サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

36 / 46
塔と数奇な縁

屋敷の門の外に出ると、知らず知らずのうちに三人して顔を見合わせることになった。

 

ゼシカが見つかった安堵、またもや取り逃してしまった悔しさ、あの青白い顔色を心配する気持ち。

そういうものもあるけど、とりあえず前進したことは喜ばしい。

 

とはいえ、大っぴらに深刻な話をするわけにもいかない。

コソコソする必要はないと思うけど、すれ違いざまに話を聞かれた程度なら深刻度合いが分からない、くらいの話し方ならいいかな。

 

「さてと、噴水の下の家だってね。サラッと言われたけど、結構とんでもない依頼だ。初対面の人間から家宝をよこせって言って受け入れられるかい。『魔法の鏡』の件といい、この旅はなかなか手に入らないレアなアイテムを集める必要があるらしいね」

 

「確かに……アッシはこれまで旅してきてやれ水晶玉を取り返してこいだの、やれ宝石が欲しいだの、やれなんちゃらのハープを探してこいだの物探しばっかりでがしたよ」

 

「……クラン・スピネル……何か嫌な記憶が蘇ってきたんだが。確かこれも世界三大宝石だよな。あーやだやだ、なんで俺の行く先々には危険と一緒に宝石共が出てくるんだ。昔は美女を彩る素敵な装飾品だと思っていたが今は違う。いちいち厄ネタばっかり付属してきやがる。宝石なんて所詮はただの光る石だろ……」

 

「ねぇヤンガス、今度のククールはどうしたって言うんだい」

 

「おおかた前のトラウマが消えてないんでがすよ。前にククールがちらっと『剣士像の洞窟』でアッシたちが全滅寸前で撤退したの話をしたことがありやしたね。あれは紆余曲折あって……そもそも剣士像の洞窟は世界三大宝石のひとつである『ビーナスの涙』を守るダンジョンなんでげすよ。あそこで酷い目にあったからじゃないでがすか?」

 

「あぁ、そこに話が繋がるんだ。ちなみに『アルゴンハート』も世界三大宝石のひとつだよ。君たち、どんな大金持ちでもできない三大宝石フルコンプを成し遂げるってわけかい」

 

「まったく嬉しくねぇ。手に入ったとしても嬉しくないのに、手元に残ることさえないんだぞ」

 

「良ければこの騒動が終わったら小さいのなら都合してあげようか?」

 

「よせよせ、ゼシカが無事に帰ってくる前からその後の話をするのは。俺は余計なフラグは何一つ立てたくない」

 

リアリストっぽいふるまいをしているけど、ククールは案外願掛けとか信じるタイプ……なのかな?

 

「そうかい。まぁ心の慰めとしてなんのご褒美を要求するかくらい想像して励みにしてくれたらいいかなって。うちで叶えられることは叶えるさ」

 

「ってことは兄貴がアッシを華麗に助けてくれた思い出の宝石でがすか、それは実にいいでがすねぇ……見るたびあの日の勇ましい兄貴を思い出せるんでげすね……」

 

「……ほら、ほざいてるうちに着いたぞ。リオ、お前が交渉しろよ」

 

ククールは心底げんなり、といった顔つきでヤンガスを見ていた。

正式な聖堂騎士からしたら非公式な舎弟関係みたいなのは好きじゃないのかもしれない。

 

それはともかく任せて欲しい。

 

ノックして入った家の中はサザンビーク城の部屋とはまるで様式が違う。

壁から床まで装飾が少ない代わりに、その辺に彫刻用の石? が散らばっていていかにも芸術家の家という感じ。

リブルアーチが彫刻が有名なのは知っていたけれど、本当に芸術というのはその人の私生活まで入り込んでいるんだね。

 

そして、クランバートルの先代当主らしき年配の人は見当たらなかったけれど今の当主かな、若い男性はいたので話を聞いてみることにした。

 

「突然すみません。僕たちはクランバートル家の先代当主の方に用事があるのですが」

 

