サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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先祖の願いと賢者の血

村の入り口から少し逸れて、村の人たちから見えない位置で少し話す。

当然、僕とククールはここに来るのは初めてだから勝手なんて分からない。

でもトロデ王とミーティアも呪いでお姿を変えられたせいで村の入り口までしか来ていないだろうし、ここはヤンガスを頼りにするところだね。

 

初対面の相手に、ゼシカとは共に死闘を潜り抜けた間柄とはいえいきなり「おたくの家宝の宝石が欲しいのですが」なんて言って通るとは思えないけれどここはゼシカの緊急事態。

最悪強行突破……なんて倫理的にダメだけど、最悪、事後にゼシカに取り成してもらえればいいし、それでもダメなら詫びをサザンビーク王国の名前で送る方法でもいい。

本当に最低最悪の考えだけど、無理に許してもらう必要はないわけだから。

とにかく、あの複雑怪奇なライドンの塔を登ったからここに来るのに時間がかかってしまった。

急がないとあっという間に夜になってしまう。

 

話を聞く限り、他の犠牲者……マイエラ修道院のオディロ院長が狙われたのは夜だったらしいし、素人が考えても人目の付きやすい昼間よりも暗く静かな夜に殺人を企てるはず。

ぐずぐずしている暇はない。

 

……「魔法の鏡」を求めてサザンビークに来た時のみんな、こんな気持ちだったんだね。

何か話し合っている旅人たちを見かけて、好奇心だけで話しかけたけど……無理を仕掛ける側は全然心の余裕がないね。

 

「では早速、アルバート家の方に話を聞いて参ります」

 

「うむ、任せましたぞエイト殿下。……ちょっと待てい! ヤンガスおぬし、何を当然のような顔で行こうとしておるんじゃ」

 

「何って、兄貴が行く場所にはどこでもお供するだけでがすよ」

 

「ええい、前にリーザス村に来た時に警備気取りのちびっこどもにゼシカの兄サーベルトを殺害した強盗と勘違いされて大騒ぎされたのを忘れたのか! ちびっこども相手に下手に怪我させるわけにもいかず、かといってこの顔のわしが取り成せば逆効果は目に見えておった! じゃから結局ロクに誤解を解けぬままに退散し、入り口が開かない塔も無視してポルトリンクに行ったんじゃろうが!」

 

「はー、ゼシカが加入する前も苦労していたようで。ヤンガスの次に仲間になったのが人相がまともどころか抜群の美人なゼシカ、その次はレディからの情報は百発百中のカリスマイケメンの俺が加入して心底ホッとしたんだろうぜ」

 

「ええい、自覚したイケメンというのはチヤホヤされて何でも許されてきたせいで一言多いんじゃ! まったく……」

 

わざわざ茶々を入れて怒りを買ったククールはどこ吹く風で「やれやれ」とでも言いたげに両手を広げた。

トロデ王が寛大でいらっしゃるからと言って、大国の王に対してよくもまぁ……。

それだけ親しみ深いお方なのはわかるけど。

それにしても言われた分だけ言い返してくださるものだから、まるで漫才のようなやり取りに僕も苦笑いしてしまう。

 

とにかく、以前に訪れた時にヤンガスはその人相で騒ぎを起こしてしまったらしい。

確かに頬の傷とか迫力があるよね。

 

「しっかし、もう何か月も前のことでげすよ。実際の犯人はドルマゲスで、ポルトリンクで初めて会った時のゼシカもそのことは分かっていやした。ということは、どこかでドルマゲスが真犯人だっていう証拠があったってことでがすよ。つまり、誤解はもう解けているでがす」

 

「む……むむ、ヤンガスのくせに頭が回るのう」

 

「余計な口は挟まなくていいでがす。さ、兄貴、行きやしょう! アルバート家の屋敷はたしか村の一番奥でがす。ちびっこたちに騒がれすぎて前は入れてくれなかったでがすがね」

 

「そりゃ当然だろ」

 

まあ、強盗による死者が出たばかりの時期に旅人が入れてもらえないのはヤンガスに限った話じゃないと思うけど。

 

そういう訳で。

意気揚々と先頭に立ち、案内してくれる気満々で村に入ったヤンガスは頼もしくも目ざとい「ちびっこ警備隊」のふたりに曲者として襲いかかられることになった……。

 

