サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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遭遇:呪いと傲慢

俺たちは城門を出ると王家の山と同じ方角に進み、途中の分岐で知らない道へ向かった。

 

そして、一体どうやったのかは分からないが見るも無惨になった物理的に破壊された関所を抜け、さらに進む。

なんせ……ヤンガスが話した別の関所と同じように、無理やり強力なチカラを叩き込んでぶち破りました、と言わんばかりの無惨な有様。

 

人間はおろかその辺りを彷徨いている魔物どもが束になったとしても同じことができるかはなはだ疑問な無茶苦茶ぶり。

当たり前の話だがゼシカ本来の腕力で叶う無茶とは思えない。

操られたゼシカの魔法の産物だとしても末恐ろしいことだ。

こっちに向かって人体破壊級を通り越して即死必至の殺戮呪文がかっ飛んでくる……想像するだけで嫌になるな。

 

そんな呪文の対処を考えるだけで気が滅入る……反射呪文(マホカンタ)で防げたらいいが、そこまでの威力だと反射するのも戸惑われるか。

「黒幕」は杖を媒介して他人を乗っ取っていくのだから、多少の不便を無視すれば宿主の肉体がどうなろうと知ったこっちゃない、という態度を取られてしまえば終わりだからな。

 

とはいえ、感傷に浸る暇もなくどんどん進んでいく。

エイトのトヘロスのお陰で魔物どもは近寄ることすら出来ない。

涼しい秋風が吹く中、気温もちょうどいいしこんな時じゃなければ快適なランニングだな、まったく。

俺たちにいい運動を楽しむような余裕は、もちろんない。

 

それにしても……俺たちがバテないように息を入れられる程度の速度は調整しているようだが、殿下の気が急いた様子は尋常じゃない……が、正直全員人のことなど言っていられるような精神状態ではない、か。

傍若無人なトロデ王すら、国宝の杖自体が呪いの代物であることに気づかなかったことを深く悔いているように見えた……なにせ、ゼシカに杖を拾わせたのはトロデ王だ。

口数も少なく、沈痛な面持ち。

馬姫様も父親の様子にいつにも増して物静かな様子だ。

 

とはいえ、あの杖のことは遅かれ早かれ起きたことでしかない。

あの状況下でゼシカが拾わなければ呪われていたのは俺か、ヤンガスか、あるいはトロデ王自身か……最悪のケースでは、パーティの先頭を颯爽と走っている「サザンビークの兵器殿下」が「呪われし殿下」として俺たちに立ち塞がっただろうさ。

 

ゼシカが呪われて良かったわけはないが、心の慰めとしては「エイトが呪われなくてよかった」としか言いようがない。

エイトの単純な戦闘力もさることながら、いざとなれば人間よりもふた周りほど大きい竜に変身して暴れられる存在。

それが呪いによってタガが外れた状態でこっちを襲ってくる……なんて考えるだけで肝が冷えるってもんだ。

 

単純にエイトを相手にするのが恐ろしいだけではなく、オマケに重い責任問題までついてくる。

仮に誰かが「お願い」してエイトが杖を手に取っていたとしたら?

まぁ、その誰かの首ひとつで済むなら安いものかもしれないな。

 

せっかくドルマゲスと戦っても生き残れたんだ、「杖」の騒動でむざむざ死んでやるつもりはないね。

 

その点、ゼシカはいかにもな魔法使いタイプで杖との相性は見るからに最高、相手にして最悪だが……関係ないか、誰が呪われても状況は最悪だった。

最低最悪ではなかった、それだけ。

 

とにかく、急いで杖を叩き落とすなりへし折るなりすれば……ゼシカがドルマゲスのおじさんの二の舞にはならずに済む、よな?

