サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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成り果てたモノ

ふっと気がつく。

そこで僕は僕になった。

朝おきたときみたいに。

寝てるときの僕は、僕だけど僕じゃない。

うごけないし、かんがえてもない。

そこにいるけど、なにもない。

そんな感じに、なにかからおきて、僕になった。

 

ちょっと、僕は大きくなったみたい、だ。

ほんの少しね。

階段を何段かのぼった時みたいに、高いところから見ているときみたいなかんじ。

あと、あたまがすこしぼんやりする。

なにか、おもいだせないような。

 

まわりの音も空気もぜーんぶ、しっかり伝わってくるのにおかしいね。

なにがあったんだろう?

 

目の前にいるのはむらさき色のかいぶつ。

背中に大きなつばさが生えて、ずっと「ころして」って言って泣いている。

あれはドルマゲス、だったもの。

泣いているのはドルマゲス。

僕たちをこうげきしようとしているのは、だぁれ。

もうドルマゲスは「いやだ」って言っているんだよ。

聞いてあげない「悪いやつ」はだぁれ?

 

なにをしてくるんだろう? って思って見ていたらいきなり「悪いやつ」が手を横にビッとふって、とんがったツメにひっかかれちゃった。

ねぇ痛いよ。

エイトに悪いことをするやつは、兵士をよんでおしおきするんだって。

前にチャゴスが言ってたよ。

 

でもここに兵士はいないし、僕がやりかえしてもいいよね?

やりかた、わかるよ。

えっとね、……あれ、「まほう」ってどうするんだっけ?

まぁいいや。

そうじゃなくてもね、やりかたはわかるから。

 

「きゅいいい!」

 

雷、おちろ!

ドーン! ビカビカビカ! って大きな音を立てて僕がよんだ雷が「悪いやつ」に当たった。 

あれ、一回だけじゃぜんぜん平気みたい。

じゃあもっと雷おちろ!

 

ドーン、ドーン、ドーン!

バリバリバリ!

 

僕の青い雷、よくきくでしょう?

あと、これでもくらえ!

オマケにくるっと回って僕のしっぽで叩いてやった。

これで、どうかな?

 

あれ、まだ生きてる!

普通に立ってるし、なんだか怒ってる。

「悪いやつ」は冬みたいな冷たいまりょくをまとって「まほう」をとなえてきて、ほら、やっぱりとんできたのは氷の「まほう」だ!

 

あれは僕のこうげきへの仕返し?

ううん、「逆ギレ」ってやつ。

先生に注意されたチャゴスがよくやってるやつ。

 

僕はよけるために、つばさを広げて大きくジャンプした。

でもバサバサできなくて、すぐに落ちてきちゃった。

バサバサってどうやってするんだろ?

練習! 僕、練習したい!

帰ったら、おじうえにつばさをバサバサするのを教えてくれる先生をちょうだいってお願いしなきゃ。

 

……「悪いやつ」はなんでこんなことするんだろう。

ドルマゲスはもう死んじゃったのに。

「いやだいやだ」って言って、じぶんでおなかに杖を刺して死んじゃったのにさ。

死んだ人のからだを動かしている「悪いやつ」は、だぁれ。

僕がたおすよ、ははうえは僕に強い■になってほしいって思っていたんだもの。

「悪いやつ」をたおせるくらい強くなれば、ははうえもうれしいよね?

きっと、おじうえもほめてくれるし、そしたらお外に出してくれるかも!

こっそりじゃなくてね、「いってきます」を言ってチャゴスとバザーにいくんだ、いっしょに。

あとね、チャゴスがいきたいって言ってたベルガラックにも!

僕たち、「いってきます」と「ただいま」を言ったことないんだもの。

言っちゃったらこっそり外に出たのバレちゃうじゃん。

こっそりお外に出たら、こっそり戻らなきゃいけないの!

 

『哀れな。最期の一瞬だけ正気に戻れたというのに結局死んだあとも身体を弄ばれてしまうとは……』

 

「きゅう?」

 

いま、僕の耳元でおはなししたのはだぁれ。

 

『しかし、エイトの「■変化」の姿はこんなに幼いとはの。当たり前じゃった、まだたったの十八歳……ううむ、そもそも人の子は成長が早すぎるのじゃ、百年も生きずに成人扱いとは! ■の姿は年相応なのはむしろ朗報かもしれん、エイトまでもを見送ると思うと身が切られるように辛いわい……。しかし、未だこのように幼い■ならば……いやしかし、人の営みの中に生きている孫がひとり取り残されるというのもまた残酷なもの。あるがままを受け入れなければならぬとはいえ』

 

「きゅいぃ……」

 

だれなの。

かなしそうな声でおはなししているのはだれなの。

首をふってさがしたけれど見つからない!