ねぇ、離れたところで笑ってないでククールも助けてあげなよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

リーザス村に到着してからもまだ迷っていた。

ゼシカの母、アローザ夫人にゼシカの緊急事態を伝えるべきかどうかを。

 

とはいえ無意味な悩みだったのだけどね。

跡継ぎ(サーベルト)に先立たれ、当主だった夫も亡くして久しく、その上唯一残っている大切な(ゼシカ)の危機なんだ……聞きたくはない話だろうけど、伝えないわけにもいかない。

前にリーザス村に来たことがあるヤンガスも、「クラン・スピネル」の埋め込まれた像について心当たりがなかったし、見つけられたとしても宝石を取り出すためには像を削る必要もあるかもしれない。

そんなことを無断でやるわけにはいかないし、むしろ誰がやったのか分からないままなら先の事件もあって警戒してしまっては、アローザ夫人に無駄な気苦労を押し付けるばかりだし……。

 

怒鳴られるか、追い出されるか、それともそもそも信じてもらえないか。

 

想像するだけで気は重かったけれど、アローザ夫人は初対面ながらも旅人の格好のまま本名を名乗ると「あぁ、息子の葬式に花を贈ってくださったサザンビークの殿下でいらっしゃるのね」とすんなり信じてくれた。

なんでも、この前ゼシカの婚約者ラグサットが前に訪れていたらしい。

ヤンガスが言っていた派手な格好のラグなんとかさんは本物のラグサットだったんだね。

それもあって、サザンビークの人間は気軽に現地に足を運びたがるとでも思われていたのかもしれない。

説明の苦労がないのは助かるけれど、ラグサットは有能な大臣の息子としては信じられないくらいの道楽息子なので、目付け役もなしに旅して無事サザンビークに戻ってきたという話は聞いた覚えがないので、僕としてはかなり不安になってしまった。

その、サザンビークのイメージとか。

婚約者に会うという口実で遊びまわっているんじゃないか、とか。

 

ともあれ。

 

驚くべきことに元々所持していたクランバートル家では家宝の宝石が手元になくなってからも話を伝えていたのに、引き継いだアルバート家としては「クラン・スピネル」としては全然伝わっていなかった。

ただ、「先祖が彫像に埋め込んだ宝石」という話から何処にあるのかが分かったようだけど……。

 

場所は村にほど近いリーザスの塔。

そこの最上階に女性の像があり、その瞳に赤い宝石が埋め込まれているのだとか。

 

呪われていたドルマゲスとの戦いの顛末、そしてゼシカの危機を黙って聞いていた夫人は静かに言った。

 

「あぁなんて、数奇なものです。私の息子が殺されたのはリーザスの像の目の前でした。宝石を埋め込んだ像の前でしたから、かつては強盗を犯人と疑っていたのです。ですがゼシカはある時、リーザス像に宿ったサーベルトの無念を見たと言って、犯人である『ドルマゲス』に復讐すると言い残して出ていきました。私はそれを止めようとして……あの時は売り言葉に買い言葉で……母親があんな態度だとゼシカは帰ってくる気もなく犯人と刺し違えて死んでしまうかもしれないと、私は後悔したのです。

あの時リーザス像はどうして、傷ついたゼシカにサーベルトの死に際を見せたのでしょう。兄の復讐に燃えたゼシカまでもが死んでしまうかもしれないのに。ですがあの像の宝石を使えばゼシカを取り戻せるのですよね。それならアルバートのご先祖も許してくださることでしょう。ある意味自らがけしかけたのだから……。

……エイト殿下、ゼシカのことをよろしくお願いします」

 

そりゃあ息子を奪ったドルマゲスは憎いだろうけど、唯一残った家族までもをある意味復讐にけしかけられたと思えば……サーベルトさんの姿を見せたリーザスの像にもいい印象はない、か……。

受け継いできた「クラン・スピネル」を取り外す許可が簡単におりるくらいに。

なんだかもやもやする気持ちがある。

きっと複雑な事情が絡んでいるのだろうという予感がする。

でも今はそれどころじゃない。

話がトントン拍子に進んだことに感謝こそしても立ち止まっている暇はない。

 

ともあれ、リーザスの塔の扉の開け方を知っているという村の人間を付けてもらい、僕たちは塔に入ること、そして最上階にある「クラン・スピネル」を持っていくことを許された。