 

それなりの時間が経過したがここまで一度も戦っていない。

魔力の消耗もないくせに、走っている間に考え込んで勝手に思考に削られている。

 

前方に街の入口が見えてきて、そこでエイトがくるりと振り返るまでは本当に誰も……誰も、口さえ開かずにここまで来ていた。

 

「北の関所……は破られていたけど、関所を抜けたからにはここはサザンビーク国王の威光が届く領内ではなくてね。余計なトラブルを招かないように、街の中では僕のことはエイトではなく、『リオ』と呼んで欲しい。そのうちうちの兵士が合流したら偽名どころじゃなくなると思うから、そうしたら好きに呼んでいいから」

 

「了解。ま、実質俺しか関係ないだろうがね」

 

「アッシは変わらず兄貴とお呼びしやす!」

 

「ところでわしたちは騒ぎを起こさぬよう、いつも通り外で待っておるでな。エイト殿下、ゼシカのことは頼みましたぞ」

 

トロデ王の懇願に、全員で頷く。

 

……橋の上の街からは、かつてマイエラ修道院にドルマゲスが襲来した時と同じような「邪悪な気配」が感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまえら、この気配は感じるか?」

 

「少しは」

 

「背中が気持ちわりぃような気配がするぜ」

 

「だよな。今度こそ間に合うといいんだが」

 

ククールは橋の中央付近の屋敷を指さした。

今では「少し」気配が分かるとはいっても、そもそもサザンビークに「ドルマゲス」が侵入した時には気づきもしなかったわけで。

よりはっきりと「気配」が分かる仲間がいてくれると心強い。

 

「リブルアーチには来たことがないけれど大きな屋敷なら領主か、金持ちか。そういう相手の方が無茶苦茶やった時に融通を利かせられそう。遠慮なく行かせてもらう」

 

「合点でがす!」

 

それにしても、昼間なのに街の人気がないような……みんな、異様な気配に気づいて家にこもっている?

それとも、街の人間も巻き込まれている……?

 

とにかく、急げ!

 

やや傾斜のある街並みを駆け上がり、門のある屋敷に急行する。

遠慮なく扉を開け、屋敷の階段を一足飛びに登り、奥の扉に飛び入った。

 

屋敷に突入してからますます強く感じられていた邪悪な気配が、扉を抜けると身体中を突き刺すほどに強くなっている。

 

「ゼシカ!」

 

飛び込んだ部屋の先で、杖を持った()()()がゆっくりと振り返った。

彼女の前には細身の青年と、豪華な服を着た恰幅のいい男がいて……きっと、そのどちらかが此度の「標的」だったのだと分かった。

 

恰幅のいい男は魔術師らしく、ゼシカが振り返った隙に結界らしきものを展開して自分と青年を守っている。

青年は雇い主らしい魔術師を守ろうと立ちはだかっていたけれど、押しのけられてしまったようだ。

 

「くすくす……」

 

笑いながら、ゼシカは恐ろしい空気をまとったまま。

城で見た時と同じ、あの真っ青な顔色に赤い瞳のまま……。

 

「随分お早い到着なのね。四人の賢者を取り込んだ杖にかかればこの程度の魔術師なんてなんてこともないのだけど……あなたたちまで同時に相手にするのは少し骨かしら?」

 

ふわりとゼシカが浮かび上がる。

闇の遺跡でドルマゲスがやっていたような、奇妙な魔術。

 

「もうすぐみんなともお別れなのに。かなしいわ、とてもかなしいわね……でも、いいわ。今日のところは引き下がってあげる」

 

また逃げる気だ!

悟った僕は右手をゼシカに向けた。

そのまま手のひらから無詠唱の雷撃呪文を放つも、ゼシカの前で不可視の壁に受け止められてしまい、霧散してしまう。

僕は自分の身体をぐるりと囲むように次々と雷の矢を生成し、発射する構えをした。

 

隣でヤンガスが武器に手をかけて身構え、ククールが手に魔力を込めているのが分かる。

 

屋敷の主には悪いけど、ここで戦うことも辞さない。

屋敷を無茶苦茶にしてしまっても、人の命にはかえられない!

 

「くすくすくす……随分せっかちなのね、竜のぼうや。急がなくてもあなたたちとはどこかで必ず戦うことになるのにね。お別れは悲しいけれど、とっても悲しいけれど、仕方のないことだわ」

 

ブンと大杖が振られて、その瞬間僕の雷の矢と魔術師の結界が空気中に解けるようになくなってしまった。

魔力の制御は完璧だったはずなのに、主導権を奪われた?