 

『こんな幼い雛を戦わせるなどあってはならん。人のエイトは見た目も自認も大人だろうが、■のエイトはまだ雛なのじゃ……どれ、少しじいじが助けてやろう。かわいいエイトや。なぁにバレなきゃ良いのじゃ。このキュートなサイズなら■になりたてのエイトは気づかんて』

 

くるるるるぅ(だれなの)……」

 

『なんと! ■の言葉を喋るとは。教えてもないのに……しまった、聞こえておったか?』

 

マゴ。

孫。

僕のおじいちゃんか、おばあちゃんがそこにいるってこと?

 

ううん、僕はしってるんだよ。

赤ちゃんの僕をおじうえにわたしたのは、おじいちゃんだって。

ははうえの、ちちうえ。

 

でも、やっぱりどこを見てもいないんだ。

 

その間にも「悪いやつ」は僕に向かってつばさをバサバサさせて、羽根の雨をふらせて攻撃してくる!

痛いよ!

やめてよ!

悪いことをするやつは、ねむっちゃえ!

 

ムカムカを込めて「悪いやつ」をにらみつけると、「まほう」をつかおうとしていたのがピタッと止まった。

でも、ちゃんときかなかったみたいで仕返しに僕のことを何度もボカボカ叩いてくる!

 

「きゅ、キュイ……」

 

もう、痛いよ!

お返しにガブッとかみついたけど、なんだかとってもイヤな味がしたからすぐにペッした。

なんだかこいつにさわりたくないよ。

僕までむらさき色になりたくないよ。

 

『どれ。エイトや、噛みつくのではなく口を開けて奴に向かって炎を吐くのじゃ。できなくともわしが代わりにやっておくでな、恐れずにやってみてごらん』

 

「おじいちゃん」の声が聞こえる。

おちつく声に、僕はやってみようかな? って思った。

 

火をはくってどんなだろう?

こう、かな?

 

『上手じゃ!』

 

口を開けて、おもいっきり息をはく。

わ!

できた!

ゴオオッて! 燃えてるよ!

こんな大きな火、見たことない!

あ、僕の「ベギラゴン」ならこのくらい燃えるかも。

ええっと、「ベギラゴン」ってどうするんだっけ。

僕、「まほう」もいっぱい練習したのにな。

剣も、「まほう」も、いっぱい……剣はどこにいっちゃったんだろう。

わかんない。

なんだかむずかしいこと考えられないな。

それより「悪いやつ」をやっつけないと。

 

燃えているそいつに、また雷をドーン! って落とす!

それから、足をゆかにドンッてして、「下」からも雷をよぶ。

僕のからだが、ジゴクの入り口!

門よ開け!

 

上から青い雷、下からは黒い雷!

雷のサンドイッチになっちゃえ!

 

バリバリバリ!

 

思っていたより大きな音がして、ちょっとびっくりしちゃって周りをキョロキョロ見回すと、近くに仲間たちがいることを思い出した。

あぶないあぶない、きづかないで踏んずけちゃってたらあぶなかったね。

あぶないから、はなれて? って言おうとしたけど、そもそもどうやっておはなしするんだっけ。

 

「きゃう……?」

 

「いいわよエイト! このまま一緒に押し込んじゃいましょ! 燃えなさい(メラミ)!」

 

「勝てるぞ、このままいけば! まったく、兵器殿下のあだ名は伊達じゃないな」

 

「おいククール、エイトの兄貴になんて口聞いてやがる! 兄貴はどんな姿になられても最強! なんでげすよ! アッシも負けちゃいられねぇ、兄貴にならってガンガン攻撃するでがすよ!」

 

「おいおいおいおい、その熱意は買うがエイトの雷撃に巻き込まれるから前に出るなってさっきから言ってんだろうが! 愛しの兄貴の邪魔になるんだって言えば分かるか?!」

 

「げす……兄貴の邪魔にならない場所からの斧無双は……届くでがすかねえ……」

 

そこで、みんなの言葉がやっと聞こえるようになったみたい。

ずっと話しかけてくれていたんだ、そこにいたんだ。

ひとりで戦うのに夢中で、全然気づかなかった。

 

僕の動きに巻き込まれないくらいは離れて、だけどすぐそばに。

みんなを見下ろすと、僕が大きくなったんだって実感する。

ククールって僕より背がたかいお兄さんだったよね?