屋敷の警備をしていた人間をつけられたものだから、塔の扉を開け放つやすぐに屋敷に戻ってしまい、……あのライドンの塔の製作者の先祖が作ったという、これまた難解な塔の攻略はこちらに丸投げされてしまったわけだけど。 

両開きの見た目が完全にフェイクの、入口の扉が一枚板でできた……上に跳ねあげて開くというユニークな方式だったことも吹き飛ぶ勢いのげんなりした気持ちだ。

 

なんせ、「リーザス」時代からのひいひいひいひい……孫くらいの世代であるライドンの塔の複雑怪奇さはこれも一種の「冒険の旅」だとワクワクする暇さえ与えないものだったのだから……。

また素敵な「謎解き」とでも言わんばかりのシーソーゲームが待っているのか、あるいはまた別のギミックが待ち構えているのか。

まさか、ただの螺旋階段だけが敷き詰めてある訳じゃないだろう、という嫌な信頼がそこにある。

 

ゼシカはそういうまどろっこしいことをしない性格で良かった、というべきか。

いつだって意見を出し合うときは、「すぐに行きたい」「前に進むべき」だと真っ直ぐな目で前置きしてからふと冷静になって「だけど、トロデ王の意見も聞いてみるべき」とフォローを入れてくれるあの性格がもう懐かしい。

 

「……さぁ、腕が鳴るね。今日だけの成果で僕らはとんだ足腰自慢を名乗れるよ」

 

僕の言葉にヤンガスとククールは言葉もなく頷いた。

うんざりの表情を隠そうともせず。

気持ちはわかるよ……。

 

間もなく、空を星が覆う時間になる頃だった。

夜の濃紺が空の真上から天球の裾野へ広がっていく時間。

正直、連続で「ダンジョン」としかいいようがない塔へ挑む疲労感が隠しきれないものの……僕たちを突き動かす焦燥感は、足を止めずに進めさせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくらか年月によって壊れた個所が目立つリーザスの塔の中には魔物が巣食っていたけれど、強い魔物ではないようで僕らの姿を認識しただけで我先にと逃げ出していく。

お陰で一切戦闘することなく、ライドンの塔とは違った趣きの「ギミック」に集中できた……とはいえ、リーザスはライドンほどの厄介な凝り性ではなかったらしく。

頑強な揺るぎなさと共にこちらへの「知恵試し」の印象のあったライドンとは違い、歩いているだけで心が洗われるような神秘的な雰囲気を宿した優美な塔だ。

 

「ギミック」も心配していたほど複雑じゃなかった。

行き止まりの壁につけられたいくつかの光るパネルをひとつ選んで、そのパネルのついた壁ごと回転して進んでいくという構造は道を知っていなければいちいち引き返す必要があったけれど、防犯対策と考えれば納得できるくらい。

ライドンの塔ほどやりすぎではなかったし。

塔なので階段は多かったけれどあっちみたいに固定されていない巨大シーソーを石像で押さえつけ、シーソーの坂を駆け上がって突破するなんていう体力勝負と知恵比べの両方向から攻めてくる構造ほど大変な訳じゃない。

というか、ゼシカが「リーザス像に兄サーベルトの今際の姿」を見せられたのなら、彼女はここをひとりで踏破していたはずだし。

ちゃんと正しい道を知っていればそう大変な道のりでもないんだろうな。

 

実際、ライドンの塔とは比べ物にならない短時間で最上階と思しき場所についた。

いくつか階段を上がった中央部に美しい女の石像が飾られている。

その石像の両眼には赤い宝石がはめ込まれていて、あれが「クラン・スピネル」なんだろうな。

 

できればリーザス村の財産を傷つけたくない。

けれど、僕らの中に石工はいないし……。

それらしい道具も持ってこなかった。

剣の先でうまいこと宝石と石像の境目をつつけば像をなるべく傷つけずに外せるだろうか?