「いかにもウチがクランバートルですが……父に? 参ったな、あの人、全然帰ってこないんですよ。待っていてもきっと帰ってきませんから場所を教えるので行ってきて貰えませんか?」

 

「分かりました。それはどちらで?」

 

人に出向いてもらうのではなく人を訪ねたのはこれで二回目だけど、行ってこいと言われたのは初めて。

もちろんそれが嫌という訳ではなく、そういう、「普通の人間」というか当たり前の扱いがほんの少し嬉しかったりする。

 

「えっとですね、サザンビークの関所側とは逆側の街の出口から出て、しばらく北に道沿いを進みますと石造りの塔があるんですよ。ライドンの塔、とか呼ばれていますけど。あれの頂上にいるんじゃないかな……。父ライドンは筋金入りの彫刻家といいますか、生粋の建築家といいますか。とにかく芸術家気質で滅多に帰ってこないんですよ。

あ、塔の入口はこの石のつるぎを突き刺すと開きますから。あと、ついでにたまには家に帰ってこいと息子が言っていたとお伝えください」

 

「は、はぁ……分かりました」

 

青年から石でできた剣を渡され、話がスムーズに進んだのに困惑を隠せない。

向こうもその反応は予想していたのか、苦笑いしている。

 

「ちなみに塔には魔物が出るんですが、お兄さん方は見たところ腕が立ちそうだから大丈夫ですね」

 

いや、そもそも行く必要あるのかな?

クラン・スピネルは宝石なんでしょ? アクセサリーじゃなくて。

宝石なんて普段からそのまま持ち歩く物じゃないし今ここでクラン・スピネルの話を出した方がいいのかも。

 

「要件はクラン・スピネルについてなのですが……」

 

「生憎ですが、その件については父しか詳しいことは知らないと思います」

 

「いえ、ご丁寧にありがとうございます」

 

「伝言を頼んでおいてなんですが、くれぐれも気をつけてくださいね」

 

にこやかで人当たりのいい青年に見送られて家を出る。

 

さて、とひとつ息をついた途端ククールが腕組みして言った。

 

「早速、洗礼だな」

 

「洗礼?」

 

「おっと俺が言うと違う意味に聞こえちまうか。宗教的な意味じゃない。この旅あるあるという意味の洗礼だ。なんでもかんでもおつかいのオンパレードってワケだ」

 

「これにはククールに同意でがすよ。また始まったって感じでがす。兄貴、トロデのおっさんに報告してランドンの塔とやらに行きやしょう」

 

「ライドンな」

 

「そうだね。報告したら……ここ橋だから馬車の中に隠れていただいて、街を通り抜けないとね」

 

そういうわけで僕たちは手短に報告を済ませると、ミーティアたちを連れて街の中を通り抜け、塔へ向かった。

 

それにしても、もう随分秋が深まってきたのを感じる。

外に出ると見渡す限り紅葉していて、冬が近いんだ、って……。

冷たさの混じる秋風は木々の赤い葉を撒き散らし、この前まで濃緑だった草原は段々と黄色に変わっていっている。

 

本格的に寒くなる前に全部解決したらいいな、なんて思うけれどきっとそうはいかないんだろうな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

橋の街リブルアーチを通り抜け、そこから少し行った先。

見逃すはずもない巨大な建造物は静かに私たちを待っていたみたい。

 

そこまで急いでいたエイトたちも、巨大な塔を見て圧倒されたみたいに足を止めた。

 

「この塔を個人で? クランバートル家で代々塔の建築をやっているってわけでもなさそうだったし……とんでもないね」

 

「息子の言い草からすればそのせいでロクに家にも帰ってないんだろ。それにしても、か」

 

「これまた登るのが面倒そうな塔でげすねぇ。そういえばゼシカの実家の方にもなんちゃらの塔があったんでがす。入口が閉じていたから入らなかったでげすが」

 