いや、そうじゃないはず……魔法そのものを分解されたみたいだった。

 

霧散した呪文、残されたのは無色の魔力。

呪文の形を失って、ただの魔力にまで還元された。

奪う訳でもなく、無理やりねじ伏せるのでもなく、ただ無効化されてしまった!

 

「ただの結界なんて意味をなさないわ。そんな呪文があたしに届くかしら。せいぜい首を洗って待っていることね……」

 

くすくす、くすくす……。

 

愉悦を含んだ笑い声だけ残して、呪われたゼシカはだんだんと姿が薄れていき、その場から消えてしまった。

また、逃がしてしまったなんて!

 

部屋を支配していた息苦しいほどの威圧感がふっとなくなる。

悔しさでぐっと拳を握りこむも、緊張していた全身から少しチカラが抜けたのも事実であって、そして同時に。

 

ゼシカを操っている何者かがいるのは分かっている、だけど姿かたちはまだ短いけれど一緒に旅したゼシカそのもので、その声も話し方もゼシカの面影があって……ここで戦わずに済んでホッとした自分がいるのも事実だった。

……まだ、犠牲者が出ていないからこんな楽観的なことを思えるのだろうけど。

 

「ハ、ハワードさま! お怪我はありませんか!」

 

いち早く我に返ったのは細身の青年だった。

結果的に魔術師に守られた形になったとはいえ、身を呈して守ろうとした忠臣。

だからさぞかし信頼関係があるのだろうと思っていたのに、ハワードと呼ばれた魔術師は労うどころか青年を怒鳴りつけた。

 

「ええい触るな、汚らわしい! こんな時だからといってわしに取り入ろうたってそうはいかんぞ!」

 

「そんな……私はただ……」

 

初対面の相手に野心があるかどうかなんて、僕程度の若造が「見てわかる」、なんて言えないけど。

少なくとも、両腕を広げて庇っていた彼はいかにも気弱そうで……少なくとも、まともな戦闘訓練をしていないのが分かる細い体つきの青年なんだよね。

屋敷に侵入してきてあからさまな殺意を向けてきた相手に身を呈して庇える時点でさ、その動機が「取り入ろうとしていた」としてもいいじゃないか。

腹の中で何を思っていても実際の行動ができている時点で。

 

聖人君子なんて、この世界にどれだけいると?

 

なんて思っちゃ、ハワード氏には悪いかな。

少なくとも青年は庇おうと尽力したけど役には立っていなかった。

その結果を評価して怒鳴った?

結界を張ったけど解除されてしまった自身も命を守る「役に立って」などいないのに?

 

うーん。

上に立つ人間の振る舞いって何が正しいのか未だに分からないけど、モヤモヤするなぁ……。

権力には責任が伴うけれど、責任を果たしたとしても傲慢であっていいわけではない。

……侍従たちにわがまま放題言っているチャゴスの姿が頭に浮かんだけど、とりあえず打ち消しておいた。

若干の退職者は出ていても殉職者は出ていないし比べるものじゃない。

 

「もうええわい! お前は外で待っているレオパルドちゃんにご飯でもやってこい! わしはそこの御仁と話がしたいのじゃ!」

 

「は、はい、分かりました……」

 

トボトボと歩き出した青年はすれ違いざまに僕たちに会釈して去っていく。

いたたまれない……。

 

「そこの御仁。どうやらわしはお前さんがたに助けられたようじゃな。さあこちらに来なされ」

 

勝手に屋敷に飛び込んできた不審な旅人たちにはその態度がとれるのに、自分の使用人にはあの態度で、しかも外の人間に見せてもいい……あの青年が外の人間にどう思われてもいいと思っているの?

どういうこと?