 

「さて、許可を受けたとはいえタチの悪い盗賊の気分だよ」

 

「そうだヤンガス、何か山賊時代のノウハウは何かないのかよ?」

 

「昔だってわざわざ綺麗な石像を破壊してまで宝石奪うなんてしてねぇぜ。トロデのおっさんに出会う直前の食い詰めた時は通りがかった旅人狙いで待ち伏せしたこともあるけどよ……あの時は結局だーれも通りがからなかったし、それこそ昔は変なツボの中に入ったり、ビーナスの涙を狙ったりして剣士像の洞窟を……いけね! この話はククールには禁句だったぜ。

兄貴! アッシもお手伝いしやすよ!」

 

ヤンガスと共にそれぞれの得物を手にして石像に近づくと。

 

――お待ちください、勇気ある旅人よ。

 

不思議な声が頭の中に直接響いた。

竜になった僕がミーティアと話した時みたいに、「声」ではないけれど意思を伝える不思議な方法で。

 

周囲を見回したけれど僕たちのほかには誰もいない。

なら、リーザスの像が?

 

――私はリーザス。はるか昔にクランバートルからこの地に嫁ぎ、この像を生み出した者です。

 

像から半透明な女性の姿が浮かび上がり、目の前を浮遊した。

その服装はかなり古風で、「はるか昔」というのが嘘ではないのが分かった。

幽霊……というには神秘的すぎる。

彼女の最高傑作には文字通り製作者の「魂のかけら」が宿ったのかもしれない。

 

――あなたたちのお伝えしましょう。はるか昔に忘れ去られた賢者の血の歴史を……。

 

リーザスは語った。

かつて、クランバートル家は伝説の七賢者の血筋の由緒正しい家系であったこと。

しかし今はクランバートルは賢者の血を失ったこと。

継承者だったリーザス・クランバートルがアルバート家に嫁いだことで賢者の血筋がアルバート家に移ったのが理由だと。

以来、賢者の血はアルバート家に受け継がれてきたこと。

しかし、その賢者の血も絶たれてしまった、と。

 

――憎き魔のチカラによって賢者の血は絶たれてしまいました。継承者であるサーベルトの命と共に……。

 

死してなおずっとこの地を見守ってきたのか、彼女は酷く悲しそうだった。

 

――賢者の血が途絶えたとはいえ、アルバート家が……ゼシカが私の血筋であることには変わりありません。ゼシカを救うためならばできる限りのチカラをお貸ししましょう。像に埋められたクラン・スピネルをお渡しします。それが助けとなるならば……。

 

見れば、赤い瞳の美しい女性像は……母を知らない僕にさえ、母親の大きな慈愛を感じさせる微笑みを浮かべていた。

 

――アルバート家の血を引く最後のひとり……ゼシカのことを頼みましたよ。

 

像と同じ微笑みを浮かべた彼女の姿が消えると、リーザス像の瞳から宝石がひとりでに外れて落ちてくる。

慌てて宝石が地面につく前に受け止めると、像からはすっかり神秘的な気配が消えうせていた。

 

「問題解決、だな。しっかし、レディの扱いにかけては海千山千(うみせんやません)のククールがびびっちまうほどの美人だったな……」

 

「どことなくゼシカと雰囲気が似ていたね。ご先祖なんだから当たり前か」

 

「ライドンのおっさんには似てなかったでがすねえ」

 

「あっちは遠い親戚ってだけでリーザスが直接の先祖じゃないからだろ。さ、リブルアーチに戻ろうぜ」

 

神秘的体験に感動している暇はなかったんだった。

それにリーザスが「七賢者の血」についてわざわざ教えてくれたということはなにか重要なことなのだろうけど……それも今考える時間がなかった。

賢者といえば、今までの被害者、マスター・ライラスやオディロ院長は賢者といえるかも? と引っかかったくらいで。

 

僕はその場で脱出呪文(リレミト)を唱え、トロデ王に無事に「クラン・スピネル」を手に入れられたことを手短に報告するとククールの移動呪文(ルーラ)でリブルアーチにとんぼ返りした。




原作だと立ち去ろうとしてからリーザスに呼び止められますが、いきなり瞳をくりぬく気満々だったので取り掛かる前に止められました

この話のゼシカはリーザスの塔で主人公たちをサーベルトを殺した強盗だと誤解をしてメラぶっぱなしてサーベルトに止められる、という経験をしていません
毎日悲痛な面持ちでリーザス像参りしてたら可哀想な子孫にリーザスがサーベルトの魂を見せてあげ、復讐心のまま単独出奔しています
アローザからしたら余計な気遣いすぎる
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