね。

 

更に潜っていくとそこにあったのは見上げるほどに大きな像が二体、そして天井に広がる邪悪な壁画。

これが異教徒にとって、教会のステンドグラスや聖書に相当する偶像だったんだろうか。

 

これも「仕掛け」らしく、赤い光線を発射している像の下にはこれ見よがしに何かしろと言わんばかりの足踏みスイッチがそれぞれある。

様々なモンスターや邪悪の神が描かれた壁画には、彼らにとっての「敵」であろう神々しい鳥の姿が描かれている。

 

「ここの仕掛けは……二体の像から出ている光を、この足踏みスイッチで動かしてどこかにあてろってことかな」

 

「だろうな。

にしても、さっきから奴さんの目論見通りの筋書きを辿っているような気がしていい気がしないな。仕掛けを解いて先に進む。仕掛けをきっちり解けば罠もなく進める。案外、ドルマゲスは俺たちを歓迎して待っているかもな」

 

「パーティの準備でもしているのかしらね。ま、今更歓迎しようが土下座して謝ろうがあたしが仇を取ることには変わりないけど。こっちから挑発してやればいいわ!」

 

「確かに、ドルマゲスが泣こうがわめこうが兄貴に呪いをかけたなんて万死に値するでがすからな! にしてもなんだってこんなところに閉じこもっているんでがしょう、何か理由があるんでがすかね」

 

「さぁ、ここがドルマゲスにとってのパワースポットなのかもね。それにしては随分趣味が悪いけど……」

 

「あいつが遺跡にこもったのは暗いところが好きだからよ、絶対。陰険なんだから」

 

「ドルマゲスはモグラかよ……」

 

さて、歩きっぱなしでだんまりだった雰囲気がほぐれていい感じだし、ここの仕掛けも解いちゃおう。

 

「じゃ、誰か逆側の像を動かしてくれる? 多分、壁画の中で『邪悪』じゃなそうな鳥に当てたらいいと思うんだ」

 

「アッシにおまかせくだせえ! にしても鳥を焼くなんてこの遺跡は趣味が悪いでがすなあ」

 

そうして、おそらくは最奥部へ続く階段を出現させた僕たちは顔を見合わせて頷いた。

だって階段から感じる重苦しい気配が嫌というほど「元凶」の存在を教えてくれるから。

ここまで来たらもう今日は「偵察」のつもりで引き返して後日、なんて言っていられない。

 

体力も魔力も気力も充分。

なんならゼシカなんてさっきから人が変わったように目を爛々とさせているし、ヤンガスも今すぐ戦いたいみたいだ。

慎重派のククールも乗り気らしい。

 

階段を一斉に駆け下りて、その先の石畳の道を抜けていく。

一番奥の大きな扉から感じる邪悪な気配……ここに違いない。

 

一歩一歩進むごとに全身がきしんでいる。

僕が、人の形じゃなくなっていくんだ。

 

右手の青い光が視界の中でにじんでいく。

視界が妙に広く感じる。

息がどんどん荒くなって、肺がひどく痛む。

 

でも、奇跡的にまだ人間の形をしているらしい。

 

「必ず帰るから」

 

懐から命の石を取り出して、僕は誓う。

竜に成り果てても母国に戻るとも。

自我を失っても、暴れに暴れてドルマゲスを生き埋めにしてやろう。

そして僕は仲間たちを連れて瓦礫から這い出し、不格好に飛んでサザンビークに戻るのさ。

背中にみんなを乗せて。

あはは、その頃には「呪い」が解けて竜の姿ではなくなっているかな?

そうだといいな。

 

……そうだと少し寂しいな……。




モグラのくだり→原作にある闇の遺跡の仲間会話より ドルマゲスを前にしていつものノリでトンチキ会話をする仲間たちが愛おしい

今のエイト殿下のレベルは36(剣100、ゆうき58)
今更ながら、ゲームではレベル38になるまでスキルポイントを100まで振れませんが作中でギラスラッシュが放たれたシーンがないためまぁいいかなと
エイト殿下は隙と溜めを晒すギガスラッシュよりライデイン降らせながら普通に斬りかかる方がお好み
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