 

思わず眉をひそめそうになったけど、ここでトラブルを起こしてゼシカの情報が手に入らなかったらどうするんだ、エイト。

瞬時に切り替えて僕は無表情を維持した。

 

この様子じゃ、サザンビークの隣の町の名士とはいえ僕の正体には気づかなそうでよかった、とでも思っておこう。

自分のタイミングで手札を切れる方がいいに決まっているんだし。

 

「どこの誰かは知らんが、もちろんこのわしのことは知っておるじゃろう? わしが偉大なる大呪術師ハワードじゃ。わしの命を助けたとあらばそれは大変に名誉なことなのじゃぞ。これから誇るとよいぞ。

そうじゃ、わしのことは気軽にハワードさまと呼ぶとよかろう」

 

チャゴスでももう少し上品な言い方するんだけど……身内の贔屓目かな?

下々の人間はぼくを守れたことを光栄に思え! とか。

……五十歩百歩すぎる……。

 

ハワード氏の物言いにククールが分かりやすく肩をすくめ、ヤンガスが腕をボリボリ掻いた。

そして、ハワード氏はふたりの態度をちっとも気にしていない様子だった。

これは寛大なんじゃなくて、まったくこっちのことなんて気にしていないだけだな、きっと……。

 

にしても、外の国の権力者のスタンダード、これじゃないよね?

初対面の旅人に向かって「気軽にエイトさまと呼ぶといい」なんて言ったことないんだけど。

 

「それにしてもあの杖使い女、また来るといったような不吉な言葉を残していきおって。あのわしの結界はわしの身にが迫ると占星術で出ておったので用意しておいたとっておきの結界だったのじゃが……あれ以上のものとなると流石のわしでも簡単には出来ん。

そこでじゃ、助けてもらったお礼も兼ねてお前たちに仕事をやろう。引き受けてくれるな?」

 

ここでゼシカがもともと僕らの仲間で、何者かに操られている彼女を助けに来たんだって説明したら話がこじれるのは間違いない。

そう思ってふたりに目配せすると、僕と同意見のようだった。

 

自分の能力に自信があって、初対面の相手さえ簡単に「使える」と思っているハワード氏……むしろ普通の人間よりも権威に弱そうに思える。

ここは素直に従っておいて、恩をさらに売っておこう。

そうしたら、ゼシカを助けられる算段が立った時にこっちの言い分が通りやすいと思う。

その頃にはサザンビークの兵士も到着しているだろうからこっちの身分証明は容易だし。

 

「ええ、どんな仕事なのですか?」

 

「ふむ、実はこの街にはクランバートル家という古い彫刻家の家系があってじゃな。その家に代々伝わるクラン・スピネルという双子の宝石が莫大な魔力を宿しておるのじゃ。わしも以前から譲ってくれと頼んでいたのじゃが、先代がガンコ者で首を縦に振ろうとせん。そこでお前さん方にクランバートル家に赴いてもらい、クラン・スピネルを譲ってもらうよう頼んでほしいのじゃ。

いくらガンコ者とはいえ、誠心誠意頼めば話も聞いてくれよう……それでもダメなら杖使い女の危険性を語れば必要性が分かるじゃろ。大呪術師ハワードさまがいなくばリブルアーチは成り立たんのじゃから!

まあやり方はお前さん方に一任する。クラン・スピネルなくして杖使い女に対抗する結界は作れん。急いで頼むぞ」

 

「なるほど、強力な結界のリソースに必要と……それでクランバートル家はどちらにお住まいで?」

 

「おお、忘れておった。彼らは我が敷地の噴水の下に住んでおる」

 

「しかと拝命しました。じゃあふたりとも……行こうか」

 

人間性はともあれ、その能力は本物らしい。

ハワード氏は僕の右腕をじっと見ていたけれど、そこにはなんにも言わなかった。

素直に仕事を受けるなら相手が呪われていても関係ないらしい。

 

狭量なんだか、寛大なんだか……。

 

というか、僕たち名前すら聞かれなかったんだけど。




ハワードは能力は本物なので一目見てややこしい状況にいろいろ気づいているけど言わない程度の思慮深さはありつつ、使いっぱしりにしたエイトが誰なのか気づいていないしチェルスこそが護るべき賢者の子孫なのにも気づかないし
歪み要因のひとつはいじめの被害者だったことだろうけど、彼をいじめ抜いた犯人(宿屋の女将)はゲーム内で普通に暮らしているのもなんだかなぁとシリーズ特有の闇を感じる これはあの7の後継作なのだと
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