「押しても引いても扉が開かず、ヤンガスの頭に任せておれば日が暮れても夜が明けても登れそうになかったアレじゃな。あれこれ迷う前に先にポルトリンクに行かせて良かったわい。そういえば、それで南の大陸行きの船を出すようにゴネているゼシカと会ったのが出会いじゃったな」

 

「『塔』に思い出があるんですね。……ライドン殿の息子から塔の扉を開く石のつるぎを預かりましたが、正攻法で登っていては今回こそ日が暮れてしまいそうですね……」

 

エイトが見上げたのにつられて私も塔を見上げると、首が痛くなりそうなくらい高い。

確かに、中がシンプルな階段だけだとしてもとても時間がかかりそう。

 

「兄貴、竜の姿になってひとっ飛び! とかどうでがす?」

 

「なるほど、外から登る方法ね。試してみよう」

 

お父様やククールさんが何か言う前に塔に向かって走り始めたエイトが身軽にジャンプし、掲げた右腕から青い光を放つ。

途端、エイトの全身からも眩しい光が発せられて。

閃光に目がくらんで、視力が戻ったころには闇の遺跡で見た黒い竜のエイトがいたの。

 

バサバサと音を立てて一生懸命に両方の翼を動かしている様子だったけど、少しずつ高さが下がっていって……すぐに地面に降りてしまった。

 

困り顔のドラゴンがブンブンと首を振ると、すぐにまた全身から青い閃光が発せられて……光が収まったころには元の人間の姿に戻っていた。

 

いいな。

もう、自由自在に姿を変えられるみたい。

人の姿で手足の鱗を引っ込めることができないから今も「呪われている」って思っているみたいだけど、お馬さんのままの私からしたらとっても羨ましい。

お馬さんの蹄が残っても、人の姿でお話できたらどれだけいいだろう。

だけど、同じように呪われているのにエイトが自由に変身できるのは呪いを飼い慣らせたから、なのかも。

 

闇の遺跡で、あの杖に呪われていたドルマゲスさんと戦った時……きっとエイトは自分から竜の姿になることを選んだんだわ。

それまでも少しずつ身体に鱗が増えて竜に近づいていて怖かっただろうに、仲間を守るため、戦いに勝つために自分で選んだんだと思う。

だから、覚悟があるエイトは自由に姿を変えられて、ただ諦めている私には変身ができないのかなって……。

 

私だって皆さんのチカラになりたいって気持ちは、本当なのに。

……この気持ちが本当だから姿を変えられないのかも。

だって元の姿のただのミーティアは剣を持って戦えないし、ゼシカさんみたいに魔法も使えないし、今みたいに馬車を引っ張れない。

それなら少しでも役に立てるお馬さんの姿の方がいいって痛いほど知っているもの。

だから戻れないのかな……。

 

私が元の姿に戻れても国民の皆さんが戻れないままじゃいけないもの。

少しでも役に立てる姿でいられることにポジティブにならなくちゃいけない。

 

操られていたドルマゲスが倒されても、元に戻れなくて。

ゼシカさんが呪われて、あの封印されていた杖が呪われていたことを知って。

度重なる出来事に心が落ち込んで、深い沼に沈んでしまいそうだけどその度に顔をあげるの。

 

そういう時……前を進む山吹色の外套を着た背中を見つけると、あの橙色のバンダナを見ると、私の心は沈んだ沼から立ち上がって、前に進む足が軽くなるから。

 

「ダメみたい。せっかく翼がある姿に変身できるなら是非とも有効利用したいところだったけど……」

 

「アッシが出来すぎたことを言ってしまったばかりに……」

 

「ううん、ナイスアイディアだったよ」

 

「ま、塔の制作者が正攻法じゃない方法で登ってきた相手に友好的とは限らないからいいんじゃないか」

 

「それもそうだね。こんな塔をこしらえちゃうくらい愛着があるんだろうし」

 

ククールさんの言葉にうなずいたエイトは私たちの方に向き直った。

 

「お騒がせいたしました。それでは、塔を登ってライドン殿を訪ねてきます」

 