今は、僕の方が見下ろしている……。

 

なにかお返事をしたくても今の僕の口から出るのは、人間の言葉じゃない。

視線も高くて、僕は少し大きくなったみたい。

今の僕は口から火を吐いて、長いしっぽで薙ぎ払って、祈るだけで雷を呼べて、背中に翼があって。

僕は、僕は……。

 

僕は、そこでやっと、自分の身体をちゃんと見た。

黒い鱗に覆われたからだ、なんでか動かし方のわかる翼やしっぽ、剣なんて握れそうにない爪の生えた手……。

 

「キュ……」

 

僕は、■に、本物の竜になってしまっている。

 

さっきまで夢中になっていた「何も分かっていない竜の僕」とその少し後ろにいた「何も気づいていない人の僕」がようやくひとつに混ざりあって、見えていなかったものが見えるようになったみたい。

 

どうしよう、僕、戻れるのかな。

不安が頭をよぎったけど、今はあと!

みんなを巻き込まないようにしながら操られたドルマゲスを倒してから考えよう!

 

心の恐怖を吹き飛ばすように、僕は威嚇するように叫んだ。

 

「キュイイイイィ!!」

 

どれだけ攻撃しても痛くないみたいに起き上がり、操り人形みたいなおかしな動きで迫ってくる「悪いやつ」に向かって。

操っているってことは、「悪いやつ」はドルマゲスの身体の中にいるか、どこからか見ているってことなんだよね?

 

そのまま僕が念じるとまたもやバリバリ音を立てて雷が落ちる。

竜の喉じゃまともに呪文を唱えることもできないけど、何故だか雷は喚べるみたい!

思った通りに、落としたいところに。

 

多分、この雷は「ライデイン」とは違うものだし、おそらく魔力の消費もない……「竜の技」なんだろうけど、結果は同じ。

このまま物量ですり潰す!

僕が「混ざり合う」までみんなも僕の攻撃に巻き込まれないように攻撃してくれていたんだね。

さっきまで見える場所、気付ける音なんかがとっても狭くなっていて……気づきもしなかった!

 

今なら、少しは「人間」の思考回路に戻ったかな。

普段より感情的で子どもみたいな思考回路なのは気のせいかな、なんだか頭で思ったことを考える前に実行しちゃってて、だいぶ「竜の僕」に引きずられている気はするけれど。

 

気にしても仕方ないか!

 

早く、早く、早くこいつを倒さないといけないんだもの。

こいつを倒せば……きっと気高いあの子の呪いが解けるんだもの。

あの子の心からの笑顔が見れるなら、ミーティアが笑ってくれるなら、僕頑張るよ。

 

だから。

可哀想なドルマゲス……をここまで操っていた黒幕!

 

きゃるるるるる(覚悟しろ)ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃるるるるるッ!」

 

黒い竜の仔が甲高く咆哮すると、放たれた矢のように指向性のある青い稲妻が醜悪な容姿になった怪物に向けて放たれる。

無尽蔵に放たれる眩い連撃。

そこを縫うようにして炎の呪文と烈風の呪文が切り刻みにかかる。

ただ、魔力の動きだけを見てかわそうとすればすかさず飛んでくる、魔力を帯びない見えざる斬撃が追撃してくる布陣。

 

雨のように、嵐のように、土砂降りのような絶え間ない攻撃が浴びせられているとさしもの「黒幕」も敗北を意識するようになっていた。

……もちろん、敗北とはいってもあくまで見せかけ、「この肉体」での話でしかないのだが。

 

ドルマゲスの、とっくに限界を超えた肉体が崩壊するのもいとわず操っている「黒幕」は目の前の竜の仔と交戦しながらつぶさにその様子を観察していた。

 

見たところ、まだ己のチカラを制御できていない、幼い竜の仔。

元の姿はただの人間そのもの、竜の気配も「変化(へんげ)」するまで微塵もなかった。

 

「黒幕」は思考を巡らせる。

この竜の仔は太古の昔に交戦した「竜神族」の縁者のようだ。

だが、あまりにつたない竜変化。

人間の姿で戦われていた方が余程脅威だった。

すでに強大なチカラに耐え切れず崩壊しているドルマゲスの肉体を「看破する」ことができたという一点でしか勝っているところはない。

その「一点」こそ厄介だったものの。

とはいえ、ことが済んだのなら元の姿に戻ればいいもののそうしない。

いや、()()()()のかもしれない。

かつて戦った竜神族たちに比べてあまりに小さな体躯、無理やり振り回しているような身体の使い方……。

 

思考を割けば、その隙に差し込むように灼熱のごとき炎で焼き払われる。

反撃に呪文を唱えたものの、究極氷結呪文(マヒャド)には灼熱の息を、究極灼熱呪文(ベギラゴン)にはおびただしい雷撃で相殺されてしまう。

つたないとはいっても神の名を冠する種族の末席。

ジリジリと追い詰められつつも、「黒幕」はそう焦ってはいなかった。

 

「彼」は待ち慣れていたし、ドルマゲスを操っていたことは知られてしまったものの「誰が」操っているかなどは知られていない。

そもそも、寿命の短い人間たちは自身のことは失伝しているだろうと判断した。

「闇の遺跡」が長らく放置されていたことがその証左。

脅威に思う人間がいるのならば既にこの遺跡くらいは跡形もなく(なら)されていてもおかしくないというのに。

そうなっていないということは、未だに何が元凶なのかは分かっていないだろうと。

ならば。

この戦いの後で「杖」を手に取る人間もいるはずだろう、と……。

 

「黒幕」は胸中で笑った。

そろそろ潮時だ。

 

ドルマゲスの肉体を無理やり維持していた暗黒の魔力を止める。

同時に吼える仔竜の攻撃を派手に受け止めてやる。

 

上から襲い来る青い雷撃、地中から発生する黒い雷撃。

それらがもろに炸裂する。

 

古い石像のようにひび割れた肉体は、急速に朽ち果てる。

強い雷撃を受けたせいか、その電撃傷(でんげきしょう)はドルマゲスの肉体に毛細血管が浮き出たような不気味な雷紋を刻み込んだ。

 

「……まダ足リぬ……」

 

崩れ落ちながらも対峙していた相手の中から、魔法使いの女に目をつける。

彼女からは色濃く()()の血の気配が感じられるが……違う。

既に屠った血族の(すえ)か。

興味を失う。

ならばよい。

既に絶えた血族ならば。

 

さて、次の宿主はもっと魔力がある人間が良いものだ。

「黒幕」はひとりごちる。

ドルマゲスはそれなりに便利な男だったが、如何せん多少頑丈なだけの凡夫に過ぎなかった。

魔法の才能は皆無だったのだ。

例えばこの女のように、溢れんばかりの才能と豊かな魔力に恵まれているのであれば「我が魂」を最後まで解き放つことも叶ったろうに。

まるで足りない才能、魔力を暗黒のソレで補填していれば単なる人間の身体なぞ悲鳴をあげて当然。

ドルマゲスが道半ばに乗り捨てることになったのは既定路線だった。

 

異形に成り果てた男が崩壊する。

ドルマゲスの身体にひび割れが広がっていく。

見るも無残にぼろぼろと肉体が崩れ落ちていく。

心中で一歩引いたところ気持ちで見ている「黒幕」と相反するように苦悶の表情を浮かべているのは、杖のひと突きによって心臓を失ってもなお魂を肉体に縛り付けられたドルマゲス本人のものだった。

 

胸を掻きむしり、口からどす黒い血を流しながらドルマゲスの肉体はチカラを失っていき……。

 

だが。

本当の死の寸前、その苦痛が和らいだようで。

ドルマゲスは痛苦のもがきも、嘲るような笑みも全て置き去りして見えもしない「空」に向かって手を伸ばす。

 

いや、ドルマゲスにはきっと見えていた。

 

「アぁあ……師、匠……わたシを、迎えニ……マタ、叱っテ……くだサ……」

 

不意に「黒幕」の視界が消える。

見るための目玉も、それを処理する頭部も朽ちてもうないらしい。

続いて触覚が失われる。

全身が石化しきったようだ。

耳がなくなっても、全身に響く「音」はしばらく感じ取れていたが、それすらなくなるのは時間の問題だった。

崩れていく、朽ち果てていく。

岩が砕けて石になるように、石が摩耗して砂になっていくように。

 

そして。

 

哀れな男の残滓はわずかな塵ばかり。

地底から「空」を仰いで、誰かの迎えを得られたのは唯一の救いか。

 

「ドルマゲス」はその日、討伐された。




黒竜エイトが使っていたもの
青の衝撃、強制催眠、いなずま、ジゴスパーク、しゃくねつ、なぎはらい

検索推奨ワード
リヒテンベルク図形 雷
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