「うむ、塔の内部は魔物が出ると聞いたのじゃろう? 気を付けていってくだされ」

 

エイト、それから皆さん。

頑張ってね。

 

その気持ちを込めてじっと見つめると、エイトにはちゃんと伝わってみたいで……ここまで張りつめていたようだった表情が少しほころんで。

優しい微笑と共に、私に頷いてくれた。

 

お馬さんの私は馬車を曳くことしかできないけれど……一緒に戦うことも出来なくて、こういう時ただ待っていることしかできないけれど。

無事を祈って、そしていろいろ考える時間だけは与えられているの。

 

どうしたらいいのかな、私、このまま諦めて馬車を引っ張るだけで良いのかしら。

なにか助けになれたらいいのにな……。

 

いつも同じことばかり考える。

ぐるぐる回る思考は止まらなくて。

ただ待ち続ける時間はとても長く感じるもの。

何度も、何度も同じことを考えて……牛さんのようにもぐもぐ反芻(はんすう)しているみたい。

 

でも気づけば太陽は傾き、夕日に照らされる時間になっていて。

お父様がぼやく何度目かの「まだかのう」を聞いた頃、見覚えのある……以前見た時はゼシカさんの魔法として……「リレミト」の光が目の前で弾けて。

 

見た目の通り登るのが大変だったみたいで少し疲れた顔をしていたけれど、怪我はしていないみたいでよかった。

エイトたちは「クラン・スピネル」のありかをライドンさんから聞いて無事に戻ってきてくれたの。

 

なんでも、大昔のライドンさんのご先祖さまのひとりが遠くに嫁いで、その時に「クラン・スピネル」もそっちの家に移ったとか。

それも、ご自身が作った最高傑作の像に埋め込んだって。

……素人が像を壊さずに外せるものかしら。

でも、緊急事態なのだからきっと分かってくださるよね。

そして、そのご先祖さまの名前が「リーザス」、か……運命的な話ね。

 

つまり、ゼシカさんの家……アルバート家に「クラン・スピネル」があるのね。

 

「やれやれ、雑談が『フラグ』ってやつだったか。想定外だ。……ゼシカとあのおっさんが遠い親戚の可能性が出てきたな」

 

「可能性も何も、そうなんでしょ。だいぶ遠いだろうけどね。そもそも名家同士の結婚なんて珍しい物でもないでしょう。現にゼシカはうちの大臣の息子の婚約者だよ。この騒動がなくても知り合いになっていたんだなって思うと不思議な気持ち」

 

「たしか、リーザス村でゼシカの婚約者を名乗るラグなんとかって派手な奴とは会ったことがあるでがすねえ。あの頃からうっすらと兄貴とのご縁ができていたんでがすなあ」

 

「ヤンガスお前、すべての事象を愛しの兄貴に結び付けるなよ。……リーザス村に行ったことあるのはヤンガスだけだな。キメラの翼で先導頼むぞ」

 

「へいへい。じゃ、ひとっとびいくでがすよ!」

 

ヤンガスさんがキメラの翼を放り投げると、数か月前のことなのに、すでに懐かしく感じるリーザス村の前にあっという間に到着した。




呪われしククールだった場合
最初に狙うのが法皇になる→兄弟バトル不可避。プライドチョモランマルチェロが王族たるエイト殿下に助力願えるはずもなく法皇は死ぬ。賢者の子孫を操られた状態で殺せてしまったらおそらく肉体負荷的にパーティ復帰できない。そもそも追いつくのが大変だし、たどり着いてもエレベーター爆破されてそう。詰み
最初に狙うのがチェルスのまま→だいたいゼシカと展開変わらないので変える必要性を感じない

呪われしヤンガスの場合→ヤンガスに暗黒神との因縁を作りたくない。因縁なしに最後まで付き合ってくれるのが彼の良いところ

呪われしエイトの場合→最悪グルーノ老が孫を手にかける羽目になる。悲惨。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。